ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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~前回までのあらすじ~
ことりの声で目覚めた鉱芽はカチドキロックシードを使用。武神鎧武との対話を果たした彼は、その力を纏いカチドキアームズへ変身した。雨雲を吹き飛ばし、身体から満ち溢れんばかりの輝きと共に顕現した鎧武は、圧倒的な力を持って邪武――コウガネを撃破するのであった。


お久しぶりです。あれから大分期間が空きましたが、覚えていますでしょうか?
それでは今回もどうぞ。


第84話 みんなと見る未来

 つい先ほどまで俺たちを巻き込んでいた激しい喧騒は嘘のように消え去り、辺りはひと時の沈黙に包まれる。久しく顔を出した太陽は癒すかのように、そして祝福するかのようにカチドキの鎧を照らし続けていた。

 

『ロックオフ』

 

 大切な人たちに背を向けたまま、俺はロックシードを閉じ、ドライバーから取り出した。そして手の中にある強大な力の源へと目をやる。しかしそこには先ほどまで感じていた“世界を変える”程の力はまるで感じられず、ただの無機質なオレンジ色のロックシードがあるだけだった。解錠する時に感じた“武神の力”も、綺麗さっぱり消え去っていた。

 

 

「(ありがとう)」

 

 

 そうロックシードに──武神に呟いた言葉は、実に穏やかなものであった。武神が最後に言っていた『一度だけ力を貸す』という言葉は、つまりは武神の本当に最後の置き土産だったのだろう。『コウガネを倒す』という目的の一致があったとは言え、武神は最後に俺に力を貸してくれた。コウガネを打ち負かすために、そしてことりたちを守るために力を貸してくれたかつての怨敵に、俺は静かに感謝の念を送るのだった。

 

 

「(あとは、俺自身の力で……)」

 

 

 武神の力は今消え去った。つまり、カチドキアームズを纏った直後に起きた雨雲をも消し飛ばす力の余波も、イナゴを一瞬で焼き尽くす焔も、コウガネを圧倒するほどの暴力も、恐らく今後の変身で使えることはないだろう。

 しかしそんなことは関係ない。たとえ今後コウガネと同等の力を持つ敵が現れたとしても、俺は彼女たちを守り抜く。守らなければいけない。決意の中で、俺はロックシードを懐にしまった。

 

 

「鉱芽さん」

 

「っ……」

 

 

 その時背後から聞こえたことりの声と共に、俺の身体は固く動かなくなってしまう。俺を救い出してくれたことりの声。その声に再び安堵して振り返ろうとして、そして思い出したのだ。背後にいるのはことりだけではないことに。彼女の後ろには、絵里と真姫、そしてミッチがいる。闇に囚われた俺が、自らの手で傷つけてしまった人たちも、共に俺の名を呼んでいた。

 

 

「鉱芽……?」

 

「鉱芽さん?」

 

「……っ」

 

 

 彼女たちに及ぼした蛮行について、俺はハッキリと記憶していた。光景だけでなく、自分の腕で絵里を投げつける感触も、真姫の首を絞め上げる感触も、そしてミッチを刃で斬りつける感触も、全て肌に残っている。それが間違いなく自分によって起こされた事象だという現実が、後から追って俺を突き刺していた。

 闇を自分のものにし解放され、コウガネを打ち負かしたことでようやく襲いかかってきた罪悪感故に、そのまま彼女たちに振り返ることができなかった。

 

 

「(俺はなんてことを……)」

 

 

 守りたいと願っていた人たちを今一度傷つけることになってしまった。なんて愚かなことをしてしまったのかと何度も己を責め立てる。しかしどれだけ自分を卑下しようが事実は変わらない。だから俺が今すべきことは自責の念を立てることでも、彼女たちに弁明することでもない。

 

 

「ごめん!!」

 

 

 振り向くと同時に膝と手を地につけ、額を地面に擦り付けるように大きく下げ、そして大声で謝罪の言葉を叫んだ。

 

 

「えっ?」

 

「ちょっ、鉱芽!?」

 

 

 突然の土下座に、皆の困惑の声を上げるのが耳に届く。みっともない姿だとは自分でも思っている。いや、それどころかまだ足りないくらいだ。彼女たちにしでかした仕打ちを考えれば、この程度のものでは何の償いにもならないと、俺自身収まりがつきそうになかった。

 

 

「お、俺……みんなにとんでもないこと……」

 

