恐らくスカウォか神トラ2でしょうが、私的に一番読みたいのはトワプリです(一番好きな作品)。とにかく今から楽しみです。
それでは今回もどうぞ。
「ウグォアァァァァァァ!!」
「え……嘘……な、何が……っ」
今の私には、目の前で起こっている光景がまるで理解できなかった。私は先程まで裕太君を探していたはずだ。そして結果的に彼を見つけることはできた。
できたはずなのに……その次の瞬間には、呻き声を上げながら彼の身体は無数の蔦に包まれた。そして気付いた次の瞬間にはその身体はもう人ではなくなっていた。あの獰猛な顔に鋭い爪、現実の生き物ではありえないフォルム。その姿は正しく──
「イ、インベス……」
「ギュァァァァァァ!!」
「……裕太君が……う、嘘……そんな……っ」
──裕太君がインベスに変貌した。
そんな事実を目の当たりにして、精神をまともに保つことなんてできなかった。さっきまで一緒に話をしていた子が、あんな真面目で可愛げのあった子が……こんなにも醜い姿になってしまうなんて……。
「グルルルルルルルゥゥ……」
「ひっ……」
インベスへ変貌した裕太君は私の姿を捉えると、ゆっくりとその歩をこちらへ進めてくる。そのあまりの威圧感に思わず小さく悲鳴を上げてしまうも、先程の衝撃から私は足を一歩たりとも動かすことは出来なかった。身近な人が変貌した恐怖で身体中がまるで言うことを聞かなかった。
でも、ゆっくりと近づいてくるインベスに対して、私は同時に一抹の期待も寄せていた。もしかすると彼は私を分かっているんじゃないのか。鎧武に変身した鉱芽のように、彼もまた中身は人間じゃないのか。そんな風に楽観視することができた。
だけど──
「ウガァァァァァッ!!」
「っ!? きゃぁっ!!」
裕太君が手を腕を振り上げたと思った瞬間、彼はその手を私目がけて振り下ろしてきた。そこにあるのは明確な殺意。仲間意識なんて全くない。
命の危機に瀕してようやく身体を動かせた私は、何とかそこから飛びのいて彼の一撃を避けることができた。でも、頭の中は言いようのない思いで一杯だった。彼がインベスになってしまったこと、彼に殺されかけたこと、そして彼がまるで私を覚えていないことに、胸を刃物で突き立てられるような痛みに襲われる。
「っ……やめて! 裕太君、そんな子じゃないでしょ……? ねぇ、お願いだから……ねぇ!」
「ガァァァァァッ!」
裕太君に聞こえるように叫ぶも、彼はまるで意に介することなく、再びその足を私に向けて歩きだす。
「裕太君……思い出してよっ! 私よっ! 絵里よ! 分からないのっ!?」
いくら叫んでも無駄かも知れないのに、私は彼に呼びかけることを止めることはできなかった。だって、もしここで彼を呼ぶのをやめたら……彼を諦めたのと同じになっちゃうじゃない……そんなの、絶対に嫌よ!
だけど目の前の彼は再び腕を振り上げ、今度は走るような体制に入っていた。ああ、ダメだ。こんなところで襲われたら助からない。
でも、だからって彼に反撃することなんてできない……っ。だって……だってアレは裕太君だもの! 傷つけることなんて出来ない!
