ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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昨日のRの法則……えみつん、頑張ってたなぁ……。
とりあえず無事に終わってよかったです。

それでは今回もどうぞ。


第27話 見たいのは

 勉強会の翌日の朝、俺は一人神田明神を訪れていた。指導のためではない。そもそも現在はテスト期間中のために練習を控えている。だから今ここにμ'sのメンバーはいない。だがここには一人知り合いがいたはずだ。

 

 

「よっ。おはようさん、希」

 

「おはよう、鉱芽君」

 

 

 境内で掃き掃除をしている希に俺は声をかける。試験期間中にも関わらず、相変わらず朝からご苦労な事だ。

 

 

「どうしたん急に? うちに何か用?」

 

「まあ、そうなるかな。ちょいと確認したいことがあってな」

 

「確認したいこと?」

 

 

 希は首を傾げて訊ねてくるが、多分彼女は俺が何を聞こうとするのか分かっているのだろう。その眼には疑問の色が全く見えていなかった。きっとこうなる事も希の計算の内──というより占い通りなのかもしれないな。

 

 

「はぁ……絢瀬の過去の事だよ。全く、教えてくれてもよかったんじゃないの?」

 

 

 昨日、俺は海未ちゃんから絢瀬の過去を教えてもらった。と言っても、その情報事態が希伝手のものなんだけどな。

 

 絢瀬の過去と言っても、別に衝撃を受ける程のものでは無かった。ただ、子供の頃にバレエをやっていて、それが今のμ'sのレベルを遥かに超えていた。それだけの話だった。

 

 だが、その“それだけ”が海未ちゃんにとっては衝撃だった。彼女の踊る様はとても美しく、華やかで、そして人を惹きつける。そんな今の自分たちとはレベルの違う彼女の姿を見てしまったことに少なからずショックを受けてしまったようだ。俺も海未ちゃんに絢瀬の踊る姿を見せてもらったが、確かに綺麗で芯が通っていて、とても鮮麗されたものだと感じられた。俺もそれが魅力的に感じられたし、海未ちゃんがショックを受けるのも納得できた。

 

 きっと絢瀬がμ's、及びスクールアイドル全体のレベルが低いと認知してしまったのは、こういう過去と実力を持った故なのだろう。そこに関してはある程度納得するしかないか(ツバサが下に見られた事に関しては少々カチンときたけど)。

 

 だが、俺が真に釘付けになったのは彼女の技術にではない。踊っている時の、絢瀬が浮かべるキラキラした笑顔に俺は目を奪われてしまった。その時の彼女は本当に心から楽しんで踊っていた。それがひしひしと感じられてこちらまで心躍りそうだった。つい過去の、楽しんで踊っていた自分たちの事まで思い出される。それほどまでに彼女の笑顔が魅力的に感じられた。

 

 だからそれだけに、今の絢瀬の余裕のない表情が気になってしまう。

 

 そんなに自分を追いつめてまで彼女は学校を守りたいのか。本当は何かを我慢しているのではないのか。なんで辛そうな顔ばかり浮かべるのか。そういった思いが次々と溢れてくる。生徒会長という立場に囚われて本当の自分を隠している彼女が、やはり過去の自分と重なって見えてしまった。

 

 

「ごめんな……で、それを知ってどう思った? エリチの事」

 

 

 希の質問は、きっと踊りの感想の事を聞いているのではない。昔の絢瀬を知った上で今の彼女をどうしたいか、という事だろう。

 

 

「放っておけないと思った。絢瀬を」

 

「……」

 

 

 今の無理している絢瀬をどうにかしたい。そう感じたのは、過去の自分と似ている彼女を助けたいと思ったからだろうか。それとも、()()()の面影を持つ絢瀬を助けたいと思ったからだろうか。

 いや、違う。そんな深い理由じゃない。

 

 

「……やっぱりお節介やな、鉱芽君も」

 

「いや、お前程じゃねぇって」

 

 

 そう、結局はただのお節介。μ'sと敵対しているとは言え、彼女も学校を救おうとしている身だ。だが彼女はその過程で自分自身に仮面を付けて素顔を隠し、(おもり)を付けてその身を痛めつけてしまっている。その行動はいつか彼女自身を滅ぼしかねない。その前に彼女をどうにか助けてやりたいと思った。

