人生満喫上位者in鬼門方面キヴォトスK-3   作:バージ

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2-B17-星と地鎮祭とSRT

 

 甲種試合についてはチームは五つしかないところ、それぞれ違う四種類の戦い方をしていた。

 移動・外部戦闘・内部侵攻のすべてをカスタムしたハリファイバーMで行った水平線追跡。

 完全に一つの兵器を主軸に据えつつも、搭載した武器によって細かいところでは複数の戦闘方法を切り分けていたミレニアム。

 移動手段以外のすべてを自前の戦闘力だけで解決した星の銃、及び剣先ツルギ。

 

 それらと比べると、比較的汎用性の高い戦闘方法を見せたのがホワイト&ホワイトだ。

 ジェットサーフィンだけは珍しいものの、接近のための隠密方法に特殊なことはしていないし、バリアを破壊の為の特殊手榴弾もミレニアム製の一般販売されているものだ。

 しいて言うなら、一つ一つの行動が非常にスムーズで無駄がなく、高い身体能力を使いこなしていた。そして素人にもチームワークの高さが明確に伝わっていたし、分かる人であれば、それをなす特定個人の極めて高い指揮能力に舌を巻いたくらいだ。

 

 ホワイト&ホワイトはどちらかというと玄人向けの戦術をしたと言える。地味なわけでは決してないが、他と比べてしまうと派手さは少なかったかもしれない。

 

 そして会場の中で会話していたとある二人の少女もまた、一般人とは違った視点でホワイト&ホワイトに注目していた。

 

「今回の大会はどうですか」

 

 そう聞いたのは腰より長く伸びた白い髪に狼の耳と尻尾を持ち、桜色の巫女服を着た少女。名前をミト、敢えて苗字を付けるならば瑞幸(たまゆき)ミト。何を隠そう玉雪の一人である。

 

 そして問いに答えるのはスレンダーなキツネ耳の少女。SRT特殊学園のエース小隊の一人、七度(しちど)ユキノである。

 

「ホワイト&ホワイトは唐突に出てきたにもかかわらず、戦力が大きすぎます。詳しい調査はしていませんが過去の活動記録もなく。情報は今期大会の直前からです」

「そうですね。でもあれは問題ないから大丈夫です」

 

 ユキノは問題ないと言い切ったミトの顔をちらりと見る。かわいらしさのある顔立ちだが、今は引き締められた真面目な表情をしている。

 すでにその正体を知っているからこその断言だろう。だとしたら本当にホワイト&ホワイトは地鎮祭の関係者かもしれない、とユキノは考えた。

 

「…そうですか。であれば、最大の懸念は水平線追跡団ですね。ここのところ活動が不透明化しています。依頼主を選ばない性質上、どんな犯罪行為にも加担する可能性があります。そして水平線追跡団が的確に運用された場合、おおよその組織で対策不能です」

 

 ユキノは特別に水平線追跡団を評価しているというわけではない。現実的で詳細な分析の結果、導き出された結論がこれであった。

 水平線追跡団の様な高度な少数精鋭部隊はSRT、すなわち彼女ら自身と通ずる部分があり、だからこそそれが的確に運用された場合に発揮される効果のほどもよく理解している。

 

 ユキノの見立てでは、今回参加した水平線追跡団八人の技量は、アベレージとしてはSRTよりある程度低いものと判断している。

 今回の大会の記録は後程SRTでも真剣に解析が行われるが、結果は現在のユキノの見立てと相違ないものだ。

 そしてSRTよりある程度低いということはつまり、キヴォトスでもかなり高い実力を持っていることと同義である。なにせSRT特殊学園という存在は技量において、地鎮祭を含めてもなおキヴォトスで一、二を争う。いや、その分野では頂点にいると言っていいほどのものを持っているのである。

 

 ただしここでいう的確に運用された場合、という条件は言うは易く行うは難しであり、そう簡単に実現できることではない。

 それこそSRTはほんの少し前までは、連邦生徒会長という運用者の欠如によって、適切な運用どころか瓦解寸前にまで追い詰められていたことを強く実感している。

 

 しかし自分たちのような正当な体制の上にある表の組織とは異なり、水平線追跡団はその時々で善悪を問わずにクライアントを変える傭兵団。戦術的にはともかく、その戦略的運用はクライアントによって大きく左右される。

 今の活動も雇用主も不明な状況は、水面下で何らかの悪事が進行しており、それが高い脅威となる可能性をユキノに懸念させていた。もちろんそれが単なる杞憂に過ぎない可能性も十分に考慮しているが。

 

「こうして大会に出場しているのは好機でもあります。追跡しますか」

「いえ。もしバレたとき、あの手の勢力が大会に参加しなくなる方が問題です。追跡は地鎮祭(あちら)で。確実に安全圏からの監視のみに留めます。潜伏地点は特定できるでしょうから、そこから先の調査をお任せします。日を開けてから開始してください」

