「……さて、次はいつ掛かってくるのやら」
現在、俺は自宅の自室にて希からの電話を待っていた。希達はアレから他の一年生を探しに出かけたらしく、それまで通話は切っておくそうだ。ま、そうだよな。校内である以上モラルを守るという意味でもそうすべきだし、電池も通話代もできるだけ節約したいよな。通話が切れてから約十分が過ぎようとしていたところだ。
『♪~~~♫~~~♬~~~』
「おっ、きたきた」
俺は逸る心を抑えながら通話ボタンをタッチする。すると画面には既にカメラを構えた凛ちゃんと戸惑いの表情を浮かべている花ちゃんが映っていた。ああ、丁度今からインタビューが始まるのね。とりあえずじっと黙っておくか。
『た……助けて……』
『緊張しなくても平ー気。聞かれたことに答えてくれればいいから』
画面では花ちゃんが困ったような顔してカメラを持つ凛ちゃんに助けを乞うていた。希と凛ちゃんはそんな感じで渋り続ける花ちゃんを宥めようとしている最中である。普段指導している時にしても物凄く頑張る子という印象もあったが、こうして見るとやっぱ普通の女の子なんだよな、花ちゃんも。アイドルの話になると異様な程──つか怖い程熱が入るけど、そうで無い時はことりと一、二を争う程の癒しキャラでもあるんだよな。よく言えば一番平和的、悪く言えば平均的。それが花ちゃんに対する俺の見解だな。
そしていつしか凛ちゃんの持つカメラは真姫を標的にしてした。
『真姫ちゃんもこっち来るにゃ~』
『私はやらない』
あら、やっぱそこはクールにいっちゃうのね。う~ん、自分の意志でアイドルを始められたんだから、こういうインタビューも軽く答えられ……無理だな。真姫の性格上、絶対恥ずかしがる。
『鉱芽君』ボソッ
そこで希から小さく声が届く。あ、なる程ね。そのための俺でもあるのか。
んじゃ、遠慮なく。
「すぅー…………可愛い真姫ちゃんのインタビュー聞きたいなー!」
『ぅ"えぇ!? えっ? えっ、え? ふぅぇぇええ~っ!?』
……驚きすぎだろ真姫。俺の声と共に端末に映る俺の姿を確認した真姫は、それはもう奇妙な叫び声を上げて後ろに尻もちをついていた。ついでに言うならその顔は真っ赤に染まり、髪の毛と同化していた。
『なっななななななななっ何でっ、こ、鉱芽がっ!?』
「いやあ、希が是非インタビューの様子を見ていってくれって」
俺の弁明が届いているのか分からないが、真姫は立ち上がるも、その奇妙な手の動きやあちこち動き回って定まらない視点など、非常におかしな挙動が目立っていた。
『どうしたの真姫ちゃん? ちょっと驚きすぎだにゃぁ』
『へっ、変? べ、別にどこもお、おぉおかしいところなんてないわよ!』
はぁ……インタビューが始まるのはいつになる事やら……。
そう考えていたが、凛ちゃんの言葉を受けて漸く姿勢がピンと伸び、腕を組んでいつものような立住まいを見せる真姫。どうやら少しは復活したようだ。
『まあ、そういう訳やから、ちょっと協力してな』
「頼むよ。可愛い真姫ちゃんの知性溢れる美貌っての見せてくれよ」
──完全にセクハラ発言である。しかし真姫は少し困った表情を見せるだけで、一応インタビューには参加すると表明してくれた。その際、顔を赤らめていたのは完全に俺の所為だな、うん。
という訳で、漸く一年組三人のインタビューが始まった。
まずは花ちゃんについて……なのだがそこへ凛ちゃんが加わり、花ちゃんの説明を行うとともに仲の良い二人を演出している。うん、まあ、それはそれでいいんだろうけど……なんだろう。こう、どこかぎこちないし……うん、とにかく普通だ。
『……ぷっ』
『ちょっとカメラ止めて』
「?」
そんな中、急に花ちゃんが笑いだし、真姫がカメラを止めるべく画面から消え失せる。何事かと思っていると、希が端末を向けてくれたのでその原因がはっきりと分かる。穂乃果とことりだ。
「何してんの穂乃果? ことりまで……」
『いやあ、二人共緊張しているみたいだったから』
『解そうかなと思いまして』
カメラを持った穂乃果は変顔を作っており、ことりに至っては何処から用意したのか、ひょっとこのお面を付けていた。ってか、そのお面付けたまま喋るな。シュールすぎるわ。
