絵里は鉱芽が見放されることに対する恐怖を抱えながらも、穂乃果と海未にも鉱芽の闇を教える。彼女たちもまた鉱芽と共に歩むことを絵里に伝えるが、直後クラックが現れ、インベスが襲い掛かる。そこに斬月・真が現れるも、イナゴ怪人の妨害に遭いインベスを逃がしてしまった。そしてことり達の前に現れたインベスは果実を摂取すると、今までにない突然変異を起こす。そこへ鎧武が現れた。
それではどうぞ。
大橙丸を硬く握りしめ、俺は目の前の敵を注視する。四本の角や鋭い爪、巨大な翼を持つ、正しく悪魔と言うのに相応しい見た目をしている。あんなに凶悪そうな見た目のインベスは今まで見た事がない。角の巻き具合からしてあれは恐らくヤギインベスなのだろうが、正直似ても似つかない。しかし初級インベスだって自身の何倍もの大きさのイノシシインベスに変化することもあるくらいだから、それに比べたらまだ理解の範疇にあるというものだ。
「……」
「グルルルルゥ……」
互いの隙を狙うように、じっと睨みあう俺とインベス。その間にも俺はこの未知の敵に対してどう挑んでいくかの算段を立てようとする。前方には倒すべき敵、後ろには守るべき人が、とすると戦い方も限られてくるだろう。少なくとも攻撃を躱し続ける戦いになるのは出来るだけ避けたいところだ。
「グオゥッ!!」
「!」
先に動き出したのはインベスだった。頭を勢いよく俺に向けて倒したと思えば、その伸びていく角を前方にではなく、地面に突き刺したのだ。恐らく地中からの不意打ちを狙っているのだろうが、生憎変身して更に五感の鋭くなった俺には地面の中を動く角の位置が分かるのだ。
「っ、ふっ!」
「ググ!?」
地中を走る音が最大限に大きくなった瞬間、俺はその場から跳びあがった。その瞬間、先程まで俺が居た場所を囲むようにして四方から四本の角が飛び出してきた。もし何も行動できなければ今頃串刺しになっていたことだろう。だが結果は、角は空気を貫くだけだった。そして俺を仕留め損ねたインベスは、空振りした角を元に戻そうとしている。そのインベスが地面に突き刺している時こそ、俺にとっての攻撃のチャンスだった。ヤツの身体の自由が奪われている今こそが攻撃の絶好の機会。俺は鞘から無双セイバーを引き抜き、その銃口をインベスに向けた。だが……。
「グォォォォォ!」
「んなっ!?」
角を戻している最中に、インベスの胸にある牙が大量に飛んできたのだ。遠距離攻撃は角だけだと思っていただけにこの行動には驚いてしまい、一歩出遅れてしまった。俺は今もことり達の前に出ている。避けようものならあの無数の牙はことり達を引き裂いていくだろう。
ならばやれることは限られてくる。今回はこれで行くか。
『オレンジスパーキング!』
カッティングブレードを三度斬り下し、アームズを球体に戻す。
「わぁ……」
「怪奇、オレンジ人間やね……」
後ろから僅かに戸惑いの声が聞こえてくる。今の俺は人型ではあるがその頭が巨大なオレンジになっているのだ。シュールなことこの上ないだろう。しかしそんな形でも、スパーキングの防御力をなめてもらっては困る。
「ゥオラァ!」
球体に戻ったアームズは俺の頭部で急速に回転を始めたのだ。そのまま頭部を前方へ向け、オレンジを盾にする。すると迫ってくる牙はアームズの回転に弾かれ、或いは粉々に砕け散ってしまった。ガリガリガリとインベスの牙を次々と砕いていくオレンジ。やがて防ぎきったのか、降り注ぐような牙の雨は途絶え、アームズも再び鎧に展開した。
「グシュゥア!!」
「っ!? くっ」
再度鎧が展開された時、眼前に既にインベスの姿はなかった。しかし探すほど離れていたわけではなく、その翼を持って上空へ飛翔していたのだ。そして今度は空中から、その角を直接俺に向けて突き伸ばしてきた。もちろん今更そんな単調な攻撃が当たるはずもなく、俺はその場で跳躍して角を躱す。角はそのまま地面に突き刺さってしまい、俺は角が戻っていく前に今度こそ攻撃を加えようとする。しかしその時、俺は地面の中を移動する角の音に気付いてしまった。
「(……この音……しまった!)」
角は地面から戻っていく気配はない。今もなお地面の中を突き進んでいるのだ。そしてその狙いは俺じゃない。俺の後方……俺が守っていたことり達に向かっていたのだ。
「くっそ!!」
『オレンジスカッシュ!』
「セイハアアアアァァァーーッ!!」
「きゃっ」
