ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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以前活動報告にあげた「鉱芽のプロフィール」ですが、実は話が進むごとにちょくちょく更新しています。
読み進めていてふと気になった時などに是非覗いてみてください。

それでは今回もどうぞ。


第25話 面談と印象とレモン

 真姫の家で世話になり、すっかり調子も元通りになった翌日の放課後。俺はドルーパーズで作業をしながらとある人物を待っていた。

 

 

「よっ、鉱芽。お疲れ」

 

「ああ、お疲れさん。ザック、早速交代頼むわ」

 

「おうっ」

 

 

 そこへ丁度ドルーパーズのドアを開けて目当ての人物その一が入ってくる。夕方から俺と交代することになっているザックだ。言われてすぐさま控え室で用意を済ましてきたザックと仕事を交代し、俺は店のカウンター席へと腰を掛ける。

 

 

「なあ。確か今日ってアレだよな? μ'sの子らが通ってる高校の生徒会長が来るんだったよな?」

 

「そういう事」

 

 

 ザックが俺に尋ねてくる。そう、今日はこの後すぐ、希が音ノ木坂学院の生徒会長をここへ連れてくる算段になっている。無論、俺が彼女と話し合いをするためにだ。昨日は思わぬ展開でまともに会話が出来なかったが、今回はそうはいかない。心構えさえ出来ていればあんな醜態は晒さないだろう(というよりアレは個人的な初見殺しだと思うが)。

 何よりあいつ等(ミューズ)がちゃんと活動できるためにも、俺がしっかり話を付けなければいけない。それが、自分のやりたいことを真剣に頑張っている彼女達に対して今の俺が出来る事だ。

 

 

 そして希達を待ち続けて約10分が経っただろうか。ドルーパーズの入り口から見覚えのある顔が現れた。

 

 

「あ、いた。こんにちは鉱芽君。今日は練習無いと思ったらいきなり電話がきてビックリしたんよ」

 

「ああ。いきなりで悪いな、希。ありがとう……それで──」

 

 

 俺は希の後に続いて店内に入ってきた人物──生徒会長へと目を向ける。

 

 見るのは二度目だが……やはり似ている。

 

 だけどそれまでだ。彼女は本物じゃ……亮ちゃんじゃない。

 

 今こそそれをはっきりと理解出来たからこそ、俺は昨日とは違い冷静さを失うことはなかった。

 

 

「──昨日は失礼したね。生徒会長さん」

 

 

 そう目の前の生徒会長に告げる。彼女は俺を一瞥した後、希へと視線を移してげんなりした表情を浮かべた。

 

 

「はぁ……こういう事ね、希」

 

「まあ、いいやん。エリチ。この際やから、二人とも腹を割って話したらいいんと違う?」

 

 

 様子を見るに、どうやら希は俺の事を生徒会長に伝えていなかったようだ。まあ、いきなり「男と会って話せ」なんて言われたら普通は来ないだろうよ。尤も、俺がμ'sの指導者と分かっていたら最初から来てくれたかも知れないが。

 

 

「カウンターじゃ話しづらいだろうし、取り敢えず席を変えよう、な?」

 

「いいわ。私も貴方には言っておきたいこともありますし」

 

 

 おお、なかなか強気な生徒会長だことで。ま、人に言えた事じゃないがな。

 俺は生徒会長をドルーパーズの奥に位置する、比較的話のしやすい空間へと案内する。そして席に着く俺と生徒会長だったが、希は席には着こうとはせずにその傍で立っているだけだった。恐らく、俺達の会話に水を差さずに見守るスタンスを取るという事なのだろう。まあいいや。何にせよ始めさせてもらおう。

 

 

「まだちゃんと挨拶できてなかったよね。μ'sの指導をしている葛木鉱芽だ。よろしく」

 

絢瀬(あやせ) 絵里(えり)。音ノ木坂学院の生徒会長です。こちらこそよろしく」

 

 

 俺の挨拶に対してピクリとも笑わず淡々と応える絢瀬。仕方ないとはいえ、ここまで警戒されるのは少し残念に思う。

 

 

「さて、どこから話せばいいやら。とりあえず彼女達との馴れ初めからかな?」

 

 