『全く、これじゃあμ'sがどんどん誤解されるわ!』
その言葉は真姫が発したものだ。しかしこういう事を口にして出せるようになるとは、真姫も成長したもんだなぁ。
『おお……真姫ちゃんがμ'sの心配してくれた』
「いーや、真姫は元々μ'sが好きだぞ。言葉にしたのは称賛に値するが」
『い、言わないでよそんな事……』
そう言いつつ、横髪を指でいじりながらそっぽを向く真姫。うん、やっぱこっちの方が真姫らしくて可愛いな。
そしてそんな姿を容赦無くカメラに納める穂乃果。案の定、真姫は声を上げて抗議した。
「撮らないで!」
ああもう、可愛いなぁ……。
──────────────―
場所は更に変わって屋上……らしい。音ノ木坂学院の屋上では現在、海未ちゃん指導の元、μ'sの練習が行われているらしい。さっきから「らしい」と言っているのは、今はその様子を端末で見ていないからだ。それもこれも全部真姫の所為なのだが……。
遡る事半時間前。インタビューの直後、真姫からこんな脅し文句が届いた。
『そ……そんないきなり私達を覗こうだなんて……こっちだって、い……家に押しかけるわよ……っ』
最早脅しになっていない。というより、俺の家に行きたいという欲望が駄々漏れだ。ま、断る理由もないし、丁度ドルーパーズでの仕事もないからいいか。
『ああどうぞ。来たけりゃ来ていいぞ』
だからそう答えた。答えた時の真姫の表情は面白かったぞ。何せ目を丸くしたまま赤くなって全然動かなくなったんだもの。ま、ともかく俺は今日真姫を自分の家に誘っちまった訳だ。
するとどうだろうか? 会話を聞きつけた他のμ'sメンバーがその話に乗らないわけがない。
『え!? 真姫ちゃん、鉱芽さんの家に行くのっ? じゃあ私も行っていい……ですか?』
そんな敬語を忘れた穂乃果が発端となり、結局、真姫、穂乃果、ことり、希、凛ちゃんが我が家に来ることになってしまった。真姫一人ならともかく、それだけの人数が来るとなれば備えてあるお菓子だけで足りるはずがない。
だから現在、俺はこうしてスーパーでお菓子やら飲料やらの買い物に来てるわけだ。
……最悪夕食の分量も考えておくべきなのかな?
──────────────────
「さ、どぞどぞ」
「お、お邪魔します」
「「「「お邪魔します」」」」
俺に連れられるようにして玄関からリビングに入ってくる穂乃果。そしてそれに続く一同。希や凛ちゃん、それに何度か訪れた事のある真姫は気兼ね無く入ってきたが、穂乃果とことりはどこか緊張したような面立ちを見せている。そんなにキョロキョロされるとこちらまで落ち着かないなぁ。
「あの……お家の方とかは?」
「ああ、この家は俺の一人暮らしだ。両親共ここにはいないよ」
凛ちゃんの質問に正直に答えるも、それにはどう答えてよいか分からないという顔をされてしまう。ま、そうだよな。こんな大きな家に一人暮らしで、両親がいないって言われたら返事に困るのは当たり前か。
仕方がないので俺の方から話題に入らせてもらおうか。
「そうだ希。早速さっきのビデオ見せてくれ。ダンスの練習中の」
「了解」
俺の言葉通り希は鞄から例のビデオカメラを取り出し、動画を再生する操作まで行ってくれた。そしてカメラには先程撮影したと思われるμ'sの練習風景が映りだした。普段彼女達を指導している身として、その練習がどのようなものか気になるのは当たり前だ。それに見るのは練習だけではない。その進め方もだ。俺は海未ちゃんに指導の方向性も支持しているので、彼女がちゃんと練習を進められているかにも焦点を当てて見ているのだ。俺が海未ちゃんの指導する姿を見なかったのは何も彼女達が訪問するからではなく、海未ちゃんが俺を意識することの無い、指導をしやすい環境に置きたかったからという側面もある。
「ふん……ふむふむ……」
「あ……あの~……?」
「ああ、これね。うん、よくみんなの事見てるね、海未ちゃんは。流石だ」
ことりからの疑問を交えた目線に対して答えながら、俺は海未ちゃんへの評価を固める。やはり真面目な彼女こそ、普段俺がいない時の指導要員になれる人材だろう。とりあえず五分程、早送りも含めながら鑑賞するが大方その評価で間違いないだろう。本当は彼女自身にも直してほしい点はあるのだが、そこは直接言ってやるしかないな。
