それでは今回もどうぞ。
「どうやった? エリチ」
「ええ、それなりに出来たと思うわ。希は?」
「まあまあやね。じゃ、行こっか」
「ええ」
希とそんな掛け合いをしながら、私たちは廊下を生徒会室向けて歩きだす。因みに今私が彼女と話していたのは、先程まで行っていた期末試験の話よ。本日は金曜日、期末試験最後の日。その様子を見る限り、お互い割とよくできたみたい。ま、そうでしょうね。私も希も勉強は出来る方で、二人共もこのままいけば指定校推薦でそのままいいとこの大学へ上がれるレベルよ。だから特に猛勉強なんて意識しなくてもいいし、廃校と言う問題さえなければ本当にこのまま楽しく高校生活を過ごせていたはずだった。
そう、廃校問題さえなければ。結局これが私の上にのしかかっているわけよ。
でも今はそれだけじゃない……。
「……」
「エリチ、そんなに難しい顔せんでも……」
「えっ……ああ、ゴメン」
最後に神社で葛木さんに会ってからもう一週間以上が経った。結局あの日以降、葛木さんと会うことなくそのまま期末試験も終わってしまった。けど別にそれならそれでいい。そうなれば後に私が考えるべきなのは、約二週間後に控えたオープンキャンパスでの説明会をどう進めるか。懸念すべきはそれだけ、その筈だった。
だけどそれとは別に、この胸に残る妙にモヤモヤした感情が気になって仕方がなかった。
一体何が私をこんなに悩ませるのだろう。何が私をここまでイライラさせるのだろう。
「あっ……」
「……」
その時、偶然廊下ですれ違った彼女たち──音ノ木坂学院のスクールアイドル達を見て思い出す。
「(ああ……やっぱり葛木さんなのね……)」
あの日、会話した時から妙に心残りだったその存在。きっと心のどこかで再び会える事を期待していたのだろう。それを認めるのが嫌で嫌で、ずっと思い出さないようにしていたけど……やはりここまでくると認めざるを得なくなってくる。私が今も、あのイライラの根源たる男と話をしたがっているのを。そしてその事実が、私の機嫌をさらに悪いものにしていく。
自覚はないけど、きっと今だって私はその表情をよりキツイものに変えているんでしょうね。私の目の前の彼女たちも、立ち止まって私の事を警戒する視線を送ってくる。けどそれは今までだって同じ。だって彼女たちにとっての私は言うなれば、自分たちダンスを認めない迷惑な存在だもの。それはその通りだし、私だってその認識を変えるつもりはない。
そんな中、私は彼女たちの外装を確認する。七人共揃って運動する身だしなみをしている事から、また今から練習を再開するのだろう。まだテストの点だって分かっていないのに、気の早い子たちだこと。
「今から練習? 頑張ってな」
「は、はいっ」
「……」
希は相変わらず彼女たちの肩を持とうとする。それが分からず余計に苛立つ。
「……では、私たちはこれで──」
だから、目の前から去ろうとしている彼女達に向けて思わず言い放った。
「貴女たちを指導してるっていう人──―葛木さんに会ったわ」
「「っ!?」」
「エリチ……?」
やはりというべきか何人は驚いた素振りを見せるけど、内二人はあからさまに動揺していたように見えた。南さんと、確か……西木野さん……だったっけ。希も希で怪訝な顔を浮かべながらこちらを見据えているけど、実際のところ、自分でも何故急にこんな事を口走ったのか分かっていなかった。でも、一度下り坂を走りだしたら止まる事ができないように、私も自分の言葉を止めることができなくなっていた。
「元々、噂にはなっていたのよ。貴方達を指導しているっていう男性の存在は。だからとても迷惑していたし、辞めてほしいとも思っていた」
「ど、どうしてですか」
「高坂さん。アナタ、自分が女子校生だという自覚ないの? 唯でさえ入学希望者が減っている現状で、ウチの生徒が素性不明の男性からダンスを教わっているなんて話が広まったら、ますます音ノ木坂の印象が悪くなるわ。それこそ、余計に入学希望者が減るかもしれない」
「ぅぅ……」
「だから貴女達がしている事は矛盾しているの。園田さん、貴女ならそのくらい分かると思っていたんだけど……」
「確かにそうですが……」
