ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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長らくお待たせしました。

それではどうぞ。

※後書きにてお知らせがあります。


第65話 巡る悲劇、立つ希望

 鎧に包まれ、武器を持ち、この世のものならざる偉業と対峙しているというにも関わらず、私の心は嫌に落ち着いていた。確かにこのマスクには装着車の心拍数や精神ダメージを読み取り、戦闘を容易に行うための機能も存在している。しかし理由はそれだけではないはず。

 

 

「(コウガ……)」

 

 

 今の私が纏っているのは、鉱芽と同じアーマードライダー。一時的とは言え、今は彼と同じ場所に立っている。彼の重荷の一端を背負っていられる。そんな嬉しさと、そして彼一人に全部背負わせていたという罪悪感が取れたこともあり、私は変身する前よりも気が楽でいられた。

 

 

「グルルルゥァァァ!」

 

「危な──」

 

「はっ!」

 

「──え?」

 

 

 セイリュウインベスがこちらに吐いてきた青い火球を、ソニックアローを振るってその場で叩き斬る。火球が呆気なく消え去った瞬間、静寂がその場を包み込んだ。しかしその静寂が続くことなく、インベスは即座にこちらへ向かって駆け出してきた。

 

 

「せぇいやぁ!!」

 

「グギュウァ!」

 

 

 振るわれる悪魔の腕を私は刃で翻すとすぐさま一閃し、インベスはのけ反って後退する。そんな隙を見せた敵を見過ごすことなく、私は更に敵の懐まで接近し、止まる事のない連撃を浴びせ始めた。

 

 

「はぁ! ふん! だァアッ!」

 

「ギィォ! ガッ! グリュオ!?」

 

 

 インベスに反撃の隙を与えずにソニックアローで斬り裂いていく斬月・真──いえ、私。刃が一閃一閃、敵の身体に入っていくたびに嫌な感触が私の肉体を包み込む。きっとコウガもこんな感触をいつも味わっていたのよね。相手がどんな存在であっても、傷つけることに嫌悪感を抱く……そんな優しい彼がどうしてこんな事を一人で繰り返さなきゃダメなの!?

 

 ──本当は私だって……っ。

 

 

「ッ、グルァッ!」

 

「っ!? ぅあっ!?」

 

「ツバサちゃん!」

 

 

 ほんの一瞬、心の中にできた迷い。その一瞬の隙をついてインベスは火球を放った。至近距離が故にガードが間に合わず、モロに身体で食らってしまった。だけど……。

 

 

「……グギュ!?」

 

「……何ともない(流石はゲネシスね)……はぁッ!」

 

「グルルルアァ!」

 

 

 何度も説明するようだけど、ゲネシスドライバーはいわば戦極ドライバーの正規品。エネルギーの出力も戦極ドライバーのそれを上回っている。故にスペックだけで言うなら鎧武に(まさ)っており、生半可なインベスの攻撃じゃ傷一つ付かない。

 私はすぐさま反撃に転じ、ソニックアローの一太刀をインベスにお返しする。とは言え、今までの乱舞によって既にインベスの身体は傷だらけで、今も傷跡から黒い血が滴り落ちていた。

 

 

「(これで……終わらせて……)」

 

 

 終わりはもう近づいている。私はドライバーのロックシードに手を伸ばした。次の一撃で、目の前の命に終わりを与えるために。

 

 彼が……コウガがそうしてきたように……。

 

 

「(いや、私は……)っ!」

 

 

 だけどロックシードに手が触れた瞬間、理性がこの手の動きを全力で押し止めた。本当にこれでいいのか。コウガと同じようにインベスを倒して──彼と同じ事を繰り返していいのかと。

 

 ──私は何をすればいいのか。

 

 自分の心に静かに問いかける。でも、答えなんて既に決まっていた。私はコウガとは違う。目の前の異形がたとえ大切な人の命を奪おうとする怪物でも、私はその命すらを奪いたいなんて思えなかった。綺麗事なのは分かってる。でも私までコウガと同じになってしまったら、きっとコウガは……。

 

 

「……?(あれは……)」

 

 

 私はもう一度インベスへと視線を戻した。そして肩で息をするインベスの背後のソレが私の目に入った。

 

 

 宙に浮かんでいる、開いた状態のままのクラックを。

 

 

「(よし……)はぁっ!!」

 

「グリュゥォ!?」

 

