ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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お待たせしました。約2カ月ぶりの投稿になります。
ですがその前に通算90000UA記念に、今回はこの人のプロフィールを公開です。

名前 凰仙(おうせん)・ピエール・アルフレッド(本名:凰仙(おうせん) 岩之介(がんのすけ)
一人称 ワテクシ
年齢 40歳
誕生日 5月14日
血液型 B型
身長 185cm
好きな食べ物 スイーツ全般
嫌いな食べ物 心のこもっていない料理

ことりがアルバイトをしているメイド喫茶のオーナー。メイド喫茶だけでなく様々なジャンルの店を構える大経営者であり、同時に一流のパティシエでもある。かつてフランス国籍を得るためにフランス軍に入隊していた経験を持つが、それも全てフランスで一流のパティシエになるという夢のためである。ことりをメイドにスカウトした張本人。おやっさんとは昔の仲で、彼を「サブちゃん」と呼んでいる。

――――――――――

それではどうぞ。


第63話 台頭する白武者

「ワン、ツー、スリー、フォー」

 

「真姫と花ちゃん、ちょっと遅れてるよ。ニコは少し早いっ!」

 

 

 早朝の神田明神に響き渡る俺と絵里の掛け声、そしていくつもの地を踏む音。俺たち10人は、今までとまるで変わる事無くいつものように練習を熟していた。

 しばらくの間絵里共々練習に顔を出さず、メンバーにも酷く心配もさせてしまったが、そんな俺たちを皆は責めることなく温かく迎え入れてくれた。みんな、俺たちが辛い思いをしていたことを知っていたからだ。

 

 しかし事の詳細を知っていることり達以外は皆、俺が裕太君を守れず死なせてしまったものだと思いこんでいる。

 

 真実を……俺が裕太君を殺した張本人である事を、何も知らない穂乃果達には伝えないつもりだ。真実を伝えて彼女たちの精神に支障をきたすわけにはいかない。それに何よりも、この事は彼女たちさえ……こんな俺を本気で慕ってくれていることり達さえ知ってくれれば、それで十分だった。

 

 ……俺の事はもういいだろう。今は彼女たちの方が大事だ。

 

 

「じゃあ次は絵里も入って」

 

「ええっ」

 

 

 今度は絵里を入れて9人で合わせる。因みに今みんなが踏んでいるのは、μ'sが次の学園祭で踊る予定の新曲のダンスだ。合宿前から地道に作っていた曲で、合宿後にようやくある程度形にはなったようだ。しかし真姫曰く「未完成」のようで、とりあえずは出来上がったメロディを元にステップを構築して今まで練習してきたのだ。

 

 

「ワン、ツー、スリー、フォー」

 

 

 学園祭まで残り一週間。とは言え、この調子なら真姫は明日にでも曲を完成させそうだし、今までのμ'sを見てくれば、今回もきっと何とかなるだろうという信頼と安心感もあった。

 

 

「(ようやくここまで来たもんな……)」

 

 

 先程皆と話した会話の内容を思い出して、俺は感慨に耽る。

 

 そう、ついにここまで来たのだ。彼女たちは。

 

『ラブライブ!』出場の要となる、全国スクールアイドルランキング。

 

 μ'sは……その中の19位にランクインしたのだ。

 

 19位。つまり20位以内であり、それは『ラブライブ!』出場校の圏内に収まっていることを意味していた。彼女たちの目標、夢見た場所が、すぐ眼前まで迫っていたのだ。これも全て彼女たちの魅力、努力、絆の成してきた結果。誰よりも間近でそれを見てきた俺だからこそ、今のこの結果が嬉しいし、誇らしくもある。そんな彼女たちの練習する姿を目の当たりにして、これ以上腐っていられるかっての。

 

 

「ハイッ、今日はここまで」

 

 

 最後のステップを踏み終えると同時にピシャリと声を張る。紆余曲折しながらもみんなの輪に戻ってこれたことが嬉しくて、少し飛ばしすぎたかもしれない。しかしメンバーの顔には疲れの色などなく、そのどれもが楽しそうな笑顔を浮かべていた。数日ぶりとは言え、全員が揃った練習ができたのがみんな嬉しくて仕方がなかったようだ。

