ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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以前からちらほら言われていた「ラブライブ!サンシャイン!!」ですが、その情報もだんだんと明らかになってきました。
まさか特撮枠から出るなんて、ね……。もう、なんかそれが衝撃で……。

それでは今回もどうぞ。


第38話 鎧武者生誕祭 上ノ巻

 あれから更に一週間が過ぎ、再び土曜日の朝。そしてオープンキャンパス前日だ。明日はμ'sが9人になって初めて行われるライブ。もちろん失敗するわけにはいかないし、何よりみんなには楽しんで踊ってもらいたい。だから今日の練習は、いつもより軽めに行いつつも特に大事な箇所(ローテーション等)を復習して、みんなには明日に備えてもらうつもりだった。

 

 

「鉱芽さん!」

 

「にゃーん!」

 

 

 練習も終わり、これからどうしようかと考えていた俺に穂乃果が呼びかけてきた。振り向くと同時に凛ちゃんが背にもたれかかるように肩にしがみついてくる。しかしよく見れば彼女たちだけでなく、μ's全員が俺に対して何やらにやけ顏で視線を送っていた。

 

 そしてみんなを代表して穂乃果が俺に告げる。

 

 

「お誕生日おめでとう!」

 

 

 そう言って、可愛いオレンジ色のリボンが巻かれた青い小包を俺に差し出す穂乃果。そんな彼女に少し呆気にとられてしまう。そう、今日は俺こと葛木鉱芽の誕生日だ。7月7日、所謂七夕の日だ。

 今日が自分の誕生日であることを忘れていたわけではないが、彼女が俺の誕生日を把握していたことに軽く驚いてしまう。自分の誕生日を教えるタイミングなんてそうそうあるものでもないしな。だから彼女たちが俺の誕生日を知るとなると……。

 

 

「知ってたのか?」

 

「私が教えたのよ」

 

 

「ふふん」と得意げにこちらに微笑んでウインクする真姫。ああ、成程ね。やはり真姫経由でみんなは俺の誕生日が今日だと知ったようだ。そして俺は穂乃果から受け取った小包に目をやり、興味深げに彼女に問いかけた。

 

 

「何かな? 開けていい?」

 

「うんっ、もちろん!」

 

 

 穂乃果の返答と同時に包みを丁寧に開けていき、中の様子を確認する。するとそこには、9枚のラスクが見えた。1枚ずつ袋とじになったラスクが9枚、しかもそれぞれの色も少しずつ違っている。

 

 

「これって……」

 

 

 俺がラスクの詳細について尋ねると、恐らく製作者であることりがどこか申し訳なさそうに、しどろもどろになりながらも説明してくれた。

 

 

「いろいろ話し合ったんだけどね、結局何にするか全然決まらなくて……。そ、それでね、ことり、みんなの好きな食べ物の味付けしたクッキーかラスクがいいかな、なんて言ったら本当にそうなっちゃって……」

 

「えーっと……つまり……?」

 

「……うん、イチゴ味ならまだいいけど、焼肉味とかラーメン味とか、わけの分からないものまでできちゃって……」

 

 

 お前ら、なんつーゲテモノを……とは口に出すべきではないな。それより、えっ? 俺ってこんな扱いなの? 1年に1度のプレゼントが焼肉ラスクとか……泣いていい?

 

 

「わけの分からないって、酷いにゃーっ」

 

「いや、それより、よく作れたなそんな味……」

 

「そうやね。できるまで何度毒m……味見したことか」

 

 

 おい待て、希。今「毒見」っつったろ。お前ら裏で俺に内緒でそんな危険な事してたのかよ……。まあ、話を聞く限り9人全員の気持ちがこもってると見ていいんだろうな、これ。

 

 

「……じゃあ、とりあえずこれから……いただきます」

 

「「「…………ゴクン……」」」

 

 

 俺が包みの中からラスクを一枚取り出して口に含もうとする寸前、μ's全員の唾を飲む音が聞こえてくる。多分それは食欲からではなく、緊張からきてるものだろう。ってか提供する側がビビるなよっ! そんな反応されるとこっちまで怖くなるわっ。