空中で体勢を入れ替え、後方の地面向かって大橙一刀を放った。刀身から放たれた巨大なオレンジの斬撃は地面を引き裂き、辺り一面に土煙を巻き起こした。衝撃のためかことり達の小さい悲鳴が聞こえてくるが、どうやら怪我はないようだ。インベスの角も大橙一刀によって地面ごと抉れ、ことり達まで届かなかった。あと少しでことり達が危なかったと思うと冷や汗が止まらないが、今の攻撃から守れたことで僅かにほっとしてしまった。
しかし安心するには早すぎた。
「ォォオオオオ!!」
「っ、くぅぅッ!」
背後から風を切る音がした。インベスは攻撃が失敗したと認識するや否や、その翼を持って急速に迫ってきたのだ。しかも俺の着地を狙ってきたのか、振りかぶってくる爪に大橙丸と無双セイバーの二刀で応戦するも体勢が立てずに僅かに力負けしてしまう。それでも完全に競り負けることはなく、すぐさま立て直し、拮抗するところまで持っていけた。
しかし……。
「グルァア!!」
「っ!? んがぁああああっ!!」
「鉱芽さん!!」
接近戦に持ち込んだからと言って必ずしもその爪だけに頼るほどインベスは馬鹿では無かった。俺が鍔迫り合いをやっている最中、完全に無防備な俺の胸元へ、インベスは胸の牙を飛ばしてきたのだ。それをゼロ距離で真正面から食らってしまった俺は無様にも吹っ飛ばされ転がっていってしまう。さっきも見た技だと言うのに食らってしまうなんて、等と悔しがる時間はない。
俺が立ちあがる暇もなく、インベスはことり達へ視線を向けていたのだから。
「(くっそ……)」
間に合うか……そう願いながら、懐からゲネシスコアを取り出そうとした時だった。
「ハァ!!」
「グリュルォァァ!?」
「!?」
緑色の閃光が走り、刹那、インベスが大きく吹き飛ばされたのだ。恐らくインベスもことり達も何が起こったのか分からないだろうが、俺の眼には、彼方よりインベスを強襲する矢が見えた。
そう、インベスを貫ける矢である……。
「……」
「斬月……真……」
立ち上がり、その矢を放った人物を俺は目視した。白きゲネティックライドウェアと、クラスSのエナジーロックシードで召喚されたメロンエナジーアームズを装着している。その手には紅き弓ソニックアローが握られ、そして腹部には、戦極ドライバー以上の性能を持つゲネシスドライバーが付けられている。
俺は、その力を行使している人間を知っている。
俺はアイツをここにいる誰よりも知っていた。
今あの力をその手にしているのは……。
今インベスと戦おうとしているのは……。
あいつは……。
俺の……。
「ググググォ……」
「「っ」」
互いに無言で、しばらく視線を交わしあっていた俺と斬月・真だったが、呻き声と共にインベスが起き上がるのを認知するとすぐさま身体をそちらへと向け、同時に構えをとる。
「下がってろ」
できるだけ巻き添えの可能性を減らすため、ことり達に逃げるよう忠告する。
「で、でも……」
「いいからッ!」
「っ……」
聞き分けのないことりについ荒く叫んでしまったが、そうでもしなければいくら二人掛かりとは言え、ことり達もあのインベスの暴力的な攻撃の巻き添えを食らいかねない。言葉の詰まってしまったことりは、真姫と希共々そのままゆっくりと後ろに下がっていく。
「グオッ」
「「ふっ」」
その僅かな足音で再びことり達の方へとインベスの視線が注がれるが、その瞬間に俺と斬月は同時に走り出した。対してインベスはその角を左右に伸ばして、俺と斬月の両方を串刺しにしようとする。しかし俺と斬月は僅かな跳躍で華麗に角を躱すと、ほぼ同時に俺たちはインベスの懐へと潜り込んだ。
「ハァァ!!」
「ツァアア!!」
「グギャァァオ!?」
互いにインベスの右側へと逸れていくように身体を移動させ、すれ違いざまにインベスの身体に刃を叩き込んだ。俺の大橙丸の刃──カヒノジンが、斬月・真のソニックアローの刃──アークリムが、巻き込むように一斉にインベスに襲い掛かる。左右両方からの同時攻撃にインベスは悲鳴を上げ、回転しながら倒れ込むが、そこに俺たちは更なる追撃を仕掛けた。
「フン!」
「ハァ!」
「ウグォアアア!!」
すれ違いの一閃後に急停止し、振り向きざまにもう一閃、インベスが倒れ込む前に叩き込む。第二撃もインベスを斬り裂き、身体からどす黒い血液が吹き出す。すかさず第三波も加えようとするが……。
──ガキンッ
「「っ!?」」
