今年も頑張って執筆を続けていきたいと思います。
それでは今回もどうぞ。
「なる程な。誰がリーダーに相応しいか、か」
現在、俺はドルーパーズの客席にてことりと談話をしていた。別にサボっているわけではない。今日もザックが夕方からシフトを入れていたので、先程彼と交代して仕事を上がったところなのだ。だがそれにしてもだ。俺が周りを見渡すと、そこらにμ'sメンバーが勢揃いしているのが目に入る。つい先ほどの事だが、やっとザックが来たと思えばその後ろから見覚えのある顔がゾロゾロと入ってきたのだ。いやぁ、流石にアレはビビったね。少し嬉しかったけど。
それで話を聞くところによると、なんでもつい先程まで『誰がμ'sのリーダーに相応しいか』の勝負をしていたらしい。以前ことりにも話したが、俺個人の意見としては穂乃果一択のまま変わらない。しかし皆が皆、穂乃果の魅力を理解しているわけではない。因みにこの勝負の発案者はニコらしいが……結局いつかは行き当たる課題であっただろうし、今回の件は丁度良かったと見るべきだろう。この一件を通して皆がお互いの本質を知れればいいのだが。
ただ、こうしてμ's全員が店に来てくれるのは初めてのことだし、勝負後でも彼女達が仲良く来店してきたことに俺自身嬉しく感じていた。
「はい。でも結局それぞれの結果を平均したら皆同じくらいの実力でしたけどね。あ、これ点数表です」
「サンキュ……ほおほお、なるほどなるほど」
ことりから受け取った点数表をまじまじと見つめながら、俺は各人に対する評価を上書きしていく。
まず歌唱力。真姫が上手いのは知っていたが、海未ちゃんもそれに全然負けていない。以前見たステージではそんな印象が無かったため少し意外だったが、あの時は躍りながらでの歌唱であったから突出して良く聞こえなかったのだろう、と自分に言い聞かせる。
「海未ちゃんも結構歌上手いんだな。え、どんなジャンル歌うの?」
「あ、ありがとうございます。えっと、私は父の影響で昔から演歌を多く歌っていたりしていました。それで今日も演歌を歌わせてもらいました」
「あぁ~演歌かぁ。俺は時代劇とか好きだからその主題歌の演歌は歌うけど、それでも海未ちゃんみたいに精密採点で90点代はなかなか出ないなぁ。演歌は特に技術が必要なジャンルだからね。うん、凄いよ海未ちゃん」
「ありがとうございます」
どこか恥ずかしそうに照れ臭がりながらも可愛い笑顔を海未ちゃんは返してくれた。
「へぇー、鉱芽さんって時代劇好きなんですね。初めて知りました。っていうよりカラオケも行くんですね」
穂乃果から何やら失礼な言葉が飛んでくるが、ここで一つ言っておく。俺だってカラオケは行くんだよ! クラックが開く前までは息抜きがてらによく利用したし、ことりと出会う前の二ヶ月間でも歌う余裕くらいはあった。流石にクラックが開いている期間はカラオケ含めたあらゆる娯楽とも距離を置いているけどな。
「まあ、そう言うこと。そんでダンス勝負は……凛ちゃん強いなぁ」
「なんか適当にやったらできちゃったにゃ~」
「それはそれで凄いな……」
確かに凛ちゃんはμ's内でトップクラスの身体能力を持つ。体力も多いため、過酷なアイドルの舞台の上でも枯れることなく舞い続けられる。これは相当な強みだ。そういえばこの間も連続バック転を決めていたなぁ……。
今度一緒に躍ってみようかな。というより踊りたい。凛ちゃん、ヒップホップとか合いそうだし。うん、いいね。
「ふぅ……それで最後のビラ配りがことりの圧勝、と」
「はいっ」
思考を戻して次の話題へと移る。俺がビラ配りの結果を確認すると、ことりは若干頬を赤らめながら屈託ない笑顔をこちらに向けてきた。それは嬉しさからだろうか?そんなことりに対して俺はただ一言「よかったな」と言葉を添えて笑顔を返す。するとことりはあからさまに眉を顰めて不満そうな表情を作った。
「むぅ~、もっと他に感想とか無いんですか? 『驚いたぁ』とか『意外だなぁ』とか」
