そして彼女達も登場。
「ではお会計の方させていただきます」
俺はカタカタと慣れた手つきでレジを操作する。
「1,200円になります……はい。ありがとうございました!」
料金を受け取り、店を出ていく女性客に笑顔でお送りする。ここが普通の店ならこのままレジを続けるのだろうが、生憎今はそんな状況ではない。
「すみませーん」
「はい! 少々お待ちください」
お客からの注文要請の声に俺はシートを持ってレジを離れる。そこから分かるように、今の俺はウェイターとレジ係を兼用している状況にある。ああ忙し忙し。
というより、そもそも俺は何をしているのか。
それにはまずこの店の事から説明すべきだろう。ここはフルーツパーラー「ドルーパーズ」。パフェを専門に扱うパーラ──―喫茶店みたいなものだ。そして俺が働いている職場でもある。まだお手伝いレベルだけど。基本的に平日はずっとこの店にいる。
そしてドルーパーズのマスターを務めているのが
そしてこの人こそ、俺の数少ない大人の理解者の一人だ。
ふむ、少し語らせてもらおうか。
俺はかつて激化していく戦いに備えるために大学を辞めなければならなかった。その上、連日の戦いで心身ともにやつれ果て、ついに路上で倒れてしまった。その時だ。
俺の目の前に板東さん──おやっさんが現れたのは。
おやっさんは俺を店まで運んでくれると、大して理由を聞くこともなく一晩この店に泊めてくれた。それどころか、働き口も無いのに日中街中を歩き回る俺をどうにかしたいと思ったのか、アルバイトとして雇ってくれたのだ。でも知っての通り、俺は戦いの日々の中にいた。だからずっと店番でいられるわけではない。勝手に店を抜け出すこともあるはずだ。でもおやっさんはそれを承知で俺を受け入れてくれた。
きっとおやっさんはヘルヘイムの事なんて知る由もない。俺が戦いで店を抜けることなんて夢にも思わないだろう。けど、おやっさんは俺に何も聞こうとしない。怒りもしない。ただ俺を信じて帰ってくるのを待っているだけだ。
そんなおやっさんの姿勢に俺は感動した。応援するわけでも罵倒するわけでもなく、ただ俺の生き方を認めてくれるその人が。おやっさんのお蔭でどれだけ俺の心は救われたことか。あの時おやっさんに拾われていなかったら今頃こうして生きてはいないだろう。本当、おやっさんには感謝してもしきれない。
うん、これでもなんかまだ語り足りない気がする。俺おやっさん好きすぎるだろう。実際、知り合いとかには『おやキチ』って呼ばれていたりする。
まあ、そんな感じで今日もドルーパーズの店番をやっていたわけだ。
……クラックの警戒? ああ、しているよ。俺の“大玉な兵隊”達がな。クラックが開けばいつでも駆け付ける準備は出来てるよ。
けど、やはり平和だなぁ。あれからだいぶ日も経つけどクラックが開く頻度は増えることは無い。今はせいぜい2、3日に一回開く程度だな。
そういや、真姫はちゃんと曲をスクールアイドルに渡せたんだろうか?もう完成して、件のアイドル達が披露しててもおかしくない。真姫といえばことりもだ。以前ことりから聞いた話じゃ、彼女の通う高校も真姫と同じ音ノ木坂学院だそうだ。流石に俺に廃校云々の話はしてこなかったが。
そういや最近、ことりとも連絡してないなあ……。ツバサとは毎日SNSやらでやり取りしてるけど。
ふと、彼女たちの事を思い出していた時だった。
「わぁー。こんな綺麗なお店あったんだぁ。ねえ、ここにしようよ! 今日の打ち上げ!」
「ちょっと、穂乃果!? ……はぁ……入った以上仕方ありませんね……」
「いいじゃない海未ちゃん。このお店なんだかとてもいい雰囲気だよ」
新しい客が来店した。それぞれ持つ雰囲気の違う女子高生3人組だ。
「いらっしゃいませっ……ん?」
ウェイターらしくいつものようにお客に挨拶をするが、そこで俺は気付く。最後に言葉を発した人物に。
見覚えのある灰色の髪。とろけるような甘いボイス。
すると向こうもこちらに気付いたようだ。
「あ……鉱芽……さん?」
「よっ。久しぶり……かな? ことり」
まあ、予想以上に早い再会となったなこりゃあ。
──────────────────