 要は、単に世話を焼きたくなっただけである。そこに自分がどうこう思ったから、という気持ちは入ってなかった。だけど……。

 

 

「でも、敢えて自分本位の理由を付けるとしたら……」

 

「ん? 何々?」

 

「……絢瀬の──やっぱいいわ」

 

「もうっ、何なん? 気になるやん」

 

「なーいしょっ」

 

 

 自分から言いだしておいてなのだが、俺は途中で発言を取り消す。自分のための理由なんて別に人に言うべきことじゃない。希には悪いが、その気持ちは心の中に閉まっておくことにした。

 

 

「なぁ、教えてーな。なぁ」

 

「いーや、教えない」

 

「お願いっ」

 

「むーり」

 

「もう、ケチッ」

 

「なんとでも」

 

 

 真意を聞きだそうとする希とそれを頑なに拒み続ける俺。傍から見ればいちゃついているカップルに見えなくもないだろう。

 そんな風にじゃれ合っていた時だった。

 

 

「……何してるの希? それと……葛木さん」

 

「あ、おはようエリチ」

 

「よっ、絢瀬。おはよう」

 

「……おはようございます」

 

 

 例の絢瀬がこの場に現れた。多分希を迎えに来たんだろう。朝と言っても今はそんなに早い時間ではなく、そろそろ希も学校に行かなくてはならない頃だった。

 そして絢瀬だが、相変わらずツンとした表情で俺に挨拶してくる。う~ん、やっぱり踊ってる時の顔の方がいいよな。こうも俺に不愛想な顔を見せてくると少し悲しくなる。

 

 

「じゃあうちは着替えてくるから、少し待っといてな」

 

「あっ、ちょっと希……」

 

 

 そのままそそくさと絢瀬を置いていくようにその場を去ってしまう希。巫女姿から着替えるという名目だが、恐らく俺と絢瀬を一対一の状況に持ち込むのが本当の目的だろう。

 ならば、ありがたく活用させてもらいますか。

 

 

「この間は悪かったな。いきなり消えて」

 

「はい、本当にその通りです」

 

 

 予想以上に冷たいトーンで応える絢瀬。まるで心に鉄壁を張って、俺という存在を徹底的に阻害しようとしているようだ。この壁を壊すのは……少ししんどいかなぁ……あ、そうだ。

 

 

「おやっさん……板東さんから聞いたよ。俺のパフェ、割と好評だったって」

 

「作ったのは板東さんでしょ」

 

「最初に作ってレシピを編み出したのは俺だよ。だから俺のパフェ」

 

「じゃあ、そうなのね」

 

 

 冷めてる。本当にクールに流すよな、この女。パフェを食べた絢瀬が笑顔を見せた、とおやっさんから聞いたけど、やはり俺の前でそれを見せる気は無いらしい。表情一つ変えやしない。

 だったら少し本題に移させてもらおう。

 

 

「まあ、それよりアレだよ、アレ。レモン。あのレモンが可愛いって言ってくれたのはとりあえず嬉しかったよ。ありがとう」

 

 

 俺がちょっとしたチャームポイントで付けたレモンだが、どうやら彼女には受けたらしい。それはやはり嬉しかったし、何よりそれを見た絢瀬がそんな反応をしたという事が俺にとっては大きかった。

 

 

「……」

 

「ん? どした?」

 

「いえ、何でも無いです」

 

 

 そしてレモンの話題を出した途端、ほんのわずかだが絢瀬の表情が揺らぐのが見えた。すぐに言葉を発して元に戻るが、やはり何かしら感じてくれたようだ。レモン様様だな、本当。

 

 

「あ、そうだ。丁度よかった」

 

「?」

 

 

 それならば、と俺は手持ちの鞄からあるお菓子の入った袋を取り出す。元々別件で用意していたものだが、今は絢瀬にコレをやるのが得策だと判断した。()()()には悪いけど……花でも持っていくか。

 

 

「これさ、ちょっと作ってみたんだけど……食べてみてくんない?」

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 葛木さんから渡された袋を開けて中からソレを取り出す。

 

 

「レモン……?」

 

 

 それはレモンの輪切りがそのまま固まったような……ドライフルーツ?