見たいところは見れたので動画を停止させ、カメラを希に返却する。
「ありがとう希」
「ん? もうええん?」
「ああ、こいつらがちゃんと活動してるって知れただけでも十分さ」
「もうっ、私達だってちゃんと練習してますよぉ」
「ハハハッ、ごめんごめん」
穂乃果からの不満ながらの反論に軽く謝罪を入れながら、俺は立ち上がって用意してあるお菓子を取りに行く。軽く流されたと顔を曇らせる穂乃果だが、俺がお菓子を持ってきたのを見るとぱぁっとその表情が明るいものになる。現金なやつだな、お前。
「ま、とりあえずどうぞ。飲み物もあるから」
「ありがとう」
「「ありがとうございます」」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます。お菓子だにゃ~……あれ?」
希を筆頭に皆がお菓子に手を伸ばすが、凛ちゃんがその時何かに気付いたようだ。
「あの、コーガさん。あの写真って……」
凛ちゃんが指さす場所にあるのは一枚の写真。写っているのは一組の幸せそうな母子の姿だった。ただなんてことは無い。ブランコに座る女性の膝の上にその子供が座り、互いにこちらを向いて笑っている……そんな普通の……平凡な一枚の風景だ。
「これか……」
「鉱芽……」
「大丈夫」
そう呟きながら俺は静かに立ち上がり、写真立ての元まで歩きだす。色々事情を知っている真姫は心配そうに声をかけてくれるが、そんな彼女に優しく言葉を返してやる。そして写真立てを手に取って再びリビングのテーブルへと戻り、彼女達にその写真を見せた。
「これって、もしかして鉱芽君?」
「わぁ……可愛い……ってアレ?」
可愛い、ね。ああ、よく言われるよ穂乃果。それは俺がまだ5歳くらいの時だしな。そして案の定、写真を見た穂乃果──いや、その部屋にいた全員が気付く。俺では無く、俺を抱きかかえている柔らかい笑みを浮かべた女性に。そしてその疑問を真っ先に口にしたのはことりだった。
「鉱芽さん、この人ってもしかして……?」
「ああ。この人は葛木 舞衣……俺の母親で、元アイドルだ」
一瞬の間、静寂が部屋の中を包み込む。俺はこの次に訪れるであろう衝撃に備えて耳を塞ぐことにする。
そして次の瞬間、俺の身体に衝撃が走った。
「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」」」」
それ見た事か。耳を塞いでいてもその衝撃が届くとは……相当の音量だったようだ。同じように耳を塞いでいた真姫もその衝撃に当てられたようで、若干クラクラしているようにも見える。
その次に訪れるのは質問の嵐だった。
「えっ、本当に!? この人って部室に貼ってあった人だよね!?」
「って事は鉱芽さんって伝説のアイドルの息子さん!?」
「かよちんが聞いたら発狂するにゃ~」
「はぁ……やっぱりこうなるのね」
穂乃果、ことり、凛ちゃんが流れるように迫り、呆れたように真姫がその様子を評した。だが希だけは目の付け所が違ったようだ……。
「あれ? ってことは鉱芽君って、あの有名な物理学者さんの子供ってことでもあるんよね?」
「希先輩、その話は──」
「いいよ、真姫」
「──ん……」
「ん? 何ですか? 物理学者って?」
……はぁ。やっぱそこに行きつくのか……。ま、過去のニュースでも調べればすぐにたどり着く話題だし仕方ないか。やはりというべきか、穂乃果達はその話題に食いついてきた。とりあえず希を静止しようとする真姫を宥めて希に話を続けさせる。
「部室での話の後な、鉱芽君のお母さんについて軽く調べたんよ」
「ほおほお、それで?」
「大スター葛木舞衣は今から21年前──ちょうど鉱芽君が生まれる1年前やね。当時同じく有名になり始めたとある物理学者と電撃結婚、引退したって書いてあったんよ」
「物理学者……ですか?」
「うん確か歴史の教科書にもその名前が載ってたと思うで?確か名前は──」
「──