「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
「は、はい」
「ではごゆっくり」
注文票を机の上に裏返しで置き、鉱芽さんはレジまで戻っていった。
「──円に──す。あり──ございま──」
私は目の前のパフェには目もくれず、ただレジを打つ鉱芽さんをぼぉーっと眺めていた。
「──とりっ──ことり!」
「っ! なっ、何!?」
どうやら海未ちゃん(ことりの大切な幼馴染の一人だよ)が私を呼んでいたみたい。ぼおっとしていて全然気づかなかった。
「どうしたのです? 先程からぼんやりして」
「え、いやぁ……ごめんね。えへへ」
「もしかして、ことりちゃん……あの男の人のこと好きなのっ?」
「っふぅえ!?」
穂乃果ちゃん(もちろん彼女も大好きな幼馴染)にそう迫られ、ことりは一瞬頭が真っ白になった。
「なっ、何を言うんですか穂乃果!」
「そっ、そうだよ穂乃果ちゃん」
「えぇ~、でもさっき名前で呼び合ってたよ~? いつから付き合ってるの~? ねぇ?」
もう、やめてよ穂乃果ちゃん。いい加減恥ずかしいよ。
「だっ、だから。ことりと鉱芽さんは今はそんな関係じゃないよぉ!」
「い……『今は』。ってことはその気があるんだねことりちゃん!?」
「ふぅわぁ~ん。海未ちゃん助けてぇ……」
「穂乃果。いい加減いじめるのはやめなさい。ことりが否定しているなら信じたらどうです?」
海未ちゃん……っ。今この瞬間だけ、海未ちゃんがことりの白馬の王子様に見えた気がした。
「むう……でも海未ちゃんも気になってるんじゃないの~? あの男の人の事」
「それはそうですが……」
「海未ちゃん!?」
ああ、もうしばらくことりの羞恥心は苛められ続けるんだなぁ……。
鉱芽さん、助けてぇ~……。
──────────────
「別に対した事はないぞ? 俺達は」
あの後、しばらくしておやっさんから店番を上がってもいいとのお達しが出たので、現在こうしてことり達の円の中に入らせてもらっていた。
どうやらことりは連れの親友から、俺との関係を探りまわられていたようだ。だが俺としても流石に鎧武やインベスの事を正直に話す訳にもいかないので、軽く表面上の関係を答える。ことりは一瞬ガッカリしたような表情を浮かべていたがな。
「でも、仲良いんですね。名前で呼び合ってたもん」
オレンジ色の髪を右で括り止めたサイドテールの少女が俺に問う。
「いやあ、どうだかな。互いに名前で呼び合うことに抵抗ない人間だし」
「なるほど。そうでしたか」
もう一人、青みがかった黒い長髪の少女が納得したような表情でうなずく。うん、とりあえず名前知っとかないとややこしいな。
「そういう事。俺は葛木鉱芽。ここで働かせてもらってる。19歳だ。よろしく」
「私、
「こらっ、穂乃果。相手は年上ですよ? もう少し言葉を選んでください……ごめんなさい。私は
「よろしく。あと、気にしないよ。ばんばんタメ口で話しかけてきていいから。「鉱芽」って名前で呼んでくれて結構だよ」
「じゃあ、鉱芽さんで!」
高坂はとても快活な娘だな。その小さな身体から溢れんばかりのパワーを感じる。見ているこっちまで元気になりそうだ。
「それで、高坂達はこの店は初めてだよな? 一体どのようなご用件で?」
「そうそう、穂乃果たちは打ち上げに来たんだよ。ねっ、海未ちゃん、ことりちゃん」
「打ち上げ? 何の?」
彼女達は来店時にこの店を初めて見つけたような素振りを見せていた。ドルーパーズ自体は二年前から続いており、それなりに目立つ位置に設置されている。高校二年ともなれば来たことはなくとも、見たことがあってもおかしくない。
それでも今回初めて見つけたということは、いつもはパーラーに来るようなことはないんだろう。
そんな俺の質問にことりが答えてくれた。
「ライブです」
「ライブ?」
何の? その疑問には高坂が答えてくれた。
「私達、学校でスクールアイドルを始めたんです! 今日はその初ライブで、まあ、人は少なかったんだけどね、えへへ……。で、その打ち上げに来たんです」
「……マジか!?」
