ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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~前回までのあらすじ~
闇に染まり、守る意志を失った鉱芽は絵里と真姫に襲い掛かった。彼女たちを言葉で責め立て、手にかけようとした時、彼を止めるために斬月・真に変身した道行が鉱芽に挑んだ。しかし鎧武・闇の猛攻の前に道行の力も声も及ばず、追い詰められその命が尽きようとしていた。その時、鎧武の前にことりが立ち塞がった。

それでは今回もどうぞ。

挿入曲:新しい場所へ[OP Arrange]
    始動 鎧武
※BGMかけながらの閲覧を推奨します


第82話 声

 まるで悪夢を見ているようだった。

 

 ──やめろ! やめてくれ!!

 

 目の前で起こる最悪の光景に必死に叫ぶが、"俺"は止まってくれない。この手で絵里を投げ飛ばし、今もなお真姫の首を絞めている。そして絵里や真姫を、邪魔な存在だと吐き捨てる"自分"が映し出される。その上、自分の発する声は聞こえるのに、彼女たちの声が全然聞こえてこない。彼女たちが何を叫んでいるのかも、俺には分からない。違う、それは俺じゃない、と彼女たちに訴えても、それが彼女たちに伝わっているかどうかさえ分からない。

 

 ──やめてくれ……こんなの……俺じゃない……っ。

 

 ──違う。これもお前だ。

 

 眼前の自分を否定するのを許さないかのように、闇の中で"俺"の声が聞こえてくる。

 

 ──俺は……俺はこんなこと望んでいない!

 

 ──自分を否定するなよ。アイツらの期待や重圧が息苦しかったのは事実だろう。それに今の守る奴がいなくなったお前の姿……結局大切な人を殺すしかなかったお前をそのまま表現しているみたいじゃないか。

 

 ──俺は……俺は……っ。

 

 必死に否定しようと思考を働かせるも、"俺"を黙らせる言葉が見つからない。"俺"の攻撃的な言葉の中には俺の本心も混じっていたから。結局俺は守るより殺すことしかできないという言葉を否定しきれなかったから。俺は"俺"を振り払うことはできなかった。

 

 そんな中、俺の目の前に斬月・真に変身したミッチが現れた。

 

 ──ミッチ……っ。逃げろ! そいつ等連れて逃げろ!!

 

 しかし俺の言葉はミッチには届かない。そして"俺"の攻撃で傷つけられ、ボロ雑巾のように叩きのめされ、変身も解かれてぐったり項垂れるミッチ。その様子を俺はただ見ていることしかできなかった。

 

 ──誰か……俺を殺してくれ……誰かを傷つけるくらいなら、この闇ごと俺を消してくれ!

 

 何もかもが嫌だった。こんな自分の闇のせいで、ミッチが、絵里が、真姫が傷ついている。この後"俺"は彼らを殺すだろう。そしてもっと多くの人を傷つけるかもしれない。

 

 嫌だった。俺自身の闇が。怖かった。俺の弱さが。

 

 だから必死になって、どんなに無様でもいいから、この闇を振り払おうとした。

 

 腕を振るった、頭を揺さぶった、殴りかかった、蹴りかかった。

 

 しかし"俺"は俺の中から消えることはなかった。俺の中から出でた闇は、俺自身の手で消し去ることはできなかった。

 

 ──頼む……誰か……この闇を消してくれ……。

 

 自分ではどうすることもできないまま絶望の中へ沈もうとしていた、その時だった。

 

 

 

 

 ──鉱芽さんっ。

 

 

 

 

 初めて"俺"じゃない誰かの声が闇の中で木霊した。

 

 

 

 ──────────────────────―

 

 

 

「よう……ことり」

 

 

 気が付けば鉱芽さんの前に立ち塞がっていた。ようやくみんなを見つけられたと思えば、絵里ちゃんと真姫ちゃんはずぶ濡れで道路に膝を付いているし、立花さんはボロボロで今にも黒い鎧武──恐らく鉱芽さんによって斬りかかられようとしている。その上、知らない男の人がその様子を楽し気に見ていた。だから状況なんてまるで分からなかった。

 

 でも、こんな私にも一つだけ確かだと思えることがある。

 

 それは、鉱芽さんが苦しんでいるということ。

 

 それだけは感じることができた。

 

 

