闇の中に囚われて苦しむ鉱芽。しかしそこへ、彼の闇ごと全て受け入れるということりの声が届き、鉱芽は己を取り戻すことが出来た。そしてコウガネに対し己の信じる強さ、ことりの強さを吠えた鉱芽は、新たな力を解き放つのだった。
待ちに待ったあのアームズが遂に登場です。
それではどうぞ。
挿入歌:Rise Up Your Flag
「っ……ここは……?」
ロックシードを解錠したはずの俺の眼前には、暗闇が広がっていた。そこに先程までの街の景色は無く、どこまでも暗い深淵が俺を包み込んでいた。しかしそれは俺自身の闇とも違っていた。ことりに助け出されるまで味わっていたそれに比べ、ここには重く苦しいものがなく自然体でいられた。良くも悪くも、何も感じなかったのだ。
『また会えたな、葛木鉱芽』
その時、背後から聞こえてきた低い男性の声に反応して振り返ってしまう。忘れたくても忘れられない、憎たらしい声。過去の俺の怒り、憎しみ、悲しみを全て奪い去っていったコイツの名は……。
「……
しかし今俺の目の前にいる存在は、紛れもない俺──葛木鉱芽の姿をしていた。『武神鎧武』と呼ばれたソレは不敵に笑みを浮かべると、ほんの一瞬だけ赤いオレンジアームズの鎧武の幻が、彼を覆うように浮かび上がった。そして俺の姿をした武神鎧武は、俺とは似つかないニヒルな笑みを浮かべたまま語り掛けてきた。
『貴様がいつそのロックシードを使うのか待っていたが、随分と時間がかかったようだな』
「お前の力なんて使ったら、どうなるか分かったもんじゃなかったしな」
『ふん、言ってくれる』
そう、忘れてはならない。コイツこそが亮ちゃんを死に追いやり、そして真姫やツバサにもその刃を向け、俺のセカイを壊そうとした張本人なのだ。今でもコイツが俺の姿を模して目の前に立って居るだけでも虫唾が走る程の嫌悪感を俺に抱かせるほどだ。
俺がこのロックシード──カチドキロックシードを使いたくなかった理由は単純だ。亮ちゃんを消したコイツの力を使いたくなかったから。過去のトラウマ、そしてコイツに抱いた憎悪に再び飲まれるのが怖かったから。
俺は闇に触れることを恐れていたのだ。
『だが──』
「闇から逃げちゃダメなんだ。闇をも受け入れなければいけない。だからお前の力も、俺は受け入れる」
『……』
しかしことりの強さを目の当たりにした今だからこそハッキリと言える。闇は恐れてもいい。しかし逃げたり抑えつけるんじゃなく、闇も自分の一部だと認めて受け入れるべきなんだ。ことりが俺の闇を受け入れてくれたように、俺も自分の闇を受け入れなければならない。
「この闇も全部、俺自身なんだから」
武神そのものではなく、武神を恐れる俺の心。それが俺の闇だ。俺はその闇をも受け入れるべきなんだ。それが分かった今だからこそ、俺はこの力を使える。武神を受け入れることができる。
そして──
『葛木鉱芽。貴様は今でも私を憎むか?』
「……」
その時、ふと問いかけられた武神の言葉に俺は一瞬黙り込んでしまう。しかし言うのは簡単なのだ。「お前が憎い」と。数日前の自分ならすぐにその答えが出たであろう。
確かに俺はコイツが憎い。憎かった。この手で消し去り、記憶の中だけの存在になった今でさえも、腸が煮えくり返る程に……。
──絶対に許さない。
その言葉が常に脳を支配していたほどに、俺のセカイを壊した武神を恨んでいた。闇に再び飲まれるはずだった。
そのはずなのに……。
「なんか……懐かしい」
『ほぉ……』
今ではどうだろうか。憎しみよりも先に、懐かしさと、そして哀れみが感じられたのだ。
「受け入れるなんて言ったけど、やっぱりお前を許せないのは今でも同じだ」
『だろうな』
「だけど、ミッチを見て少し思ったんだ。お前は何の為に戦っていたのかって」
『……』