「ふんっ!」

 

「ギュゥ!」

 

 

 斬撃から一転、今度は腕や脚を使った打撃を中心にインベスを攻撃し始めていく。だけどそれは殺すためじゃない。私の目的はこの戦いを終わらせること。命を奪う事じゃない。だから私は……。

 

 

「ぇやぁ!」

 

「グググ……」

 

 

 私の攻撃が入るたびにインベスは後退していく。傷つき、悲鳴を上げる程に、目の前の異形の背中は、確かに戦場の出口へ──クラックへと近づいていった。そう、私が戦うのは、一刻も早くこの残酷な舞台からインベスを退場させるためだ。決して命を奪うための戦いじゃない。

 

 

「(そうよ。命を奪い合うだけが……戦いじゃないもの……っ)はぁあッ!」

 

「ギギュァァ!!」

 

 

 私は最後に大きく回し蹴りをインベスにお見舞いした。アーマードライダーの強靭な右脚、しかし決してインベスの致命傷になる威力ではないその攻撃は、インベスを大きく吹っ飛ばし、かの存在をこの世界から追放することに成功した。

 

 

 ギュィィィィィィィィィン

 

 

 同時に閉じられるクラック。その事に安堵し、ほっと胸を撫で下ろしながら変身を解除した。

 

 

「はぁ……」

 

「大丈夫……ツバサちゃん?」

 

「ええ……ちょっと疲れたわ。流石にコウガみたいにはいかないみたい」

 

「鉱芽さん……? それって……」

 

 

 コウガの名を出したことでミッチの目が僅かに細くなる。どれだけ鈍感な人でも、話の流れでコウガもこの件に関わっていると容易に想像できるはず。

 

 

「ええ、そうよミッチ。コウガは……」

 

「……」

 

「コウガは戦ってきたの。これまでずっと一人で……ううん、このままだとこれからも独りで……っ」

 

「っ……ツバサちゃん」

 

 

 私の顔を見て静かに息を飲むミッチ。私自身、自分の表情は見えないけど、きっと彼の目には、今まで見せたことのないような悲痛な顔持ちが映っていたのでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……。

 

 

「ギュルルルルル……」

 

 

 遠方からこちらを伺う黒い影の存在に、誰も気付くことはなかった……。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「あの、すみません。そのツバサという方はもしかして……」

 

「うん、A-RISEの綺羅ツバサだよ。ごめんね、ちゃんと説明してなくて」

 

「あ、いえ。しかしまさかあの綺羅ツバサも……」

 

「まあ僕ら割と付き合いは長いからね」

 

「そうでしたか」

 

 

 立花さんが私に素顔を露わにした後、私たちはドルーパーズとは違う、少し離れた喫茶店で話し合うことにしました。そして以前、私は彼を目の当たりにしたことがあります。彼──立花さんは鉱芽さんと同じドルーパーズで働く身であり、つい先日鉱芽さんに会いにきた彼を私は目の当たりにしていたのです。しかし、その時の鉱芽さんの辛そうな表情が私には理解出来なかったのですが……。それも関係してか、ドルーパーズとは違うこの店で、立花さんは私に事の顛末を話してくれたのです。

 

 綺羅ツバサは変身してインベスをクラックの向こう側へと返した後、立花さんに全てを伝えたそうです。人間の住むこの世界とは違う別世界──ヘルヘイムの事。世界を蝕むヘルヘイムの植物の事。そこに住まうインベスという存在。そして、消えていく記憶──改変される世界。この世界の裏側という裏側を、彼は綺羅ツバサによって知らされたのです。

 

 

「それで貴方も信じたのですか……?」

 

「まああんなもの見ちゃったらね。まあ記憶の事はその時はまだ半信半疑だったんだけど」

 

「……その時?」

 

「うん。僕自身失くしてた記憶があったんだ。今はもう覚えてるけどね」

 

 

 何てことないように、ケロッとした顔で答える立花さん。しかし忘れてた記憶があるというのはどのような感覚なのか、私にはまるで分かりません。

 

 

「それは……貴方にとって大事な記憶なのですか?」

 

 

 しかし、だからと言ってそこで興味半分で聞いてしまったのは、もしかすると愚行だったのかもしれません。

 

 

「っ……」

 

「? ……立花さん?」

 

 

