ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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~前回までのあらすじ~
インベスを倒した道行は、戦いを始めたことで体験してきた己の苦悩を海未に打ち明ける。しかし彼女の言葉がきっかけとなり、勇気付けられた道行は鉱芽と会う決心を固めた。一方ことりは、自身の抱く決意をツバサに否定され、自分を見失いかけていた。

今回はあの男が……? それではどうぞ。


第72話 サガラという男

「ようミッチ!」

 

 

 日が差しているというのに街には服を重ね着している人が増えていく冬の季節。吸い込む息が鼻や喉を乾燥させ、どこか切なさすら運んでくる。そんな冷え込んだ日だというのに、あの人は──鉱芽さんは夏の太陽のように明るい笑顔を振りまいて駆けてきた。

 

 

「鉱芽さん!」

 

「わりぃ、ちょっと遅く……はなってないな。寧ろ早かったか?」

 

「はい。まだ僕だけですよ。でも早すぎですよ鉱芽さん」

 

「いやお前程じゃねぇよっ」

 

「あっははっ、ですね」

 

 

 そんな彼を見てると僕まで自然と身体の温度が上がり、そして笑顔になってしまう。あの人は自分では気付いていないけど、鉱芽さんが笑うとみんなも自然とつられて笑顔になってしまうんだ。少なくとも僕たちはみんな、彼の自然な笑顔が好きだった。

 今日はチーム鎧武の初期メンバーで集まってステージをやろうと決めた日だった。僕と鉱芽さんと亮子さん、そして今はUTXで活躍してるツバサちゃんも来ることになっている。鉱芽さんも高校三年だけど、いち早く大学進学が決まったおかげでこうしてみんなで集まる事ができたんだ。鉱芽さんは張り切って約束の時間より早く到着したみたいだけど、それでも今日は僕の方が早かった。みんなに会えるのを楽しみにしてたのは僕だって同じだったから。

 

 

「でもま、直に来るっしょ。俺たちの中に時間にルーズな奴なんて誰もいねぇしな」

 

「その通りだよぉ」

 

「ぅおわぁッ!?」

 

 

 鉱芽さんの後ろからぬっと現れた亮子さんに、彼は驚き跳びあがると僕にしがみ付いてきた。首に巻きついてくる彼の腕が少し窮屈だった。

 

 

「っ、ちょっ、鉱芽さん!」

 

「ご、ごめんミッチ……はぁ、びっくりしたぁ……」

 

「あっははははぁ! 鉱芽ったら驚きすぎだよぉ! ……くっ、うっふふっ……」

 

「くっそぉ……今度絶対にビビらす」

 

「やれるものならねっ」

 

 

 鉱芽さんの挑発すら歯牙にもかけない亮子さんは、楽しそうにほほ笑みながら挑発を返している。鉱芽さんは「何おぅ」と口元を引くつかせながら僅かに震えていた。全く、もうすぐ大学生になるというのにこういうところは子どもっぽいんだから……。でも僕たちは、鉱芽さんがこんな反応を見せるのが僕たちや伊織さんだけだということを知っている。この鉱芽さんの素の反応こそ、僕たちを信頼しているということの証だった。

 

 

「あとはツバサか。でもアイツのことだしそろそろ──」

 

「来てるわよ、コウガ」

 

「──早いなっ!? 結局全員集合二十分前に来ちゃったよ!」

 

「それだけ楽しみにしてたってことでしょ。今日のステージを」

 

 

 鉱芽さんの問いかけに、これまたいつの間にやら鉱芽さんの後ろに現れたツバサちゃんが応えた。流石に連続で二回も後ろに現れたら慣れたのか、鉱芽さんは跳びあがるようなことはなかった。

 

 

「えっと、じゃあどうしようか。早いけど練習から始めちゃおっか」

 

 

 亮子さんの声に皆が賛成の声をあげる。ここにいるのは、みんな踊るのが大好きな人間だ。だから一刻も早く、そして一秒でも長く踊っていたいと思っていた。その部分では僕らは一心同体だった。みんな繋がっていた。

 

 みんな、笑顔だった。

 

 

「おいミッチ! 早く行くぞ!」

 

 

 前方を笑顔で歩くみんなを眺めていると、不意に振り返った鉱芽さんに呼びかけられる。僕も彼の笑顔に答えて、元気よく走り出した。

 