園田さんも私の言葉に同意を示しながらも、納得いかないといった表情で言葉を詰まらせる。ということは、やはり彼女も葛木さんを信用しているということなんだろう。いや、彼女だけじゃない。ここにいる皆が彼を、希でさえ、あの分からない人間に信頼感を寄せている。本当に何故なの? どうしてあんな人に……。
「……みんな、あの人を信用しているの?」
そんな私の疑問にさえ、彼女達は迷うことなく答えてくる。さっきは動揺していたように見えた南さんや西木野さんも、堂々とした態度をとって私に接してくる。
「はいっ」
「当たり前っ……です」
「そうじゃないと、みんなここまで着いていってません」
最後の高坂さんの言葉に、皆が頷く。
分からない……。
どうして彼はこんなに人から好かれるのだろうか。
どうして皆が着いてきてくれるのか。
「どうして……」
「エリチ……」
どうして……私はこんなにも苛立っているのか……。
「……あんないい加減な人を……」
きっと、こんな事を言うつもりなんてなかった。なのに勝手に口から流れていくそれは一体なんなのだろう。蔑視? 私怨? 嫉妬? 憧憬? ともかく今の私は、内から流れている自分自身の感情すらよく分かっていなかった。
「彼、大学もすぐ辞めたんですってね……」
「っ」
そして感情の揺れ動くがままに、有りもしない想いさえ口から流れていく。
「やる事なんて無かったんでしょうね。だから長続きしなかった。で、結局今やってるのはパーラーのバイトじゃない。本当、行き当たりばったり。私には
「ちょっとエリチ」
希が静止しようと揺さぶってくるけど、殆ど気にならない。それ程までに今の私はどうにかしていたんだと思う。
少なくとも、希じゃ今の私は止められそうになかった。
「そんな人と付き合って、貴女達までいい加減な──」
だけど──
「勝手な事言わないでくださいっ!!」
「──っ!?」
こんなにも頭に熱が上がっていた私ですら思わず黙り込んでしまう程の、その場の空気を震わせるような叫び声を発したのは──
「……ことり……?」
「貴女に……鉱芽さんの何が分かるんですかっ!」
──なんと南さんだった。高坂さんや園田さんならいざ知らず、あの大人しそうな彼女がそんな風に叫んだという事が未だに信じられなかった。いや、私だけじゃない。彼女の周りにいるスクールアイドルの仲間たちも、そんな南さんの姿に驚愕し、唖然としていた。
──────────────────
「貴女に……鉱芽さんの何が分かるんですかっ!」
思わず叫んでしまった。だけどどうしても我慢できなかった。むしろ、あんな風に鉱芽さんを酷く言い捨てる生徒会長にどうして反感を覚えずにいられるのっ。
確かに彼女は鉱芽さんの事、よく知らないんだと思う。彼のダンスだって、戦いの事だって……彼の昔の夢の事だって……彼女は知らない。でも、知らないなら知らないで彼を受け入れる事だってできるはず。それが以前、私が板東さんに言われて気付いたこと。人はその人の事を知らなくても受け入れることができる、分かりあえることができる。
でも……いくら知らなくたって、言っていいことと悪いことがある。酷過ぎる……っ。
「鉱芽さんにも夢があった……大学だって本当は行ってたかった……なのに、どうしてそんな風に言いきれるんですかっ!」
「……」
生徒会長は目を見開いたまま、私から視線を逸らすことが出来なかった。私だって彼女から目を背けるつもりはない。私の後ろでは、多分みんな驚いているんだろうけど、今の私はそれどころじゃない。この生徒会長にもうひと押し文句を言ってやらないと気が済まない。
「アナタの勝手な物差しでっ、私達の大切な人をはからないでくださいっ!!」
「……」
「さっきの言葉……訂正してください……」
「……エリチ」
「…………悪かったわ」
長い沈黙の後、ようやく生徒会長から謝罪の言葉がおりる。だけどその言葉は私達にじゃなく、直接鉱芽さんに言ってほしかった。だけど無理な話かもしれない。多分こんな調子じゃ、生徒会長は鉱芽さんと再び会うことは無いかもしれない。
結局その後、場の空気が締まららないまま、うやむやになるような形で生徒会長と別れてしまった。