 口に近づけようとしたカップを止め、口につけることなくゆっくりと皿の上に置く立花さん。そして彼の顔ににじみ出るのは、美しくも憂いの表情。そんな挙動に、嫌でも彼の辛い部分に触れてしまったことに気付かざるを得なくなります。

 

 

「っ、ごめんなさいっ。私、軽率な事を口走ってしまったようですね……」

 

「えっ? いやいやっ、そんな事無いからっ。別に謝らなくていいって」

 

「しかし……」

 

「それに嫌な記憶じゃないしね。むしろ、とっても……大事な記憶なんだ」

 

「立花さん……」

 

 

 窓の外を眺め、目を細め、口を僅かに釣り上げ、仄かに幸せそうな表情を浮かべる立花さん。ほほ笑んでいるようにも、黄昏ているようにも見えるその繊細な表情が、とても美しく見えてしまいます。

 

 

「あの、それでその後はどうなったのですか?」

 

「……ツバサちゃんからヘルヘイムの事について説明された後、すぐにまた異変が起こったんだ」

 

「異変……」

 

 

 そして彼は再び私を過去の中へと導いてくれたのです。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「鉱芽さんが……ずっと……」

 

 

 ツバサちゃんから聞かされた事の大きさに、僕は頭を抱えずにはいられなかった。何せ先程の怪物や裂け目といた非日常的な現象、それに加えて変身してしまうツバサちゃん等、それだけでも十分混乱するに値する要素だというのに、その中心にいるのがよりによって鉱芽さんだなんて……。

 

 

「でも鉱芽さんやツバサちゃんがそんな事に巻き込まれてるなんて、僕にはどうにも……」

 

 

 僕の関係ないところで起きていることならいざ知らず、まさか僕の周りにいる人達がそんな非日常に暮らしているなんて……。

 鉱芽さんも……ツバサちゃんも……真姫ちゃんも……。

 

 

「やっぱり信じられない……?」

 

「というより、信じたくない……のかも」

 

「ミッチ……」

 

 

 本当に今までにないくらい……これ以上出会えないと思えるくらい仲の良かった親友が、自分とはまるで違う世界にいたことにショックを受けてしまったんだと思う。

 みんなとの繋がりが切れたとまではいかないけれど、彼らが遠くに行ってしまう、そんな気がしたから……。

 

 

「……でもねミッチ。これはアナタにも関係ない話じゃないの」

 

 

 そんな僕の心境を知ってか知らずか、ツバサちゃんは僕にそう投げかけた。だけどそう告げる時の彼女の顔は、緊張したように硬直しており、迷いと恐れ、そして哀しみを混濁したような形容しがたいものへと変化していた。

 

 

「え……どういうこと?」

 

 

 それでも僕にも関係することがあるという彼女の言葉が引っかかり、つい話を推し進めてしまう。先ほどの異変を除いたら今日初めて見せる戸惑いの表情。ツバサちゃんとしては珍しく言葉がどもっていることから、相当言い出し辛いことであるのは想像に容易い。

 

 

「そ、それは……」

 

「大事なことなの……?」

 

「え、ええ……コウガにとっても、アナタにとっても大事な……っ」

 

 

 だけどそんな彼女の変化よりも、今はその言葉の先が気になって仕方がなかった。

 

 僕以外のまわりで起きていた異変。その中心には鉱芽さんがいる。

 

 僕がどうすることも出来ない世界の中に、僕の親友たちがいる。

 

 そして僕にも無関係でいられない理由がある。ツバサちゃんの表情もそれを物語っていた。

 

 

「でも……」

 

「何なの! 僕に関係ある事って! そんなに言いづらいことなの!?」

 

 

 だからつい机から身体を乗り出して彼女の肩を掴み、激しく揺するように質してしまう。必死だったんだ。どこか遠くへ行ってしまいそうな親友のところへ、僕も近づける。そんな期待と焦燥が襲い掛かり、僕自身冷静でいられなかった。

 

 

「……ごめん、ちょっと……待って……」

 

 

 故にまだ青かった僕は、そんな風に言葉を溜めてしまうツバサちゃんにカッとなってしまった。

 

 

「待てないよ! 僕にも関係があるんでしょ!? だったら僕には知る権利があるはずだよ!」

 

「ごめん……なさい……」

 

「っ……ねぇ……一体僕とどんな関係があるっていうのっ? あの怪物と僕に何の……」

 

「怪物なんて言わないで……」

 