 

「はい! 鉱芽さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……え……?」

 

 

 気が付くと、僕の視界は閉塞感に敷き詰められていた。僕の目の前にあるのは鉱芽さんやリョウの笑顔ではなく、自身の二の腕だった。

 

 

「夢……か……」

 

 

 僕はずっと机に突っ伏した状態で寝ていたようだ。頭を乗せていた腕がじりじりと痺れている。お蔭で嫌でも現実に戻ったことを意識せざるを得なかった。

 

 

「鉱芽さん……」

 

 

 ここには……現実には何もない。リョウの存在も、鉱芽さんの笑顔も……。鉱芽さんはまだ存在している。だけど彼の自然な笑顔を、僕はずっと長いこと見ていない。

 

 

「僕たちが笑い合っていたのって、そんなに昔のことじゃないと思うんですよ」

 

 

 それでも僕は覚えている。彼が笑ってくれていたあの時間を。僕たちが時間を、感情を共有し、共に笑い合っていた日々を。

 

 

「僕たち、ずっと友達だったはずですよね」

 

 

 鉱芽さんだってきっと覚えているはずだ。僕たちは友達だったこと。いいや、今でも友達であると僕は思っている。だから鉱芽さんに友達だと思っていてもらいたい。

 

 

「またもう一度……一緒に笑い合いたいです」

 

 

 だから鉱芽さん……僕は……っ。

 

 

『──ピピッ──ピピッ──』

 

 

「っ!?」

 

 

 その時、机の上に置いていた端末が突如鳴り始めた。これはこの街のどこかでクラックが出現したことを知らせる合図だ。そしてこの信号は鉱芽さんの持つ端末にも届いているはず。

 

 

「(鉱芽さん)……よしっ」

 

 

 僕は決めたんだ、鉱芽さんに会うって。貴方が僕を拒絶したって、僕は諦めない。貴方とまた話がしたいから……笑い合いたいから……っ。

 

 胸に熱い決意を秘め、僕は部屋を飛び出した。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 ふと首を動かしたくなって、椅子にもたれかかりながら首をぐるっと回し、力なく窓から空を見上げる。並び立つビルの隙間から覗かせる薄い青色が、壁紙のように敷き詰められていて少し眩しくて、今が夕方であることを忘れてしまいそうだ。これも私たちにじっくり見せつけようとする真夏の太陽のせいなのだろう。じっと空を見つめていると、時間の経過なんて忘れそうになる。難しいことを何も考えずに、翼を生やして飛んでみたいなんて考えてしまう。

 

 

「(彼女は、どうするのかしら……)」

 

 

 またふと、あの可愛らしい灰色髪の少女へ思いを馳せてしまう。昨晩、無茶をしていることへの注意のつもりが、苛立ちを抑えきれなくなってつい自分の怒りをぶつけてしまったあの少女。確かに言葉は悪かったし、言いすぎたと反省はしているけど、受け身ばかりに回っている彼女が気に入らなかったのも事実だ。彼女は果たして、鉱芽に相応しい人になれるのだろうか。いいえ、そもそも別に誰かに任せる必要なんてない。鉱芽を好きなのは私だって同じだもの。私がもう一度、彼の隣に立てればいい話じゃないの?

 

 そんな思考にはまり、呆けている私を呼ぶ声が一つ。

 

 

「──バサ……ツバサっ」

 

「っ……どうしたの英玲奈?」

 

「さっきから何度も呼んでいる。どうした? 珍しく呆けたりするなんて」

 

「ごめん。少し疲れちゃったのかな」

 

 

 学院での同期であり、今の私の仲間であり、そして友である統堂英玲奈が、いつものきりっと伸びた綺麗な目を私に向けていた。

 

 

「レッスンも終わったし今日はやることもないから私は帰るが……」

 

「そう。あんじゅはもう帰ったの?」

 

「ああ、ついさっき」

 

「相変わらず自由ね」

 

「全くだ」

 

 

 同じチームの仲間だというのに、放っていくなんて少し悲しいものね。でも私たちはそんな彼女を非難したりはしない。彼女はふわふわしていつもマイペースで、気が付けば何かを食べてるような自由人なところがあるけど、そこが彼女の可愛いところでもある。もう三年目になるもの。彼女のそんな性格はとっくの昔に受け入れているし、もはや愛おしく思うところまであるわ。

