ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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最近、特に疲れやすくなってきてます、春巻(生)です。

それでは今回もどうぞ。


第44話 戦わせる罪

 穂乃果ちゃんと海未ちゃんと並んで、仲良く件のメイド喫茶を目指す日曜日の午後。今日はついに訪れた秋葉での路上ライブ決行の日だ。もう大分前に夏休みに突入したけど、それでもみんな休むことなく、今日のライブのために毎日学校に集まって練習した。今日だって午前の間は学校に集まって、最後の見直しをやってきたところだもん。

 

 だから今日のライブはきっと大丈夫。私のこの街への気持ち、きっと歌いきってみせる。

 

 そんな意気込みを抱いていた時、携帯から着信音が響き渡った。相手は……鉱芽さんだっ。

 

 

「もしもしっ」

 

『よぉ、どうだ調子は? いけそうか?』

 

「はい、バッチリですっ」

 

『そっか。俺はまだ手が離せないけど、一応ライブに間に合うようにはするから。楽しみにしてるぞ』

 

「はいっ」

 

 

 鉱芽さんも期待してくれている今日のライブ。もちろん失敗する気なんてさらさら無い。ふふっ、任せてね鉱芽さん、今日の私はとても自信に満ち溢れてるのっ。

 

 今日披露する曲を作っている時は本当に満ち足りたような毎日だった。自分が抱いている気持ち、伝えたい気持ちを言葉にできたという達成感。そして自分という存在が確かに存在し、それを発信できるという充実感が、私の日常を今までよりも更に彩らせていた。

 穂乃果ちゃん達と一緒にメイドとして働いたり、ライブの練習をしたり、みんなと過ごしたり。そんな当たり前の日常さえ、私の眼には煌めいて映っていた。だから本当に今回、作詞という仕事を受け取ってよかったと思うの。

 

 そう言えば、今日のライブは秋葉に因んでみんなメイド服を着るの。昨日みんな試着したけど可愛かったなぁ……。それとやはりと言うか、絵里先輩は何を着ても相変わらず大人な雰囲気を醸し出せるんだなぁ、と感じられた。そういうのを見てると色々と女性として負けてる気がしちゃうな……。

 でも、私だって負けるわけにはいかないんだからっ。今日だけは私が主役のステージ。絵里先輩と真姫ちゃんには悪いけど、今日は私が鉱芽さんの視線を独り占めしちゃうんだからっ。

 

 だから鉱芽さん……見逃さないでくださいね?

 

 

「じゃあ鉱芽さん、また夕方。お待ちして──」

 

 

 そうして彼との通話を切ろうとした時だった。

 

 

 脅威とはいつも突然訪れるもの。

 

 日常の崩壊なんて何時でも何処でも起きうる。

 

 だけど、まさか……こんな日に起こるなんて思いもしなかった。

 

 

 ギュィイィィィィィィン

 

 

「「っ!!」」

 

『っ、クラックっ!?』

 

 

 私たちの歩く街路の脇、ビルとビルの間の狭い小道でクラックが──世界の浸食を促すために開かれる理由なき悪意が、すぐそこに現れてしまった。端末越しでも鉱芽さんはクラックが開く音が聞こえたみたいで、直ぐに反応する。もちろんそれが何かを知っている穂乃果ちゃんは鬼気迫る表情を浮かべるけど、何も知らない海未ちゃんは何が何だか分からないという素振りを見せていた。

 

 

『ことりっ。その周りに人は? インベスは?』

 

「インベスはまだ出てきてないです。でも、街路に何人か人が……」

 

『つまり自然発生型ってことか……』

 

 

 そして鉱芽さんは「俺もすぐ行くから離れておけ!」と言うと通話を切った。多分、今頃この場所に向かってバイクを走らせているんだろう。私も本当なら鉱芽さんの言う通り、この場を離れるべきなんだろう。でもこのままクラックを見過ごすことは出来ない。少なくとも鉱芽さんが来るまでは、この事態に目を背けることなんて出来ない。

 

 

「アレは一体……」

 

「海未ちゃん近づいちゃダメ!」

 

「っ、穂乃果?」

 