「こ、鉱芽、何もそんなに──」

 

「またっ……守りたかった人を傷つけて……もう俺、どう顔向けしていいか……っ」

 

 

 視界一面に映るアスファルトから目が離せないのは、彼女たちの顔を見ることができなかったから。身体中が震えているのは、彼女を見るのが怖かったから。

 

 

「ごめん……本当にごめん……っ」

 

 

 目を合わすことすらできないほど怯える俺を、彼女たちはどう見つめているのだろうか。またいじけてると情けなく思うのか、それとも先の暴力から恐ろしく思うのか。彼女たちの次の言葉があるまで、俺はその状態から一切動くことができなかった。

 

 

「はぁ……鉱芽……」

 

「……」

 

 

 呆れたような声色で俺を呼ぶ真姫にも何も答えることができず、ただ頭を下げ続ける。そんな俺をじっと見続けていたであろう真姫は……。

 

 

「……ふんっ」

 

「いっ!? ……っ?」

 

 

 次の瞬間、頭頂部に鋭い痛みが走った。叩かれたにしては痛みを追った箇所が狭すぎるため、恐らく指を弾いたのだろう。そして俺が痛みに反応している間に、真姫は俺の肩を持って無理矢理起き上がらせた。しかし、やはり彼女たちの顔を見るのが怖くて顔を背けてしまう。

 

 

「……こっち見なさいよ」

 

「真姫……ごめん……首、痕とか残って──」

 

「鉱芽が確認しなさいよっ、ほらっ」

 

 

 そう言って真姫は強引に俺の頭を持って自分へ向けた。それにはたまらず、俺は真姫の首元へと視線を向けてしまう。俺が先程絞め上げた、彼女の白かった首筋を。

 

 

「ちょっと、赤いな……まだ、痛むか……?」

 

「こんなのすぐに消えるわよ。心配なら少し触ってみれば?」

 

「えっ?」

 

「ほら」

 

 

 僅かに顔を赤らめて俺に触らせるように無防備に手を下ろす真姫。しかし俺はその首にすぐ手を伸ばすことができなかった。本当に触れていいのか。彼女の首を締めたばかりのこの手で、再びそこに触れてもいいのかと。そんな躊躇いが抜けなかった。薄く赤色に染まった彼女の首筋を見つめながら、俺はずっと燻っていた。

 

 

「っ……ああ〜もうっ! 焦れったいわねぇ!」

 

「ちょっ!? ……っ」

 

「アナタの考えてることなんて大体分かるわよ」

 

 

 しかし真姫の行動は早かった。俺の腕を引っ張り、自身の首に俺の手を当てたのだ。そして俺の手が真姫の首に触れた瞬間、何とも言えない安心感が自分の身体を走っていくのが感じられた。彼女の脈が、体温が、鼓動が、彼女の中に不安がないことを俺に伝えていたからだ。

 

 

「私は鉱芽のこと、怖いなんて思ってないから」

 

「真姫……」

 

「自分を怖がらないで。私たちを怖がらないで。鉱芽」

 

「っ」

 

 

 真姫の声が、胸の中の不安をかき消してしまう。酷い目に遭わされて、本当に何も感じていないのかという疑問すら無意味に思えるほど、真姫の瞳は真っ直ぐ俺を貫いていた。そんな真姫の肌が、声が、眼が、信じてくれと訴えかけてくるようだった。そこまでされて、どうして彼女の言葉を疑うことができようか。

 

 

「絵里も、ね」

 

「私はいつもの鉱芽が戻ってきてくれただけで十分っ。私も大丈夫だから」

 

「絵里……」

 

「私、もう鉱芽を拒絶したりしないわ」

 

 

 絵里の放つ声も、俺に向ける視線も、俺の中の錘を溶かしてくれる。罪悪感が全て消えるわけではないが、彼女たちが俺を何の咎めも無しに赦してくれることに、少しだけ救われるような気がした。

 

 

「鉱芽さん」

 

 

 肩を押さえ、傷ついた身体を庇いながら近づいてくるミッチ。拭ったつもりだろうが口からわずかに血が漏れており、押さえている肩の袖が破れ、赤く滲んでいる。投げ飛ばしたり首を絞めたりした絵里たちとは違い、俺は彼に対しては刃で斬ってしまっている。アーマードライダーに変身していなければ確実に死んでいたであろうほどの攻撃を俺から受けてしまっている。ゆえに歩き方が少しぎこちなくなっており、それを目にするだけで己の罪の深さを痛感してしまう。