 

 

「まあそんなあんじゅも私は好きよ」

 

「同感だ。それでツバサはどうする?」

 

「そうね……もうしばらくここにいるわ」

 

「そうか。じゃあ、また明日。ツバサ」

 

「ええ、また明日、英玲奈」

 

 

 互いに次の日の約束を交わし、英玲奈は去っていった。去り際に見せる彼女のつかの間の笑顔はやはりクールだった。私にはない彼女の魅力ね。

 因みに明日は土曜日だけど、ラブライブ!を控えた私たちには関係ない。例えトップを独走していようと油断はしないし、今の現状に満足したりしない。それに今の私には、負けたくないライバルがいるもの……。

 

 

「……μ's」

 

 

 パソコンを起動させて、その名が記されたページを開く。コウガが指導している九人組のスクールアイドル。コウガが指導するというくらいなのだから、どのくらいの子たちかと期待はしていたけど、まさかここまでの勢いでのし上がってくるとは思いもしなかった。コウガの息がかかったという色眼鏡無しでも、彼女たちは私たちにとっても決して無視できない相手となっていた。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 彼女たちの中にもコウガに惹かれている子たちもいる。その子たちに限っては別の意味のライバルでもある。それはそれで色々と一筋縄ではいかなさそうだ、と私は溜息を吐いて昂る心を落ち着かせようとする。

 再びパソコンを閉じて、また空を見上げようと私は一息つき、今度は窓に近づいた。

 

 

「あれは……?」

 

 

 だけど窓の下の光景が視界に入ったその時、UTXの大画面を見つめる群集の中に一人、見覚えのある影を見つけた。それは、私の心に一抹の不安を残した存在。その人だと確信した瞬間、居ても立ってもいられず私は駆け出した。出来るだけ誰にも見つからないように校舎の外に出て、そしてかの人物の目の前までたどり着いた。彼は、急に現れた私に全く驚く素振りを見せずに、相変わらず陽気な調子で話しかけてきた。

 

 

「よお。また会ったな。スクールアイドルのトップ、A-RISEのセンター、綺羅ツバサ」

 

「DJサガラ……」

 

 

 まるで私がここに来ることを分かっていたような口調だった。それが更に私の中の彼への不安度を上げる。

 

 私の目の前にいる男はDJサガラ。スクールアイドルの情報を独自にまとめては語っていた、所謂ネットアイドルのような存在。そのDJらしい風貌やキャラ、独特の雰囲気から人気が急増し、今やラブライブ!の公式パーソナリティに採用されるまでに至っている。パソコンで見る時はサイクルジャージを中心とした色鮮やかな衣装を着ていたけど、今は大人しい色のスーツ姿をしていた。それでもいつものトレードマークであるバンダナとサングラスは相変わらず着用していた。

 

 

「前も気になったけど、アナタは何者なの?」

 

「俺か? 俺は何者でもないさ。ただの……アイドルオタクさ」

 

「そう言う割にはちょっと詳しすぎるんじゃないかしら。以前だって私の前にふらって現れたじゃない」

 

「オイオイ、誤解しないでくれ。俺はぁ……ただのファンだ。ストーカーじゃない」

 

「私の、じゃなくて、コウガの……でしょ?」

 

 

 会話中、事あるごとに身振り手振り動かすものだから、まるで掴みどころのないように感じてしまう。しかしコウガの名を告げた瞬間、サガラの眉がピクリと動いたのを私は見逃さなかった。

 

 

 実のところ彼は既に一度、私の前に現れている。あれはラブライブ!開催が正式に決まった日の事だった。ラブライブ!開催に当たって、UTXの大画面をラブライブ!の宣伝に使用することの承諾にサガラも訪れていた。私も存在自体は知っていたし、少し面白そうな人だとは思っていた。だけどサガラと初めて会話した時に、彼は言ったの。

 

『一応忠告しておくが、アンタが想いを寄せてる奴……アイツはきっと、別の女を選ぶ。だから無駄なことは止めといた方がいいぜ』

 

 その瞬間、サガラがコウガのことを言っているのだとすぐに気付いた。何故私がコウガ想いを寄せていることをこの人が知っているのか、何故わざわざ『忠告』という言葉を使うのか、それは分からない。

