ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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何故かすぐに書き上げることのできた今回の話

とにかく今回もどうぞ。


第41話 秋葉とメイドとパティシエ

 眩しい日差しが降り注ぐ真夏の秋葉原。時間が時間なだけに、学生服姿の人間もちらほらと見え始めている。そんな人盛りの中を歩く二つの影があった。

 

 

「悪いなザック。お前までかりだされて」

 

「いいっていいって。それに、こっちの方が店番よりも楽しそうだからな」

 

「ははっ、それもそうか」

 

 

 本来ならドルーパーズで店の手伝いをしているはずの俺とザックは、午後の秋葉の街並みを二人並んで歩んでいた。つい先刻、おやっさんからちょっとしたおつかいを任されたのだが、そこに偶々早く来たザックも巻き込まれてしまい、現在こうして二人で秋葉まで出向いているのである。もちろんドルーパーズの方はおやっさん一人になってしまうのだが、どうやら今日はそんなに客も来ないようでとりあえずは大丈夫なようだ。

 

 おやっさんに頼まれた用事も殆ど終え、後はちょっとした買い出しをすれば終わり……と言うところで、俺たちはとある奇妙な団体を目の当たりにした……。

 

 ……してしまった。

 

 

「んあっ……?」

 

 

 気付いたのはほぼ同時だが、そんな風に先に間抜けな声を発したのはザックの方だ。そして俺たちが見つけたのは、こんな真夏の昼下がりの中でサングラスにマスク、マフラーにコートと、どう見ても不審者にしか見えない、どこか見覚えのある『8つ』の人影だった。

 

 

「なぁ、アレって……」

 

「……やっぱそうだよな?」

 

 

 一人足りないのが気になるが間違いない。あの服装ではあるが携えている鞄にはしっかり音ノ木坂の校章が刻まれているし、何よりあいつ等の髪って目立つんだよっ! ほれ見ろ、周りの人間が皆お前らの事を見てるぞっ? 悪い意味で!

 

 

「何してんの、お前ら……」

 

「っ!? こ、ここっ、鉱芽っ?」

 

「なんだよ夏場からそんな恰好で。えらい目立ってんぞ」

 

 

 流石にこのままにしておく訳にもいかないので、俺はその不審者──もといμ'sに声をかけた。なぁ、泣いていいか? 本気で泣いていいかっ? 俺、この間お前らの事誇らしく思ったばっかなんだよ……。

 

 そして後ろからいきなり声をかけられた真姫は案の定気が動転し、空いている両手をわなわなと変に動かしていた。他のメンバーも俺の言葉でようやく今の自分たちの奇行に気付いたのか、すぐにサングラスとマスクを外して素顔を俺に見せる。

 

 

「まあいいや。面白かったし」

 

「面白かったって、見せもんじゃないのよ……っ」

 

「あ、そうだったの?」

 

「っ……もうっ」

 

 

 照れを隠すように外したマフラーで軽く俺の胸を叩く真姫。そんな可愛らしい行動を見てると、さっきまでの奇行がどうでもよくなってしまう。これは普段からクールでツンツンしてる真姫にしか出せない魅力かもな。そして真姫は俺だけでなくザックも共にいることを把握し、首を傾げて聞いてきた。

 

 

「それで、二人はどうして秋葉に?」

 

「ああ、おやっさんに頼まれてね。ちょっとしたおつかい」

 

「ふ~ん」

 

「そっちこそ、今日ことりが見えないじゃん? どうした?」

 

 

 そう言えば、と俺は彼女達に質問を返す。今ここにいるのは、μ'sのことりを除いた8人だけだ。なまじ誰かと行動している印象のあった彼女なだけに、ここにいないことに関して違和感を感じてしまった。

 

 

「先に帰っちゃったわ。何故か最近帰りが早いみたいなの、あの子」

 

「そっか」

 

 

 絵里の言葉を信じるとすれば、ことりはこの午後の時間帯に()()をしているということになる。う~ん……気にはなるけど、流石にそこまで深く入り込むべきではないよな。ことりが危ないことに手を出していない限りは。

 

 その後、俺は何ゆえこんな格好で秋葉に出向いていたのかを彼女達に問いただした。何でも、「ラブライブ!」に出場するためのランキングを上げるには何が必要かを、この秋葉という町に手掛かりを探しにきたのだという(不審者染みた格好についてはみんな完全にスルーしていたのでそれ以上は聞き出せなかった)。そしてそれに必要な店の一つが……。

 

 

