ラブライブ! ー果実の鎧武者ー   作:春巻(生)

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〜前回までのあらすじ〜
雨に打たれて風邪を引いた絵里。彼女のお見舞いにいった鉱芽は、自身の中で変わりつつある心境に気付き始める。一方、ことりの母は鉱芽の父親の名前を知り、一人思索に耽るのだった。

それでは今回もどうぞ。
ついにあのライダーが……?


第86話 槍騎兵、穿つ

 木々や蔦、奇怪な植物や草が鬱蒼と生い茂る森の中、様々な種類の猛獣の声が響き渡る。あるものは長い首を持ち、あるものはマントのような翼を持ち、あるものは鬣を持ち、またあるものは稲妻のような角を持つ。そのどれもが理性など持たず、本能のままに暴れるままの存在だ。人が寄り付かない、否、人が存在しない世界の森の中で、その異形たちは標的を囲んでいた。

 

 

「ふんッ! ゥラァ!」

 

 

 一人は橙色の甲冑を纏いし武者。得物である二つの旗を振るい、異形を次々と薙ぎ払う。

 

 葛木鉱芽。仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ。

 

 

 そしてもう一人。

 

 

「ハァッ! セイッ!」

 

 

 鋭利な槍を持って偉業を薙ぎ払う、戦極ドライバーを装着した赤い騎士。中世日本の武士の甲冑のような鎧武のそれとは異なり、中世西洋諸国の騎士の如く、気高く健美なフォルムを模った仮面と鎧を身に纏っている。

 

 

『カモン! バナナオーレ!』

 

 

 鎧武の背後に立つように異形──インベスを次々と地に還していく赤騎士は、ドライバーのブレードを操作し、自身の持つ槍へエネルギーを集めていく。

 

 

『イチ! ジュウ! ヒャク! オレンジチャージ!』

 

 

 それと同時に鎧武も得物を無双セイバーへと変え、ドライバーから取り出したロックシードを装填する。

 

 

「(なんでこんなことになったのやら)」

 

 

 インベスを相手取りながら、鉱芽は胸のうちで現在の複雑な状況に至った経緯を振り返るのであった。

 

 

「セイィィィーーッ!!」

 

「セイハァァァァーーッ!!」

 

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

「さて……」

 

 

 あの学園祭から数日後、葛木宅には俺とミッチ、そしてμ’sのみんなが集まっていた。風邪と熱で寝込んでいた絵里と真姫も今や全快し、以前と変わらない様子を見せている。

 ただ一つ変わったことがあるとすれば、この部屋の内装だろう。折り紙の輪つなぎやオーナメントが壁に掛けられ、バルーンや紙製のパーティーハットなども置かれた、手作り感満載のパーティー用の内装。そんないかにもな雰囲気を醸し出した空間の中、全員が座る輪の中で俺は可能な限り冷静さを保ちながら、自分の言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「もうみんな分かっていると思うけど──」

 

「ねぇ、もう飛んでいい? 叫んでいい?」

 

「気持ちは分かるけどあとちょっと待ってて凛ちゃん」

 

 

 

 逸る気持ちを抑えきれない凛ちゃんをなんとかして宥める。同じように穂乃果も目をキラキラ輝かせ、肩をプルプル震わせて今にも感情を爆発させそうになっているが、彼女は空気を読んで押し黙ってくれている。

 

 

「そうよ。こういうのはムードが大事なの、凛」

 

「ニコいいこと言った。ニコニンドールに50点」

 

「何50点っていらないわよ」

 

「鉱芽さん、こういう人でしたっけ?」

 

「あはは。どっちかというとこっちのが僕の知ってる鉱芽さんかな」

 

「こらウミッチ変なこと言わない……コホン、話を戻そう」

 

「「まとめられ(まし)た……」」

 

 

 少し待たせてしまったが、ここからが本題だ。やっとかと言わんばかりの溜め息と、緊張から唾を飲む音が周りからちらほらと聞こえてくる。

 

 

「ふぅ〜……では」

 

