ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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お待たせしました。
今回はあの二人が登場です。


第11話 ムッチリ or ちんまい?

 五月も残すところ約十日となり、そろそろ六月という名の梅雨の季節が訪れようとしていた。しかし今俺を包み込んでいるのはそんなジメジメした陰湿な気候とは程遠い、暖かで優しい朝の日差しだった。本日は日曜日。ドルーパーズのシフトが入っておらず、いつも以上にμ'sの指導に熱を入れられる何とも素晴らしい日である。

 あれから平日でも早朝に限りダンスの指導を行うようになり、またメンバーがよくドルーパーズを訪れるようになった事もあり、μ'sとはそれなりに会うようにはなってきていた。因子の関係で会う頻度が高くなると思われた人物もいるが、実際は以前真姫の近くに発生して以来、自然発生のクラックしか確認されていない。それはそれで良いことなのだが、嵐の前の静けさのようでどこか不気味だ。

 

 そういうわけで、現在俺は神田明神でμ'sメンバーを待っている最中だ。決して皆が遅いわけではない。俺が早すぎるのだ。何せ皆は高校生の身であり徒歩が主な移動手段だが、俺にはサクラハリケーンと言う名の大型二輪がある。やはりこの差は大きい。普段早起きなことも相まって、未だ俺より早くこの神社に来る奴はいない。

 

 

「あら、おはよう」

 

 

 ここで働いてる奴を除けば、だが。

 

 

「おいっす、希。おはよっ」

 

 

 俺に話しかけてきたのは深い紺碧の髪を後ろで束ねる巫女だった。その綺麗な髪に端正な顔立ちが目立つが、何より目を引くのはその身体だ。並みの女子高生とは一線を画すその豊満で官能的なスタイル。はっきり言って殺人級だ。大学でもこんなのとそうそうお目にかかれない。これで穂乃果や海未ちゃんと歳が一つ違うだけだというのだから世の中どうかしていると思う。

 話が逸れてしまったが、このムッチリ巫女──東條(とうじょう)(のぞみ)、なかなか話していて楽しい奴であるのだ。

 彼女と初めて接触したのはμ'sの指導を決意した後の最初の朝練前だ。妙に胡散臭い関西弁を話しながらもどこか達観したかのような風貌に魅力を感じ取り、思わず話し込んでしまったのが始まりだ。こちらが話したいことを直ぐに分かってくれるような察しの良さ。会話を途切れささない話の返しの上手さ。会話の引き出しの多さ。それらを持っていながら、どこか達観したような姿勢や全てを包み込むような母の如き雰囲気を併せ持つ彼女。やっぱり少しオーバースペックだと思うんだ。うん。

 ま、俺ほどじゃないかな? うん、本当だよ?

 

 一つ残念な点は、彼女の話す似非関西弁が俺の鼻につくこと。しばらく関西圏に住んでいたこともあり、ワザと本場とかけ離れたような発音をするそのウソ方便に、俺はどこか馬鹿にされているような気がして少し不愉快だったりする。もう慣れたからいいんだけど……。

 

 まあ結局何が言いたいかというと、俺は希と話をするために朝早くの練習開始前から神田明神に来ているということだ。こんなに朝早く来てまででも希と会話する価値はある。μ'sの指導が始まるとどうしても話すことが出来なくなってしまうので、今回みたいに朝練前が今のところ希と会話できる唯一の時間だ。

 

 今日もいつものように他愛のない、それでいて中身のある話で充実した時間を送ろうとしていた。

 

 

「──でなあ、鉱芽君。一つ頼まれてくれへんかなぁ?」

 

 

 だが今日は楽しいお話だけで終わりそうにないようだ。希が俺を頼ってくるのは初めてだ。それに笑顔を振る舞っているが声は真剣な色に染まっている。真面目な話になるであろうことは想像に難くない。そう思うと、俺も少しは信用されているんだなと嬉しくなる。

 では、こちらも真剣に聞くとしよう。

 

 

「いいけど、珍しいじゃないか。どうした?」

 

「うん。あの子達のコーチと見込んで聞いてほしいんやけど……──」

 

 

