ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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佐野岳さんやっぱスゴイっすね(モンスターボックス挑戦見ながら)。

クリスマス(イヴ)という事でヒロインを絡めた話で。
それではどうぞ。


第17話 銀を包む灰と朱

 太陽も沈み始め、空が赤く染まり始めた夕方時、俺はというと穂乃果達の見送り──もとい護衛として彼女達のお伴をしていた。そして丁度今しがた、穂乃果の家族が経営している和菓子屋店『穂むら』の前へと到着したところだ。

 

 

「バイバイ、また明日な」

 

 

 と言ってもここで別れるのは穂乃果だけではない。μ'sの取材の続きとして、希と凛ちゃんが引き続き彼女の家にお邪魔する事になっている。つまり彼女達ともここでお別れということになる。

 

 

「はい! お疲れ様でした!」

 

「さようなら、コーガさん」

 

「ほな、バイバイ。また明日」

 

 

 俺に見送られながら三人は穂むらの中へと入っていった。うし、後はことりと真姫を送り届けるだけだ。

 

 

「じゃ、行くか」

 

「はいっ」

 

「ええ」

 

 

 そうして俺達も次の帰路へと付くことにした。確か前にことりを送り届けた時も穂乃果を見送った後だったな。あの時は穂むらまで行かずに途中で穂乃果と別れたが。

 

 という事で現在、俺、ことり、真姫の三人で歩いているわけなのだが、どういう訳か一向に彼女達から言葉が発せられる気配がないのだ。辺りに漂う妙に重い空気はきっと俺の気の所為ではないだろう。

 

 

「……なあ、なんか話す事とかないのか?」

 

 

 とりあえず二人に会話を促してみることにした。折角事情を知っている者が集っている状況なのに、会話の一つもないのは少々問題があるだろう。しかも先程の俺の家での会話を聞く限り、ことりと真姫はヘルヘイムについての情報を分かち合っていないと見える。俺としてはこの際、ある程度は打ち解けてほしいものなのだがな。指導者としても、戦士としても……。

 そしてしばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは真姫の方だった。

 

 

「それは話すことはいくらでもあるわ……けど事情が事情だけにどうも話しづらいのよ」

 

「私も同じかな」

 

「ま、そりゃそうか。仕方ないわな」

 

 

 森の話題を出すとなればどうしても重い話になってしまう。だから避けたいと思うのは当たり前だろう。しかしこうして会話を切り出した以上は続けてもらうしかない。話し合ってこそ分かるものもあるかもしれないしな。

 

 

「俺から言えるのは一つ。なるべく抱え込まずに話す合うのも一手だという事だ。お前らみたいに同じ事情を抱えている奴同士なら話題を分かち合う事で気は楽になると思うぞ?」

 

「……そうね。うん・・・じゃあ、とりあえずことり先輩に質問。いつ鉱芽と知り合ったの?」

 

「ぇえ、私っ? えぇっと……確か……──」

 

 

 軽く一案として提示してみたのだが、真姫は俺からの提案に全く迷いを見せずに素直に従った。あれ?真姫ならもう少し考えてから行動に移るかと思ったのだが、一切の迷いも見せずに即決したのは少し意外だった。俺の言葉だからって信用しているのかも知れないが、それは少し危険な気もする。嬉しくはあるが。

 そんな風に真姫の行動に対して思慮に浸っているといつの間にやら彼女達の会話が進んでいたらしく、質問権がことりに映っていた。

 

 

「──真姫ちゃんは鉱芽さんとは長い付き合いなの?」

 

「ぅえっ?わ、私は……」

 

 

 ことりからの質問に対してしどろもどろになる真姫。オイ、普段の余裕とか何処に行ったんだお前。

 はぁ、仕方ない。俺が助け船をだすか……。

 

 

「俺と真姫が初めて知り合ったのは大体一年ぐらい前──去年の四月頃だよ。なっ?」

 