「「「……(ゴクリ)」」」

 

「……μ'sゥ!」

 

 

 何故俺のテンションが異様に高いのか。

 

 何故俺の家の内装がこんなに派手やかなのか。

 

 何故こうしてみんな嬉しそうな顔をしているのか。

 

 

 その答えはただ一つ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラブライ──

 

「ラブライブ!本戦出場決定おめでとぉぉぉぉーーーー!!」

 

「──穂乃果ァ!?」

 

「「「おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 

 言おうとした台詞を全て穂乃果に横取りされて盛大にソファーから滑り落ちてしまう。ミッチもμ'sもそんな俺を無視してわーわー盛り上がっているのが解せない。

 

 ──いや、まあね? 穂乃果がリーダーなんだし? 一番の立役者だし? むしろ順当だよね? うん。わかるとも。でもね、今日くらいもう少し目立たせてくれてもよかったんじゃないかなぁと──

 

 

「ほら変なことやってないで鉱芽。あなたももっと喜びなさいよ」

 

 

 とほほ、と虚しく天井を見上げる俺も、苦笑の混じる真姫の声で現実へと戻ってくる。そうだな、そろそろおふざけもやめますか、

 

 いろいろと締まらないが、ともあれ、本日の零時付でμ'sのラブライブ!本戦出場が決定したのだ。しかもだ。学園祭前の時点で十九位だった順位も、最終結果では六位まで上昇していたのだ。ランキング開始当初からトップが変わらなかったA-RISEは順位が変わるはずもないが、μ'sは本大会中「最もランキング変動の大きかったチーム」として公式サイトでも大きくピックアップされている。これは本戦においても非常に有利な肩書きになるだろう。

 

 

 それに、嬉しい報告はラブライブ!の件だけではない。

 

 

「ついに! ついにラブライブ!だよ! 鉱芽さん!」

 

「そんなに肩叩かなくも分かってるから。でも、うん……本当におめでとう」

 

「うんっ! えへへっ。それに〜……絵里ちゃんの言葉が本当ならぁ〜」

 

「って、まだ決定じゃないから強くは言えないんだけどね。でも入学希望者も増えてきて、この調子だと新入生募集までいけるかもしれないって理事長が言ってたわ、だから──」

 

「音ノ木坂が無くならないぃぃぃーーーやったぁぁぁぁぁ!!」

 

「いててててっ! 叩きすぎ叩きすぎ!」

 

 

 興奮しっぱなしの穂乃果のはたきが苛烈さを増していくが、きっとその喜びもラブライブ!出場以上に大きいものなのかもしれない。本来、穂乃果がスクールアイドルを始めたのはラブライブ!出場のためではなく、音ノ木坂学園を統廃合から救うためだった。それが、まだ本決定ではないが、このままだとその願いは叶うことになるのだ。自分の願いが、行動が、努力が、全てが報われる瞬間というのは何物にも勝る幸福であろう。それを、この小さな少女は今精一杯噛み締めているのだ。

 だからこそ今の穂乃果の顔は、見てるこちら側まで笑いたくなるほど幸せそうな表情をしていた。

 

 

「っあ、ごめん鉱芽さん」

 

「ま、まあ、ほどほどにな。でも、本当に頑張ったよ穂乃果。それにみんなも。本当におめでとう」

 

 

 穂乃果につられてにやけた笑みになってしまったが、(ほぼ)統廃合阻止の祝辞も送ることができた。

 

 あとは──

 

 

「ねえコーガさん、そろそろ〜」

 

「……ははっ、そうだな」

 

 

 凛ちゃんの待ちきれなさそうな声に応え、俺は用意しておいたジュースやお菓子をテーブルの上に並べ始めた。

 

 そう、ここからは少しだけハメを外す時間だ。

 

 

「それじゃあ、ラブライブ!出場&音ノ木坂存続を祝しまして、かんぱーい!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

「あっ、ごめんちょっと零しちゃった」

 

「う〜ポテチ届かないにゃー!」

 

「オレンジジュースおかわりの人ー?」

 