 その言葉通り、俺は絢瀬にμ'sのメンバーとの関わりを話し始めた。流石にことりのように鎧武が関連している場合は脚色して答えざるを得ないが、それでも大した問題には繋がらないだろう。ボロだって出てないはずだし。

 更に俺は彼女達がいかに真剣にアイ活に励んでいるかを話した。だが、やはり口頭だとどうにも伝わりにくいのがなぁ……。それでもできる限りはあいつ等の活動内容を伝えたはずだ。

 

 

「──とまあ、こんなところかな。俺とμ'sの関係って」

 

「そうですか」

 

「そっ。……あいつ等は本気だ。やると決めたからには最後まで付き通す覚悟とそれを可能にする力を持ってる。俺はμ'sを信じてここまで付き合ってる」

 

「……」

 

「ま、初対面の俺に言われても納得できないか……(うぅわっ、本当に表情一つ変えないのなこの子)」

 

 

 俺が彼女達の話をしている間、絢瀬はうんともすんとも言わずにただ黙々と聞いているだけだった。その変わらない表情が彼女の気持ちを読み解くのを阻害する。

 彼女達の活動を聞いた絢瀬は何を思うのか。苛立ち? 憧憬? 憐れみ? 何れにせよ絢瀬が何かを話さない限りは糸口は見えてこない。だから今度は絢瀬の発言にしかと耳を傾けることにする。

 

 

「葛木さん。貴方には言っておきたい事があります」

 

「なんだ」

 

「これ以上あの子達に関わらないでください」

 

 

 話し出したかと思えばいきなりそんな事を言い出す絢瀬。理由はある程度は予想できるが、まあ今は彼女の話に集中するとしよう。

 

 

「音ノ木坂学院は深い歴史を持つ由緒正しき女子校。そんな学校の生徒が毎日どこの誰かも分からない男の人と会ってるなんて噂が広まれば、私達にも多大な迷惑が掛かります」

 

「……」

 

「私達生徒会は今、学校存続の為に力を注いでいます。そんな最中に音ノ木坂の悪評をたてられては堪りません。それこそ更に廃校に近づくことになります。……これ以上うちの評判が悪くなる前に速やかに手を引いてほしいんです」

 

「なるほど。確かにその通りだな」

 

 

 絢瀬の言い分は尤もだ。確かに彼女達はスクールアイドルである前に音ノ木坂学院という女子校の生徒。そして俺はただのパーラーの店員だ。そんな俺達がほとんど毎日会ってるという状況は世間的にはよろしくないことかもしれない。絢瀬の言う通り、あらぬ噂をたてられて更に学校の人気が減る可能性だってある。それじゃあ本末転倒だ。

 ただ、それは俺自身も以前から危惧していたこと。最悪手を引くことだって考えてたこともある。だが、俺だって穂乃果に共に歩むと宣言した以上、今更こんなところで降りるつもりはない。それに、例え俺が指導出来ない状況になったとしても彼女達は活動を続けるだろう。だからそうなった時の問題は──

 

 

「ええ、ですから──」

 

「それで俺が手を引いたとして、お前はあいつ等の活動を認めるのか?」

 

「それは……」

 

 

 ──問題はこの頭の固い生徒会長だ。絢瀬は俺の質問に言葉を詰まらせてしまう。それ見た事か。やはり彼女は簡単にμ'sを認めてくれる気はないようだ。そんなお堅い生徒会長に思わずため息がこぼれてしまう。

 

 

「はぁ……。なぁ絢瀬、なんで頑なに認めようとしないんだ?」

 

「もちろん学校と、あの子達のことを考えてこそです」

 

「へぇ、あいつ等のこともねぇ……」

 

「ええ、あの子達だって音ノ木坂の生徒ですから。私達の守るべき対象でもあります。それに学校の問題は私達生徒会が背負う問題。あの子達がやる事じゃない。彼女達にそんな義務は無いものっ。これは私がすべきこと、生徒会長としての使命だからっ」

 

「……」

 

 

 言葉が出れば出る程発言に熱を帯びてくる絢瀬。その表情にようやく焦りという感情が見えてくる。そして俺は彼女の言葉の中の「義務」「使命」という単語にどうしても引っかかってしまった。きっと希が言っていたように、今の絢瀬は義務や使命に囚われている。