 希の話は至極単純なものだった。

 まず話題として挙がったのはここ数日μ'sの練習風景を覗き見している一人の女子高生の話だ。ああね、確かにいたなぁ。サングラスにマスク、とコテコテの変装で境内に潜んでいた阿呆が。ずっとこちらを見ながら──―まるで羨むような目線を送り続ける少女が。

 

 彼女の名は矢澤(やざわ)にこ。μ'sや希と同じく音ノ木坂学院の生徒で、学年は希と同じ三年生らしい。そして、かつて音ノ木坂でスクールアイドルとして活動していた少女だ。今のμ'sのように。

 いや、今のμ'sと同じと言うのは語弊があるかもしれない。少なくともμ'sは本気でスクールアイドルをやっている。それは勿論廃校を覆すために。どれだけ前途多難であろうと、それを跳ね除ける程の気力を彼女達は持ち合わせている。だからこそ俺も今こうして彼女達を指導しているのだ。

 対してかつての音ノ木坂スクールアイドルは、確かに真剣だった……矢澤にこ()()は。人一倍アイドルへの意識の強い彼女のことだ。きっと練習も常に全力で取り組んでいたのだろう。だが彼女以外のメンバーは皆、ただ軽く嗜む程度の感覚でスクールアイドルをしていただけだった。そのため一人全力で張り切る矢澤についていけず、皆スクールアイドルを辞めていき、結果として矢澤独りの「アイドル研究部」だけが残る事になってしまった。それが矢澤の一年生の時だ。それ以来、彼女はクラスでも孤立状態となっており、今では関わりがあるのは希くらいのものだ。ああ~……これはちょっと不憫だな。

 

 とりあえず、普段矢澤がこちらへ向けている視線の謎が分かった。やはり単なる嫌悪などではなく、嫉妬と羨望が混じった悲しい眼差しだということだ。かつて自分が上手くいかなかったアイドル活動をμ'sが順調に進めている。それがどこか悔しく、羨ましい。

 

 

「つまり希の言いたいことはアレか。俺に矢澤と話をしてほしいってか」

 

「うん、そうや。この先きっと、にこっちはあの子達とぶつかると思うんよ。多分、『アイドルなんか解散しなさい』とか言ってな」

 

「……かもな」

 

「でもうちは違うと思うんよ。本当はにこっちもあの輪の中に入りたい、みんなと一緒にアイドルをやりたいって思ってる。でも、以前のこともあるから素直になりきれへん。だから、鉱芽君」

 

「あの子の助けになってくれ、と」

 

「うん」

 

「別に構わないけど、俺じゃなくてお前じゃダメなのか?」

 

 

 確かにこのまま矢澤を放っておく訳にはいかない。ただ、それなら俺よりも関わりのある希の方が適任じゃないのか?そう疑問に思っていると、希は何処からか取り出したタロットカードを俺に見せてくる。カードには『運命の輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)』が示されていた。ほほう、「好機我に来たり」ってか。

 

 

「カードがそう言うんや」

 

「相変わらず『スピリチュアル』ってやつか。そろそろ俺の未来も占ってほしいところだけどねぇ」

 

「ああ、ごめんなぁ。未来の事やと鉱芽君だけはどうしても定まらへん。占うたびに違うカードが出てしまうんよ。こんなの初めてや」

 

「へぇ~、俺が希の初めてってか?」

 

「もう、変な事言わんの。でも、本当になんでやろうなぁ? まるでうちらと違う世界に生きてるようやわ」

 

 

 違う世界……ね。あながち間違いじゃないな。

 

 

「あっ、来たみたいやで? ほら」

 

 

 希に言われるまま振り向くと、神田明神の階段から穂乃果達μ'sの初期メンバーが現れるのが見えた。俺を見つけたことりは顔を綻ばせ、穂乃果は手を振り、海未ちゃんは軽くお辞儀をする。遠くからでも個々の性格が分かりやすいなアイツ等。

 

 

「そだな。じゃあ俺行くよ。矢澤の件も任せとけ」

 

「ありがとう。ほな任せるわ」

 

 