「はいはーい!」

 

「お? これとってもレアな柄やん?」

 

 

 乾杯も早々に終え、皆がそれぞれの席を楽しみ始める。かくいう俺もそうするところなのだが、今はこの光景を見ているだけで十分な気もしていた。各々が楽しむ姿を、その輪の中から見ているだけでも幸せを感じるものだから。

 

 

「そうだ、ミッチ──」

 

 

 唯一、隣のミッチだけが「僕だけ場違いじゃないかなぁ」と遠慮していたことが心配だったが、そもそもこの時点でもミッチには既にμ'sの練習に付き合ってもらっている。そういう点ではミッチは無関係ではなく、この輪にいられる仲間だと俺たちは思っていた。ミッチも気兼ねなくこの場にいてもいいのだ──と。しかし、そういう趣旨の言葉を伝える前にミッチは活気盛んな一年組に絡まれて、そしていつしかみんなと談笑し始めていた。

 

 

「──って、思ったより溶け込めてるのか」

 

「立花さん、ですか?」

 

「ああ。まだみんなとも日が浅いしちょっと心配だったから」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。最近の練習もよく見てもらってるし、もうみんな立花さんのこと、仲間の一人だと思ってますよ。それに、鉱芽さんがあんなに信頼している人だもんっ」

 

 

 とても嬉しそうに語ることりの顔を見て、先ほどまでの心配は杞憂だったと思い知る。彼女の言葉は逆説的に、ミッチを信用する俺のことを信用するということなのだが、今はことりからそれを言われることがとかく嬉しく感じていた。

 

 

「そうか。ありがとな、ことり。それと……おめでとう」

 

「はいっ!」

 

「っ……」

 

 

 ことりの笑顔を見ていて湧き上がってきたのは、久しく感じることのなかった胸が詰まるような閉塞感だった。視界が揺れるような酔ったような気分に陥るが、何故か今はそれが心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもラブライブ!に出場っていうのも、実はまだちょっと実感ないんですけどね。えへへ」

 

「ま、まあ仕方ないさ。でも、みんなの実力からすれば当然だっての」

 

「いえいえ、ここまで来れたのも鉱芽さんがいたからですよ」

 

「さあて、どうだか」

 

 

 μ'sならたとえ俺がいなくともラブライブ!本戦への出場権は獲得していただろうし、統廃合もきっと阻止できていただろう。今思い返しても、俺は彼女たちを引っ張っていたというよりも、ただ彼女たちを一番近くで応援していただけかもしれない。しかしそれでもやはり、俺がいることで何かが変わっているのならそれ以上に嬉しいことはないというものだ。

 

 “もしも”の話なんてするだけ野暮だというのに、いつもやめられないのは、自分の知り得ない世界への憧れがあるからだろうか。

 

 

「(俺の知らない世界……か)」

 

 

 いつしか俺は、かつて異世界から来た戦士に思いを耽っていた。自身たっぷりなくせして写真が取るのがとかく下手くそな、あの無愛想で不器用な、不思議な旅人を……。

 彼の言葉の通りなら、世界は無数に存在し、あらゆる“if”の世界も存在するらしい。もちろん中には、俺の知らない戦士が活躍する世界も、戦士がいない世界だって存在する。

 

 もちろん「鎧武の世界」も。

 

 それはすなわち、俺以外の誰かが鎧武に変身し、同じようにヘルヘイムの脅威と戦っている世界……。

 

 一度、旅人──士に、異世界の鎧武について尋ねたことがあった。同じヘルヘイムの脅威に立ち向かうからこそ分かる、長く辛い戦いに挑み続ける人が、果たしてどんなにすごい人物なのだろうかという期待もあったからだ。しかし最初に返ってきたのは、「向こう見ずでとにかく前に進み続けるバカ」という辛辣な評価だった。

 しかし、それが全てでないことは分かる。「前に進む」とは単純だが非常に困難になる時もある。以前の俺がそうだったようにだ。しかし異世界の鎧武は、どんな絶望、裏切り、別れに見舞われようと、決して後ろへ引くことはなく、泣きながらも前へ進み続けた、と士は言っていた。

