皆さんは観に行けたでしょうか?
それでは今回もどうぞ。
太陽の光が海や砂浜に眩しく照りつける真夏の昼過ぎ。ビーチパラソルの下で静かに読書をしている私の少し前方では、私を除いたμ'sのみんながビーチバレーを楽しんでいた。さっきからちらほらと先輩達がこちらの様子を伺ってくるが、私はそれに応えようとはせず、ただクールな女を装って字を読む作業を進めるだけだった。
──何やってるのよ私は。今更みんなに、こんな態度を取るべきじゃないのに……。
頭ではそう分かっていても、実際は素直になれず彼女達からの好意もつい受け流してしまう。折角絵里……絵里先輩がみんなが仲良くなれる機会を作ってくれたというのに、私一人だけその空間に入れずにいる。
私だって本当は、あんな風にみんなと絡みたい……っ。でも、それができない。そんな簡単な事さえできない自分という人間が、この場にいることで酷く痛感してしまう。
「真姫ちゃん」
「……どうしたのよ、花陽」
お手洗いか何かだろうか、別荘へと戻る途中の花陽に声をかけられ、私は一旦字を追うのを止めて花陽に視線を向ける。ここで目を合わせただけでも、十分勇気を振り絞ったと褒めてほしいものだ。
「せっかく海に来たんだから、海でしか出来ないことをやろうよ。ねっ」
「……そうね、考えておくわ」
「アンタって本当に嫌みね」
花陽の誘いに曖昧な返事を返した途端、同じく別荘へ向かっていたニコ先輩にそう評される。嫌み、ね。確かにそう思われても仕方無いわね、今の私の態度じゃあ。でも、それをこの人に言われるのは何だか癪に感じてしまう。
「どういう意味よ?」
「混ざりたいなら素直に混ざればいいじゃない。そんな大人ぶっちゃってさ」
「さっきまで大人ぶって輪に入ろうとしなかったニコ先輩に言われたくないわよ」
だから、そんな風に挑発をかけるようにニコ先輩に食いかかってしまう。あんまり喧嘩なんてしたくはないけど、どういうわけかこの人に対してはどうもからかいたくなってしまう。何故かは分からないけど、この人は弄ってもいい人だと感じられた。ニコ先輩ならこう挑発されたらまず食いついてくる。少し子供っぽい部分があるこの人ならそうするだろう。そう思っていたのだけど……。
「“ニコニー”よ。先輩じゃなくて、ニコニー。さっきもそう言ったでしょ?」
「……」
「別に“にこ”でもいいわ。ま、アンタの好きに呼べばいいから。“真姫ちゃん”」
まさかそんな風に返されるとは思いもしなかった。挑発に乗るよりも先に、こういうところを付いてきたのは意外だった。この人も他の先輩と同じで、私が一人でいることを善しとしない人なんだと感じられた。そして同時に、彼女がそこまで思ってくれる理由を私は思い出す。そうだ、確かニコ先輩も以前は一人で過ごすだけの学園生活だったっけ。独りでいることの寂しさを知っているからこそ、私にもそうなってほしくないと思ったのだろう。さっき子供っぽいって言ったけど、訂正するわ。この人は思った以上に大人な人だった。
だけど相変わらずの私は、そんな彼女の言葉に何も応えることはできなかった。
「……ま、無理にとは言わないけど」
「真姫ちゃん。私も……待ってるから」
「……」
私にそう告げて、二人は別荘の方へと再び歩き出す。そんな二人に対して私は特に言葉を返すこともできず、再び本へと視線を向ける事しかできなかった。そんな素直になれない自分に嫌気がさす。こんなにも想われているのに、応えることのできない自分が腹立たしく感じる。そんな思いに駆られていて、結局本の字をちゃんと読むことすら適わなくなっていた。
しかしそんな時だった。
「……何だろう、これ?」
ふと花陽の疑問の声が耳に届く。ちらと首を振り向かせると、花陽が別荘の裏の林の中に目をやっているのが見えた。恐らく林の中に何かを気になるものでも見つけたのだろう。そう呑気に構えていたのだけど、その次のニコ先輩の言葉で全身の筋肉が一気に硬直することになる。
「浮いてる……ジッパー?」
「っ!?」
“浮いてるジッパー”なんて表現できるものなんて限られてくる。ソレを何度も見てきた私が、今更その言葉をスルーすることなんてできなかった。傍らに置いてある鞄から今朝出発前に鉱芽から受け取ったロックシードを取り出し、硬く握りしめながら彼女たちの元へ駆けつける。
「ちょっとどいてっ!」
「っ!? 真姫ちゃん!?」
「何よいきなり!」
「……っ……クラック……」
二人をかき分けながらその視線の先を見据え、クラックの存在を確認する。なんでこんなところまで……今も昔もクラックが開くのはあの街の周辺だけじゃなかったの……?