そんな私の思いも虚しく、彼は走り出してその爪で私の身体を引き裂こうとしていた。
だけど──
ギュィィィィィィィン
「グルォォォォォォ!!」
「グギュァッ!?」
「え……?」
クラックの開く音と共に赤い山羊のインベスが出現し、私に襲い掛かろうとしたインベス──裕太君を突き飛ばす。そしてそのインベスを操って私を助けてくれたのは、額にしっとり汗を溜めた真姫だった。
「何やってるのよ絵里!」
「真姫……?」
右手に固くロックシードを握りしめ、叱咤するように私の意識を覚まさせる真姫。そんな彼女を見て私も何とかショックから意識を立て直す。
でも、それよりも今は真姫に言わなければならないことがある。
「どうしたのよ! 早くアナタもインベスを──」
「待って! 真姫、攻撃を止めて!!」
「──っ!? はぁ? アナタ何言ってるのよ!?」
未だインベスを使って裕太君に攻撃を続ける真姫を止めようとして、彼女から怒声が返ってくる。でも今は何と言われても構わない。それよりも……それよりも今は、彼を死なせないことが精いっぱいだった。
「アレは……違うの!」
「何が違うのよ!」
「裕太君なのよっ! 人間なのよ! あのインベスは!」
「っ!?」
ようやく言えたその事実に、真姫は一気に表情を青ざめさせる。そして同時に、容赦なく猛攻を加えていたインベスもその動きを止めた。どうやら今の一言で真姫は全てを悟ったみたいだ。
「信じられないかも知れないけど……アレは人間なの。私の……私の友達なのっ!」
「……っ、そんな…………“また”……こんな事……っ」
「またってどういう──」
「グガァァァァァァァア!!」
「──っ!? ねぇ真姫っ、教えて! どうすればいいの!? 私、あの子に何をすればいいの!? ねぇ!!」
「……私には……分からない……っ」
再び動きだす裕太君を見据え、私は藁にも縋る思いで真姫に問いかける。
何とかしたかった。何とかして、あんな姿になってしまった裕太君を元に戻したかった。また、いつものような彼に戻ってほしかった。
だけど、真姫にはどうすることもできないみたいだ。そんな……なら、どうすれば……っ!
「鉱芽だったら……」
「っ、そうよ鉱芽……鉱芽だったら!」
「ま、待って絵里! 鉱芽じゃ──」
真姫の「鉱芽」という呟きで、私は最後の希望を見つけだすことができた。そうよ、彼がいるじゃない! 私が知る中で、一番インベスやあの森について詳しい彼なら、きっと何とかしてくれる。
「(今まで私たちを何度も助けてくれた彼だもの。きっと今回も大丈夫なはず!)」
そんな期待を込めて、私は携帯から彼の番号へと急いでかけた。目の前では真姫の操るインベスが必死になって彼の侵攻を食い止めている。どうやら私の願望通り、彼を傷つけてはいないのね。よかった……。
ガチャ
『どうした絵里?』
そして、ようやく彼と通信が繋がった。たった数秒という時間なのに、今の私にはそれが1分にも10分にも感じられた。それ程までこの時間は生きた心地がしなかった。だから彼の声を聞いた瞬間、とてつもない安心感に包まれるのは仕方のないことだろう。
「こ、鉱芽! い、インベスが……出て……その、それが──」
『っ、場所はっ?』
「ぇ……神田明神から少し西に離れた街路で──」
『今すぐ行く! 待ってろ!』プツッ
「ぇえっ? こ、鉱芽っ!?」
必要最低限の情報だけ聞き出して、直ぐに電話を切ってしまう鉱芽。
もう少しで彼がここに来る。それはよかったけど……でも……よりによって──
──そのインベスが裕太君である事を伝え損ねるなんて……。
「絵里! まさか鉱芽を呼んだの!?」
「え、ええ……呼んだわ。でも……」
「何!?」
真姫が何故鉱芽を呼ぶことにそんな嫌そうな反応を見せるのかは分からない。でも、そんな些細な事情が気にならないほど私は焦っていたのだろう。それに、重要なのは他でもない。
「裕太君の事……伝えてないわ……」
これよ。もしこの所為で彼が裕太君を殺してしまったら……私は自分を一生許せなくなってしまう。私は裕太君に死んでほしくない。そして、鉱芽に人殺しになってほしくない。そんな当たり前の願いを抱いていたからこそ、私は彼に伝えられなかったことの重大さに頭を悩ませていた。
「っ……だったら後でもいいじゃない。そこまで耳は悪くないわ、アイツは」
「……うん……そうよねっ」
しかし真姫にそう説得され、私は幾分か落ち着きを取り戻す。確かにそうよね、鉱芽もそこまでおっちょこちょいな人間ではないものね。
きっと私の言葉を聞き届けてくれる。そうよ、だって鉱芽だもん。きっと何とかしてくれるわ。
私は、未だ姿を現さない彼に、これ以上ないほどの期待を寄せていた。
鉱芽なら大丈夫。
鉱芽ならきっと何とかしてくれる。
鉱芽なら絶対助けてくれる。
鉱芽ならみんな無事に救ってくれる。
鉱芽なら──!
