夕食を終えた
ちなみに星上はいまだにセリナの前では仮面をつけっぱなしでフードもかぶっている。素顔を見られたら一発で正体がばれてしまうので仕方がなかった。
近場の拠点から必要物資を回収してきてもらったので、今は口元が開いているタイプの仮面に変えており食事などはできるが、なんとも窮屈な話である。
「セリナは私の所属とか立場とか知らなかったよね」
「あ。…はい、そうですね!」
「なに、その反応…?」
星上は今まで重傷者状態だったこともあるが、ヤチトという名前以外にはまるで事情を話していないでいた。その割に会話自体は問題なく行われていたが。
ちなみにセリナは自分のことを話してくれる前振りだと思って驚きと喜びが先に出力されただけである。
「結局何も話してなかったから、少しくらいは話しておこうかと思ったけど」
「!!はい!聞きたいです!」
(なんだろう、なんというかすごく…やらかすような気がする…!)
星上は今度はストレートにうれしそうなセリナを見てなんとなく嫌な予感を覚える。
今回話そうとしていたのは、自身が地鎮祭の所属であることと、ポラリスという部門のメンバーであることの二つ。どちらも知名度としては同じようなもので、学園でも上層部に位置する生徒や、裏社会の知識がある程度ある人物であれば、誰しもが存在や活躍の一部を認知している。
しかしその実態は謎に包まれており、地鎮祭もまた詳しい情報をひた隠しにしている。名前は言っても詳しい中身を離さなければ問題ないはずだった。
ちなみに複数の役職を兼任しているので、ポラリスセクターの一員であることは嘘ではない。ポラリスは特殊で正体を隠すために大抵が複数の立場を兼任している。
「ごめんちょっと待って。今考えなおしてる」
「ええ!?」
お出しされかけたものを引っ込められ、セリナがガーンという顔になった。今まで事情を聴いてこなかったのはほぼほぼヤチトに対する配慮であり、内心では相手のことであればなんでも知りたいと思っていた。
「セリナはさ。どうしてこれだけのことをしてるのかな」
星上はいくらか考えた後、聞くべきことを一つに定めた。
「セリナが救護騎士団としての活動に誇りを持っていることも、本気で取り組んでいることも、見ていれば感じられる。でも、それにしたってここまでのことはしなくていいんじゃないかな。自分の家に住まわせてまで…それは、なぜ?」
図らずもというか、その質問はセリナが思っていることと同じく、相手のことが知りたいという意思表示でもあった。仮面越しに見えるその目は真剣そのもので、大事な時とそうでない時の区別がしっかりとしている人だなと、それだけでセリナは少しうれしくなった。
しかしセリナとしてもその質問の答えは、改めて考えてみなければすぐには言葉にできなかった。なんとなしに始めた話題でも、この質問は真剣で大切なもの。それが分かっているからこそ、自分の考えをしっかりと示したかったのだ。
「ヤチトさんが強い人だってことは、すぐに分かりました。見たこともないような怪我をして…本当に死んでしまうかもしれないような時なのに…恐れでも、不安でもない強い意志。それがこの胸に、ひしひしと感じられました」
セリナが思い起こせば、初めに出会った初日から、目の前の人物がただ者でないことは明白だった。それは状況証拠的にもそうだし、放つオーラ…雰囲気的にもそうだった。見たこともないような、死と隣り合わせの雰囲気。
星上はキヴォトスの中とは違い外では命がけの、あるいは相手の命を奪うような戦いを続けてきた。キヴォトスに戻ったからと言って、すぐに抜けることはないその気配をセリナは敏感に感じ取っていたのだ。
あの時の星上は実際真剣だった。連邦生徒会長の手によってキヴォトスに大規模な時空間異常が発生し、それを察知して一人キヴォトスの時間軸上の過去であるこの時間へと侵入した。それによって準備したほとんどのリソースを消費し、さらには到達直後に見たことのない軍勢に襲撃を受けたのだから。
「ヤチトさんは、すごく優しくて思いやりのある人だって思います。最初にあった時、私のことを拒絶されましたよね。その時は必死でぼんやりとしか気付いていませんでしたけど、あれは全部私のために言ってくれた言葉でした。
…そしてあの時の言葉は、本気でした。必要なら、必要なことをする。それが決して揺るがないからこそ、私に何かをしなくても良いように、必要にならないようにと突き放してくれました」
改めて行動と裏にある思いを感じて、セリナは自らの決意を新たにした。
この手を離さない。救護騎士団は、誰かのためにこそ存在する。
「ヤチトさんは、自分だけで何とかなると言いました。きっとその通りだと思います。でも、それは私が何もしないで見て見ぬふりをする理由にはなりません。あなたが強くて優しいから、自分一人だけでなんとかできるから……だから、一人だけでいるというのなら。私が一緒にいてあげたい…あなたと一緒にいればいるほどに、強くそう思うんです」
セリナは思う。今を逃せば、この人は一人で闇にもぐってしまう。私にできることがあるのなら、迷わずそれを成し遂げよう。あの日胸に灯った思いを決意に変えて。
そしてそんなセリナの思いが星上の心を打ち、そして一つのことを思い出させた。
外の世界は仲間も少なく、敵はいるところに守るべき人もなく、そういう場所にこそ訪れていた。だから自分が一人で行って周りごと消してしまうのがよく、仲間がいても一緒に行動すれば足手まといになるだけで、だからこそ別行動の単独行動が多かった。
しかしキヴォトスでもそれが正しいかは別問題である。
(そうだった。一人で闇の中から裏ですべてを終わらせておこうなんてのは、私がするべきことじゃない)
地鎮祭があるために、星上は真に孤独になることはない。しかしそれ以外の人に自分の存在を明かすことは、セリナがいなければずっと遅くなっていたかもしれない。
最初に思っていたよりももっと表に出てもいいのかもしれないと、セリナが星上の心を動かしたのだ。
セリナの決意とはまた少し違う話だが。セリナには自分が出会ったことのある人物以外で一人、明確に尊敬している人がいる。多くの人を救済しているという事実をもって、救護騎士団からも一目置かれている人物。
それはゲヘナの前期風紀委員長であり、多大な功績を持ち、"ゲヘナの星"として異名を轟かせた人物。遠星操夜の成しえたことに、かつてのセリナは感銘を受けたことがあったのだ。
そして時を経た今、今度は星上の方が感動していた。
強い人も優しい人も知っている。誇らしい友たちも、何かしてあげたいと思うような人も、感心するような人もいる。だからといって、ただ自分の強さとやさしさと、信念のために行動することを決めたセリナの輝きが、何ら損なわれることがない。
(また一つ、理由を得た。それでこそ、キヴォトスを守る価値がある。)
星上は人を甘やかすが、好きになった人にはさらに甘い。かつてとある一人の孤独な強者のために、ゲヘナの星とまで呼ばれるようになった時のように。