 そう、士の知る異世界の鎧武とは、何が起ころうと決して歩むことを止めない、ある意味で狂気じみた強さを持った存在だった。止まるどころか後退すらしていた自分とは比較にならない。

 また士が言うには、異世界の鎧武と当時の俺が戦ったところで、まるで勝負にならないらしい。実力的にも精神的にも俺は異世界の鎧武に劣っているというわけだ。

 

 もし、この世界でも鎧武に変身していたのが俺でなくその人であるなら、俺のような失敗は起こさなかったのだろうか。あるいは失敗しても、それでも折れずに前へ進み続けたのだろうか。自分で考えながら、実に不毛な想像を続けているものだとは思う。

 

 

「(って、そうか。そもそもアイツのせいじゃん)」

 

 

 今更ながら、自分が“もしも”の世界をよく考えるようになってしまった原因が士だということにようやく気がついたのだ。

 

 

「はぁ……ったく、おのれ────―」

 

 

 彼と同時期に知り合った、古臭いローブを羽織ったある中年男性の台詞を静かに零してしまう。

 

 しかし、となるとやはり俺が絡まなかったμ'sがいる世界も──って、やめやめっ。この話はもう終いだ。どうせ今の俺には無関係な話だ。

 

 

「(……異世界といえば)」

 

 

 異世界とは言えど、俺は現実にありながらも、まだほとんど知り得ていない“世界”のことを考える。未知の植物が生い茂る、あの森のことを──

 

 

「静かね鉱芽。どうしたのよ、もっと喜ばないの?」

 

「っ!? えっ? あ、いやぁ、最近平和だなぁ〜って思ってさ。ははは」

 

「そう……?」

 

「な、ミッチ?」

 

「そうですね。確かにあれから数日、全くクラックも開きませんし」

 

 

 真姫の声により思考が途切れ、今がパーティーの途中であることを思い出す。祝いの席で何一人妄想に耽っているのかと自分を恥じつつ、同時にそれを悟られないためにもミッチに助け舟を出した。

 とはいえ、ミッチの言うことも事実であった。コウガネを倒してからというもの、毎日のように起きていたクラックの発生がピタリと止んだのだ。全ての元凶を倒し、クラックも開かなくなった。つまりは万事解決というわけだ。

 

 

「そうなの……よかったわ……」

 

 

 クラックが出現しなくなったことを知り、真姫は力が抜けたような笑みで胸を撫でおろす。俺と同じかそれ以上にクラックの出現を案じていた彼女のことだ。緊張の糸が解けてしまうのも無理はない。

 

 そう、全て終わった。

 

 そのはずなのだが、俺にはいまひとつ全てが解決したようには思えなかった。

 

 第一、まだヘルヘイムについての記憶・記録が消える現象についての真実に何一つ辿り着いていない。それに、ドライバーを製作した親父や、そこについていった母さんともまだ出会えていない。

 

 だからきっと、俺にはまだすべきことが残っている。そんな予感と不安が心の奥底に存在していた。

 

 

「ま、平和なことはいいことだ。さ〜て今日は楽しむぜ!」

 

 

 などと、本心を隠して祝いの席を盛り上げていく。それでもやはりというか、ミッチの俺の見る目はどこか懐疑的な色を含んでいた。

 

 

 

 ────────────────―

 

 

 

 辺り一帯、視界を緑色が覆い尽くす空間を桜色のバイクが走り抜ける。その先に違う色があるかもしれないという期待を込めて。しかし、行けども行けども他の色など見えず、また緑色が消えることもない。

 バイクに跨る鎧武者は、時折聞こえてくる獣の声すら置き去りにして、この森を進み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「(そろそろ何かでてきてくれよ……)」

 

 

 μ'sとのパーティーが終わって間も無く、俺は自身のロックビークルを使ってヘルヘイムの森へと赴いていた。目的はもちろん、両親の捜索、およびコウガネの足掛かりを掴むことだ。

