ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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そろそろ9人揃えないと……。

それでは今回もどうぞ。


第23話 ひび割れる仮面

「……おっ、出てる出てる」

 

「いいから早く見てみなさいよ」

 

 

 真姫にそう急かされて俺はマウスを操作し、パソコンのページを切り替える。そして画面に映るのは第一回「ラブライブ!」の公式サイト。そう、遂にラブライブ!の開催が正式に発表されたのだ。以前からツバサ等には企画として語られていたが、こうして全国的に発表されたのは今日が初めてだ。ラブライブ!──それは全国のスクールアイドル達が集まって行われる、いわばスクールアイドルの祭典。また、スクールアイドルの甲子園とも言えるべく大題的に行われる大会だ。

 そしてもちろん、我らがμ'sもこのラブライブ!への出場への決意を固めたようだ。だがラブライブ!出場の条件は、公式サイトに乗せられているスクールアイドルランキングの上位20組に限られているという話なのだが……。

 

 

「おっ、結構……ってか滅茶苦茶順位あがってんじゃん」

 

 

 最後にサイトを見た時と比べて彼女たちの順位が大きく、というより桁違いのレベルまでの躍進を見せていた。うん、これならいけるかもしれない。μ'sのラブライブ!出場──ツバサ達A-RISEが待ち受ける更なる高みのステージへと。

 

 

「この間アップしたPVが効いたみたいね。鉱芽はもう見てくれた?」

 

「あぁ~、ゴメンまだだ。今見る」

 

 

 それともう一つ。つい先日μ'sの新曲PVが完成したようなのだ。その連絡を俺は昨日受けたはずなのだが、いろいろ事情が重なってじっくりできなかった(主にクラックの所為だけど)。だから今、初めてこの目で見る事になる。更に言えば実は俺、曲やPV作りにはあんまり関わってないため、全くの新鮮な気持ちで視聴できるというわけだ。

 

 

「では……じっくり拝見させていただきます」

 

 

 

『これからのSomeday』

 

 

 

 そして再生ボタンをクリックして始まるμ'sの新曲。

 明るい雰囲気の曲調が聴く者の心を湧き上がらせ、それでいてどこか安心させる優しい旋律が特徴的だ。そしてこれまた特徴的な歌詞。「なんとかなる」に続いて「楽しみはこれから」等、ひたすら前向きに、ポジティブな内容だ。けどアイドルである彼女達が歌うそれが、人の心に希望を振りまいてくれる。楽観的にさせてくれる。それは俺自身もだ。本当にいつの日か戦いが終わるんじゃないか、楽しい日々がやってくるんじゃないか、そんな気にさせてくれる。

 

 そしてそんな楽しい気分にさせてくれるPVを提供してくれたのが他でもないμ'sだ。きっと彼女たちは指導者の俺に感謝するだろうが、むしろこっちが彼女達に感謝したい心境だ。こんなにひたむきに楽しくアイドルを──自分のやりたいことを頑張れる彼女達がとても眩しく、魅力的に感じてしまう。そんな彼女達の傍に居れる自分はきっと幸せ者なのだろう。

 

 

 だが、そのPVも遂に終わりを迎えてしまう。けど気分は清々しいものだった。ああ、楽しかった。

 

 

「……真姫、よ──」

 

 

 動画が完全に終了したので、俺は真姫に称賛の言葉を送ろうとするが、そこで動画の方に変化が起こった。画面のサイズが小さくなったかと思うと、また別の画面が現れ、そこに一人の男の映像が映った。頭にゴーグルやバンダナを巻き、ヘッドフォンを首からぶら下げている少々色黒の中年の男性だ。その容姿はいかにも「DJ」といった容姿をしている。

 

 ──すると、アレか。これがツバサの言っていた「DJサガラ」とか言う奴か。

 

 そんな俺の解析を他所に、そのDJは喋りだした。

 

 

『イエェーイ! 中々いい盛り上がりを見せてくれたぜぇい! μ'sのみんなァ! 君達のっ、熱意がぁ、こっちまでッ伝わってくるッ、よう、ッだぜぇー!』

 

 

「……なんだ? これ?」

 

「分かんない。ただ、ちょくちょく他のアイドルの動向とかも解説してるようなのよ。このDJ」

 

「へぇ~……」

 

 

『さぁ~て! 今回のμ'sの新曲「これからのsomeday」だがぁ~、これまた人気が鰻登りだぁっ! そして今やぁ、μ'sの人気は正しく~っ、破竹の勢いっ! さぁ~! 彼女達のこの快進撃はっ、誰っ、にもっ、止められっないのかぁっ!』

