ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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通算60000UA記念。今回はユウゴのプロフィールです。


名前 鹿角(かすみ) 祐吾(ゆうご)
一人称 僕
年齢 21歳(初登場時)
誕生日 5月5日
血液型 A型
身長 175cm
好きな食べ物 さくらんぼ
嫌いな食べ物 辛い物

裕太の兄。『フラワーショップゆうゆう』の経営者。花を扱う人らしく、笑顔の綺麗な青年。親が他界しているため、裕太の親代わりとして今まで彼を育ててきた。なお、その端整な顔立ちから女性ファンが多く、バイトの希望者が後を絶たないとか。

――――――――――

絵里とナックルのフィギュアーツが発表されましたね。
エリチ可愛い! ナックルカッコいい!
とにかく届くのが楽しみです。

それでは今回もどうぞ。

ED:きっと青春が聞こえる


第50話 楽しい時間

 温泉での心休まる入浴の後、約束通り海未ちゃんと絵里と俺で明日の練習メニューを考えた。今度はストッパーとして俺だけでなく、ダンスレッスンの時間なども絵里のお蔭で十分考慮出来、最終的に無理の無いタイムスケジュールを作る事ができた。色々あったが、ともかく二人には感謝だな。俺一人じゃ少し考えるのが大変だったかもしれない。

 

 

 ただ、その作業を行うに関して一つ驚いたことがある。正確には風呂上りの時の話であるが、入浴後、俺は別荘に備えられていた新品の下着とローブ(院長用かお客様用か分からないが、真姫は「あげるわ」と言ってくれた)を着てみんなのいる部屋に向かっていた。

 

 その道中、同じく寝間着の姿になっていた絵里と遭遇したのだが……まあ、風呂上りで尚且つこれから寝るというのだから当たり前なのかもしれないが……普段と違い彼女は髪を下していた。

 

 

「あ、鉱芽も上がったのね」

 

 

 

 

『──こーうがっ。ふふっ♪』

 

 

 

 

「ぇっ……(亮……ちゃん?)」

 

 

 その姿を目にした一瞬、俺はふと“()()”の姿を連想してしまい、思わず言葉が詰まってしまう。まるで電池が切れたように動かなくなった俺を絵里は不思議そうな顔で見つめてくるが、俺はしばらくの間それに気付くことができなかった。

 

 

「……」

 

「? どうしたのよ鉱芽?」

 

「……」

 

「……鉱芽?」

 

「……っ? ぁ……いや、ごめん。ちょっとのぼせちゃって……あはは……」

 

 

 ──絵里が髪を下せば、まんま亮ちゃん。いつだったか、彼女の外見の印象としてそんな感想を抱いていたことを思い出す。しかし、まさか髪を下しただけでこうも似るとは……彼女の面影を見てしまうとは思いもしなかった。

 

 端的に言うなら、見惚れてしまっていたのだ。今の絵里の姿に。

 

 それが亮ちゃんの面影のせいなのか、それとも絵里本人の魅力故なのかは判断が付かないが、それでも一瞬でも彼女に他人の面影を見た事に内心申し訳なく思っていた。「絵里を亮ちゃんだと思ったことは一度もない」とツバサに言った手前、その言葉が嘘になり掛けたのだ。少し反省しなくてはならない。

 何せ……絵里にも亮ちゃんにも失礼だからだ。

 

 絵里には何ともないよと適当な理由で返してしまうも、彼女は疑うことなく「大丈夫?」と気をかけてくれる。そんな純粋な絵里にまた一つ心奪われそうになるが、生憎そこ止まりだ。結局それ以上の心の高まりは起こる事はなかった。

 

 

 その後は海未ちゃんと合流し、三人で明日の練習メニューを組むに至ったわけだ。そしてその作業も終わりを迎え、後は寝るだけになっていたのだが……。

 

 

 

 

 バスンッ ヒュン キャー

 

 

「……なんだ?」

 

 

 彼女達が寝ている大広間から離れた違う部屋で、一人布団を被って意識を手放そうとした時だった。何やら彼女たちのいる下の階から軽い騒動が聞こえ、俺はゆっくりと身体を起こして意識を下の階に向けた。

 

 

『やったなー』

 

『そっちこそっ』

 

『えいっ』

 