 

 やっぱり海未ちゃんにもちゃんと話さなくちゃダメなのかな? もし海未ちゃんにも鉱芽さんの言う“因子”が宿っているなら、海未ちゃんもこの問題から目を背けることはできないから。なら、いっそ話してしまった方が安全だ。

 

 

「ねぇ、どうしようことりちゃん……何て言えばいいのかな?」

 

「……海未ちゃん。落ち着いて聞いて」

 

「……ことり?」

 

「ことりちゃん?」

 

 

 意を固めた私は、海未ちゃんを連れてビルとビルの間の小道へと足を踏み入れていく。穂乃果ちゃんが慌てて止めようとするけど、私は聞かないで海未ちゃんをクラックの近くに連れていく。そしてクラックの向こう側──鬱蒼と生い茂る、見た事のない植物が繁栄している未知の森を海未ちゃんに見せた。

 

 

「っ、これは……」

 

「信じられないかもしれないけど──」

 

 

 そして私は、いつか鉱芽さんが話してくれた「ヘルヘイムの森」の脅威について海未ちゃんに語り始めた。世界を超えて、驚異的な速度で浸食していく未知の植物。世界を蝕みかねない、種の繁栄という理由の無い悪意。森に巣食う獰猛な住人、インベス。そして、森に関する記憶の消滅。そんな夢物語にしか聞こえない話を、この森を実際に見せながら話すことで海未ちゃんにも信じてもらえるようにしたかった。

 

 

「確かに……こんな現象今まで聞いたこともありませんし、あんな植物だって……」

 

 

 海未ちゃんは小さく呟きながらクラックの中を観察する。実際に見れたからその存在を信じてはもらえただろうけど……少し……危なくなってきたかもしれない……。

 

 だから海未ちゃんにクラックから離れるように言おうとした、まさにその時だった。

 

 

「っ、ことりっ、アレは!?」

 

「っ、逃げて!」

 

 

 海未ちゃんは森の中で蠢くソレに気付いた。穂乃果ちゃんも連れて急いでクラックから離れる私たち。人だかりの街路の方ではなく、誰も歩いていないであろう寂しい道に続く方へ私たちは走り出した。

 

 

「ギュィァァァァ!」

 

「っ!?」

 

 

 そしてクラックを通過して羽根の生えた白いインベスが姿を現す。その声につられていったんその場に留まってしまう私たち。そのインベスはいつか鉱芽さんと初めて会った時と同じ、頭が卵の殻のように膨れ上がっている初級インベスだった。一つ違うとすれば羽根が生えて飛んでいる点だけどね。人間界へと現れたインベスはしばらくその場に羽ばたいていたけど、直ぐに私たちを見つけると地面に降り立ち、のっそのっそとゆっくりした速度で向かってきた。

 何で飛ばないのかと思ったけど、あれなら大丈夫。走って逃げきれる。そう思っていたんだけど──

 

 

「っ……はぁぁあっ!」

 

「海未ちゃん!?」

 

 

 このまま逃げるわけにもいかないと感じたのか、海未ちゃんはそこに落ちていた鉄の棒を拾い上げると、なんとインベスに立ち向かっていった。上段に振りかざされた鉄の棒は、鋭くインベスの頭へ向かって振り下ろされていく。弓道だけでなく剣道にも秀でている海未ちゃんだからこその、勢いのある一撃だった。だけど──

 

 

「ギシュ?」

 

「なっ!?」

 

 

 相手が普通の人間なら脳震盪、あるいは出血を起こしかねない威力で振り下ろされた鉄の棒は、折れることも曲がる事もなく、まるで何ともない様子でインベスの頭に添えられているだけだった。まるで微動だにしないインベスに驚きを隠せない海未ちゃんと穂乃果ちゃん。

 

 でも、そもそもインベスに人間の攻撃が効くはずがない。そう言っていたのは鉱芽さんだった。

 