 

『私がコウガから手を引いて、アナタに何の得があるの? アイドルが恋愛してたら不満?』

 

 多分、これが一番考えやすい理由でしょうね。または彼自身が私の大ファンか。だけどそんな言い返しにも彼には意味を成さなかった。

 

『別にアンタが誰を想おうがそりゃアンタの自由だ。ただ、あの男はちょっとアンタには高すぎるのさ』

 

 この男が何を言ってるのか分からなかった。しかしこのサガラという男から漂うただならぬ空気を、私はその時に感じたのを覚えている。彼の……常人の理解を超えたその瞳が、私の心の中に一抹の不安を残した。

 

 

「また私とコウガの仲を引き裂きに来たの?」

 

「引き裂く? まさか。俺は別にそんな真似はしないさ。それに、あの時だって一応はお節介のつもりだったんだがなぁ」

 

「お節介? 嘘ね。アナタの目的は何? コウガをどうするつもりなの?」

 

「どうもしないさ。俺はただ……見守るだけだ」

 

「だったら余計な口を挟まないで」

 

 

 掴みどころのないサガラの口草に苛立ってしまい、つい声も荒立ってしまう。本当に何を考えてるのか分からない。分からないから怖い。そんな怖さが私の苛立ちをどんどん強くしていく。それにここまで来れば分かる事もある。この男が真に見守っているのはスクールアイドルではなく、コウガだと言う事を。そしてその理由も恐らく……。

 

 

「っ……前に別の女って言ったわね。まさかμ'sの誰か、なんて言わないでしょうね」

 

「ほぉ……いい顔付きになってきたじゃねぇか」

 

「いい加減白状なさい! アナタは何者なの!」

 

「だから言ったろ。ただのファンだって」

 

 

 コウガの未来にμ'sが絡んでいることさえ否定しないどころか、あまつさえこの期に及んでファンだと言いきるこの男。いい加減に口を開くのにも疲れてきた。

 

 

「ま、安心しな。大会で贔屓したりはしないさ。アンタは今まで通り、スクールアイドルの頂点を極めればいいさ」

 

「……」

 

「だが果たして、果実の鎧武者は誰を選ぶかな」

 

「っ!!」

 

 

 サガラの言葉に身体中に電気が走り、僅かに飛び上がってしまう。すぐさま振り返るも、どこを見渡してもサガラの姿は見当たらなかった。

 

 

「今……」

 

 

 あの男は確かに言った──『果実の鎧武者』と。

 

 それは即ち、アーマードライダー鎧武……コウガのこと。

 

 彼は、コウガが鎧武であることを知っている。

 

 コウガが戦っていることを知っている。

 

 コウガが……μ'sを守っていることを知っている……。

 

 

 不安が、更なる焦燥に変わっていくのが感じられた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「む~ん……」

 

 

 机に肘を突き、両手で頬を伸ばして不細工な顔を作りながら、如何にも悩んでますよという感情を隠すことなく俺は唸り声を上げていた。理由は言わずもがな、ことりのことだ。今日の朝の練習、どうもことりの調子がおかしかったのだ。昨日までは怖いくらいの張り切りようだったのに、今朝はまるで練習に身が入っていなかった。しかし思い当たる節がないわけではない。昨日一人で夜に練習をし、海未に怒られてインベスに襲われて、それで懲りたのだろうと、反省したのだろうと最初は思った。しかしどうやら違ったようだ。その後の彼女の様子を見るに、反省して態度が縮こまったというより、ずっと自信を失ったかのような動きをしていたのだ。身体の動き一つ一つがぎこちなく、迷いがあった。表情もどこか上の空で、楽しんでいる様子なんて微塵も感じられなかった。

 だから俺はことりに問いただした。何かあったのかと。しかしことりは口を噤み、俺と目を合わすことなく立ち去ってしまった。

 

 

「アンタことりに甘いのよ。もっと怒るとかしてもよかったんじゃないの?」

 

「……かもな」

 

 

 隣の席に座るニコから甘さを指摘される。今は放課後で、この場には俺の他にニコ、そしてテーブルの向かいに凛ちゃんと花ちゃんが座っている。本当ならドルーパーズの仕事が終わって、放課後の練習も終わってるであろうことりにすぐ会おうと思ったのだが、生憎ことりはすぐさま帰ってしまったようなのだ。伝言を聞いた彼女達曰く『今は鉱芽さんに会えない』らしい。全く、一体何があったんだか……。

