それでは今回もどうぞ。
挿入歌:E-X-A Exciting × Attitude
時の華
時は十数分前に遡る。
ツバサにゲネシスドライバー託して家から飛び出した俺は、鎧武に変身するとすぐさまサクラハリケーンを起動して発進させた。もちろん目指すはμ'sの合宿が行われている真姫の別荘。しかしそこへ行くには障害物が多すぎる。交通、建造物、法律、様々な要素が大型二輪が目的地に到達することを遅延させてしまう。
しかし今の俺──正確には俺の跨るサクラハリケーンには裏技があった。
ピピピッピピピッピピピッ──
疾走するサクラハリケーンがその速度を更に上げるとともに、ディメンションインジケーターと呼称される立体電子パネルの計測器が電子音を発し始める。この特殊なデジタルメーターは一定以上の速度を超えると、その機能を速度計から別のものへと変化するのだ。
そしてデジタルで表示された数字の列がどんどんと暴走を始め、『999』と表示されたその時、大きな変化が俺の周りで生じ始める。
ギュィィィィィィィィィン
サクラハリケーンの進行方向にクラックが出現し、渦を描きながら放射状に開いていく。それと同時に桜吹雪を巻き上げながら、二輪のフロント部分を中心として車体は俺ごと“回転”を始めた。
「っはぁ!」
変身していなければ車体から投げ出されかねないほどの強い回転を体験しながら、俺を乗せたサクラハリケーンはクラックの中へと突入していった。クラックの通過と同時にクラックが閉じる音が聞こえ、やがて回転から解放される俺。だがその景色は先ほどまでのコンクリートに囲まれた街波でなく、鬱蒼と生い茂った木々が延々と続く未知の森の中であった。
そう、今まさにクラックを通って俺が疾走しているこの場所こそ、ヘルヘイムの森。
諸悪の根源。理由の無い悪意が蔓延る、まさに死者の世界とも呼べる世界。そしてインベスの住まう場所である。
そしてこのサクラハリケーンはただの移動用の大型二輪ではない。今の俺のように空間を跳躍する機能が搭載されていたのだ。人為的にクラックを発生させ、搭乗者をヘルヘイムの森と人間界を行き来させる「時空間転移システム」。それがサクラハリケーンの真の能力だ。
この機能のお蔭で俺はいつでも自由にヘルヘイムの森を訪れることができるし、ロックシードを補充することもできる。説明をしていなかったが、このヘルヘイムの森はインベスの住みかであると同時に、ヘルヘイムの果実の原産地でもある。そして戦極ドライバーを付けた俺がその果実を手にとった時、有害な果実は、人体に影響を及ぼさないロックシードへと姿を変えるのだ。
──ともかく、今目指すべきは真姫の別荘だ。
そんな中でも考えるのはみんなの無事である。
サクラハリケーンはただ空間を超えるだけではない。そしてこのヘルヘイムも、ただの異空間ではない。繋がっているのだ、人間界とヘルヘイムは。空間同士という意味ではなく、互いの座標的な意味で。
このヘルヘイムでの移動距離は、そのまま人間界の移動距離に換算されるのだ。例えば、ヘルヘイムで数歩西に歩くことは即ち、人間界でも数歩西に歩んでいることになっている。
つまり、俺がこの森で真姫の別荘までの距離に相当する分を走って人間界に戻れば、それだけで彼女たちの元へとたどり着くことが出来る……というわけだ。
旅費とかその他云々を払う必要が無いのは些か汚い気もするが、まあ今は非常事態だ。細かいことは目を瞑ろう。
ギュィィィィィィィィィン
やがて全速力で疾走していたサクラハリケーンの目の前に、先程と同じような放射状に開いたクラックが現れる。あれを通過すれば、そこはもう彼女たちの合宿場だ。
──頼む! みんな、無事でいてくれ!