いやぁ驚いた。真姫の言っていたアイドルがまさか彼女達の事だったとは……。ことりとかその隣の園田なんていかにもおとなしそうで、そんな事をするようには見えないけど……これも高坂の力なのかな。すげぇな本当。
「はい。私達の母校、音ノ木坂学院が廃校の危機に瀕した時に、穂乃果が私達を誘ってスクールアイドルを始めたのです」
ああ、やっぱり高坂か。納得だ。
「なるほどね……うん、頑張って。俺も応援してるよ」
「はい。ありがとうございます! ……で、鉱芽さんはいつことりちゃんと知り合ったんですか?」
おいおい、感謝した次の言葉がそれか高坂……。やはりというか隣で園田がため息をついており、ことりの方は視点が定まっておらずオロオロしていた。あと、結局敬語なのなお前は。まあいいや。肝心なとこははぐらかして話すか。
「いやな、ちょいと前の事だけどな。丁度ことりが襲われているところに出くわしたんだよ」
「ええっ!? 本当なのことりちゃん!?」
「う、うん。そうだよ穂乃果ちゃん。それでね、そこを鉱芽さんに助けてもらったの」
「そんな事が……。あの、葛木さん。ことりを助けていただいてありがとうございます」
「あぁっと私からも、ありがとうございます」
「いやいや」
ああ、この娘達は本当にことりの親友なんだな。ここまでことりの事を思ってくれているとは。こんなに思われてことりも幸せ者だな。俺がそんな風に心が温かくなっている時だった。
『──―ピピッ──―ピピッ──―』
「っ」
「「「?」」」
ポケットから端末の響く音が辺りに木霊する。ことり達は不思議そうな顔をするが、これは俺の兵隊達からの電波を受信した合図だ。ったく……こんな時に出ないで欲しいよ、本当。
「ああ、ゴメンね。俺ちょっと行かなきゃ」
「鉱芽さんっ。あの、もしかして……」
彼女達に言い残しては店の外へ出ようとした時、ことりが立ち上がって聞いてきた。
俺の表情が変わったことからいろいろと察したのだろう。しかし、はっきり言ってこれから俺がやることに関して彼女にできることは無い。精々、あとの二人に勘付かれないように振る舞うぐらいだろうな。
「大丈夫だって、気にすんな。友達と会話でも楽しんでなって」
笑顔でことりに言い放つが彼女の表情は一向に明るくならない。オイ、そんなんじゃバレるぞ俺の秘密……まあすぐに忘れるからいいんだけどよ。
「そんじゃ……あ、そうだ。高坂!」
「っ、はいっ? 何ですか?」
「お前、好きなフルーツって何かあるか?」
なんて柄にもなく質問してしまう俺。特に意味はないけど、ちょいとした願掛け……かな?
そんな俺の質問に高坂は迷わず答えてくれた。
「イチゴだよ! 穂乃果はイチゴが一番好きだよ」
「イチゴな、OK。ありがとっ。じゃあゆっくりしていってくれ!」
それを最後に俺は店の外へ出ていく。
店から出ると同時に懐から桜の浮彫が施されたロックシードを取り出し、解錠して地面に放り投げた。
投げられたロックシードは、どういう理論かは不明だが巨大化し、変形して一台の大型二輪へと姿を変える。
『サクラハリケーン』
それがこのバイクの名だ。
俺はサクラハリケーンにまたがり、ヘルメットを装着。そしてエンジンを吹かし、目的地へと向けて走り出した。
そして腰回りに戦極ドライバーを巻き付け──
「変身!」
恐らく何人か目撃しているだろうが気にしない。どうせ忘れる。
路上を疾走しながら俺はオレンジロックシードを解錠し、戦極ドライバーにセット。施錠して最後にカッティングブレードを下す。
『オレンジアームズ!花道・オン・ステージ!』
鎧が展開され、俺は鎧武へと変身した。
さあ、あとは目的地へ向かうだけだ。ここからそう遠くはない。森を経由する必要はないだろう。
夕日を背に受け煌びやかに輝く橙色の鎧を着こんだ戦士は、今日もコンクリートのジャングルを疾走する。
人間を守るために。自分のセカイを守るために。
自分的にライダーで理想的なヒロインといえば比奈ちゃんとコヨミですかね。
皆さんはどうでしょうか?
さて、サクラハリケーンを走らせ現場へ向かう鎧武。その行方は……?
そして残されたことり達は……?
次回へ続く。