 

 僕は気になって、気になってどうしようもなく……今にも泣きそうなるツバサちゃんの表情の変化なんか見て見ぬフリしていた。思い返せば最低な事をしていたと思う。

 

 ツバサちゃんにも……"彼女"にも……。

 

 

「……インベスって何なのさ」

 

 

 悲し気に返す彼女の言葉に幾分か冷静さを取り戻した僕は、怪物改めインベスについて彼女から説明を請け負おうとしていた。言い辛いなら少し違うことから聞けばいいや、と。

 

 まさかこのことが僕自身の話と直結していたなんて夢にも思わなかったけど……。

 

 

「インベスはあの森──ヘルヘイムの森に住む生き物たちのこと、っていうのはさっき話したわね。でも……厳密には違うの」

 

「違う?」

 

「ええ。インベスと呼ばれる未知の生物たち……彼らは元々──」

 

 

 そして彼女が事の核心へと言葉を伸ばそうとした直後のことだった。

 

 

 ──ッガァァアァァァアッ!!

 

 

「「っ!?」」

 

 

 もだえ苦しむ獣のような咆哮が外から木霊した。何も知らなければ獰猛な獣の声だと錯覚するだろう。だけど僕には分かる。家族同然に暮らしてきた存在の声なら、例え悲鳴だって聞き違えない。

 

 

「ミカンっ!?」

 

「えっ? あっ、ミッチ!!」

 

 

 何が起きたのかは分からないけど、居ても立ってもいられず僕は部屋の扉を壊すほどの勢いでぶち開けて、その唸り声の元へと駆け出した。念のためにとドライバーとロックシードを用意しているであろうツバサちゃんには目もくれず、一心にその場へと駆け抜けていった。

 

 

「っ、ミカン!」

 

 

 そんな僕の目に入ってきたのは、苦しそうに泡を吹きながら暴れまわるミカンと、そんな"カノジョ"を宥めようと必死で押さえつけている従業員さんの姿が目に入った。生憎今日はここにいる人は少なく、広いクラブの中でミカンの周りには他に誰もいない状況であった。

 ミカンは目も背けたくなるほど苦しそうに悶えているけど、どうしてこんな急に……っ。狂犬病にしても前駆期があるはずだけど、ミカンにはそれらしきものは見られなかった。一体どうして……。

 

 

「道行君!」

 

「ミカンどうしたんですか!?」

 

「見てなかったから分からないけど、多分それを食べた途端にっ」

 

「それ?」

 

 

 そういう従業員さんの指差す方向に目をやると、そこにはミカンがかじったと思わしき果実が汚く吐き捨てられていた。

 

 

「……果物?」

 

 

 僕は地面に吐き捨てられた果実を観察し始めた。

 

 

 

 べちゃっと潰れたゼリー状の柔らかい果肉……。

 

 

 

 それと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……極彩色の……皮……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その子から離れて!!」

 

 

 直後、ツバサちゃんの叫びが轟いた。

 

 

「え?」

 

「どういう──」

 

 

 ミカンから離れろという言葉の意味を理解出来ず、呆気にとられた一瞬の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グググ……グォァアアアアアアアアアア!!! グオオッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブウォン──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビチャッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え」

 

 

 

 

 ──な、にが……起こっ……え……? ミカンが植物に包まれて……怪物になって……?

 

 

「きゃァッ!!」

 

 

 ──腕を振るって……従業員さんの……身体が吹き飛んで……え?

 

 

「……ぇ……」

 

 

 ──地面が赤く、なって……僕の頬にも……まだ生ぬるい体液が……っ。

 

 

「グルルルルル……」

 

「……」

 

「ミッチ!? 変身!!」

 

 

 ──ツバサちゃんが変身して……怪物に斬りかかって……っ!