 

 だが俺は、そんな絢瀬に昔の自分の姿を重ね合わせていた。かつて義務や使命に追われて本当の気持ちに気付けなかったあの頃の自分を。

 

『俺じゃなきゃ出来ないことがあるんです。俺の……使命がっ』

 

 そして同時に思いだされるのは嘗ておやっさんが俺に言い聞かせてくれた言葉……。

 

『義務や使命だけじゃ人は何にも達成できねぇぞ』

 

 そんな昔の事を思い返してしまい、ふと目を閉じてしまう。だがすぐに目を開けると、俺は絢瀬へと語り掛けた。

 

 

「義務や使命だけで何とかなる問題か?」

 

「どういう意味ですか……」

 

「お前も自分の気持ちってのがあるんだろ? だったらもっとさらけ出していこうぜ。そもそも、大体学校の事なんて本来生徒じゃなくて大人が対処すべき問題だろ。お前だって背負う必要ないのに」

 

 

 要はもう少し馬鹿になれ。もっと自分の気持ちを大事にしろ。そう伝えたかったのだが今回は言葉が悪かった。いや、本来ならこれでよかったのかもしれないが、彼女に対しては最悪の選択だったようだ。拳を握りしめ、眉間にしわを寄せてキツイ目線を俺に向けてくる。

 

 

「……貴方に、何が分かるんですか……っ!」

 

 

 遂に感情的な声を出す絢瀬。腹の底から静かに漏れてくる震えた声が、今の彼女のやりきれない感情を明確に表しているようだった。だが、少しやってしまったかもしれない。予想以上に彼女の心の根底に突き刺さってしまったようだ。

 

 

「絢瀬……」

 

「……ごめんなさい。……貴方も理事長と同じことを言うんですね」

 

 

 しかし、殊の外早く絢瀬は落ち着きを取り戻した。理事長……ことりの母親のことか?その人もまた絢瀬に学校の責務を背負わしたくないと思ったのだろうか。使命感に追われている絢瀬を何とかしたいと思ったのだろうか……。

 

 

「……別に使命感だけで動いているわけではないです。学校をどうにかしたいという想いは本物ですし」

 

「そうか……」

 

 

 ──だったら少しくらいμ'sを頼ってもいいのに。

 

 絢瀬の言葉に内心そう思うが言葉を飲み込む。今の彼女には恐らく何を言っても通じないだろう。一度彼女達のステージを目の当たりにした上でのこの態度だ。説得するのにはもう少し時間が必要になると思う。更に言うなら俺一人じゃ少し厳しいかもしれない。正直、予想以上だ。

 

 

「じゃあ──」

 

 

 情けないがこの堅物を落とすには俺一人では限界がある……と思う。となれば必要なのは彼女達μ'sだ。彼女達と直に関わりあえば──あいつ等の本気をこの生徒会長が感じてくれれば、少しは心を開いてくれるのではないか。そんな期待を抱いているからこそ、俺は絢瀬に()()提案を持ちかけようとしたのだが……。

 

 

『──ピピッ──ピピッ──』

 

 

「「っ!?」」

 

「?」

 

 

 無情にも俺の端末から流れてくる電子音──クラック出現の反応だ。

 

 はぁ……嘘だろ、こんな時に……。

 

 その電子音が何かを知っている俺と希はその表情を今まで以上に深刻なものに変えるが、絢瀬は何のことやらさっぱり分からず不可解な表情を浮かべている。

 

 

「……悪い。俺から呼び出しといてなんだけど抜けるわ。希、後頼む」

 

「うん。ええよ」

 

「え、ちょっと貴方……?」

 

「本当に悪い。ま、友人と二人ゆっくりしていってくれ。じゃあ、また」

 

 

 そう言い残して俺は急いでドルーパーズの外へと駆け出していき、サクラハリケーンを召喚してそれに跨る。絢瀬との話し合いが中途半端になってしまったのは心残りだが、今はそういってられない。目の前にある危険を取り除くことに集中しなければならない。

 すぐにヘルメットを被ってアクセルを回し、エンジンを吹かして街中をバイクで疾走し始める。

 