 

 

「そっ。輪切りにしたレモンを砂糖で脱水させたドライフルーツ。ま、お菓子みたいなもんだと思っていいよ。出来るまでちょっと苦労したけど、何とか酸っぱさ控えめで甘々に仕上がったよ」

 

 

 葛木さんにそう促されるまま私は輪切りレモンを一枚手にとって、それをじっと見つめる。果たしてこのまま食べていいのかと少し迷いながら、レモンと葛木さんを交互に何度か見返す。

 

 一体何をやっているのだろう私は。希を迎えにきたはずなのに、いつの間にか葛木さんと会話する羽目になって、その上お菓子をいただくことになってるなんて……。どこか餌付けされているようでまるでいい気になれない。

 そもそも私は彼からこんなものを貰う義理なんてない。食べる義理なんてないはずよ。

 

 だけど……そんな気持ちとは裏腹にどうしてかこのレモンが少し魅力的に感じてしまう。

 

 本当にどうしてかは分からない。でも、もしかしたら、前のパフェと同じく……いや……

 

 

「可愛くないレモン……」

 

「まあそう言わずにさ」

 

「……ごめんなさい。聞こえてたのね」

 

「耳はいいもんでさ」

 

 

 小声で呟いたつもりだけど聞こえてしまったみたい。いくら相手が葛木さんとはいえ、そんな反応を返した事に少し罪悪感を抱き、仕方なくそのレモン菓子を口へと運ぶ。そして一口かじる。

 

 

「っ……」

 

 

 レモンなのにそれ程酸っぱくない。それで甘いっ。口の中に広がるそんな不思議な感覚に感動を覚え、僅かに欠けたレモンをまた一口かじる。

 

 

「……んっ」

 

 

 ──美味しい。

 

 ついそう感じてしまうぐらいには、このお菓子は私にとって好みの味だった。そして葛木さんの方を見たのだけど……。

 

 

「っ。な、何ですか、その顔は」

 

 

 葛木さんは何故か、とても嬉しそうに笑ってこちらを見つめていたの。

 

 子どものように目をキラキラと輝かせ、それが眩しく感じてしまうくらいに。

 

 

 ……意味が分からない。一体何がどうしたっていうの?

 

 

「いや、だってさ、今、笑ってくれたじゃん。それ食べて。それがすっげぇ嬉しくてさ……」

 

「っ!?」

 

 

 葛木さんの言葉に軽く衝撃を受ける。笑っていた? 私が? また彼の仕込んだレモンで……? だけど、本当に嬉しそうに目を輝かせて笑みを浮かべる葛木さんを見てると、本当にそうなんだと思わざるを得なくなる。

 

 でも、それ以前に気になったのは葛木さんの笑顔よ。どうしてそんなに嬉しそうな顔を浮かべるの? そんなに喜べることなの? いや、そもそもその笑顔がただ単に美味しそうな反応をしたからだとは思えない。

 

 

「初めて絢瀬の笑うところ見れたからさぁ、なんか感動したっていうか……」

 

「えっ……」

 

 

 だからそんな事を言う葛木さんに呆気にとられてしまった。私の笑った顔? それを見ただけって……。

 

 

「もうそれだけで嬉しいかな」

 

「本当に何なのよアナタって……」

 

 

 少し分からなくなってしまう。この葛木鉱芽という人間の事が。

 

 友達ならまだ分かる。希が私の笑顔を嬉しく思ってくれるのは知ってるし、それが普通だと思う。

 

 でも、友達でもなく、それどころか私に疎まれている彼が、私の笑顔でそこまで嬉しく笑えるなんて……。

 

 そういう人間を全く理解出来ないことはないけど、それをいざ目の前で見るとどう反応していいのか分からなくなる。

 

 でも一つ言えるのは、この人が私の表情一つで一喜一憂できる程、単純で純粋な人間だという事。

 

 それだけは分かった。分かってしまった。

 

 

「……っ」

 

 