 

 

「楽しそうだ」

 

 

 ついボソっと漏れてしまったその声を穂乃果は聞き逃さなかったのか、破顔して、そして飛び跳ねるようにして声を弾ませた。

 

 

「うんっ! だって絵里ちゃんと鉱芽さんが戻ってきてくれたんだもん! もう嬉しくて嬉しくて……まだまだ踊りたい気分だよっ!」

 

「凛もまだまだいけるにゃぁー!」

 

「休んだ分、ちゃんとにこ達に付き合ってもらうからね。覚悟しなさいよ」

 

 

 穂乃果に続いて凛ちゃんとニコもいけしゃあしゃあと声を上げる。この二人もやる気だけは穂乃果に全然負けていない。事情を全部知らないとはいえ、ここまで俺のために喜んでくれるのは本当に嬉しく思う。本当なら俺もこのまま彼女たちのやる気に興じて練習を続けてやりたいところだ。だけどな……。

 

 

「3人とも、今日から学校なの忘れてない?」

 

「あ~そうだったにゃ~……」

 

「分かってるわよそのくらい。ギリギリまで練習してもいいじゃない」

 

 

 なんと8月もまだ中旬にもなってないのに、音ノ木坂学院はもう夏休みが終わってしまったのだ。とはいえ、日頃から学校へ足を運んで練習している彼女たちからすれば別に大した事ではないだろう。いつもの習慣に勉強がプラスされるだけだ(この三人にとってはそれが最大の悩みの種なのだが)。

 ただ、『ラブライブ!』の本戦が今月末に行われることを考えれば、せめて新学期は9月からにしてほしかったというのが本音だが……。

 

 

「……え?」

 

 

 夏真っ盛りから勉学へ復帰とは大変なものだ、と彼女たちを半ば哀れに思っていたところで、目の前の少女から聞きたくなかった疑問の声が飛んできた。

 

 ──オイ……まさか……。

 

 

「穂乃果ちゃん……?」

 

「まさかアンタ……」

 

「あ、あわわ……」

 

「(あー聞きたくない聞きたくない)」

 

 

 しかし俺の希望を打ち砕くが如く、この天真爛漫オレンジ少女は頭を抱えて天を仰ぐように叫びを上げた。

 

 

「忘れてたぁぁぁぁぁぁー!!」

 

 

 彼女の叫びを聞いたその刻、境内には同じように頭を抱える9人の影があったそうな。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「あ、ねぇ待って。穂乃果ちゃん、海未ちゃん」

 

「ことり?」

 

「どうしたのことりちゃん?」

 

 

 休み明けということもあって授業が早く終わり、そして午後のμ'sの練習も終わった放課後の部室。私は最後に残った幼馴染みの二人を呼び留めていた。最初は怪訝そうな表情を浮かべていた二人だけど、いつにない私の真剣な趣を感じ取って、二人の顔も真剣なものへと変えていた。

 

 

「このこと、二人には話しておこうと思って」

 

「このことって?」

 

 

 私のことを心配そうに見つめる二人の目を見て、私も胸に手を当てて深呼吸し、そして告げた。

 

 

 

「私ね……実は……海外に留学しないか、ってお誘いが来たの」

 

 

 

「……え? 留学って……ことりちゃんが……?」

 

「……」

 

 

 私の告げた言葉によって沈黙が生まれる。穂乃果ちゃん目を丸くしたまま固まり、海未ちゃん冷静を保とうとしているけど、目が僅かに見開き、唇も震えていた。そんな音という音が消え去ってしまった空間を洗い流すように、私は事情を説明する。

 

 

「私のデザインした衣装を見た海外のデザイナーさんがね、是非こっちで服飾の勉強をしないかって。それで……」

 

 

 急にこんな事を言ってきっと二人を驚かせちゃったと思う。二人とも目に見えてショックを受けた顔をしてるんだもん。そう考えると私自身胸を抉られるような痛みに襲われる。

 

