ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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鎧武外伝2弾に新情報ですが、やはり私の予想していた通りレモンロックシードが出ましたね。あの人なら作ってるだろうな、とは考えていましたから(笑) とにかく期待です。

それと、今作とは関係ありませんが短編(連載化する可能性あり)をあげましたので、そちらの方も是非見てもらえるとありがたいです。

それでは今回もどうぞ。


第45話 天を貫く桃色の矢

 私はその時、自分の目の前で起きている現実に目が眩んでしまいそうになっていました。ことりの窮地に鉱芽さんが駆けつけてきたかと思えば、今度は彼自身が鎧のようなものを着込んで変身してしまったではありませんか。先程ことりに見せられた森や、あの怪物の事で着いていくのに精一杯だというのに、そこに更なる混乱の種が巻かれたのだから困惑してしまうのは必至のことです。

 

 しかし、それでもまだ目の前の鎧武者の活躍を目で追うだけの余裕はありました。いや、むしろその動き自体が私の目を釘付けにして離さなかったのです。

 

 

「はあっ!」

 

 

 鎧武者の右手に握られている赤い弓らしき得物。彼はそれを用いて目にも留まらぬ早業で、一瞬のうちに何度も敵を斬り裂いていました。そのあまりの速度に恐らく穂乃果やことりはついていけてはいないでしょう。普段から鍛錬の身に置いている私でさえ、今の彼の動きを捉える事は困難なのですから。

 しかし鎧武者とてただ敵を斬るのみでは終わりません。

 

 

「ふんっ」

 

「ヒギャァォ──」

 

 

 三体の怪物を相手取っていた鎧武者は、その少し離れた場所で飛翔しようと翼を広げた別の怪物に向けて、手にした赤い弓を持ち変えて構えをとります。そして弓と一体化している矢を引き、その矢を放ったのです。鎧武者の放った矢は檸檬色の光とともに怪物の身体を貫くと、怪物は短い悲鳴とともに爆炎の中へと姿を消してしまいました。

 しかし彼が弓を射るその瞬間、荒々しく舞っていた鎧武者の“動”の動きが、一瞬にして“静”へと移るのを私は見逃しませんでした。弓を握って照準を敵に合わせるほんの一瞬のみ、彼の呼吸が変わっていたのです。普通ならこんな事、一瞬でできるはずがありませんっ。しかし彼は……あの鎧武者──鉱芽さんは、その一連の動きを難なくやってのけたのです。

 

 

「すごい……」

 

 

 思わず零れてしまう賞賛の言葉。普段から武道に励んでいる身だからこそ分かる彼の異常さに、驚愕以上の感動さえ抱いてしまいます。それはきっと、身に纏っているあの鎧のお蔭だけではないでしょう。あの境地にたどり着くまでに、恐らくかなりの時間と鍛錬を必要としたはずです。あの一寸のブレも見えない華麗な動きから、私にもそれが容易に想像できました。

 

 

『オレンジオーレ! ジンバーレモンオーレ!』

 

 

 彼がベルトに備えられている小刀を操作すると、弓の姫反(ひめぞり)鳥打(とりうち)大腰(おおごし)部分に備え付けられている水色の刃が眩しく発光を始めます。その眩しく光った刃を、彼は怪物向けて横に一閃しました。

 

 

「セイハァアアーーッ!!」

 

「「グギャァァア!!」」

 

 

 眩い斬撃によって斬り裂かれた二体の怪物が呆気なく爆散してしまいました。そう、先程から刃を振るう彼の動きはスポーツとしての剣道のそれではなく、確実に敵を仕留める剣術の構え。私が鍛錬を積んでいるものとはまるで別物の動きでした。しかし、彼の重心がどっしりと下に下がった、あのピシリと止まるキレのある剣捌きに私はどこか見覚えのあるような感覚がしました。あれは……いつの頃でしたかでしょうか? はっきりとは覚えていませんが……確か家の道場で同じような構えをとる人を見ていたことがあるような気がします。はて、あの影は一体誰であったのか……。