 ヘルヘイムの森に住むインベスは皆、あの森の果実を食べて成長している。そしてあの果実の力は私たち世界を覆い尽くすためのもの。だからその果実を得た存在──インベスは、こちら側のあらゆる法則を全て無に返してしまう……らしいの。人間が作った兵器では傷を負わすどころか動かすことさえできない。また、鉱芽さんのお父さんが言うには、初級インベスでさえ核攻撃を無傷で耐えうるみたいなの。この世界のあらゆる運動は、インベスに触れた瞬間に綺麗に発散、あるいは消失してしまうから……。

 でも、よく考えてみたら当たり前のことだよね。相手はこちらの世界を浸食しようとする存在。私たちの世界は一方的に浸食される側。シカがライオンに勝てないように、人間もまたインベスには勝てないの。それだけが互いの世界の共通のルールだから。

 

 でも、それを唯一ひっくり返せるのが鉱芽さんの持つ戦極ドライバー。彼の変身する鎧武とは、インベスと同じ果実の力を用いて戦う戦士。だからこそ鎧武はインベスにダメージを与えられるし、倒すこともできる。果実の力が込められたロックシードがあるからこそ、鉱芽さんは今までインベスと戦ってこれた。

 だから今、本当の意味でこの世界を救えるのは鉱芽さんしかいない。

 

 しかし海未ちゃんのように生身の人間ではインベスにダメージを与えることはできない。それを先に伝えておけばよかった……っ。だけど時すでに遅く、海未ちゃんの攻撃に意も介さないインベスは、今にもその爪で海未ちゃんを引き裂こうとしていた。

 

 

「ギシュウウァァ!」

 

「ひっ」

 

「海未ちゃん!」

 

「っ!」

 

 

『本当にもうダメだ、って感じた時だけ──』

 

 

 その時、脳裏をよぎる鉱芽さんの言葉。そうだ、コレを使うのは今しかない!

 

 私はすぐに鞄の中から()()を取り出した。そして──

 

 

 カシャ!

 

 

 ギュィィィィィィン

 

 

「ギィイイイイイ!!」

 

 

 新たに開かれるクラック。そしてその中から出現する白い蝙蝠型のインベス。更なる脅威の出現に思わず身体を強張らせる穂乃果ちゃん。でもね、あれは敵じゃないんだよ。

 

 

「お願い! 海未ちゃんを助けて!」

 

 

 私の言葉が通じたのかは分からない。だけど突如として現れた白いコウモリインベスは、今にも海未ちゃんに襲い掛かろうとしていた初級インベスを突き飛ばした。

 

 よかった……。そう思いながら、私は手元に握られているロックシードをギュッと硬く握りしめる。

 

 そう、私は鉱芽さんから託されたキウイロックシードを解錠して、インベスを召喚した。使うのは初めてだけど、なんとか上手くいったみたい。

 そして白いコウモリインベスはというと、インベスを突き飛ばした後暫く飛び回っていたけど、やがて私たちを守るようにインベスと私たちの間へと割って入るように降り立った。

 

 

「(守ってくれるの?)」

 

 

 そのインベスはいつか見た蝙蝠のインベスと違い、翼が白く染まっていて、何より右腕に生えた腕がまるで剣のように鋭く、そして禍々しく存在していた。

 白い蝙蝠(コウモリインベス)は、私の疑問に応えるかのように首をこちらへと振り向き、すぐに目の前の初級インベスを見据える。これは私の意思が通じてる……って考えていい……のかな?

 

 

「ギィイイイイイィッ!」

 

 

 そして私の心強い味方となった白い蝙蝠は、目の前の敵を──主人にとっての危険を排除するために立ち向かっていった。

 

 

「ぅえっ? ど、どういう事なのことりちゃん!?」

 

「あの白いのは味方なのですかっ?」

 

 

 インベスについてある程度知っている穂乃果ちゃんでさえ、インベスが私たちの味方をしている事に驚いていた。いきなりインベスに襲われた海未ちゃんからすれば、混乱するのも必至だと思う。

 

 

「うん。私には……コレがあるから」

 

 

 そう言いながら二人にロックシードを見せる。同時にロックシードを使う事でインベスを使役できる、という説明も加えるけど、そもそも海未ちゃんはロックシードが何なのか分かっていないはずだから余計に混乱させてしまったかもしれない。とりあえず「ヘルヘイムの果実を人間が使えるようにするもの」と言い足すけど、それ以上そっちに意識を向ける余裕は今の私には無かった。だって、私もインベスを操るのに必死だったから。

