ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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今作品の世界観の説明回になります。

それではどうぞ。


第3話 女神の記憶と因子

 呆然と言葉の出なくなった南に、俺は言葉を続ける。

 

「まあ実際のところ俺にもよく分かんねぇんだけど、人間がインベスやあの森を見たとしても、何故か定期的に──正確には24時間周期でだけど記憶が消えてしまうみたいなんだよ」

 

 これが不思議で不思議で仕方がなかった。かつて俺が戦いを続けていた時も、俺が助けた人々は次の日にはその記憶がぽっかりと抜け落ちていた。昨日までは感謝されていた身が、翌日には初対面の他人だ。これのせいで最初の頃は自分のしていることの実感が得られなくて辛かった……。

 だが案の定南は俺の言っている内容に納得のいっていない表情を浮かべる。そりゃそうだろうな。覚えている身からしたら嘘を付かれているようにも聞こえるからな。でもな……。

 

「おかしいと思わないか? こんな奇妙な現象が起きてるってのに、国も警察も何一つ動きがない。君に関してだけでも二件起きたのに、他の人間や組織が気付かない訳ないだろ?」

 

「あっ……」

 

 そう、もしこの件が国や警察に知れわたれば何かしらの対策はとってくれただろう。例えそれが隠蔽(いんぺい)工作であったとしてもだ。けどこの有様だ。誰も知らない。覚えてない。助けてくれない。警察と連携を組んでインベスに立ち向かえたらと思ったこともあった。しかしそれは夢の見すぎだろう。世の中そう優しくはない。下手すりゃ拘束されて自由の無い人生になっていたかもしれないな。

 

「そういう事。だから俺はたった独りで戦うことにしたの」

 

「そんな……っ」

 

「別に問題ないよ。それに、これは俺にしかできないことだもん」

 

 独りきりの戦いが辛くない訳ではない。けど戦うことが出来るのが俺だけなのなら──誰かが傷付くのなら──俺が闘う。誰かに命じられたわけでも、義務感を感じたからでもない。俺がしたいから、人を守りたいから戦ってきた。これからもそうだ。

 

「義務とかじゃない。俺は人が好きだから守ってるんだよ」

 

「人が好きだから……」

 

「そう。だからこそ俺は戦える」

 

「……すごいなぁ」

 

 南が消え入るような声で呟く。そう言ってくれるとやっぱ嬉しいものだ。

 というよりどうしたんだ今日の俺は……。なんで初対面(素顔ではその通りなので間違いはない)の相手にここまで語ってんだろ。久々の変身で心が昂ったとか、南に惚れたとかそういうもんでもないし……何でだろうな? ま、もともと自分語りが好きな面もあるから特に問題ないか。

 そこまで思考に入っていた俺に、南は訊ねてきた。

 

「……えぇっと……じゃあ、ことりが鉱芽さんやあの怪物の事を覚えていたのはどうしてですか?」

 

「それか……」

 

 これが今日新たに増えた記憶の謎。本来消える筈の記憶が残ったままになっている少女。ヘルヘイムの森の謎の手掛かりになるかもしれない。

 

「記憶が消えるといっても例外はある。俺とかな。俺みたいに変身することで果実の力を中和し、その身にヘルヘイムの実の因子を宿すことで記憶の消去は防げるみたいだな」

 

「ヘルヘイムの実?」

 

「あの森になってる実だ。絶対に食うなよ。死ぬぞ」

 

 俺がそう言うと南は顔を青ざめて身体をぶるっと震わせた。一々反応が可愛いなコイツ。

 一応もう一つの可能性も示しておく。

 

「もう一つの可能性は、何らかの事故でインベスの組織が体内に入り込んだか……まあ俺がいないと確実に死ぬからありえないか」

 

 それとは別にもう一つある。一時的、限定的なものだが、ヘルヘイムの森にいる間は記憶が保持される。ただ森から出れば24時間以内に記憶は消えるので特に意味はない。

 

「考えたくないです……じゃあ、私の身体にもその因子があるってことですか?」

 

「恐らくな。だけど……正直よく分からん。こんなケース初めてだ」

 

 逆に上記のケースで覚えてる人間なら何人かいる。ツバサとかその例だな。

 しかし、変身したわけでもなく、インベスの組織が入り込んだわけでもない。それなのに因子──ヘルヘイムの因子と呼ぼう──が身体の中に存在する……一体どうしたんだ?