そんな願いと共に、俺はサクラハリケーンに跨ったまま、左腰の無双セイバーを引き抜いてクラックを通過していった。
────────────────────―
「ぉらあぁっ!」
突如として目の前に飛び出してきた存在に、私たちはまたも腰を抜かしそうになる。第一、普通は考えられないでしょう、いきなり何も無いところから刀を手にした鎧武者がバイクに乗って現れるなんて。非常識もいいところだわっ。
あのバイクに乗った武者──いや、この場合バイクに乗っているのだから「ライダー」と表現したほうが正しいかもしれないわね。そして私は、あのライダーを見た事がある。そう、あの時も確か、こうやって私たちを怪物から助けてくれたのよね。
「ふんっ!」
「「ギュルワァァァア!」」
ライダーが怪物とすれ違う瞬間、手にした刀を振るって怪物を斬り裂いていく。それはもう、目で追うのが困難になる程の早さで。私も、バイクが通り過ぎた後に怪物が地に伏すのを見て、ようやくライダーが刀を振るっているのを認識できたくらいだ。
ライダーの斬撃を食らった怪物はどういう原理か分からないけど、一体一体悲鳴と共に爆発して消えてしまった。ライダーが現れてから怪物が数体消えるまでにおよそ5秒。その短い時間の間に、ライダーはあの怪物たちを倒してしまったのだ。
しかしライダーは怪物の群れを抜けるとすぐに車体を急転回させて、再度怪物の群れの中へと突っ込んでいく。そして先程のように刀を振るって、次々と怪物たちを無に還していく。その勢いはまさに鬼神そのものだ。
「すごい……」
彼の華麗なる活躍に思わず声が漏れてしまう。ライダーの怒涛の無双に対する興奮もあるだろうけど、それ以上に彼の振舞の済み済みから感じ取れる不思議な魅力に目を奪われてしまった。動きの一つ一つがとてもしなやかで鮮やかな色どりを感じられ、それは宛らアイドルの演技を見ているような錯覚にすら陥ってしまう。
そんなライダーの活躍だけど、どうやらそろそろ終わりのようだ。気が付けば怪物は最後の一体を残して全滅してしまっている。
「セイハァァーーーッ!」
「ギギュァァア!!」
しかしその最後の一体も、今しがた彼の一刀を食らって爆散してしまった。
そして私たちの周辺の怪物を全て倒したと確認したライダーは、バイクから降りるとゆっくりとこちらへ向けて歩み寄ってきた。
「ひ……」
「大丈夫よ、花陽」
「に、ニコちゃん……?」
花陽は目の前のライダーに怯えの色を見せるけど、私はそんな彼女の手を握って安心させるように声をかける。花陽は目の前の得体の知れない存在に少なからず恐怖を感じているようだけど、私の方は不思議と恐怖は感じなかった。むしろ二回も助けられたからだろうか、妙な安心感が彼から感じられた。
「これで全部か?」
「しゃ、喋ったっ?」
仮面を被った所為で素顔は見えないけど、少なくともこちらを見ていることは分かる。そしてライダーは私たちを見て、今の現状について問いただしてきた。花陽は彼が普通に日本語を話していることに驚いているけど、今はそんな事に意識を向けている余裕はない。だって──―
「……まだ、もう一体向こうに。友達が追いかけて、それで……」
まだ真姫と絵里の無事が確認できていないもの。みんなの無事を確認できるまで、私は心を休める気なんてないわっ。
だけど今は彼に──―この得体の知れないけどどこか安心できる存在に──―彼女達を任せるしかない。それを歯がゆく思いながらも、私は彼に彼女達を助けるよう目で訴えた。
そしてライダーは私の指差した方角を見ると、再びバイクに跨った。
「サンキューな。とにかく安全なところにいとけよ。ニコ、花ちゃん」
「「ぇ──」」
それだけ告げて颯爽とバイクを走らせるライダー。
気が付けばもう声の届かない場所まで行ってしまっていた。
だけど……え? 今、私たちの名前を呼んだ……?