ミッチは記憶を取り戻してからは多少なりと俺を恨んでいた。亮ちゃんを救うどころか、その彼女を手にかけた俺を。だけどアイツは、戦いの中で俺の気持ちを理解してくれた。俺がどれだけ絶望を味わい、それでも戦い続けたのかを、自分の憎しみを他所に考察してくれていた。ミッチは自分の正義を持ちつつも、相手の正義にまで考えの及ぶ人間なのだ。俺よりもずっと……心の強い男だ。
だから俺も考えた。俺のセカイを壊そうとした武神の正義を。彼が願っていたことを。
『私は……』
「前にも言ってたよな。『自分が本物になる』って。あれ、もう一度教えてくれよ」
『私……いや、俺の目的、それは自身の証明。そして自己の獲得。すべては貴様を倒した先にあるものだ。ああ、あるものだった』
「それがお前の正義、か」
『うむ』
以前にも俺は武神鎧武からその目的を聞いていたはずだった。彼がロックシードとして親父に造られたのは、俺のために吸収され、最終的に消えていく運命を辿るため。その運命に抗うため、生きるため、彼は俺を飲み込むために戦いを選んだ。そう、彼は生きたかったのだ。しかし目の前の敵を憎むことしか頭になかった俺は、そんな言葉を認めずに一蹴し、戦うことのみを選んだ。俺は、生きるために戦おうとする彼の意志を決して認めなかった。武神鎧武とは、戦極岳斗が作り上げた最悪のロックシードの意識が具現化した存在。しかしある意味で俺の対になる存在でもあったのだ。
武神鎧武も被害者だったのかもしれない。彼の生きたいという願い、そこには俺と何ら差異はなかった。ただ、その戦いに人を巻き込むか巻き込まないかの違いがあるだけだった。
「全て……親父の……」
だからこそ、彼を生み出した全ての元凶とも言える親父への憎しみが言葉となって漏れてしまう。彼がブラッドオレンジロックシード……武神鎧武さえ生み出さなければ、亮ちゃんも死ぬことはなかったというのに。
しかし俺の肉親への恨みは、意外な形で発散されることとなった。
『しかし戦極岳斗が俺を生み出したことと、俺が貴様を倒そうとしたことはまた別だ』
「えっ?」
親父は関係ないという武神の言葉に呆気に取られてしまう。突然の新情報に理解を超えて混乱している俺を他所に、武神は言葉を続ける。
『そもそも俺はただのロックシード──モノとして生み出された。意志など持たぬ存在だった」
武神鎧武の本体──ブラッドオレンジロックシードは、元々俺の持つフレッシュオレンジロックシードと一つになる計画で親父が設計したものだった。流石の戦極岳斗も、消えゆくだけの存在に意志を与えるような真似はできなかったようだ。
──意志?
「(……いや待てっ。そもそも"意志を与える"だって? それってほとんど命を与えて……生命を生み出しているようなものじゃないか!?)」
いくら戦極ドライバーを発明した親父だってそんな事ができるはずがない!
そう、俺はそもそもの前提から間違っていたのだ。俺のセカイを壊した
「じゃあ今のお前は……?」
『そこに意志を──命を吹き込んだ存在がいたのだ。戦極岳斗が作りだした、このロックシードに』
「それって……」
武神鎧武の言葉に一瞬言葉が詰まるも、既に俺は一つの過程を導き出していた。それはμ'sを狙い、裕太君を死に追いやり、執拗までに俺たちの心を弄んだ存在。
『本当はもう分かっているのだろう? というより、感じているのだろう?』
考える必要なんてなかった。それは今もなお、俺と対峙していた存在なのだから。
「コウガネ……ッ!」
『……』
武神は溜めもせず頷く。黒幕が分かった今、俺の握る拳は震え、今にも感情を爆発させそうになるが、それを遮るように武神鎧武は己の身の顛末を語る。
『奴によって自我を得た俺は、自身の運命を自覚し、恨んだ。そして貴様を絶望の淵に叩き落として、代わりに俺が飲み込み、俺自身が葛木鉱芽になろうとした。まぁ……もう叶わぬ野望だがな』
「……なぁ、アイツは一体何者なんだ? 自在にクラックを操ったり、お前に命を与えたり……まるで神じゃないか」
『そうだ。神の力だ』