 

 もう解決した問題(・・・・・・・・)なのにね。

 

 

「ことり……もし行くとして、その後のμ'sはどうするのですか?」

 

「そうだよ! それにまだ音ノ木坂の廃校問題もまだ解決してないよ!」

 

 

 そして案の定、つい感情的になってしまった幼馴染み達からの動揺の声が部室に響き渡すことになった。

 海未ちゃんの目つきも鋭いというものからは程遠く、今は弱弱しく沈んでいる。海未ちゃんは私が決めたことには反対しないつもりなんだろうなぁ。だから私がもし留学すると言っても、きっと送り出してくれる。そんな優しい子なの、海未ちゃんは。

 穂乃果ちゃんは対照的にとても感情的になって、私にしがみ付いてくるような勢いを見せていた。今まで、誰よりも長く一緒に居た親友だもんね。急にいなくなるって言われたら、これがきっと普通の反応だと思うの。

 今にも泣きそうな彼女たちの顔を見るのが辛くて(でもちょっと可愛くて)、申し訳ない気持ちになる。

 

 でも私は──

 

 

「待って! 大事なのはここからなの」

 

 

 ──私は一度も"行く"なんて言ってないよ。

 

 

 

 

「それでね、私……留学の話を断ったの」

 

 

 

 

「え?」

 

「はい?」

 

 

 予想外の私の決断に、二人ともまた目を見開いて固まってしまう。そんな二人の挙動が可愛らしくて、つい心の中でにやけ顔を浮かべてしまう。表には絶対に出さないけどね。

 

 

「そ、そうなんだ……よかったぁ~……」

 

「でも、どうして私たちに相談もせずに決めたのですか? ことり、本当は海外で服の勉強もしたかったのではないのですか?」

 

 

 未だ目に涙を浮かべたまま、穂乃果ちゃんは胸を撫で下ろしながらその場にへたり込む。だけど海未ちゃんは安心した表情を浮かべながらも、疑問が抜けきっていない目をまだこちらに向けていた。

 本当、海未ちゃんは相変わらず鋭いところを付いてくる。確かに海外に留学したいって気持ちはあるの。でも、その気持ちを押しとどめてまでここに残ろうと思ったのは……。

 

 

「一つは、やっぱりみんなと一緒にμ'sを続けたい。まだみんなと離れたくない。真剣にそう思っていたから」

 

 

 μ'sを始めてから毎日が楽しいことばかりで、これからもずっと、卒業まではみんなと一緒にいたかったから。どうしても卒業まで音ノ木坂を離れたくなかったって言うのが理由の一つかな。今になって考えてみても、穂乃果ちゃんや海未ちゃんと離れるだなんて考えられないもん。

 

 

「一つは?」

 

「では他の理由は?」

 

「うん。もう一つは……」

 

 

 でもそれだけが留学の話を断った理由じゃない。むしろ、この次の理由が私がここに残る事になった決め手なのだから。

 

 そして私は静かにその理由を……その名前を告げた。

 

 

「……鉱芽さん」

 

「「鉱芽さん?」」

 

「うん」

 

 

 私は、鉱芽さんをどうしても放っておくわけにはいかなかった。

 

 

「穂乃果ちゃん。海未ちゃん。私……私ね……」

 

 

 そして二人には、大事な幼馴染みの二人には、このことを伝えておきたかった。

 

 

 

 

「鉱芽さんを……愛してるの」

 

 

 

 

「「……」」

 

 

 私の告白なんてまるで予想だにしていなかった二人は、それこそ時が止まってしまったかのようにピクリとも動かなくなってしまう。しかも「好き」じゃなくて「愛してる」だもんね。穂乃果ちゃんはともかく、こういう話には耐性が無い海未ちゃんは理解するのにも苦労しているかもしれない。

 

 

「……え……えぇ? こ、ことりちゃんが……っ?」

 

「こ、ことりっ、あなた何を?」

 

「真剣なことなの。お願い、聞いて」

 

 