 彼女に何が起こったのか分からず、そして会いたくても会えないことに僅かに苛立ちを覚えていた。しかし場所が場所だけにそうやすやすと感情を露わに出来ないのだが……。

 

 

「それで、だ……」

 

「何よ?」

 

「……どうしてラーメン屋なんだ?」

 

 

 今俺たち四人は、学校から近いラーメン屋に寄っていた。もちろん凛ちゃんの提案でだ。

 

 

「こう言う時はラーメンを食べて気分を落ち着かせるにゃあ」

 

「それはお前だけだろ」

 

「でも、あの……鉱芽さん、ちょっとイライラしてそうだったから……」

 

「っ……ごめん。別にそんなつもりじゃ」

 

「い、いえ。だからそう言う時は、何か食べた方がいいかなって」

 

 

 怒った時は食べる、ってどんな人間だよお前らは。心の中でラーメン好き&ご飯好きにツッコむ。しかし苛立ちを抑えていたつもりだったが、やはりにじみ出るものなんだな、そういう感情は。因みに注文は既に済ませてある。今は届くのを待っている最中だ。ニコは家のこともあるのか少量しか頼んでいないが。

 

 

「でもさ、これって結構珍しい組合せだよな」

 

「言われてみればそうだにゃ」

 

 

 それぞれと関わることは何度もあったが、このメンバーで集まったのは初めてだ。もしかするとにこりんぱなの三人は俺の知らないところで関わりはあったかもしれないが。

 

 

「アンタは最近ことりや絵里に付きっきりだもんね」

 

 

 と思えば唐突に攻撃的な声色で言い放つニコ。顔をそっぽ向けてツンとした態度が拗ねた子どものように見えて可愛いらしい。しかし付きっきりというのには少し語弊がある。確かに絵里やことりとはここ最近特に絆を深めていたが、別に練習などで贔屓しているつもりはない。しかしニコにはそう感じてしまったのだろうか?

 

 

「ははっ、付きっきりってなんだよ。嫉妬か?」

 

「っ!? バッ、バカ言ってんじゃないわよぉ! 大体アイドルがねっ、れっ、恋愛なんて、あっていいはずないでしょ!! 花陽も何か言ってやりなさいよ!」

 

「そうですよ鉱芽さん! 恋愛事情はアイドルの沽券に関わることなんですよ! 最近じゃ人気スクールアイドルのあの子やこの子まで彼氏のスキャンダルが出回り始める時代! ましてや今はラブライブ!の出場がかかっているんです! アイドルの恋愛なんて絶対にダメです!!」

 

「うへぇ……すげぇ典型的なアイドルファンの考え……」

 

「ふんっ、悪い?」

 

 

 ニコをからかおうとしたら、何故か花ちゃんが怖いほどの勢いでアイドルの恋愛について語っていた。目力も凄まじく、そのまま人を殺してしまいそうな勢いだ。すいません……私一度そのスクールアイドルと交際してました……スクールアイドルのトップと七カ月近く交際していました……AからCまで全部済ませました……。なんて言ってしまえば俺は花ちゃんに刺されるのだろうか。少し背筋がぶるっと震えた。つーか俺の母親もアイドルしてたけど普通に結婚してるんだがなぁ……。

 しかし否定してるニコが何故か一番動揺してるのが非常に気になるが、とりあえずだ……。

 

 

「いや、悪くないけど……ちょっと静かにしようか。お前ら、めっちゃ目立ってる」

 

「え?」

 

 

 俺の言葉に我にかえった花ちゃんが店内をぐるっと見渡すと、店中の客の視線を一身に浴びていたことに気付き、沸騰しそうなほど顔を赤らめてその場に萎れ込んだ。失神こそしていないが、恥ずかしさのあまり全身を使って顔を隠そうとする花ちゃん。その形振り構わない姿は本当にアイドルなのかと疑いたくなる。いやかわいいけど。

 

 

「は、恥ずかしぃ……ですぅ……」

 

「かっ、かよちーん!」

 

「ほれ見たことか」

 

「ってかアンタの所為でしょ」

 

 