そんな妄信にも似た期待を、私は彼に押し付けていた。
そして、その祈りが通じたのだろうか。長く待ちわびた、バイクのエンジンの音が私たちの耳に届いた。
「っ! 鉱芽!」
桜の刺繍が施された独特なバイクと、それに跨るオレンジ色の鎧を纏った武者の登場に、私の心は救われる様な感覚に包まれた。
──来てくれた! やっぱり鉱芽が来てくれた!
そして彼が来た事を察してヤギインベスを森に返す真姫。でも、これで後は鉱芽が何とかしてくれるわっ。
「下がってろ、絵里、真姫」
しかし彼はバイクから降りるとすぐさま左腰の刀を抜き、インベスへ──裕太君へと斬りかかっていった。
「はぁっ!」
「グギャァァ!」
「っ!(違うの! 鉱芽っ、違うの! その子は敵じゃないの!)」
彼が当たり前にインベス──裕太君を斬り裂いた瞬間、その衝撃で言葉が出なくなってしまった。
しまった……安心してまた言いそびれてしまった……。
「(早く……早く伝えないと……っ)」
私がそう思っている間にも鉱芽は容赦なく裕太君に刃を振るい、傷つけていく。
ダメよ、早く彼に伝えないと……裕太君が死んでしまう。
それだけじゃない。
鉱芽が……人殺しになってしまう……。
それだけは……それだけは絶対に避けなければいけなかった。
だから──
「っ……鉱芽!!」
「っ!?」
──今は精一杯のこの気持ちを伝えるしかない!
そして私の叫びに、彼は戦闘中だと言うのにこちらへ振り向いた。私の声色から、事の重大さが伝わったのかしら。でも、それならいい。
私は先程体験した悪夢のような事実を、声を振り絞って彼に伝えた。
「そのインベスは……裕太君なの! さっきまで……さっきまで私と話していた裕太君なの! 人間なのよ!」
「……」
言えた……っ。今、確実に彼にこの事を伝えらえた。その事実に、目の前にインベスがいるというのに私はほっとしてしまう。
でも、これで鉱芽が何とかしてくれる。
きっと、みんな笑顔で帰れる。
「そうか……」
そんな風に安心しきっていた。
「ふんっ!」
「グギィャァァァァッ!」
「………………え?」
……今、何が起こったの……?
鎧武者が……眼前の異形を刀で斬りつけている……?
鉱芽が……目の前の存在を裕太君と分かっていながら……斬り裂いて……?
「……え? ちょ、ちょっと……こう……が……ねぇ……」
「ぅらぁっ!」
「ギャォォァ!?」
「(嘘……よね。なんで……なんでそんなこと……っ)」
──どうして……どうして裕太君を斬れるの……!
私の言葉に反応したと思った次の瞬間、再び先ほどまでと変わらない太刀筋で裕太君に斬撃を浴びせ始める鉱芽。その現実が受け入れられず、私は軽いパニックに陥ってしまう。
「ねぇ……待ってよ……こう、が……ま…………待ってよぉ!!」
「絵里! 落ち着きなさいよ!」
「なんでなの!? ねぇ真姫! なんで!? ねぇ、どうして鉱芽は彼を傷つけてるの!? ねぇっ!?」
「え、絵里っ」
彼の行動が理解できず、私はもはや自身の感情のコントロールができないでいた。私を宥めようとしてくれる真姫にさえ当たってしまう。でも……それでも……今の鉱芽の行動がどうしても度し難かった。全然理解出来なかった……っ。
「やめて! ねぇっ、鉱芽! やめてよ! お願いだからっ!!」
「はぁ!」
「グルァァァ!?」
必死に叫ぶも、彼はまるで聞く耳を持たないかのように全く躊躇することなく、容赦なく、非情に裕太君を斬り裂いていく。
そんな彼の姿が……異常に恐ろしく感じてしまう。
──なんで……なんでそんな事ができるのよ……。
「グ……グガァァァ……」
気付けば裕太君は既に満身創痍で、肩で息をしている状態だった。見た目は醜い化け物だというのに、私はそんな彼に、以前の優しくて可愛い裕太君を空見してしまう。
「っ……(裕太君……)」
そうよ、あれは正しく裕太君よ。とっても素直でいい子で……どんな姿でも変わらない、私たちの友達よっ!