 しかし俺の名を呼ぶ彼の声にはまるで棘がなかった。喧嘩した時とも慰める時とも違うその声色は、いつもと変わらない俺を呼ぶミッチの声だった。

 

 

「ミッチ……その、傷は……」

 

「こんなの大丈夫です……って言いたいところですけど、正直めちゃくちゃ痛かったです鉱芽さん」

 

「それは……」

 

「って冗談です。やっと本当の鉱芽さんが戻ってきてくれて嬉しいんです。それに比べたらこんな傷なんて、ってて……」

 

「ってやっぱり痛いんじゃんか」

 

「……えへっ」

 

 

 と、明らかに無理をしているのだろうが、俺のために笑顔を絶やさないミッチを見て、俺がこのまま腐れているわけにはいかなかった。

 

 

「よっ、と」

 

 

 俺は立ち上がった。ミッチが、絵里が、真姫が、ことりが、みんなが俺を心配してくれた。俺を想ってくれた。ここまでされて立ち上がれなかったら俺は男じゃいられない。

 

 

「ありがとう、みんな」

 

 

 

 

 だけど、これで終わりじゃない。

 

 

 俺にはまだやることがある。

 

 

 俺は見なければいけないんだ。

 

 

 

 

「行きましょう、鉱芽さん。私たちのステージ、見に来てくれますよねっ?」

 

 

 

 

 ──彼女たちのステージを!

 

 

 

 

「ああ……もちろん」

 

 

 

 ────────────────────―

 

 

 

 みんながコウガとともに音ノ木坂へと歩いていくのを、私は陰から見つめていた。

 

 最初からコウガのピンチに居合わせたわけじゃない。ミッチの後をつけてきて、彼に少し遅れてからその光景を目の当たりにしたの。

 

 コウガが、自分の心の奥底に閉じ込めていた闇を振りかざす姿に。

 

 私はそんなコウガの前に出ていくことができなかった。大切な人が今まさに罪を犯そうとしているにも関わらず。

 

 ……。

 

 怖かった。

 

 私はコウガを不幸にしてしまった。そんな自分がコウガに恨まれているんじゃないかと思うと怖かった。

 

 それを彼自身の口から言われるのが一番怖かった。

 

 だから私はその場から動くことができなかった。彼に拒絶されるのが怖くて仕方なかった。コウガの闇の前に立つのが恐ろしかった。

 

 でも彼女は違った。彼女は──南さんはコウガの抱く闇ごと彼を受け入れた。

 

 目の前の彼がどんなに変わり果てても、彼から拒絶されても、彼女はコウガを受け入れることを諦めなかった。

 

 愚直なまでに誠実に、彼女はコウガを受け入れるという言葉を貫き、そして彼を取り戻した。

 

 きっと私じゃできなかった。彼女だから……彼女にしかできなかった。

 

 そして確信と、決心を得られた。

 

 悔しくて、悲しいけれど……。

 

 彼のそばにいるべきは私じゃなくて──

 

 

 

 ────────────────────―

 

 

 

 天から降り注ぐ暖かい陽の光の中、私たちの何度目かによる舞が終わる。これまた何度目かになるか分からない歓声の中で、私たちは最高の笑顔でそれに応えている……いや、応えているつもりだった。見にきてくれたみんなに見せている嘘偽りのない笑顔。だけどその裏で、私たちは不安を感じていた。

 

 ここに、鉱芽さんの姿が見当たらないことに……。

 

 

 あの激戦の場から少し離れた後、鉱芽さんたちは一旦彼の家へ向かうことになった。傷だらけの状態で私たちの学校に来てみんなを怖がらせちゃ悪いからと言って、着替えるためと、そして傷を隠すために私たちは別行動をとることにした。それでも別れ際に「必ず行く」と言ってくれた鉱芽さんの言葉を信じ、私たちは彼のいない屋上で今日のパフォーマンスを開始したの。

 

 だけど、曲を一つ、また一つと披露し終える度に不安が大きくなっていった。もしかするとまた何かトラブルに見舞われたんじゃないか、倒れでもしたんじゃないかと、さっきのボロボロだった鉱芽さんを思い出して気がかりになってしまう。

 