 しかしここまできたら後は食すしかなくなる。俺は意を決してそのラスクを口に含んだ。

 

 

「……ん?」

 

「っ……」

 

「……焼肉……っぽい?」

 

 

 殊の外、焼肉(のタレ)っぽい味がした。

 

 

「けど、普通に食えるな」

 

「っ、はぁ~よかったぁ~……」

 

 

 俺の反応を見て安心することり、そしてμ's一同。そんなに心配するなら別のものでもよかったのに……。

 

 

「まあ、とりあえずはありがとな。ことりも頑張ったよ、ちゃんとこういうの作ってくれて。本っ当嬉しい。もう一度言うけど、ありがとう」

 

「っ……はいっ!」

 

 

 一応プレゼント自体は彼女たち全員によるものだが、それを食べれるまでに昇華してくれたのはことりだ。そんな彼女の努力に惜しみない礼を送る。それ受け取ったことりも、その気持ちに負けないくらいの満面の笑みで返してくれた。ああ、もうなんか色々と癒されるなぁ、コイツの笑顔って。

 

 

「そうだ! 七夕なんだし短冊に願いごとでも書いていこうよっ」

 

 

 そんな中、急に大声で叫んでみんなに提案する穂乃果。すごく「いいこと思い付いた!」って顔してるが穂乃果、多分それってみんな思いついていたことだと思うんだ、うん。

 

 

「じゃあちょっと待っててな。うち着替えてくるから」

 

「待って希、それじゃあ意味が無いわ。今、みんなと一緒に書きましょう?」

 

「エリチ……」

 

 

 希はいつもの巫女姿になろうと神社に戻ろうとしたが、絵里はそれに待ったをかける。そうだよな、巫女姿だと結局いつも通りの仕事になってしまう。今俺達がしたいのは、μ'sとしての願い事だ。そこに必要な希は巫女の東條希ではなく、μ'sの東條希だからだ。

 

 そしてみんなで神社の受付で短冊を受け取り、各自願いを込めて短冊にペンを走らせていく。

 

 

「鉱芽さんは何を書いたんですか?」

 

 

 相変わらずのソプラノボイスで俺の短冊の中身を訊ねてくることり。ま、普通に気になるもんだよな、他人の願いって。しかしよく見れば他のメンバーも他人の願いが気になっているようで、興味深そうに訊ねているいる連中(主に穂乃果、凛ちゃん)や、恥ずかしがって逃げ回る連中(主に真姫)がちらほら見える。しかし意外なのは、希が自分の短冊を恥ずかしそうに隠しているところだ。希ってどちらかというとオープンで、そういう話にはむしろ乗っかっていくものとばかり思っていたため、そんな反応を見せる事に軽く驚いてしまった。一体何を書いたんだろうな希は……。

 

 っと、ことりへの返答を忘れていたな。

 

 

「俺のはコレ」

 

「えぇっと……『みんなが幸せになりますように』……?」

 

「いろいろあり過ぎてな……ははっ。まあどうせ、それらを全部まとめたところで結局コレに収束するわけなんだけど……」

 

 

 多分、俗に言う平和主義者が一番使うオーソドックスな願いかも知れないな、俺の「みんなが幸せ」という願いは。ことりもどう反応していいか分からず、困ったような表情を浮かべている。まあ仕方ないか。今現状、この中で一番幸せから程遠い俺がみんなの幸せを願っているのだから。

 

 しかしことりは俺の顔をじっと見つめてくると、随分と真剣な表情で質してきた。

 

 

「鉱芽さん。これって……幸せって、鉱芽さんのことも入っていますよね……?」

 

「……」

 

「鉱芽さん」

 

「……多分な……」

 

「……」

 

 

 そんなことりの質問も、今の俺が浮かべている寂しげな表情を見たせいだろう。そして俺もことりに曖昧な答えを返してしまう。しかし正直なところ、俺がこの「みんな」の中に入っているのか俺自身分かっていない。入っていていいのかすら疑問だからだ。

 

 今まで散々、人の幸せを救えなかった俺は……幸せを奪ってきた俺は……このまま幸せになっていいのか?

