それでは今回もどうぞ。
「……ちと早かったか」
本日は晴天、日曜日、俺は穂乃果との約束通り神田明神へと訪れていた。約束の8時までにはまだ15分程余裕がある。それでも誰かしら一人は既に来ていると踏んでいたのだが、残念ながら当てが外れたようだ。一人寂しく女の子を待つ中、陽が眩しく境内を照らす。嗚呼、惨めだ。誰か来てくれないものかねぇ。
「……ぇ……鉱芽?」
案外、祈りというものは簡単に届くようだ。ここが神社であるからだろうか?俺の背後から聞き覚えのある声が届く。しかし先日会った三人ではない。俺の事を呼び捨てにする人間などかなり限られてくる。女の子なら尚更だ。
俺は振り返り、どこか棘のある声の主の正体を確認する。すると案の定、そこには見知った顔があった。
「よっ、真姫じゃん」
俺の目の前には、顔の横でクルッと巻かれた赤毛がチャーミングな美少女、西木野真姫が口を小さく開けたまま軽く驚いたような表情を浮かべていた。
「珍しいじゃない、こんなところで会うなんて」
「こちらもいろいろあってね」
「へ、へぇ~……」
すぐに平常心を取り戻して何時もの調子に戻るが、その様子にはどこか焦りが見えていた。何かまずいことでもあるのだろうかと思いつつ、俺は真姫の服装が気になった。真姫の格好は、普段お洒落に服を着こなす彼女にしては珍しく、今までに見たことないくらいの軽装をしていた。帽子にTシャツに動きやすいチノパンと、それは明らかに体を動かすための格好であった。
運動……ね……。はっはぁ~ん。そういう事。
俺が真姫の様子から事情に半ば確信を得た時、今度こそ待っていた声が聞こえた。
「あっ、おはようございます鉱芽さん。もう来てたんですね! 真姫ちゃんもおはよう!」
「鉱芽さん、おはようございます。おはよう、真姫ちゃん」
「お二方とも、おはようございます」
どこかで待ち合わせをしていたのだろうか、幼馴染二人を連れて穂乃果が神田明神に姿を現した。
「おっす、おはよう!」
「お……おはよう……」
挨拶を返す真姫の顔はどこか複雑そうだった。そりゃそうだろうよ。何せ俺がいることの事情を知ってるかのような顔で穂乃果が来たのだから。
しかし、ふむ……やはりその感じだと、真姫も穂乃果達のスクールアイドル『
真姫は俺の願いを聞き入れてくれたんだ、よかった。俺と穂乃果の顔を交互に見ながら狼狽えている真姫に、俺は温かい笑みを送った。
「って何ニヤついてるのよ、もう! 先輩も! 一体どういう訳か教えてください」
流石に我慢できなくなったのか溢れる思いが小規模爆発を起こす。俺は穂乃果にアイコンタクトを送り、彼女に説明を促すことにする。
「真姫ちゃん、この人は葛木鉱芽さん。この間いろいろあって知り合って、今日ダンスとか見せ合う事になったんだよ。私もまだ見てないんだけど、結構踊れるみたいだよ?」
「……知ってるわよ」
何故か得意げに話す穂乃果に対し、真姫は半ば不機嫌な態度を見せて答えた。穂乃果は『もう自己紹介とかしちゃった?』等聞いているが、違うそうじゃない。ほら見ろ、真姫のヤツ更に機嫌が悪くなっているぞ。
「別に、この人とは元々知り合いなだけよ。ダンスも何回か見てるし」
いつも以上に言葉の棘が多く感じる真姫の言葉。にしてもオイオイ……『この人』扱いは無いだろ。はぁ……恐らく先に穂乃果に自慢げに俺の事を説明されたのが悔しいのだろう。今の真姫の気持ちは量るに難くないが、人の気持ちなんて結局本人にしか分からない。勝手な推測は止しておこう。
「まあ、そういう事だ。真姫とはお前らよりも付き合いはある方だな」
「へぇー、そうなんですかぁ。世界って意外に狭いんですね」
「かもな」
相変わらず朝っぱらから明るさ満点の穂乃果。やはりコイツと話してるとこっちまで元気になってくるな。
「その様子だと鉱芽は私が何やってるかもう気付いているのよね」
「ああ、穂乃果達と同じスクールアイドル……だろ? 今のお前がやりたかったことを」