 親父たちが人間界にいないことはドライバーを受け取った時点で既に知っていた。ならば考えられるのは、二人はこの森のどこかにいるということだ。今までそれをしてこなかったのは、いつ開くかもわからないクラックを放っておいて、迂闊に人間界を離れるわけにはいかなかったからだ。一瞬だけ森の中に入るだけなら問題ないが、森の探索となると長時間要することが考えられる。そんな中、人間界にクラックでも出現しようものなら地獄絵図も想像に難くない。行きたくても、籠りたくとも、俺はこの森に長時間いることはできなかった。

 だが今はミッチがいる。万が一あちら側でクラックが開いても、もう一人のアーマードライダーがいる。これ以上に心強いものがあるものか。

 だからこそ、俺は大手を振ってヘルヘイムの探索を行えるのだ。ようやく、両親への足取りが掴めるかもしれないこの場所に……っ。

 

 

「っ……ここもか……」

 

 

 久しぶりに開けた場所に出たかと思えば、そこにあるのは蔦に覆われた石造りの建造物だった。明らかな文明の名残であり、手掛かりが掴めそうな風貌だが、ここの遺跡も(・・・・・・)今まで見てきた遺跡(・・・・・・・・・)と同じ、既に朽ち果てて遥かなる年月が過ぎ去ったものだった。

 こういった遺跡を、俺は幾度となくこの森で見かけてきた。ロックビークルを使い、この森を通る一瞬の中でも見かけるほど、ヘルヘイムの森ではこういった遺跡は当たり前のように存在している。だから、今更こんな廃れきった文明を見つけても目的は達成されないし、それどころか人間界がヘルヘイムに完全に侵食された未来をずっと見せつけられているようで、精神が磨り減りそうでもあった。

 

 

「(流石に今日は帰るか……)」

 

 

 ヘルヘイムでの探索を開始してから、恐らく四時間は経過している。人間界では既に日が落ちている頃だ。これ以上は報告を待たせているミッチにも心配をかけるし、何よりこちらの心身にも悪影響が及びそうだ。

 

 ──大丈夫。また明日からでも探すことはできる。

 

 そう自分に言い聞かせ、ヘルヘイムの探索を切り上げようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず息を飲んだ。

 

 

 

 

 この森の中で、自分以外の人の声を聞いたからではない。

 

 

 

 

 声とも言えない、息を鳴らしただけの音でも俺には分かる。

 

 

 

 

 古い記憶にある、とても懐かしい声。

 

 

 

 

 今となっては大嫌いな声。

 

 

 

 

 だけどずっと聞きたかった声。

 

 

 

 

「動き回りすぎだ、鉱芽」

 

 

 

 

 その声の持ち主が、突然目の前からやってきたのだから……。

 

 

 

 

「とぅ、っ……おやっ……戦極、岳斗……?」

 

 

 俺の父──戦極岳斗。その予想だにしない登場に、俺は足に杭を打たれたかのように、その場から一歩も動けなくなってしまう。

 

 

「……」

 

 

 視界が揺れ、息が上がり、思考もしっちゃかめっちゃかで、まともに考えることが困難になっていた。俺はこの人に言いたいことが山のようにあったはずなのに、何故か一つも言葉として発することが出来ない。

 俺は決めていたはずのに……この人に会ったら死ぬほど文句を言い聞かせてやると。なのに言葉が喉で詰まってそれ以上外に出てくれない。それが酷くもどかしく、辛かった。

 

 

「どうした? 久しぶりの再会なのに言葉の一つもないのか」

 

「っ……だったらアンタもだろ……せめて『大きくなったな』くらいは言ってみたらどうだよ」

 

「なるほど、間違いなく口は大きくなったな」

 

「喧嘩しにきたのかアンタ……」

 

「お互い様だろ。そう言われたいのなら変身くらい解除すればどうだ」

 

「……はんっ」

 

 

『ロックオフ』

 

 

