「ついに7階か…」
ノンビリが階段を登り終えて一息ついた。
「こんなに高い所登ったことないんじゃないか?」
キマジメが言う。
「た、確かにな…」
ノンビリは苦笑いした。
ノンビリは冒険者になってから、高い塔に登ったことが今まで一度もない。
元々そこまでやる気がないので、危ないと思ったらすぐに引き返していたのだ。
「確かにノンビリさんはそんな危ない橋を渡りそうにないですもんね」
シトヤカが抑揚のないトーンで言った。
「シトヤカさん…段々慣れてきたね…」
ノンビリが苦笑いする。
「よし、ここでちょっと休むか」
キマジメが腰を下ろす。
「私、ちょっと辺りの様子を見に行ってきます」
シトヤカが周りの様子を見に行った。
「あとどれぐらいあるんだろうな、この後もダンジョン」
ノンビリはキマジメに聞いた。
「さぁな。俺もここに入ったことないし…」
キマジメが言った。
「えっ?キマジメ、このダンジョンのこと把握してるのかと思ってたわ」
ノンビリは意外だなぁというような顔をした。
「いや、お前が勝手にこのダンジョンに連れて来たんだろ…」
キマジメがつっこむ。
その時、シトヤカが帰ってきた。
「…ただいま戻りました」
シトヤカのトーンはどことなく低めである。
「どうしたの、シトヤカさん?心なしか落ちこんでいるような感じだけど」
ノンビリが聞く。
「あ、はい…、実は…」
シトヤカはそこで口ごもると、
「私の前のパーティーがこの階にいるんです」
と言った。
「確か、『お前は回復するだけで役に立たない』って言われて解雇されたんだっけ?」
「なんでその部分を覚えてるんだよ」
キマジメがノンビリにツッコむ。
「いやー、妙に頭に引っかかってさ…」
ノンビリが頭をかく。
そこにシトヤカが帰ってきた。
何やら顔色が良くない。
「シトヤカさん、どうしたの?」
ノンビリが聞く。
「あ、いや、実は…」
シトヤカは何かに怯えて入る様子だった。
「なんか顔色良くないみたいだけど、どうしたの?」
キマジメが聞く。
「あの…、実は…」
シトヤカがそこまで言うと、
「おい、お前、シトヤカじゃねぇか」
と男の声がした。
「え、誰?」
ノンビリが身を乗り出す。
隙間から男が2人現れた。
1人は金髪で、髪をセンター分けにしている。
もう1人はソフトモヒカンにしている。
「お前がまだやめていなかったとはな。とっくに荷物をまとめて帰っているかと思ってたわ」
センター分けが笑う。
シトヤカはうつむいたまま何も話さない。
体も少し震えてる気がする。
そうか。ノンビリは何となく事情を察した。
シトヤカは前にパーティーを解雇させられたと話していたが、もしかしてこのパーティーか…。
「兄貴、もうほっときましょうよ。こんな使えない顔だけの女なんか」
ソフモヒがセンター分けに話しかける。
どうやらセンター分けの方が年上らしい。
「…あぁ、そうだな。こんな使えないヤツ、ほっといてもかまわんな」
シトヤカはまだうつむいている。
「そういやお前、今どこのパーティーに入ってるの?」
センター分けがシトヤカに聞く。
「…あの、今は…」
シトヤカは顔を上げ、不安そうな表情を浮かべる。
シトヤカは心からこの2人を怖がっている。
ノンビリはシトヤカの表情からなんとなく察した。
「…まぁ、お前が入れるようなパーティーだから、きっと大したことないパーティーなんだろうな」
センター分けがまた高笑いした。
ソフモヒもつられて笑う。
このやろう。俺たちが大したことないだと?
ノンビリは拳を握りしめ、殴りかかろうとしたが、
「…今のパーティーは、とてもいい方ばかりです」
とシトヤカがポツリと言った。
ノンビリは慌てて隠れる。
「なんだと?」
センター分けが聞く。
「…今のパーティーの方は、こんな私を優しく迎えて下さって、本当の仲間のように接して下さったんです。だから、『大したことない』なんて言わないでください」
シトヤカちゃん、よく言った。
ノンビリは小さく拍手をした。
「なんだ?お前、俺に逆らうのか?」
センター分けはシトヤカに詰め寄る。
「お前みたいなヤツが、俺に意見するなんて100年以上早ぇんだよ。あぁ?」
最低だコイツら。
ノンビリは怒りがふつふつと沸いてきた。
シトヤカの方を見る。
シトヤカは震えが大きくなり、涙ぐんでいるように見える。
その時である。
「ふざけんな!」
キマジメが飛び出してきて、センター分けにパンチを食らわした。
センター分けはその場に倒れこんだ。
「シトヤカは今は俺の仲間なんだ!バカにするやつは俺が許さないからな!」
キマジメは、語気を強めて言った。
「…お、覚えてろよ!」
センター分けとソフモヒは急いでその場を後にした。
「あ、あの…、さっきはありがとうございました…」
シトヤカはキマジメにお礼を言った。
「…う、うん…」
「おいおいキマジメ、柄にもなく照れちゃって。シトヤカさんの方見ていないじゃん」
ノンビリがからかう。
「うっさい!お前は黙っとけ!」
キマジメがツッコむ。
「…それにしてもさ、あの時よくあいつらのこと殴れたよな。俺だったらすぐ逃げてたわ」
「あぁ、あれは、なんていうか…」
キマジメはそこで言葉を切ると、
「なんかシトヤカさんが馬鹿にされているのが気に食わなくてさ、『コイツら、シトヤカさんのこと何も知らないくせに偉そうに』って思ったら、勝手に体が動いていたんだよ」
「え…?」
シトヤカが口に手を当てる。
「もうシトヤカさんは、うちの仲間だからさ…、仲間が馬鹿にされているの見ると、腹が立って仕方ないんだよな…」
キマジメはうつむきがちに言った。
「キマジメさん…」
シトヤカはキマジメの顔を見る。
「へぇ、意外といいとこあるんだね」
「『意外と』ってなんだよ」
キマジメが顔を上げる。
「まぁ、キマジメほどじゃないけど、俺も一発殴ってやろうとは思ってたけどね」
ノンビリが言った。
「ノンビリさん…」
シトヤカは決めた。
この人達についていけば、私は大丈夫だ。
もうあんな苦しい思いをしなくて済む。
気がつくと、目から涙が溢れていた。
「うわ、シトヤカさん、どうしたの?」
キマジメが慌てふためく。
「キマジメ、またシトヤカさんを泣かせるようなこと言ったんでしょ」
「言ってねぇよ!言う訳ねぇだろ!」
ノンビリとキマジメのやり取りを見て、シトヤカは涙を流しながら、小さく微笑んだ。