『ぅわぁっ』

 

 

 聞こえてきたのは楽しげな彼女たちの掛け声と、何か柔らかいものを投げ合う音だった。あぁ~……ね……恐らく枕投げでもしているのだろう。合宿だというのにそのノリはもはや完全に修学旅行気分だ。

 だが、ここで彼女達を静止させる程俺も無粋ではないし、このまま楽しそうな彼女たちの声をBGMにして寝るのも有りだろう。

 

 そう思って再度掛布団を被ろうとしたのだが……。

 

 

『何事ですか……』

 

『あぅわぅわわぅわわ……』

 

『え、えぇっとぉ~……』

 

 

「……え?」

 

 

 明らかに一人声のトーンがおかしい人物がいることに気付き、再度身体を起こして耳を澄ませてしまう。少し小さい声だが、みんなの怯えるような声が聞こえる。もちろんそれは、その異様な空気を醸し出している()()を除いたみんなの怯えだが。

 

 

『どういうことですかぁ……?』

 

 

「う……海未ちゃん……?」

 

 

 明らかに今まで見てきた彼女とは違う怒り方に、部屋が離れているにも関わらず、一種の緊迫を覚えてしまう。しかも声色から察するに、アレはかなり頭に来てる様子だ。

 

 ……これ、止めないとマズい系かな?

 

 

『明日……早朝から練習するといいましたよね……』

 

『う、うん……』

 

『それをこんな夜中に…………ぅふ、うっふふふっふふ──』

 

 

 ……あ、ヤバイ。相当キてるわコレ。

 

 海未ちゃんを信用していない訳では無いが、今の箍が外れている(であろう)海未ちゃんが何をしでかすか分かったもんじゃない。取り敢えず怪我人が出る前に彼女を止めなければ……と部屋を出て大広間に向かおうとする。しかし……。

 

 

『ふぅん!』グゥォォン!

 

『ぅぐぁあ!?』ドン

 

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

 

 部屋を出て廊下に出た途端に聞こえてきた風を切る音と衝撃音につい声が出てしまう。

 

 ──―え? 何? 今のって海未ちゃんの枕……? 廊下なのにすっげぇ聞こえてきたぞ!?

 

 

『ニコちゃん! ダメにゃ……もう手遅れにゃぁ!』

 

『超音速枕……』

 

『ハラショー……』

 

 

 どうやら最初に彼女の餌食になったのはニコのようだ。しかもいくら俺の聴力が優れているからって、壁を抜けてまで枕の投合音なんて聞こえてくるか普通? そんな常識外れの威力を持った海未ちゃんの枕は、少しオーバーだが花ちゃんの称する通りまさに「超音速枕」と呼べるものだろう。

 

 俺は……食らいたくないな……。

 

 

『んっふふっふ……覚悟は出来ていますね……』

 

『どうしよう、穂乃果ちゃんっ』

 

『生き残るには戦うしか……っうおっ!?』バスッ

 

『ひぃっ!?』

 

 

「(戦っても生き残れないぃっ!?)」

 

 

 どうしよう、ニコに続いて穂乃果までやられてしまった。ならば尚更早く行かなければ……っ。ここまで箍の外れてしまった海未を眠らせるために、俺も廊下を移動する速度を上げる。しかしそれでも鬼神の如くの強さを発揮する海未ちゃんの前では無意味なようで……。

 

 

『ごめん海未んぐぅっ!?』ボスッ

 

 

「(絵里ぃぃ!? 嘘だろォィ……)」

 

 

 間髪入れずに海未ちゃんは絵里まで仕留めたようだ。そして同時に怯え声を発する花ちゃんと凛ちゃん。どうやら次の得物はその二人のようだ。だが……そこまでだ海未ちゃん。

 

 ようやく俺は、大広間に続く扉を開けた。

 

 

「オイ海未ち──」バタンッ

 

「っ!? ふぅん!」ブォン

 

 

 しかしその瞬間、海未ちゃんは条件反射的にこちらへ向けて枕を投げてきた。それはもう、普通なら目にも止まらぬ程の物凄い速度で。ここ二階だっていうのに何ていう威力と精密度だよ……。

 

 

「──っ。何……」バシッ

 

 

 だが俺は、その枕を右手で難なく掴み取る。

 

 

「やっ……」

 