 親父の……戦極岳斗のペースに飲まれるのは癪だが、お陰で言葉を発することはできた。そして変身を解除したことで、ようやく互いの顔を見合わすことも。

 思考がまともになったところで改めて戦極岳斗の様子について観察する。顔は写真に写っていた頃と全く変わっておらず、恐らく若々しいままであった。髪の毛も学者のくせに少しだけ跳ねた茶髪のウルフヘアで決めており、俺と並んだら間違いなく親子でなく兄弟か何かだと思われそうだ。そして服装だが、少なくとも日本ではあまり見ない民族衣装のようなものを見に纏っていた。全体的に赤と黒を基調とした装飾多めの着物で、ロングコートにも見えなくもない羽織を肩からかけていた。が……意外と似合ってるのがムカつく!

 

 

「……なんで今更のこのこ俺の前に現れたんだよ」

 

 

 冷静な分析を終えたところで、しかし今度は心の底から湧き上がる激情に見舞われていた。

 

 

「会おうと思えば会えたんだろ……?」

 

 

 忘れたことは一度足りとてなかった。ドライバーを手にしている限り、忘れられるはずがなかった。

 

 会いたくとも会えない……そんな状況でいることにどこか収まっている自分がいた。

 

 もはや会えないことが当たり前だと受け入れていた。

 

 しかしだからこそ、こんなにもあっさりと再会できてしまうことに、納得がいかなかった。

 

 故に、滾る心は止められず、抑えていた想いが溢れてしまう。

 

 

「こんなに簡単に会えるんなら!」

 

 

 期待していたから。

 

 渇望していたから。

 

 それが一方的なものだったとしても、きっとその分、裏切られた時の気持ちは計り知れない。

 

 

「なんで!! もっと!!! 早く……っ!!!!」

 

 

 ──会いにきてくれなかったんだよ……。

 

 最後の言葉だけは、言葉にせず飲み込んだ。言ってしまえばきっと、俺はこの男の前で弱さを晒し出してしまうから。今はまだ、俺自身がそれを許せなかった。

 

 

「なあ……何か、言ってくれよっ」

 

「……お前だって同じだ」

 

「っ?」

 

「なぜ今更になって俺を探そうとした?」

 

「っんなもん、クラック放っておいてこんなとこ来れるかよ! 今はミッチがいるし、それにクラックも開かないから──」

 

「俺の件も無関係でないとしたら?」

 

「っ?」

 

 

 その言葉で、熱を持って激しく動いていた身体が嘘のように冷めていった。そして冷静になれたことにより、感情的になりすぎて理論を後回しにしていたことを実感する。俺がようやくヘルヘイムの探索が可能になったように、戦極岳斗も俺に会いに来るのが可能になったと考えても何らおかしなことはない。

 まだ結論は出ていないが、どうも俺はこの男に関連した話となると先走り過ぎる傾向があるみたいだ。

 

 

「アイツに勝った、ようだな」

 

「コウガネ……のことか」

 

「ふん。俺の血を継いでいるだけのことはある」

 

「別に好きで継いだわけじゃねぇよ」

 

 

 “アイツ”という言葉に一瞬詰まるが、このタイミングであった大きな変化と言えばコウガネしか思いつかない。戦極岳斗の反応を見るにそれは正しかったようだ。俺がコウガネを倒したことと、戦極岳斗が向こうからやってきたこと。そこに関連性があるなら、俺は知っておかなければならない。

 

 

「コウガネとアンタ。一体どんな関係があるんだ?」

 

「それを説明するならまずヤツの正体──」

 

「グルルルォォォ」

 

「──の前に、こいつらを退けてからだ」

 

 

 しかし無情かな。こういう時に限って邪魔は入るものだ。目の前の男に意識を向けすぎていたのか、近くまできていたインベスたちに全く気付けなかった。残念ながら、こいつらを何とかしない限り俺の知りたいことは聞かせてもらえないらしい。

 

 

「だったら……っ!」

 

 

『カチドキ!』

 

 

 ──さっさと終わらせる!