 鉱芽さんに操り方は教わったけど、実際に使うのは今日が初めて。つまりぶっつけ本番だ。下手をすれば自分のインベスが敵にやられてしまうため、とにかく必死に目の前の戦闘に食らいつくしかなかった。

 

 

「ギィィア!」

 

「ギシュゥォ!?」

 

 

 白い蝙蝠の剣がインベスを切り裂く。鉱芽さんのようにはいかないけれど、それでもダメージを与える事はできるとわかった。一手一手確実に敵インベスを追い詰めていく白い蝙蝠。だけど……白い蝙蝠が相手を傷つけていくたびに途方も無い罪悪感が私の上にのしかかってくる。

 今の私は、友達を守るためとはいえ、何の関係の無い生き物を闘わせ、そして相手を傷つけている。

 

 

「ギィィォッ!」

 

「グルォァッ!?」

 

「ぅぅ……」

 

 

 インベスだって、元々は森で暮らしていただけの生き物だというのに……。そんな彼らが傷ついていく光景を目の当たりにして、自分までが同じように斬り刻まれていくような錯覚に襲われる。

 

 ──もうこんなの、早く終わってほしい。

 

 こんな悲しい光景が早く終わる事を、心から祈っていた。

 

 なのに……。

 

 

「「「「ギギィィィィァア!!」」」

 

「っ、また!?」

 

 

 現実とは残酷なものだ。初級インベスが通過してきたクラックから、更なるインベス──コウモリインベスが姿を現した。しかも4体も! そして現れたコウモリインベスの群れは、私が操っている白い蝙蝠に向かい牙を剥き始めた。

 

 

「ギィイァォッ、ギィィアッ 」

 

 

 もちろんそうなってしまえば、後に訪れるのは数の暴力という、無慈悲で残酷な現実だった。

 

 

「ギ……ギギォ…… 」

 

「あっ」

 

 

 こちらへと襲いかかろうとするインベスを阻止すれば、その倍の数の攻撃が白い蝙蝠を襲う。攻撃を与えれば、その分の倍以上の数の攻撃が襲いかかる。

 無情な暴力の数々が、私たちを守る白い蝙蝠の命を奪おうとしていた。

 

 

「あぁ……」

 

 

 白い蝙蝠がコウモリインベスの群れに苦戦する中、先に現れた初級インベスはその羽根を震わせて空の彼方へと飛び去ってしまった。でも、私にとってはそれどころではない。

 白い蝙蝠が──私の勝手な都合のために呼び出された一匹の生き物が、私のせいで死んでしまう。そんなどうしようもない後悔の中に、私の意識は深く沈み込んでいってしまった。

 

 

「ギュルルルゥゥ……」

 

「っ、ことりちゃん!」

 

「ことりっ!」

 

「っ!?」

 

 

 穂乃果ちゃん達の呼び掛けにようやく意識を起こすも、その時には既にコウモリインベスの内の一体が私に向かってその足を進めていたところだった。

 白い蝙蝠は今尚苦戦中でこちらに呼ぶことなんてできない。つまり今の私は、インベスを前にして無抵抗のまま野ざらしになっているという状況だ。

 

 

「ギギゴォァア!!」

 

「ひぃっ!」

 

 

 インベスがその腕を振り上げた瞬間、私は悲鳴とともに思わず目を閉じてしまう。

 

 ──もうダメっ。

 

 罪悪感で胸が潰されそうになって、精神が参っていたからだろうか。そんな風に内心諦めてしまった。

 

 だけど、その時だった。

 

 

「ぅんっらああぁ!」

 

「ギグォァッ!?」

 

 

 威勢の良い掛け声と共に一つの影が乱入し、インベスを突き飛ばす。そしてその影の正体はもちろん──

 

 

「鉱芽さん!」

 

 

 私が心の中でずっと想い続けていたヒーロー、葛木鉱芽だった。

 鉱芽さん渾身の跳び蹴りがコウモリインベスに炸裂し、インベスは吹っ飛ばされる…………あれ?

