ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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今回はこの小説における独自設定が出てきます。
ではどうぞ。


第2話 女神との邂逅

「ここからは、俺のステージだ!」

 

 怪物を前にして力強く叫ぶ、オレンジ色の鎧武者。その雄姿は猛々しく、強したたかな気を発し、見るものすべてを圧巻させるような迫力があった。

 

 彼は私に言ってくれた。

 

『大丈夫』って。

 

『絶対に助ける』って。

 

 なら私は信じよう。

 

 私に見せてくれた彼の笑顔を──

 

 私に勇気を与えてくれる鎧武者を──

 

 

 そして私が──ことりが一番会いたかった人を──っ。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 ギュィイィィィィイィィィイイン

 

 インベスの背後のクラックが閉じる。これでもう奴が自力でヘルヘイムの森に帰ることはない。そもそもヤツらに帰巣本能など無いのだが。

 ならば俺のすることはただ一つ。

 

 野に解き放たれた獰猛な野獣を……駆除するだけだ。

 

「ハァッ!」

 

 変身と同時に右手に召喚されたオレンジを模した片手剣──大橙丸(だいだいまる)を構え、俺はインベスに斬りかかった。大橙丸の刀身はインベスの身体に吸い込まれていくように、すんなりと入っていく。

 

 ──一閃

 

 鋭い斬撃がインベスの身体を裂き、インベスは悲鳴を上げながら地に臥す。大橙丸で切り裂かれた傷口からは黒い血が流れ出す。止めどなく流れる血液だが、それは地面に付いた途端に蒸発して消えてしまった。

 本当、ヤツらの身体は不思議だ。インベスの体液は外界にさらされると瞬く間に蒸発してしまうのだ。そんな生物がよくもまあ今まで絶滅しなかったものだと思えたが、よく考えてみればこいつらの身体を覆っているのは分厚い装甲。この装甲を貫ける外敵があの森の中に居るとは考えにくい。元から傷を負うことなどありえない生物だったのかもしれない。

 

 しかしこの俺は例外だ。果実の力を使って闘う鎧武に、インベスの装甲など無意味に近い。今この世界では俺だけがインベスを止めることができる。そう──俺だけが……。

 

「キシュァァァァァァァァア!」

 

「……フンッ」

 

 再び立ち上がったインベスは、怒り(インベスにそんな感情があるのか甚だ疑問ではあるが)に任せて俺に向かっていく。だがその傷は──既に塞がっている。

 血液凝固……ではない。勝手に蒸発するインベスの血液にそんな機能など無い。これはヤツらの装甲──いや、外骨格の凄まじい再生能力によるものだろう。

 

「フンッ……ゥラア!」

 

 今度は二回、ヤツの身体に斬り込む。先程と同様に血が飛び散る。しかし瞬く間に外骨格が再生し、傷跡を埋めていく。本来ならすごく厄介な能力なのだろうが、案外そうでもない。ヤツらとて生物なのだ。疲労を感じないわけがない。

 

「フシュゥァァァ……」

 

 現に目の前のインベスは先ほどのような勢いはなく、まるで肩で息をしているような状態だった。

 そう、再生能力があるからといって体力が回復するわけじゃない。痛みを感じればその痛覚は残る。再生を続ければ身体にガタがくる。

 

 所詮生物だ。完全であるはずがない。

 

「オラァアッ」

 

 最後にインベスに鋭い蹴りを入れ、壁際まで吹っ飛ばす。

 

 もう……これで終わらせる──っ。

 

 俺は戦極ドライバーに備え付けられているカッティングブレードに手を伸ばす。

 

 そして、ブレードを一回下した。

 

 

『ソイヤ! オレンジスカッシュ!』

 

 

 ドライバーから流れるその音声と共に俺の持つ大橙丸の刀身部──パワーセルが眩しく光る。

 大橙丸の刀身から発生する高密度のエネルギーが(やいば)──カヒノジンを介して巨大な刀身を作り出し、斬撃の範囲を広げる。

 

 この距離なら余裕で射程距離圏内だ。

 

 後は斬るのみ……。

 

「御免……」

 

 最後にそう呟くと同時に、俺はエネルギーが漲っている大橙丸で思い切り──

 

 

「セイハァァァァーーーッ!!」

 

 

 ──大橙一刀──回転斬りでインベスの身体を切り裂いた──!

 

「キギュゥアアァァァァァァァァア!!」

 

 その広範囲の斬撃をもろに食らったインベスは悲鳴を上げながら爆散した。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 戦いを終えた俺を迎えたのは安堵ではなかった。

 そもそも終わってなどいない。

 

 始まったのだ。

 再び訪れた戦いの日々。この一戦はその序章に過ぎない。

 

『ロックオフ』

 

 ロックシードを解錠し、ドライブベイから取り外して変身を解除する。

 本当、嫌な思いばかり頭の中を駆け巡る。

 

 でも一つ良かったことがある。

 

「……な? 大丈夫だったろ?」

 

「……はいっ!」

 

 この少女を守りきることができたってことだ。

 

 灰色娘は先ほどの怯えたような表情から一転、とても眩しい笑顔を俺に見せてくれた。

 だが……あまりにも可愛らしい、その天使のような笑みに俺は一瞬見惚れてしまった。あ~、うん。今朝見たツバサのと同等の破壊力持ってらっしゃるわ、この子。

 けど、ちゃんと話は付けないとな。

 

「さて、ここらで……ってのは不味いからどこか別の場所でお話しないかい?」

 

「はいっ。こちらこそ願ってもないことです」

 

 まあなんと礼儀正しい娘だこと。その甘い声に思わず溶けちゃいそうだよあたしゃ、まったく。

 正直なところ、この子が話に乗っかってきてくれて助かった。俺はこの灰色娘にいくつか聞かなきゃいけないことがある。

 