 

 過去の暗い思い出が脳内を駆け巡り、ついそう考えてしまう。

 

 

「鉱芽さん」

 

 

 しかしことりはそんな俺に近づくと、その小さな手で俺の服の袖を軽く掴み、囀るような、それでいて芯に届くような声で俺に語り掛けた。

 

 

「私、鉱芽さんの過去は分かりません。でも、鉱芽さんは幸せになっていい、幸せになってほしい、ってことりは思いますっ」

 

「ことり……」

 

「だって……こんなに人を守っていて、それなのに自分だけ幸せになれないなんて悲しすぎますっ。だから……だからことりはっ、鉱芽さんの幸せを願います!」

 

 

 そうして自分の短冊を俺に見せてくることり。そこには可愛らしい文字で『みんなしあわせっ♡』と書かれていた。つまり丸かぶりというわけだ、俺たち。しかし、やはりこういう事を書けるのはことりらしいといえる。俺よりもその言葉がしっくりくる。

 

 しかし一応は聞いておこうか……。

 

 

「これってことりも入ってんの?」

 

「はいっ、もちろん。私、意外と貪欲ですよぉ?」

 

「っふっ、あっはは──そうかぁ、貪欲ね」

 

 

 俺のささやかな意趣返しにも、ことりはさも当然のように答える。ことりが貪欲というのはどうもしっくり来ないが、それはそれで彼女の新しい魅力に感じられた。貪欲である──即ち多くを望み、それを願い続ける心を持つこと。もしかすると、これもある意味一つの強さなのかもしれないな。

 

 ことりはこんな俺が幸せになる事を願ってくれた。俺の過去なんて関係なく、今の俺が幸せになってほしいと言ってくれた。

 それがとても嬉しくて、一瞬──ほんの一瞬だけ、彼女を愛おしいと感じてしまった。

 

 

「(ありがとう、ことり……)」

 

 

 ことりの強さの片鱗が一瞬だけ垣間見えた、朝の境内であった。

 

 

 

 

 因みにその後、俺の短冊を見たニコに「普っ通ねぇ……」と言われたが、すぐさまことりや真姫に連れ去られ、そのまま説教される様が遠くから聞こえてきた。ハハハ……幸せを願うのはいいけど大概になぁ……。

 

 こうしてμ'sによる俺へのプレゼント贈呈劇・七夕イベントは幕を閉じた。

 

 結局、先程プレゼントの残りはドルーパーズに持って帰った後でゆっくり食べた。色々言ったりしたが、何だかんだでいいプレゼントだったと思う。割かし美味しかったしな。ここまで完成させるのにかけたことりの──いや、9人全員協力したんだったな──その努力がラスクの完成度から想像できる。今度会った時にちゃんとお礼をしよう。

 

 だけど、ゴメン真姫。トマトはやっぱきつかったわ……。

 

 

 それともう一つ……。

 

 

「……」

 

「(絵里?)」

 

 

 俺が帰る瞬間にふと見えた、絵里のどこか物足りなさそうな顔が妙に気になってしまった。

 

 

 

 ──────────────―

 

 

 

 ドルーパーズでの仕事も終え、それどころか営業時間さえとっくに過ぎた午後8時。そんな夜のドルーパーズでは俺とザック、そしておやっさんが、残る()()を今か今かと待ち望んでいた。

 

 そして時計の針が真上を指そうとする間際に、ドルーパーズのドアが開かれる。

 

 

「ごめんっ、遅くなった」

 

「よっすツバサ」

 

「ふふっ、お誕生日おめでとう、コウガ」

 

 

 ()()店内に姿を見せたのは綺羅ツバサ。俺の誕生日を祝うためにここに駆け付けてくれたのだ。しかし今日ドルーパーズに来たのはツバサだけではない。

 

 

「遅れてすまない、鉱芽。誕生日おめでとう」

 

「おめでとう、鉱芽君っ」

 

「よぉ、英玲奈、あんちゃん。お久~♪」

 