 沈黙から復活した二人から出てくるのは困惑と疑問の言葉。きっと穂乃果ちゃんと海未ちゃんもまだ恋なんてしたことないんだと思う。だとしたら余計に混乱させちゃったかもね。

 だけどそんな二人に構わず、私は胸に募った想いをこの場で溢れさせていた。

 

 

「私、昨日鉱芽さんと会ったの。そしたら鉱芽さん、今までに見た事のくらいボロボロで……っ。表装ではすごく強がってたけど、でも……少しつっつくだけですぐに壊れちゃいそうで。もう見てるのが辛いくらい……悲しそうだった……」

 

「ことり……」

 

「鉱芽さんが……」

 

 

 二人には「鉱芽さんが裕太君を守れなかった」という話で通している。真実は違うけど、でも鉱芽さんからしてみればその言葉の通りだった。裕太君を人として死なせてしまった時点で、それは彼の敗北に等しかったから。

 そして人でなくなってしまった裕太君を倒した鉱芽さん。その胸にずっと刺さり続けていた咎によって、彼の心から罪悪感と言う名の血が止めどなく溢れ出していたように私は感じた。彼はこれからもその咎によって苦しめられるんだろう。これからも自分の手を汚し、良心の呵責に苦しみ、それでもまだ戦い続ける……。

 

 そんな鉱芽さんをこのままにしておけるはずがなかった。

 

 

「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。私は鉱芽さんが好き。ううん、はっきり愛してるって言えるくらい、彼のことを大事に想ってるの」

 

 

 始めは単なる憧れだった。だけどその想いは、彼と一緒にいるほどどんどん強くなっていって、もう「愛してる」という言葉以外に表現できないほどまで堅く、そして熱く進化していった。

 

 

「こんな気持ちは初めてなの。鉱芽さんのことを考えるだけで、胸がいっぱいになっちゃうような幸せな気持ち」

 

「ことりちゃん……」

 

「……」

 

「そんな彼が……今こんなに大変なのに、私……このまま留学なんてできないよ……」

 

 

 私は鉱芽さんに約束したもの。

 

 彼を受け入れるって。

 

 絶対に否定しないって。

 

 いいところも悪いところも、全部、ありのままの鉱芽さんを肯定するって。

 

 だから私は鉱芽さんの傍に居ることを心に決めたの。

 

 

「だからことりちゃんは……」

 

「うん。ごめんね、こう言っちゃうとなんだか不純に聞こえちゃったかも……」

 

 

 μ'sや音ノ木坂が大切だという言葉は本当。だけどそれ以上に彼への強い想いが、私の留学辞退の決め手になっていた。でも、もしかすると二人を失望させちゃったかもしれない。だってこれだとみんなより鉱芽さんの方が大切みたいに聞こえちゃってるもん。本当はそんなことなくて、どっちも同じくらい大切なのに……。

 

 

「でも、それはことりちゃんが決めたことなんだよね?」

 

「え? う、うん」

 

「じゃあ私たちからは何も言うことはないよ。ねぇ、海未ちゃん」

 

「そうですね」

 

「え?」

 

 

 だけど穂乃果ちゃんと海未ちゃんはそんな私を責めることはなく、なんてことないように受け入れてくれたの。それが少し意外で目を丸くしてしまう。

 

 

「ことりちゃんがそこまで鉱芽さんのことを好きなのはビックリしたけど、でも、それでことりちゃんとまだ一緒にいられるなら万々歳だよっ」

 

「それに、ことりがそんな風に言い張ると意地でも曲げてくれませんからね。しかし私も、ことりが留学しなくてほっとしてるというのが正直な気持ちです」

 

「穂乃果ちゃん……海未ちゃん……」

 

 

 流石は私の大好きな幼馴染みたち。きっと思うところはあるはずなのに、それよりも目先の幸福を一緒に喜んでくれる。それがとっても嬉しくて、つい目尻に涙を浮かべてしまう。

 

 

「にしてもぉ~鉱芽さんも幸せ者だよねぇ~。こ~んなにかわいいことりちゃんに好かれてるんだもん」

 