「へぇー、そうなんですかぁ。すごく親しそうに話すからもっと付き合いが長いのかなって思っちゃって……」

 

「……悪かったわね」

 

「ハハッ、拗ねんなって」

 

「拗ねてないっ」

 

 

 ことりの反応に何故かへそを曲げてしまった真姫を宥めながら、俺はことりの質問に答えるべく説明を続ける。

 

 

「真姫と出会ったのは俺がまだ戦いを始める前の話なんだけどな。ま、なんだ、色々あって鎧武や森の事を知って今に至るってわけだ」

 

「な、何だかすごく抽象的ですね……」

 

「まあ、こればかりは仕方無いさ。またいつか……な」

 

「はいっ」

 

 

 説明、といっても碌な事でもないのでとりあえずはぐらかすことにする。真姫との絡みを一から説明すると非常に面倒なので、ことりにはまたの機会にでも話そうと思う。

 さて真姫の方だが、先程から俯いていたと思えばいつの間にやら近づいて……というより俺に密着する勢いで接近していた。

 

 

「……真姫?」

 

「……」

 

 

 何も言わずにじっと俺の傍を離れず歩き続ける真姫に、俺はそれ以上何もいう事は出来なかった。

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

「……真姫?」

 

 

 鉱芽は心配そうにこちらへと意識を向けてくれるけど、生憎今の私はそれに素直に答えられるほど落ち着いているとはいえなかった。確かに私と鉱芽は知り合ってまだ一年とちょっとしか経ってない。その点に関してだけでも、六年前から彼と知り合っている綺羅ツバサとは大きな差を付けられてしまっている。現に、一時的とは言え付き合ってた時期もあったほどよ。あの時は事情が事情だけに私にはどうすることも出来なかったし諦めもついていた……けど、それでもこの胸に突き刺さる痛みだけは消えることはなかった。彼女と私の差が最も顕著に表れていたようにも感じられて、とても惨めで辛い想いをしたことは覚えている。

 そういった経緯もあり、関わった時間の大きさというものは結構重要なものなのだと私は思っていた。けど今は違う。関わった時間が少なくても──知らなくても人は分かりあえる。それをこの一年で学べたはずだった。

 

 だけどそんな忘れ去った気持ちを、今私の目の前にいる──恐らく同じ鉱芽を想う少女を前にして再び解き放ってしまっていた。

 

 

「私の方が長いんだから……」

 

「真姫ちゃん?」

 

「私の方が……知っているんだから……」

 

 

 それは一種の傲慢。

 

 ──アナタより私の方が彼に近いの。

 

 そんな一人よがりな理屈。

 

 私の方が長く一緒にいるの。

 

 私の方がいっぱい鉱芽を知っているの。

 

 私の方が彼に近いの。

 

 全部、アナタよりも……──。

 

 そんな醜い感情を全て、目の前の人間にぶつけていた。

 

 

「……っ」

 

 

 そして同時に気付いてしまう。柄にもなくにじみ出たそんな醜い感情を、よりにもよってことり先輩にぶつけてしまった事に。同じ苦しみを分かち合えるかも知れない貴重な存在に──同じ舞台でスクールアイドルを勤しんでいるかけがえのない同志に対して──。

 

 

「ぁ……ご、ごめん……なさぃ……」

 

 

 漸く冷静になったものの、先程の発言を取り消すことなんてできない。尻すぼみになりながらも謝罪の言葉を口に出すけど、まともに視線を彼女に合わせることは出来なかった。

 

 

「……真姫ちゃん」ボソッ

 

 

 顔を上げるとことり先輩は手を振って私を傍に招いていた。それに逆らうことはせず、私は恐る恐る彼女の元へと歩き出す。鉱芽も何となく大事な話をすると察したのか、ゆっくりと会話が聞こえない位置まで離れていく。それを確認したことり先輩は私の耳元に口を近づけて小声で話し出した。

 

 

「な、何よ」

 

「『知っている』からって、それは鉱芽さんを独占できる理由にはならないよ」

 