「あ~、いや悪い。海未ちゃんを除いたらさ、その他は予想通りの事ばかりだったから。ことりも含めてな。だから特に驚くことは無かったかな」
「予想通り……? 私も?」
「うん。だってことりってこの中じゃ一番他人との関わり方とか分かってそうだし、何より凄く癒される」
「い、癒され……っ」
俺からの賛辞に顔を赤らめてその場で縮こまることり。そう言うところが癒されるんだよ。俺が言った事はただの個人的な分析だが、それでもことりは人との関わり方とか上手だと思うし、しっかりしている節はある。たまに天然が入ってくるけど……。しかし、やはり何かバイトでもやっていたりするのだろうか?結果を見るに二位と大きく差を付けてビラ配りを終えている。人との関わり方なら海未ちゃんだってしっかりしているはず。それに穂乃果も意外と社交性はある方だ。だのにこの結果……持ち前の雰囲気以上の何かが作用していると考えてもよさそうだ。やはり俺みたいに接客業でもやっていたのか? ま、それはまた今度聞けばいい事か。
「じゃあ、俺も何か頼もうかな」
たまにはこうしてμ'sのみんなと食べるのも悪くないかな。
──────────────────―
窓の外が夕日に照らされ赤くなり始めた頃、俺はというとドルーパーズの厨房にて皿洗いをしていた。七人も一気に店に入ってきたというのに俺だけが抜けるのもどうかと思い、今こうして皿洗いだけでも手伝っているところだ。といっても、もう終わるところなのだが。
先ほどまで残っていた食器(殆ど俺達のものだったが)を全部処理して厨房を出ようとすると、厨房の入り口にポツンと穂乃果が一人立っているのが見えた。
「ん? 穂乃果?」
「鉱芽さん……」
しかしどうにも様子がおかしい。いつもの穂乃果は身体中から謎のポジティブオーラを発しまくりで、語尾に常に「!」でも付きそうな勢いの元気っ子のはずだが、今俺が目の前にしている少女からはそんな雰囲気が一切感じられなかった。本当に同じ子なのか? そんな普段の彼女とのあまりのギャップに思わず戸惑ってしまう。
「……どうした? さっきまでと別人みたいだぞ?」
「うん。ちょっと悩み事があって……」
「わお、ビックリ。あの進行方向前進一択停止無しの穂乃果に止まって悩む事があるなんて」
「そ、その言い方はあんまりだよぉ……。私だって悩む時くらいありますよ」
「ハハハッ、
冗談もさて置き俺は穂乃果の悩み相談に乗ることにする。何だかんだ言っても穂乃果だってまだ16歳。色々と悩んでいる方が普通だ。寧ろ学生の間は精一杯悩むべきだろう。そしてそんな穂乃果の悩みとは……。
「えっと……μ'sのリーダーを決めるって話なんですけど……」
「ん? でもお前確か……」
俺は先程皆から聞いた話を思いだす。確か元々μ'sのリーダーとして活動していた穂乃果自身は、特に今の自分の立場(リーダーの座)が変わられてもいいと言っていたらしい。だったら今更リーダーについて未練なんてあるようには思えないが……。
「あ、違うんです。別に今更リーダーになりたいとかそう言う訳じゃないんです」
「ふぅむ、そうか……なぁ、一旦場所変えるか?ここじゃ話しにくいだろ」
「はい、お願いします」
厨房で話していたら誰に聞かれるか分かったもんじゃない。とりあえず俺達はスタッフの控え室へ移動してから会話を続けることにした。そこで互いに椅子に座って向き合う形になる。
「んじゃ、続きからどうぞ」
「……自信が無くなっちゃったんです。自分自身に」
それもまた意外な言葉だった。少なくとも俺が思っている高坂穂乃果という人物は、一度やると決めたら最後までとことんやりきる、とても意志の強い子という印象を持っていた。だからこんな風に自信が無いと言う彼女には衝撃を受けてしまった。
かと言ってそのままにしておく訳にもいかないだろう。だが俺はしばらく聞き手に撤することにした。
