状況整理回。目標や大中小問わずたまに確認するべきだなと考える今日このごろ。結構長い期間連載してますし、読者も忘れることを考えると何度も書くくらいでちょうどいいのかなと。
大会が終わりぐっすり眠った次の日。そのまま広いホテルの部屋で話し合いをしている。なおハナエとカイリとはホテル内のレジャー施設に向かったため、この場にいるのは私とミネ、セリナ、三人だ。
ゼレーナは二人についていった。完全に保護者枠である。ハナエは別にそこまで年少でもないんだけど。まあ高校生になったばかりだから比較的子供ではあるか。
「操夜様はこれからどうされるおつもりですか?」
「一つ確定している予定としては、今度来る予定のキヴォトスの外からの来訪者に張り付くつもり」
話の内容はこれからどうするか。私としても一年後の崩壊阻止という大目標は定まっているものの、それまでの期間に確定した予定というのは特にない。
「来訪者、ですか?」
「そもそも情報があまり残ってないんだけど、"先生"が来ることになってる。その人がこれからのキヴォトスのキーパーソンになるかもしれない…そうにらんでるんだよね」
先生というのはキヴォトスにおいては特殊な概念だ。これは今のキヴォトスを見れば、容易に察せられることだろう。何せ"学校"と"生徒"という概念が、すでに外の世界とは決定的に異なっている。これで"先生"だけが外と変わらない言葉であるとは思うまい。
そして氾濫して一般的なものである生徒や学校、あるいは教員という概念とは異なり、先生というのは今のキヴォトスではかなり希少で一般的でない存在だ。
「先生……もしや、連邦捜査部の?」
「ご明察。よく分かったね」
ここで一度、キヴォトスの現状を整理してみよう。ゲヘナの星の不在こそあったものの、表面的にはいつも通りの日常を続けているキヴォトス。
しかしその中央に立つ連邦生徒会は今混乱の真っただ中にあり、その機能の大部分が停止状態にある。原因は単純、会長の失踪。そしてその事実は今もなお隠蔽されている。
連邦生徒会長の承認と権限がなければ動かせない事項が、今はすべてストップした状態にあるのだ。そして今の連邦生徒会長が就任して以降、連邦生徒会は会長を絶対的な中心とした体制で持って運営されている。この状態での連邦生徒会長の失踪は、連邦生徒会そのものに致命的な悪影響を及ぼしている。
こうして事実が公開されぬままに止まり続けている連邦生徒会。その影響は隠しきれないほどに広まりつつある。各種インフラにすら稼働できない設備が出始めており、かかわりのある各学校の上層部はすでに困惑と疑いの目を連邦生徒会に向け始めている。
そんな状況にある連邦生徒会だが、生徒会長の失踪以前、異様な権限を持って設立された組織がある。それはシャーレ…「連邦捜査部S.C.H.A.L.E」だ。冬の12月、クリスマスの時期に設立されたこの機関は、連邦生徒会長によって付与された権限のもとに、あらゆる規約や法律による制限を受けない超法規的機関。
まさに異様であり、特異点であると言わざるを得ない存在。こんなものを設立しておいて、当の連邦生徒会は不気味な沈黙を守っている。疑いの目を向けられるのも当然と言えるだろう。実際は組織が暗躍しているどころか死にかけている訳だが。
約一年後にキヴォトスは滅び、会長は世界を巻き戻した。それが失踪の原因であると知っている私だけは、これらが直接的には繋がっていないことを知っている。だから私はシャーレを疑っておらず、むしろ大切な存在になるかもしれないと考えている。それこそ、一年後の崩壊を防ぐための鍵になるかもしれないと。
そういう訳で、私はシャーレとそこに着任する予定の先生に注視していくつもりな訳だ。
ちなみに私が秘された事実を含めたこれらの情報を知っている理由は、地鎮祭経由……ではなく。私自身に、正式に強力な権限を付与されているからだ。私であれば連邦生徒会の情報にもアクセスできるし、しれっとSRT特殊学園の存続と活動を保証しているのも、私の権限だったりする。
私はずっと前から万一の備えとして、会長からSRTの長を代行できる権限を渡されていた。メインはそちらなのだが、それに伴って私はそれなりに強い権限を持っていたわけだ。
ちなみにSRTの処理自体も秘密裏に行っているし、私がやってるとバレない様にしてある。これ以上のことをやると私の存在が露見しかねないので、死にかけの連邦生徒会の本体にはノータッチを貫いている訳だ。
「連邦生徒会の様子がおかしいことには、権限のある人ならば気づき始めています。おそらくは、年が明けたあたりから。連邦捜査部についてはまだ注目されておりませんが……操夜様が注視し、"先生"が着任するとなると…」
「うん、いい分析…ミネ、さすがだね」
私が褒めると、ミネは少し嬉しそうにした。かわいらしいが、これももしかしてギャップ萌えに分類される?