「わ、分かってるわよ」

 

 

 恐らく、先程の発言を受けてのものだろう。私にとってはそんな事は今更だった。でも先程の私は感情に流されるがまま、自分の立場を誇示するために思いもしない言葉を口にしてしまった。その点に関しては反省しなくてはならない。私の気持ちを汲み取ってくれたのか、ことり先輩はそれ以上その件に関しては口を出さなかった。しかし彼女が次に口を開いたとき、私はまたも狼狽しそうになった。

 

 

「ふふ……真姫ちゃんは鉱芽さんの事好きなんだよね?」

 

「っ! ……そっ、それは……ことり先輩だって、その……そうなんでしょ?」

 

「?」

 

「そ、その……こ……鉱芽が……好き……?」

 

 

 先程からずっと笑顔を絶やさないことり先輩。そんな彼女も自分と同じ気持ちを抱いていると考えて、同じ質問を返す。しかしことり先輩はあくまでも笑顔を崩さずに語り掛けるように私に打ち明けてくれた。

 

 

「ぅ~ん……どうかな。本当のところは自分でもよく分からないんだけどね。えへへ」

 

「はあ?」

 

 

 驚いた。人に言えた義理ではないが、まさか自分の感情にも気付かずにこんな話を笑顔を保って話し続けられることに。ことり先輩はそれに付け加えるように次の言葉を続けてくる。今度はその笑顔に少しの赤みが帯び、年相応の可愛らしい少女の笑みになる。もし自分が男だったら惚れてしまいそうな笑顔だ。

 

 

「私もね、こんな気持ちは初めてよ。鉱芽さんの事を考えると胸がキュンとする──ドキドキするの。これが恋なのかは分からない……もしかするとただの憧れかもしれないかな。子供がヒーローに夢中になるみたいにね」

 

「憧れ……」

 

 

 憧れと恋の基準って何だろう? ことり先輩の気持ちからついそう考えてしまうが、自分は恐らくその答えを知っている。きっと多くの人の恋は憧れから始まるだろう。今のことり先輩は、きっとその境目に立っているのだ。

 あとはことり先輩が恋する者が持つ特有の『感情』に気付けば、それはたちまち恋に変わる。

 

 

「けどね、切ないの」

 

「え?」

 

「鉱芽さんを想うと胸が苦しくなるの。一緒にいても、練習してても、鉱芽さんが戦っている時だって……彼の事を考えると温かいけど悲しくなるの」

 

「ことり先輩……」

 

 

 だが、私の心配を他所に彼女は既に気付いていた。大切な人を想う時の『切ない』という感情に。本当に綺麗で、純粋で、可愛くて、そんな純真無垢な彼女に対して、私は──

 

 

「……きっとことり先輩は……鉱芽の事が好き、なのよ」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「切ないんでしょ? 苦しいんでしょ? 恋焦がれてるんでしょ? だったら……惚れてるって言わずになんて言うのよ」

 

 

 ──本当、自分は何をやっているのだろう。このまま彼女を放っておけばライバルが減るというのに、寧ろ彼女を支えているだなんて。でも私は、彼女がそのままでいる事を善しとしなかった。出来なかった。

 

 

「……そっかぁ~。やっぱりそうなんだぁ。これが……『好き』……恋、なんだ……えへへっ」

 

「全く……」

 

 

 ことり先輩は両手を胸に当て、嬉しそうな表情を浮かべて大切そうに両手をそっと握りしめる。ようやく彼女は気付くことが出来たのだ。自分が抱く、最高に幸せで辛い感情に。

 

 ──ああ、やってしまったかもしれない。

 今私は自分で自分の首を絞めているのかもしれない。自らの手で──もしかしたらツバサ以上の障害を作ってしまったのかもしれない。

 

