ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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日をまたぐ1分前に完成しました(笑)

それでは今回もどうぞ。


第42話 変わっていく人と街

「ご無沙汰してます。凰仙さん……」

 

 

「ノンノン。パ・ティ・シ・エッ!」と強く訂正されるが、とりあえず無視しておこう。

 

 さて、一応紹介はしておくべきだろうな。この人の本名は凰仙(おうせん) 岩之介(がんのすけ)。またの名を「凰仙・ピエール・アルフレッド」という。ネタではなくガチでだ。しかもどちらかと言えば、最近はその名前の方で呼ばれることが多い。

 そもそもこの人──凰仙さんはフランス国籍を得ている。しかも国籍を得るためにはフランス軍隊に入隊して、何年か兵役に付かなければならないそうだ。それらは全部、一流のパティシエになるために……。そして凰仙さんはそれを果たした。フランスという地でパティシエの道を極め、その名をフランス中に轟かせたらしい。その点に関してはホント尊敬できる人ではある。

 

 その後は日本に帰国し、自分の店をオープンさせたらしいが……その後も着々と店舗を増やしていき、今やスイーツ関連のみならず、様々なジャンルの店を構える大経営者になっていると聞く。ホント凄まじいな、この人の人生。しかし、まさかメイド喫茶のオーナーも務めていたとは……。いくつ店構える気だよこのおっさん。

 

 因みに「サブちゃん」というのはおやっさんのことだ。板東又三郎の「三」からきてるのだが、実はおやっさんと凰仙さんは昔ながらの知り合いである。凰仙さんの方が若干年上であるため、どちらかというとおやっさんの方が弟分みたいな扱いだ。

 

 

「まさかメイド喫茶まで経営していたとは……」

 

「知り合いなんですか? 鉱芽さん」

 

「ええ、モチロンよ! ドルーパーズにはワテクシも何度か顔を出しててよ。でもまさか、アナタ達も浅からぬ仲だったなんてねぇ……J'ai été surpris(ビックリだわ)

 

 

 何故かことりの問いに凰仙さんが答える。しかし浅からぬ仲、ってどういう意味だよ。誤解を生みかねんぞ、その言葉。ほれ見ろ、ことりなんか顔赤くしてブツブツ呟きながら小さくなってるし……。

 

 

「むしろ、ことりとアナタが知り合いの方がよっぽど驚きなんですけど……」

 

「この人にスカウトされたんです。私」

 

「えっ?」

 

 

 ことりが何気なく呟いたその台詞にまたもや驚愕してしまう。えっ? ことりがメイド喫茶始めたのってこの人の所為なの!?

 

 そしてことりは、このバイトを始めた時の話を語り出した。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 あれは丁度、穂乃果ちゃんがスクールアイドルを始めようって言いだして、海未ちゃんと私もその言葉に乗って一緒に頑張り始めた頃。授業が終わり、海未ちゃん指導の元での体力作りも終えて私は一人帰路についていた。だけど、ゆらゆらと変わりゆく景色を通り過ぎていく中で、私はある悩みを抱えていたの。

 

 それは自分への自信の無さ。そして、自分の無個性さについてだった。

 

 穂乃果ちゃんは常に何かを見つけてそれを実行したり、私たちを引っ張っていったりするという確かな強さを持っている。海未ちゃんは運動もできるし真面目だし、いつでも気を引き締めて物事に向かい合う姿勢を持った凄い子だ。

 でも、それにひきかえて私と言えば、穂乃果ちゃんの言う事に賛同するだけだったり、穂乃果ちゃんに怒鳴る海未ちゃんを宥めるだけだったりで、結局何一つ人に自慢できるような個性を持っているとは思えなかった。

 このままじゃいけない。みんなに迷惑をかけないように、私も……変わらなきゃ。

 

 それは、あの時見た鎧武者──鉱芽さんと出会えたことによるのも大きかったと思う。私も彼みたいに強くなりたい。誰かに、自分という存在を主張できる程に大きな存在に変身したい。

 

 そんな密かな願望を抱いていたからかな? 私は帰り道を外れてふと秋葉の方へと足を進めていたの。ここに来れば、もしかすると何かきっかけになるものがあるんじゃないか……そんな希望を抱いていたから。そして面白いことに、そのきっかけとは意外な形で出会うことになったの。

 

 

「あらっ、アナタっ!」

 

「ぇえっ? 私……ですか?」

 