 

「変身!」

 

 

 はぁ……そういえば、結局見れなかったな。絢瀬の笑った顔……。

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

「なんなのよ一体。自分の都合くらい整理できないの?」

 

 

 葛木さんが突然店からいなくなった後、私はつい彼への不満の言葉を漏らしてしまう。私をここへ連れてきたのは希だけど、恐らくこの会談を仕組んだのはあの葛木さん。その当人が自分から勝手に消えてしまうのよ。不満に思うのも仕方ないわ。

 

 

「まあ、それ程大変なんやろな。それでも、そんな時間の合間を縫ってエリチに会おうと思った。それ程あの子達の事を大事に思ってるんと違うかな?」

 

「……そう、なのかもね」

 

 

 先程まで葛木さんが座っていた席に腰を下した希が私にそう言ってくるが、確かにそう思わないわけでもない。確か昨日だって、体調が優れないにも関わらず彼女達のために外出していたようだし。そう考えれば意外と誠実な人なのかもと思えてきた。

 

 でも……それでも……私は葛木鉱芽に対してあまりいい印象を抱くことは出来なかった。

 

 なんでも彼は進学した大学をたった四カ月で退学したらしい。理由は話さなかったけど、自分で選んだ道をすぐに切り捨てて、それで今やっているのはただのパーラーの店員じゃない。大学へ行ったのだって特に目標なんて無かった。だからすぐに止めてしまったんだと私は解釈してしまった。

 そんな身の上なのに、私にまるで説教でもするかのように語り掛けてくるものだから、それは悪印象も抱くというものよ。

 

 ──目的も無くただ今を生きている人。

 

 それが、私が葛木鉱芽という人物に対して抱いた印象だった。

 

 

「どうぞ」

 

 

 そんな思考に浸っていた時、ふと視界の外からパフェが二つ現れて目の前のテーブルに置かれた。その差出人を見ると、三十路は超えているだろうか、といった少し愛嬌のある男性が笑顔を振りまいていた。

 

 

「え? あの、これは……? というより貴方は?」

 

「ここのオーナーの板東です、へへっ。で、これはうちの試作品ね。折角だから食べてほしくてね。代金はいらないから大丈夫っ」

 

 

 どうやらこの店の店主だったみたい。もう中年に差し掛かっている年頃なのにその少年のように砕けた笑顔がとても印象的な板東さん。確証はないけど何だかとても「いい大人」って感じがする。何故か分からないけど。とりあえずサービスだからありがたく貰うことにした。パフェなんていつ以来かしら……。

 

 

「ありがとうございます。えっと、いただきます」

 

「いただきます」

 

 

 希と揃って手を合わせる。そしてパフェ特有の長いスプーンを手にし、その甘味を口の中へと運ぶ。……美味しいっ。フルーツとクリームが合わさったその程よい甘さにつられ、先程までの不機嫌が嘘のように飛んでいく感じがした。それによく見るとパフェなのにコップの淵に“レモン”の輪切りを挟ませていて、まるでレモネードのようだった。それがどことなく可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 

「おう、召し上がれ。……うん、さっきよりもいい顔するじゃねぇか。絶対そっちの方がいいって」

 

「えっ……そ、そうですか……」

 

「うん、ウチも笑ってるエリチが好きやで。最近、ずっとしかめっ面ばかりやったから」

 

「……そう、ゴメンね。希」

 

 

 板東さんに指摘されて、ようやく自分が笑顔を浮かべている事に気付いた私。そうね、確かに最近生徒会の仕事に打ち込み過ぎて、楽しいことなんて二の次に回していたし。そんな私の笑みにさえ希は嬉しく感じてくれる。私もそれがとても嬉しかった。

 

 

「そういう事。嬢ちゃんもあんまり詰め込み過ぎるなよ? お前さん、何だか昔の鉱芽見てるみたいでよぉ、危なっかしいんだわ」

 

 

 だけど再び板東さんの発した言葉に、私は思わず手を止めてしまう。鉱芽って……確か葛木さんの下の名前だったよね。今の私と昔の彼。そんな板東さんの言葉に一瞬興味を惹かれてしまった。

 

 