──────────────────
「う~ん……」
自分の仕事は既に終わっているというのに、未だにドルーパーズのカウンター席に座り込んで肘をついて考え込んでいる男が一人──―俺こと葛木鉱芽だ。
「どうした? 鉱芽」
「どうしたものかねぇ~……」
大分前にシフトを代わったザックが心配そうに尋ねてくるが、俺は相変わらず難しい顔を崩さない。しかし折角聞いてくれているので、ザックには軽く説明をしておいた。
「絢瀬──あの生徒会長のことでな」
「あぁ~……あのムッとした顔のな。美人なのに勿体ねぇよなぁ」
「それな。っていやいや、そうじゃなくてさ、最近どうも間が悪くて会えないんだよなぁ……」
最後に絢瀬と話した日以降も、俺は彼女と話をする機会を伺っていたのだが、
「だからさ、少しでも会う頻度を増やして距離を縮めたかったんだけど……」
「なるほど」
「はぁ~あ……なあ、どう思う? やっぱ無理にでも時間作るべきだったかな?」
溜息混じりにザックに問いただす。だが正直な話、俺はザックの人生経験が如何なものか全く知らない。俺より壮絶なものなのか、それとも比較的穏やかなものなのか。とにかく、俺はザックに関しては知らないことだらけだ。その詳細は定かではないが、少なくとも俺とは違う人生を送ってきているのは確かだ。だから彼の意見というものがどうも欲しくなってしまう。結局、人生の価値に差なんてない。個人がどれだけ密な人生過ごすかより、その人の周りにどれだけの人生があるかが重要なんだ。
だからこそ、俺はザックにも何かしらの期待を抱いて質問してしまうわけだ。
「ん~どうだろうな。でも、むしろ嫌われているならそのくらい間を空けたほうがいいんじゃねぇか?」
「……かもな」
それもそうだ、と俺は気持ちを切り替えて席から立ちあがる。うん、やっぱりおやっさんだけじゃなく、ザックも頼りになる。よく考えれば簡単な意見なのだが、俺は人(特に異性)から嫌われ続ける経験なんてそう無かったから、ザックのこういう当たり前な意見でも十分参考になる。
「ありがとザック。うん、なんか少しやる気出た……かも」
「かも、ってなんだよ。ちゃんと出せよ」
……と言われてもなぁ……ふむ……
「……ハイッ、やる気出たぁ!」
「お前なぁ……」
「へへっ」
パチンッと手を叩いて両腕を掲げながら軽く叫ぶ俺。物凄いドヤ顔まで決めて、どう見てもふざけているようにしか見えない。ザックからも呆れの声が聞こえてくる。けどなザック、俺がこんなバカするのも男のお前の前だからなんだぜ? 偶にふざけるくらいならμ'sのみんなの前でもあるかもしれないけど、日常的にふざけられるってのが男友達の利点というものだろう。
「ま、何にせよありがとな」
「おうっ」
取り敢えず、
それにしても……うん、相変わらずのイケメンスマイルだ。普通にしてりゃ彼女がいててもおかしくないよな、コイツ。そういやぁ、彼女とかいるのかな? ザックって……。ま、聞くだけ無粋か……。
そんな風に過ごしていたら、いつの間にか店の外が赤く染まりだしていた。なんだ、もう夕方なのか、と俺も帰る支度をして店を出ようとした時だった。
『──ピピッ──ピピッ──』
俺の端末から無情な電子音が聞こえてきたのは。
──────────────────
太陽が沈み始め、辺りが赤く染まり始めた頃、私は一人学校からの帰り道を歩いていた。テスト後だというのに、予想以上に生徒会の仕事が長くかかり過ぎてこんな時間になってしまった。早く帰らないと妹の
……しかし今の私が考えてるのはそんな事ではない。
「……」
『貴女に……鉱芽さんの何が分かるんですかっ!』
今でも強く脳裏に残っている、南さんの叫び。それが何度も私の中で反芻し、意識の中へと沈んでいく。
「何なのかしらね……本当に……」
しかし不思議と心は落ち着いていた。憑き物が落ちたとまではいかないものの、先程よりも冷静に物事を考えられるようにはなっていた。だから今一度、私は自分を振り返ることもできた。