 

 ツバサの後ろから姿を現した二人の女性。一人は落ち着いた雰囲気とキリッとした顔立ちが特徴的なロングヘアの女性──統堂(とうどう) 英玲奈(えれな)。左目の泣きぼくろがチャーミングだ。

 もう一人はそれとは対照的で、柔らかな雰囲気に身を包み、ふわふわとパーマがかかった髪が似合う癒し系の女の子──優木(ゆうき) あんじゅ。俺は「あんちゃん」って呼んでるけどな。

 

 

「最後に会ったのって何時だっけ?」

 

「年が明けたぐらいに一度会ってる。それっきりだ」

 

「あ、そうだったな」

 

 

 そして彼女たちこそ、ツバサと同じく現スクールアイドルの頂点に君臨する「A-RISE」のメンバーである。つまりこの場には、その天下のA-RISEが全員集合している事になるのだ。それは普通に考えればスゴイことなのかもしれないが、当の俺たち(ザックとおやっさん)は特に気にする事なく、平常を保っている。

 

 

「よぅ、久しぶりだなお前ら」

 

「ご無沙汰しています、板東さん」

 

「ザック君も相変わらずね」

 

「ああ、そっちも相変わらず輝いてるようで何よりだ」

 

 

 早速二人に挨拶する英玲奈とあんちゃん。しかし久しぶりに会うにしてはリアクションが薄い気がするけどな。ま、俺も人の事言えないか。

 

 

「さて……全員集まったことだし始めるか」

 

「コイツの誕生日会」

 

 

 そうして一同は既に用意されているケーキやオードブル(全部おやっさんの手によるもの)が乗ったテーブルを囲むように座り、恥ずかしながらも俺の生誕を祝うパーティーが始まった。

 

 だが誕生日会といっても、実際はそれに託けてみんなでワイワイと騒ぐのが実情だ。もちろん俺だってそのつもりだ。そして案の定それ以降は、ただ祝うというよりは楽しく談笑しながら食べる風景がそこにあった。

 

 因みにツバサに「真姫ちゃんは来ないの?」と聞かれたが、生憎本日は欠席だ。流石に真姫には明日に備えてもらいたかったし、本人もそのつもりでいた。

 ツバサは残念がっていたが、明日のオープキャンパスの件を伝えるとどこか楽しそうに「期待してるわ」と、挑戦的な目をこちらに向けてきた。ほお、上等じゃねえか。明日のライブの動画を見せて度肝を抜かしてやらぁ。

 

 だが、今日欠席しているのは真姫だけではない。

 

 

「鉱芽。これ、ミッチから」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 テーブル上の食事にありついてからそれ程時間も経っていない頃、ツバサは俺に小さな箱を託してくれた。

 

 

「無理は言わないけど、さっさと向き合いなさいよ。折角ミッチだって気を遣ってくれてるんだから」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 ミッチ……俺個人が勝手に敬遠して距離を置いてしまっている、俺の嘗ての一番の親友。アイツは、こんな俺に対してもまだ愛想を尽かすことなく、こうして陰ながら気を遣ってくれている。それはとても嬉しいが、やはり申し訳ない気持ちで一杯になる。

 そうだな……しっかり、向き合えるようにならなければ。絵里に言ったように、俺自身変わらなければならないな。

 

 そんな風に辛気臭くなっていたところに、今度はツバサが俺に何かを差し出してきた。

 

 

「コウガ、これ。私からの分」

 

「これって……」

 

 

 ツバサが俺に渡したのは、一本の腕輪だった。白と黒のモノトーンが効いた、ゴムみたいに軽く伸縮するブレスレットだ。どことなくオシャレな空気が漂う一品なだけに、つい息を漏らしてしまう。

 

 

「ほぇ~……」

 

「お誕生日おめでとう。早速つけてみて」

 

「んっ? おう、分かった」

 

 

 ツバサに促されるがまま、早速腕輪をつけることにした。普通に腕から通して付けることもできるが、金具で止める個所もあるのでそこを使ってつけるべきだろう。難なくブレスを左手首に巻き終えると、ツバサは満足気な顔を浮かべて更に寄り添ってきた。