 いいえ、たとえそうだとしても、私は顔を曇らせることなんてできない。ここには、私たちのステージを楽しみにしてくれている人たちがいる。私も、そしてステージにいるみんなも、その期待を裏切りたくはない。誰もが心の奥底に潜む不安を見せまいと、今という時間を楽しもうと全力で歌っていた。

 

 

「(あと一曲……)」

 

 

 気づけばラストの曲を残して全ての曲を披露していた。今踊っている曲を含めた五曲は、どれも鉱芽さんの知っている曲。だけど最後に残しているのは、鉱芽さんも知らない、私たちだけで作り上げた隠し玉。そして、鉱芽さんへの贈り物。

 

 これだけは……この曲だけはどうしても鉱芽さんに見てほしいっ。

 

 みんながそう願っているのも、鉱芽さんに見てもらわなければ意味がないからだ。みんなが彼のことを思って、彼を励ましたいと思って作り上げたのが最後の曲なのだから。たとえ今回のステージが成功したとしても、鉱芽さんが見てくれなければ私たちにとっては失敗と同じだ。それだけに、この時点でも彼の姿が見えないのはみんなにとって辛いと思う。

 

 

「ふふっ」

 

 

 でも、なんでだろう? 不安なのは私も同じはずなのに、心のどこかで私は笑っていたの。"もうすぐ鉱芽さんが来るぞ"って。

 

 いや、私は最初から鉱芽さんが来ないなんて考えていなかったんだ。ただ愚直に、そして誠実に鉱芽さんの言葉を信じていたから。彼が絶対に来るということを、これっぽっちも疑っていなかったから。

 また敵に襲われても、また怪我をしたとしても、鉱芽さんは必ずここに来る。彼は私を裏切らないって、私の心が叫んでいたから。

 

 そして、踊っていた曲が終わり、ついに最後の曲へ移ろうとしていた時だった……。

 

 

 

 ────────────────────―

 

 

 

 階段を駆け上り、扉を開けた先には、太陽の眩しい光と、それ以上に輝いている九つの笑顔があった。

 

 

「間に合いっ、ましたか……ね?」

 

「あと一曲……っ、ありそっ、だ……」

 

 

 隣で息を切らせているミッチに、ある程度セットリストを教えてもらっている俺が安心させるように、息を切らせながら答える。とはいえ、この場で一番安心しているのは恐らく俺だろう。μ's(あいつら)は……多分信じてくれてるだろうし。

 

 遅れた理由だが、恥ずかしながら気を失っていたのだ。

 

 ことりたちと別れた後、急に襲ってきた疲労感に崩れ落ちてしまい、何とか意識を保ちながらもミッチに肩を貸してもらって俺の家まで辿り着くことはできた。しかしその瞬間に俺の意識は闇の中へと落ちていき、目が覚めた時には既に彼女たちのステージが始まっていた時間だった。

 幸いにも俺の着替えもミッチが用意してくれていたようで、すぐに出発することができた。俺が目を覚ますのを確信していたそうだ。因みに顔の傷を隠すのには、いつだったかツバサの残していったメイク化粧品を活用させてもらった。もう一年経つが、多分大丈夫だろ……何も起きませんように……。

 

 それでも普通に考えれば確実に全曲間に合わない時間だった。しかし俺たちには秘密兵器がある。ヘルヘイムの森を走ることのできるロックビークルが。今日何度目かになる変身を経て、俺たちはそれぞれのバイクへと跨った。俺はサクラの花舞い散るサクラハリケーンに、ミッチはバラの花散るローズアタッカーに。ヘルヘイムの森を通過することによって信号も車も無視して音ノ木坂学院まで一直線に行くことができる。

 

 しかし、そこまでしても最後の一曲以外は見ることができなかった。それ程までに疲弊していたのだろうか、と自分が情けなくなる。そんな自嘲も、彼女たちの笑顔を見た瞬間に綺麗に消え去ってしまった。

 

 

「みんな今日は本当にありがとーっ! 楽しかったステージだったけど、残念ながら次が最後の曲です!」

 

 

 終わりを予感させる穂乃果の言葉に周りからチラホラと「えぇ〜」と落胆の声も聞こえてくる。それほどまでに楽しい時間だったのだなと、今まで参加できなかったのが悔しく感じられる。やはり次がラスト……メイド服らしき衣装を着ていることから、たった今予定通り「Wonder zone」を終えたところのようだ。

 

 

「でも! 最初の曲と同じく、最後の曲も新曲です! みなさん、最後まで盛り上がっていきましょう!」

 