 

 それにしても本当にすごいです。あの怪物をもう三体も倒してしまいました……。残るは一体のみ。今の彼は、本当に鬼神の如き強さを私たちに見せていました。

 

 

「……」

 

 

 しかし……何故でしょうか。今も、怪物を仕留めようとする彼の背中が……酷く悲しんでいるように見えたのは。それと同時に思うことがあります。そう、やはり彼は今までも……。

 

 

「ことり。彼は……」

 

「海未ちゃん?」

 

「鉱芽さんは……今までもこうして……」

 

「うん。私たちと出会う前から、ずっと……」

 

「……そう、ですか……」

 

 

 ああ、やはりそうなのですね。とは分かっていたことなのに、ことりから確証を得た事で途端に心が沈んでいくのを感じます。

 鉱芽さんはいつだって誠実で明るくて、真摯に私たちと向き合ってくれていました。私も、ずっとμ'sと共に励んで、共に歩んでいると思っていました。でも、その裏ではずっとこうして……独りで命のやり取りを繰り返していたのですね。

 それがとかく悲しく、そしてそれに気付けなかった自分にも少なからず罪悪感を抱いてしまう。彼が一人苦しんでいる間に、私たちは何を楽しんでいたのかと。

 

 

「でもね海未ちゃん」

 

「?」

 

「鉱芽さんは言ってたの。『人を守る。それが今の自分のやりたいこと』だって」

 

「ことり……」

 

 

 ことりが言う彼の戦う動機。それはまるで聞こえがよく、宛ら聖人のように感じます。

 

 

「それにね、鉱芽さんにとっては『μ'sと過ごす時間そのものが幸せ』なの。『俺は自分の幸せを守ってるだけ』『私たちが心を痛めるのはお門違い』ともねっ」

 

「でもそれはっ──」

 

「うん。多分、私たちに気を使わせないための方便かもね。でもね、だからこそ、私たちは今を精一杯楽しもうと思うの。だって、それが鉱芽さんの願いだから……」

 

「……」

 

 

 ことりが言う鉱芽さんの『願い』に私は口を閉ざしてしまう。しかし卑怯な話だとは思います。あんなに独りで頑張っている彼の願いなんて無下にできるはずがないのですから。本当、意地悪な人です。あの人も。

 それでも、最後に少し寂しそうに口添えることり。ことりも鉱芽さんの心境や願いは分かっていても、完全には納得していないのでしょう。

 しかしそれはあの人だって気付いているはず。自分一人が納得したところで、私たちが納得するはずがないなんてことに。ならば──

 

 

「(ならば私たちにできること、それは──)」

 

『オレンジスカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!』

 

「セイハァアアアアアッ!!」

 

「(──それは、彼を支えていく事……なのですね)」

 

 

 残る最後の蝙蝠の怪物に迫る鎧武者の右脚。凄まじい密度のエネルギーを纏わせたその脚を食らった怪物は、最後の断末魔を上げることすら適わず爆発を起こして消失してしまった。

 

 爆炎の中でゆっくりと立ちあがる彼の勇姿に、私は一抹の憧れと共に一つの覚悟を抱きました。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「これで終わりか?」

 

 

 とりあえず目の前のコウモリインベスを全滅させ、クラックの消失も確認したところで俺はことり達に確認を取る。

 

 

「いいえ、まだですっ。さっき一匹空に飛んでいって……」

 

「っ、マジかよ」

 

 

 ことりの報告につい悪態をついてしまうが仕方無いだろう。現に今は問題が重なってただでさえ焦っているのだから。

 確かにことりの言う逃げたインベスも大問題だが、今はそれよりも深刻な問題が起きている。この場に無人スイカアームズが現れなかったことだ。ドルーパーズからここまで割と距離が離れている。俺が駆け付けるより先にスイカアームズが到着するはずなのだ。なのにスイカアームズは最後まで現れなかった。

