星上は自分の立場をほとんどセリナに話してないですが、セリナは地鎮祭であることは察しています。その辺は次の次あたりに。
操夜です、あるいは星上です。
タブレット端末を用いて情報収集はするけど、メインはやはり療養の方。血を流しすぎた体は立って歩くことすら難しい状態だから、そもそもそれ以外にできることがないとも言える。
それでだけど、セリナが大分おかしい…いや実のところそうでもなかったりするか?いややっぱ多分おかしいと思う。初対面の怪しい人を自宅にあげてる時点でもうおかしいのに、あまりに献身的過ぎて困惑するというか心配になる。
いくらこっちが血を失くしすぎて移動することもおぼつかないとはいえ、大して悩みもせずに自宅につっ込むのは思い切りが良すぎるだろ。ゲヘナ基準でもおかし…一瞬悩んだけどやっぱおかしいわ、これがトリニティの普通じゃないことくらいはゲヘナ暮らしでも分かる。
当然みたいな顔して三食分の食事の用意をしてるし、夕方以降は救護騎士団の活動もそこそこに帰ってきて世話しようとしてくる。これも救護騎士団の活動の内です!とか言ってたけどそれでいいのか?わざわざ昼も帰ってきてるの気合入りすぎでしょ、私寝てたけど。
しかしこれもしかして救護騎士団のスタンダードだったりするんだろうか?さすがにそんなことないと思いたいけど、一概に否定しきれないのが怖いよね。だってゲヘナだと温泉開発部とか万魔殿とか、あの辺のことほかの学区で話したら多分誇張だと思われるぞ。
ゲヘナがおかしいのはその通りだけど、ほかの学区だって一つや二つ、十や二十はおかしい部活があって当然だし、ないとしたら学区そのものがおかしい。アビドス高等学校とか。キヴォトスはどこもかしこも獣だらけだゾ。住んでりゃいずれそうなるんだ。
だからもし救護騎士団に頭のおかしい人がいてもおかしなことではない。…まあたくさんの人を助けてる救護騎士団を、破壊と迷惑をばら撒くタイプのおかしい部活と一緒にするのはどう考えても失礼だけど。
「それでですね、ミネ先輩が並み居るヘルメット団をちぎっては投げ、ちぎっては投げで制圧したんです!そのあと檻に入れられた犬を救出したんですよ」
夜、セリナが今日会ったことを楽しそうに話してくれる。
「檻のカギは?川に投げ捨てられたんだろう?」
「はい!なので、ミネ先輩が素手で檻を破壊してくれました」
「なるほど…噂には聞いてたけど、まれにみるパワーの持ち主みたいだね」
やっぱりおかしいかもしれん。いや、でも聞いてる限り分かりやすいトンデモエピソードはミネの話が多いみたいだ。武勇伝というか…救護騎士団なのに武勇伝…?ともかく、全体的に意欲と根性がすごいけど、きっと一部を除けば普通ではあるんだろう、多分。
こうやってほかの学区に滞在してると思うけど、方向性が違うだけでやっぱりキマってる人はキマってる。学区を跨いで見渡せば、常識なんて言葉の儚さを学べる。ゲヘナが特別なんじゃない、騒ぎは多いし破壊も多いけどゲヘナんちゅは素朴だしな。
「今日のご飯はハンバーグですよ~♪私が切り分けてあげますね」
「いや、私の腕動くからね?そこまでしなくてもいいから」
「でもヤチトさんは体を治すことが最優先だとおっしゃっていましたよね。つまりこれは必要なこと、体をいたわってください」
「確かに言ったけど」
それはちょっと違うと思うなぁ。セリナが可愛い見た目に反して強情というとか、押しが強い。
「はい、あーんしてくださいね」
「まて。まって!分かったから、それはよせ」
「いいえ待ちません。そもそも動かすだけでもすごく痛いはずです!どんなに酷いけがだったか…!」
確かに上半身は頭以外全部包帯ぐるぐる河童巻きだし、腕もまだ動かすだけで痛いのは確かだけど。別に食事くらいは自力でできる。
ゲヘナではヒナ相手に割と人前ですることじゃないことしてたけど、あれは相手がヒナだったから特別押す必要があっただけ。そうと決めてたから完璧に面に出さなかっただけで、私だって普通に羞恥心くらい持ち合わせてる。
「…やっぱりヤチトさんは動いちゃだめです。こんなに酷いけがは初めて見ました…傷のつき方も普通じゃありませんでした」
私の怪我の内容を思い出したのか心配そうな顔になってしまった。確かに先日戦った奴らの攻撃は、普通にしていたらまず出くわすことのないタイプの属性を有していた。
作り手や使い手が、本気で相手を殺す気があるかどうか、その違いが二重の意味で結果そのものに大きな違いを生む。意思が神秘に影響し、それが攻撃に影響するのだから、ガチの殺意を持って攻撃するのは一定の危険がある。
キヴォトスで殺人の決意を抱く生徒などまず存在しないだろう、だからトリニティの医療の最前線の一つにいるだろうセリナがそんな傷を見たことがないという事実は、むしろいいことだと思えた。
「…ふう。感謝してるよ、セリナ。ありがとう、気をまわしてくれてうれしいよ」
姿勢を正し、心を込めて感謝を伝える。これまでも何度か言っているけど、お礼は何度でも言うべきだと思う。
誰かがこちらを騙そうとしていたり、利用しようとしているのなら何となくわかる。だからセリナが少なくとも、本気で私のために手を尽くしてくれていることも分かっている。
色々考えることはあるけれど、善意を受けていることは嬉しく思う。
「じゃあはい、あーん」
「いや、セリナ?」
「はい、あーん」
「食うまでやる気か!?ヒナより強情かこいつ!」
その後結局押し切られた。サンドイッチのように片手で食べられるものではなく、この料理のチョイスはまさかわざとやったのか!?
押される経験がないわけじゃないんだけど、普段は助ける側であることが多い。
うーん、この感じ…好きだなぁセリナのこと……前からそうっぽいとは思ってたけど、私の好きなタイプだ。実のところ前にトリニティに来て何度か救護騎士団の話を聞いて思ってたんだけど、私が好きになる人多そうだなって予想はあったんだよね。
人を好きになること、好きな人がたくさんいることは良いことだと思ってる。だからキヴォトスを離れる件がなかったなら、救護騎士団とも何かしら交流を持ってたかもしれない。
私は頑張り屋さんが大好きだし、夢とか趣味に全力な人も好き。ゲヘナで風紀委員長をしていた時に、人をむりに押さえつけるような強硬的な治安維持を行わず、暴れるものが出るのを一概には止めなかったのも、割とそれが理由なところがある。
だからまあセリナのこと好きになるのは当然というか順当な結果だった。
このあたりの時系列の裏で起こっていて、その内描写するかもしれないこと
・星上と地鎮祭の幹部会
・正実モブ(地鎮祭) VS ツルギ(沼女)
・空崎ヒナ VS 菌性クレリックビースト