武神は億劫もなく答える。まるで当たり前と言わんばかりに、神などと軽々しく口にした。アイツ自身が自称していた『神』が、まさか本当のことなんて……。
「神……? まさか……」
『神"そのもの"ではない。あくまでも神の"力"だ』
「? それってどういう……」
『いずれ分かる時が来る……まあ、どうせほとんど朽ち果てているがな』
何の躊躇いもなく俺の質問に答えてくれた武神も、その質問に対してだけは言葉を濁した。
『しかしアレは生けるものではない。むしろ生きとし生けるもの全てを蔑む存在だ。俺はそんな奴を"神"などとは認めん! それは貴様も同じであろう、葛木鉱芽』
「ああ。あんなふざけた三下が神だと? 寝言は寝て言えってんだ」
この時初めて、俺と武神の意見が一致したかもしれない。かつては互いに憎みあい、敵対した者同士の奇妙な一体感がこの暗闇の中で感じられた。心なしか、俺を模した武神の表情が一瞬ニヤリと笑みを浮かべた気がした。
『ならば勝てっ。俺の未来を奪って得たその身だ。負けることは俺が許さん』
「言われなくても、アイツにだけは絶対に負けない……っ」
『それでいい……』
それだけ伝え、彼の身体は青いスーツと赤い鎧に包まれ、宛ら鎧武のようなアーマードライダーへと姿を変える。血のように真っ赤に染めたオレンジアームズ、真っ赤な前立てにパルプアイ。俺の変身する鎧武とは僅かに違う点が見受けられるが、その力量は全くの別物である。
彼こそ武神鎧武。
武神鎧武 ブラッドオレンジアームズ
かつて俺を苦しめた、憎き鎧武者の姿がそこにあった。
『葛木鉱芽。俺と貴様、もう会うことはないだろう』
「ああ、そうかい。そりゃよかったよ」
俺たちの会話もここまでなのだろう。武神の言葉からその意図が伝わる。
しかし会うことはない、かぁ。ま、ロックシードを解錠するたびに現れては鬱陶しい事この上ないし、俺としては万々歳だ。
やがてその輪郭がおぼろげになり、消え始める武神鎧武。彼は最後にこう俺に伝えた。
『最後まで勝ち抜け。それが勝ち残った者の義務だ』
それだけ告げると、武神の姿は消え失せ、暗闇に光が灯り始めた。
『今回だけ力を貸してやる。存分に暴れるがいい』
その言葉と共に、俺の身体は眩しい光に包まれた。そして──
──────────────────────
「……っ、おらぁ!」
現実へと意識が戻った鉱芽は再び視線を目の前の敵へ向けると、ロックシードをドライバーに装填し、拳で力強くロックパウを押して施錠した。
『ロックオン!』
その電子音と共に空中にクラックが現れる。そこから降下してきたのは、オレンジを模した球体。しかしオレンジアームズより一回り大きく、各所にボルトが止められているような装飾が施されていた。
「むっ?」
「……」
怪訝な表情でその様子を眺める邪武──コウガネを無言で見つめ返す鉱芽。ロックと法螺貝の奇妙なミックスサウンドが場を支配する中で、静かな緊張感がそこにあった。
そして鉱芽は……カッティングブレードを下した。
『ソイヤ!』
勢いよく降下していくオレンジの球体。オレンジが鉱芽に降り立った瞬間、彼の身体に鎧武の紺碧のライドウェアが装着され、球体は展開を始めていく。オレンジは今、武者の身体を……そして彼の大切な人を護る最強の鎧へと姿を変えた。
与えられし勇気は不屈の焔となりて、今まさに彼に宿ったのだ。
『カチドキアームズ! いざ出陣! エイエイオー!!』
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
彼は吠えた。
身に余る程の強大な力を受け、それを発散せんと力強く吠えた。
腕に、腹に、脚に、己を構成する全身にありったけの力を込めて、大地を震わさんと彼は吠え叫んだ。
その瞬間、鎧武者を中心に輝きが弾けた。そして輝きは突風を巻き起こし、突風は彼らを中心として雨雲を消し飛ばした。
「きゃっ!」