「ええそうよ、そう、アナタ!」

 

 

 街中を歩いていたら、いきなり筋肉質のオネエ口調の男の人に話しかけられた。 あの時は本当にビックリしたけど、その時に出会ったのが凰仙さん。今の私がバイトをしているメイド喫茶のオーナーだった。

 

 

「アナタ、なかなか見どころがありそうね? オーラで分かるわ。因みに星座は?」

 

「えっ? え、えぇっと……お、おとめ座……です」

 

Le meilleur(最高よ)!!」

 

「ひゃいっ!?」

 

「いい! アナタいいわっ! ワテクシとの相性抜群よっ。是非ウチの店で働いてみない?」

 

 

 そう言って彼は名刺を手渡してくる。これが私と凰仙さんの出会いでした。

 あとは彼にこのメイド喫茶へと招かれ、そしてメイド服が気に入ってしまい、そのままバイトという形で……。

 

 

 でも、私はここで働けて本当によかったと思っている。成り行きで始めたバイトだけど、いろんな人と触れ合えたし、自分が必要とされてることがはっきり自覚できたし、何より楽しかった。本当に勉強になった一か月だったと思ってる。

 そしてこれは復帰してから気付いたことなんだけど、やっぱり私はこの仕事が大好きなんだなぁ、こんな私を受け入れてくれるこの町が好きなんだなぁって、そう感じたの。

 

 ともかく、なんだかんだで自信はできた。これはバイトでの経験や、μ'sのみんな、鉱芽さんとの関わりも大きかったかな。

 だけど、それでも未だに自分の個性は……「私らしさ」というものについては見出せないでいた。

 

 今も私はこうしてメイドのバイトをしているけど、それは単に楽しいからという理由だけじゃない。私が自信を持つことのできたこの店、この町で、今度はメイドではない「南ことり」としての自分を主張したい。そう思っていたから、私はバイトに復帰後も何かできることはないかと探していたの。

 

 でも、結局何をして自分を伝えたらいいのか分からなくて……。

 

 ねぇ、鉱芽さん、みんな。私、どうすれば自分を表現できるのかな?

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「でも意外だなぁ。ことりちゃんがそんなこと悩んでたなんて……」

 

 

 その後、店でまだ仕事が残ってることりを残して解散した俺たち。絵里と穂乃果、それと海未ちゃんと並んで歩いている時、ふと穂乃果がそんな言葉を零した。やはり流石の幼馴染の彼女たちでも、ことりの心境深くまでは把握しきれていないものなんだな。そして今はともかく、ことりがそこまで自分を卑下していたことにも穂乃果は意外だったようだ。

 

 

「意外とみんな、そうなのかも知れないわね」

 

「え?」

 

 

 そんな風に語る絵里に、穂乃果たちは耳を傾け始める。

 

 

「自分の事を優れているなんて思ってる人間はほとんどいないってこと。だから努力するのよ、みんな」

 

「そっか……」

 

 

 そう語る絵里の瞳は一体何を見ていたのだろうか。やはり過去の自分であろうか? しかし、彼女たちに語り掛ける絵里の母性に満ちたその声に惹かれ、俺も黙ってその言葉を聞き続ける。

 

 

「そうやって少しずつ成長して、成長した周りの人を見て、また頑張って……ライバルみたいな関係なのかもね、友達って」

 

「……」

 

 

 友達はライバル……か。絵里の言う事は確かに言いえて妙かもしれない。そうだよな……ミッチ。

 ……ま、俺のことはいいや、今は。

 

 しかし絵里の言葉に思うところがあるのか、分かれ道で一端立ち止まって互いに顔を見合わせる穂乃果と海未ちゃん。きっと彼女たちも互いをライバルと思っている節はあるのだろう。その嬉しそうで挑戦的な瞳が俺にそう思わせる。

 そして再び絵里の方に目をやった海未ちゃんは、これまた嬉しそうに告げた。

 

 

「絵里先輩がμ'sに入ってくれて、本当によかったですっ」

 

「ふふっ……けど、私がこんなこと言えるのも、鉱芽のお蔭なのよ。ねっ?」

 

「止せよ、照れるって」

 

 

 まあ、なんという不意打ちだことで。俺は絵里にそこまで大した事をした覚えはないが、そんな風に言われて嬉しくならない奴はいないだろうに。

 

 

「じゃあまた明日」

 

