ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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過去の話は今回で一旦終わります。
それでは今回もどうぞ。


第60話 Point Of No Return

「……」

 

 

 しばらく膝をついたまま魂が抜けたかのように呆然とし、光を失った目で崩れた家屋を見据えていた鉱芽。しかしやがてゆっくり立ちあがったかと思えば、そのままゆらゆらと覚束ない足取りでその場から離れ始めた。

 

 

「っ? こっ、鉱芽っ!」

 

「……」

 

 

 いきなりの鉱芽の行動に驚きつつも、もう一度瓦礫と化した家に目をやり、倒れ伏している伊織の腕を確認する真姫。このまま彼女を放っておいていいのかという思いが募るが、それ以上に鉱芽をこのまま放っておくほうが危ない。本当に何をしでかすか分かったものではないからだ。それに遠くから救急車や消防車のサイレンが聞こえてくる。故に今は自分に出来ることなんてないと察した真姫は、鉱芽の後を追い始めた。後は救急隊の仕事だと強く自分に言い聞かせながら。

 

 

「……鉱芽」

 

「……」

 

「鉱芽っ!」

 

 

 ふらふらと行き倒れ寸前のように歩く鉱芽には簡単に追いつくことが出来た。恐らく行く当てもないであろう鉱芽の眼前に立つものの、真姫は彼に対して呼びかけることしかできなかった。再び喝を入れることが出来ればよかったのだろうが、これ以上は何も言いたくなかった。自分だって泣きたくなるほど辛いのに、それ以上に辛い思いをしている鉱芽に対し、これ以上どんな言葉を投げかければ良いかまるで分からなかった。

 とにかく今は互いに心にゆとりが必要だと感じた真姫は、鉱芽の両肩に手をやって彼を座らせようとする。心身共に傷を負った彼の身体は予想以上に軽く、真姫は容易に彼を道の脇に座らせることが出来た。

 

 

「鉱芽……その……亮子は……」

 

「……」

 

 

 だが酷な話ではあるが未だ亮子が見つからない以上、話題は必然的に彼女の事になってしまう。この現状の中、他のことで気を紛らわせることが出来ればどれほどよかっただろうか。しかし自分たちにそんな暇は無い。今もどこかで新たな悲劇を生み出そうとしている存在に対してどう対処していくか……今はそれ以外どうすることもできなかった。

 そして鉱芽も、ようやくその重い口を開くことになった。

 

 しかし鉱芽が話す内容は、真姫が考えていたものとは違っているものであった。

 

 

「俺さ……まだ……好きだったんだよ……」

 

「え……?」

 

「まだ好きだったんだよ……亮ちゃんの事……」

 

「ぇ……でも、鉱芽は……」

 

 

 亮子の話題には間違いはないが、彼が話したのは己の亮子に対する儚い想いであった。真姫は以前、鉱芽の初恋の相手が亮子だという話を本人から直接聞いている。もちろんその想いが適わなかったことも……。

 

 ──だけど鉱芽はツバサと付き合っているんじゃ……。

 

 真姫がそう思うのも尤もな事だろう。そして真姫がそう返そうとしたところで、鉱芽は彼女の想像をはるかに超える、衝撃的な言葉を打ちつけた。

 

 

「前さ……俺、亮ちゃんから無理矢理唇奪ったんだよ」

 

「……ぇ……?」

 

 

 ──今、なんて言ったの?

 

 一瞬鉱芽の言葉が理解できなかった真姫は、落ち着いてもう一度彼の言葉を心の中で反芻した。しかしどう聞いても、この目の前の青年が起こすような蛮行とは思えないような内容しか聞こえなかった。

 

 

「無理矢理っていうか……いきなりの不意打ちだけどさ……」

 

 

 ──鉱芽が、亮子にキスをした?