 

 そしてすぐさま振りかぶる体勢に入り……。

 

 

「……とんねん!!」ヒュン

 

 

 海未ちゃん向けて勢いよく枕を射出した。

 

 

「ぅぐ!?」ドムッ

 

 

 俺の枕をもろに顔面に食らった海未ちゃんは、そのまま布団の崩れ落ちて意識を失ってしまった。ふぅ……これで一段落ってわけか。

 

 

「こ、鉱芽さんっ」

 

「助かったにゃー!」

 

 

 魔王海未ちゃんを倒した勇者の存在を確認した花ちゃんと凛ちゃんは安堵の息を上げる。ついでに他のメンバーも俺の登場にほっと息を付いているのが聞こえた。ああ、それほどみんな追い込まれていたんだな……。

 

 

「お前ら……ホントは俺を休ませる気ねーだろ」

 

「べ、別に私がやったわけじゃ……」

 

「あれー? 最初に仕掛けたのは誰だったかなー?」

 

「それはアナタでしょ! 希!」

 

「(おっ?)」

 

 

 そんな二人のやり取りの中で、俺は真姫が希の名を呼んだのを聞き逃さなかった。そしてそれはみんなも同様で、ようやく名前を呼んでくれた真姫に温かい眼差しを送っていた。

 

 

「自然に呼べるようになったやん。名前」

 

「えっ……」

 

 

 それから照れを隠すようにツンとした態度を見せ続ける真姫。しかし、どうあれ彼女が皆に対して心を開いて、それを態度で示したという事実は変わらないだろう。色々危険が付きまとった合宿だったが、こうして真姫がみんなと打ち解けられただけでも、この合宿は意味のあるものだったと感じられた。

 

 

「さてと、取り敢えずみんなを元に戻すか」

 

 

 そう言いながら、俺は先程自分の手で眠りに就かせた海未ちゃんに手を回して、お姫様だっこの要領で持ち抱えた。もし彼女が起きていたら、間違いなく恥ずかしさから顔を真っ赤にして拒絶の言葉でも浴びせただろうが、今の気を失った彼女ならそんな事は無いし容易に持ち抱えることができる。

 

 

「わぁ……」

 

「海未ちゃんがお姫様だっこされてる……」

 

「おぉ、すごくレアなシーンやん」

 

「いいなぁ、海未ちゃん」

 

「……」ソワソワ

 

 

 俺が海未ちゃんをお姫様だっこで抱えた途端、皆口々に好き放題言葉を述べる。しかしことり、「いいなぁ」なんて最早自分の気持ちを隠す気もないのな、お前は。真姫に至っては興味無さげに振る舞ってるが、凄くそわそわしてるのが横目でも分かる。うん、なんか……正直な奴ばかりだな、μ'sって。まあ、それはそれでいいけどさ。

 

 

「他のやつはみんな近い布団に寝かそっか」

 

「「「「「うん(はい)」」」」」

 

 

 海未ちゃんを元の布団に寝かせた後、みんなで協力して寝落ちしたメンバーを布団に戻す作業に入る。しかし、みんなそこまで散乱していたわけでもないのだが、残りのメンバーのおふざけが再び横行して作業が少し遅れたのはまた後のお話。

 

 そして俺も、また眠りに就こうと思ったのだが……。

 

 

「ねえ、また何かあったら面倒だし、ここで寝たら?」

 

 

 そんな真姫からの提案に階段を上がりかけた足を止める。確かにさっきみたいな騒動が起こって一々治めに降りてくるのは面倒だ。しかし、年頃の男女が同じ部屋で寝るというのは些か問題がある。いや、そもそも俺が問題を起こさなければ済む話なのだが、そう言う如何わしい状況になるべく身を置きたくないというのが俺の正直な気持ちだ。俺も何だかんだ言って海未ちゃんと同じような生真面目な感性の持ち主なのかもな。

 しかし、彼女達が許してくれるならここで寝たいというのもまた事実だ。さて、他のみんなはどんな反応をするか……。

 

 

「それは嬉しいけど……みんなはいいのか? 俺がこの部屋にいても」

 

「わ、私は……いいと思います。ね? 凛ちゃん」

 

「うん、凛も賛成にゃー」

 

「ウチも問題ないよ」

 