「え? ぇぇ、えへへ……あ、ありがとう……(私だけじゃないんだけどなぁ……)」

 

 

 だけど穂乃果ちゃんのからかうような言葉にも素直に喜べず(だけど他のライバルのことも言えず)、にじみ出た涙がひょいっと引っ込んでしまう。

 

 なにも鉱芽さんのことが好きなのは私だけじゃない。絵里ちゃんも真姫ちゃんも、そしてあのA-RISEの綺羅ツバサさんもそう。しかも彼女は鉱芽さんの元恋人だって聞いている。二人の間にある絆は、もしかすると私たちよりも強いかもしれない。それに真姫ちゃんとも、鉱芽さんは私たちよりも一緒にいる時間は長い。絵里ちゃんだって、鉱芽さんはその固い殻を破ろうと必死になって彼女と向き合っていた。

 そう考えると私が一番彼との繋がりが薄く感じられる。私は本当に彼の力になれるのかと、時々自信を無くしそうになっちゃう。だけど、それでも彼を想う気持ちは誰にも負けるつもりはないし、どんな困難があっても私は彼の見方であり続けるつもりだ。

 

 

「じゃあ私たちもことりちゃんを応援しちゃおうかな~? ねっ、海未ちゃん」

 

「全く、仕方ありませんね」

 

 

 私の心を知ってか知らずか、二人の温かい言葉に胸が熱くなる。私は本当にいい親友に恵まれているんだなと、今日改めて感じることが出来た。

 

 ──ありがとう。穂乃果ちゃん、海未ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですが今度、鉱芽さんとゆっくりお話でもしましょうかね」

 

「あ、あはは……お手柔らかにね……」

 

「ええ」

 

 

 だけど去り際にそう呟いた海未ちゃんに、私は苦笑しながら返すことしかできなかった。

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

「愛してる……ですか……」

 

 

 穂乃果とことりと離れた後、私は一人帰路の途中で先程のことりの言葉を何度も思い返していました。確かにことりは言いました、「鉱芽さんを愛してる」と。愛……その感情を異性に抱いたことのない私にとってみればまるで未知の領域で、ついことりを応援するようなことを言ってしまいましたが、私はそんな彼女の気持ちの半分も理解していないのかもしれません。男性の方が苦手というわけではありませんが、異性に特別な気持ちを抱くというのが私には未だにピンときていませんでした。

 

 

「やはり私には……まだよくわかりませんね」

 

 

 私にもそういう人が現れたならことりの気持ちをもう少し理解してあげられるのでしょうか? なんてつい柄にもないことを考えてしまいます。ことりという大切な幼馴染みが初恋をしているというのに、私自身は未だに自分が恋に落ちるビジョンなんてこれっぽっちも見えていなかったのです。

 しかし、ことりに強い決心を抱かせてしまう程まで恋とは強いものなのでしょうか。そう思うと、やはり自然と興味が湧いてきてしまうものです。これは誰にも話したことのないことですが、私も女の子の身なのですから、実は一度くらい恋をしてみたいと思ったことはあります。結局、私にとってそこまでの気持ちにさせてくれるような男性は現れませんでしたが……。父や他の親族を除けば、鉱芽さんに対して一番好意を抱いていますが、恐らくこれも恋ではないのでしょうね(たとえそうだとしても、ことりが相手の時点で勝ち目はないでしょうけれど)。

 

 

「(ってさっきから何を考えてるんですか私は! 男女の関係だなんてそ、そんな破廉恥なっ! 私には、ま、まま、まだ無理です!)」

 

 

 ことりと鉱芽さんならともかく、やっぱり私にはそんなのは無理です! もしあの二人が付き合ったら……という場面を想像するだけでも赤面して狼狽してしまうのに、そんな初心な自分が恋愛沙汰になるなんてやはり無理なのかもしれません。

 結局私がことりに助言できることなんて何もない……かもしれません。むしろ私が助言をもらう立場になってしまうのかも……。

 今更ながら自身の行く末を心配し始めていた、そんな夕方の帰り道でした。

 