 何故誰よりも早くクラックを見つけられたのか……。

 

 そして、何故インベスや鎧武の事を“覚えている”のか……。

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 ことりがあの鎧武者さんを初めて見たのは約半年前の事。

 別に運命的な何かがあったなんてことはない。ただ今日みたいに怪物に襲われ、彼に助けられた。それだけのお話。

 

 高校に上がってから半年が経って、二人の幼馴染たちとそれなりに楽しい高校生活を過ごしていた。

 そんなある日のこと。授業も終わり、ことりは友達と別れて自宅への帰路を歩いていた。ただ、何故かその日はふと寄り道がしたくなって、書店にでも行こうかと思ったの。本当になんでそんな寄り道をしたくなったのかは覚えてないけど。それどころか、ほんの気まぐれで通ったことのないような道を進んでいったの。その気まぐれですぐ後悔することになっちゃうんだけどね。まあ、若気の至りって言うのかな? こういうの。えへへ……。

 通りはそこまで狭くなく、人通りも少ない歩きやすい道だった。こんないい道もあるんだと内心この小さな発見に心浮いていた、その時だった。

 

 ことりの右側──どこかの店の壁からファスナーが開くような音が聞こえた。

 

 音のした方を見てみると、それはもうなんて言っていいのか分からないけど……ファスナーのような大きな亀裂が浮いていた。通りに人が少ないこともあってか、その異変に気付いたのはことりだけ。それどころか目に見えている人たちはみんな遠ざかっていく。かといって、これをどうしたらいいのかことりには分からなかった。そんな感じで途方に暮れていた時だった。

 

 怪物が亀裂を通ってことりの前に現れたのは。

 

 その時の自分は、きっと何が何だから分からなくなっていたんだと思う。何か叫んだかもしれないし、今日みたいに尻もちをついたかもしれない。とにかく何をしていたかちゃんと覚えていなかったの。でも仕方ないよ。だっていきなり変な生き物が飛び出してきたんだよ? ことりだって混乱しちゃうよ……。

 それで、その怪物──青い鹿のような風貌をした怪物だったんだけど、ことりを視野に入れた途端に襲い掛かってきたの。そんなの逃げるしかないよね? だから逃げようとしたんだけど、怪物に対する恐怖──正確には怪物から発せられる生物的な恐怖、生物的嫌悪感、本能的な暴力、理由なき悪意──それらの気に触れてつい足がすくみ、動けなくなってしまった。もともとことりは人から受ける悪意に対して敏感な部分があるんだけど、この怪物から受ける“それ”はことりの身体にひしひしと伝わってきて、私は今にも泣き叫んでしまいたいほどだった。

 

 正直に言うと、怖かった。

 この得体のしれない怪物が。

 相手から向けられる悪意が。

 この後自分に訪れるであろう未来が。

 

 だから心の中で必死に助けを求めた。

 そして次に大事な人の名前を──大切な2人の幼馴染を想った。

 

 しかし無情にも振り上げられる怪物の腕。

 

 

 本当にもうダメだと思った瞬間、あの人が現れた。

 

 

 私に伸びようとした怪物の魔の手。それを遮るように一人の鎧武者がことりの前で怪物の腕を止めていた。

 青い生地にオレンジ色の鎧。一度見たら忘れないような配色だよね。すごく綺麗だった。

 彼は怪物をその腕で投げ飛ばし、腰に添えられている刀で怪物へと向かっていった。

 

 

 ねえ、覚えてる? あの時も貴方は言ってくれたのよ。「大丈夫」って。

 

 

 これが私が怪物と鎧武者さんを見た最初で最後の記憶。あ、最後っていうのは間違いかな? 今日、もう一度見れたもん。

 でも、その時の記憶がいつまでも私の心に張り付いて、結局消えることはなかった。いや、むしろ消えてほしくない。怖い記憶ではあったけど、同時に温かい気持ちになれる大切な記憶。

 私にとってとても大事な記憶だから……っ。

 

 

 

 ────────────

 

 

 

「──というわけです」

 

「なるほどね」

 

 あの後、俺たちは互いの自己紹介もそこそこに、近くの喫茶店で話し合うことにした。そして今灰色娘──もとい『南ことり』──南が話したのは、インベスに襲われたところを俺に助けられたという話だ。正直言って俺自身記憶にはないのだが……。あの頃は人助けしてインベス倒しての毎日だったからな。“記憶”の件もあるし、いちいち助けた相手の顔とか覚える必要なんてなかった。だから今の話を聞いても、『ああ、そんなこともあったのだろう』程度にしか思えない。しかし、そんなに想ってもらったのにこちらの記憶にないってのがなんか罪悪感半端ねえ……。

 

「あのっ……こと──私のこと……覚えていますかっ!?」

 

「ごめん。全然だ」

 

 南が何やら必死になって聞いてくるが、嘘ついたところでなんだ、って話だ。正直に答えておく。案の定南は目に見えて落胆したような表情を浮かべていた。だから罪悪感ぱねぇって!

 しかし聞きたいことがあるのはこちらだって同じだ。

 

「むしろ君が俺のことを覚えていてくれた方が不思議だ」

 

「え……? どういうことですか?」

 

 まあ意味わからんよなぁ。こんなインパクトある現象を“忘れていることが普通”だなんてな。

 ならば次はこちらから種明かしといこうか。

 

「いやな、本来覚えてるはずないんだ。インベスのことも。鎧武のことも。例外を除いてみんな忘れるようになっているんだ」




インベスの身体の機能、および記憶における設定が登場しました。
この点がオリジナルとは異なる点で、本作の世界観でもあります。
記憶といってもゼロノス程鬼畜ではないですよ(笑) 詳しくは次回。

それではまた。
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