「私も、鉱芽さんにはここに居てほしいです」

 

 

 あれま、結局みんな許してくれたよ。そっか……なら四の五の言わず、言葉に甘えてこの部屋で寝泊まりするか。

 

 

「そっか……じゃ、ここで寝るか」

 

「え? そのソファーで、ですか?」

 

「そっ。今から布団敷くのも面倒っしょ? だからな」

 

 

 とは言え、流石に枕と掛布団、それと変身ツールは手元に置いておきたいので、一旦元の部屋に戻って回収してくる。そしてちゃんとみんなの位置や寝顔が見えるソファーの上で、俺は再度就寝することにした。

 

 ふぅ……やっとゆっくりできそうだ……。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「……」

 

 

 まだ朝日も登っておらず、優しく静かに波の流れる早朝の海を眺めながら、俺は一人皆の過ごす別荘の屋根の上で物思いに耽っていた。もちろんその内容は、昨日激突したあの謎の存在の事だ。あそこまで強力な力と、クラックを自在に操る能力は極めて危険で、今まで対峙してきた敵以上の脅威を感じざるを得ない。しかし、それでも未だ腑に落ちない点も存在する。

 昨日のように自由にμ'sの周囲にクラックを開けるなら、俺やスイカアームズの間に合わないところで確実に彼女達を仕留められるはずだ。なのにヤツは今までそうしてこなかった。この合宿が始まった途端、まるで急に元気が出たかのように、バカみたいにクラックを発生させたのだ。それが不思議で仕方なかった。

 

 もしかすると、まだヤツには何かしらの制限があるのだろうか? 自由に彼女達を狙えない、何かしらの要因がまだある……というのか?

 

 ……分からない。一体俺の周りで何が起こっているのか、まるで検討が付かない。

 

 

「……お前じゃないんだよな……武神(ぶじん)……」ガチャ

 

 

 懐からある一つのロックシードを取り出し、それに向けて質すように呟く。

 

 そのロックシードは、俺の持つ他のロックシードとはまるで違う形状、そして雰囲気を持った異質なものであった。全体がオレンジ色で構成され、宛らオレンジロックシードに見えるかもしれないが、その大きさは通常のロックシードよりも一回り大きく、形状もゴツゴツしていて今まで以上に機械的な印象を俺に与えていた。

 

 しかし何より特徴的なのは、側面に施された「鍵穴」のような溝だ。今までのロックシードには無かったこの穴の意味を理解することは出来ない。だが、それだけにこのロックシードが異常だという事が分かるだろう。

 

 

「……」

 

 

 そして、この謎のロックシード……表面に『K.L.S.-01』と記された異質の錠前を手にした時の事を、俺は今一度振り返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレッシュ! オレンジスカッシュ!』

 

『FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

 全身をオレンジ色に染めた武者と、マゼンタと白のコントラストが効いた一人の戦士が共に跳躍する。その眼前に見据えるは大樹と巨大な赤い花──否、花の中心に居座る赤色の鎧を纏った武者であった。

 跳躍した二人の戦士の前には、オレンジの輪切りの層と、バーコードのような模様の付いたカードの層が、何層にも渡って出現する。オレンジ色の鎧武者はオレンジの層を、マゼンタの戦士はカードの層を、それぞれ己の最大の武器である右足を付きだし、次々と突き破っていった。

 

 そして二人の戦士の脚が赤い武者を貫いた瞬間、赤い武者は花共々爆発を起こし、大樹は折れて盛大に地面に倒れふし、やがて次第に光となって消えていった。

 

 

 しかし変身を解いたオレンジの武者──葛木鉱芽が、赤い武者の力の源であった「赤いオレンジロックシード」を手にした瞬間、彼の周囲で異変が起きた。

 

 

『っ!? フレッシュオレンジが……っ?』

 

 

 彼のドライバーにセットされていた、フレームまでオレンジ色に染まった特異なオレンジロックシードが突如として彼の手から離れ、彼の周りを浮遊し始めた。そんな光景につい驚くも、そんな暇なくしてすぐに彼の手に持つ赤いオレンジの錠前も同様に浮かび始める。そして驚く彼の目の前で二つの錠前は、まるで元からそうであったかのように、融合して一つのロックシードに変化したのだ。

 