 

 あの鉱芽が? 恋人がいる人に対してそんな事を……? そんな馬鹿な話があるのかと、真姫は心のどこかでそれが嘘であってほしいと願っていた。しかし……。

 

 

「好きで好きで、あまりにも……想いが募り過ぎて、さ……なんか……耐えられなくなったっていうか……」

 

「嘘……そんな事って……」

 

 

 真姫の信じたくないという思いを裏切るかのように、鉱芽の口から述べられる彼の劣情と蛮行の内容。今まで自分が見てきた葛木鉱芽という人物象を根底から覆されそうな、視界や足場が揺れるような衝撃を覚えていた。

 

 

「でもさ、アイツ……俺を許してくれたんだよ」

 

「え?」

 

 

 そしてその後に続く鉱芽の言葉も、真姫は再び耳を疑わざるを得なかった。

 

 

「"俺の気持ちに気付いていたのに、向き合わないままミッチと付き合った自分も悪かった"、"中途半端にして俺を苦しめちゃった"、とか言ってさ……バカだよな……ホントによ……」

 

 

 そう語る鉱芽の(こうべ)は依然力なく垂れさがったままだ。恐らく、全部自分が悪いと感じているのだと、真姫はそう思っていた。どこまでも真っ直ぐで誠実な彼女なら確かにそう言うだろう。そうなった場合、鉱芽が自己嫌悪に陥るのも仕方ないことだ、とも。

 

 

「だから俺さ……亮ちゃんへの想いを断ち切ろうと……諦めようとしたんだ。こんな俺を愛してくれているツバサのためにも。ツバサを愛してやるためにも……彼女と何度も付き合いを繰り返した」

 

「……」

 

「ツバサと何度もデートした。何度もキスをした。身体だって重ねた」

 

 

 それは恋人同士なら当たり前の行為。だけど鉱芽は愛しているからではなく、愛するために行っている。その僅かな目的のズレと、鉱芽がそれを行っているという事実に、真姫はズキっと痛む胸を押さえずにはいられなかった。

 

 

「でも……ダメだった。いくらツバサと時間を過ごしても、亮ちゃんを想う気持ちを止められなかった」

 

「鉱芽……」

 

 

 誰かと付き合ったこともない真姫からすれば完全に未知の領域であろう彼らの付き合いを経てもなお、鉱芽の心がツバサに向くことはなかった。

 

 

「ハハ……どう? 幻滅した?」

 

「……」

 

 

 自嘲気味にそう訊ねる鉱芽に、真姫は何とも言えなかった。

 確かに亮子を想う一途な心には感心する部分もある。しかし、それだとツバサはどうなるのか? 彼女は鉱芽を一身に愛している。それはもう、異性との付き合いに疎い自分ですら分かる程に。そんなツバサの想いがまるで届いていない鉱芽に対して、軽蔑する気持ちが起き上がらないわけではない。キスも、一夜を共にすることも、そんな自分では到底叶わないことをしているにも関わらず、鉱芽がツバサでなく亮子を愛しているという事実に真姫は辟易していた。

 

 

「私には……こうすることしかできないわ……」

 

「真姫……」

 

 

 しかし真姫がするのは、罵声を浴びせることでも、彼を咎めることでもない。ただ彼の元へ寄り、その崩れそうな肩に僅かながらの慈しみが籠った手を乗せることだった。鉱芽を責めたいという気持ち以上に、彼をこれ以上追い詰めたくないという気持ちが上回っていた。絶望の淵に立たされている彼を、どうしてこれ以上追い詰められるというのか。曲がりなりとも一度葛木鉱芽という人間に好意を持ってしまった真姫には、それができなかった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 夜のように長いとも、刹那のように短いとも分からぬ程の沈黙が続く。互いの思いは分かり合っているはずなのに、それを言葉して発することが躊躇われ、互いに行き詰まっていた。

 

 

「……行くよ、俺は」

 

「っ」

 

 

 そんな中、鉱芽は遂に重い腰を上げ、ゆっくりと立ちあがった。その首は相変わらず落ちたままではあるが、先程までの濁り切った瞳には、ほんの僅かばかりの光が灯っていた。それが希望の光か、覚悟の光であるかは真姫には見当が付かなかったが。

 

 

「亮子を……どうする気……?」

 

「……」

 

 

