それではどうぞ。
「ありがとなツバサ。今日は楽しかったよ。じゃ、またな」
「よかった……うん、またね」
ちょうど空が赤く染まり始めた頃、俺は駅に入っていくツバサを見送っていた。
あの後、俺はツバサに連れられるままに町のいたるところを巡りまわった。学校に商店街、書店、美術館、神社、和菓子屋にゲームセンターも、とにかくいろいろだ。自分でもこんなに街中を歩きまわったのは本当に久しぶりな気がする。練習は無いのかと気になったが今日は休止にしたようだ。まあ、だからこそ俺の家まで来たのだろうが。
しかし改札口を通ろうとしたツバサは急に俺の方へと振り返り、そそくさと近づいていきて語りかけてきた。
「ねぇ、コウガ」
「あん?」
「もし何かあったら私達を頼って。今度は私達がコウガを助けるから……だからっ……無理しないで……ね」
「……」
縋るような声を俺に投げ駆けてくるツバサ。その願いに俺はただ無言でツバサの肩を叩くだけであった。そんな俺にツバサは何も言わずに踵を返し、改札口を通りぬけた。
ツバサの姿が消える直前に見えた彼女の瞳は、どこか悲しげだった。
「……悪い」
俺が彼女の願いを聞き入れないこと──彼女を頼らないことなど、とうに気付いているのだろう。今日だって、アイツはどこか必死になって俺を楽しませようとしていたように見えた。恐らく……いや、間違いなくロックシードを見たせいだろう。机の上のアレを見られたのは少し失敗だったか。
とにかく、ツバサは俺に早く戦いを忘れてほしいのだろう。戦いは終わった、身を引くことが出来るのなら引いてほしい、と。
しかし無理なことだ。現に今だって。
「……」ガチャ
懐から件のロックシード──オレンジロックシードを取り出す。
そう、俺は戦いを終えた日からも常にコレと、そしてもう一つの黒い機器──戦極ドライバーを持ち歩いているのだ。これを見てツバサが嫌がることは必至だろうから隠して持ってきたが。
本当、何が悲しくてこんなもの持ち歩かなきゃならないんだ。俺だって本当は戦いなど起こらなければいいと思っている。それでも、いつか再び始まるかもしれないという焦燥を抑えきれないのだ。
「これも
もうこの世界に居ない人間に愚痴を言ってもどうしようもない。それにこの言葉も本心ではない。もともと自分の問題なのだ。
これ以上、ただの通りすがりの手を煩わせることはもうないだろう。
「ハア……帰るか」
いつまでも後ろ向きのままでいても仕方がない。そうして俺も駅を後にし、帰路につくことにした。
────────────────
「(……なんだ?)」
予感というものは厄介だ。特に根拠もないのに『そうなると思う』と考えてしまう。そして性質が悪いことに、これが『いい予感』の場合大体外れるのだが、『悪い予感』の場合は結構当たってしまうのだ。
まあ、何が言いたいかというとだな。今、俺は物凄く嫌な予感がしているということだ。
俺は昔から直感が冴えわたっており、自分が『そうなんじゃないだろうか?』と思ったことは大体当たっていたりする。だからこそ、この本能的に感じる嫌悪感に対し俺はこの上なく警戒していた。
もしかすると訪れてしまったのかも知れない。
戦いの幕開けが。
「……っ」
まだだ。まだ何も起こっていない。
そのはずなのに、俺の脈拍はどんどん上がっていく。
大丈夫、息は荒れていない。体の調子も問題ない。
ただテンションが上がっているだけだ。
いや──
「(高揚している……のか?)」
俺の身体は自然と高揚していたのだ。それは強者が新たな敵へと立ち向かう時に感じるそれ──―武者震いに近いのかもしれない。
そんな馬鹿な。俺は戦いを望んでいないはずだ。戦うことに喜びを見出してはいない。
そう自分に言い聞かせるが、胸の高まりは収まってくれない。そして同時に理解してしまった。
「(やっぱ俺、あの時……運命を選んでしまってたんだ……)」
そして訪れる。
新たな乱世が。
ギュイィィイィィィィィィィィィイイン
「っ!?」
ファスナーが開くような音が耳に届いた。遮蔽物に遮られているのだろうか、その音量は微かなものだった。しかし俺には分かる。今のは幻聴ではない。
「
また開いてしまった。ただ種を拡散するためだけに文明を滅ぼしてしまう「理由なき悪意」、その門が。
そこまで理解できれば後は早かった。俺は音が聞こえた方角めがけて全力で走りだす。
まだ……間に合うかもしれないっ!