 一見オレンジのような外見のロックシード。しかしそのゴツゴツした見た目や、今までと違う位置に存在するアンロックリリーサー、そして謎の鍵穴の存在が、彼にこの錠前の異質さ、そして恐ろしさを無意識ながらに伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直、最初はまたお前の仕業かと思ったよ……」

 

 

 過去を思い出しながら、俺はかつて対峙した強敵を思い出し、ソイツの元となったこのロックシードに声をかける。「クラックを自由に操る」というワードで真っ先に思い出したのはコイツだ。何せその力を目の当たりにしているし、何度か渡り合ったからだ。しかしこのロックシードを見て確信する。アイツは確かに倒した。ここにこのロックシードががある限り、もうあの怪物は悪さは出来ないはずだ、と。

 

 だから、ソイツ──武神(ぶじん)の仕業という線はなしだ。

 

 だとすると、今彼女達を狙っている敵とは一体何者なのか……?

 

 確証は無いが、もしかすると武神以上の脅威であるのかもしれない。そして、そんな奴がまた襲い掛かってきたとして、俺は9人全員を守り抜くことなんてできるのだろうか……。

 

 

「(もしかすると……)」

 

 

 俺は再度、この異質のロックシードに忌々しげながらも、どこか希望を見出すような眼差しを向ける。

 

 

「(この力を使う時が来るのかもしれない……)」

 

 

 出来ればそんな日は訪れてほしくないのだが、敵が敵だけに他に選択肢が無くなっているのが現状だ。

 

 

「…………ん?」

 

 

 真剣に悩んでいるうちに朝日が昇ろうとしていた時だっただろうか。別荘の入り口から誰かが出てくる音を聞いて、直ぐにロックシードを懐にしまう。こんな朝から誰だと思い、顔を出して屋根の下を覗くと、希がまるで隠れた猫を見つけた時のようなにやけ顔でこちらを見据えているのが見えた。

 

 

「あ、そんなところにいたん? 鉱芽君。おはよう」

 

「よぉ。おはよう希。にしても早いな……朝日でも見に来たか?」

 

「うん。まあ、そんなところかな。ウチは砂浜に出るけど鉱芽君はどうするの?」

 

「俺はここでもう少しゆっくりしておくよ。屋根の上で朝日を拝むっ……こういうのも悪くないだろ?」

 

「ふふっ、そうやね。じゃあ、また後で」

 

「おうっ、いってらー」

 

 

 やはり普段の巫女さんのお仕事で早起きには慣れているのだろうか。まるで眠そうな素振りも見せない希は、ゆっくりとその足並みを海岸の方へと進めていた。

 

 

「(一人朝の潮風に当たる……か。これもスピリチュアル……かねぇ?)」

 

 

 それから程なくして、再び別荘の扉が開く音がした。今度は誰かと思いながら下に目線を向ける。早起きと言ったら海未ちゃんだと思ったが、その予想は外れることとなった。

 

 

「(ぉっ? 真姫じゃん)」

 

 

 希に続いて目覚めたのは真姫だった。声をかけようとするも、彼女はまるで俺に気付くことなく、ただその足並みを一直線に希に向かって進めていた。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「どういうつもり?」

 

「別に真姫ちゃんの為やないよ」

 

 

 今にも朝日が見えそうなほど明るくなった空を背景にして静かに佇む希に、私は測るように彼女に問い質す。朝からそうだったけど、みんな私がμ'sの輪の中に入れるよう努めてくれていた。だけど彼女だけは──希だけは他の誰よりも、いっそう私がみんなの中に入れるよう後押ししてくれた。その意図が見えなかったけど、その想いの一端が見えたのは夕食の買い出しの時だった。

 

『どういうつもり?』

 

 余程疲れているのか、まるで寝息を立てない鉱芽を休ませたまま、私は半ば強引についてきた希と共に近くのスーパーまで歩いていた。そう言えばその時も、今と全く同じ質問をしてたっけ。ともかく、私はどうして希がここまで私に真摯になって構ってくるのか気になっていた。

 

『別に? 真姫ちゃんも面倒なタイプやなぁ~って』

 

 面倒なタイプ……か。確かにそれは自覚している。希に言い返せないまま、彼女は更に言葉を続けてくる。ホントはみんなと仲良くなりたいのに、どうしてもその一歩が踏み出せない。そんな私の抱いていた気持ちを、彼女は見透かしたように言い当ててくる。