 こんな事、今まで一度も無かったのに……。今もそうだ。もしインベスがどこかへ逃げようものならスイカアームズが迎撃に向かうはずなのに、そんな動きが一切伝わってこない。

 

 

「(何がどうなってる……)」

 

 

 スイカアームズが来ない所為で彼女達をあと一歩のところまで追い込ませてしまった。別にスイカアームズに頼っていたわけではないが、これは大問題である。もし街中に放ってあるスイカアームズ全てが無能化してしまえば……っ、後はあまり考えたくはないな。

 だが、今はスイカのことは頭から忘れよう。俺は俺のやるべきことを果たすのみだ。

 

 

「とりあえず逃げたインベスを倒さなきゃな」

 

「でもどうやって──」

 

「ハァッ!」

 

「──え?」

 

「跳んだぁぁーっ!?」

 

 

 海未ちゃんの質問に答える間もなく、俺はビルの屋上目がけて一躍した。変身することで跳躍力すら大幅に変化するのがこの鎧武だ。20m強程度のビルならジンバーアームズで余裕で飛び乗る事ができる(実はオレンジやイチゴの方がより高く跳べるんだけどな)。そして跳躍中に下から轟く穂乃果の叫びに内心ほくそ笑みながらも、難なくとビルの屋上への着地を成功させる。

 

 

「っ、私たちも行きましょう」

 

「「うんっ」」

 

 

 下からは海未ちゃんを筆頭に、三人がビルに入っていく音が聞こえてくる。ま、別に来ても問題無いからいいか。

 そして俺はドライバーからレモンエナジーロックシードを外すと、取り出した別のロックシードを解錠する。

 

 

『ピーチエナジー!』

 

 

 クラックが生成されて中から現れる桃の果実──ピーチエナジーアームズ。今俺が取り出したのはレモンエナジーロックシードと同じ、クラスSのピーチエナジーロックシードだ。そして俺はゲネシスコアにピーチエナジーロックシードをセットし、再度解錠されたオレンジロックシードと共に左拳で叩き付けるように施錠する。そして、カッティングブレードで二つのロックシードを切り開いた!

 

 

『ソイヤ!』 『ミックス!』

 

『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』

 

『ジンバーピーチ! ハハーッ!』

 

 

 ジンバーレモンアームズと分離したオレンジが上空で桃の果実と融合し、黒い鎧へと変化して俺に向かって降下してくる。そして展開されるアームズは、見た目は殆どジンバーレモンと変わりはない、陣羽織を羽織ったようなデザインをしていた。一つ違う部分があるとすれば、それは陣羽織の模様がレモンから桃に変化している点だ。

 

 これぞ、ジンバーレモンと同格を成す鎧武の強化形態の一つ。

 

 仮面ライダー鎧武 ジンバーピーチアームズ

 

 

「さて……どこだ……」

 

 

 しかし、その機能はまるでジンバーレモンとは違う。ジンバーレモンは戦闘に特化したバランス型だが、このジンバーピーチは──

 

 

「それでアイツがさ「明日どこ行「すいません本「いらっしゃ「っざけんなテ「っちだよ「きついな「アナタが「んで「きゃっはは「してんだよ「こにい「いやあ「っしょ「あれどこ「っとでな「してないで「いてて「そい「早くっ」

 

「違う……」

 

『フワァァァン『ピピピピ『プルルルル『ゴォォン『ガタタン『ドゴンドゴン『カタンカタン『ピィィィ『ウワァァァン『バチッ『ピロロロ『ゴゴゴゴゴ『キィィイン『ファンファン『グゥゥゥゥン『ドドドド『ガチャ『シュゥゥ『キキーッ』

 

「っ、どこだ……」

 

 