 

「なあ、記憶に関わることで何か変な事とかなかったか? どんな些細な事でもいいから」

 

 こうなれば手当たり次第に聞いていくしかない。少々プライベートな事に携わるかもしれないが、こちらは真剣なのだ。少しくらいの恥は許してほしい。

 

「記憶……記憶……う~ん……」

 

 やっぱりそう思い浮かぶこともないか。そう思っていたところ──

 

「……あっ」

 

「マジかっ?」

 

「ってまだ何も言ってませんよぉ~……」

 

 殊の外思い当たる事があったようだ。少し驚いてしまった。

 

「いや、悪い。で、なんだ?」

 

「え、ええと、その……少し恥ずかしい話なんですけど、ことり、鉱芽さんに助けられた時の事はずっと記憶に残っていたんですよ。それこそずっと想い続けていたぐらいに……」

 

 そう話す南の顔はみるみるうちに赤くなっていく。いや、大丈夫だ。きっとその想いは憧れだ。その歳で顔も見えない相手に恋するやつなんていないぞ。気にしてないから続けて。

 

「それで、ずっと想い続けていた……はずなんですけど……何故か三ヶ月前になって、急に頭の中でその日の記憶が呼び出されるようになったんです」

 

「え、どういうこと?」

 

「自分でも分からないんですけど……あの、三ヶ月くらい前からなんですよ、私が鉱芽さんのことを探そうって思い始めたのは」

 

「? まあ確かにさっきも聞いてきたけど……」

 

「はい。この三ヶ月、私あなたの事を探そうってずっと考えてたんですよ? ちゃんとお礼を言いたかったし。ふふっ、そして今日やっと見つけましたっ」

 

「見つけられちゃったっ」

 

 語尾にハートでも付けてそうなほど可愛く歌うように言葉を弾ませる南。釣られて言葉を弾ませて軽く返し、彼女も笑顔で返してくれたが、次第にその表情にじわじわと影を帯び始めた。

 

「ふふっ、でも──」

 

「?」

 

「──今までそんな事、考えもしなかったのに三ヶ月前に急に思いついて……」

 

「急に?」

 

「はい……って何だかこれだと、ずっと記憶があるのに"想い続けていたのは三ヶ月間だけ"みたいですよね。自分で言ってて変な話ですけど……えへっ」

 

 そう笑顔で話す南だが、彼女の顔を覆う影は隠れることはない。

 

 しかし待てよ……三ヶ月前……急に……記憶…………っ。

 

「(まさか……)」

 

 三ヶ月前……何か嫌な予感がするが……これはもしかして……。

 

 しかしとりあえずは確認することが先だろう。俺は南に半確信的な予測を持って訊ねた。

 

「なあ南。もしかして最初の三ヶ月間、忘れていたんじゃないのか? 俺やインベスの事」

 

「えっ──」

 

 小さく息を吸いながら静かに驚愕する南。そしてすぐに考え込むように俯き、思考を働かせる。しかし俺の予測が正しければ彼女はきっと……。

 

「……っ……もしかするとそうかもしれません。ううん、きっとそうです。私、ただ思い出しただけだったみたいです。だって……今も思い出せませんから……」

 

「だろうな」

 

 南は俯きながらそう答える。やっと自分の抱いていた疑問に答えが出たことに対してよかったという気持ちはなく、やはりというか、ショックを受けたような表情を浮かべている。

 

「……どうしよう、やっぱり思い出せない……です。鉱芽さんのために行動したっていう記憶が……全然……っ」

 

「……」

 

「あれぇ……? なんでことり……すぐに探そうとしなかったのかなぁ……あれ……? どうして何も……思わなかったのかなぁ……っ」

 

 多分、今頃になってようやく記憶の欠如に気が付いて思い出そうとしているのだろう。しかし俺の予想した通り、南は最初の三ヶ月間の俺に関する記憶が無いようで、何も思い出すことが出来なかった。