「ニコちゃん……今のって……」
「……」
私の名前なんて知ってて当然よっ。なんせニコニーは、みんなのアイドルだからっ…………なんて今は言ってる場合じゃないわよね。一つ分かるのは、あのライダーは私たちの名前を知っているということ。普通に考えればμ'sのファン……かしら。
でも、私はともかく花陽を「花ちゃん」って呼ぶ人間なんて限られている。いや、私の知っている限り、そんなのは一人しかいない。
だとしたらあれは……アイツは……。
「葛木……?」
────────────────────―
サクラハリケーンを急停止させ、俺は無双セイバーのバレットスライドを引いて弾薬を込める。ガンモードに変化した無双セイバーを、今まさに興味の対象をライオンインベスから絵里と真姫に変えたイノシシインベスの立派な角に向けて、その銃弾を放った。
「はぁ!」
「ッ!? ブモォォォォォオオッ!!」
「っ!? 鉱芽っ!」
「遅いわよ!」
俺が駆け付けたことに安心したのだろうか、強張っていた二人の顔の筋肉が緩むのが確認できた。それと同時に俺たちの上空を飛行しているライオンインベスをクラックに戻す絵里。なるほどな、空飛ぶライオンインベスでイノシシインベスを撹乱して逃げようとしたのか。しかし殊の外イノシシインベスがすぐにライオンを諦めて標的を彼女達に変更してしまった……というところに俺が来たわけか。
自分で解析するのもアレだが、相当ギリギリだったんだな……。
彼女たちには申し訳ないとは思うが、取り敢えずはこのデカブツを何とかしなければならない。そしてそのためには──
『スイカ!』
──俺もデカブツになる他ないだろう。
俺は戦極ドライバーからオレンジロックシードを外すと、スイカロックシードを代わりにセットし、施錠する。すると特大サイズのクラックが表れ、新たなアームズが俺に降り注いでくる。
「え? アレってさっきの……」
絵里が球体のスイカアームズを見てそう零すのが耳に入り、一瞬思考の海に入り込んでしまう。「さっきの」と言う事は今まで無人スイカアームズがここにいたということだろうか? しかし姿が見当たらない。さっきのニコと花ちゃんのところにはスイカロックシードが落ちていたが(もちろん回収済み)、アレと同じように消えてしまったのだろうか。そしてその所在というのは恐らく……あのイノシシインベスの腹の中……だろうな。
しかし今更そんな推測は意味を成さない。今俺に必要なのは、目の前の敵を倒すという心構えだけだ。そして俺は意識を再び目の前の敵に変えると、意を決してカッティングブレードを切り下した。
『ソイヤ!』
『スイカアームズ! 大玉・ビッグバン!』
『ヨロイモード!』
「は、ハラショー……」
スイカアームズへとアームズチェンジを完了し、すぐさま地上戦闘形態のヨロイモードへ移行する。そのあまりの特大のアームズに、絵里は半ば放心しながら、感心したような声を上げる。
「ブモォォォォォオオッ!」
「ふぅんらぁぁぁあ!」
こんな目立つ標的を見つけてのんびりしていられるイノシシインベスではない。俺がアームズチェンジを完了するや否や、その牙を立てて全速力で猛突進を繰り出してきた。しかし俺もそれに負けるつもりはない。足場をしっかりとかため、重心を落とし、迫りくるイノシシの牙を掴み取った。そしてその後は互いの力比べである。巨体のぶつかり合うその様は、宛ら相撲の試合のようにも見えるだろう。
イノシシインベスの牙を掴みとった俺は、次第にインベスの頭を持ちあげて敵の前足を浮かせる状態にまで持ち込んだ。そして──
「っ! おぉぅりゃぁぁああ!!」
「ギギュゥゥォォォオ!?」
それこそ正しく力士のごとく、相撲の投げ手のように俺はイノシシインベスの巨体を地面に向けて投げ飛ばした。勢いよく地面にぶつけられ、無様に転がっていくイノシシインベスに、俺は追い打ちをかけるべく迫っていく。しかし──
「ッ! ブボォォォォオ!」
「っ、逃げた!?」
「ハッ、逃がすかよ!」
『大玉モード!』
すぐさま立ち上がって文字通り俺に尻尾を巻いて逃げだすイノシシインベス。しかしその走り去った先は海だ。このままだと海にいるみんなが危ない。ならばと俺は、スイカアームズを球体の大玉モードへ移行させ、回転してその後を追いかけた。
……なんか回ってばっかだな、今日の俺。
林の中を巨大なスイカが転がっていくという、何ともシュールな光景が生まれているが、もう慣れたことだ。この際、見てくれは気にしない。
そしてようやくイノシシインベスに追いつきかけるが、残念ながらそこは既に砂浜だった。ほぼ同時に海岸に出る俺とインベス。俺の少し後方ではμ'sのみんな砂浜に集まっているのが見える。多分、さっきの騒動で何かあったことを察して、海から上がったんだろう。
まあ結局、またインベスに巻き込んでしまったわけだけどな……。
「ブモォォォォォオオッ!!」
「きゃっ!? な、何アレ!?」
「猪のインベス……それと……」
「おっきなスイカにゃー!」
インベスと鎧武を認識した各人は皆警戒の色を見せる。しかし何故か凛ちゃんだけは何故かテンションが高めだ。スイカ……好きなんだろうか? ま、いいや。
──そろそろ終わりにさせてもらうからな。
『ヨロイモード!』
『ソイヤ! スイカスカッシュ!』
「御免……」
ヨロイモードに変形してすぐさま