今度は俺と斬月の刃同士がぶつかり合ってしまい、互いに弾かれてしまった。最初こそ偶々上手くいったとは言え、俺たちは連携なんてとったことはない。まるで息の合わないチグハグした連携など、むしろこうなって自然と言えよう。目の前の相手のことで心に重荷を抱えている俺なら尚更だ……。
だが刃が弾かれてしまったために、互いにバランスを崩し、インベスに立ちあがる隙を与えてしまった。そしてインベスはその脚力のみで跳びあがり、俺の真上を飛び超えながら空中から胸の牙を撃ち出してきた。これならアームズの変化が間に合わないとでも思ったのだろうか。しかしお生憎様だ。防ぎようならまだいくらでもある。
「なめんなよっ」
手に持つナギナタモードとなった無双セイバーを、目の前で宛ら盾のように高速回転させ、飛んでくる牙を粉砕し始めたのだ。
「ッギァ!? グギギャァァ!」
「オゥラオララララララララァ!!」
この反撃は予想外だったのか、インベスは驚いたように肩を揺らす。しかしそれでも尚も牙を撃ち続けることを止めないインベスに向かって、俺は無双セイバーを回しながらじわじわとインベスに近づいていく。インベスに近づいていくにつれて牙の勢いが増していくが、それだけ向こうも必死なのだろう。攻撃を加えているにもかかわらず、ゆっくりと着実に敵が迫ってくる様は、それは恐怖するものだろう。
「ハッ!」
そして俺とインベスの距離がほぼ身体一つ分まで迫ったその瞬間、俺の背後から斬月が飛び出た。それだけでなく、インベスの上空を取った瞬間、ソニックアローから眩い閃光と共に光の矢が放たれたのである。
「ギュアィッ!!」
「っうぉっ!?」
矢は見事インベスを直撃したが、その爆風の余波が俺にまで襲い掛かり、思わず防御の手を止めてしまう。しかしインベスもまた攻撃を止められた為、もはや防御の必要もないのだが。とは言え、あともう少しでこちらまで矢の餌食になるところだったのは本当に勘弁願いたい。
そして華麗にインベスの背後へと降り立った斬月は、ソニックアローで斬り裂こうとしたのだが。
「グルォァ!」
「んなっ!?」
「ぅぉあっ、ぶねぇ……」
ソニックアロー射抜かれてもなお生命力の高いインベスは動けるようで、その翼を翻して空中へと飛びあがってしまった。それどころか、空振りになった斬月の刃は勢いあまり、インベスの代わりに俺の鎧を掠っていったのだ。仮面の奥で冷や汗が滴り落ちるのが分かる。
だがすぐに空からの攻撃に対処できるよう、俺たちは背中合わせになりながら空中を飛ぶインベスに視線を注ぐ。
「バカ……何やってるのよ……」
「鉱芽さん……」
真姫たちの心配も尤もだ。ここまでの失態になるとは俺自身思わなかったのだから。
「(クソ……ッ)」
ここまで連携が取れていないといつかこちら側で勝手に自爆してしまう……。
確かに即興の連携とはなってしまったが、俺たちはここまで互いの動きを予測できないほどだったのか……。
それとも互いに心が通じ合えなくなるほど、離れすぎてしまったのだろうか……。
俺たちは……そこまで互いを信用できなくなったっていうのかよ……っ。
──なあ……どうなんだよ……っ。
「ミッチ……」
「……」
思わず呟いてしまった、隣に立つ親友の名。しかし彼は何も応えない。きっと聞こえているだろうその仮面からは、何の表情も読み取れない。それだけで、その恐ろしく冷徹な仮面の下を思うだけで、俺の中の不安が大きくなっていってしまう。
だが……。
──コク
「(え……?)」
僅かに、見間違いとも取れないほどほんの僅かだが、その首が動くのが視界に入った。呆気に取られて、つい身体ごと斬月へと振り返ってしまう。しかし今、確かに彼は頷いた。俺の言葉に応えてくれたんだ。ミッチが。たったそれだけで、心に温かい火が灯るのが感じられた。
「グルルルォァア!!」
「っ!」
しかしその瞬間、俺の気が緩むのを見逃さなかったインベスは、空中から囲むようにして俺たち目がけ角を伸ばしてきたのだ。四方から高速で迫る四本の鋭い角は、まるで俺達を逃がさんとするトラバサミのようだった。
しかし今の俺にはそんな攻撃がまるで脅威に感じられなかった。ようやく焦燥がなくなったからなのか、次にやる事がすぐに見えた。そしてその行動に斬月を信用してもいいということにも自信を持てた。すぐさま振り返り、再び斬月と背中合わせになる俺。いや、背中合わせどころか、背中同士をくっつけるほどまで近づいていた。角が迫る中、俺は無双セイバーを左に振りかぶる。俺の動きを感じたのか、斬月も同じようにソニックアローを左に振りかぶる。そして……!
