ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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今回はまさかの……?

それではどうぞ。


第64話 斬月

 まだ空の色は青く澄み渡っているが時刻は既に夕方。恐らく今頃μ'sのみんなも部活動を終えて帰っている頃だろう。そしてそんな中、俺はドルーパーズの仕事も途中で抜けて何をしているのかというと……。

 

 

「(嫌な予感がする……)

 

 

 別に端末にクラックが出現したわけではない。ふと肌に来る悪寒を感じ、俺はその勘に従ってドルーパーズを抜けてきたのである。もちろんおやっさんに一言入れて、だが。

 しかしどこか妙だ。自分は勘がいい方だと自負しているが、それでも今までなら自分の近くでクラックが開きかけた時くらいにしかこんな予感はしなかった。しかし今は、いつクラックが開いてもおかしくないような、そんな不思議な圧力に見舞われている。

 

 

「(気のせい……じゃないよな)」

 

 

 前にも言ったが、俺の嫌な予感は大概外れない。きっと何かが起こる。そんな根拠のない確信と共に街を徘徊し始めて数分が経った頃だった。

 

 

『ピピッ──ピピッ──』

 

「っ、出たっ」

 

 

 俺の端末にクラックの出現を知らせる電波が送られてきた。不気味に音を鳴らす端末を確認し、サクラハリケーンを出して急いで現場へと急行しようとした。現場も近いしすぐに着くだろう。

 

 しかしその時だった。

 

 

「!?」

 

 

 俺の周りの景色が急に白くなっていく。いや、強烈な光が俺の身体を包み込もうとしていた。

 

 

「な、なんだ……っ」

 

 

 あまりの眩しさに目も開けていられず、そして全感覚が鈍って何が起こっているのか分からない状況だった。やがて光の拡大が収まったと感じ、俺はゆっくりと目を開けた。

 

 

「……君は?」

 

『やっと会えたね……鉱芽』

 

 

 辺りは依然として真っ白な空間。そして俺の目の前には、幼い顔立ちの一人の少年がいた。歳で言えば雪穂ちゃんや亜里沙ちゃんと同じくらい……中学生くらいだろうか?

 しかしそんな事は今は問題ではない。この少年は今、俺の名を呼んだのだ。俺は彼の事を知らないが、向こうは間違いなくこちらのことを知っている。それだけで、この人畜無害そうなあどけない顔立ちの少年に対しても若干の警戒心が生まれてしまう。

 

 

「どうして俺を?」

 

『僕は……君と会ったことがあるから』

 

「会った? それっていつの──」

 

 

 彼の言葉が本当なら俺たちは過去に出会っていることになる。しかしどうにも思い出せない。記憶力はいい方だと自負しているが、流石に幼少期となると俺も自信がなくなってくる。だから俺は彼に問いただそうとした。しかし──

 

 

『岳斗からも聞いてたしね。君の話を』

 

「っ!? とう──親父をっ?」

 

 

 なんとこの少年は親父を──戦極岳斗を知っているらしい。しかも俺の話をだと? あまりにも驚愕したために軽く取り乱してしまい、つい昔の呼び慣れた口を動かしてしまう。しかし少年は相変わらずの落ち着いた声色のまま、しかし少し焦燥が見え隠れする様子で俺に言い渡してきた。

 

 

『ごめん。時間がないからこれだけは伝えておきたいんだ』

 

「え?」

 

『闇が近づいてる……もう、すぐそこまで』

 

「闇……」

 

 

 少年の口から提示された『闇』と称される謎の存在。そしてその正体について、俺には思い当たる節があった。恐らく、夏の合宿の時に力の一端を見せたあの黒い存在……今なおμ'sを付け狙う謎の脅威のことであろう。

 

 

『気を付けて、鉱芽』

 

「あ、ちょっと待って。君の名前はっ?」

 

 

 しかし少年は俺に闇の存在を伝えると、徐々にその輪郭が薄くなっていった。「時間がない」ということは、俺と話せる時間にも限りがあるということなのだろうか? しかし未だ俺は彼の名前を聞いていない。俺のその問いに対し、彼は一瞬だけだが悩むような素振りを見せ、そして答えた。

 

 

『僕は……ラピス。今はそう呼んで』

 

「ラピス……」

 

 

『ラピス』という聞き覚えのない名前。少なくとも俺の記憶の中にはそんな名前の人間はいなかった。"今は"ということは偽名か何かなのだろうか? そんな疑問が次々浮かび上がってくる中、次第に少年の姿と共に、この真っ白な空間も薄らいでいくのが感じられた。

 

 

「あっ、オイ!」

 

『また会おう、鉱芽……君の仲間の……絆を信じて』

 

「え……?」

 

 

 絆……その言葉を最後に告げ、少年は光と共に消えていった。光に包まれた空間もいつの間にか消え去っており、辺りはいつもの街並みの姿に戻っていた。

 

 

「……」

 

 

 光から解放された俺はしばらく放心してしまっていた。

 

 あの少年は何者だったのか?