 

 とりあえず今日のところは帰って、ゆっくりと心を落ち着かせましょう。色々と考えすぎて疲れてしまいました。

 

 そう思い、改めて帰路への道を踏みだした時でした……。

 

 

 

 

 ギュィィイイィィイイイイィィン

 

 

 

 

 嵐とは突然やってくるものです。こんな一学生が悩んでいる時でさえもお構いなしに到来します。本当、実に無作法なものだと思わざるを得ません。

 

 

「!? クラック……っ」

 

 

 私の背後から鳴り響く不気味な音に振り返ると、そこにはあの異界の門が開いていました。これを見るのは夏の合宿以来ですが、その存在自体が持つ威圧感と、その先に広がる薄暗い森のおどろおどろしさについ身が震えてしまいます。そしてこの中から出てくる存在も、普通の人間が決して適うことのない猛々しい異形──インベス。彼らが出ないうちに恐る恐るその場から離れ、すぐに鉱芽さんに連絡を取ろうと鞄から端末を取り出そうとしました。

 

 

「ギシュアァァァァア!」

 

「っ!?」

 

 

 しかしその前にクラックからインベスが出現したのです。黒い翼がマントのように身体を覆う様がまるで蝙蝠のように見えるインベスでした。そしてこうなってしまっては私にできることは何もありません。以前インベスに立ち向かって何も出来なかったことを思い出し、私は唇を噛みながら、端末を握り締めてこの異形から逃げようとしました。

 

 しかし──

 

 

 ギュィィィィィィイン

 

 

「グ゙ォォォォォ!」

「ギュオァァァァ!」

 

「そ、そんな……っ」

 

 

 蝙蝠のインベスに背を向けて逃げようとした私の眼前に、もう一つのクラックが開いたのです! そして中から現れる、竜の頭部を持つインベスと、カミキリムシのような触角を持った青いインベスが、私の逃走経路を塞いでいました。

 

 

「……くっ」

 

 

 三体のインベスに完全に囲まれてしまい、もはや絶体絶命。私にはことりのように自分の身を守るためのロックシードを持っていません。鉱芽さんを待とうにも、偶然通りかからない限り彼がすぐに現れることなんてありえない! 私の状況は完全に絶望的でした。

 

 

「(ですが……)」

 

 

 しかしどういうわけか、こんな絶望的な状況にもかかわらず、私の胸にはまだ希望が潰えていませんでした。確かにここから助かるなんてどう考えても現実的ではありません。

 

 しかし私は一度見てしまったのです。

 

 鉱芽さんを……仮面ライダーという存在を。

 

 彼と言う存在が……仮面ライダーがこの街にいる限り……インベスに立ち向かえる存在がいる限り、きっと私の胸の希望は潰えることはない。仮面ライダーを知っているからこそ、私は絶望に打ちひしがれることはありませんでした。

 

 

「グルルルルァ」

 

「……っ」

 

 

 それが例え、私の目の前でこの命を刈り取る爪が降り上げられようとも。

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギュァァァアァァ!?」

 

「!?」

 

 

 ──私の希望は叶うに至ったのです。

 

 

 私に襲い掛かろうとしたインベスに"眩しい何か"が招来し、インベスは私の目の前から大きく飛んでいったのです。インベスはそのまま地面を何度も転がり、ようやく止まったところで立ちあがるも、今度は先程よりも幾分か強烈な光──矢が再びインベスに迫っていました。

 

 

『メロンエナジー!』

 

「ギュィァァァァァ!!」

 

「きゃっ!」

 

 

 その矢を躱すことができなかったインベスは、矢に貫かれるとともに絹を裂くような悲鳴と共に爆散してしまいました。爆風に煽られて腕をかざしながら、私は先程の矢を放った存在の方へと目をやったのです。そこにいる存在が、私の知る()の方だと信じて。

 

 

「(まさか……鉱芽さん?)」

 

 

 しかしそこにいたのは私の知っている鎧武ではなく、白いスーツと緑色の鎧に身を包んだ見た事のない武者の姿でした。

 