「ウラアアアアアアアアッ!!」
「ハアァアアアァァァッ!!」
互いの背中を中心として、俺たちは刃を振りながら回転を始めた。俺達に迫った角は無双セイバーの、或いはソニックアローの刃で斬り裂かれ、その場に落ちていく。ほんの二回転の間ではあったが、その場から一切ぶれず、互いの身体から離れず綺麗に回転する姿は、まるで駒のようであっただろう。技術もさることながら、心もシンクロさせてようやく成功できる策だった。そう、ここにきて俺たちはようやく息が揃えることができたのだ。
「フッ!」
「グギァアアアアアアアアア!!」
角の攻撃が途切れた一瞬の隙をつき、斬月は矢を射る。今までで最も早く感じられたその閃光は、見事にインベスの翼を打ち抜き、インベスは無様に地に堕ちてきた。そして着地もままならず地面に叩き付けられるインベス。その瞬間、インベスが完全に無防備な姿が数秒続いた瞬間こそ、けりを付けるチャンスだった。
『ロックオン! イチ! ジュウ! ヒャク! セン! マン!』
「フンッ! ハァッ!」
オレンジロックシードを無双セイバーに装填すると、同じく無双セイバーに取り付けられた大橙丸の刃に光が集っていく。刃のオレンジ色が電子音声と共に最も眩しくなった時、その刃を数メートル先にいるインベス向けて斬り放った。インベスに迫る光はインベスを切り刻むことなく、目標をオレンジ型のエネルギー体に閉じ込めた。
『ロックオン』
「グ……グガガ……」
俺に続くように斬月・真も自信のメロンエナジーロックシードをソニックアローに装填し、弓に一体化された矢を引き絞る。矢が引かれるたび、弦が張るたびに、強力なエネルギーが矢の先と弦に充填されていく。ソニックアローの弦が緑色に、矢がオレンジ色に光り輝く。救いの光にも幻視しかねないそれは、インベスから見れば滅びの光にも見えたことだろう。
必死に光の拘束から脱しようとするインベスだが、もはやそれほどの力は残されていなかった。この光に囚われたものの末路は、確かな終わりだ。
『メロンエナジー!』
「ハァ!!」
『オレンジチャージ!』
「セイハアアアアアアァァァッ!!」
俺が走り出した瞬間に斬月のソニックボレーがインベスを貫き、その直後、鎧武の斬撃──ナギナタ無双スライサーがインベスを横一線に斬り裂いた。
「ウグォアアアアアアアア!!」
二つの必殺技を同時に浴びたインベスは今度こそその身に余るエネルギーに耐え切れず、断末魔と共に爆散した。
「……」
「……」
インベスを斬り捨てた俺は構えを解いて振り返り、斬月へと真っ直ぐ視線を注ぐ。斬月もまた、静かに俺を見つめていた。ようやく強力なインベスを倒したを倒したというのに、その空間には依然緊張が走っていた。
「はぁ、はぁ……立花さんっ……と、鉱芽さん……?」
「ぜぇ、ぜぇ……か、葛木……と……あの白いのって……」
俺の耳に二組の足音と声が聞こえてきた。海未の後ろには絵里と穂乃果が。ニコの後ろには凛ちゃんと花ちゃんがいるのだろう。何故ここにいるのか分からないが、彼女たちも俺たちが戦っていたこの場所へ辿り着いたようである。
つまり元からここにいたことり達も合わせて、μ'sが全員集まってしまったのだ。
しかしインベスの脅威がなくなった今、俺にとっては大した問題ではない。俺の意識は今もなお、ずっと目の前の鎧武者へと向けられていたのだから。
俺の、親友だった男へ……。
「……」
「……」
誰も喋らない。
何も訪れない。
そんな痛々しい沈黙が俺の肌に突き刺さっていた。
次回、「JUST LIVE MORE」!
お楽しみに。