 耳を澄ませば四方八方から聞き覚えの無い声や雑音がなだれ込むように響いてくる。そう、このジンバーピーチアームズは、装着者の聴力を大幅に強化させる五感強化型のアームズだ。元から五感の優れている俺が纏うことで、その聴力も本来のスペック以上にまで向上している。標的が10km離れた場所にいても、軽くその位置をピンポイントで当てることができるほど、正確な空間把握ができるのが大きな特徴だ。

 しかしその反面、あまりにも強力な故に大量の情報が一気に脳に押し寄せてくるため、下手をすればその情報量に脳が耐え切れなくなって廃人になってしまう危険性も孕んでいる。だから長時間の使用は避けるし、この姿で敵を倒す時だって一撃で仕留めるのがセオリーとなっている。

 

 

「(しかしどこだ……早く見つけないと……っ)」

 

 

 流石に5分以上この姿で耳を澄ましてられるほど俺も高性能じゃない。早くしなければインベスを見つける前にこちらが倒れてしまう。半ば焦りながらも、精神を落ち着かせて耳を澄ませ続けていた、その時だった。

 

 

「──ギシュゥゥ──」

 

「っ(そこかっ!)」

 

 

 ようやく空を飛び回るインベス位置を割りだすことができた。ここから約2km先の上空、そこで奴はここから離れるように飛行していた。

 しかし予想よりも離れていなかったものだ。そう感じられたのも、今の鎧武は2km程度であれば標的を目視する事ができる故だ。だから俺は鎧武のパルプアイでも同様に、飛行する初級インベスの姿を捉える事ができた。

 ならばやることは明白だ。俺はドライバーのカッティングブレードに手を伸ばし、その小刀でロックシードを三回切り開いた!

 

 

『オレンジスパーキング! ジンバーピーチスパーキング!』

 

「──っ、いた。鉱芽さ……ん?」

 

 

 ジンバーピーチの必殺技(スパーキング)を発動させると同時に、屋上へ続く扉から姿を現す二年生たち。しかし俺の纏う静かな雰囲気を感じ取ったのか、海未ちゃんは声を発することなくそのまま黙り込んでしまう。

 

 

「海未ちゃん、どうしたの──」

 

「しっ、静かに……」

 

「ぇ? ぅ、ぅん……」

 

 

 海未ちゃんが穂乃果を黙らせたのは、きっと今の俺がとっている構え──弓道のように弓を居る構えを見たからだろう。スパーキングが発動されたのと同時に、ソニックアローが光と共に巨大な桃色の弓へと変化を遂げる。それはまるで、弓道で使われる様な和弓のような形状だった。

 

 なるほど、同じく弓を扱う者として、海未ちゃんは俺が今から弓を射るのに集中できる環境を作ってくれたというわけだ。ならば俺もそれに答えねばなるまい。現役弓道部員の目の前で無様な射撃はできないからな。

 

 ソニックアローの矢をギリギリまで引き、約2km先の敵への照準を合わせる。流石にこの距離ともなれば矢の威力が下がってしまうかもしれない。だからこそ、ジンバーピーチの最大出力のこの技を使用したのだ。外すわけにはいかない。

 

 

 そして敵への照準を固定(ロックオン)した、次の瞬間──

 

 

 俺は──その矢を上空目がけて放った!

 

 

「ふっ」

 

 

 そして広い青空へと放たれた桃色の矢は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギュォォッ!──」

 

 

 俺の耳に、小さな悲鳴と爆音を届かせた。

 

 

「ぁ……」

 

 

 彼女たちは認識できていないが、俺にはしっかりとこの目で桃色の矢がインベスの身体を貫く瞬間を目視することができた。そしてインベスはそのまま悲鳴と共に爆散してしまった。

 彼女たちには上空で小さな光が発生し、そしてすぐに消失したように見えただろう。哀れなインベスの小さな悲鳴は彼女たちには届いていないはずだ。

 

 

「……ふぃ~。終わったな」

 

 