 

 

「っ! ツバサちゃん!」

 

「ゥあ゙あ゙ああああっ!!」

 

「ウグアアアアア!?」

 

 

 あまりのショックに呆然として意識が保てなかったけど、ツバサちゃんが変身した事でようやく意識を取り戻した。だけど……。

 

 

「ウグッ……うぇ……ぐ……っ」

 

 

 再び従業員さん"だった"ものを目にした途端、言いようのない絶望感と嫌悪感、そしてとてつもない吐き気に襲われてしまう。さっきまで動いて自分と話していた人がこうして無残な肉片になっている……。それだけで耐えがたい嫌悪感が全身を蝕んでいく。

 

 そしてそれらに耐えられなくなり、僕は吐き出してしまった。

 

 

「はぁぁあ゙あ゙ッ!!」

 

「グオッ! ラァァア!!」

 

「──ッエ……エホッゲホッ……はぁ……はぁ……ツ、ツバサ……ちゃん……っ」

 

「ふぅッ!」

 

 

 だけど今でも目の前で命のやり取りをしている白武者を無視することはできず、僕は彼女たちに目を向けた。白武者と対峙しているインベスは血のように真っ赤に染まった獅子のような姿をしている。

 

 でも……あれは……あれはさっきまで確かに……っ。

 

 

「ッ、ミッチ! これがインベスよ」

 

「え……?」

 

「ヘルヘイムの森の果実を食べた生き物はッ! みんなッ、インベスになるの! はッ!」

 

「それって……」

 

 

 そこまで言われれば後は分かる。だってこの目で見てしまったから……。でも認めたくない。分かりたくない。

 

 だけどツバサちゃんは隠さずに僕に曝した。その残酷な真実を……。

 

 

「インベスは元々、クッ、私たちと同じ人間か動物かも知れないって、事なのよ! くぅ……ッ!」

 

「そんな……」

 

 

 敵を斬り裂きながら彼女が告げたその言葉は、否定のしようがなかった。何故なら今ツバサちゃんが戦っているインベスがそうだから……。

 

 

「せぇやあッ!」

 

「グルァァ!?」

 

 

 僕の大切な家族の一員だったミカン……まだ赤ん坊だったから頃から見守ってきた家族……。

 

 でも……もう違う……。

 

 

「ハアッ!」

 

 

 アレはもう、人を襲う怪物……この世のものならざる存在……。

 

 

「くっ、どうして果実が……っ、クラックもっ、ハァッ! 閉じた、はずなのに……ぇやあッ!」

 

「(ツバサちゃん……)」

 

「どうしてッ! な゙のっ!」

 

 

 敵からの攻撃をほとんど受けていないにも関わらず、痛々し気に目の前のインベスに攻撃を加え続けるツバサちゃん。そのこと言葉の裏には、今の事態に納得できないという彼女の苛立ちも感じ取れた。いや、その声に含まれるのは苛立ちだけじゃない。

 

 ──嘆き。

 

 再会を喜び合った友が変貌してしまったことによる途方もない悲しみ。そしてかつての友を討たなけらばならない絶望。ここが戦場でなければきっと彼女は慟哭の中に沈んでいただろう。だけど世界は残酷だ。そんな事を考える暇すら与えてくれない。故に彼女は刃を振るう。己が生き残るために……これ以上被害を出さないために……。

 

 

「どうして……なのよ……」

 

『ロックオン』

 

 

 そしてツバサちゃんはドライバーからロックシードを取り出して、得物である赤い弓に装填した。ツバサちゃんが弓にあらかじめ備え付けられている矢を引き絞ると、矢先には眩しい光が集まり、辺りには不気味な待機音が鳴り響いている。ここで彼女が矢を放てば……終わる。人に害を成す怪物が、この世から姿を消す。

 

 それでいい。それが正しいと思うべきなんだ。

 

 

 そのはずなのに……。

 

 

「ミカンちゃん……」

 

「っ……」

 

 

 僕もツバサちゃんも、目の前のインベスがミカンだと思わずにはいられなかった。

 

 どんな姿になっても、どんなに凶暴になっても、どんなに変わり果てたとしても、その存在が僕の家族であった事実、彼女の友達であった事実には変わりなかったから。

 

 

「グルルルルゥ……」

 

「くっ……」

 

 

 しかし、矢が放たれると思われたその瞬間、ツバサちゃんは弓を構えた姿勢のまま固まってしまった。

 

 

「ぅ、ぅぐぐ……」

 

 

 歯を食いしばっているのが嫌でも分かるほどの苦汁に満ちた唸り声。彼女が一旦狙いを澄ませたはずの矢先が僅かにぶれ始めていた。迷っている。そんな彼女の想いが痛いほど伝わってくる。

 

 やげて彼女は、その切っ先を下げてしまった。

 

 

「私は……」

 

「グリュオゥ?」

 

「ツバサちゃんっ?」

 

 