 真姫の問いかけにも鉱芽は答えない。しかし、鉱芽の中では既に答えは決まっていた。

 

 鉱芽は無言のまま、懐から出したロックシードを解錠し、桜の意匠が施された大型二輪──サクラハリケーンを召喚する。そして真姫と言葉を交わさぬまま、鉱芽はバイクに跨った。彼がヘルメットを被ると同時に真姫も駆け寄り、共に行こうとする。しかし……。

 

 

「待って鉱芽。私も—―」

 

「悪ぃ……まだ免許取って一年経ってないんだ。じゃ」

 

「──っ、鉱芽!」

 

 

 そんな取ってつけたような理由(うそ)を残して、鉱芽を乗せたサクラハリケーンは颯爽と走り去ってしまった。しかしそんな鉱芽をこのままじっと見つめている真姫ではない。彼が一人行ってしまったのを見てすぐに、彼女はバイクの後を追いかけて走り出した。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

 サクラハリケーンを操縦しながらも、鉱芽はヘルメットの上から漂ってくる血の臭いを拭いきれずにいた。同時に軋むような人間の悲鳴もまたヘルメットの上から耳に届いていた。しかし逆にその臭いと悲鳴を伝手に、鉱芽は今インベスがいるであろう場所を特定し、目指すことが出来た。五感が異常に優れている鉱芽ならではの方法だ。

 

 インベスの次の行き先は何処であろうか? 学校? それともダンスクラブのガレージ? とにかくこの先にあるものとしてはその辺りが適当であろうか。鉱芽は無意識ながらも、インベスの行動が亮子の記憶に乗っ取っていることを理解していた。

 

 しかしこのままこの道を行けば、必ず真姫も自分の後を追って通るだろう。それは即ち、先程と同じような惨状を彼女に見せてしまうことになる。だから鉱芽は、あえてインベスの通ったルートからずれてバイクを走らせていた。

 

 彼は急いだ。これ以上、新たな惨劇を生み出さないためにも。

 

 自分の不始末を付けるためにも。

 

 これ以上、亮子に罪を重ねさせないためにも。

 

 

「……」

 

 

 やがて鉱芽はサクラハリケーンを停車させ、その場で立ち構えた。

 

 懐から戦極ドライバーと、オレンジロックシードを取り出し、静かに、心を落ち着かせて、待ち伏せる。

 

 そして、それは目の前からやってきた。

 

 

「ググルルルルゥゥ」

 

「亮ちゃん……」

 

 

 インベスの行動からほんの僅かに先回りに成功した鉱芽。ここから先には行かせまいと、夕陽に当てられている背中が雄弁に語っているようだった。

 鉱芽とインベス。鉱芽と亮子。二人をまるで残酷なスポットライトのように、沈む夕日から発せられるオレンジ色の光が痛々しく照らし出す。

 

 

「どうしても……ダメなのか……?」

 

「ングルォオォ」

 

「どうしても……人を襲うのか……?」

 

「グルラァァ!」

 

 

 亮子は答えない。鉱芽に返ってくるのは、猛々しい獣の雄叫び一つのみ。鼓膜を破るような爆音でないにも関わらず、鉱芽にはそれがどんな声よりも痛々しく感じられた。一度保ったはずの視界が再びぐらっと揺れ動くような錯覚が鉱芽に襲い掛かる。

 

 ──迷うな。

 

 ──迷えば人が死ぬ。

 

 ──もう取り返しは付かない。

 

 ──亮子も、死んだ人間も。

 

 ──あれは……インベスだ!