 インベスの撃破を確認できた俺は、ゆっくりとロックシードを閉じて変身を解除する。これで一連のインベス騒動は終わりを迎えたわけだ。その安堵から、目を閉じて静かに息を吐く。

 

 

「鉱芽さん」

 

 

 そんな中、俺に迫る一つの影があった。海未ちゃんだ。

 

 

「……ごめんな。いきなり驚かせちゃって。それと、怖い思いもさせて、さ」

 

「……あなたは、バカですか?」

 

「はい?」

 

 

 え? 何? 俺、今「バカ」って言われたの? しかも海未ちゃんに?

 しかし俺の目を見る海未ちゃんの表情は決して人を馬鹿にするものではなく、むしろ何か一つ覚悟を決めた武士のような、凛々しい顔つきとなっていた。

 

 

「えぇ〜っと……?」

 

「まずは謝らせてください。あなたが独り大変な目に遭っているというのに、それにまるで気付かずに指導を頼んだり、のうのうと今を楽しんでいたことを。ごめんなさい」

 

「……」

 

「それと、これからはちゃんと私たちを頼ってください。あなたを支えるくらいなら私たちにもできます。だから、一人で全部抱えるだなんてバカみたいなことはしないでください。分かりましたか? 鉱芽さん」

 

「あぁ〜……」

 

 

 ヘルヘイムの脅威を知ってからこの短時間で、よくもまあそんな事が言えるようになったと思う。常に真面目で凛とした彼女だからこそなのかもしれないがな。しかし……。

 

 

「海未ちゃん……」

 

「はい」

 

「……ま〜じめすぎっ!」

 

「っ、ふゃいっ!? な、何をっ!?」

 

 

 少し力を強めに彼女の両肩に手を乗っけて、顔を近づけて楽しげな目を彼女の目線に合わせる。そのいきなりの馴れ馴れしい行為に、初心な彼女は冷静さを欠けて慌てふためいてしまう。

 

 

「い、いきなりなんですかっ。ビックリするじゃないですか!」

 

 

 すぐに俺の手から逃れて、顔を赤らめながら抗議を申し出る海未ちゃん。だがここで「破廉恥ですっ」と言われないだけ、まだ信用されているとみていいんだろうな。

 

 

「ごめんごめん。でもさ、そんな改まることないって」

 

「でも──」

 

「海未ちゃんはさ……」

 

「──っ」

 

 

 そして今度はゆっくりと、優しく片手を彼女の肩に乗せ、あやすような声色で語りかける。そんな俺の挙動に海未ちゃんは先程のように取り乱すことなく、少し赤みがかった顔と潤んだ瞳をこちらに向けて、ただ俺の言葉を聞き届けてくれた。

 

 

「優しすぎるんだよ。いろんな事に目を向けすぎて、それでどうすればいいか考えて、それからまた別のこと心配しだして……ホント、終いには倒れちゃうよ? 海未ちゃん」

 

「……」

 

「ま、アレだ。少しくらい相手に任せてもいいってこと。時には助けなんて出さず、その人自身の力を信じてもいいんだよ。海未ちゃんが面倒見なくても、俺は俺でやってけるからさ」

 

「鉱芽さん……」

 

「けど、ありがとうな。海未ちゃんが心配してくれるだけでも、全然心の持ちようが違うよ。うん、これで余計に負けるわけにはいかなくなったかな?」

 

「全く、あなたという人は……」

 

「よく言われるよ。『バカ』ってな」

 

 

 俺がそう告げると、ようやく海未ちゃんは目尻にしわをよせ、クスッと笑ってくれた。あのクソ真面目に固まってしまった彼女を破顔させるくらいには解せることはできたようだ。それでも持ち前の清楚さを崩さない程度には、お淑やかに微笑んでいるようだが。

 

 

「……っし、じゃあ辛気臭い話はここでお終い! この後は待ちに待ったライブだ。ほら、もっと笑って。ことりと穂乃果も、いけるよな?」

 