あの時の南さんの激情を受けて、ようやく私は葛木さんの事を何も知らないという事、そして分からないことに対して目や耳を塞いでいる自分に気付いた。私は葛木さんの事情を知った気でいて、それで彼の言動が理解できず、そこで思考停止していただけなんだと思う。だからあんなに彼に対して偏った評価をしてしまったのかもしれない。それは怒るわよね。勝手な偏見で人に対して全うな評価をくだせていなければ。
でもそれを別としても、私は彼に対する不満を拭い去れていなかった。彼に対して苛立ってい理由だって未だハッキリしていない。これだけはまだどうにもならない。
取り敢えず、私は葛木鉱芽という人をもう一度見極めた方がいいのかもしれない。本当にただのいい加減な人間なのか。それとも、希やあの子達が信頼に値する程の誠実な人間なのか。
また彼に会うために、ドルーパーズへ行く事にもなるのかもしれない……。
そこまで考えていた時だった。
「ギシュウゥゥゥァァァァ……」
この世のものとは思えないような、身の毛がよだつ程の恐ろしい音が背後から聞こえてきた。
決して犬や鳥なんかではない。こんなにもハッキリとした、それでいて存在感のあるノイズを──唸り声を、どうしてそれらと聞き違えるだろうか。
間違いなく今、私の後ろに何かがいる。
得体の知れない“何か”が──っ!
「(えっ……な、何っ? 何なのっ!?)」
生理的嫌悪感さえ抱かせるその唸り声に対して、私は振り向くことが出来ず、その場で立ちつくしてしまう。
だって、振り向いた時に何がいるのか分からないから。
どんな恐ろしいものがそこにいるのか分からないから。
「グルルルルルルゥ……」
「(やだっ……)」
振り返るのが恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかった。
だから、このまま振り返らずに走ってしまおう。そう思った。
「ギシュゥゥウゥウ」
「……っ」
周りに他の人の気配はない。多分この道にいるのは私だけ。助けなんて期待できない。
鞄の手提げを持つ手に嫌な汗がにじみ出る。次第に額に足の裏、腋からも汗が出るような感覚がした。
でも気にしたらダメ。
そんな事よりも早く……早く逃げなきゃ……っ。
「っ!」
「!! グォアァァァァァ!」
私は最後まで振り返る事はせずに、その場から自宅の方角目がけて全速力で走りだした!
それにつられるようにして後ろから“何か”も走り出した音が聞こえた。その声はもう唸り声ではなく、獣の雄叫びのようだった。
──振り向いたらダメッ!
そう思いながら走るも、すぐにそれが無駄であることを思い知らされる。
「──ッ! ウゴァァァァァァ!!」
「──ハァ、ハァ──っ! きゃぁっ!」
いきなり私の前方に赤い何かが降り立ったかと思えば、その何かが発した咆哮に思わず立ち怯んで、私はそのまま尻もちをついてしまう。多分その何かは、私の背後から跳躍して一気に私の前まで距離を縮めたのだろう。しかし、そんな風に解析してられる程の余裕は私にはなかった。
「ひっ……」
私の目の前に降り立ったそれは一見ヒト型をしているが、全身が赤く、まるでライオンのようにどう猛な顔つきをしていた。手足に生えた鋭い爪やそのフォルムから、目の前のソレが人間でないことを嫌にでも思い知らされてしまう。今私を襲おうとするそれは、間違いなく怪物と呼べる存在だった。
「グォォォォォ……」
「……ぁ(い、いや……)」
私の方へとゆっくりと近づいてくるライオンの怪物。その姿がまるで、仕留めようとする得物に対して恐怖心を煽って楽しんでるように感じてしまう。そんな私はというと、先程倒れてしまったことと怪物を見てしまったことによる恐怖心から、足が竦んで立てなくなってしまっていた。もう、立ちあがって逃げることなんかできない。
だから、もう……無理かもしれない。
こんな怪物を前にして生き残るなんてできない。
「もう……だめ……」
だから私は……自分の命を諦めようとしていた。
『オレンジスカッシュ!』
「グオッ!?」
「!?」
その時、辺りに響き渡る謎の声と共に、オレンジ色の波が私と怪物の間に入る形で押し寄せてきた。その波は直接怪物に当たらなかったけど、それでも警戒した怪物は軽く跳躍して私から距離をとる。
一体……何が……?