「スクールアイドル専門店……か」

 

 

 そんな店ができる程、スクールアイドルとは大きな存在になっていたのかと、つい感傷的になってしまう。ツバサ達が台頭し始めた頃は人気はあれど、社会現象というほどじゃなかったもんなぁ……。うん、感慨深い。

 

 とすれば、ここにはやはりツバサ達A-RISEのグッズも……おっ、あったあった。やはりスクールアイドルの頂点だけあってそのスペースは一番広く、飾り付けもとても派手だ。だけど案の定、一番の人気商品のためか今日の販売台数は殆ど売り切れていて、残りは僅かなようだ。流石、天下のA-RISEといったところか……。花ちゃんなんて物凄く目がキラキラしてグッズを見つめてるし……。

 

 しかし、その後も店内を回ろうと俺が他のアイドルたちのグッズに目を向け始めた時、ザックがあるものを見つけてしまった。

 

 

「なあ鉱芽、これμ'sじゃねぇか?」

 

「……は?」

 

 

 ザックの言葉に一瞬自分の耳を疑ってしまう。ミューズ? 何で石鹸がこんなところにあんの? ……いやいや、そんな冗談言ってる場合ではない。俺はザックが指さす方向へと視線を向ける。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「……マジだっ!」

 

 

 思わず()()とザックの顔を何度も交互に繰り返し見てしまうが、間違いない。そこには『μ's』と書かれた小さめのスペースと、彼女たちのブロマイド等が売り物として展示されていた。

 

 は、えっ? ちょ、これって許可とか取ってんのか!? 何かμ'sのみんなも自分たちのグッズに驚いているけど、これって色々と大丈夫なのか!?

 

 

 ……これは後から聞いた話だが、どうやら元々「ラブライブ!」の出場するためのランキングにエントリーする際に、彼女達は自分の肖像に関する契約に承諾していたらしい……知らなかった……。もちろん、その肖像の使用は理事長(ことり母)にも連絡を取った上で……らしいが。

 

 まあ、とにかく彼女たちのグッズの扱いについては取り敢えずいいとしてだ。彼女たちの中には今も必死に自分のグッズを探している奴がいた。

 

 

「ニコ……?」

 

「っ、あった~。私のグッズぅ~……」

 

 

 昔からアイドルへの憧れと情熱を持っていたニコだ。彼女の過去については希に聞かされてから未だ覚えている。一年生のころ、憧れていたアイドルの入り口としてスクールアイドルを結成したのはいいが、メンバーは彼女の理想についていけず、結局グループは空中分解。彼女の目標、夢は更に遠いものとなってしまった。そんな過去の苦い記憶だ。

 だけど今のニコにはμ'sがある。遠のいてしまった夢に今一度手を掴める場所にいる。だからこそ、かつては望めなかった「アイドル」としての自分のグッズを見つけたニコの、その感動は計り知れないだろう。恐らく、この中で一番嬉しい思いを抱いているはずだ。

 

 ──よかったな、ニコ。

 

 自分のグッズを涙目ながらに写真に収めるニコを温かい目で見守りながら、心の中で彼女を祝う。彼女の夢が一つ叶い、そしてまた目標に近づいたのだ。それを知っているからこそ、こちらまで嬉しくなる。もはや親心にも似た心境だ。

 

 

 そんな風にニコの件に関して、俺がほっこりしていた時だった。

 

 

「すみません! あの、ここに写真が……」

 

「?」

 

 

 俺たちの耳に届いた、聞き覚えのある甘くとろけるようなソプラノボイス。俺とザック、μ's一同がその声のする方へ視線を向けると……。

 

 

「私の生写真があるって聞いて……あれはダメなんです! 今すぐ無くしてくださいっ!」

 

「ことりちゃん?」

 

「ピィャーッ!?」

 

 

 メイド服を身に纏っているが、その顔、髪、声、漂う空気。その全てが紛うことなき「南ことり」その人であった。穂乃果の呼びかけに反応してしまい、小鳥の囀りの如き悲鳴を上げることり。まるで時が止まってしまったかのようにピクリとも動かなくなった彼女が、逆に心配になってしまう。

 

 

「……ことり? 何してるんですか」

 

「……」

 

「こーとりっ」

 

「っ……」

 

 

 海未ちゃんの呼びかけにもこちらに振り返ることなく沈黙を続けることり。俺の呼びかけには一瞬反応を見せるも、やはり効果は無い。しかしいつまでも固まっているわけにはいかないと悟ったのだろうか、ことりは急にその場にあったガシャポンのカプセルを持ちだすと、まるで複眼のようにそれらを目に当ててから喋りだした。