「(やっぱり鉱芽の言う通り……ヘルヘイムの因子のせいで)──」
「ねぇ真姫ちゃん。アレ……知ってるの?」
「──これは……」
花陽に説明を求められるけど、正直いきなりの事態で私もどう説明したらいいのか分からなかった。素直に今この世界に起きている状況を説明するのか、それとも混乱を避けるために一旦誤魔化すのか……。
「真姫」
「ぁ、絵里……先輩……」
私がクラックの説明について悩んでいた時、ふと背後から絵里先輩の声がかかった。きっと私が急に走り出したのを不審に思って後を付けてきたのだろう。でも助かった。彼女ならきっと私よりも正しい判断ができるかもしれない。
「先輩禁止って言ったでしょう? まぁ、それよりも今はコレよね」
「絵里、アンタも知ってるの? この変な裂け目のこと」
「一応ね。でもまずは鉱芽に連絡しないと」
そう言いながら絵里先輩は端末を操作しながら彼に電話を掛けようとしていた。ニコ先輩は「なんでそこで葛木の名前が出てくるのよ?」と疑問を口にするけど、今は説明している暇は無い。そして肝心の鉱芽だけど……。
「……おかしいわ。電波が届かないって……」
電話に出ないことよりも、彼の携帯に繋がらないことを不思議に感じている絵里先輩。でも私にはその意味が分かる。彼の携帯が繋がらないことに関連する理由で、一つだけはっきり分かることがある。
「じゃあ、つまり鉱芽はここに向かってるってことね」
「? どういう事?」
「鉱芽は今──」
「ぅあぁ!? あ、アレっ!!」
絵里の疑問に私がその真意について話そうとした時だった。花陽がいきなり大声を上げながら、クラックの方ではなく、この林の奥を指差していた。彼女が指差す方へと目をやるとそこには──
「っ、インベス!?」
「もう出てきてたのっ!?」
頭部を卵の殻で包んだような見た目の初級インベスが、この場から離れるように林の先──他の家や道路がある方角へと歩を進めていた。なんてこと……もう既にクラックから出てきていたなんて……。
「ゆ……夢じゃなかった……」
「ニコ?」
「あ、あの怪物……前にも見た事……あるわ……」
絵里先輩にそう告げるニコ先輩。話を聞くところによると、なんとニコ先輩は以前にもインベスを目撃した事があるそうだ。あまりにも現実離れしたその光景から夢だと思いこんでいたようだけど、こんな場所で、しかもみんなで見てしまえば信じざるをえなくなるだろう。
でも今は彼女に構わってる暇はない。一刻も早くあのインベスを何とかしなくてはならない。
「(流石に鉱芽でも間に合わないかもしれない)……ならっ!」
「真姫!」
「ちょっと!? どこ行くのよアンタ!」
「真姫ちゃん!?」
ロックシードを片手に握りしめ、私はインベスの後を追うべく走り出した。後から他の三人が追ってくるような音がするけど、今は目の前の脅威の方にしか気が向かなかった。
──あのインベスが被害を生む前に……私が何とかしなくちゃ!