 

 何故俺の名を……親父の事を知っていたのか?

 

 闇……彼はその正体を知っているのか?

 

 考えても考えても答えは出そうにない。今は完全に得られる情報に対して受動的になるしかなかった。

 

 

「……! そうだクラック」

 

 

 少年との解析のために気が逸れてしまったが、クラックの元へ向かおうとしていたことを思い出し、再度端末を確認する。画面に表示されている時刻は先程からほとんど時間が経っておらず、まだ急げば間に合うことを示唆していた。

 

 

「反応が……」

 

 

 しかし端末には既にクラックの反応は消え去っており、それは暗に周囲のインベスの消滅を意味していた。まさかもうスイカアームズが倒してしまったのだろうか? にしては早すぎる。しかしただ単にインベスが遠くまで逃げただけの可能性も否定できないため、俺は急いでサクラハリケーンに跨ろうとした。

 

 

「もう心配ないわよ」

 

「えっ?」

 

 

 しかしハンドルに手をかけたその時、背後から聞き覚えのある凛々しい女の子の声が耳に届いた。

 

 

「ツバサ?」

 

 

 安心して、と言わんばかりに穏やかな声色と共にゆっくりこちらに歩いてくるツバサ。しかし彼女が「心配ない」というならきっとそうなのだろう。何せ、彼女には既にゲネシスドライバーを渡している。俺と同様の……いや、俺以上のスペックのアーマードライダーに変身できるあのドライバーを彼女が持っているのなら、ツバサがそのクラックとインベスを対処したと考えられる。

 俺は一人彼女の言葉に納得して安堵していた。しかし──

 

 

「インベスはもういないと思うから」

 

「思うって……お前じゃないのか?」

 

 

 彼女はまるで自分自身はインベスを倒していないとでも言うような言い草で教えてくれた。

 

 

「……ねぇ、コウガ」

 

「どうした?」

 

「私……私ね……」

 

 

 僅かに顔を伏せ、開こうとする口も震えている。言うことすら憚られるのだろうか? そんな彼女らしからぬ自信のない態度に、これから彼女のいう言葉がただ事ではないものだという予想はできた。

 

 

「ごめん、コウガ……」

 

「?」

 

 

 しかしツバサの告げた内容は、俺のどの予想をも大きく通り越していた。

 

 

 

 

「ドライバーを……ミッチに託したの」

 

 

 

 

 彼女の言葉はあまりにも衝撃的で、俺はしばらく音も光も何も感じなくなる空間へと誘われてしまった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 コウガがインベスになった子どもを倒した日の翌日、私は彼に連絡を取った。そしたら案の定、彼の声は酷く弱弱しく、そして僅かに震えているように感じられた。コウガが泣きそうになっているのが端末越しでも簡単に伝わる。彼のボロボロになっていく姿が容易に感じられる。それだけで私の胸は苦しくなる。

 

 

「(お願い……これ以上コウガを傷つけないで……っ)」

 

 

 今なお良心の呵責に苦しんでいるであろう彼を重い浮かべて、私はいるとも思えない神様に向けて縋るように懇願してしまう。

 だけど神様にはコウガは救えない。彼に対して試練しか与えない世界の神なんて、私は認めたくない。でも私なら……いいえ……。

 

 

「彼なら……」

 

 

 亮子ちゃんを手にかけ、どこかおかしくなってしまった今のコウガ。だけどそんな彼を救うことが出来る唯一の人がいる。私はその人に賭けたくなった。

 

 だからコウガに連絡を取ったその日、私はそこを訪れたの。

 

 

 ──立花ホースライディングクラブ。

 

 

 かつてコウガがよく遊びにいっていた乗馬クラブ。

 

 そしてコウガが親友の立花道行──ミッチとの出会いの場となった場所へ……。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「ようこそ。ここに来るのは久しぶりだね、ツバサちゃん」

 

「もういい加減『ちゃん』付けは止めてって言ってるでしょミッチ」

 

 

 ミッチに連絡を取って数時間後、私は彼の父が経営する立花ホースライディングクラブへと足を運んでいた。ここには何度か来た事はあるけど、彼の言う通りここに来るのは2年ぶりで、結構久しぶりだったりする。

 