 

 

「コトリィ? ホワット!? ドーナタディスカ~?」

 

「はっ、外国人っ!?」

 

 

 いやっ、無理があるだろそれはっ! ってか凛ちゃんも何真に受けてんだよっ!? もうっ、バカ! 二重でバカッ、お前ら! と、ことりと凛ちゃんの挙動に内心ツッコミながらも俺はことり(仮)の動きから目を放さないでいる。そんな彼女に穂乃果は更に近寄り、ことりに問いただそうとするが彼女は意地でも自分を「ことり」だと認めないようだ。いや、もう無理だって。ここにいる連中(凛ちゃん以外)みんなにバレバレだって……。

 

 そして、最後まで外国人を装いながらゆっくりと穂乃果から離れたことりは……。

 

 

「……さらばっ!」

 

 

 ……逃げたぁっ!?

 

 なんと、まさかの逃走を図ったのである。そして穂乃果を筆頭とし、ことりを追いかけ始めるμ's一同。

 

 

「……えーっと?」

 

 

 ……え? 何コレ? もしかしてまた何か一悶着あるの?

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 まさか……ここで穂乃果ちゃん達と出くわすなんて思わなかった。しかもどうしよう、よりによって鉱芽さんまでいるなんて……っ。今の自分の現状を知られるのが恥ずかしくてつい逃げだしてしまうけど、穂乃果ちゃん達も私の後を追うべく駆けてくる。ごめんね穂乃果ちゃん。でも私は捕まるわけにはいかないの。しかしその心境はどこか楽しげで、半ば遊んでいるような錯覚がしてしまう。

 

 でも、今回は私の勝ちだよ穂乃果ちゃん、海未ちゃん。そんな風に今の私は、予め決めておいた逃走ルートのお蔭で彼女たちを撒いたことに内心勝ち誇っているところだった。うん、ここまで来ればもう大丈夫……だよね?

 

 

「見ーつけた」

 

「ひゃっ!?」

 

 

 みんなを撒いたことに完全に気が緩んでいた最中、背後から聞こえてくる希先輩の声に驚いて跳びあがってしまう。えっ、どうして……?

 

 

「これ以上逃げたらそのふくよかな胸をワシワシするよぉ?」

 

「ひぃぃっ!?」

 

 

 ぅぅぅ……アレだけはやだよぉ……。だけど希先輩のいやらしい手の動きに恐れおののき、結局か細い声で謝ってしまう。だけどここにいるのは希先輩だけではなかった。

 

 

「こら、あんまし苛めんな」

 

「こ、鉱芽さん……」

 

 

「いやぁ、つい……な」とまるで悪びれる素振りを見せない希先輩を軽く小突きながら、鉱芽さんは腰に両手をあてて「さて、どうしたものかね?」と言わんばかりの困ったような表情を見せる。

 

 あぁ……やっぱり話さなきゃダメなんだ……。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「メイド喫茶のバイト……ね」

 

「はい……」

 

 

 あれからμ'sのみんなと合流し、ことりから事情を話してもらうべく場所を移動したのだが、その場所はなんとメイド喫茶だった。無論、俺もμ'sメンバーもメイド喫茶なんて初めて訪れるため、その独特の雰囲気に飲まれてしまう。因みにザックには先に帰ってもらっている。悪いとは思うが、どうせこの後はザックのシフトが入っているし、特に問題はないだろうという事で了承してもらった。

 

 そしてことりの話を聞く限り、どうやら穂乃果や海未ちゃんとμ'sを結成したくらいからこのバイトを始めていたらしい。というと、少なくとも鎧武やインベスを見た後と言うことになるわけか(彼女たちがスクールアイドルを始めたのはクラックの活動が再開した後のようだ)。

 

 しかし驚くのはその後の話だ。

 

 

「それも、カリスマメイドの『ミナリンスキー』、か……」

 

「えへへぇ…………はい……」

 

 

 更に肩を窄めることり。どうやらことりは相当その方面に向いていたようで、バイトを初めてすぐさま話題になるレベルの威光を放っていたらしい。それはもう、『カリスマ』と呼ばれるほどに。それなのにたった一か月程でメイドを辞めたため(もちろんμ'sの活動に専念するためだが)、彼女の存在そのものが『伝説』となってしまったようだ。だから伝説のカリスマメイド……というわけか、なるほど。

 