 そして希と話を済ませた俺はμ'sの元へ駆け寄った。階段の下を覗いてみるとちょうど一年組が階段を上がっているのが見える。お、俺を目にした真姫の歩く速度がちょっと上がったぞ。"凛ちゃん”よりペース速くなってるな。

 

 

「おはよう! これで全員だな。じゃあ今日も始めるぞ」

 

 

 そして今日もいつものように女神たちの指導が始まる。それと同時に周囲のチェックも怠らない。今のところ矢澤らしき影は見当たらない。しかし今日は日曜日だが矢澤は来るのだろうか? いや、別に今日でなくともいい。少なくとも平日には来るだろうからそこを捕まえればいいか。

 

 

 

 ──────────────────―

 

 

 

「で、どういう訳かな?こんなストーカーみたいな事して」

 

「ぐっ……」

 

 

 結果から言おう。矢澤は現れた。本当、日曜の朝からご苦労なこった。

 練習中にふと視線を感じたと思い振り返れば、黒髪が神社の壁に隠れるのが目に入った。もしやと思いメンバーに断りを入れてからその影に接近し、ついに謎の影──矢澤にこと接触した。このまま逃げられるのも癪なので、その前に会話に入らせてもらう。

 

 

「だ、大体ねぇ! アンタは何なのよ!?」

 

 

 俺の次の言葉の前に矢澤が声を上げる。同時にサングラスとマスクを外し、己の素顔を俺にさらす。お、なんだ。普通に可愛い子じゃないか。けどその体系がどうも小柄だ。痩せてはいるが身長やらスタイルまで、希とはどこまでも対照的な少女だ。嗚呼、世界ってのは不平等だな。けど、そのムッとした表情と彼女の持つ黒髪のツインテールが、その小悪魔的印象を更に押し出しているようで非常にバランスよく見えてくる。今のμ'sには足りない要素だな。

 って真面目に解析してる場合じゃないよな。

 

 

「第一、あの子たちはアイドルとしての心構えも、態度も、本気度も、何もかも本物とは程遠い。私の知ってるアイドルじゃないわ。あれならいっそ、解散してしまえばいいのよ」

 

「本物じゃない、ねぇ」

 

「そうよ、それにアンタも! 何であんな子たちの面倒なんか見れるわけ? アンタも本物には程遠いけど、それなりには踊れる。それは私も認めてあげる。でもそれなら尚更、あんな子たちの指導なんかしてて面白いの?」

 

「そりゃあ、ね。本物に程遠いならそれに近づけてやる。指導ってのはその為のもんだよ。お前だって分かってるだろ?」

 

「んぐぐっ……」

 

 

 威勢よく俺たちの事を下に見てくるような口調だが、俺にはそれが虚言に聞こえて仕方ない。単にμ'sを貶したいわけじゃないのは確かだ。矢澤が望んでいるのは彼女たちの解散じゃない。むしろ──

 

 

「はぁ……お前の事は希から聞いてるよ、矢澤にこ。元スクールアイドルだった事とかな」

 

「っ! は、はぁ!? 希ったら何勝手に──」

 

「で、お前は何がしたいんだ?」

 

「──っ……」

 

 

 俺の問いに矢澤は即答できず、ただ俯いて黙り込むだけだ。いや、希の言う通り、矢澤は自分が本当はどうしたいか分かっているはずだ。分かっているはずなのに言葉に出せない。出す勇気が出ないのだ。

 

 

「当ててやろうか?」

 

「……やめて」

 

「……そうか」

 

 

 俺の指し延ばす救いを矢澤は跳ね除ける。その痛々しい声に俺は大人しく口にするのを諦める。いや、仕方ないだろう。何せ勝手に人の過去を聞いて勝手に人の想いまで語りだすのだから、鬱陶しい事この上ないはずだ。しかし矢澤の顔は意外そうな表情を浮かべていた。

 

 

「意外ね。無理通して言うかと思った」

 

「まさか。俺はそんなに性格悪くないよ。けど──」

 

「?」

 

「──自分が何したいのか分かってるならさ、そんな事止めてさっさと動いちゃってもいいんじゃないの?」

 

「……なんでそう思うのよ」

 

「そりゃあお前……じゃあ逆に聞くけど、なんでそんな羨ましそうでいて、怯えた眼してんだ?」

 