 

 

「ふふっ、似合ってるわ、コウガ」

 

「そっか……うん、ありがとな、ツバサ」

 

「ええ、どういたしましてっ」

 

 

 そんなツバサの目一杯の笑顔に、一瞬目を奪われてしまう。そこにあるのはスクールアイドルのトップではなく、ただの年相応の女の子の笑顔だった。

 

 

 

 ──────────────―

 

 

 

 パーティーを初めてから一時間程経ったころだろうか。既にテーブル上の食事も殆ど無くなり、熱気で火照った体を外で冷やしていた時だった。

 

 

『♪~♪~』

 

「ん?」

 

 

 ポケットの中の端末からかかる着信音に気付き、俺は端末を取り出す。画面を確認すると、着信相手は真姫だった。

 

 

「どうした? 真姫」

 

『別に。ただ、楽しんでるかなぁ? って思って』

 

「十分楽しんでいるざんすよ」

 

『ふふ、そう』

 

 

 その声から、端末の向こうの真姫の笑みが簡単に想像できる。しかしただ単に様子を訊ねて電話してきたわけではないだろう。

 

 

『……今日って鉱芽の誕生日だけど、同時に七夕でもあるのよね』

 

「そうだな、一年に一度。織姫と彦星が会える日だ」

 

『ホント、変な話よね。あんなの、ただ名前を付けられただけの燃焼しているガスの塊なのに』

 

 

 ……サンタを信じてるアンタが言いますか、それを。

 

 

『鉱芽、今外にいる? そこから星は見える?』

 

「生憎街中なもんでね。俺の視力でギリギリ三等星が見えるくらい。そっちは?」

 

『そっちよりは暗いと思うけど、こっちも大体同じくらい』

 

 

 そして何を言いだすかと思えば、星の話だ。真姫の趣味は天体観測。今までに何度か家族で天文台に行って星を観察した事があるほど好きらしい。中には泊りがけで見にいった話もあるとか。まあ、それ程好きなわけだし、それに頭のいい彼女の事だ。その知識も半端ではない。

 

 

『じゃあ、鉱芽はそこでもアルビレオくらいは見えるのね』

 

 

 多分、普通の人は真姫が今何言ってるのか分からないだろう。因みに「アルビレオ」というのは、白鳥座のくちばし部分に位置する二重星(文字通り二つの星が互いに近接して見えるものの事)の事だ。これでも二重星の中では特に有名な方なのだが、多分μ'sのメンバーに言っても誰にも伝わらないだろうな。と内心苦笑しながら白鳥座を探す。というより、これだけ星が見えないと「大三角」を探した方が早いな。そしてすぐに白鳥座の一等星「デネブ」を見つけると、アルビレオの位置を割り出す。

 

 

「……うん、そうだな。ギリッギリ見える」

 

 

 流石に普段から目のいい俺でも、周りがこんなに明るいんじゃこれが限界だ。そもそも普通の人なら二等星くらいまでしか見えないかもしれない。そして件の星が見えることを伝えると端末から何やら満足気な声が届く。

 

 

『ふふっ、今私たち、同じ星を見てるのね』

 

 

 あれま、何とロマンチックな事を言うんでしょうかこの子は。真姫らしからぬ恥ずかしい台詞だ。

 

 

『……ごめん、今の忘れて』

 

 

 あ、やっぱり恥ずかしくなってる。しかしこれは弄り甲斐があるというものだ。

 

 

「同じ星……ねぇ~。真姫ちゃん乙女~」

 

『やっ、やめなさいよっ! 忘れてって言ってるじゃない!』

 

「え~、やだよぉ、こんな可愛い真姫ちゃん忘れるわけないじゃん」

 

『か、かわっ!?』

 

 

 そこまで言ったところで、真姫からの声が途絶えてしまう。しかし端末の向こう側で何やらドスドスした音が聞こえるので、恐らく取り乱して騒いでいるのだろう。ああ、その反応こそ真姫だよ。可愛らしい。