 恋愛もそうだが、ラーメン屋で騒ぐ方がよっぽどスキャンダルな気がしないでもないな……。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「ふぃ……美味かった。偶にはラーメンもいいなぁ」

 

「また来ようよコーガさん! 今度はみんなも誘って!」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 一応腹も満たせて少しは鬱憤も晴れた。美味しいものを食べるってのも意外と馬鹿にならないな。

 とは言え、ラーメン屋を出た俺たちは特に目的もなくただダラダラと歩くだけだった。そして気が付けば、いつもの神田明神へと足を運ばせていた。

 

 

「結局ここに来ちゃうのね」

 

「それだけ慣れ親しんだ場所ってことだろ。他に誰かいるかもな」

 

 

 もしかするとことりも来てるかも知れない。そんな期待を寄せながら境内を一望してみるものの、残念ながらことりどころか他のμ'sメンバーの姿すら見つけることは出来なかった。仕方なくベンチに二人ずつ向かい合って座り合う俺たち。空を見ればまだ薄い青空が広がっているが、手元の時計では既に五時を過ぎようとしている。

 

 

「ニコ。そろそろ帰らなくて大丈夫か? お前──」

 

「大丈夫だから。余計な事言わないの」

 

「? 何が大丈夫なの?」

 

「別に何でもないわよ」

 

「にゃ?」

 

 

 ニコの反応を見るに、彼女はまだ自分の家族のことについて誰も話してないんだろうな。俺だっていつだったか、偶々知っていなかったら今も知らなかっただろう。ニコの家の話についてはまた今度な。

 

 

「(誰も隠し事くらいある、か……)」

 

「葛木はどうなのよ?」

 

「あん?」

 

 

 隣に座るニコから鋭い言葉が降り注ぐ。一瞬、また何かくだらないことでも言おうとしたのかと思ったが、俺を見る彼女の眼は、明らかに俺を逃がさまいとする強い眼差しだった。強いが、同時に悲しそうな、どこか心配するような眼差しだった。迂闊に軽い言葉を返せない空気が俺たちの間に流れていた。

 

 

「アンタ、まだにこ達に隠してることあるでしょ」

 

「なんで──」

 

「分かるのか、なんて言わないでしょうね。誰も気付いていないとでも思ってた?」

 

「──っ……」

 

 

 その言葉につられて目の前の凛ちゃんと花ちゃんの顔を覗くと、彼女たちもニコと同様、心配そうに眉を顰めて俺を見ていた。少し意外で言葉が詰まってしまう。決して彼女たちを侮っていたわけではない。しかし彼女たちが自分からここまで踏み込んでくるとは思わなかったのだ。いや、踏み込んで欲しくなかったと言う方が正しいか……。

 

 

「そんなににこ達が頼りにならない?」

 

「その言い方は卑怯だろ……」

 

 

 踏み込んで欲しくなかったのは心を塞いでいたからではない。彼女たちに非情な現実を知ってほしくなかったからだ。しかしニコ達にそんな言い方をされてしまえば、口を割らないわけにはいかなくなる。本当は彼女達にも力になってほしい。この苦しみを分け合ってほしい。いけないことだと分かっているがそれを欲してしまう自分がいた。だからニコのその優しさが、つい嬉しくなってしまった。

 

 

「聞けば本当に後悔するぞ。今まで通り俺に接することができなるかもしれない。それでも聞くか?」

 

「……いいわよ」

 

「凛も」

 

「私もです」

 

「……あぁ~もう!」

 

 

 全員らしくなく、覚悟を決めたかのような表情で迫ってくる。頭を掻き毟り短い癇癪をあげながら、俺は僅かな葛藤を終える。彼女たちは既に覚悟を決めている。ならば俺も覚悟を決めるしかない。

 

 

「……」

 

 

 もう一度彼女たちの顔を一瞥する。俺を見るその目に恐れはなかった。今は彼女たちの目を信じてみようと思った。ゆっくりと息を付く俺。そして……。

 

 

「……俺さ、守れなかったものがあるんだ」

 

 

 俺は、自身の抱えている闇を彼女たちに打ち明けた。




原作の彼を知っている読者の中には、今回の言動に違和感を抱いた人もいるかもしれません。さて、その違和感が意味する事とは?
また、鉱芽の闇を知ったにこりんぱなは?
そしてことりは……?

次回をご期待ください。
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