「はいっ」

 

「うん!」

 

「フッ……おうっ、期待してるぜ」

 

 

 急なインベスの襲撃に対して少しは参ってはいないかと心配したが、どうやら杞憂のようだ。二人とも恐怖なんて言葉がまるで見当たらないほどの明るい笑顔で俺に答えてくれた。この調子なら今日のライブは大丈夫だろう、と俺は内心安堵する。

 

 

「さっ、行こっか。みんなを待たせると悪いっしょ」

 

「「「はいっ」」」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「ふう……」

 

 

 メイド服に身を包み、夕暮れの秋葉の街で仲間と共に並び立ちながら、私は一息つける。もうすぐ始まる、私たちのライブ。私の気持ちを、私の感じた想いを歌に乗せて伝える記念すべき日。だけど不思議と緊張はなかった。だって、ここにはみんながいる。鉱芽さんもいる。そして、この街が見てるから。

 だから、今の私はこのライブに関しては何の心配もしていなかった。

 

 ……だけど。

 

 

「(鉱芽さん……)」

 

 

 観客の中に混じる鉱芽さんを視界に捉えながら、私は先ほどの彼の戦いの間に抱いた、不思議な感覚に疑問を抱いていた。それは今までなら抱かなかったかもしれない、不穏な気持ち。

 

 それは……鉱芽さんの異常性について。

 

 さっきインベスを使役してはっきりしたことがある。それは、彼らも命を持った生き物だということ。もちろん命を持ってるわけだから、その存在は儚く、尊重されるべきなんだと思う。そして鉱芽さんもそれが分かっているはずなの。

 分かっているはずなのに……彼はいつも無情にインベスを倒し続けている。戦うたびに、命ある存在を情け容赦なく、まるで何かに憑りつかれたかのように攻撃を加える鉱芽さん。インベスの命を奪うという行動に、何の迷いも見せようとしない鉱芽さん。そんな彼の行動がほんの少しだけど……異常に感じてしまった。

 

 おかしいかな? 好きな人の行動を異常だと感じるなんて……。

 

 

「っ(そうよ、そんなことない。私は何を考えてるんだろう……)」

 

 

 そう言い聞かせ、私は自分の中の小さな疑問を無理矢理払拭する。そうよね、鉱芽さんが異常だなんて……そんなことあるはずない。そもそも、今まで助けられておきながら今更そんな事を考えるのもおかしい話だ。と、私は半ば妄信的にだけど、彼を信じようとしていた。

 

 

 もういいよね、そんな複雑な話は。それよりも今大事なのはこのライブだ。そう意識を切り替えて、私は再びこの秋葉の街波と、集まってくれた観客の目をやる。

 

 

「(うん、ちゃんと切り替えなきゃ、ね。折角鉱芽さんも期待してくれてるもの。笑顔を忘れちゃダメだよねっ)」

 

 

 今ここは私たちのステージ。私の気持ち、私の個性を発信する場。余計な事を考えて届けられないなんてイヤよ。だから私は、鉱芽さんの願った通り……今を楽しみますっ!

 

 ──だから、聞いてください。みなさんっ。鉱芽さんっ!

 

 

『Wonder zone』

 

 

 

 

 

 

 これは後になって考えたことなんだけど……もしこの時、私が鉱芽さんの異常性にしっかりと気付いていられたら……彼の気持ちを理解してあげられたら……あんな……あんな残酷なことは……起こらなかったのかな……?

 

 だから……ごめんなさい、鉱芽さん。




鉱芽本人は気付いてないのですが、鉱芽のジンバーピーチは元々五感の鋭い彼が使うということもあり、実はジンバーの中で一番本人との親和性(機動性や最大出力、リスクも)が高くなっている……という裏設定。ただ、鉱芽はあんまり使わないですけどね(笑)

それでは次回もご期待ください。
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