「昔の……葛木さん?」

 

「そういえば昔の鉱芽君って、どんな感じだったんですか?」

 

 

 興味があるのは私だけではなく希の同じだ。希は以前から葛木さんと知り合いだったようだけど、そこまで深く知っているわけじゃないのね。それを聞いて少し安心したような気はした。

 そして板東さんは特に次の言葉を溜めることもなくサラッと続けて述べた。

 

 

「そこの嬢ちゃんと同じさ。何やってたんだか知らないけどよ、自分のやる事を義務だの使命だのって、ガキみてぇな事抜かしてたんだわ」

 

 

 その言葉に私は胸の奥がチクリと痛むのを感じた。ガキみたい。遠まわしに板東さんにそう批判されたような気がして──自分の根底が揺らぐような気がしてしまった。

 

 

「ああ、別に嬢ちゃんがやってることを悪いって言ってる訳じゃないからな。お前さんだって学校が好きだから頑張ってるんだろ? 分かってるって」

 

「え、ええ……」

 

 

 板東さんはフォローしてくれるけど、それでもさっきまで使命だなんて口ずさんでしまっていた自分を思い出して、何とも言えない心境に陥ってしまう。学校が好きだから何とかしたい、それは確か。でも同時に、義務や使命という言葉を執拗に使っている自分がいることにも気付いてしまう。

 

 ……なんだろう……これ。私は一体何がしたいんだろう……。

 

 そんな今まで考えてこなかった事にまで思考が働いてしまう。

 でもダメだ。私は立ち止まってはいられない。

 だからそんな思考をすぐに切り離して、私はいつもの生徒会長に戻る。

 

 ──ええ、これでいいの。私は今まで通り学校のために動けばいいの。

 

 そう自分に言い聞かせて、私は再度目の前のパフェに意識を向ける。折角いただいたものね。食べなければ失礼よね。

 

 

「……どうだ? 美味いか?」

 

「ええ。それにとっても可愛らしいわ。このレモンとか」

 

「あ、それウチも思った」

 

 

 板東さんからの当たり前とも言える質問に私は嘘偽りない感想を述べる。レモンに関しては希も同じ感想だったみたいね。それはよかったわ。

 だけどそんな感想を聞き出しておいて、板東さんは意外な事を言いだした。

 

 

「そりゃあよかった。実はこのパフェな、考えたの鉱芽なんだわ」

 

「えっ……?」

 

「ホントなんですか?」

 

「ああ、マジよ大マジ。鉱芽考案特製パフェってな。前にアイツが作ったのをそのままレシピにしてもらったんだ。アイツ本当に多才だからなぁ。こんなもんにも才能発揮しやがるんだわ。いやあ、参るねこりゃあ」

 

 

 と笑いながら説明してくれる板東さん。そして固まってしまう私。よりによって私が美味しいと、笑みを浮かべてしまったパフェが葛木さんのパフェだったなんて。ってことはこのレモンも……?

 

 

「そ、レモンパフェじゃないのにレモンの輪切り。それもアイツの拘り、というより遊び心だ。他のパフェとは違う……なんだ? チャームポイント? みたいなの付けたかった、ってよ」

 

「へぇ、そんなんや…………やって? エリチ」

 

「……何笑ってんのよ」

 

 

 こちらをニヤニヤしながら見つめてくる希に不愛想に答える。そんな目で見つめたってあの人の評価が変わるわけじゃない。

 

 

「……」

 

 

 パフェはまだ半分近くある。それを残すのはやはり悪いと思い、私は再び手を動かしてそれを口の中へと運び込む。

 

 

 ──うん、美味しい。

 

 

 だけど、そんな私の視界に入り込む彼の施したレモンが、私に対して得意気になっているように感じてしまう。それがまるで自分の存在をこれでもか主張しているみたいで、ついスクールアイドルをやっているあの子達の事まで思い出してしまう。

 

 

「可愛くないレモンね……」

 

 

 誰に聞こえることもなく小さく呟いたその言葉は、私の中に溶け込むこともなく静かに虚空へと消えていった。




もうしばらくの間、更新しづらい期間が続きます。
次話投稿も少し遅くなりそうですが、どうか楽しみに待っていてください。
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