「ギニュォォオ!?」
スイカ型のエネルギー体に身体を拘束され、完全に身動きが取れなくなってしまったイノシシインベス。そして最後にスイカ双刃刀を両手に持ち、剣道の上段の構えを取ると、そのまま得物を振りおろしてインベス向けて刀を投げ飛ばした。
「おぉぅらぁぁあっ!!」
ブーメランのように高速で回転しながらインベスへと迫る緑色の双刃刀。そしてその刃は、なんとも呆気なくインベスを真っ二つに斬り裂いてしまった。
「ギギュァァァァァァア!!」
悲鳴と共にインベスは爆散し、海に再び平穏が戻ってきた。スイカからオレンジにアームズチェンジを行い、クラックが出現したらしき場に向かおうと踵を返すも、林の中から真姫と絵里、それとニコと花ちゃんがこちらへ歩いてくるのが見えた。
「クラックなら閉じたわよ」
遠くでも聞こえることが分かっているのか、真姫はこの離れた距離からクラックの消滅を伝えてくれた。なら、もう心配する必要はない。林の中でインベスに襲われていた4人が皆と合流したのを見て安堵した俺は、変身を解除しようとした。
まだ何も伝えてなかった花ちゃんやニコからは色々言われそうだなぁ……。そう仮面の中で苦笑いを浮かべながらも、俺は彼女達の無事にすっかり安心しきっていた。
その時だった──
ギュィィィィィィィィィン
ギュイィィィィイン
ギュィィィィィィン
「っ!? なっ!?」
──砂浜で9人集った彼女達を囲うように、大量のクラックが一斉に開いたのだ!
「「「「ギシュォァァァァア!!」」」」
「「「「イギュゥォォォオ!!」」」」
そして中から大量のインベスもまたμ'sを囲うようにして現れた。
「「きゃぁあ!」」
「っ、どういう事よ!?」
「なんでこんなに……っ」
「鉱芽さんっ!」
安心しきったところへの更なる脅威の到来に戦慄する俺達。しかし、これで一つはっきりしたことがある。今彼女達に襲い掛かっているのは『理由のない悪意』などではない。
これは明らかに彼女達に狙いを定めた『確信的な悪意』だということだ。
今まで因子を持つ彼女たちの周りで開かれたクラック。それは単に彼女達に惹きつけられたものではない。今もこうやってクラックを操ってる……
そして恐らく、ここ最近の無人スイカアームズの不調もソイツが絡んではずだ。
『チェリーエナジー』
『ロックオン!』
だが、この状況で今の俺にできるのはその犯人捜しではない。今まさに悪意によって摘み取られようとしている、可憐な9つの花を守る。それだけだっ!
戦極ドライバーからライダーインジケータを取り外してゲネシスコアを接続、すぐさまチェリーエナジーロックシードをセットする。
『ソイヤ! ミックス!』
『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』
『ジンバーチェリー! ハハーッ!』
クラックから降下してくるサクランボ型のチェリーエナジーアームズとオレンジアームズが融合し、新たな黒い鎧──ジンバーチェリーアームズとして俺の身体に装着される。展開されたアームズの陣羽織の部分には、いくつものチェリーの浮彫が施されていた。
そしてアームズチェンジを完了した俺は、今まさに彼女達に牙を向こうとするインベスの群れ目がけて走り出した。
その瞬間、俺の姿は忽然とその場から消え──
「──らぁっ!」
「「「ギュォァ!?」」」
「っ!? ……っ、え? 鉱芽さんっ?」
「何今のっ。いきなり現──」
──次に現れた時には既にインベスを数体斬り捨てて、彼女達の目の前に姿を現していた。彼女達には俺がまるで瞬間移動したように見えた事だろう。しかし俺は確実に50m以上離れた距離を“走ってきた”のだ。要は超高速で動き回り、一瞬で距離を詰めて彼女達の元まで駆け付けたのである。
目にも止まらぬ加速、早業で敵を一瞬で仕留める。それが鎧武の超高速形態──
仮面ライダー鎧武 ジンバーチェリーアームズ
「──っはぁ!」
「っ、また消え──」
彼女たちの言葉を聞き終える前に俺は姿を消して、再びインベスを無に返すべく刃を裁て始める。もし動体視力が優れているなら、俺の動いた後に赤い閃光が見えるはずだ。そしてその赤い閃光の通った跡では、インベスが次々と悲鳴を上げながら爆散していく。
ジンバーチェリーの戦い方は高速戦法で、すれ違いざまに敵を斬ることに特化している。だから敵はこのスピードを捕らえなければ勝機は無いし、ここのインベスではそれは到底不可能だろう。
「ふぅらぁっ!」
「「「「ギュゥォオッ!!」」」」
一体一体着実に斬り捨て、爆散するインベス。
──ああ、こんなに一度に大量の命を奪ったのはいつ以来だろうか……。
そんな罪の意識にも似た感情を抱くが、無理矢理抑え込めて次の標的に向けて走り出す。
そして同時に、俺はクラックに向かって──正確には、森の中にいるであろう“存在”に、声を轟かせた。
「オイ! 聞こえてんだろうっ!」
「「?」」
「
いきなり叫びだした俺に、μ'sのみんなは不審そうな表情を浮かべる。ま、仕方ないよな。相手も見えないのに急に話し出したりしたら、そんな反応もしてしまうだろう。それに、俺だって自分でビックリしてるよ。戦闘中なのにこんな挑戦的な口を叩くなんてな。
でも……それでも今は……彼女達を狙う、姿の見えないあのクソ野郎に物申さないと気が済まなかった!