ミネは普段の言動からバーサーカーな風に思われているが、実際にはトリニティという権威的な社会において大派閥の長を務められるほどの能力を持っている。戦場もとい救護の現場でなければ、ミネもまた理知的なお嬢様の一人である。
知性が高い…つまり雑に言うと頭がいいのである。その高い知性から導き出された結論が救護のために先手必殺なところが面白い。間違ってないあたりがキヴォトスの悲哀だろうか。
「そうだな…せっかくだし、話しておこうか。なぜ今、私が潜伏して活動しているのか。……聞きたければだけど」
キヴォトスに戻ってきてひと月ほどが経過した。けがの治療があったために私にできたことは少ないが、その間地鎮祭には一年後の崩壊について探ってもらっていた。得られた結果は、残念ならがそれらしいものは見当たらない、というものであったが。
もちろんキヴォトス崩壊ワンチャン勢なら普通にいるのだが、現実的に考えてそれが原因かと言われると頷けないものばかり。
しかし分からなかったということが分かったことは収穫だ。地鎮祭が本腰を入れても見つからない以上は、今現在キヴォトスにその原因が存在しないということになる…少なくとも分かる形では。
こうなってくると、私が潜伏しているメリットは少なくなってくる。何せ私が潜伏している理由は、いるかもしれない敵に私の存在を隠すことが主だからだ。
とはいえ、あえて私が表舞台に返り咲いて何かしよう、という気はない。なぜなら、潜伏生活が楽しいから…!
「操夜様さえよろしければ、是非に」
ミネとセリナが互いに見やって頷いてから、真剣な様子でこちらに向き直ってそういった。
私はざっくりと今直面している問題について話した。
約一年後にキヴォトスの崩壊に等しい事態が発生すること。その影響によって連邦生徒会長が実質死亡したこと*1。私は用事を切り上げてキヴォトスに帰還し、潜伏して事態を探っていたこと。原因らしい原因が見つけられなかったため、現時点においてはその段階にないこと。
連邦生徒会長のことまで話したが、どうせいつまでも秘密にできることじゃない。あれだけのことをやった以上、彼女は自分の命を消費したと考えた方が良い。つまり探したところで見つかりようがないのだ。
先生の着任予定日まで大分時間が迫っている。どうせそのタイミングで事実を公開することになるだろう。なのでそこまで秘密にしなければならない情報でもなかった。
「"先生"が来たら張り付いて調査するつもりだけど……基本ゲヘナの星の存在は隠して行動する予定」
「分かりました。私も同行します」
「団長!?」
団長院!判断が速い!セリナも驚いてるじゃん。
「操夜様が学校という枠などに囚われず、キヴォトスを守るために行動するというのなら、見過してのうのうとしている訳にはまいりません」
ミネの芯がブレない様子に私も少し笑顔になった。
「そういってくれるのはうれしいけど、ミネは表にいた方が良いと思う。それに私は一人でいる分には、誰にも見つからずに行動できる」
私がミネの同行を断るのには理由がある。今言ったこともそうだし、地鎮祭的に考えて表の立場の強い人がいると面倒ということもある。
何より私がやることは大体すべて趣味なので、使命感や正義感、"すべき"という理由でついてこられると困るのだ。気が引けるだろう?
まあ、ミネくらいになるとそんな言葉とは関係なく行動に移すのだろうけど。
「あと、正直トリニティも大変だと思う。私もこの間トリニティで初見の勢力とぶつかったけど、戦力的には3.5くらいの見込みはあった。あれがトリニティで何かするつもりだったんだとすると、それだけの規模の敵が気付かれずにことを起こすってことだから」
私がキヴォトスに帰ってきた直後に起こったことの話だ。後にあれがゲマトリア関連の戦力であることは分かったものの、何をするつもりだったのかという点では不明なままだ。
あれだけの戦力を用意しておいて何もしませんということはないだろう。それがトリニティにとって致命的な何かである可能性は否定できない。
「うん。これは勘だけど。トリニティはこれからとても大変なことになる予感がする。セイアにでも、一度聞いてみたら何かわかるかもね」
私はあんまり未来予知には興味がないけど。ある意味似たようなことができる占い術だって、できるけど使っていないくらいだし。
ともかく、そんなこんなでミネには納得してもらった。
「分かりました。必要な時はいつでもお声がけください。それと、セリナについてはいつでも連れ出してもらって構いません」
「団長…!」
今度はセリナが笑顔になったけどそんなに付いて来たかった…?セリナって割と真面目に救護騎士団の最大戦力(もちろん救護的な意味で)だからポンと抜けられるものでもないと思うけど。
いや、抜けられはするのか。抜けたら抜けたで何とかなるのだろう。救護騎士団は結構しっかりした組織だし、自主的な活動の多い組織だから、やろうと思えば余裕も作れるはずだ。
こういうところ、正義実現委員会とかだとそう簡単にはいかないだろうな。無法者はともかく、イレギュラーの予定なんて分かりようがないし。