「……そうよ」
「ってことは真姫が加入して四人か──」
「か~よち~ん、早くー!もう皆来てるにゃー」
「──まだいたのか?」
俺の声を遮って新たな声が境内に響きわたる。声の発信源である階段の方に目を向けると、今度は見知らぬ二つの影が目に入った。
「あっ! 二人ともおはよう!」
「「おはようございます!」」
穂乃果の挨拶に元気よく答える二人の少女。今の様子から見るに、この二人は穂乃果の後輩、真姫と同じ一年生だろう。そこで二人の少女はここに居る筈のない俺という存在に気が付き、二人して首を傾げる。
「えっと、穂乃果先輩、この人は誰ですか?」
先程『にゃー』と猫のような語尾を付けていた少女が穂乃果に俺の事を問いただしてくる。あ、流石に先輩に対して『にゃー』とは言わないんだな。明るいショートカットが活発そうな印象を作り出しているが、実際にその通りなのだろう。彼女の周りから発せられる動感あふれる雰囲気が穂乃果のそれと同じなのだ。恐らく彼女も穂乃果に似た元気で活動的な人物なのだろう。
とまで考えているうちに穂乃果が自分の事を二人に紹介し終えていた。やはりというか、二人ともどこか期待したような目線をこちらに送ってくる。いや、だからやめろって、そんな自慢できる程のもんじゃねぇって。
「いやはや、過大広告もいいところじゃないか?」
「大丈夫よ、アナタが感覚を忘れてなければ十分人に見せられるわ」
「そーかい、ありがとよ」
小声で真姫との会話中、意外にも彼女から激励(?)の言葉を贈られる。そこまで言われたらやるっきゃねぇよな。
「よし、じゃあ改めて、葛木鉱芽だ。歳は19。普段は『ドルーパーズ』ってパーラーで働いている。よろしく」
「
「こ、
うん、花陽と名乗ったもう一人の子もなかなか礼儀正しそうでいい子じゃないか。一歩引いた感じから少し遠慮が過ぎてしまいそうな娘という印象ではあったが。皆の様子を見るにこれで全員のようだな。
さて、そろそろ俺も目的を果たすとするかな。
「んじゃ、俺から先に躍らせてもらうよ。しっかり見ててくれよ」
俺は鞄から端末とスピーカーを出して曲を用意する。ああ、ワクワクするな。口ではなんて言ってようが、やはり躍るとなると心まで舞ってしまう。今から躍る事に対して無意識的に高揚感が湧き出ていたようだ。
「わぁあ……!」
「鉱芽さんのダンス……楽しみです」
「先に言っておくが、俺のダンスはアイドルのように人を魅了させるものじゃない。ただ楽しく踊って、みんなを活気づけるような舞だからな。あんまり取り入れようとするなよ?」
穂乃果とことりが物凄く期待した眼差しで見つめてくるが、先にそう忠告しておく。分かってくれたのか判断し難いが、未だ彼女らは俺の踊りを待っている。うん、もう少し待っててくれ。今身体をほぐしているところだから。
「……っ……よしっ。やるか」
そして俺は端末に映る再生ボタンをタッチして、曲を再生させる。スピーカーからアップテンポなリズムが流れ出し、俺の身体を躍動させる。刻むビートが俺の身体を勝手に動かす。熱く震える鼓動が俺の血液をたぎらせる。
ああ、この感じ。懐かしいな。
集まったμ'sメンバー以外にも、境内人々がちらほらこちらを見てくる。これだよ、これこれ。これこそがステージだ。
っしゃあ!
「ここからは俺のステージだ!」
『TEPPEN STAR』
流れるテンポに合わせて、跳び、振り、回り、踏み、自身の存在をその場に刻み付ける。
それこそ正しく、自身の証明。
正真正銘、俺だけのステージ。
今の俺は舞い上がっている。いや、舞い上がるべきなんだ。
何故なら今皆が見ているのは俺。俺だけ。
盛り上がらないわけがない!
ああ、やはり俺の本性は生粋の目立ちたがり屋なんだろうな。
良くも悪くも、母親似なのかも……な。
ならば、しかと括目せよ。
俺の本性を。
しかと味わえ。
俺の刻むこの一瞬を──っ!