 

「はははっ、ごめんごめん。でもこればかりはもう癖だから」

 

「まあ、確かに私も年上に『ミッチ』だからおあいこかな」

 

「そういうこと」

 

 

 亮子ちゃんの件もあり、コウガとミッチの間にはここ一年間まともな会話は殆どなかった。しかし私やA-RISEのみんなとは未だに偶に連絡を取り合っていて、だからこそこんな風に軽口を叩きあったりできる。私たちだって元チームメイトだものね。

 

 

「あれ?」

 

 

 そして私を出迎えてくれたのはミッチだけではない。彼の背後から、ふわふわした大きな何かがこちらへ向かってきた。それは近づいてくるたびに向かってくる速度も早まり、更に息づかいが聞こえてくるようになる。そして私たちの目の前で急停止すると、元気よく生き生きと吠えたの──ワン、ってね。

 

 

「えっ、嘘っ? もしかしてミカンちゃん!?」

 

「うん。二年ぶりなのに覚えてたんだよ。ツバサちゃんのこと」

 

 

 ハッハッと舌を出して体温調節を行いながらも、後ろから覗かせる尻尾ははち切れんばかりにブンブン振り回している。実に愛くるしいいでたちと振る舞いを見せるこの子の名はミカン。柔らかい金色の毛が特徴的なゴールデンレトリーバーの女の子だ。もちろんこのクラブで飼われていて、だからこの子にとっては一番遊んでくれるミッチが一番の友達だったりする。

 この子がこのクラブにやってきたのは二年ちょっと前……私がここに来なくなる直前のことだった。あの頃はまだ生まれたばかりの小犬で、クラブの人もお客さんもみんなよく可愛がっていた。とやかく言う私も、コウガやミッチに会いに来た時は必ずこの子と遊んでいたっけ。

 まあ、UTXでの活動が多くなっちゃってそれから来れなくなってしまったんだけどね……。

 

 

「ありがとうミカンちゃん~。うわぁ~前はあんなに小さかったのにもうこんなに……」

 

「今、2歳半ってところかな」

 

「ふふっ、もう立派な大人の犬ね」

 

 

 でも久しぶりに会って、ミカンちゃんも大人になったというのに、この子は私を忘れていなかった。それが嬉しく、そして愛おしくてつい抱き付いて撫でまわしてしまう。

 

 ……だけど私はこんな事をしにきたんじゃないの。名残惜しいけど、私は抱き付いているミカンちゃんを解放してゆっくり立ちあがる。そろそろ本題に入らないと……。

 

 

「他のみんなにも会いにいこうよ。いなくなっちゃった子もいるけど新しい子もいるからさ」

 

 

 ミッチがいう『みんな』とはここで暮らしている馬たちのことだ。そりゃあ二年も来ていなかったら入れ替わりもあるでしょうけど……ああ、でもレオンがいるなら会ってみたいわね……って、だから今日はそんなことをしに来たんじゃないって。

 

 

「馬の方は後にするわ。ねぇ、ミッチ。さっきも言ったけど、今日は大事な話があるの」

 

「うん、鉱芽さんのことでしょ。じゃあ……一旦クラブハウスに行こうか。そこで、ね」

 

「ええ」

 

 

 予めミッチには訪問の理由を『コウガについての話』と伝えている。そもそもミッチは知らないもの。どうしてコウガが自分に対して余所余所しくなってしまったのか。どうして昔みたいに笑いかけなくなってしまったのかを。そして私はその理由を知っている。そして彼にそれを知らせる(・・・・)ことができる。

 

 だからこそ、今日私はこれを……

 

 

 

 ゲネシスドライバーを持ってきたのだから……。

 

 

 

 クラブハウスに着いたら順を追って話そう。今この世界で何が起きているか。コウガが何に巻き込まれているか。そしてミッチ自身の失われた記憶を……いや、そんなことを説明するより、このドライバーを巻いて変身させた方が早い。

 

 ドライバーで変身するだけで……きっと彼は思い出すから。亮子ちゃんの存在を……。

 

 そして私は……彼に真実を伝えて……っ。

 

 

「(でも……)」

 

 

 それで本当にいいのかしら……。

 

 彼が亮子ちゃんの事を思い出し、私が真実を話したら……彼は何をするの?