「っ、雲が……」
溢れ出した強大なパワーの余波によって消し飛んだ雲の合間からは、輝かしい陽の光が差し込み、誕生した武者の姿を神々しく、荘厳に照らし出していた。その場にいる誰もが、この新たな姿の鎧武に目を奪われていた。
その鎧武、即ち一人
兜に備わった飾りにはいつもの三日月形の前立ての他、かの徳川家康公の歯朶具足を想起させるカチドキブレードが追加されている。側面を保護するかつてのリバーサルアームも、より戦国武将の兜のようなカチドキリバーサルへと変化しており、クラッシャー上部に髭のようにも見える装飾も追加され、繋がった一つの目であった鎧武が、今は二つの複眼を持つようにも見える。
鎧も今までのアームズでは上半身だけの装甲であったのが、今では下半身を保護する装甲──カチドキブロックまで追加され、今の鎧武のより堅牢な防御、そして異質さを物語っている。
そして何よりも特徴的なのが、背後に立てられた二本の旗──カチドキ旗。天高く掲げられたオレンジ色の二本の旗にはそれぞれ鎧武の紋章が描かれており、正しく出陣する武将の軍旗そのものであった。
故に繰り返し告げよう。この鎧武、正しく一人戦也。
そして新たに誕生したこの鎧武こそ、堅牢で破壊的、美しくも婆娑羅、そんな矛盾を孕みてなお揺らぐことのない凛とした意志を諸人に示す、嘗て無き荘厳なる超強化形態──
仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ
「ここからは俺のステージだ」
鉱芽は……鎧武は静かに始まりを告げた。
「貴様ァァァァァ!!」
「「「ギュルルルルルルル」」」
コウガネが吠えた途端、鎧武の周囲に彼らが幾度と対峙したイナゴ怪人が六体も出現した。一体でもとてつもない力を持つことを知っている道行たちはその戦力の大きさに息を飲む。しかし鉱芽は決して狼狽えはしなかった。依然、その威風堂々とした姿勢を崩すことなく、コウガネと怪人たちを睨みつけていた。
そしてイナゴ怪人の軍団が全て蝗の群れに分裂し、蠢く闇となって一斉に鎧武へと飛びかかった。
「鉱芽さん!」
「ふっ、ぅらああああああぁっ!!」
「「「ギュルァアァァァア!?」」」
「何っ!?」
四方から囲むように襲い掛かった蝗の群れに対して鎧武がとった行動は、背中にかけられた二本の旗を手に取り、旋風を巻き起こすように豪快に振り回すことだった。そして鎧武の旗──カチドキ旗によって起こされるのは疾風ではなく、高温の熱風であった。熱風に巻き込まれた蝗の群れは、水たまりを一瞬で蒸発させ、アスファルトの表面をも一瞬で溶かす程の高温の熱波に耐えきれず、その全てが跡形もなく焼き尽くされた。
「馬鹿な……」
「凄い……」
相当の数の蝗がたったの一振りの旗で燃え盛り、塵となって無に還ったのだ。想像を超える威力を目の当たりにコウガネは息を飲み、道行は感嘆を漏らす。しかし鉱芽は決してコウガネへの意識を弱めない。むしろ、一歩一歩コウガネに近づくにつれ、彼の内に燃える炎もまた大きくなっていった。
「コウガネ、次はお前だ」
「ぐぅぅ」
「裕太君を怪物に変えやがって……」
もう二度と見ることのできない快活で無邪気な笑顔を思い浮かべ──
「みんなを傷つけやがって……」
自分の心を弄び、結果として傷つくこととなった背後の仲間たちを思い浮かべ──
「ことりを弱いって言いやがって……」
自分を受け入れてくれた強い少女を思い浮かべ──
「お前だけは……ぜってぇ許さねぇ!!」
恥じることなく彼はコウガネに己の怒りを込めて吠え叫んだ。そしてカチドキ旗を投げ捨て、使い慣れた無双セイバーを片手に邪武へ駆け出した。
「許せぬのは私の方だッ! オオオオオオオッ!」
「ハァァッ!」
邪武もまた鉱芽への憎悪を叫び、鎧武へと駆け出した。そして激しい衝撃と閃光をまき散らして無双セイバーとダーク大橙丸は衝突した。しかしその衝突はそのまま均衡することはなかった。鎧武は振りかぶる自身を食い止めるダーク大橙丸へ更に体重を込め、彼は無双セイバーを振り切ったのだ。