 

 

 ホント、好き勝手言ってくれるなこのDJ。

 

 

『彼女達の今後の活躍もぉ~、チェケラッ!』

 

 

「……テンション高いな、この人」

 

 

 とりあえず、そんな感想しか出てこなかった。本当に何者なんだあの男。ツバサが不安になる気持ちも分からんでもないな。まあいい。あの男の事は放っておいてだな……。

 

 

「新曲、とってもよかったよ真姫」

 

「……ありがと」

 

 

 恥ずかしさからか、少し顔を背けながら横髪を弄りだす真姫。相変わらず可愛い仕草だが、それをこの()()でされると威力倍増なんだわ、マジで。今現在、俺と真姫の距離はほんの身体同士が付くか付かないかレベルまで近づいている。まあ、さっきまで同じパソコンで動画を見ていたらわけだから自然とそうなるのも仕方ないのだが……。

 

 

「とりあえず少し離れようか」

 

「むぅ……分かったわ」

 

 

 頬を膨れさせながら真姫は渋々了承してくれた。

 因みに今の真姫の格好は制服。つまり今は放課後だ。ドルーパーズの方はもう完全にザックが平日夕方担当になってしまっているが……まあ、いっか。アイツにも事情はあるだろうしな(どうせ金問題だろうけど)。

 

 

「で、さっきの話の続きだ」

 

「そうね。鉱芽……──」

 

 

 そう、先程のPVは都合上視聴しただけで、話自体はまだ途中なのだ。その本題なのだが……。

 

 

「──……勉強、見てくれるかしら?」

 

「……」

 

 

 話を今一度まとめるとこうだ。

 スクールアイドルランキングも急上昇し、ラブライブ!出場も夢ではなくなっていた。その為に学校の許可を得てラブライブ!出場の申請を受けたい、という話だったのだが、以前から何度も聞いている通り、彼女たちμ'sは音ノ木坂学院の生徒会長から目の敵にされている。どうせ生徒会長を通じて話をしたとしても認められずに却下されると踏んだ彼女たちは、なんと直接理事長に申請の許可を取りにいったのだ。本当、スゴイ行動力だな。しかもこれを提案したのは真姫だそうだ。てっきり穂乃果だと思ったんだがな……。

 そして一応は理事長の許可を貰うことは出来た……が、問題はここからだった。

 

 もし次の定期試験で一人でも赤点を取るようなことがあれば、出場の許可をもらえないのだ。

 

 学生の本分は勉強。それは正しいことだし、俺もそこまで聞いて「まあ何とかなるだろ」と結構呑気していたわけだ。

 しかし事態は俺の思っていた以上に酷かったらしい。具体的には穂乃果、凛ちゃん、ニコの三人が……だが。

 

 

「そんなにヤバイのかあいつ等」

 

「ええ。今日も凛の勉強見てたけど、ちょっと危ないわね。多分ニコ先輩や穂乃果先輩も同じだと思うわ」

 

「……はぁ……マジかぁ……」

 

 

 そこまで聞いて項垂れてしまう。オイオイ……ここまで期待させておいてそれはないぞぉ~……。もういっそ「三馬鹿」って呼んでやろうかあいつ等。

 

 

「……」

 

「鉱芽」

 

「んん……」

 

 

 しばらく(こうべ)を下げて俺は黙り込む。このまま素直に応じていいのかとつい考え込んでしまう。けど、やっぱり見捨てるわけにはいかないよな。本当は少し……キツイけど。

 そして顔を上げた俺は真姫に了承の言葉を送った。

 

 

「……ふぅ、分かった。俺も勉強見るよ」

 

「ありがとう、鉱芽。ふふっ、流石、教師を目指──」

 

「真姫」

 

「──ごめん……」

 

 

 真姫が行き過ぎた事を言いかけたので思わず制止させてしまった。真姫は自分の口走ったワードが不味かったと申し訳なさそうに口を押えているが、いや、真姫は全然悪くない。悪いのはきっぱりと諦めたものに想いを馳せようとした自分なのに。

 

 

「いや、俺こそ悪い。つい、な」

 

「鉱芽……」

 

 

 しかし未だ真姫はどこか納得いかないような表情を浮かべ続ける。その表情は更に曇っていき、今や哀愁すら漂わせていた。

 

 