希がその名を出す前に、俺が答えた。だが、きっとその名を口にした時の俺の顔は相当歪んでいたのだろう。俺の顔を見る彼女達の表情に若干怯えの色が垣間見えた。
「あ、あの……鉱芽……さん?」
「……悪い。改めて紹介する。戦極 岳斗。物理学者で……俺の父だ」
──非常に不本意ながらな。
その名を紹介するとともに俺は自分と母さんの写真立ての中から、更にもう一枚の写真を取り出す。そう、写真立てには二重に写真がしまわれていたのだ。表には俺と母さんのツーショットが、裏には俺と母さん、それと親父の三人で撮影した家族写真だ。憎たらしくもその写真の中の俺は、母さんと二人で一緒に居る時と同じ、屈託ない笑顔をこちらへ向けていた。
「これが鉱芽さんの家族……」
「ま、顔はいいよな。学者にしては」
ことりが神妙な表情で写真を眺めて小さく呟く。別にそれ程大層なものでもないのだがな。取り合えず写真の中の親父に対しての俺の感想でも述べてみた。写真の中の親父は、茶色の髪が少しクシャクシャにウルフヘアーをなしており、またその勝気な眼からも科学者という理性的な立場からは想像できないほどの野性的な印象を与えている。まあ、なんて言うんだろう、ツバサと同じく強者っぽいオーラとかにじみ出てるよな。
だがはっきり言って、今の俺は親父──戦極岳斗に対していい印象を持っていない。確かにいい父親であった時期もあったかもしれない。だが、それでも有り余る程の
「ん? じゃあ鉱芽さんは『葛木』じゃなくて、『戦極 鉱芽』になるんじゃないの? 普通」
「んぁ、気にすんな。俺が勝手に『葛木』って名乗ってるだけだ。つっても一応、役所にも提出してるしな」
「っ!? なぁ鉱芽君、『戦極』ってもしかして……」
「あっ……」
俺の苗字について穂乃果が質問をしてくるが、やはりコイツさっきから敬語が抜けてきてるな。まあ構わないけど。そして毎度の事察しのいい希は、親父の姓からある事に行きつく。同時にことりもピンときた事があるようだ。
そう、俺の持つベルトの名前──戦極ドライバーの名前の由来だ。
「ちょっと待って。もしかして希先輩って……」
しかしその話題になる前に真姫が待ったをかける。きっと希が戦極ドライバ──鎧武の存在を暗示したことに対して反応したのだろう。そう言えば真姫はことり以外の因子持ちについては分かっていなかったっけ。それならば希が俺の秘密を知っている事に驚くのは当たり前か。
「うん、ウチも知っとるよ、真姫ちゃん。ことりちゃんもね」
「私も希先輩についてはこの間知ったばかりなんだけどね」
「私は初めて聞いたわ。希先輩が知ってるなんて」
「ん~何々? なんの話?」
ことり、真姫、希、とヘルヘイムの森について知っている者同士の会話が進む中、穂乃果と凛ちゃんは放っていかれっぱなしだ。二人が訳が分からなくなっている間、因子持ち(確定)の三人の間では結束にも似た妙な空間が作り出されていた。
しかし、この間希にも指摘された事──μ's全員の因子持ちの件──今ここで確認してみるべきか……。
うん、ものは試しだ。
「穂乃果、凛ちゃん」
「……え? ちょっ、鉱芽!? 何してるの!?」
「鉱芽さん!?」
そして俺はテーブルの上にオレンジロックシードを全員に見えるように置いた。
穂乃果と凛ちゃんは何の事かまるで分かっていないが、案の定、真姫やことりからは非難と驚愕の声が届いた。希は何となく察していたのか、静かに俺のすることを見守っている。
「え? これって何ですか?」
「お前らはこれが何に見える?」
「ええ……オレンジの錠前……だよね? 凛ちゃん」
「うん」
「……そっか、ありがと」
ま、だろうな。それだけの操作を終えて俺はロックシードを再び懐に仕舞う。見せられた二人の頭には未だハテナマークが浮かんでいるのだろうが、とりあえず今日のところはこれでいい。もしこれで明日も今日見た「オレンジの錠前」を覚えていたのなら…………俺も覚悟を決めなくてはならないだろう。
「鉱芽……」
「鉱芽さん……」
「悪いな、真姫、ことり。けど、確認しておくのも大事だ」
さて、翌日どうなるか……。
今回登場した戦極 岳斗。イメージは戒斗さんです。プロフェッサーではありませんよ。
次の更新は少し遅くなりますかね。
ではまた次回。