 

「……」

 

「(あれは……?)」

 

 

 鎧武の前立は伊達政宗公よろしく左右非対称の三日月形でした。しかしあの武者の前立は三日月に違いないのですが、左右対称で上方に角が伸びており、何より一つ目の鎧武と違って目が二つに分かれていました。他にも白いスーツや緑色の鎧も気になるのですが、どこよりも違っていたのはその武者が身につけているベルトでした。鎧武の持つのは黒い戦極ドライバー。しかしあの白武者が巻いているのは、私が見た事のない赤いドライバーです。これだけの違いがあれば、嫌でもこの存在が鎧武とは違うものだと思わずにはいられません。

 唯一共通点があるとすれば、下地のスーツの模様と、そして彼の持つ赤い弓でしょうか……。

 

 

「ふっ! はぁッ!」

 

「「グギュァァァァ!」」

 

 

 白武者は右手に携えた赤い弓を振るい、目にも止まらぬ速さでインベスを斬り付けていきました。龍とカミキリムシのインベスも反撃に向かおうと手を伸ばすも、どうしても素早い白武者の手数に押し切られ、ただ無様に切り刻まれていくだけです。

 そして白武者から聞こえてくる掛け声も、私の知っている彼の声ではなく、聞いたことのない若い男性のものでした。

 

 

「(やはりあの人は鉱芽さんじゃない……)」

 

『メロンエナジースカッシュ!』

 

 

 白武者がドライバーに備え付けられているレバーを押し込んだ瞬間、その電子音と共に彼の持つ刃にも緑色の光が宿り始めました。そしてその輝きが最高潮に達した時、彼は龍のインベス目がけて飛び込み、一瞬でその身体を斬り裂いてしまったのです。

 

 

「はあぁっ!」

 

「イギュゥワァァァァ!!」

 

 

 白武者の一閃が入った瞬間、悲鳴と共に爆散してしまうインベス。鉱芽さんではありませんが、それでも彼の動きも凄まじいです。鉱芽さんが静と動を瞬時に切り替えて戦っていた事は覚えていますが、今の白武者の動きはその切り替えとキレの良さで言えば鉱芽さんよりも綺麗でそして素早かったのです。尤も、鉱芽さんの場合は切り替えよりも多彩な動きと一撃の重さに重きを置いているのですが。

 

 

「ギュルルルルルル」

 

「!? はぁ!」

 

「グルルァァァ!」

 

「っ、すごい……」

 

 

 最後に残ったカミキリムシのインベスの長い触角による攻撃も、彼は何てことのないように斬り裂いていなしてしまいます。それどころか、その触角を掻い潜って一矢を放って見せたのです。

 

 

『ロックオン』

 

 

 インベスはもはや虫の息。白武者はドライバーからロックシードを取り出すと、赤い弓に装填し、そしてゆっくりと矢を引き始めました。彼が矢を引き、ギリギリギリと弦が引き絞られるほどに、矢の切っ先に集まる光が強くなっていきます。

 

 しかしそれだけではありません。

 

 

「綺麗……」

 

 

 彼の弓を構える姿勢が、私にはとても美しく見えたのです。

 足踏みは綺麗に60度開いており、つま先も自身の矢尺と同じ感覚で開いている。インベスに向かって一直線に揃った足踏みが、どっしりと、そして自然に彼の身体を支えています。しっかり腰をすえ、左右の肩を沈め、背を真っ直ぐに伸ばし、全身の重心を腰の中央に置いた綺麗な胴造り。矢の構造上持ち方がおかしくなるのは仕方無いとしても、それでも彼はその他の弓構えの基本が全て成っていたのです。それこそ、以前見た鉱芽さん以上に。

 

 そして──

 

 

「ふっ!」

 

『メロンエナジー!』

 

 

 今にも爆発してしまいそうなほど集まった光を、彼はインベス向けて放ちました。もちろん射った後の姿勢をこれっぽっちも崩さないままに。

 

 

「ガァァァァァァァッ!!」

 

 