 

 一度出したはずの答えがぶれそうになるのを、鉱芽は自分に必死に言い聞かせて踏みとどまる。

 

 

 そして彼は……答えを出した。

 

 

「もしそうだって言うなら……」

 

 

 

 

「これ以上……血を流すっていうなら……」

 

 

 

 

「お前は……」

 

 

 

 

「お前は……っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は……亮ちゃんじゃねぇ!! 変身っ!!」

 

 

『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』

 

 

 全てを振り切るかのように彼は叫んだ。

 

 開口したクラックから降りてくる、まるで残酷な夕陽をそのまま形にしたかのようなオレンジ色の塊。それが鉱芽の身体に接触した瞬間、塊は展開し、彼の身体を守る強固な鎧へと変化する。

 

 彼は鎧武に変身した。

 

 人を守るために。

 

 敵を倒すために。

 

 亮子を……殺すために。

 

 

「ぅあぁぁぁァッ!!」

 

「ギュイァ!?」

 

 

 変身と同時に右手に出現した大橙丸、そして腰に収められていた無双セイバーを振るい、目の前のインベスに斬りかかる鎧武。まるで自身が切り裂かれているかのような壮絶な叫び声と共に得物を振るうその姿は、宛ら狂気に憑りつかれた鬼神の如しであった。

 

 

「ぁあ゙あ゙ああァ!!」

 

 

 ──何も考えるな。

 

 ──何も見るな。

 

 ──目の前の(インベス)を斬れ!

 

 

 そう自分に暗示を掛けながら、鎧武──鉱芽は狂ったように刀を振り続ける。

 

 

 一心に。

 

 

 何も見ないように。

 

 

 何も感じないように。

 

 

 しかし……。

 

 

「ぅらぁぁッ!」

 

「ウギヤァァ!!」

 

『鉱芽っ』

 

 

 ふいに脳裏にチラつく彼女の面影。

 

 

「っ……ぅ、うぁあ゙あ゙あアァッ!!」

 

「ギュフォァ!!」

 

『こーうがっ、ふふっ』

 

 

 刃で傷つければ傷つける程、ぶり返してくる彼女との思い出。

 

 

「ぅ……っぐぐ……ぁぁ……あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」

 

「イギゥォワァァ!!」

 

『踊ろうよ。ね、鉱芽っ』

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァァァッ!!」

 

 

 いくら斬っても、いくらあがいても、仮面の裏にこべりついて消えない彼女の笑顔。

 

 亮子の面影を、幻影を、思い出を振り払うように、ただがむしゃらに刀を振るい続ける鎧武。

 

 腕を振るうたびに、耳を劈くような悲鳴を上げる鉱芽。

 

 戦況は明らかに鎧武の方が優勢であるにも関わらず、今この場で一番疲弊しているのは間違いなく彼であった。

 

 

「──ハァ、ハァ……っ、鉱芽っ!!」

 

 

 鎧武が何度目かになるか分からないという程の斬撃をインベスに浴びせた後、ようやくその場に到着した真姫。彼女が目にしたのは、何度も斬られて虫の息となったインベスと、外傷がないにも関わらずインベス以上に窶れ果てたように刀を構える鎧武の姿であった。

 

 

「ぅ、ぅあ゙あ゙ァァぁァぁッ!!」

 

「鉱芽ぁっ!!」

 

「ギュイァアアアアッ!!」

 

 

 しかし鉱芽には真姫の姿を認識していなかった。目の前の、亮子を思い出させる存在に苦しめられている鉱芽にとっては、それ以外のことなど目に入るはずもなかった。

 

 

「ハァ、ハァ……ぅ……ぅうぐっ……ぁぁ……」

 

 

 真姫の代わりに鉱芽が目にしたのは、今しがた目の前のインベスを斬り裂いていた己の得物だった。インベスを……亮子を斬り裂くたびに手に伝わってくる、肉を裂く感触。生き物を……亮子を斬り裂いているという悍ましい感覚に、身の毛がよだつのを通り越して吐き気すら催していた。

 

 

「ハァ……ハァ……っ、ぅ……ぅああ゙あ゙ッ!!」

 

 

 そして彼は奇声を発すると共に、両手の刀を投げ捨てた。

 

 これ以上は無理だった。自らの手で直接彼女の身体を斬り裂くなど、したくはなかった。

 

 これ以上、自分の手を汚したくなかった。

 

 

「グググ……ウググガァ……」

 

「来るな……」

 

 

 虫の息になろうとも、鎧武へ向かってその歩みを止めようとしないインベス。

 

 