「自分は普通にしてるだけ」なんて取り繕っても、希は見透かすように、そして見てきた事があるかのように私を理解してくれる。それが実はとても嬉しく感じるけど、彼女にもっと自分を理解してほしいという気持ちと、これ以上彼女に心を見透かされたくないという思いがぶつかり合って、今一歩彼女に対しても素直に自分の気持ちを伝えることは出来なかった。

 

『どうして私に絡むのっ?』

 

 そして、結局はそんな風に突き放すような言葉が出てしまう。本当はもっと寄り添いたいのに、思った事が口に出せない。彼女の言った通り、私は本当に面倒な人間なんだろう。

 

『ほっとけないのよ』

 

 なのに彼女は私を見捨てるようなことはしない。そんな彼女が眩しくて、つい言葉が詰まってしまう。何も言えなくなってしまう。だからその後は、特に踏み込んだ内容の会話が起きることはなかった。

 

 だから今は、その時の会話の続き。希がどうして私に絡むのか、その本当の気持ちを彼女から聞きたかった。

 

 

「あ、そうや」

 

「?」

 

「昨日な、エリチから聞いたんよ。真姫ちゃん、インベスに襲われてた時にエリチのこと名前で呼んだんやって?」

 

「う“ぇっ!? えっ……ぇ、そ……そうね……呼んでたわ、名前」

 

 

 しかしいきなり何を言いだすかと思えば、昨日思わず口に出てしまった絵里の名前の件についてだった。

 

 

「やっぱり真姫ちゃんも、心の中ではみんなと近くにいたいんやろ? だから昨日の夜も自然と名前を呼べたんとちゃう?」

 

「……」

 

「それは肯定ってことでいいんやね」

 

 

 そうね。口に出すのが難しい私にとってはこれが精一杯の方法よ。

 そんな私の反応に満足したのか、希は視線を海に向けたまま、神妙な顔つきになって語り始めた。そしてそれは、私がずっと知りたかった希の気持ちの一端だった。

 

 

「ウチな、μ'sのメンバーの事が大好きなん。ウチはμ'sの誰にも欠けてほしくないの」

 

「……(希……)」

 

 

 そこから彼女の口から語られる、μ'sに対する様々な想い。それは恐らく彼女が心から思ってることなんだろう。彼女の口にする優しく、そしてどこか儚い声色が彼女の切な想いを余計に彩るようだった。そして同時に、彼女がここまでμ'sに入れ込んでいたことに軽い衝撃を覚える。

 確かに希の言う通り、彼女は今まで散々μ'sを支えてきた。メンバーでなかった頃からずっと見守り、助言もしてくれた。だけど、まさかそこまで……もしかするとメンバーの中で一番このグループの事を大切に思っているのではないか。そう思わせるほど、彼女の言葉の端から感じられる想いは、強く硬いものだった。

 

 

「ぁ、ちょっと話しすぎちゃったかも。みんなには秘密ね」

 

 

 なんて、可愛らしく私にそう言い足す希。全く、あれだけμ'sへの想いを語っておいて黙ってくれだなんて……。

 

 

「面倒くさい人ね、希」

 

「あ、言われちゃった?」

 

 

 何だかんだ言っても、この人も私と同じで素直じゃないところもあるんだな、と内心微笑ましく思っていた。そうね……彼女と一緒なら、私ももっと素直になれるのかもしれない。どこか自分と似た一面を持つこの少女と話して、自然とそう思えるようになっていた。

 

 

 海を見渡せば、そろそろ太陽が昇ろうとしている。しかしそんな時だった──

 

 

「おーい! 真姫ちゃーん! 希ちゃーん!」

 

「「!」」

 

 

 μ'sのリーダーである穂乃果の、元気で明るく目の覚めるような声があたりに響き渡る。そんな彼女の声につられて振り向くと、彼女だけでなく、他のみんなも彼女の後に続いてこちらに走ってきているのが見えた。

 

 全く、手なんて挙げて走っちゃって……子どもじゃないんだから…………って、アレはっ。

 

 

「こ、鉱芽?」

 

 

 こちらにやってくるμ'sのメンバーと共に後ろの別荘の姿が一望できたから気付いたけど、よく見れば鉱芽が別荘の屋根の上に座りながらこちらを見据えているではないか。え? いつからそこに……?