「やっぱ邪魔だなお前。今もこれまでも」

 

 

 今まで聞いたことのないほどの恐ろしい声が私の胸を突き刺す。仮面で見えていないけど、きっと今の鉱芽さんは私に冷たい目を向けているのかもしれない。

 

 ──怖い。ただただ怖い。

 

 そう思ってしまった。これは、私の知る鉱芽さんじゃないのかもしれない。これが本当の鉱芽さんなのかもしれない。

 

 ──ううん、それでもっ。

 

 

「鉱芽さん。私、鉱芽さんの闇も、絶望も、全部受け止めるって言いました。今でもその気持ちに変わりはありません。今の鉱芽さんが抱く不満も、恐れも、重荷も……全部一緒に抱えるって」

 

 

 それでも、もう一つ言えることがある。今の言葉を聞いて確信したことが……。

 

 

「でもっ、今の鉱芽さんは自分に嘘を付いていますっ!」

 

 

 私の叫びに、鎧武の身体が一瞬震えた。そして次第に鉱芽さんの声にも怒りの色が灯っていく。

 

 

「嘘……だと? 何トチ狂ったことを言いやがる。こいつ等にも言ったがお前にも教えといてやるよ。これが俺の本心だってな。俺は誰かに頼られることに疲れ果てた。でも、もう誰にも縛られない。俺は、俺だけのためにこの力を使う。他人なんかどうだっていい……そんな自分に気付けたんだよ」

 

 

 怒りに染まっていた声はいつしか快楽へと変わり、高らかに声を上げる鉱芽さん。でも、違う。それは絶対に鉱芽さんの本心じゃないって私の心は叫んでいた。鉱芽さんの自分に酔ったような語りに負けないように、私も鉱芽さんに想いを伝え続けた。

 

 

「私を助けてくれたあの日、鉱芽さんは言ってくれました。『感情は嘘を付かない』って」

 

「よくそんな昔のことを……」

 

「鉱芽さんの言葉は正しかったって思っています。だってあの時、鉱芽さんが抱いた気持ちも……『人が好き』だって気持ちも絶対に嘘じゃなかったから。だから鉱芽さんは今まで戦ってこれたんだって」

 

 

 あの時の言葉があるから、私は本当の鉱芽さんを信じられた。あの時、私の前で見せてくれた鉱芽さんは、本当の鉱芽さんだって知っているから。

 

 

「辛かったんですよね。周りからの重圧が。投げ出したくなったんですよね。今の自分を」

 

 

 確かに私たちの想いに対して辛くなっていたのも、本当の彼だと思う。

 

 

「でもっ、人が好きだって言っていた鉱芽さんも本当なんです! 自分を顧みず誰かを助けようとするのも、私が見ていた鉱芽さんなんです!」

 

「……」

 

「本当の鉱芽さんは、そんな他人を顧みない人じゃありません! 鉱芽さんの本心は、嘘で塗り固められた今のアナタの中にいるって信じています!」

 

 

 鉱芽さんの嘘……それは『他人なんてどうでもいい』と言う彼自身の言葉だった。鉱芽さんはいつだって誰かのため、自分を犠牲にして戦ってきた。でもそれは、鉱芽さんに人を好きだという想いがあったからこそ戦ってこられた。鉱芽さんはいつどんな時でも、自分を犠牲にしてしまう優しすぎる人なの。だからあんなにも苦しんでいたのだから。

 そんな彼が、今更他人を顧みないなんて到底考えられなかった。今の鉱芽さんは誰かに頼られるのが嫌だから、誰にも関わらないようにするため、自分を守るための嘘を付いていた。

 

 

「ック……ハハッ……ふざけんなッ! ああそうかよ! そこまで言いきるんなら嘘でもいいよ。でもよォッ! そんな嘘を付かずにいられないのも俺の弱さだろォが。嘘で塗り固めないと自分を保てない俺の弱さ、俺の闇だろうがよ!」

 

「……」

 

「だったら……この闇も受け止めてみろよォ!!」

 

「いいよ。全部受け止める」

 

「っ!?」

 

 

 鉱芽さんの挑発も私は躊躇いなく受け入れた。

 

 だって、覚悟はできていたから。

 

 鉱芽さんがどんなに変わり果てたとしても、彼を受け入れるって覚悟を。

 

 

 

 