「バイバイっ。また明日な」

 

「「また明日ですっ」」

 

 

 そして明日への再開の約束を告げて、俺と絵里は彼女達とは別の道へと歩いていく。しかし、俺の聴力は背後の二人のその後の会話をばっちりと聞きとっていた。

 曰く、海未ちゃんも穂乃果を見て何度も頑張らなければという思いになっているとか。しかし流石に悔しいからと、具体的な内容までは語りはしなかったが。

 

 

「っふふ」

 

「どうしたの?」

 

「いいや、海未ちゃんもしっかり穂乃果とことりのライバルしてるんだなぁ……ってさ」

 

「そうね……」

 

 

 既に日は沈みかけており、夕日で辺り一面がオレンジ色に染まり出している。時間的には帰るべき頃合いなのだが、その後は適当な会話を挟みながらも、俺は絵里に誘われるがまま神田明神へと足を運ばせていた。どうやら絵里は、先にメイド喫茶から抜けていた希に会いにきたようだ。しかしどういうわけか、俺にも来てほしかったとのことである。

 

 そして神社を後にすると、俺たち3人は再び秋葉の町へと戻ってきた。都会独特の移り行く景色を悠然と眺める絵里に、希が問いかける。

 

 

「どうしたん? また戻ってくるなんて」

 

「ちょっと思いついたことがあって……」

 

「ほうほう」

 

 

 俺は少し砕けた反応で返すが、絵里の声のトーンは真剣そのものだ。俺たちを見返すことなく、未だ秋葉の過ぎゆく眺めを見つめ続けている。

 

 

「……」

 

「絵里?」

 

「二人には聞いてほしくて……」

 

 

 ビルの間から差し込む黄昏時特有のオレンジ色の光が絵里の顔を明るく、そして幻想的に照らし出す。そして絵里もまた、その胸に募った想いを俺達に話してくれた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「さっき、街を歩いていて思ったの」

 

 

 先ほどの南さんの話は、私にも決して無縁である話ではなかった。彼女もつい最近の私と同じく、自分自身を変えようとしていたからだ。私の場合は自分の好きなことに取り組んで、笑える自分になること。そして南さんの目標は、自信の獲得と、自らの個性の認識と発信だ。

 そんな風に南さんも私と同じく、変身したいという願望が心の内にあった。

 

 そして変わることのできた私だからこそ、今になって思えることがある。

 

 

「次々新しいものを取り入れて、毎日目まぐるしく変わっていく」

 

 

 この秋葉の街を眺めながら語るけど、変わっていくのは街並みだけではない。人だってそう。新しい出会いを繰り返し、何度も変わっていくものなのよね。いや、変わっていくものこそが人間なんだ。

 でも、以前の私は変わることを恐れていた。自分の変化で周囲の環境がガラリと変わってしまうことが、とかく恐ろしかった。

 

 それでも私は変わることができた。鉱芽やμ'sという、掛け替えのない素晴らしい存在との出会いが、私に変えるきっかけをくれたからだ。

 そして彼女達のように、私のような変わっていく人を受け入れてくれる存在も、人間だけではない。

 

 

「この街は、どんなものでも受け入れてくれる」

 

 

 この秋葉という街もまた、変わっていく存在を快く認めてくれる。それに同時にこの街自身だって、ある時は電気街、ある時はオタクの聖地、そしてある時はスクールアイドルの中心地、と事あるごとにその顔を変えてきた。そんな多様な変化を受けてきた街だからこそ、変わりゆく人々をも受け入れる事ができるんだと思う。

 

 だからこそ思うことがあるの。

 

 

「だから……一番相応しい場所なのかも、って」

 

「何の?」

 

「私たちの……ステージにっ」

 

 

 自信を持って鉱芽にそう返す私。もしかすると少し生意気な事を言ったのかもしれないけど、鉱芽は私の言葉に嬉しそうにはにかんでくれた。そして希も。

 

 

「本当に変わったと思うよ、絵里は。なっ?」

 

「そうやね。随分と素直になったと思うよ」

 

「っふふ、ありがと。でもね、私が変わる事ができたのは特に二人の力が大きかったと思うの」

 

 

 もちろんμ'sのみんなだって大事な要因だった。だけど、こんな私をずっと隣で見ていてくれて、常に支えてくれた希。こんな私を決して見捨てずに、変わる事を促してくれた鉱芽。そんな二人がいたからこそ、今の私がいる。だから──