 そしてつい先日、またもやこのバイトに復帰することになった……と。

 

 

「じゃあ、この写真は?」

 

「店内のイベントで歌わされて──」

 

 

 絵里の指す写真についてことりが語るには、元々撮影禁止の話であったはずなのに、彼女の姿を撮影した輩がいたらしい。そのため、本来なら出回るはずのない『ミナリンスキー』の写真が流出し、みんなに内緒でこのバイトをしていたことりとしてはどうしてもその写真を回収しなければならなかったようだ。

 

 

「それで、その写真を回収しようと思ったら……」

 

「成り行きで復帰しちゃったわけですかい」

 

「うん……」

 

 

 はぁ……ことりらしいというか何というか……。まあ、ことりのメイド姿を見られただけでも儲けものとしておきますか。

 

 

「それで、何故このバイトを?」

 

「ちょうど三人でμ'sを始めた頃──」

 

 

 そして海未ちゃんがことりにバイトを始めた理由を訊ねようとした、その時だった。

 

 

「ことりさん!」

 

「っ、はいっ。どうしましたか、店長?」

 

「今オーナーが来てっ、それでアナタを呼んで──って、お友達?」

 

 

 ことりと同じメイド服を身に纏った、眼鏡をかけたメイドさんがことりを呼びかけた。そして、ことりの発言通りなら、この人はこのメイド喫茶の店長ということになる。大人であることと眼鏡のせいか若干知的に感じられるが、その雰囲気はあくまでも柔らかく、どちらかというと可愛い系の人だと思えた。そして店長はというと、眼鏡を指でクイッと持ちあげながら、俺たちをまるで品定めするような目で見渡している。

 

 

「はい。この人達がμ'sです。私のいるスクールアイドルの。そしてこの人が葛木鉱芽さん。私たちの指導をしてくれている人です」

 

「あ、そうなんだ。私、この店の店長の内城(うちしろ) 美保(みほ)。よろしく」

 

 

 ことりの紹介からすぐさま挨拶してくれる店長の内城さん。あれ? なんだろう……可愛い系かと思ったけど、かなりサバサバしてそうだな、この人。挨拶を返しながらそんな失礼なことを考えていた時だ。店の奥からまた更なる人影が姿を現して…………ぅえっ!?

 

 

「ことりちゃ~ん! 戻ったのなら連絡くらいしなさいよォ~!」

 

「お、オーナー。お久しぶりです」

 

「ノンノン。『パティシエ』。そうお呼びなさいと教えたはずよ? Comprenez-vous(お分かり) ?」

 

「……(うっそ~ん)」

 

 

 新たに姿を現したその人は、メイドでもなければ女性ですらなかった。いや、男性とも呼んでいいのかすら定かではない。女性が好むような派手な色の服装に身を包みながらも、その身体はそこら辺の男なんて目じゃないほどのゴツイ筋肉を有していた。その肉体美が服の下からでも分かる程で、シャツの胸元が軽く隆起している。目もバサバサの付けまつ毛を付けたり、耳に大きなイヤリングを付けたりと、色々と女性的な印象を抱かせるものが多く目に付く(だが少なくとも「女装」ではない)。

 しかし極め付けはそのおネエ口調だ。もう一度言う、おネエ口調だ。

 

 これだけで目の前の男性(?)がどれだけ異質なものか分かるだろう。

 

 しかも残念なことに、俺はこの人とは初対面ではないわけで……。

 

 

「あら、この子達は? ことりちゃんのお友達?」

 

「はい。私が所属するスクールアイドル、μ'sのメンバーと、その指導者の──」

 

「っ、あらァ~、サブちゃんのとこの坊やじゃない! また会えてワテクシ、とても嬉しくてよ。Penserez-vous ainsi(アナタもそうは思わなくて) ?」

 

「ぇ、ぁ……ええ、ご無沙汰してます。凰仙(おうせん)さん……」

 

 

 ……帰っていいですか? 私……。




鉱芽はあんな態度ですが、実際「おネエ系」キャラを描く際は割と慎重に書くようにしています。そもそも「おネエ」という言葉は非常に曖昧な使われ方をしていますが、単にオカマやゲイと同じというわけでないですからね。そこは読者の皆さんにも注意してもらいたいです。私も、馬鹿にされるような変なキャラにしてしまわないよう少し慎重になっています。

……とまあ、吉田メタルさんのインタビューを何度か読み返しながら書いているんですがね(笑)

それでは次回もご期待ください。
ちゃんとことりの話に戻すのでご安心を。
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