「私が今までリーダーをやっていたのって、私がμ'sの発案者だからってだけで特に理由なんてなかったんです」
「……」
「なのに結局は考えなしで行き当たりばったりで、今までもことりちゃんや海未ちゃんを困らせて……それでリーダーって立場にいたのがちょっと情けないかな、って今日の事で思っちゃって……」
「……」
「挙げ句にはさっきなんて、『誰がリーダーでもいい』なんて無責任なこと考えちゃってた……」
「……」
「私の行動って一体何なんだろうって思っちゃって……同時に『リーダー』っていうのが何なのかも分かんなくなっちゃって……それでいろいろ自信が無くなってきて……。ねぇ鉱芽さん、やっぱり私って……弱い……ですか?」
「お前……──」
「……」
互いの間に流れる長い沈黙。そして──―
「──そんな風に考えられたんだなぁ……」
「ぅがぁ?」
俺の一言で穂乃果は思いっきり椅子からズッコケてしまった。そして立ち上がるや否や先ほどまでの弱弱しい姿は一転、すごい勢いでこちらに迫り、俺の両肩を持って身体を前後に思い切り揺らしてきた。
「酷いですよぉ! こっちは真剣に悩んでいるのに~!」
「いや~ゴメンゴメン。でもなんかおかしくてな」グラグラ
「何がですかぁ~!?」
「それよりまず揺さぶるのやめてくれ。いい加減気持ち悪くなってきた」グラグラ
ま、嘘だけどな。口ではああ言ったが、穂乃果は割と周りを見る目がある子だ。それが今回は自分を見るようになっただけで何も不思議な事は無いと思う。とりあえず穂乃果のゆさぶり攻撃から解放された俺は、再度椅子に座りなおした穂乃果と向き合う。穂乃果が先ほどまでの真剣な表情に戻るのを見てから俺は言葉を発した。
「話してくれてありがとな。けどはっきり言って、今更過ぎる」
「い、今更……」
「そう、今更。穂乃果は今日、自分自身を再認識しただけ。それにな、お前が悩んでいるっていう部分はお前の長所だぞ」
「えっ?」
長所? と目を丸くして小さく呟く穂乃果に、俺は薄く笑みを浮かべて言葉を続かせる。
「思い付きで何にでもチャレンジしようとする熱い心も、やると決めたら最後までやる気力も、周りを巻き込んで何でも始めてしまう行動力も、全部穂乃果の魅力だ。まるで恥ずかしがる点なんて無い」
「う、うん……」
「無責任だ? 考えなしだ? 俺はそうは思わんし、例えそうだとしてもそんなもん穂乃果の持ち前の明るさの前じゃあ全部霞んでしまう。そもそもお前の笑顔と行動力に皆動かされてきたんだ」
「え、ええと……?」
「それにだ。穂乃果はどんな壁にも怯まずに真っ直ぐに立ち向かっていける強かな精神を持っている。まさしくμ'sの原動力だ。そんな穂乃果には少なくともリーダーの素質はあると俺は──」
「ストップ! ストップ! ちょっと待って!」
俺が穂乃果の褒めれる個所を挙げていたところへ急に彼女から静止の声が届く。流石に言い過ぎたか?確かにこちらも少し熱くなりすぎたかもしれないが……。穂乃果を見るとその顔は少し熱を帯びたように赤く染まっていた。
「そ、そんなに急に沢山褒められるとちょっと恥ずかしいよ……ぁ、です」
完全に素が出てたのか、うっかり敬語を忘れて最後に小さく加える穂乃果。しかし緊張が解けているのかその頬は完全に緩んでいる。そしてその表情からも先程までの憂いは消え去っていた。
「そうか、そりゃスマンかった。けど少しは元気は出ただろ?」
「えっへへ……はい!」
俺の言葉に穂乃果はようやくいつもの明るい笑顔を見せてくれた。やはりと言うかこの子は、言い方は悪いが単純で立ち直りも早い子のようだ。だがそれも彼女の良さだ。それに自称「チャームポイントは笑顔」と言うだけあってその笑みはとても眩しい。ああ、よかった。これこそいつもの穂乃果だ。
「あと言っておくけど、お前は強い。覚えとけ」
「はい! ありがとうございます」
「おうっ」