「鉱芽さんの闇をこの身で受け止める。それが私の覚悟だから。だから鉱芽さん……その刀で…………私を斬って!」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「ことり!?」

 

「何を」

 

 

 私の大胆にも思える挑発に、その場にいた全員の驚愕を含んだ声が辺りに響く。でも今の私には鉱芽さんしか見えていない。彼の声しか聞こえなかった。そして、鉱芽さんも私しか見ていなかった。

 

 

「鉱芽さん、覚えていますか? 去年、鉱芽さんに初めて助けられた時、鉱芽さんは怯えていた私に『大丈夫』って言ってくれたんですよ。そして、二度目に会えた時にも鉱芽さんは言ってくれました、『大丈夫』って。ただそれだけの話です……でもっ、その"それだけ"が私を励ましてくれたんです! 怯えるだけの私に、すごい勇気をくれたんです!」

 

 

 一度目は約一年前、私がまだ一年生だった時の……二度目はμ'sを始める直前の出来事。どっちも状況は同じだった。インベスに怯える私の前に彼が立ち塞がって、私を励ましてくれた。勇気を与えてくれた。『大丈夫』……たったそれだけの言葉に、私は心が温かくなるのを感じたの。

 

 

「だから、私は鉱芽さんに憧れました。あんなにも輝いていて、強く自分の存在を刻み付けて、誰かに勇気を与えてくれる……そんな存在に私も変身したくなったんです。私はそんな強い鉱芽さんが好きになったんです!」

 

 

 スクールアイドルを始めたのだって、穂乃果ちゃんの影響だけじゃない。あの時見た彼に……私が憧れた強い彼に近付きたくて、自分を変えたかったから。

 

 ──私も鉱芽さんみたいに誰かに勇気を与えたかったから!

 

 

「やめろ……俺はそんな……強い、人間じゃない」

 

「鉱芽さんは弱くなんかない! 鉱芽さんはいつだって強くて優しくて、勇気を与えてくれる、私のヒーローですっ!」

 

「っ……」

 

 

 だから私は叫んだ。私が信じてきたヒーローは、とても強くてかっこいいヒーローだって。

 

 私が信じている人は、今も昔も目の前に居るアナタだって!

 

 

「だから……私は鉱芽さんを信じてます。今までも……これからもっ。だから鉱芽さん、私を信じて……私を……私を見てっ! 鉱芽さんっ!!」

 

 

 例えその結果がどうなったとしても、私は鉱芽さんを諦めない。

 

 嘘を付いてもいい。そんな嘘をつくのも本当のアナタだから。

 

 闇を恐れていい。それも全部アナタだから。

 

 私は、どんなアナタも受け入れます。

 

 

「俺は……っ……」

 

 

 鎧武は私の目の前で、その刀を振りかざした。

 

 

「っ……ぅう……ゥアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

「「ことり!!」」

 

「南さん!!」

 

 

 そして、その刀を振り下し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 刃は、私の目の前で止まった。

 

 

「鉱芽さん……」

 

 

 気が付くと、その鎧の黒色が抜けていくのが見えた。消え去ったというより、鎧の中へ吸い込まれていくように闇は彼の表面から見えなくなっていく。やがて彼の身体は、いつもの見慣れた紺色と檸檬色へと戻った。

 そして鎧武──鉱芽さんは刀を落とし、私を抱きしめた。しっかりと、でも私を傷つけないように丁寧に。鎧を挟んでいるはずなのに、私には彼の温もりと、鼓動が感じられた。

 

 ──戻ってきた……鉱芽さん……。

 

 彼に抱えられる腕の中、私は感じた。嘘で塗り固められた彼自身も、相手を拒絶する壁もなくなった、本当の鉱芽さんが。私もそんな鉱芽さんをこの腕で受け入れた。

 

 

「ありがとう、ことり」

 

「だって、言ったから……信じてるって……」

 

「お前は強い……俺なんかよりも……ずっと」

 

 

 温かく優しくて、力強い鉱芽さんの声に胸が熱くなる。

 

 やっと戻ってきた鉱芽さんをずっと抱きしめていたかった。

 

 ずっと感じていたかった。

 

 もう二度と離さないと言わんばかりに、私は彼に寄り添っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な……っ!」

 

『ダークネスアームズ! 黄金の果実!』

 