 

 

「変身!!」

 

 

『カチドキアームズ! いざ出陣! エイエイオー!!』

 

 

 ロックシードを起動させた途端、凄まじいエネルギーが周囲から頭上に集まり、やがてカチドキアームズとなる橙色の球体が構成される。そしてカッティングブレードを操作した次の瞬間、俺の身体は眩しい輝きと堅牢な鎧に包まれ、カチドキアームズに変身した鎧武がヘルヘイムの森に顕現した。しかしコウガネと対峙した時に感じた、身体から満ち溢れるほどの力は感じられなかった。あの時振るえた圧倒的な暴力は、きっと武神鎧武が力をくれたあの瞬間だけなのだろうと、改めて実感する。

 

 

「ふんらぁっ!」

 

 

 変身するや否や、俺は背中からカチドキ旗を抜いて大きく振るい、有象無象のインベスを吹き飛ばしていく。ここが人間界でなければ、彼らもまた害獣ではない。だから必ずしも殺す必要はないのだ。

 

 

「せっかくカチドキを手に入れたというのに、甘いな」

 

「何を……っ!?」

 

 

 俺の戦闘を見守っていた戦極岳斗からの突然の茶々に対して、つい反応して振り返ってしまう。

 

 しかしそこにいたのは、俺と同じ戦極ドライバーを装着した戦極岳斗の姿だった。

 

 

「だよなっ。そうだよなっ! フンッ! 作っておいてアンタが変身しないなんてありえないもんな! ぅらァッ!」

 

 

 戦極ドライバー及びロックシードを作り出したのは、他の誰でもないこの男なのだ。ならば自分でも変身するというのが道理。そして開発者ならば、自分専用に特別なチューンアップを施したドライバーや、特別に製作したロックシードを持っていても不思議ではない。今の俺のカチドキのように。だからこの男がどんなロックシードを使うのかも興味があった。

 

 しかし、取り出したのは……。

 

 

 

 

『バナナ!』

 

 

 

 

「っ、えっ、ば、バナっ、バナナぁ?」

 

 

 彼が手にするのはバナナロックシード。俺も所持しているし、その気になればヘルヘイムの森でいくらでも補充はできる。はっきり言って特別感などまるでない。それが意外過ぎてつい声が裏返ってしまった。

 

 

「ふん、自分だけのために特別に作るなどと。そんなものは弱者のすることだ」

 

 

 先ほどのカチドキと同じく彼の頭上にエネルギーが集中し、巨大なバナナが形成される。そして──

 

 

「変身」

 

 

『ロックオン!』

 

 

 戦極岳斗がドライバーにバナナロックシードをセットした途端、騎士を讃えるかような勇ましいファンファーレがヘルヘイム一面に轟く。

 

 そして戦極岳斗はドライバーのカッティングブレードに手をかけ、ロックシードを切り倒した。

 

 

『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear(ナイトオブス~ピア~)!』

 

 

 戦極岳斗の頭部にバナナが降下し、赤と銀のライドウェアが彼の身体を包むように出現する。そしてバナナが展開し、バナナはその身体を守る堅牢な鎧となる。露わになった仮面は、まるでバナナが突き刺さったような西洋騎士のマスク。その他に現れた武器は、めるでバナナの皮を剥いたかのようなフォルムで、それでいて鋭く尖った槍。そんなバナナは──

 

 

「バナナバナナ喧しい! バロンだ!」

 

「心読まれた!?」

 

 

 突然の読心術に酷く動揺してしまうが、言われるまでもなく彼の変身した姿は俺のドライバーにもデータとして残されているから名前は分かる。

 

 

 かの騎士の名はバロン。

 

 

 揺るがぬ槍を穿つ赤き男爵、アーマードライダーバロン。

 

 

「失せろ」

 

 

 槍騎兵の進撃が始まった。




μ'sがラブライブ!へ出場を決め、そしてついにバロンが登場。
第二部も終わりに近づく中、物語はこの先どうなってしまうのか。
この先の展開もどうぞご期待ください。
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