「グガァァァ……」

 

「もう来ないでくれ……」

 

 

 鉱芽の懇願虚しく、インベスはじわりとその距離を詰めようとする。

 

 

「頼む……もう動かないでくれ……」

 

「ググゥ……」

 

 

 武器を失い、呆然と立ち尽くす鎧武に、足を引きずらせながらも、爪を立てて襲い掛かろうとするインベス。

 

 

「来るな……」

 

「グガァァ……」

 

 

 祈るように、縋るように、自分を落ち着かせるように、亮子に語り掛けようとする鉱芽。

 

 

「来るな……っ……」

 

「グググ……ッ」

 

 

 しかし鉱芽の悲痛な願いは、インベスには届かない。

 

 

 彼女には、もう……届かない。

 

 

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァァァァァッ!!」

 

「来るなァ゙ァ゙ァ゙ァァッ!!」

 

『ブドウ!』

 

 

 断末魔とも相違ない鉱芽の叫びと共に、彼は新たなロックシードを解錠し、戦極ドライバーにセットした。

 

 

『ブドウアームズ! 龍・砲! ハッハッハッ!』

 

 

 新たに開いたクラックから降下する、葡萄型のアームズ。鎧武の頭部に降り立った瞬間、展開を開始し、鎧武の新たな鎧と化する。

 

 紫色の鎧が展開されると同時に右手に出現する、葡萄を模した銃。

 

 これが中距離から長距離の戦闘に特化した、鎧武の射撃形態。

 

 アーマードライダー鎧武 ブドウアームズ

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁァァッ!!」

 

「ギュファァラァラギュグフェッ!!」

 

 

 葡萄型の銃口を備えた銃、ブドウ龍砲のトリガーを引き、弾薬を充填した鎧武。彼は引き金を引いて、向かってくるインベスに向かって幾度も銃弾を浴びせ続けた。狂ったように叫びながら銃弾を連射する彼の姿も、また同様に怪物に見えたことだろう。

 

 楽だった。自分の手で直接斬るよりも、銃で撃っていた方が遥かに楽だった。

 肉を裂く、あの生々しい感触を味合わなくて済む。

 鉱芽はそう思っていた。

 

 しかし現状はどうか。引き金を引いてインベスに撃ち続けている鉱芽の悲鳴にも似た叫びは、先程よりも壮絶になっているではないか。結局、変わりはないのだ。何を使って傷つけようとも、彼がインベスを……亮子を傷つけていることには変わりはないのだから。

 

 

「鉱芽……」

 

「あ゙……ぁぁ……あ゙あ゙ァァッ!」

 

「ギイギュッ、グギュッ、ギギヤァァツ!」

 

「こう……がぁ……」

 

 

 真姫はその光景をただ涙ながら見る事しかできなかった。

 もう自分にはどうすることも出来ない。あんな姿になってしまった亮子を救う手段なんてない。鉱芽を落ち着かせる方法も分からない。自分は無力だ。この惨劇の真っ只中にいながら、何もできない。

 真姫は己の無力さに打ちひしがれ、力なく手足を下に伸ばしたまま呆然と立ちすくんでいた。

 

 

「グギィギュゥウゥ……」

 

 

 数多の斬撃と銃弾を食らったインベスも、そろそろその回復力も追いつかなくなり、傷口から溢れ出す血液が地面にしたたり落ち始める。しかし例のごとく、インベスの血が地面に触れた瞬間、瞬く間に蒸発してしまう。

 既に虫の息であり、まともに起き上がることすら出来ないほどダメージを負っているはずなのに、なおもインベスは震える足を踏み込み、その歩を鎧武に向けて進めてくる。

 

 

「ぐ……ぐぅぅ、ぁぁ……ああぁぁぁ……っ!」

 

「もうっ……やめてよ……っ」

 

 

 痛々しげにも動こうとするインベスに、鉱芽も真姫も悲痛な思いを感じずにはいられない。もうこんな事は止めてほしいと願う真姫。しかしこの悲劇を終わらせるには、残された手はもう一つしかない。