 

 彼の性格上、やはりコウガを許す……はずよ。

 

 でもまさか……コウガを恨んだりなんてこと……。

 

 

「……(ミッチ……間違ってもコウガの事……襲ったりしないよね……?)」

 

「? ツバサちゃん、大丈夫?」

 

「え? え、ええ。ごめんなさい」

 

 

 深く考え込み過ぎたのか、深刻な表情を浮かべる私はミッチに心配されてしまう。そうよ、私はこれが正しいと信じてここまで来たのだから。だから……迷うことはない。

 

 全部……彼に打ち明ける。

 

 コウガがとミッチが……また笑い合えるようになるために。

 

 

『ピピッ──ピピッ──』

 

 

「っ……」

 

「?」

 

 

 突如として端末から鳴り響く、クラック出現の合図。コウガから託された予備の端末だけど、まさかこんな時になるとは思わなかった。本当、なんてタイミングの悪い……。

 しかしこれもきっとコウガが何とかしてくれるだろうという確証もあった。かつても今と同じように心が不安定だった時も、コウガは人間界に現れたインベスを倒し続けてきたのだから。とは言え、やはり心配になってしまうものである。

 

 ──もし鉱芽に何かあったら……。

 

 コウガの事は信用している。だけどそんな不安を拭い捨てきれず、私は端末を取り出してその座標を確認した。

 

 もし万が一の事があれば、私が駆け付けられるように……。

 

 しかし……。

 

 

「……えっ!?」

 

「どうしたの?」

 

「嘘……」

 

「ツバサちゃん……? ってどこに!? ちょっと待ってって!」

 

 

 ミッチの声もまるで耳に入らず、私は全速力で駆け出した。とある場所を目指して。そう──

 

 

「(そんな! どうして!? ここ(・・)は秋葉から離れてるはずなのに……っ)」

 

 

 ──端末に映っていた座標はここ、立花ホースライディングクラブだった。

 

 

 そもそものクラックについておさらいしよう。

 

 クラックは今も昔も秋葉周辺で発生していた。これはコウガ曰く「自然発生」みたい。

 だけど一つ例外があった。それはμ'sのみんなが持つ「特別なヘルヘイムの因子」に惹かれる場合だ。この特別な因子を持つ人間がこの範囲から出た場合も、クラックは発生域から離れているにも関わらず開いた。この間の合宿の時が顕著な例だ。

 更にコウガは「意図的にμ'sを狙う存在がいる」とも言っていた。でもどうやらソイツ(・・・)は街の中にいる限りは、変身できるコウガから遠く離れた場所に自由にクラックを開くことができず、何かしらの制限があるみたい。

 

 ともかく、μ'sとも秋葉とも関係なければクラックは開かないはずだった。

 

 ──だったら何故っ?

 

 でもそんな疑問を考えるよりも先に、私にはやらなければいけないことがある。それは──

 

 

「グォァアアアアアァァァ!」

 

「っ」

 

「ぅわっ? な、なんだコイツ……」

 

 

 ──この外来種が運ぶ死の種を、ここから拡散させないことよ!

 

 

「ミッチ。これが真実よ」

 

「え?」

 

「この世界の……残酷な真実……」

 

 

 私たちの眼前では、全身を錆びた銅のような鈍い緑色に染め、龍の首を持つセイリュウインベスがクラックの前で咆哮をあげていた。私たちにに付いてきたミカンちゃんも、この存在の恐ろしさを本能的に感じ取っているのか、歯茎を見せ、低く唸り声をあげて威嚇していた。こんなミカンちゃんは今まで見た事なかったけど、それほどまでに恐ろしい存在なのよね、コイツらは。

 今はまだ被害は出ていないけど、このインベスのスペックを考えたらいつこのクラブ内が炎に包まれてもおかしくはない。だから私にできることは一つしかない。

 

 

 ──ごめんなさい、コウガ。

 

 

 そして私は、鞄からソレを取り出した。

 

 

 ──あなたには使うなって言われてたけど、でも今はこれしかないの。

 

 

 血のように赤く染まった、コンプレッサーのような機器が付いたドライバー──ゲネシスドライバーを、私は腰に当てる。戦極ドライバーと同じようにフォールディングバンドが自然と私の腰回りに巻き付けられ、私とドライバーは一体となった。

 

 

 ──多分……これっきりだから……。

 

 

 そして同じく鞄からメロンエナジーロックシードを取り出し、ミッチに鞄を預ける。

 

 

「ミッチ、これ持ってて」

 

「え? いいけど、何をするの?」

 

「……じゃあ見ていて……私の……変身」

 

 

 私は一歩踏み出してインベスに近づくと、ロックシードを顔の前で掲げた。

 

 

「変……身?」

 

「ミカンちゃんとそこでじっとしてて」

 

 

 そして私は一度目を閉じ、軽く息をつく。

 

 

 思い浮かべるのは私の想い人の姿。

 

 