「ウラアアアッ!!」
「んぐふッ!?」
「オラァ! オラオラオラオラオラァッ!!」
「ゴフッ! グッ! グオッ! ガァッ!?」
そして追い打ちをかけるように、彼は無防備な邪武の身体へ何度も刃を振るい続けた。右へ左へ上へ下へ、決して反撃の隙を与えぬ神速の剣劇が繰り広げられる。それこそ正に"乱舞"というに相応しかっただろう。
「オウラァ!」
「グルォァアアッ! ……ぐぐ、おのれェ……!」
腹部に蹴りを入れられて大きく吹き飛ばされ、邪武はようやく剣舞から解放される。しかしその体力が尽きることはなく、邪武は更に鎧武と同じ無双セイバーを出現させ、ダーク大橙丸と連結させた。ナギナタモードとなった無双セイバーを片手に、その声により憎しみの色を増やしながら、邪武はドライバーのカッティングブレードを操作する。
『ダークネススカッシュ!』
「死ねぇ!!」
先程鎧武たちを襲ったそれとは比べ物にならないほどの数の光弾が生み出され、一斉に鎧武に放たれる。しかし鉱芽はそれを避けようとも、打ち消そうともしなかった。彼は、その光弾に向かって堂々と前進を始めたのだ。やがて林檎の光弾が鎧武を襲い、けたたましい轟音が辺り一面を包み込んだ。
「鉱芽さん! ……え?」
「何ッ!?」
「……」
しかし鎧武は顕在していた。煙の晴れた先に、未だ前進することを止めない鎧武者の姿がそこにあった。
「な、何故だ……っ」
「……」
「ぐぐっ……くっ……葛木鉱芽ァァァァァッ!!」
いくら攻撃を食らっても足を止めぬ鎧武の姿に、コウガネの脳裏に恐怖と言う単語が過った。しかし彼はそれを否定する。神たる自分が何故このような存在に恐怖せねばならないのか。何故自分に恐怖という感情が芽生えたのか。その疑問は彼にとって屈辱以外の何物でもなかった。故にコウガネは怒りのままに鎧武へと斬りかかった。向かってくる葛木鉱芽が怖かったのではない、この手で葛木鉱芽を滅ぼすために、と自分に言い聞かせて。
「グアアアッ!!」
「ふっ!」
今までよりも更に速度の増した邪武の攻撃に、鎧武は僅かに身体を逸らして無双セイバーでガードした。またしても攻撃を塞がれたことにコウガネは仮面の奥で歯を噛みしめる。しかしその時コウガネは気付いた。自分の全身を込めた攻撃を防いでいる鎧武の無双セイバー、それを握る手が片手だということに。どこまで自分を虚仮にするのかと更に怒りをぶつけそうになるが、そこで思考を中断せざるを得なくなった。
「貴様ッふざけたゴブッ!?」
「ふざけてんのはお前だろ」
いきなり腹部を襲う強烈な衝撃に邪武は吹き飛ばされ、何度もアスファルトの上を転がった。一体何が起こったのかと、鎧武の方を見てすぐにその正体が分かった。鎧武の無双セイバーを握る手の、その反対の手に見た事もない武器が握られていたのだ。
それは巨大な銃だった。大砲の如く広大な銃口に両手持ち前提の持ちてが成されている巨大な銃。しかし銃身に円状のテーブルが備わったり、橙色のレールが走るデザインが目立つそれは、やはりそれが異界の力の込められた武器であることを表わしているようであった。カチドキアームズと同様に堅牢な造りの巨大な銃身は、現在の荘厳な鎧武と恐ろしく調和が取れている。
これぞカチドキアームズのアームズウェポン──火縄大橙DJ銃。
彼の想いを
「何が神だ」
彼は立ち上がった邪武へゆっくり歩み出す。
「何が俺を救うだ」
散々虚仮にしたのはお前の方だと言わんばかりに、鉱芽はコウガネへ言葉を畳みかける。
「お前は神でも救世主でもねぇよ。ただの馬鹿だっ」
「黙れェェェェェェェェッ!!」
『ダークネスオーレ!』
呆気からんとした鉱芽の侮辱に我慢ならなくなった邪武は、再びドライバーを操作する。今度は無数の小さな光弾ではなく、一つの巨大なエネルギー弾を作りだした。闇に染まった巨大な林檎を模したエネルギーの塊は鎧武に放たれ、アスファルトを削りながら猛烈な勢いで迫っていた。