そんな青い正義感と共に、私は目の前の標的に向かって全力で駆けていった
──────────────────―
「待ちなさい真姫!」
私たちの目の前で先導して走る絵里の叫び声。だけど正直な話、何が何だか私にはまるで分からなかった。林の中で変な裂け目を見つけたと思ったら、今度は夢だと思ってた怪物まで見つけてしまった。こんな滅茶苦茶な話、普通あるわけないじゃないっ。それでも今分かるのは、このままあの子を一人にするわけにはいかないということだ。今彼女を一人にしてしまえば、きっと取り返しの付かないことになってしまう。そんな予感がしたからだ。
「っ、ニコ! 花陽!」
「何よっ?」
「は、はいっ!」
だけどそんな中、いきなり足を止めた絵里が私たちに振り返ってきた。流石に焦っているのか、その声色もどこかきつく感じられ、花陽に至っては少し怯えてしまっているようだ。
「急いでみんなに知らせてきて! 『クラック』って言えば伝わるから!」
「『クラック』? ……って、ちょっと絵里!?」
「私は真姫を追うから!」
それだけを言い残して絵里は真姫の後を追いかけていってしまった。もうっ! 本当に何なのよこれは!
「ニ、ニコちゃん……」
「ぅぅ~……っ、戻るわよ、花陽」
「はいっ」
腑には落ちないけど、言われたことは果たすべきだろう。絵里の必死の表情に自然とそう感じたから、私は花陽を引き連れてみんなのもとへ戻るために林の中を駆けていった。
しかし、再び先程のジッパーのような裂け目のところまで戻ってきた時だった。
「「「ギシュゥァァァ!!」」」
なんと、さっきのような怪物が何体もその裂け目の中から姿を現した!
「「ひぃっ!」」
さっきの怪物は遠目だったからよく分からなかったけど、今すぐ眼前にいるソレらを見るとよく感じられる。本能的な恐怖──全ての生物が感じる最大の絶望──死という予感が。
そんな恐ろしい存在を前にして、平然を保ってられるほど私たちはふてぶてしくない。いや、腰を抜かさなかっただけでも十分称賛されるべきだろう。
「ぁ……ぅぅ……」
「っ、しっかりしなさいよっ!」
一度見た事があるからだろうか、隣で蛇に睨まれた蛙のように固まってしまっている花陽に比べ、私は幾分か身体が動かせていた。動かせてはいるだけで全然冷静ではないのだけど……。それでも、花陽を引きづっても逃げようとするだけの本能はまだ生きていた。だから私は花陽の手をしっかり握ると、海岸へ出ることを諦めて、絵里が走っていった道をもう一度駆け出した。
「「「ッ!? ギュォォォォ!」」」
後ろから怪物が追いかけてくる音が聞こえる。追いつかれたら何をされるか分からないけど、少なくとも命の保証は出来ないのは確実だろう。そんな存在が後ろから迫ってくるという感覚は……堪らなく恐ろしいっ。
一体どこまで走ればいいのだろうか。ゴールなんて無いんじゃないのか。そんな絶望的な考えが頭をよぎった瞬間、怪物とは違う轟音が、私たちの背後でこだました。
スダダダダダダダッ
「「「グギャァァッァォ!?」」」
「「ぅわっ!?」」
マシンガンのような激しい音が辺りに轟いた瞬間、軽い衝撃が私たち二人に襲い掛かり、私たちはそのまま前のめりに転んでしまう。一体何があったのかと後ろ振り向くと、私は先ほどのように再度困惑する羽目になったのだった。
「な、何よアレ……」
「スイカ……?」