「!?」

 

 

 俺がそう言うと、矢澤は今までにないほど動揺したようなアクションを見せる。具体的には手を動かしまくって自分の顔を隠したり。彼女が今も抱いているのは、かつて自分が成しえなかったスクールアイドルの活動を続ける彼女たちへ対する羨望。そして、かつて自分が仲間に見限られたことから来る恐怖。

 これで確信した。希の言った通りだ。やはり矢澤は彼女たちと共に、μ'sと共に活動したいと思っている。しかし、彼女が抱く過去の想いがその行動を阻害してしまっている。

 ──彼女たちも本気じゃないのだろうか?

 ──自分はまた見捨てられるんじゃないのだろうか?

 そんな恐怖が彼女を押しとどめてしまっている。

 

 

「なあ、矢澤にこ」

 

「……何よ」

 

「お前はどう思ってるかは言わんが、少なくとも俺は、お前がμ'sに来てくれればいいなと思っている」

 

「っ……それ、本気で言ってんの?」

 

「ああ、もちろん。俺はμ'sにはお前が必要だと思っている」

 

 

 矢澤のμ'sへの加入。これは俺の本心である。きっと彼女は自信家で、それでいて芯の強い人物だ。きっと穂乃果がリーダーを務めるμ'sに入ろうとも、臆さず自分の意見をズバズバ言ってくるタイプの人間だ。それは鬱陶しくて迷惑に聞こえるだろうが、逆に大勢のチームにおいてはその中で一人言い出す人物は非常に貴重なものであり、必要不可欠な存在であると俺は思う。加えて彼女のアイドルに対する意識の強さ。これも他のメンバーには見られない特徴だ。矢澤は必ずμ'sに新たな風を吹かせてくれる要因になるだろう。

 俺の言葉を聞いた矢澤は、目が一瞬だけ光が灯ったように輝いた。が、すぐに先ほどまでの仏頂面に戻る。

 

 

「……考えておくわ」

 

「ああ、頼むよ。それと待ってる」

 

「あまり期待しないでよ」

 

 

 そして矢澤は俺に踵を返し、境内を後にした。しかし去り際に一瞬だけ見えた彼女の赤い頬に、俺は一筋の希望が見えた気がした。

 

 

「さて、指導の続きといきますかねぇ」

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「ここからは俺のステージだ!」

 

 

 太陽が真上まで登りつめた昼時。鎧武に変身した俺の目の前には三体のインベス、そして三つのクラックがあった。μ'sの指導の帰り道、クラック出現の知らせを受けた俺は即座にサクラハリケーンを起動し、変身してこの場──神田明神付近まで戻ってきた。

 しかしクラックが三つも同じ場所で開くとは……。これはやはり因子持ちが近くにいると考えていいのだろう。

 

 ……っていうより──

 

 

『オレンジスカッシュ!』

 

 

 ──それって今インベスの目前にいる女の子の事だろうがぁぁ!

 

 

「セイハアアァァァァーッ!!」

 

 

 即座に女の子とインベスの間に立ち塞がり、俺の必殺技──大橙一刀のエネルギー波が目の前のインベス三体を飲み込み、インベスは呆気なく爆散した。

 いや、ギリギリセーフ。本当危ないところだった。珍しくスイカより早く現場に着いたと思えばいきなり修羅場だったとか。いや、本当勘弁してほしいわ。俺は変身を()()()に振り返り、因子持ちであろう女の子の顔を拝むことにする。

 

 ……ん?

 

 俺が振り返るそこに女の子は一人ではなく二人いた。

 いや、それは問題ない。多分片方が陰になっていてもう片方が見えなかったんだろう。

 

 むしろ問題なのはこの二人の少女──

 

 

 ──東條希。矢澤にこ。

 

 見知った顔の二人は揃って鎧武をもの珍しそうにじっと見つめていた。

 

 

「(オイオイ……一体どっちだ?)」

 

 

 今問題なのは、因子持ちがまたもや俺の知り合いだという事だ。




忙しい日が続いて中々更新できない日々が続きますが、どうか応援よろしくお願いします。感想、評価の程お待ちしております。
それではまた次回。
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