 

 ちょっと待って……鉱芽さん……今……

 

 

 生 身 で イ ン ベ ス を 蹴 り 飛 ば し た ?

 

 

 人間がインベスにダメージを与える事なんて出来ないと語ったはずの鉱芽さんが、変身すらしていない生身の状態でインベスを蹴り飛ばした。銃弾や核ですら突き動かすことが出来ないはずのインベスを、ただの蹴りの一つで……?

 

 

「(鉱芽……さん?)」

 

 

 そんな彼に違和感を抱いてしまうけど、それでもそんなものは彼が駆けつけてきてくれた安心感に比べれば些細なものだった。

 

 

「早くインベスを戻せ!」

 

「っ、はい!」

 

 

 急かすような鉱芽さんの指示通りロックシードを再び施錠すと、白い蝙蝠はコウモリインベスの猛攻を抜け出してクラックの中へと帰っていった。よかった……あの子が死なずに済んで。

 

 

「鉱芽さん危ないですよ! あれは──」

 

「大丈夫だよ海未ちゃん」

 

「穂乃果?」

 

 

 海未ちゃんはインベスの群れの眼前にさらされている鉱芽さんに注意を呼びかけるけど、私も穂乃果ちゃんも、彼がやられるなんて全く考えていなかった。これから何が起きるか知る由も無い海未ちゃんに対してちょっとした優越感を得てしまうけど、今はそれどころではない。

 

 ここから先の光景に対して、私は目を離すことはできない。だってここからは……彼のステージだから。

 

 

「変身!」

 

『ミックス! ジンバーレモン! ハハーッ!』

 

 

 ドライバーを腰に巻いた鉱芽さんは、いつものオレンジロックシードの他にもう一つ、見慣れない黄色の──レモンの浮彫が施されたロックシードを取り出し、それらをドライバーにセットしてその言葉を叫んだ。

 

 そうして上空に現れる二つのクラック。そこからオレンジとレモンの二つの果実が現れて空中で合体し、黒い鎧となって鉱芽さんの元に降下していく。そして展開されたアームズは、今までのフルーツのような風貌からまるでかけ離れた、戦国武将の陣羽織を着込んだような鎧と化した。

 更にその右手に握られる赤い弓も、今までのフルーツを模した武器とは程遠い無機質なデザインが成されている。それだけでも今の鎧武がどれだけ異質な存在感を放っているかがよく分かる。

 

 

「こ、鉱芽、さんっ!?」

 

「おおっ、またレモンの弓だぁ!」

 

 

 案の定、海未ちゃんは初めて目撃する鉱芽さんの変身に困惑してしまうけど、穂乃果ちゃんはその姿を見た事があるのか、どこか嬉しそうな素振りを見せる。まさか鉱芽さんのことで穂乃果ちゃんが私の知らないことを知ってるとは思いもしなかった。それには少し悔しい思いを感じてしまうものの、鉱芽さんの登場で私も心に余裕が出てきたから、今は海未ちゃんに彼の事を説明することの方が大事だ。

 

 

「こ、ことり。鉱芽さんは一体……?」

 

「……鎧武」

 

「え?」

 

「あれは、仮面ライダー……鎧武」

 

 

 そして私はその名(鎧武)を告げる。その名に冠する称号(仮面ライダー)にどんな意味があるのかは、未だ彼から教えてもらっていない。だけど、彼が名乗っているなら私はその言葉を乗せた方がいいと思った。彼がその名に込めたであろう意味を尊重したいと思った。

 

 

「見ていてね、海未ちゃん。鉱芽さんを。忘れないでね、彼の存在を」

 

「ことり……」

 

 

 こんな私たちの会話も全部聞こえているであろう鉱芽さん──鎧武は、右手に備えた赤い弓を肩に掲げて重心を落とすと、いつものあの言葉と共に、インベスに向かって走り出した。

 

 

「ここからは俺のステージだ!」




次回へ続きます。ご期待ください。

感想、評価の程、お待ちしております。
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