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「ありゃりゃ、見つかったか」

 

 

 真姫の驚いたような呟きで、彼女がこちらに気付いたのを察する。さて、これからどうするかね……。

 とは言え、どうせこのままいてても彼女たちに呼ばれるのは明らかだろう。ならばと、俺は屋根から飛び降りてゆっくり彼女たちに歩み寄った。

 

 

「(おっ?)」

 

 

 しかし彼女達は俺の接近に気付くことなく、みんなで登る朝日に向かい、手を繋いで一列に並び始めた。あー、真姫も流れに乗っちゃって俺の事を言えずじまいでいるなアレは。しかし、μ'sの皆が互いに大事そうに手を繋ぐ姿が、朝日と海のせいもあるだろうが、まるで一つの絵画のように美しく見えた。

 9人の少女が絆で結ばれ合い、朝日に向かって気持ちを一つにしている光景がもはや絵として完成され過ぎていて、俺がそこに入る余地は全くなかったといってもいい。しかし、むしろ俺はこうして後ろから彼女たちを見守っている方がお似合いだし、居心地もよかった。

 

 俺はμ'sじゃないから、彼女たちと立ち並ぶことは無い。そう思っていた。

 

 

「よーっし! ラブライブ!に向けて、μ's、頑張るぞーっ!!」

 

「「「「おぉーっ!!」」」」

 

 

 そんな彼女たちを見て、俺もまた一つ心に決めたことがある。

 

 そうだ、例えどんな相手が来ようとも、俺は恐れることもないし屈することもしない。何故なら、彼女たちがいるからだ。μ'sという、今の俺が心から守りたいと思える存在がいる限り、俺は負けるわけにはいかない。

 

 

「(絶対に守り抜いてみせる……彼女たちは……)」

 

 

 そんな覚悟を胸に抱きながら、俺は朝日に臨む彼女たちをしっかりと見守っていた。例え彼女たちの輪の中に自分がいなくても、自分の守りたいものは守り抜く。それだけでよかった。

 

 

 

 

 だけど──

 

 

 

 

「あぁっ! おーい! 鉱芽さーん!」

 

 

 ──彼女たちはそうではないようだ。

 

 彼女たちは俺が輪の外にいることを善しとしない。彼女たちにとって欠けてほしくない人間の中には、俺もいるのだから。

 背後から歩いてくる俺の姿を見つけたμ'sのメンバーは、朝っぱらだというのに元気に走り寄ってくる。そんな遠慮の見えない彼女たちに、また一つ心洗われるような感覚に陥る。

 ははっ、そうだったな。こいつ等は俺一人の納得でどうにかなる連中じゃなかった。みんなが一番納得のいく、そんな方法を作り出していったんだったな、μ'sは。

 

 

「そうだっ。ねぇ、みんな。ここで写真を撮りましょう」

 

 

 そんな中、ふと絵里はそんな提案を持ちかけた。

 

 

「写真?」

 

「賛成!」

 

「私もっ」

 

「うん、決まりね。もちろん鉱芽も……ねっ」

 

 

 可愛げにウインクして俺に問いただしてくる絵里。全く、止してくれよ。そんな期待に満ちた顔をされたら断れないじゃんか。ま、どうせ断る理由はないし、例え断ったところでみんな結構強引だから押し切られるんだけどな……。

 

 そうして誰の私物か分からないが立派なカメラと、三脚代わりの机が砂浜に用意される。(何故か)俺がカメラの調整をしている間に、海を背景に並び立つμ's(どうやら逆光については大丈夫なようだ、このカメラ)。そして俺の立ち位置も考えてくれたのだが……。

 

 

「鉱芽さん! ここだからね!」

 

「そこって……真ん中じゃねーか!」

 

「いいの! とにかく鉱芽さんはここ! 分かった?」

 

 

 前列に4人、後列に5人並んだと思ったら、前列の真ん中を開けて俺のスペースだと言い張る穂乃果。いや、穂乃果だけじゃなく全員がそのつもりでいる。明らかに中心を囲むように居座っていることり、絵里、真姫なんて、すごく楽しそうな目を向けてくるんだもの。こんなの拒否できるわけないじゃん。