その答えもすぐに現れた。
「諦めるな」
「ぇ……?」
私の前に現れたのは一人の鎧武者。紺碧の下地に橙色の鎧を纏った、今の時代にまるで合わない風貌の異形の侍だった。しかし何よりも特筆する点はその鎧。まるでオレンジのような……ううん、多分オレンジなんでしょうね。頭上の緑色もオレンジの蔕に見えるし、鎧のぶつぶつだってオレンジそのものを表しているようにしか見えない。
「ふんっ!」
「ギュォァァァ!!」
鎧武者が怪物に向かって手にした刀で斬りかかる。その刀もまたオレンジの断面図のようで、怪物に立ち向かう勇ましい姿でさえどこか可愛げに見えてしまう。
でも……オレンジ……フルーツの侍……。
「亜里沙が言ってたこと……本当だったのね……。本当にいたのね……フルーツ侍」
ある日妹が私に言った「フルーツ侍」の話を思い出し、ふと口ずさむ。心なしかその瞬間、鎧武者がこちらを見た気がしたけど直ぐに戦闘へと意識を向けた。
『オレンジオーレ!』
いつの間にか左の腰の刀も抜いて二刀流になった鎧武者は、右手の刀の柄の部分を使ってベルトに添えられている小さな刀を操作する。すると先程のようにまた音声が辺りに流れる。そして橙色に眩しく発光した二本の刀を振り上げて高く跳躍し、一回転を加えながら怪物へと斬りかかった。
「セイハァァァァァァ!!」
「グギュゥォオアァァァァァ!!」
「きゃっ!」
鎧武者の気合の入った掛け声と共に二本の刀が怪物を斬り裂き、怪物は悲鳴を上げながら爆散した。私はその時の爆発の衝撃に思わず飛び跳ねてしまう。
「……」
「……終わった……の?」
先ほどまでの震えも治まり、恐る恐る立ちあがって鎧武者に尋ねる。彼(声からして男だと思うけど)はしばらくこちらを観察するように顔だけを向けて無言を貫いているけど、やがて声を発してくれた。
「ああ、終わったけど……それよりあんた、俺の事知ってるのか?」
「っ!? ……え、ええ……前に妹が見たって……」
やっぱりさっきの私の呟きは彼に聞こえていたみたい。そんな彼に対して私は特に隠すこともせず正直に話してしまう。よく考えれば無警戒だったかもしれないけど……。
「その妹ってのは……俺の事覚えているか?」
「……いいえ」
「そっか……」
そう、そもそも私にその鎧武者の存在を話してくれた亜里沙自身が、彼の事を忘れてしまっているの。あんなにうるさく燥いでいたのにね……。次の日になった途端に急にその記憶だけ飛んでしまっていた。本当に不思議よね。だから私も妙にその「フルーツ侍」の話が頭に残ってしまった。
そしてその例のフルーツ侍──じゃあ締まらないから鎧武者ね──鎧武者はと言うと、何かを考え込んでるようにじっとこちらを見続けていた。一体何がそんなに気になるのか私には理解しかねなかったけど、次に鎧武者が動きだした時、彼はまたベルトを操作してそこに付けられている何かを閉じた。
すると、急にその鎧が消え去ってしまい、その中から鎧武者の正体たる人物が姿を現す。
「……え……」
その男は今の私という状況を作りだしている男。
私が嫌っている男。
そして私が会いたがっていた男。
「葛木……鉱芽……?」
「……」
葛木鉱芽、その人だった。
「……」
「……」
互いに沈黙が続く中、沈みかけた夕日が私達二人を酷く赤く照らし続けていた。
皆さん、第6話のラストを覚えてますか?
まだまだ長い付き合いになると思いますが、これからも今作品をよろしくお願いします。
それではまた次回お会いしましょう。
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