 瞼の裏に見えるのは彼の勇姿。

 

 

 耳の奥に響くのは彼の唱える言葉。

 

 

 いつだって見てきた彼の姿を、私は忘れたりはしなかった。

 

 

「コウガ……」

 

 

 口元に近づけたロックシードに軽く口づけをかわす。

 

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 

『メロンエナジー』

 

 

 ロックシードの側面のスイッチ──アンロックリリーサーを押し、私は錠前を解錠した。

 

 その瞬間、ロックシードの持つ莫大なエネルギーが解放される。エネルギーは私の周囲に時空間の歪みを生じさせ、その歪みは時空の裂け目となって私の上空にクラックを発生させた。

 

 

「ぇっと……メロン?」

 

 

 ミッチが呟く通り、緑色で網目が付いた球体のソレはメロンの果実であった。頭に蔕がある事も相まったのだろう。しかし一部にオレンジ色の"身"のようなものが見えている。強いて言うならば夕張メロンかしら?

 

 しかしこのメロンは、鉱芽が持つメロンロックシードで呼びだすメロンアームズとは違う。これはメロンアームズとは一線を画す程の強力な力を持ったアームズ。

 

 ──メロンエナジーアームズなのだから。

 

 

「っ!」

 

 

 そして私はロックシードを勢いよく天高く掲げ、素早くゲネシスドライバーのスロット──ゲネシスコアに装填した。

 

 

『ロックオン』

 

 

 戦極ドライバーとは違った落ち着いた電子音声と共に、警報音とも思える不気味な待機音がドライバーから流れだす。

 

 これで準備は万端。

 

 後はこのトリガーを……シーボルコンプレッサーを押し込めば……。

 

 コウガ……今だけだから……だから……

 

 

「(許して、ね)……っ!」

 

 

 

 

 そして私は……ドライバーのトリガーを押し込んだ!

 

 

 

 

 

『ソーダ』

 

 

『メロンエナジーアームズ』

 

 

 メロンエナジーロックシードの前面が三方向に割れ、ドライバー下部のエネルギーを保存するコンセントレイトポッドに、まるで果汁の如くオレンジ色のエネルギーが注がれていく。

 

 それと同時に上空の球体が私に向かって降下していく。球体が頭部に被さると身体は白色のアンダースーツ──ゲネティックライドウェアに包まれた。

 

 篭手や足に刻まれた鳥の(ツバサ)のような模様や、鎖帷子のような網目など、その姿は鎧武のライドウェアと近似していた。

 

 やがて球体が割れ、緑色の部分が私の身体を守る鎧に、そしてオレンジの部分が右肩にかかり、私の肩を守る装甲へと変化する。そうして胸当てが片方にしかないという、全体的にアシンメトリーなシルエットができあがった。

 

 そして私の頭部に装着された仮面には、仮面をはみ出すほど巨大で、そして凶悪そうな二つ目のオレンジ色のバイザー。左右対称的な三日月形の前立て。まるでエルフの耳のように尖った側面の装甲。

 そんな全体的に刺々しい印象を与えるマスクが私の顔を覆っていた。

 

 

「ツ……ツバサちゃん……これは……?」

 

 

 赤い弓を携えて見参した白武者に圧倒されるミッチの溜息が聞こえてくる。

 

 ならば答えてあげなければいけない。

 

 そう、今の私はコウガと同じ、アーマードライダー。

 

 だけどこの力は、彼の変身する鎧武と同等かそれ以上の力を発揮する。

 

 それがこのゲネシスドライバーで変身した次世代ライダー……私が"次"に繋ぐべき力……。

 

 そしてその力の名前こそ……。

 

 

「斬月……いや……」

 

「え?」

 

 

 一瞬だけ口にしたその名は相応しくない。

 

 何故ならその名は既に戦極ドライバーで"変身しうる"姿の名前の一つだったのだから。

 

 だから私は、変身時に自然に脳内に浮かび上がったこの名を彼に告げた。

 

 彼に……ミッチに託すその姿の名を……っ。

 

 

「今の私は、アーマードライダー……斬月・真!」

 

 

 今ここに、新たな戦士が降り立った。

 

 世界を蝕む悪意と戦うもう一人の武者。

 

 アーマードライダー斬月・真

 

 この世界の……もう一つの希望よ。

 

 

 ──コウガ……アナタの言葉を借りるわね。

 

 

 そして私は、この場にいる全ての存在に向けて宣言した。

 

 

「ここからは私のステージよ」




前回ミッチが変身していた斬月・真。
しかしその前にはツバサが変身していたのです。
そんな彼女の活躍とは……?

次回もご期待ください。
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