 

 

「……はいよ、分かった分かった(はぁ……俺には勿体ない場所だよ、本当)」

 

 

 ま、折角目立つ場所に入れてくれるのだから有りがたく入らせてもらおう。そんな思いと共に、俺はカメラのタイマーをセットし終え、急いで彼女たちの元へ駆け出す。転倒するなんていうベタなギャグも起こらず、難なくみんなの輪の中に辿り着くが、そこでふとことりにこんな事を言われた。

 

 

「ねぇ、鉱芽さん?」

 

「あん? 何だよことり」

 

「鉱芽さんも……μ'sの一員ですからねっ」

 

「……」

 

 

 まるで俺の気持ちを見透かしたようにそう釘を刺すことり。ことりだけじゃない、ここにいるみんながそう思ってる。俺を……μ'sの一員だと認識してくれている。

 

 

 

 

 最初はただの指導者としての付き合いのはずだった。なのに一人ひとりと向き合っていくうちに、何時しか絆が生まれていた。

 

 最初はただのヘルヘイムの被害者だと思っていた。なのに彼女たちと触れ合うたびにその存在が自分の中で大きくなっていき、今では心から守りたいと思える存在になっていた。

 

 ダンスの生徒だと思っていた彼女たち、守られる存在であった彼女たちは何時しか、同じ時を過ごす大切な仲間となっていた。

 

 

 

 

 そんな彼女たちが、俺をμ'sの一員と認めてくれた。そんな単純な話なのに、俺は心底嬉しく感じていた。胸の奥がかぁっと熱くなるのを感じた。

 

 

「鉱芽さん」

 

「……あぁ。そうだな……俺も……μ'sだ。それでいいんだろ?」

 

「はいっ」

 

 

 俺の応答にことりを始めとしたみんなは満足そうな表情を浮かべる。もしかするとみんな心の中では、俺が輪の中にいないことをずっと気にしていたのかもしれない。ずっと一歩外から彼女たちを見ていた事を不憫に思っていたのかもしれない。

 

 絵里はこの合宿を、先輩後輩の壁を取り除く、あるいは真姫のため等、色々な目的をもって企画していた。しかし本当に果たしたかった目的は、俺じゃないのか? 俺がちゃんと、μ'sの一員として自他共に認めることができるようにすることじゃなかったのか。

 多分、俺はこの話を絵里にする事はないだろう。しかし絵里の嬉しそうな顔を見る限り、この予想はおおよそ外れていないことは確信できた。

 

 ──ありがとうな、絵里。

 

 知らずの内に彼女から大切なものを貰っていた俺は、彼女に心の中で感謝する。

 

 

「みんな! そろそろ構えて!」

 

 

 カメラから発する音と光でシャッターの瞬間が分かっていたのか、そんな穂乃果の掛け声が聞こえた。同時に各自、自分の一番したいポーズをとっていく。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

「ハイ、チーズ!」

 

 

 

 

 

 

 ──俺達のステージは……これから始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後になって考えれば、よくもまああんな楽天的な考えを持てたものだと思う。

 

 

 ロックシードを手に入れた時から、俺は運命を選んでしまったようなものだったというのに。

 

 

 戦いの術を得たものは、戦いを降りる事は出来ない。

 

 

 最後に勝ち残るまで……。

 

 

 

 

 楽しい時間はそう長くは続かないことを、この時の俺は知る由も無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一部「スクールアイドル編」 ~完~

 

 

 

 

 第二部「ヘルヘイム編」へ続く……。




よ~~~~~~~~~やく、企画していた内の第一部が終了しました。いや~、本当長かった(ま、本当に長いのはここからなんですけどね)。
第一部「スクールアイドル編」は、鎧武でいうところの「ビートライダーズ編」のようなものです。つまり鎧武でいうなら全47話分の11話が終わったくらいでしょうか。そしてこれから続く展開も……。


そこで皆さんに活動報告のご案内です。活動報告内にて今作品の今後の展開について少し述べさせていただきます。第二部の内容について触れるだけでなく、ちょっとしたアンケートも取っていますので、是非ご閲覧ください。


それではまた次回、第二部……の前に「幕間」を投稿させていただきます。
お楽しみください。
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