「ふっ」
すかさず鎧武は無双セイバーを火縄大橙DJ銃の銃口へと差し込んだ。そうすることでこの武器は新たな姿を手に入れる。銃の柄だった部分からオレンジ色の刃──大橙刃が出現し、銃身は一瞬のうちに巨大な刀身へと姿を変えたのだ。
これぞ無双セイバーと合体した、火縄大橙DJ銃〈大剣モード〉。
焔を纏い、
「ェヤアアアアアァーッ!!」
そして鎧武は巨大な刃を振るい、巨大なエネルギー弾を真っ二つに斬り裂いた。斬り裂かれた林檎は綺麗に消滅してしまい、その向こう側では呆然とする邪武の姿が鎧武の目に映し出されていた。自身の攻撃を全て無に還されて、しかし理由が分からず理解に苦しむ邪武の姿が。
「何故だ……」
「……」
「何故だ何故だ何故だァーーーッ!!」
そして無理解のまま、叫ぶがままに邪武は鎧武へ襲い掛かる。しかし鎧武は何も答えようとはしなかった。言っても無駄だから。言っても理解できないだろうから。
「ギィエ゙ア゙ア゙ア゙アアアアァァ!!」
『ダークネススパーキング!』
そして、次の一撃で全て終わるから。
『ロックオン!』
鎧武はドライバーから外したカチドキロックシードを火縄大橙DJ銃へセットした。そしてロックシードを中心に刀身全体にエネルギーが充満し、オレンジ色の刃に焔が集まりだす。狙いは一つ。全身に深い闇を纏い、禍々しく姿を変え向かってくる黒武者のみ。
『イチ! ジュウ! ヒャク! セン! マン! オク! チョウ! 無量大数!!』
──これで終わらせる。
彼は刃に祈りを込めた。
そしてその輝きが最高潮に達した時、鎧武は光の刃を振り抜いた!
『カチドキチャージ!』
「セイハアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!」
巨大な業火の刃──火縄大橙無双斬が放たれた。地を抉り、空気を飲み込み、空間を裂きながら進む高密度のエネルギーの刃が、闇ごと邪武を飲み込んだ。
「ヌゥグアアアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
光の刃の中で、コウガネは己の身体が消滅していくのを感じた。それでも、この手でやつを消し去る、神たる自分が敗北などありえない、と最後まで鉱芽への敵意と己への自信が消えることはなかった。何としても目の前の敵を排除するという執念がその意識を保たせていた。しかし崩壊していく自身の身体がそれを許さなかった。コウガネ自身、もはや憎悪の言葉を吠えるより他なかったのだ。
「(馬鹿な……何故私が……ッ)葛木鉱芽ァァァァァァァァァァァッ!!」
恨みの籠った断末魔を上げた後、一瞬目を覆う程の光を発し、邪武は爆発を起こした。衝撃波と突風が吹きすさび、削られたアスファルトや水しぶきが辺りに吹き散る。
それでも鎧武は動じなかった。邪武が爆散した場所を、煙が晴れるまで堂々とした体勢を崩さず立ち続け、ずっと睨み続けていた。やがて煙が晴れ、そこに何も残っていないことを鎧武──鉱芽は感じた。
「……ふっ」
短く息を吐き、勝負の決め手となった大剣を、汚れを飛ばすかのように軽く振るう。鎧武も、大剣も、いずれも傷一つ付かぬ清らかな姿のままであった。陽の光に煌めくオレンジ色が、その場において神々しく輝いていた。
そんな太陽が煌びやかに照らす鎧武者の姿を、道行とことり、絵里、真姫は息を飲んで見つめていた。そして彼らは悟ったのだった。
この戦い、鎧武の勝利であったと。
これにて書き溜めていた分の連続投稿は終了となります。
次回はまたしばらく間が空きますので気長にお待ちください。
それでは次回もご期待ください。
感想や評価、お待ちしております。
活動報告にて告知しているラブライダー小説企画の件もご一読ください。