スイカ模様の巨大な何かが、怪物と私たちの間の道を遮るように浮いていた。それは少し不格好だがヒト型に見えなくもない。そしてその手を思わせるような形をした場所からは、僅かに煙が漏れていた。今あの怪物が地面に倒れているのは、きっとこのスイカの仕業なんだと自然と思えた。このスイカは味方なんだ、そう確信できた。
──じゃあ、私たちは助かるのねっ。
思わぬ助太刀の参入に、そう思わずにはいられない私たちだった。
──────────────────―
もうどのくらい走ったかは分からないけど、幸いにもインベスは道路に出ることなく、ずっと林の中を進んでいてくれた。そして、ようやくインベスのすぐ近くまで追いついた。
「お願いっ!」
ギュィィィィィィン
「グウォォォォァ!」
そう叫びながら私はロックシードを解錠し、クラックを出現させてインベスを呼びだす。現れたのは頭に悪魔のように捻じれた角を二本備えた、ヤギインベスだ。よしっ、これくらい強いインベスなら勝てる。
そして私はロックシード使ってインベスを使役し、敵インベスへ攻撃を始めた。
「グウオオォォォ!!」
「ギシュゥァァァ!?」
ヤギインベスの強烈な突進が初級インベスを吹き飛ばす。しかし手ごたえを感じると同時に、インベス同士の戦いを仕向けてしまうことに対する罪悪感も胸に到来してくる。
「(ごめん。でも、今はこうするしか無いの)」
インベスという存在とその正体について考えた時、今の私のしていることは倫理的に外れたものであることは百も承知。それでも今はこの脅威を止めるために、私は心を鬼にしなくてはならない。彼が……鉱芽が自分の心を殺してまで戦っているというのに、私がこのくらいのことに耐えられなくて何になると言うのよっ。
「グゥォオ!」
「ギュィ!?」
ヤギインベスの角がうねりを上げて伸長し、猛スピードでインベスへ迫っていってその身体を貫かんとする。でも相手も初級とは言えインベスであるからか、簡単にはその外骨格を貫けない。それでもダメージは通るようで、今もヤギインベスの猛攻の前に初級インベスは成すすべなく、ただ吹っ飛ばされるだけである。
──これならいける。
私がそう感じた時だった。突如頭上から轟音が聞こえてきたと思えば、直後にマシンガンのような激しい連続した音響が私の耳に轟いた。
「ギュォォォォ!?」
「うっ……スイカ……ね」
衝撃を防ぐために掲げた腕を退けて、目の前の存在──無人スイカアームズを確認する。きっと鉱芽が飛ばしてきたものだ。スイカ兵は現在滞空携帯のジャイロモードの状態で浮いており、今しがたその腕のガトリングでインベスを攻撃したのだろう。その攻撃のお蔭で、インベスは今も虫の息だ。
──よし。これなら倒せる……っ。
思わぬ助っ人の参上に更に鼓舞され、初級インベスにとどめを刺すべくヤギインベスに命令しようとした、まさにその時だった。
スイカ兵が滞空モードを維持したまま、いきなり地上に降りてきた。
かと思えば、地上形態に変化することなく、ただそのまま地に足を付けてしまった。
「……え?」
やがてスイカ兵はその身体を支える無く、無様に前のめりに地面に倒れてしまう。
そして光を発するとともに、粒子となって姿を消してしまった。後に残されたのは、スイカアームズの元となるスイカロックシードだけである。
「(……え、どういう事? なんで急に……?)」