「承知しました」

 

 ミトはそういったが、地鎮祭としては水平線追跡団のことをあまり重視していなかった。それは相手を甘く見ている訳ではなく、性質上の問題だ。

 地鎮祭はどちらかというと対イレギュラーを、もっと言えば社会そのものを破壊しかねないような事態を主目標に据えている。つまりどう転んでも一傭兵団であり、自分からキヴォトスに仇なすことのない水平線追跡団のことを、自分たちが対処すべき相手ではないと判断しているのだ。

 当事者に解決できる問題は当事者が解決するべき、というのが地鎮祭の思想なのである。

 

 会話が途切れ、二人の間には会場の喧騒で満たされる。多くの人々による判別できないような混ざりあった音の数々によって、二人の会話を聞けるものはいなかった。

 だからこの二人は人の多い大会会場で、堂々と人に聞かせるような内容ではない話をしているのだ。

 

「尾行や物理的な潜入ならともかく、内偵はSRTのするべき仕事ではないかもしれません。もしSRTの正常性を損なう可能性があるのであれば、遠慮なくおっしゃってください。私は星上の名代として任されています。それが果たせないようでは、星上に顔向けできません」

 

 SRTは特殊部隊であって、公安でもなければ調査官でもない。

 彼女たちは向けられた銃であり、自ら銃の向け先を決めてしまうのは本来の役割から逸脱している。それをしないからこそ、強大な武力として存在していられたのだ。

 星上はそんなSRTのあり方を維持・尊重し、銃の向け先を決めることのできるミトを派遣したのである。

 

 ミトの言葉は仕事半分、気遣い半分といった割合のもの。それはいずれにしても冗談や嘘ではなく、真心の込められたものだ。

 ユキノは連邦生徒会長の失踪とそれに伴うSRTの窮状によって、一度は信頼していたものが揺らぎかけた。それを深く覚えているユキノにとって、ミトの存在は非常に頼もしく、ありがたいものであった。

 

「承知しました。恩に着ます*1。我々も御星(ごしょう)に助けられてばかりではいられません」

 

 すでにここまでくればお察しのことだろうが、今やSRTと地鎮祭には一つの関係性が構築されていた。

 

 SRT特殊学園と地鎮祭に直接的な繋がりができたのは、実のところごくごく最近のことである。

 連邦生徒会長の失踪によって、SRTが窮地に立たされることは明白となっていた。いや、窮地どころか終焉まで真っ逆さまと言ってもいい状況だった。彼女たちにSRTを正しく存続させるすべなどありはしなかったのだ。

 

 しかしそんな彼女たちを救ったのは、かつて連邦生徒会長が用意していた保険であった。すなわち、連邦生徒会長が信頼し、もしもの時はSRT特殊学園の実行権限を預けられる程の人物。ゲヘナの星、遠星操夜その人である。

 

 それによってSRTは存続を約束されたばかりか、失われた連邦生徒会長が果たしていた意思決定を行う存在を、ある程度使える形で復活させることができていた。

 ミトという少女が現在におけるSRTの頭脳であり、意思決定に大きく携わっているのだ。

 

 SRTという連邦生徒会の特殊部隊的な存在が、地鎮祭というなんら公然性のない秘密結社の手を借り。あまつさえその人員をほとんどトップと言える立ち位置に据えるなど、通常ありえないことである。それがこうまで早く実現したのは、ひとえにゲヘナの星との信頼関係がすでに構築済みだったからに他ならない。

 両者の関係には実際のところかなりの事情や配慮があるのだが……、そこは今回は置いておこう。

 つまり連邦生徒会長、仕事した。ということである。大本である連邦生徒会は今も密かに混乱瀕死状態なことには目を背けつつ。

 

 目の前ではホワイト&ホワイトの試合が終了しようとしているところ。今回の大会でこれ以上気を付けるべきことはないだろう、そういう雰囲気になる。

 そこでふとユキノが次に口にした事柄は、どちらかというと重要度の低い、一応という認識に過ぎなかったのだが。それがどういう訳か、ミトに何かを感じさせるものであった。

 

「これは断片的な情報に過ぎないのですが…。カイザーコーポレーションを探っている際に、異質な組織との接触の形跡がありました。サマニーという組織名のみでしたが」

 

 それは地鎮祭でも把握していない、それでいて地鎮祭が把握しておくべき名前であった。

 

*1
恩にきりますは誤用





 多分ユキノが生徒会みたいな立ち位置にいるのは違和感もあるのですが、ここでオリキャラを生やすと確実に良くないので。実質SRTの生徒会長みたいな雰囲気に。
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