『ダークネススカッシュ!』

 

 

 しかしその時、冷酷な男の声とともに不気味な電子音が木霊した。私を抱きしめる鉱芽さんの後ろを見て、私は戦慄した。男が見た事のないアーマードライダーに変身して、その剣から無数の黒い林檎のような光弾を作りだしていた。鉱芽さんもそれに気付いたのか、私を突き飛ばし、そして──

 

 

「ことりっ! ゥグア゙ア゙ア゙ア゙アアアアアアアアアッ!!」

 

「鉱芽さぁぁぁぁん!!」

 

 

 私の盾となって無数の光弾の前に身体を晒した。無防備な身体で私を庇い、全ての攻撃を受けて鎧武の変身は解除される。そして光となって消えていく鎧と共に、ボロボロで傷だらけの鉱芽さんが現れた。

 

 

「っぐはっ……ぁ……」

 

「鉱芽さん! いやっ! 鉱芽さん!! 鉱芽さんッ!!!!」

 

 

 力なくうつ伏せに倒れ、水しぶきと共に地に堕ちていく鉱芽さん。ようやく掴めた彼が消えていく様が信じられずに、全力で否定するように彼に縋り、必死で彼の名前を呼んだ。しかしいくら名前を呼んでも、鉱芽さんは目覚めなかった。

 

 

「うそ……だよね……鉱芽さん……起きてください! 鉱芽さん!!」

 

「葛木鉱芽。南ことり。お前たちは危険だ。今この場で消し去ってくれる」

 

 

 男の声も私には届かない。腕の中で抱きかかえる彼しか胸中になく、その他のどんなことすらも見えなかった。しかしいくら叫んでも答えない鉱芽さんに、私の身体に込めた力がどんどんなくなっていくのを感じた。気力が、希望が、泡のように消えていきそうだった。

 

 

「ふんっ。しかし無様なものだ葛木鉱芽。結局他人のために自らを差し出すしかなかった愚か者の末路というわけか。やはりお前は弱いままだ」

 

「っ……こう、が……さん……」

 

「南ことりに至っては戦う力を持たぬどころか、攻撃するという手段すら取れぬ愚か者だというのに、声だけを張り上げる。そして力の無い者が出しゃばった結果がこれだ。全く……どいつもこいつも弱すぎる。お前も、そこの女も。所詮は弱者でしかなかったというわけだ」

 

 

 ──ピクッ

 

 

「えっ?」

 

 

 しかし今度は男の声に反応したのか、鉱芽さんの指が僅かに振るえた。その震えは指から手へ、手から腕へ、そして全身へと広がっていく。やがて、その重かった身体に力が宿っていくのが肌で感じられた。

 

 

「もう一度……言ってみろ……」

 

「ほう。まだ立ち上がるか」

 

「今の言葉……もう一度言ってみろっ」

 

 

 震える脚で立ち上がった鉱芽さんは、私の静止も意に介さず、ゆっくりと黒い武者へと向かっていく。黒武者もそんな鉱芽さんがどうにかできると思っていないのか、何も行動することなく、ただじっと鉱芽さんが近づいてくるのを見つめるだけだった。

 

 

「ことりが……」

 

「ふん」

 

「ことりが……」

 

 

 声も、足並みも、どんどん大きくなっていく鉱芽さん。

 

 私の名前を呟き続け、やがて歩くことを止めて駆け出した。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

「弱いだとぉぉぉぉぉッ!!!?」

 

「ンブゴハァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 ──彼の拳が、黒武者の顔面に突き刺さった。

 

 

 

 ──────────────────────―

 

 

 

「ぅっ……っ? っ、ぁぐ……?」

 

 

 己の頬を抑え、コウガネは信じられないと言わんばかりに揺れていた。息が荒くなり、ガタガタと音を立てて震え、鎧越しでも分かるくらいに目に見えた大きな動揺だった。

 

 

「な……何が……何故神たる私に、お前のような奴が……っ!?」

 

「知るかそんなもん。そんなことはどうだっていい」

 

 

 こいつに拳が届いた理由の解明など今はどうでもよかった。

 

 俺の身体を好きに変えてくれたことは許せねぇ。

 

 その所為でみんなを傷つけたことは許せねぇ。

 

 だが何より……ことりを……。

 