『ロックオン!』
しかし、そんな私の思いとは裏腹に、鉱芽は完全にとどめを刺す気でいた。
ドライバーからロックシードを取り外し、いつもの作業のように刀のくぼみにセットする。その瞬間、彼の持つ刀の刃の方にではなく、銃口付近にオレンジ色の光が堪り始めていた。
そして彼はその刀……いえ、刀に備え付けられている銃口を、冷徹に裕太君へ向けていた。
──あれを撃たせたら……間違いなく裕太君は死んでしまう!
『イチ! ジュウ! ヒャク!』
そこからの私の行動は早かった。パニックを起こしていた私を制止させる真姫を振り切り、そして──
「やめてっ!!」
「っ!?」
「ググォ……」
──鉱芽と裕太君の間へと割り込んだ。
両腕を広げて裕太君を庇うようにして鉱芽の前に出る私。敵を殺す気でいる彼の前に出るのは、心臓がもぎ取られそうなほど恐ろしい事だったけど、それでも今は裕太君を守るので必死だった。
彼に……裕太君を殺させる訳にはいかなかった。
「何してんだ。離れろ」
「嫌よ! アナタこそ何してるの! 誰を傷つけてるのか分かってるの!?」
「そんなの──っ!」
「っえ──」
その時、背後からガサッという音に反応して思わず振り向いてしまう。そこには傷つきながらも、必死でこの場から逃げようとする裕太君の姿があった。でも、どこへ行くというの? そんな姿で逃げても……みんな怖がるだけよ……。
そしてやはり、私の目の前にいる彼はそんなところを見す見す逃すはずもなく──
「ふっ!」
「っ、鉱芽──」
『オレンジチャージ!』
「らぁっ!」
私の目の前で高く跳躍すると、彼は空中から裕太君目がけてエネルギーのこもった銃弾を放った。しかし私の乱入のせいか彼に気付かれずに既に離れていた裕太君は、その銃撃を食らうことなく辛うじて逃げ延びることができた。
そして彼は、そのまま目にも止まらぬ速さで街路地を走り去っていってしまった。
「しまった……っ」
敵を逃がしたことに悪態を付きながら変身を解除する鉱芽。その顔色からするに、本気で彼を──裕太君を仕留める気でいたようだ。そして案の定、彼の盾になったことで私に文句を言いにくる鉱芽。しかしもちろん、そんな彼に何も思わない私ではない。
「絵里、お前自分が何したか分かっているのかっ? あの怪物がこの後何をするかくらい分かるだろっ」
「アナタこそ何してるのよ! 裕太君よ! 人間なのよっ!! どうしてあんな事できるの!!?」
感情的に相手を非難する私とは対照的に、鉱芽はあくまでも冷徹な話し方で私を非難してくる。そんないつもと違う彼が恐ろしくなるも、私は彼から一歩も引くことは出来なかった。
あれは裕太君だ。間違いなく、私たちと一緒に話をしていた裕太君だ。人間なのよっ!
そんな主張を、私は断固として譲ることは出来なかった。
だけど……だけど彼は……。
「アレはもう人じゃない……インベスだ」
「っ!!」
パシッ
彼のその言葉を聞いたその瞬間、渇いた音が辺り一面に響き渡った。
彼の頬には手の形をした赤い跡。
そして私の手に感じるのは、鈍い痺れだった。
「……最低よ……」
「……」
もう我慢できなかった。
私がいくら言っても非情に裕太君を傷つける彼に。
そして、彼をインベスだと言いきる彼に。
そんな鉱芽に、思わず手を出してしまった。
「アナタは……最低だわ!!」
昼下がりの街路で、私の悲痛な叫び声が響き渡った。
何処かへ逃走したビャッコインベス=裕太、その行方は……?
そして彼がもたらす次の悲劇は……?
次回へ続く。
……みたいな空気がしばらく続くと思いますが、どうか頑張ってついてきてください。
それではまた次回。
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