結果的にいえばそれを──クラックを発見することはできた。マンションとその駐車場の間の一角、行き止まりで人目にはつかない空間にクラックは
様子を見る限り、“ヤツら”も出てきた様子はない。
──よかった……。
とはいえ、久しぶりにクラックを目の当たりにしたときは背筋が凍る思いだった。
そして同時に諦めもついた。ゴメン、ツバサ。俺、やっぱ戦いから逃げられないや。
しかしそんなことはどうでもいい。今問題なのは、クラックの前で起きている現状だ。
「……なあ、何してんの? お前」
「? はい? 何でしょう?」
「いや、『何でしょう?』じゃなくて! 何で
なんと、事もあろうに身を乗り出してクラックの中を覗いている女の子(年齢的に恐らく女子高生)がいたのだ。これには俺も本気で心臓が止まるかと思った。
「ほらっ、そこ危ないからっ。さっさと離れるっ!」
なんかプールの監視員みたいなこと言ってるよ俺。あれ? さっきまでのシリアスどこ行ったの?
まあ、そんな感じでこの灰色娘(髪の毛が灰色だからそう呼ぶ)をクラックから遠ざけることに成功する。そして第一に聞くべきことを確認しておく。
「なあ、まさか誰かこの中に入っていったりしてないよな?」
これが一番の重要事項だ。クラックの中、そこには地球上のどこにも存在しない植物の森が広がっている。正しく異空間、別世界の森だ。そして俺はこの森をこう呼んでいる。
『ヘルヘイムの森』と。
もし中へ足を踏み入れれば、危険な森の“住人達”が迷い人を容赦なく引き裂くだろう。住人達に出会わなかったとしても、その森の実を食せば最後、死よりも恐ろしい目にあうことになる。
まあ、要するにこの森に入り込んでしまえばば死んだも同然ということだ。出来れば否定の返事を願うが……。
「誰も入ってませんよ。これを見つけたのは私が最初ですし」
「そっか、よかった……」
本当によかった。時間的に見積もっても彼女より先に来た人間がいるとは考えづらい。彼女の言う通り誰もクラックを通過していないのだろう。
「あ、あの……!」
「どした?」
「この裂け目のこと、何か知ってるんですよね?」
急に灰色娘が聞いてきたと思えばこの質問だった。そりゃそうだろう、こんな不思議現象見たら。それも明らかに事情知ってそうな奴がいれば聞きたくなるのは当たり前のことだ。
ま、こんなエグイこと教えるわけにはいかないけどさ。
「知ってる。でも教えない」
「お願いします! 教えてください! 知っているんですよね!? あの怪物のこと! あの……オレンジの鎧の人のこと!!」
「いや無理……っ!? うぇっ、ぅえ……エエッ!?」
必死に頭を下げて懇願してくる灰色娘……っていや!? ちょいちょいちょいちょい! なんで知ってんの!? 何で!?