私は今自分の目の前で起こった事に混乱してしまっていた。無人スイカアームズは突如として機能を停止してしまった。今まで何度も私たちを助けに来てくれた大玉の兵士が、まるで何の予兆もなしに無力化してしまった。そんな異常な事態に、思考がまるでついていってなかった。
そんな事に気を取られていたのが災いしたのだろう。
「ッ! グギャォォ!」
「っ、しまった!」
私が先程の異変に気を取られているうちに、初級インベスはこちらに向かって──正確には、先程スイカ兵が消えた場所に落ちているスイカロックシードに向かって駆け出していた。急いでヤギインベスに指示を出して敵を止めるように動かすけど、もう間に合わない。
スイカロックシードを手にした初級インベスは、自らの口にそれを運び、なんと食べてしまった。インベスの食料はヘルヘイムの果実。そしてこのロックシードというのは、いわばヘルヘイムの果実を加工したようなものだ。従って、インベスが果実を食べるのと同じようにロックシードを摂取しても、何ら不思議ではない。しかし──
──マズいわ……スイカみたいな強力なものを摂取してしまったら……。
「ギュ……ギュゥゥッ……ッ、ブゥオォォォォォォォ!!」
ロックシードを摂取したインベスの身体はたちまち膨れ上がり、もはや原型を留めなくなる程まで巨大化を始めた。その身体は赤く変色を始め、そして次第に猪を模した形状へと変化していく。そして気が付けば先ほどまで初級インベスだったそれは、身長4m近い巨大なイノシシインベスへと進化と遂げてしまった。
猪よろしく二本の雄々しい牙。後ろになびく二本の巨大な水色の角。西洋建築を纏ったような金属質の外骨格。それらを備えたこの存在は、宛ら巨大な戦車のようであった。
「ブォオオオオオオッ!!」
「グゥォアァアアァァ!!?」
「あぁっ!」
進化を遂げたイノシシインベスは、憂さ晴らしと言わんばかりにその巨体を持ってしてヤギインベスを踏みつける。その桁違いの力にヤギインベスはただされるがままであった。
ヤギインベスはまだ死んではいないけど、その耳を
「もういいわっ! 帰って!」
ギュィィィィィィン
私がロックシードを施錠してクラックが出現する。その光景にイノシシインベスが気を引かれた瞬間、ヤギインベスはイノシシの足元から離脱してクラックへと戻っていく。それと同時に閉じられるクラック。
──よかった……とりあえずあの子が死ななくて……。
でも、そうなれば次の標的が誰になるかなんて明白だった。敵がいなくなったと判断するや否や、イノシシは別の的へと突進していく。
たとえそれが、こんな至近距離だとしても……。
「ブモォォォォォオオッ!!」
「ぁっ」
こっちに来る。逃げなきゃ。
だけど足が動かない。近すぎるっ。
敵のあまりの速さと、そして恐ろしさに、思わず立ちすくんでしまっていた。
「ぁ……」
──鉱芽……っ。
命の危機、まさにそう呼べる瞬間に私が想ったのは、やっぱりあの人の顔。
でも……おかしいかな? 彼だけじゃないの、思い浮かぶのは。
彼と同じように、彼女達も……μ'sのみんなの顔も思い浮かべてしまう。
おかしいかな? 心を開けなかった人達の顔をこんな時に浮かべてしまうのは。
でもそれは多分……私もみんなの事を受け入れたかったからだと思う。私もみんなと同じように、遊んで、感じて、名前で呼び合ったりしたかったからかな? 私も胸を張って……μ'sの一員だと言いたかったからかな?