「確かに……無理なものは仕方ないかもしれないわ。でも……」

 

「?」

 

 

「なら、せめて何とかできるものは何とかしなさいよ。そうよ、“ミッチ”とだって……っ」

 

 

「……っ」

 

 

 ミッチ──その名前を聞いた時の俺の顔は、きっと顔面に強烈なパンチを食らったように痛々しいものになっていたことだろう。見る人によっては泣いていると思われるかもしれない。そしてその後に続くのは途方もなく重い感情──罪悪感。

 

 

「何か言いなさいよ」

 

「……ちょっと……無理、かな。アハハ……」

 

「……全く」

 

 

 正直、真姫の問いに笑顔を作れているか自身がない。辛うじて顔に浮かべるのは力ない笑みだ。そもそも俺には、どうしてもソイツに──ミッチに会わせる顔が無いんだ。俺はそのミッチという人物に対して、一つ大きな()を犯してしまった。その罪故に、俺はミッチに対して引け目を感じており、極力彼に会おうとしてこなかった。そしてそんな状況がもう一年も続いている。

 

 

「ミッチだって、鉱芽が避けているのずっと気にしてるわよ。それに、板東さんもザックも、チームのみんなだって心配してくれてるのよ。いい加減向き合ったらどうなの?」

 

「……」

 

 

 いつになく容赦なく俺の傷口を抉っていく真姫。分かってる、真姫だって傷つけるためにこんな事を言ってるわけじゃない。いつまでたってもうじうじしている俺に前に進んでもらいたいからだ。

 それに真姫の言葉が正しければ、ミッチだって俺に対して何も感じていないみたいなのだが……そりゃあ、感じているはずがない。

 

 だって()()()()()のだから。

 

 ミッチは俺が何を犯したのか知らないのだから……。

 

 

「……ま、無理にとは言わないけど……ごめん……変に問い詰めちゃって」

 

「……いいや」

 

 

 真姫に返す声もどこか力ない。正直、自分でも驚いているのだ。こんなにも俺はミッチの話題について弱弱しくなるのかと。彼に対してとことん引け目を感じてしまうのかと。

 

 

「ううん、私だって何があったか知ってるのに……。ちょっと辛く言いすぎたわ」

 

「もういいって。ありがとな、心配してくれて」

 

 

 だが結局、今回の会話では何も進展はなかった。あ、勉強の件は決定したな確か。

 ふと時計を見るともう18時を過ぎていた。外がまだ橙に染まっているためまだ早いと思ったが、そう言えば今は夏だったな。日が沈むのが遅くなる時期だ。同様に時計を確認した真姫もやっと時間に気が付いたのか、床から立ちあがった。

 

 

「じゃあ、そろそろ私は帰るけど……送っていってくれるかしら?」

 

「おうっ、お安い御用だ」

 

「フフッ。じゃあ、お願いするわ」

 

 

 そして俺たちは葛木宅を出て、真姫の家までの道を歩きだした。歩いている間もμ'sの活動についてのあれこれを話し合っていたが、ふとそのμ'sを目の敵にしている生徒会長というのが気になってしまった。確か以前希が言ってたように彼女もまたいずれμ'sの一員になるであろう存在で、同時にヘルヘイムの因子を持つ可能性のある人物だ。そして他ならぬ希の親友でもある。そんな人物がどうして彼女たちの活動を妨害……というよりは抑制か? しているのかがどうも気になった。

 なのでしばらくはその生徒会長の話題が進行していった。

 

 

「全く、あの生徒会長にはほとほと困ったものよ」

 

「なるほどなぁ……ふ~む、一度会ってみてもいいかもなぁ……その生徒会長に──」

 

「それはダメッ!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 だが突然、真姫は大声を発しながら俺に食いついてきた。え? 何だ? 一体何がダメなんだ?

 

 

「鉱芽があの人に会うのはダメ! 絶対にっ!!」

 

「なあ、一体どうしたんだ……?」

 

 

 先程の俺の家での会話から一転、急に取り乱した真姫に俺は困惑してしまう。一体何が真姫をそこまで必死に追い立てるのかが俺には理解し兼ねなかった。

 

 

「いい? とにかくうちの学校の生徒会長には会わないこと! 分かった!?」

 

「お、おう……」

 

 

 真姫の気迫に圧倒されながらも渋々了承する。しかし、これは何かを隠していると見ていいのだろうか。そこまで必死になられると逆に気になってしまうというのが人間というやつだ。ふむ、真姫が何を隠しているのか知るためにも、密かに生徒会長がどんな奴か調べておこう。それに親友の希に聞けばすぐ会えると思うしな。