 目の前に先程人を引き裂いた異形がいるというのにその場で膝をつくツバサちゃん。地面を握りしめる手がわなわなと震えていた。

 

 

「私に……私にはっ! ミカンちゃんを殺すなんてできない!」

 

「……」

 

「できない……できないよぉ……ッ……」

 

 

 想いが慟哭となって彼女を支配する。しかし彼女の被る仮面は、少女の涙を隠しきることはできなかった。そもそも僕の眼前で哀愁に打ち震えているのは白武者ではなく、ただ歌とダンスが大好きな一少女なのだ。普通の女の子がどうして命を奪うことを躊躇しないことができるだろう。友達だった存在を簡単に殺せるほど、ツバサちゃんは残酷な子じゃない。

 

 

「ググ……ガァァァッ」

 

「っ!? ふぅんっ!」

 

 

 だけどそんな人間の中だけの想いなど、ただの獣と化した"カノジョ"には届くことはない。それがどうしたと言わんばかりにツバサちゃんの命を奪いにくるインベスを、彼女は取り押さえるだけで精一杯だった。

 

 でもどうにかしようにも方法がない。

 

 目の前のインベスを……ミカンを殺さず、尚且つ人間界へ被害が広がらない方法があるとしたら、それはクラックの中へ……ヘルヘイムの森へと送ることのみ。

 

 だけどクラックはどこにも見当たらないし、都合よくクラックが開いてくれる保証なんてあるわけない。

 

 

「やめてッ! もうやめてよミカンちゃん!!」

 

「ググガア! グロアアア!!」

 

 

 ツバサちゃんの腕の中で必死でもがくインベス。そんな彼女たちがとても痛々しくて、僕は目を背けたくなってしまう。でもダメだ、この現実から逃げちゃ。だから必死で考えた。今の状況を打開する方法を。

 

 

「(何か……何かないのか……。これ以上被害を広げない方法か……ミカンが通れるクラックを開く方法か……ミカンを殺さないで済む方法か……何にせよツバサちゃんが苦しまない方法……っ!?)」

 

 

 その時、僕の頭の中に一つの答えが浮かんだ。

 

 

「(ツバサちゃんがミカンを殺さない(・・・・・・・・・・・・・・・)で済む……方法……?)」

 

 

 一つだけあった。少なくとも今よりは確実に状況が悪くならない方法が。

 

 本来それを実行するには一つだけ問題点があった。でも……。

 

 

「……いや、それでいいんだ」

 

 

 自分の掌を見つめ、そして握りしめる。

 

 覚悟は出来ている。

 

 そして僕は意を決してツバサちゃんに声をかけようとした。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

「ブゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥ……」

 

 

 

 

 

 

 耳障りな雑音と共に、蠢く真っ黒な靄がこの戦場に介入してきた。そして──。

 

 

「ギシュウアアアア!」

 

「きゃぁっ!?」

 

「なんだアイツは!?」

 

 

 どこからともなく現れた黒い霧は一点に集まった途端、蝗を模したかのような怪人へと変化を遂げ、ミカンを抑えているツバサちゃんへその爪を振るったのだ。軽く吹っ飛ばされたツバサちゃんはすぐに体制を建て直して弓を構えるも、その見覚えのない異形の姿に困惑しているようだった。

 

 

「そんな……ここで新手、なんて……っ」

 

「ギュルルウラ!!」

 

「っ!? 嘘っ、ッあ゙あああッ!?」

 

「ツバサちゃん!!」

 

 

 新たに現れたイナゴ怪人は再度その爪を彼女へと振るいかかり、対する彼女も得物である刃で迎え撃つも、なんとイナゴ怪人はアーマードライダーの振るう刃をその腕だけで難なく叩き落とし、彼女の肩から胸へその爪を振り下したのだ。

 

 

「ッぁ゙っ……ハァ、ハァ……ぅっぐ……っ」

 

 

 初めて地に倒れ、斬り付けられた場所を押さえつけながら息を上げるツバサちゃん。僕はそんな彼女の姿が信じられずに唖然としてしまったけど、そのすぐ後、イナゴ怪人が彼女の首を絞めあげるのを見てすぐに現実へと戻ってくる。

 

 

「ギュルウルル……」

 

「んあっ……ガァ……」

 

 

 やがて強力な腕力で彼女の身体を拘束するイナゴ怪人。しかし単に締め上げるだけではない。身動きが取れなくなった彼女の元へ、インベス──ミカンがさっきまでの仕返しとばかりに襲い掛かってきた!