 俺を見つけてくれたことりを……っ。

 

 

「弱いって言ったな……」

 

「……」

 

「ことりをっ、弱いって言ったなぁ!!」

 

 

 そう言い切ったこの男を絶対に許せなかった。

 

 

「ふふ……っ、ハハハハハハハッ! ……何をほざくかァ!!」

 

「ふっ!」

 

「ぬぅぅっ! そうか……貴様、私の力を取り込んだか……っ」

 

 

 生身の俺に紫の大橙丸を振りかざしてきたコウガネに、俺はすぐさま接近して組み手に移る。今まで攻撃を与えられなかった状況を覆せた理由の所説をコウガネは口走るが、俺にとっては然程問題ではなかった。コウガネの腕を抑え込みながら、俺はコウガネに吠え叫ぶ。

 

 

「ことりは強い! 俺やお前なんかよりも、ずっと……ずっとなっ!!」

 

「解せぬなァ。神たる私が、何の力も持たぬただの人間に、あんな小さな存在に劣る理由がどこにある!」

 

「今の俺を見ても! 何の力も持たないって言えるのかよ! ぅらぁ!!」

 

 

 俺にはことりの声が届いた。闇を恐れ、拒絶していた俺を、彼女はその闇ごと受け入れてくれた。そんなこと、俺にはできなかった。闇も本当の自分だと認めるなんて考えもしなかった。だけど、ことりの声のお蔭で俺は気付くことができた。この闇も俺なんだと。俺もこの闇を受け入れるべきなんだと。俺を受け入れてくれたことりのように……。

 

 

「ぅぐっ……っ、確かにな……だがそこまでだ。所詮、大いなる力の前には無力なもの。力なきものは所詮弱者でしかない!」

 

 

 コウガネに肘射ちを入れ、奴は数歩後退する。しかしその口は減る事を知らず、彼女が強者であることを認めようとしない。コウガネの強さの基準は、単純な"力"でしか測れないようだ。

 

 

「違うっ!! 強さは力の証明なんかじゃない!」

 

 

 だから俺は叫ぶ。奴の悲しき基準を否定するように。己の信じる強さを叫ぶために。

 

 

「本当に強い奴は、笑顔が優しい」

 

 

 俺を受け入れると言ってくれた時のことりの笑顔を浮かべて──

 

 

「本当に強い奴は、誰かを元気にする!」

 

 

 ステージで踊ることりを、俺を励ましてくれたことりを浮かべて──

 

 

「本当に強い奴は、心砕けた奴をも立ち上がらせる!!」

 

 

 闇に囚われた俺の心を救いだしてくれたことりを浮かべて──

 

 

「誰かを励まし、勇気を与える力。それが本当の強さだっ!!!!」

 

 

 俺は吠え叫んだ。ことりの強さを、俺の信じた強さを奴に刻みつけるために。この強さを証明するために。

 

 

「小癪なァァッ!」

 

「うらぁッ!」

 

「んぐっ!?」

 

 

 怒りに燃え斬りかかるコウガネの刃を躱し、胸に一発お見舞いする。よろけるコウガネに向かって、更にもう一発拳を突き刺す。

 

 

「オラァッ!!」

 

「ぅおッ!?」

 

「もう一丁ッ!!」

 

「ぐゥゥッ!!」

 

 

 最後に拳を顔面にぶつけ、コウガネは地面へと倒れ込んだ。俺の怒りを全て乗せた一撃に殴り飛ばされたコウガネは、怒りに震える身体を持ちあげてゆっくりと立ちあがる。もはや言葉すら発さなくなったコウガネの、内なる怒りと憎しみは相当なものだろうと感じた。

 

 しかしそれまでだ。

 

 俺の怒りは、ことりの強さは、そんなものの前では無力だということを教えてやる!

 

 

「ふっ」

 

 

 そして俺は懐から最後のロックシードを取り出した。

 

 決して使うまいと決めていた、憎き敵の力。

 

 闇の力が宿った、相容れないはずの力。

 

 でも……俺はもう闇を恐れない!

 

 俺も闇を受け入れる。コイツも受け入れる。

 

 俺を受け入れてくれた、ことりのように……!

 

 

『カチドキ!』

 

 

 そして、新たな力の鍵が開けられた。




次回、「無双! カチドキアームズ!」

ご期待ください。
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