 

 さて、落ち着くまでしばらく待ちますか。

 

 

(わり)ぃ、ちとおいたが過ぎたな」

 

『本当よ、全く……』

 

 

 しばらくして回復した真姫に軽く謝るも、端末からはぶつぶつと未だ恨めしそうな声が聞こえてくる。この調子だともう少し時間がかかりそうな気がする。そろそろツバサ達も帰りそうだから俺もそろそろ店内に戻りたいところなんだけどな……。ま、真姫との会話が終わるまではもう少しこのままでいておきますか。

 

 

 

 

『……忘れないから』

 

「ぇ……?」

 

 

 そんな中、僅かに聞きとれた真姫の小さな呟き。先程の俺の言葉にまだ何かいう事があるのかと思ったが、その声のトーンが先程とは全然違っていた。きっと、先程のやり取りとは関係なく、ここから先は今日真姫が俺に伝えたいことなんだと、自然と感じられた。

 

 

『私も、鉱芽のことは忘れないから』

 

「どうしたよ真姫?」

 

 

 しかしどこか真に迫った真姫の声色につい問いただしてしまう。

 

 

『ごめん、いきなりで。でも今は言わせて。それと……空を見て』

 

「え? ああ、分かった」

 

 

 空を見て……恐らく、視線を合わせられない分、同じ景色を見て俺と話をしたかったんだろう。遠くにいても、見える空は同じ。だからさっきの「同じ星」発言だったんだ。

 

 真姫の言葉通りに夜空を見上げる。相変わらず建造物や灯のせいで見える星は少ないが、こんな空でもはっきりと見える3つの星がある。ベガ、デネブ、アルタイルの3つの恒星だ。辺りがどれだけ明るくなろうとも、変わらずその輝きを届け続ける夜の宝石。真姫が何を考えているか分からないが、少なくとも今は俺と同じ、その3つの星を眺めているのは分かる。まあ、正確には分かるってよりは「感じる」と言った方が正しいか。

 

 そして軽く息を飲んだ真姫は、静かに、そして強く、言葉を紡いだ。

 

 

『私は鉱芽のこと、絶対に忘れないから。例えみんなが鉱芽のことを忘れても、私は絶対に、アナタのことを忘れないっ』

 

「……」

 

 

 戦ってもその活躍は忘れ去られ、何時しか俺自身が忘れ去られるのではないか。いつだったか、真姫はそんな不安を俺に話してくれたことがあった。だからこそ、真姫は俺を忘れないと言った。例え他の星のように輝きが届かなくなっても、自分だけは貴方に輝きを放ち続ける。意訳が過ぎるかもしれないが、それに近いことを彼女は言ってるのだろう。力強くも優しいその声色から自ずとそう判断できる。

 

 

『今はこんな言葉でしか伝えられないけど、でもいつかっ、鉱芽をずっと支えていけるようになる。強い女になるって誓うわっ』

 

「真姫……」

 

『最後にもう一度……お誕生日おめでとう、鉱芽。明日のオープンキャンパス、精一杯頑張るわ。じゃあ、おやすみなさい』

 

「っえ? あ、ああ……おやすみ、真姫」

 

『ふふっ』

 

 

 最後に小さく笑って、彼女は通話を切った。

 

 強くなる……か。

 

 それも、こんな俺のためにな。ったく、ホントに俺に負けず劣らずのバカなんじゃないかと思ってしまう。アレだけ俺の醜態見ておきながら、まだこんなに俺の事を想い続けてくれるなんて……。ツバサもそうだが、つくづく俺の周りには強いバカが集まるようだ。

 

 

「……ありがとよ、真姫」

 

 

 最後に夜空に向けて呟き、俺はみんなが待つドルーパーズの中へと戻っていった。




はい、というわけで今回(と次回)は鉱芽の誕生日回です。
(そして地味にA-RISEも全員登場という)

μ'sの誕生日回は、ちゃんとしかるべき時に投稿する予定です。
その時が来るまで、しばしお待ちください。

そして次回、第39話は明日公開予定です。お楽しみに。
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