 

 なんて、真姫の忠告に対して特に危機感も覚えずに脳内で片づけていた時だった。

 

 

「……あら?」

 

 

 嵐というものは突然やってくることもある。

 

 

「……ぁ。生徒、会長……っ」

 

 

 人間模様なら尚更だ。

 

 

「……ぇ……っ(嘘……)」

 

 

 人の心的外傷(トラウマ)を抉る存在だって突然現れるものだ。

 

 

「……その人は?」

 

 

 今、俺たちの目の前に現れたのは二人の金髪の少女。背の高さや顔つきから姉妹だと考えられる。

 

 だがそんな事が問題なのではない。その姉だ。なにせ姉の方の顔が……顔が……っ──

 

 

「……(りょう)……ちゃん……?」

 

 

 ──俺の記憶の中の()()と瓜二つの容姿をしていた。

 

 

「……っぁ……ひぁ……っ」

 

 

 それは嘗ての親友で初恋の相手。

 

 もうこの世に存在しないはずの人間。

 

 そして今なお、俺の心を縛り続けている存在。

 

 

 それと全く同じ顔が目の前に現れた。

 

 それだけでも俺の心が乱れるには十分すぎた。

 

 

 

 ──嘘だ。何で彼女が。は。え。な、何で。何でだ。あれ。おかしい。そんな馬鹿な。亮ちゃん。え。何で。訳が分からない。誰だ。これは誰だ。え。生きてる。あ。いや違う。別人。あれ。分からない。亮ちゃん。あ。あれ。りょう。亮ちゃん。違う。じゃあこれは。あれ。いや。りょ。あ。あああ。あああああああああああ・・・。

 

 

「あの……人違いじゃないかしら?」

 

「…………」

 

「あの……?」

 

「鉱芽っ」

 

「……っ、あ、すィません。ぁ、まりにも知り合いっに、似てたのでつィ……」

 

 

 真姫に揺さぶられてなんとか意識を取り戻すが、頭が混乱していて相手の質問にまともに答えれているのか俺自身はっきりしていない。あれ? っていうか今俺、何を言ってるんだ? ちゃんと受け答えできてんのか? そんな事を考える事すらもはやできなくなっていた。

 

 

「……もしかして、アナタがウチの学校のスクールアイドルの指導をしてるって人?」

 

「そうっです。ってことは、貴女、が、音ノ木坂の生徒、会長……って事でッ……?」

 

 

 ダメだ、息が詰まりそうだっ。冷静になれ。冷静であれ。ちゃんと意識を保て。そう自分に言い聞かせることすら不自由になっている。もうヤバイ。頭の中がぐちゃぐちゃで何をどうしたらいいのか全く分からない。というより、何も考えたくない。

 

 

「そうだけど……ねぇ、なんだか調子が悪いみたいだけど──」

 

「あのっ!」

 

「──……何かしら?」

 

「この人、今体調悪いんです。私が無理言って外に出てきてもらって、それで──」

 

 

 真姫が何やら話しているがその内容すらはっきり聞き取れない。いや、声はしっかりと聞こえているはずだ。だけど脳が声を情報に変換してくれない。脳が働く事を拒否している。もう、俺の身体の方も限界だ。

 

 

「──だから、今日はこの辺で失礼します」

 

「え、えぇ……。それなら、お大事に……?」

 

 

 そして真姫は俺の身体を引っ張って歩きだす。普段ならそんな事なんてできないはずなのに、何故今の俺はこうも簡単に真姫に運ばれているのだろう。ああ、そうか。もうほとんど身体に力が入らなくなっているからだ……。

 

 

「鉱芽っ! しっかりして!」

 

「……っぁ」

 

 

 真姫の叫びすら、もはや何を言ってるのか分からない。いつしか俺は真姫に連れられてどこかの屋敷の中に上がり込んでいた。ああ、見た事ある、ここ。真姫の……家……だったか。けどもうダメだ。息が詰まりそう。眩暈がするし、吐き気も催してきた。身体全体もダルくなってくる。

 

 

 そんななけなし意識の中でも俺が微かに記憶していたのは、真姫に介抱されながらトイレで嘔吐したところでまでだった。

 その後は意識が暗転し、俺は深い闇の中へと落ちていった。




そろそろ9人揃えないと(ニッコリ)。

それではまた次回。
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