俺は境内の一角であることにも構わず、全身全霊で舞った。
「──っ! ……ふぃー……」
曲の最後に、本来無いはずのバック宙を加えてダンスを終える。俺が躍り終えた時、μ's含め見学していた一同は一瞬静まり返っていたが、ダンスが終わったと判断するや否や、耳がつんざくような盛大な歓声と拍手を俺に送ってくれた。
「すごい! すごいよ鉱芽さん!」
「ことりも感動しました」
「すいません、正直意外でした。でもこんなに感動するとは」
「アイドルみたいでカッコよかったニャー!」
「す、スゴイです……」
「ほら、言った通りじゃない」
「……ふぅ……ありがと」
いや、正直熱くなりすぎた。しかもよく考えたらここ神社じゃん。神様祀ってんじゃん。なのに俺すっげぇ異文化のダンス踊ってんじゃん。罰とか当たんないよね?
「いやあ、久しぶりで結構緊張したよ。でも、うん、まあ……割とよくできた方かな?」
「何謙遜してんのよ。ほら見なさい。みんなアナタの事尊敬したような目してるわよ?」
「鉱芽さん!」
「んぅおっ!? どうした?」
「私達にダンスを教えてください!」
真姫との会話中にいきなり横から目を輝かせた穂乃果が割り込んでくる。というより輝きすぎだ。そう思えば案の定、彼女は俺にダンスレッスンを依頼してきた。
「先に言ったろ? 俺の踊りをアイドルのダンスに組み込むなって。駄目だ」
「そんなぁ~。鉱芽さん、すっごく綺麗でカッコよかったのに……」
「鉱芽さん、ことりも鉱芽さんに教わりたいです。お願いします」
「私からもお願いします」
穂乃果が断られるや否や、今度はことりと海未ちゃんが俺に頼み込んでくる。ああもう、だから何でかなぁ? ことりなんて興奮のあまり、以前俺に迫ってきた穂乃果に対して苦言をこぼしていた時の事を忘れている。
俺が未だ渋っていると、復活した穂乃果が真剣な眼をしてこちらを見据えていた。
「……鉱芽さん」
俺は穂乃果の目をじっと見据える。これは……なかなか見ない眼だな。以前俺と視線を交えた時とは大違いだ。絶対に譲れないものがある時の強い眼差し。そうだな、まるで……ツバサのようだ。これには俺も真面目に聞くしかないようだ。
「……どうした?」
「鉱芽さん、躍る前に言いましたよね。『自分のダンスは人を魅了させるものじゃない』って。
でも、私達を見てください。ここに居るみんなが、鉱芽さんのダンスに夢中になっているんです。魅了されたんです!
鉱芽さんはどう思っても、少なくとも私達は鉱芽さんの踊りは人を魅了する、夢中にさせるものだと思っています!
ですから、私はそんな鉱芽さんの踊りを取り入れたいんです!
鉱芽さんの魅力をμ'sに取り入れたいんです!
だから……お願いします。私達μ'sにダンスの指導をしてください!」
「「「「お願いします!」」」」
「……私も……お願いするわ」
「……」
……いやあ……凄いねこりゃ……圧倒されたわ。それに、ことりだけでなく真姫(顔が真っ赤で髪の毛とほぼ同化している)まで頼むとは……。あー、うん……俺の負け……いや、勝ちかな?
「……躍って」
「っえ?」
「君たちのステージを見たい。それで判断する」
ああ、素直じゃないな俺も。素直に指導するって言えばいいのに。真姫の事言えないな。しかしそんな事つゆ知らず、穂乃果達は俄然やる気を出して身体をほぐしだす。オイ、本当にやる気かい?
「分かりました、鉱芽さん。見ててください、私達のステージ」
そうして俺の前に立つ穂乃果、ことり、海未ちゃん。やっぱ一年組はまだ入ったばかりで振付とか完璧じゃないのだろう。俺は待機している一年組の中に入り、μ'sのステージが始まるのを待つ。
「行くよ! みんな!」
そして穂乃果の号令と共に境内に新たな曲が鳴り響き、各人がそれぞれのパートで動き出す。
さあ見せてくれ。君たちの本気を。
『START:DASH!!』
そして女神達は舞う──。
少し長くなったので次回へ持越し。
次回は真姫ちゃん回……?
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