 そして白武者の光の矢がインベスを貫き、最後のインベスもまた爆炎へと姿を消しました。

 

 

 ギュィィィィィィイン

 ギュィィィィィィイン

 

 

 それと同時に二つのクラックも閉じ、何とかこの場の騒動は終わりました。白武者がここに現れて1分弱。本当に早い決着でした。しかし、もしあの白武者が現れなければ今頃どうなっていたことか……。もし彼が現れなければ今頃私は生きてはいないでしょう。そう思うと彼に対する感謝の念がますます強くなってきます。そう思って彼の方を見たのですが、彼は私の方など目もくれず、そのまま変身も解かずに歩き去ろうとしていました。

 

 

「ま、待ってください!」

 

「……」

 

「あの、助けていただいてありがとうございます」

 

「……」

 

 

 呼び留めて立ち止まらせることは出来ましたが、彼は僅かに顔をこちらへ向けるだけで何の言葉も交わそうとしません。それならばと、私は気になっていたことを彼から聞き出すことにしたのです。

 

 

「あなたは……誰なんですか?」

 

「……」

 

 

 案の定その質問にも彼は無言を突き通す。しかし彼が持つドライバーは、きっと鉱芽さんと同じアーマードライダーへと変身するためのアイテム。それを開発したのは鉱芽さんのお父さんで、即ちドライバーを手に入れるには必ず彼を経由する必要があります。

 だから私は確信に近い言葉を彼に投げ駆けました。

 

 

「鉱芽さんと……何か関係があるのですか?」

 

「っ!」

 

 

 その言葉に反応したのか、僅かに顔を上げる白武者。やはり間違いありません。彼は鉱芽さんのお父さんの関係者……いえ、恐らく鉱芽さん本人と何らかの繋がりがある人間です。ですから私は……。

 

 

「お願いです。私たちを……いえ、鉱芽さんを助けてください」

 

 

 きっと目の前の人も、今鉱芽さんが大変な事も分かっているのでしょう。それでも私は頼むしかありませんでした。私たちの大切な仲間が……ことりの愛する人が苦しんでいるのなら、それを少しでも和らげる存在に私は縋りたいと思っていたから……。

 

 

「彼は今……苦しんでいます。貴方なら……そのドライバーを持つ貴方なら、きっと鉱芽さんの力になれると思うんです!」

 

「……」

 

「だから……お願いしますっ。鉱芽さんの助けになってください!」

 

 

 助けられたこともあってこの武者を信用していたのでしょうか? いえ、この人なら信じていいと思ったのです。戦う彼の武人とした佇まいから、その高貴な精神が自然と感じられたのです。だからこそ、今こうして私は彼に頭を下げて願いを乞うているのです。

 もしかするともう既に彼のために動いているのかもしれない。そうすると私は今とても滑稽な事をしてるのだと思うのですが、そんな恥は今は捨て置きます。そんな恥よりも、仲間を守る方がよほど大切です。

 

 

「……」

 

「……分かった」

 

「っ!」

 

 

 そして彼はドライバーのロックシードを閉じ、変身を解除してくれました。光と共に消えていく仮面に鎧。その中から現れた人物は……。

 

 

「あなたは……?」

 

 

 中から現れたのは、鉱芽さんと同じくらいの歳の、少し幼さを残した顔を持つ綺麗な青年でした。生まれ持ってした品性か教育の賜物かは知りませんが、彼から発せられる気品につい見惚れてしまっていました。

 そして私は彼の顔をつい先日見た覚えがありました。そう、あれはドルーパーズで……鉱芽さんの前に現れた人物、その人でした。

 

 

「っ、すいません。私は園田海未と申します。失礼ですがお名前は……?」

 

「僕は……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、立花(たちばな) 道行(みちゆき)です。鉱芽さんの……元チーム……かな? ははっ」

 

 

 そう答えた彼の表情は、どこか美しくて、そして儚げでした……。




ついに姿を見せたミッチ。
彼はどのようにしてドライバーを手にしたのか?
そして鉱芽とはどうなるのか……?

次回もご期待ください。
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