穂乃果は自分は弱いんじゃないかと聞いてきた。しかしそんなことは絶対にない。穂乃果は強い。それは確かだ。音ノ木坂学院が廃校の危機に瀕した時も、A-RISEのダンスを見ただけでスクールアイドル結成の案を本気で実行した。殆ど失敗に終わった初ライブ後でも活動を続けるとハッキリと明言した。彼女の熱意がμ'sをここまで大きくした。それに俺のダンスを見た時だってそうだ。あの時も彼女は臆せずに俺に指導を依頼してきた。あの時見た彼女の眼は……そう、ツバサと同じ眼。やると決めたら必ずやり遂げるという眼差し。そして俺が考える強者の眼差し──誰かを励まし勇気を与える力──それを俺は垣間見た。
だからこそ思う。彼女、高坂穂乃果こそ、μ'sのリーダーたる器だと。A-RISEの綺羅ツバサと対等の存在になれる人物だと。
「あっ! いい事考えた!」
「ほう? 聞いていいか?」
「はい! 次のPVをみんなで歌うんですっ。みんなが歌って、みんながセンター。みんなが主役のステージ!」
「お~ほほっ、それはそれは……」
本当、いつもいきなり思い浮かぶよなコイツは。皆が主役……かぁ……。
「いいな、それ」
「でしょう! ……あっ、すいません。さっきから生意気で……」
「アッハハ、前から何度も言ってるけどもういいってそんなの。穂乃果もタメ口で喋っていいよ。真姫に希、ニコもそうしてるし」
「そう、ですか……? ええと、じゃあ……ありがとう! 鉱芽さん!」
あ、流石に名前はさん付けなのね。けど穂乃果に今まで以上に親しく接してもらえるのは素直に嬉しい。
「最後にアドバイス。どこまでも曲げることなく、自分の信じた道を行け。ま、お前には釈迦に説法か」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ早速ソレ、皆に伝えにいこう」
以前真姫に送った言葉と同じだが、今度はカッコよく決まったかな?
とにかく穂乃果のお悩み相談はこれにて解決したわけだ。俺は椅子から立ち上がり、控室の扉へと歩いていく。だが穂乃果とすれ違う寸前に彼女から疑問の声が上がった。可愛らしく首をかしげ、キョトンとした顔でこちらを見上げてくる。
「ソレって何のこと?」
「もう忘れたんかい。次のPVの話だろ? 皆で歌って皆がセンター、皆が主役。お前が発案者だろ?」
そう言いながら俺は左手で穂乃果の頭を軽く撫でまわす。あくまでも軽く、髪のセットが崩れないように優しく。俺が手を放すまで終始なすがままにされていた穂乃果だが、俺の手が離れるとすぐにハッと我に返り、照れくさそうな笑みを浮かべて立ち上がった。
「うんっ」
それから俺が扉を開ける瞬間、後ろの方で穂乃果が小さく「今のちょっとよかったかも」と呟くのが聞こえてきたが……聞かなかったことにしてやろう。
──────────────────―
鉱芽が穂乃果先輩と共に控え室に入っていくのを横目に見ながら、私──西木野真姫は軽くため息を付く。けれど一々鉱芽が誰かと絡む度に反応するのも馬鹿らしい。これがことり先輩なら心配の一つでもしたかも知れないけど、穂乃果先輩だし、まあいいか、と意識を目の前のアイスクリームに戻す。
それにしても、あんな覇気のない穂乃果先輩なんて初めて見た。部室での会合の時も何時もと変わらない表情で臨んでいて、リーダーが変わるかも知れないって時も特に気にしたような素振りは見せなかった。そんな彼女にも思うことがあるのだな、と一応は気になりつつも、鉱芽がいるんだし大丈夫だと自分に言い聞かせてアイスへとスプーンを伸ばす。
その時、店の扉が開き、ドルーパーズに新たな来店者が入ってくる。
「あら? 真姫ちゃんじゃない」
「えっ……?」
その聞き覚えのある声に思わずスプーンの持つ手を止めて振り向いてしまう。そこにいたのは──
「久しぶりね。元気してた?」
「綺羅、ツバサ……」
──―天下のA-RISEのリーダー、綺羅ツバサだった。
先に言っておきますが穂乃果ちゃんはまだオチてませんよ。
高感度が上がっただけですよ。
さて次回……どうなる!?