 だから思わずその笑顔に少しだけど引き込まれたことに、自分自身驚いていた。この人には心開くまいとしていたはずの感情もいつの間にか消えかけているのに気が付き、慌ててさっきまでの固い表情に戻す。

 すると案の定、葛木さんは目をしょんぼりさせて残念そうな顔を見せる。……やめてよ、そんな顔。私、アナタに笑いかけたくなんてないのに……。そんな顔されたら……

 

 

「お待たせ」

 

「ぁ……遅いわよ希」

 

「ごめんごめん」

 

 

 そこでようやく制服姿の希が戻ってきてくれた。本当によかった。これでやっとこの状況から解放される。私は希の手を引いて、出来るだけ早足で境内から去ろうとする。

 

 

「じゃあね、鉱芽君。いってくるな。ほら、エリチも」

 

 

 急ぐがままについ挨拶を忘れてしまったけど、希に促されて葛木さんに振り返る。そしてレモン菓子の入った袋を葛木さんに見せつつ、彼に言葉を送った。

 

 

「ええ。あの、コレ、ありがとうございます。……では、また」

 

「はいよ、またな。いってらっしゃい」

 

 

 一応、お菓子のお礼は言えた……言えたけど、最後に「また」なんて言ってしまった。また会いましょう……社交辞令の意味もあるはずだけど、よりによって彼にそう言ってしまったことに私自身驚いていた。これじゃあまるで、また会えるのを期待してるみたいじゃない。ホンット、馬鹿な事を言ってしまったわ。

 

 

「あっ……」

 

「どうしたん? エリチ」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 

 そこでふと、この間板東さんが言っていたことを思い出す。昔の葛木さんが義務や使命に追われていたという話を。その時の彼が、今の私と似ているという話を。

 

 

「(そう言えば聞きそびれたわね……)」

 

 

 ──ちょっとガッカリしたけど今度会えた時に聞けばいいわ。

 

 そんな風に彼とまた話す機会が来ることを望んでいる自分に気が付き、酷く恥じらいを感じてしまう。しかし、それでもやはり思い出されてしまうのは──―

 

『笑ってくれたじゃん』

 

『それがすっげぇ嬉しくてさ』

 

『なんか感動したっていうか』

 

 

「……本っ当……」

 

 

 手に持った袋からまた一枚レモンを取り出す。

 

 

「可愛くないレモンね……」

 

 

 そう呟きながら、私はそのレモンを口に運んだ。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 神田明神から次の目的地へと向かう俺の足並みはとても軽かった。すごく気分がよかった。

 

 それもそうだろう。何せ俺が希に言いかけた、絢瀬を放っておけない事に対する自分本位の理由、それは「絢瀬の笑顔を見たいから」だ。

 

 かつて絢瀬が踊っていた時のように、自然に笑えるようになってほしい。今の渋面をどうにかして笑顔にしたかった。それが、単なるお節介以上に俺が絢瀬に感じた想いだ。

 

 だから絢瀬が笑顔を見せた時、とても嬉しくなった。ほんの一瞬だけの笑顔だったけど、それでも彼女が今も普通に笑う事ができると知れたのは大きな収穫だった。何せ、嫌っている俺の前でさえ笑ってくれたのだから。

 

 だからそんな絢瀬に、俺は一筋の光が見えた気がした。

 

 

「あっ……(そういやぁ、絢瀬からバレエの事聞きそびれたなぁ)」

 

 

 今更の事だが、それでもやはりあの時はこの話を出さないのが正解だったように思える。変に過去を聞きだして拗らせる必要もないだろう。だから──―

 

 ──次に会った時にでも聞けばいいか。

 

 簡単にそんな風に考えられるのも、先程の笑顔を見る事ができたからかもしれない。

 

 とりあえず今日の一件で、俺は絢瀬という人間を好意的に捉えることができた。それはきっと、今後にとって大きな意味を持つと思う。

 

 

 だが、俺はそこで絢瀬の件を一旦思考から外し、ふと歩みを止めて呟く。

 

 

「……ああ、そっか。レモン渡しちゃったんだっけか」

 

 

 現在、俺はとある場所へ向かおうとしているのだが、このままでは手ぶらで訪れる事になると今更ながら気付く。元々先程のレモンは()()()へのプレゼントのつもりだったが絢瀬に上げたために今はもう無い。