 もし俺を探したり何か情報を探ろうとするなら、助けられた翌日にでも行動を起こしたっておかしくはない。しかし現に彼女が行動を始めたのはそれより三ヶ月程後のことだった。時間が空きすぎている。あまりにも不自然なほどに。

 そして彼女はそれを自身の記憶の欠如だと認めた。その時の南は……何というのだろうか……まるで自信が無くなったかのように、その身に纏わせる空気が澱んでいるように感じられた。

 

「本当に、最初の三ヶ月の私って一体何だったんでしょう……ちょっと分からなくなってきますね……あはは……」

 

 あくまでも笑顔を浮かべようとするが、そうしてその面影に更に影を落とす南。しかし分からないわけではない。大事に思っていた記憶が一時的とはいえ忘れていたのだ。自分自身という存在に疑問すら抱きかねないだろう。だけど南をこのままにしておくわけにはいかないよな。

 

「あぁ~……ま、気にすんなって。記憶なんてあくまでも情報だ。感情とは違う」

 

「え……?」

 

「南、記憶なんていつでも嘘で作れるけど、感情は絶対に嘘は付けない。だから南が俺を想ってくれたのは嘘じゃないって思う」

 

「感情は……嘘を付かない……」

 

 俺の言葉を自分に言い聞かせるように一字一句大切そうに繰り返す南。心なしか彼女の表情から影が消えていくように感じられた。

 

「そう。だから俺は南を信じることができる……って何臭いこと言ってんだかな俺っ、ははっ! ま、元気出せって。ケーキでも奢ろうか?」

 

 そうしてメニューを持ち出して南に見えるようにデザートのページを開く。そんな俺の姿に南は少し元気が出たのかようやく笑顔を見せてくれた。

 

「ふふっ……ありがとう、ございます。この感情は嘘じゃない……そうですねっ」

 

「分かってくれて何よりだ」

 

「はいっ。でもそうなると、やっぱりことりは三ヶ月前に急に思い出したことになりますよね。それって一体どうしてでしょうか?」

 

「あぁ~……」

 

 正直なところ、今その話題を出されるのは困る。というよりも説明し辛いというのが本音だ。

 

 だって……すっげぇ心当たりあるもん……。

 

 多分、俺らの後処理不足の所為かもしれない……ってかアイツだよ。

 

「((つかさ)じゃんか、根源は)」

 

 全く……最後の最後で変な置き土産していきやがって……。

 

 因子の件も全部アレで説明ついてしまうかもしれない……。

 

「……多分。アレだ。うん」

 

「何ですか?」

 

「長くなるからまた今度……な」

 

「? はい……?」

 

 だから、説明をするのは少し待ってもらうことにした。本当に申し訳ないとは思うが、今はどうにも説明できるような言葉を用意できない。それにどうせ、ヘルヘイムの存在を知ったばかりの今の南じゃ、理解することすら困難だろう。

 しかしその言葉を告げられた南はというと、軽く驚いた様子で俺の方を凝視していた。あれ? 俺、何か変な事でも言ったか?

 

「どうした?」

 

「いや、『また今度』って。また会えるってことですか?」

 

「あぁ~、まあ、そうなるな」

 

 どうしよう。つい『また』なんて言葉使っちまった。本来なら戦いから遠ざけるべきなんだけど、記憶が残ったままの女の子をこのままっていうのはどうもな。だから、少し様子見がてらに会うのもありだろ。

 ……なんて自己完結しちゃったけど、本当のところどうなんだろうな。なんでとっさに『また』なんて言ったのか、俺自身よく分かっていなかった。

 

「じゃあどうすっか。連絡先でも交換するか?」

 

「はいっ、是非!」

 

 うぉっ、まさか二つ返事とは。恐れ入った。もう少し慎重になれよ。俺一応男ぞ? お前女子高生ぞ? 決断早すぎるだろう……。

 だけど憧れのヒーローに会えた子どもの心境って、きっとこんなんだろうな。南、目がスッゴイきらきらしてる。

 

 ……正直、俺がヒーロー名乗っていいのか分かんねぇんだけどな。

 

「え、と、鉱芽さん」

 

「どした? 南」

 

 互いに端末を出し合い、連絡先を交換し終えたところで南が新たに話を切り出した。その際の彼女の顔はほんのり赤みがかっていて少し色っぽく見えた。

 