 

 穂乃果の合図とともに女神全員がそれぞれの衣装を掴み取り、そして豪快に振り上げた。その瞬間、メイド服を着ていた少女たちは姿を消し、真っ白なキャビンアテンダント服のような可愛らしい姿に変身した女神たちが現れた。

 そして彼女たちの立ち位置も変わり、ことりをセンターに添えた陣形が完成される。太陽と青空の下に並ぶその姿は、非常に輝かしく見えた。

 

 

「あー、あー。アテンションプリーズ、アテンションプリーズ」

 

 

 キャビンアテンダントらしく観客へ言葉を向けることり。しかし観客へ向ける視線の中で、一瞬だけこちらに薄く微笑んだのを俺の眼は見逃さなかった。

 

 

「楽しい時間はすぐに過ぎちゃう。でも、だからって昔ばっか思ってても仕方ない! 辛いこともそう! だから、次の……未来の楽しい時間へ向かって、みんなで飛び立っちゃえ!」

 

 

 彼女たちからの贈り物。それは──

 

 

「それでは聞いてください!

 

 

 

 

 

 

 

『Wonderful Rush』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで太陽の如く眩しい楽曲とステージだった。

 

 

 影など一切感じさせない、青空と希望が広がる世界。

 

 

 ことりが、みんなが俺に伝えたがっていたこと。

 

 

 ステージまで用意して一番大事だと言いたかったこと。

 

 

 それは過去に浸ることでも、自分の行いを反省することでもない。

 

 

 ただ真っ直ぐ、現在(いま)を愛し、そして未来を見ること。

 

 

 それは俺一人の未来ではない。

 “もう独りじゃない。隣に私たちがいるなら、辛いことも一緒に分け合ってほしい。一緒に語り合って、分かり合って、どこまでも駆け抜けたい”

 そんな願いを込めた彼女たちと共に走る未来だ。

 

 

 そして、この歌詞に込められた想いがそのままの意味を持つというのなら──

 

 

 彼女たちが俺に願っていたものは──

 

 

 俺に幸せになってほしい、というごくありきたりなエールだった。

 

 

「(幸せになるため、か……)」

 

 

 正直、幸せが怖くなることは多々あった。多くの生命を奪い、手を汚しすぎたこんな俺が幸せになっていいのかと。まともな人生を送れるはずがあるのかと。彼女たちと触れ合うたびに内なる恐怖は大きくなっていった。

 

 しかし全てを知った彼女たちは、その上で幸せになってほしいという願いを、出来る限りの精一杯の表現で贈ってくれたのだ。

 

 

「バカ……なんじゃねーの……」

 

 

 小さく溢れる震え声に誰も気付かない。

 

 当事者である人たちはどう思うか、それを知る術はもうない。しかし少なくとも、目の前の彼女たちは俺の幸せを願ってくれた。幸せになってもいいと宣言してくれた。

 

 彼女たちの贈り物は、充分すぎるほど俺の心を満たしてくれた。

 

 

 ステージに夢中になっている観客や隣のミッチも、この顔に出ている感情に気付かない。ただこちらを見ると彼女たちには、きっと、この気持ちは伝わっているだろう。

 

 

 押し寄せる感動と、止むに止まれぬ感謝と、溢れんばかりの幸福が。

 

 

 

 

 ──わかったよ。もう一人で全部抱えることはしない。随分時間がかかったけど、俺は一人じゃないもんな。だから今度からは俺もみんなと……。

 

 

 

 

「未来……見なくちゃな」

 

 

 

 

 その日、μ’sは誰一人欠くことなく、学園祭ライブを大成功という最高の形で締めくくった。

 

 

 そして俺は、初めて彼女の絵を描くことなく、眠りにつくことができた。




これにて学園祭編完! (ちなみにNo brand girlsは一曲目に披露してます)
しかし本来の時間とは違い、学園祭ステージが成功したμ’s。果てさて、この後彼女たちを待ち受ける試練とは……?

次回からの展開もどうぞよろしくお願いします。





それにしても……エグゼイド……よかったなぁ……(どハマり&ボロ泣き&ロスのコンボ)
鎧武以来にガッツリハマりました。ガシャット集めてトゥルエンも二回観たり、相当EXCITEした一年でした。

ビルドの今後に期待しながら今後もライダーを楽しんでいきたいと思います。
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