「──
「「「……」」」
「だから…………去れ!」
砂浜に現れたインベスは一通り片づけた頃だろうか、最後にクラックの中の森に向けてそう叫ぶ俺。
流石に返事は無いだろうか。出来ればこんなことを仕掛けてくるような、卑劣なヤツの顔を拝見したかったのだが……。
そう思っていた矢先だ──
『ダークネスオーレ!』
「っ!?」
森の奥から聞き覚えのあるような電子音と共に、毒々しい色をした巨大な球体がクラックを通ってこちらに迫ってきた。そのエネルギー体の形はまるでリンゴで、その色ゆえに毒リンゴのような印象を受けてしまう。
──コイツは……マズイっ!
『ソイヤ! オレンジオーレ! ジンバーチェリーオーレ!』
迫りくるとてつもないエネルギーの塊に今まで感じたことのないほどの恐怖を抱いてしまうも、何とか勇みを保ってドライバーを操作する。ソニックアローの刃にサクランボのような赤色の光が宿り、俺はその刃に回転の勢いを付けてエネルギー体に叩き付けた。
「セイッハァァァァァーーーーッ!!」
「「きゃぁっ!?」」
エネルギー体とソニックアローがぶつかり合う瞬間、猛烈な衝撃が辺り一面を襲う。砂は舞い、木々は揺れ、波は逆流を起こす。
「っ、ぅぐぐ……っ!」
ソニックアローを伝って俺の身体にピリピリとした痛覚が次第に伝わってくる。これは……予想以上にしんどい……っ。それによく見れば俺の鎧にもヒビが生じているし、何より球体を受け止めているソニックアローもピシピシと嫌な音を立て始めていた。
まさかここまで重い一撃とは……っ。全身全霊をもって放った一撃でさえ、ここまで苦戦させられるとは思いもしなかった。
でも、後ろにはみんながいる。俺が守りたいと思った女神達が、俺を信じて待っている。だから──
「鉱芽さん!」
──ここで……負けるかぁっ!
「っ……ぅぅらぁぁぁぁぁあっ!!」
そして俺は……刃を振りきってエネルギー体を消し飛ばした。
「っ……はぁ、はぁ……」
しかし同時に変身が強制的に解除され、思わず膝をついてしまう。
すぐに顔を上げて前方のクラックを確認するも、その球体を放ってきたクラックは既に閉じられていた。
「っ、鉱芽!」
「大丈夫っ!?」
「鉱芽さん!」
「はぁ……ぁ、ああ。大丈夫だ……はぁ……はぁ……っ……(なんだ……アイツは……っ)」
膝を付いた俺に真っ先に走り寄ってきた真姫、後に続く絵里とことりに一応は大事が無いことを伝えるも、内心ではこれ以上ないほどの脅威を覚えていた。
──あんな奴がまだ森にいるなんて……。しかも俺の聞き間違いじゃなければ、あの音は……。
放たれたプレッシャーからか息切れを起こし、手の甲にポタポタと額から汗が滴り落ちる。砂を握りしめる手も僅かに震えを起こしている。そんな動揺を隠そうともせず、俺は森の中に一瞬だけ見えたあの“黒い鎧”に、これから起こりうる激戦のビジョンを予感せずにはいられなかった。
士の言った通り、俺の戦いは終わってなどいなかった。
むしろこれから始まるのだ。
──世界を蝕む悪意との、本当の戦いが。
合宿篇はもう少し続きます。
それと今回のスイカアームズの技《双刃割り(投合)》は、アイスラッガー(平成ver)のようなものと思ってください(昭和だと回転してないんですよね、アイスラッガーって)。
次回もご期待ください。
感想お待ちしております。