「え、いや、あの……その『南』って呼ばれるのって何だかとても変な気分がするんです。なんだか先生みたいで……」

 

「ほぉ……で、どうしろと?」

 

「だから……えと、私の事、『ことり』って呼んでくれません……か……?」

 

「おっしゃ分かった、ことり」

 

「っ、ぅえぇっ!? 何の躊躇いもなしですかっ? ……もしかしてそういうの抵抗ない人なんですか?」

 

「まあな」

 

 それもあるが、実際のところ『ことり』って名前を俺自身が気に入っていたからな。最初に見た時の小さい姿がどうも『ことり』らしいなと──妙にマッチするなと思っていたところだ。

 

「ことりも俺に対して敬語を使う必要ないぞ。タメ口でも全然OKだぞ」

 

「えっ、それは流石に……あははぁ……」

 

「むぅ、残念。ま、いいや。堅苦しい話はおしまい。何か一つ奢るよ。どれがいい?」

 

「じゃあ遠慮なく……チーズケーキでっ」

 

「了解。じゃ、俺も」

 

 うん、そこで渋らずちゃんと奢らせてくれるあたり、男のプライドの何たるかを分かってるね彼女。本当にいい娘だよ、うん。

 

 その後の俺たちは鎧武やインベスが──とかの話でなく、学校生活がどうの、友達がどうの、あの店がいいだの、本当に平凡で他愛ない会話を交えていた。……お、ここのチーズケーキ割と美味いな。暇な時また来ることにしよう。とにかく、それなりに充実した時間を過ごせたと思う。ことりとも少し打ち解けられたと思うしな。よかったよかった。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「いえいえ。じゃ、ここでお別れだな。また何かあれば相談にも乗るよ。別にヘルヘイム関連じゃなくても聞いてやるから遠慮なく」

 

「えへへぇ、ありがとうございます」

 

 ああ、今日は本当にいろんなことがあったなぁ。いろいろな事が凄い早さで展開していって、ことりの目が回りそうになったもん。それでも、やっぱり今日一番幸運だったのは鉱芽さんと出会えたこと。あそこで出会わなければことりは今頃生きてはいなかったし、それに……憧れの鎧武者さんとようやく出会えたっていうのが一番大きいかな。

 

「またお話しできる日を楽しみにしています」

 

「そっか。気長に待っとくよ、ははっ」

 

 そう私に笑い飛ばす鉱芽さん……冗談じゃないですよ? 本当にメールとかしちゃいますよ? もっといろいろ聞いちゃいますよ?

 きっと彼にとってのことりは、ちょっと珍しい被害者その一でしかないんだろうな。意識の差がちょっと悲しいかな。

 

「じゃあ鉱芽さん、お元気で」

 

「おう、バイバイ。気を付けて」

 

 その言葉を最後にことり達は別れ、それぞれの道へと歩き出す。ことりの前には親友との輝かしい学園生活が待っている。けど彼の道は人を助けるために一人戦い続ける茨の道。ことりはそんな彼の人生を不憫に感じていた。

 鉱芽さんは19歳だけど、大学に通わず今はフリーター(本人曰く『パーラーお手伝い』)をしているって言ってた。なんでも、進学した大学を四ケ月で辞めてしまったみたいなの。でも鉱芽さんには目標があり、やりたいこともたくさんあったの。そのはずなのに自分を犠牲にして、戦いを選んだ。自分一人の犠牲でみんなが幸せならそれがいいって言うのかも知れなけど……でもそれじゃあ悲しすぎるよ。

 

 ことりは、彼の救いになれないのかな?

 

 ねえ、鉱芽さん。ことりは忘れないから。貴方が戦ったことを。貴方に守られたことを。

 もしかするとことりは沢山貴方を頼るかもしれない。だから、代わりに鉱芽さんもことりを頼ってほしいな……。

 

 帰路につく中、ことりは一人胸の内で強い想いを抱き続けていた。




ちょと明かされた主人公の経歴ですが、更に詳しく説明すると……
大学を四カ月で中退→三ヶ月前に戦いを終える。
という感じになっています。
ただ、ドライバーを手に入れた時期に関しては未だ明かされていませんが……。

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