何で
……いや、落ち着け俺。冷静に……そう…………よし落ち着いた。
「ふぅ……ちょっと待って。怪物、見たのか?」
「はい。でも今日じゃなくて、半年──」
彼女の言葉は最後まで続かなかった。何故なら──
「キシュァァァァァァァァア!」
「ひっ!?」
「インベス……」
クラックという異界の門を通り、ついにこの世界に現れてしまったヘルヘイムの森の住人──インベス。全身が鈍い白色に包まれ、頭部が繭のように厚く盛り上がっている。更にその手には鋭い爪が備えられている。こいつはまだ実を摂取して成長しきっていない、初級インベスと呼ばれる個体だ。
正直、俺個人としてはこんな奴相手ならそこまで脅威じゃない。だが普通の人間にとってはそうでないだろう。
「ぅ……ぁ……あぅ……」
灰色娘は思わず腰を抜かして尻もちをついてしまっていた。無理もないだろう。何せ相手はこの世の常識を超えた存在。それが獰猛な野獣ならなおさらだ。こうなっては彼女が一人で逃げるのは不可能。俺が彼女を抱えてこの場を離れる隙にインベスが移動してしまっては非常に厄介。
となるとこの場で俺がとる行動はただ一つ……非常に不本意だけど。
「おい、灰色娘」
「は、はひぃ……そ、それってことりのことですかぁ……?」
そうだ。てかお前『ことり』って名前なのか。なんだか今震えている絵とマッチしてて可愛いな。なんて、そんなSなこと考えてる場合じゃない。
俺は懐へと手を伸ばし、“それら”を手に掴む。
「これから見ることは他言無用だ。ま、言ったところで無駄だけどな」
そして右手にオレンジロックシードを、左手に戦極ドライバーを持ち、顔の横まで掲げる。
また、この時が来てしまった。
戦いの中へと身を投じる時が。
だけど、覚悟は出来ている。
後ろで怯えている少女を救うためなら、そんなもの屁でもない。
そして左手の戦極ドライバーを腰に当てる。ドライバーから俺の腰回りにかけて、フォールディングバンドが伸縮して巻かれる。
「……大丈夫。絶対に助けるから」
後ろの少女に向けて笑顔を作って振り返り、心配をかけないように優しく語り掛ける。
心なしか、少女の目に少し光が見えた気がした。
……っしゃあ!やるぞぉ!!
右手のロックシードを顔の左側まで持っていき、ロックシードを解錠するスイッチ──―アンロックリリーサーに指を掛ける。
そして、一心にその“言葉”を叫んだ。
「変身!」
『オレンジ!』
キュッィィィイィィィィイイン
「え、あっ……ええっ!? オレンジ!?」
ロックシードのハンガーが開くと共に錠前のエネルギーが放出され、それが周囲の時空間に干渉することでクラックが生成される。そして俺の真上に出現したクラックから、オレンジ色の丸い球体が下りてくる。
というより、灰色娘が言うようにその見た目は完全にオレンジの果実だった。
──んじゃあ、少しかっこつけましょうか……。
両腕を軽く左に振りかぶり、すぐに身体ごと右へと振りかぶる。
そして右手のロックシードを天高く掲げた。
手首をひねってロックシードを持ち替え、ドライバーの溝──ドライブベイへとセッティングする。
そして仕上げに左拳で思い切りハンガ──―スライドシャックルを押し、ドライバーにロックシードを施錠した。
『ロックオン!』
それと同時に法螺貝の音が響き渡る。そこから続くアップテンポのミュージック。法螺貝とのミックスが効いていて和ロックの面影を感じさせ、どこか心地よい。
そして俺は戦極ドライバーに備え付けられた小刀──カッティングブレードに手をやる。
そして俺は……ブレードを下した。
『ソイヤ!』
ロックシードが切り開かれるとともに、頭上からオレンジが俺のもとへと降ってくる。
オレンジが俺の頭を包み込んだ瞬間、俺の身体に紺碧のパワードスーツ──ライドウェアが展開される。腕や脚に刻まれた金色の鳥の翼の模様が、その戦士が飛躍していく様を暗示しているようだ。
そして俺の頭部に、伊達政宗のごとく三日月の兜飾が付いた仮面──ダイカブトが装着されたその時、頭部を包み込んでいたオレンジが展開を始める。
展開されたオレンジはまるで戦国武将の鎧のごとく、俺の身体を守る橙の鎧へと変化した。
『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』
今ここに一人の戦士が復活した。
彼の名はアーマードライダー……否──
「──俺は、仮面ライダー……
数多の世界における
仮面ライダー鎧武。
今、彼の新たな戦いが幕を開けた。
「ここからは、俺のステージだ!」
やっぱ鎧武かっこいいわ。
それと今回、某破壊者の名前が出てきましたが、果たして彼の登場は……?
今後もご期待ください。