 それでもことり先輩に自分の気持ちに気付いてほしいと私が思ったのは、同じ鉱芽を想う者同士として、同じ目線で彼を見てほしかったからだ。戦いの苦痛を忘れられていく鉱芽をどう支えていくのか。その眼に鉱芽がどう映るのか。鉱芽と共に歩み、その後にはどんな世界が映るのか。それら全てを、鉱芽の言うように分かち合いたかったからだ。

 

 

「ありがとう、真姫ちゃん」

 

「べ、別にお礼とかいらないから」

 

 

 そう答えながら私はことり先輩から視線を逸らし、鉱芽のいる方向へ顔を向ける。別に赤くなった顔を見られたくなかったりとか、照れ隠しとかそんなんじゃないんだから。そして鉱芽だが、彼はこちらの話を聞かないようここから離れた場所におり、その上イヤホンまで付けて端末で音楽を聞いていた。ああ、そうだった、こうでもしなきゃアイツは絶対こちらの話が聞こえてしまうのよね。それが自分の意志に関係なくとも……。

 鉱芽は初めて会った時から運動神経だけでなく五感まで尋常じゃないほどに優れていた。本人は生まれつきだと言うが、時々、本当に同じ人間なのかと疑う時もあったりする。病院で見てもらった傷の治りだって異常に早かったりするし……。

 

 ま、そんな事でこの気持ちが変わるわけないんだけど。

 

 

「ん? 終わったのか?」

 

「ええ。助かったわ」

 

「いえいえ」

 

 

 私の視線を感じとり、イヤホンを外しながらこちらを振り向く鉱芽。相変わらず鋭いわ。うかうか内緒話も出来やしない。

 なんて考えていると、なんと早速ことり先輩が鉱芽の元へと歩み寄り、明らかに先ほどより距離を縮めているのが見えた。その目は垂れ下がり、頬がほんのり赤く染まってなかなか官能的な表情を見せている。

 

 

「どうしたことり? いい事でもあったか?」

 

「ふふふっ……内緒ですっ」

 

「あっ、ズ……っ(ズルい!)」

 

 

 そしてなんとも抜け目ない。この先輩は私が思っていた以上に積極的で度胸のある人物なんだと、私はその認識を変える必要があった。

 

 

「ず?」

 

「……なんでもないわ」

 

 

 言葉では何とも無いように装いながら、自分もことり先輩と同じように静かに鉱芽へ歩み寄る。さりげなく、本当にさりげなく先程の位置に戻ろうとした。そして先程と同じまではいかないが、少なくともことり先輩と同じ距離までは詰めることが出来た。

 

 ──もう助言なんてしないわよ。

 

 その際、ことり先輩に目で合図を送る。それはある種の挑戦状とも言える宣言。ことり先輩はその意図を受け取ったのか、その笑みを崩すこと無くこう返してきた。

 

 

「大丈夫、後は自分で何とかするから」

 

 

 ……ああっ、もう!本っ当、厄介な恋敵が生まれたものだわっ!

 でもそれとは裏腹に満足した気持ちもある。ことり先輩に自分の本当の気持ちを気付かせる事ができたからだろうか。それとも恋敵ができたという恐れ以上に鉱芽を共に支えられる同志ができたという嬉しさが強かったからだろうか。自分でもよく分からないけど、ことり先輩が鉱芽を好きになったことに関しては悪い気はしなかった。

 

 

「うし。じゃ、帰るか」

 

「はいっ」

 

「ええ」

 

 

 ──でも、今度は絶対に渡さないんだから。

 

 心の中でそう自分に宣言し、ふふん、と鼻で軽く笑いながら私は鉱芽の隣を歩く。

 そんな日が当たり前に続くことを確かに祈りながら。




サブタイトルの「銀」とは鉱芽のことです(彼のイメージカラー)。
そしてこの主人公に難聴スキルなぞ無い。
何気に真姫ちゃんも中学三年という精神的に不安定な時期に鉱芽と出会っているんですよね。明日夢君と同じで。
その話も含め、過去話もいつか絶対やるのでお楽しみに。

それでは今回はこれで。
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