 

 

「だから、改めて──ありがとう。鉱芽。希」

 

 

 私がそう告げると、二人は一瞬ポカンとした顔つきになるも、すぐに互いの顔を見合って一緒に笑い出す。

 

 

「「どういたしまして」」

 

 

 二人にそう素直に返されると、変われてよかったとより一層思えてしまう。

 

 

「(……って、話がズレちゃったわね)」

 

 

 本当はとても嬉しいんだけど……ちょっと話が逸れてしまったかな? 嬉しいと思う気持ちを一旦閉じ込めて、私は改めて鉱芽たちに向かい合う。

 

 

「なんだか話がズレちゃったわね。実はね、南さんの件でちょっと思いついたことがあるの」

 

「ことりの?」

 

「ええ。我ながらいい案と思うんだけど、二人にも相談に乗ってもらえないかなぁ? って。 希はこれから大丈夫よね? 時間とか」

 

「うん。大丈夫やよ」

 

 

 変わろうとする南さんのために何をするか。一応考えはあるものの、やはり彼女たちの意見はほしい。希は快く引き受けてくれたし、あとは鉱芽だ。そして指導者としての立場を考えてこそ、彼もきっと付き合ってくれるだろう。

 

 そう思ってたんだけど……。

 

 

「鉱芽も大丈夫よね? 今日はこれから予定とか──」

 

 

『──ピピッ──ピピッ──』

 

 

「っ!?」

 

 

 話し合いと言う名目に託けて、この後を鉱芽と過ごそうなんて考えたから罰が当たったのかな? 突如として彼の端末から電子音が鳴り響いた。そしてその音の意味は……。

 

 

「……悪いな、これからは俺のステージの予定だ」

 

「鉱芽……」

 

 

 その電子音が響くことはつまり、この街のどこかでクラックが出現したということ。そして、彼が戦いに出向かなければならないということだ。本当、なんてタイミングの悪いことか。

 

 でも……。

 

 

「……ええ、分かったわ。頑張ってね、鉱芽」

 

「また明日、鉱芽君」

 

 

 私たちはあくまでも彼を信じて送り出す。戦う術を持たない私たちにできるのは、そのくらいしかないから。だからこそ私たちはこれから仮面を被ろうとする彼に対して、表裏のない素の笑顔を彼に見せる。

 

 

「おうっ、行ってくるわ。また明日なっ」

 

 

 そして彼もまた、私たちに笑顔を返してくれる。明日の再会を約束しながら、彼は黄昏時の街中を駆け抜けていった。

 

 私たちのいる、この街を守るために……。

 

 

「ねぇ?」

 

「ん? どうしたんエリチ?」

 

「彼、何て言ったっけ? ほら、あの鎧の姿に変身した時の名前よ」

 

 

 紺碧のスーツとオレンジ色の鎧を着こんだ鎧武者の姿を想像しながら、希に問いかける。

 

 

「え~……『鎧武』と違うん?」

 

「ううん、その前よ。確か、なんとか鎧武って、彼言ってたよね? 何だったかしら……?」

 

 

 彼は鎧武の名を語る時、いつも()()()も共に口にしていた。何だったかしら……確か……ええっと……か……かめ……っ!

 

 

「そうよ、『仮面ライダー』よっ。仮面ライダー鎧武!」

 

「ああ、そうやったね。実はウチも前から不思議に思ってたんよ。製作者のお父さんが『アーマードライダーシステム』って名前を付けたのに、なんでわざわざ『仮面ライダー』って呼んでるんやろ? って」

 

「そうよね、私も気になってるのよね……」

 

 

 一体その名にどんな意味が刻まれているのか、私たちには到底理解に及ばない。だけど、彼が頑なにその名を使い続けるのにもきっと何か意味があるのでしょうね。彼にしか分からない、その名の重みと共に。

 

 

「でもカッコいいやん。人間とその街を守る、仮面ライダー鎧武。しっくりくると思うな、ウチは」

 

「……ふふっ、そうね……(そう……よね……?)」

 

 

 しっくりくる、と言う希の発言にどこか違和感を覚えながらも、私は今頃戦場へ向かっているであろう彼を想う。

 

 

 ──頑張ってね……鉱芽。

 

 

 その時私が願ったのは、戦士『鎧武』の勝利ではなく、人間『葛木鉱芽』の無事だった。




次回もご期待ください。
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