 ならば別のものを持って行くしかないわけだ。ま、即興ではあるが何とかなるだろう。

 

 

「(ほら、丁度いい店もあるし)」

 

 

 俺は交差点の向かい側にある一軒の花屋に視線を向ける。『フラワーショップゆうゆう』と看板に書かれたその店はシャッターが既に開いており、『営業中』の札も立てかけられている。ガラス製の扉のため、店のカウンターで俺と殆ど歳の変わらないであろう青年が何やら作業をしているのが見える。しかし早いな。まだ8時過ぎだと言うのにもう開店しているなんて。だが俺としてはありがたいので、その店に寄らせてもらうことにした。

 

 

「あの、すいませ──」

 

 

 道路を横切り、扉を開けて店に入ろうとしたその時だった。

 

 

「行ってきまーす! ってわぁ!?」

 

「──っ、よっと」

 

 

 店内から小学2、3年くらいのランドセルを背負った男の子が飛び出してきたのだ。俺に気付いた男の子は止まろうとしてバランスを崩すが、倒れる前に俺がその子を支えることで何とかミニ惨事を防ぐことができた。

 もちろん、それを見たカウンターの青年も急いでこちらへと駆け寄ってきた。

 

 

「っ、裕太(ゆうた)っ。あの、ごめんなさい。大丈夫ですかっ?」

 

「いえいえ、別にどうって事ないですよ」

 

「そうですか、よかった。ほら、裕太も」

 

「はい……ごめんなさい」

 

「いいっていいって、なっ」

 

 

 律儀に謝ってくれる少年をどうして怒る事ができようか。彼の目線に合わせるようにしゃがみ込み、笑顔を振りまいて安心させようとする。すると男の子の方もニッコリと笑顔を返してくれた。うん、よかった。やっぱ笑顔っていいよな、絢瀬に限らずとも。

 

 

「それより今から学校なんでしょ? 気を付けて行きなよ」

 

「うん、ありがとうお兄ちゃん。ユウゴ兄ちゃんも、いってきます」

 

「いってらっしゃい。気を付けて」

 

 

 店から出ていく少年に俺と青年は手を振り続ける。やはりこの二人は兄弟だったようだ。割と歳が離れているようだけど。

 

 

「可愛い弟さんですね。元気で律儀で」

 

「あははっ、ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですよ。僕があの子の親代わりでもあるもんですから」

 

「親代わり?」

 

 

 何やら訳ありな単語が出てしまったが、これ別に俺の所為じゃないよな? 親がいないとかそういう類の話なんだろうけど、青年の方も特に気にしている様子はないので恐らく割と昔の話なのだろう。

 

 

「はい……ってごめんなさい、急に変なこと言ってしまって。あの、気にしないでくださいね」

 

「いいですよ別に。それに、親がいないのは俺だって同じですし」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんです」

 

「クスッ」

 

 

 俺の少し間の抜けた返答をおかしく感じたのか、思わず吹き出してしまう青年。男なのにどこか可愛らしい挙動で、それだけでこの場の空気は和んでしまう。流石花屋の店員……いや、店長か。恐らくこの店も自営業なんだろう。まだ若いのに……スゴイなぁ……。

 

 

「なんだか気が合いそうですね。俺達」

 

「そうですね。なんだかそんな気がしますよ……あっ、それで今日はどうのようなご用件で?」

 

 

 おっと、そうだそうだ。俺は花屋に来たんだった。さっきまでの和やかな空気のせいでうっかり忘れてしまっていた。それに、多分この人忘れてたんじゃないかな? 俺が客って事。「あっ」て言ってたもんな、「あっ」って。

 

 俺も自分の目的を思い出し、それを店主である青年に告げた。

 

 

「ええ、花を見繕ってもらえませんか? お見舞い用の花を」




今回出てきた花屋のユウゴさんですが、ちょっとしたお遊びネタのつもりで付けた名前なので深く考えないでください。
(シンクロ次元のバナナとも関係ありませんからねっ!)

次回もこうご期待。
感想や評価もお待ちしております。
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