 

 

「グルオオオ!!」

 

「ぅあ゙あ゙ぁッ!?」

 

「っ、くっ、ぐぐ……っ」

 

 

 無防備になった武者へようやく届いた爪を、残忍に繰り返すミカン。二人掛かりで得物を蹂躙する様はあまりにも残酷で恐ろしかった。助けようにも今の僕じゃどうしようもない。ただ彼女が蹂躙される様をこのまま見ているしかないのがこの上なく歯痒かった。

 

 

「ギリリリャアア!」

 

「ァあぁぁっ!! ぅぁ…………」

 

「ツバサちゃん!!」

 

 

 最後にイナゴ怪人に投げ飛ばされ、壁に激突したツバサちゃんはそのまま変身が解除されてしまう。倒れたまま微動だにしない彼女。僕はすぐさま彼女の元へ走り出した。

 

 

「ツバサちゃん! しっかりして! ツバサちゃん!!」

 

 

 絶え絶えになりながらも息をしているからまだ死んだわけじゃない。でも彼女の意識は既に刈り取られていた。彼女はもう戦えない。

 

 後に残ったのは、彼女の巻くドライバーと、ロックシード……。

 

 

「……だったら……」

 

 

 それは誰もが変身できる、ゲネシスドライバー。

 

 誰もと言う事は、僕も例外ではない。

 

 そして彼女は動けない。

 

 ならばやることはひとつ……。

 

 

「(僕が……)」

 

 

 だけど目の前の敵がそんな悠長な時間を与えてくれるはずがなかった……。

 

 

「ギリュリュルルルルル」

 

「グウォオオォォ!」

 

 

 僕が彼女のドライバーを手に取るよりも早くにこちらへ駆け出してきた二体の異形。アーマードライダーと戦える実力があるだけにそのスピードは桁外れで、人間が勝てるレベルではない。

 

 ──近すぎる!

 

 

「うっ……」

 

 

 本能的にツバサちゃんを守るように彼女に覆いかぶさり、僕は異形たちから目を背けた。間に合わないっ、きっとすぐに苦痛が訪れるだろう。僕はその瞬間(終わり)を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ググァァアッ!?」」

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 だけどその時、僕の背後から何かがぶつかったような音が聞こえてきた。更にその直後、異形たちの小さな悲鳴が僕の耳に届いたのだ。そして僕たちに届かない異形たちの魔の手。

 

 何があったのかと恐る恐る振り返ると……。

 

 

「嘘……」

 

 

 先に視界に入り込んだのは綺麗なマロン色だった。

 

 マロン色の毛をなびかせるソレは、力強く育った立派な四肢と、そして勇ましく気高い瞳を持っていた。

 

 僕たちの愛馬──レオンロジックだった。

 

 

「レオ……ン……?」

 

 ──ブルルルフンッ

 

 

 僕の呼びかけに答えるように息を震わせるレオン。にわかに信じがたいが、きっと彼が助けてくれたのだろう。その身を持ってして、異形を突き飛ばして……。そんな彼からの合図は応答だけでなく、まるで僕を激励しているようにも感じられた。

 

 

「でもどうして……」

 

 

 しかし助かったのはよかったものの、同時に度し難い疑問点もいくつか浮上していた。

 

 本来臆病な性格であるはずの、しかも飼いならされた馬が、何故外敵に向かって走ってきたのか。

 

 そして、本来変身してないと攻撃できないはずのインベスを、どうして吹っ飛ばすことばできたのか。

 

 

「グググ……」

 

「ううん……まあいいや」

 

 

 考えれば考える程、非常に不可解な問題。

 

 でもそんなことは今は考えなくていい。

 

 今はそれよりも大事なことがあるからだ。

 

 

「ありがとう、レオン」

 

 

 一つは、レオンが助けてくれたこと。

 

 

 そしてもう一つが……

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

 

 

 

 

 

 ──僕が戦える事だ!

 

 

 

 

『メロンエナジー』

 

 

 

 

 そして僕の手の内から、白武者再臨の調べが木霊した──。




さて本作品も皆様のおかげで100,000UAを突破しました。
それを記念しまして、次回はキャラクターデータ集&短編集を公開しようと思います

それではご期待ください。
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