 

 そして、それを実行するのは、自分の想い人である鉱芽。

 

 亮子を愛している、葛木鉱芽自身であるのだ。

 

 

『鉱ー芽っ、明日もみんなで──』

 

「……りょ……ちゃん……」

 

 

 そして……終わりの時が近づいていた。

 

 

「グ……グワァォォォォォォ!!」

 

 

 自分に向けられている銃口をまるで意に介さず、雄叫びを上げて鎧武に向かって駆けだしたインベス。

 

 

「ぐっ……っぁ……」

 

 

 そして鎧武は……鉱芽は……戦極ドライバーに備え付けられたカッティングブレードを、一回、切り倒した。

 

 

『ブドウスカッシュ!』

 

 

 更に葡萄型の銃のスライドを引いて弾薬を充填し、その銃口をインベスへ向ける鎧武。銃口には葡萄型のエネルギーが龍と共に纏わりつき、今にも暴発しそうなほどの力を溜めこんでいる。

 

 

 銃口はこちらへ向かってくるインベスに向けて……

 

 

 震える腕を無理矢理抑え込めて……

 

 

 溢れ出す亮子への想いを閉じ込めて……

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉱芽ぁぁぁ!!」

 

「ギュァァァアアァア!!」

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎧武は……鉱芽は、その引き金を引いた。

 

 

「ッグォァッ、グォギィォァァアアァァァッ!!」

 

 

 ブドウ龍砲から放たれる無数の弾丸、そして最後に放たれた黄金の龍を模したエネルギー波が、ヘキジャインベスの身体を貫いた瞬間、大地を裂くような、天が落ちるような、生への欲望に満ちた壮絶で絶望的な断末魔を上げ、インベスは爆散した。

 

 

「ぁぁ……」

 

 

 インベスが爆散した瞬間、鉱芽の声なき声が零れ落ちる。

 

 手からぼとりと音を立てて落ちるブドウ龍砲。

 

 変身を解除した鉱芽は、震える足を運ばせた。

 

 彼女が……亮子がいた場所へ……。

 

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

 

 しかし亮子はいない。

 

 その欠片すら、どこにも見当たらない。

 

 もう、ここにはいないのだから。

 

 自分が……彼女を消してしまったのだから……。

 

 

「ぁぁ……」

 

 

 どこを探しても、もう彼女は見つからない。

 

 自分に見せてくれたあの笑顔も。

 

 全部……自分が消し去ってしまった。

 

 自分が……亮子を殺したのだから……。

 

 

「ぁ……」

 

 

 もう、亮子はいない……。

 

 

 どこにも……。

 

 

 どこにも……っ。

 

 

「……っは……ァぁァ……」

 

 

 力なくその場に跪き、両手を付け、頭を地面に押し付けて完全に蹲る鉱芽。

 

 

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁァァ!!」

 

 

 大地を割るとも、天地を揺るがすとも言わんばかりの、悲鳴にも近い鉱芽の叫びが響き渡った。

 

 

 喉が潰れるかと思えるほどに叫んだ。

 

 

 叫ぶがまま、このまま果ててしまいたいとさえ思っていた。

 

 

 しかしいくら叫んでも彼女は戻ってこない。

 

 

 いくら嘆いても自分のした事は取り返せない。

 

 

 それが分かっているからこそ、彼は己の所業に、罪に打ちひしがれていた。

 

 

 彼の痛みを代弁するかのような絹を裂くような悲鳴が、嘆きが、辺りに木霊し続ける。

 

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ア゙あ゙ああ゙あ゙あアあ゙あ゙あ゙あ゙ァぁぁァッ!!」

 

 

 

 

 鉱芽の悲鳴が轟く黄昏に、崩れていく彼の心を救える者はいなかった。




というわけで過去の話はここで一旦終わりです。次回から再び舞台が現代に戻ります。
(この続き及び前日談は、第二部終了後の「過去編」で)

なお、次の更新はまた長くなると思われます。
ですので、今のうちに感想などをいただけると嬉しく思います。

それでは次回もご期待ください。
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