私は今この時になってようやく、自分の素直になれない行動を後悔していた。
だけどもし……もし、またみんなといられるなら──―
「真姫っ!!」
「──きゃっ!?」
突然真横から何かに飛びつかれ、そのまま地面に飛んでいく私
危なかった……もし今誰かが助けてくれなかったら……そう思うと寒気が止まらない。そして私は、こんな自分を助けてくれた人の顔を見るべく、軽く汚れてしまった顔を上げる。
「何無茶な事してるのよっ!」
「ぇ、絵里……」
私を助けてくれたのは絵里先輩……いや、絵里だった。
「もう少しで死んじゃうところだったのよ! 分かってるの!?」
「……ごめん」
久しぶりに鬼気迫る彼女の表情の前に、私はしゅんとなって謝るしかなかった。だって、怒ってる彼女の眼には今も僅かに涙が浮き出ていたから。必死になる姿から、どれだけ私を大切に思っているかが伝わってきたから……。
「ごめん……絵里……」
「分かってくれたらいいのよ……それと──」
「?」
「──ようやく名前で呼んでくれたわね、真姫」
そう言って優しい笑みを見せてくれる絵里。そんな彼女に一瞬呆気に取られるも、すぐに笑顔を思い出して彼女に返す。ズルいわ。こんなに嬉しそうに微笑まれたら、返さないわけにはいかないじゃない……。
「ブルォォォォォォ!!」
しかしインベスはそんな感動的な場面を待ってくれるほど粋ではない。私を仕留め損なったと認識すると、すぐに身体を翻してこちらに牙を向けてくる。
一命は取りとめたものの、危機はまだ去っていなかった。だけど──
「大丈夫よ、真姫」
「え? ……って絵里っ、それは!?」
絵里の右手に握られていたソレ──ロックシードを目にし、私は驚きの声をあげる。えっ? でも確かそのロックシードは……。
「この間、希から受け取ったの。自分より私の方がきっと必要になる、って」
絵里が今手にしているドリアンロックシードは、以前鉱芽が希先輩に託したもの。彼女はそれを絵里に渡したんだ。これも希先輩の占いの結果……なのかしら?
「お願い」
絵里がロックシードを解錠して、クラックからインベスを呼び出す。彼女の頼みに答えて現れたのは、全身を真紅に染めた、翼の生えたライオンインベスだ。
「グォォォォッ!」
ライオンインベスはその翼を持ってして飛翔すると、イノシシインベスを撹乱すべく縦横無尽に飛び回り始めた。
──────────────────―
「ちょ、ちょっと!? どうしたのよっ!?」
目の前で起こった事態に、私は困惑と焦りの混じった声を上げてしまう。何故なら助けが来たと内心喜んだ矢先、怪物から私たちを助けてくれたスイカ型の物体が、突如として動かなくなってしまったのだから。そして光を発したと思えば、スイカ型の物体は姿を消してしまっていた。いきなりの事で何が何だか分からず、混乱を起こしてしまう私たち。
でも、いつまでもそうしてはいられなかった。助けてくれる存在が消えたという事は即ち、怪物の獲物は私たちになるという事だから。
「ぁぅ……ニコちゃん……」
隣の花陽が怯えながら私の腕にしがみついてくるけど、こんな光景を目の当たりにすれば至極当然の行動だと思う。私だって怖い。今も私にしがみついている花陽の手を強く握りしめている。
「「「「ギュルルルル……」」」」
怪物が唸り声を上げながらゆっくりこちらへ迫ってくる。
──もうダメなのっ?
一瞬そんなことが頭をよぎってしまう。
「(……あれ?)」
しかし迫る怪物を前にして、私は一つ既視感を覚えていた。
……待って。確か私は以前もこの怪物たちに襲われていたのよね。
じゃあ、その時は一体どうやって助かったんだっけ?
助けてもらった……?
そうだ! 確かあの時は誰かに助けられたんだった!
「(あの時私と希を助けてくれたのは──)」
ギュィィィィィィィィィン
その時私と花陽の隣に、この怪物が出現した時のように宙にジッパーが出現し、開かれる。しかし、その開き方は先ほど見た鞄のジッパーのような開き方ではなく、ある一点を中心として放射状に渦を描きながら開いていた。
そして、その中から現れたのは──
「ぉらあぁっ!」
刀を片手に桜色のバイクに跨った、橙色の鎧武者だった。
今回の鉱芽さん、出番最短記録更新です(笑)
そしてニコも第11話以来となる鎧武との接触。さて、どうなるか。
それと今までは日常→戦闘でしたが、今回は逆パターンです。
つまりこの騒動が終われば……?
それでは次回もお楽しみください。