UQ HOLDER!~影の魔法使いと闇の福音~ 作:さゃなほりなの
刀太と九郎丸が入団試験によって地下に落とされてから数ヶ月が経った。未だに地下からあの二人が出てくることはなく、UQファミリーの面々はいつも通りの業務をこなしていた。それはもちろん、久々に帰省した虚影も例外ではない。
「・・・はぁ」
虚影が使っている部屋は黒いカーテンから白いカーテンへと全て取り替えられており、窓に近いところに花瓶と写真立てが飾られている。これは彼が1度このアジトをぬけた時にはなかったものだが、夏凜の手によりリフォームされていたのだった。そしてもちろん--
「あら、起きたのね。おはよう、虚影」
その部屋には夏凜も住むようになっていた。知らぬ間にこんな美少女に勝手に住み着かれていたことに不満を抱くものはおらずむしろ歓迎と思う男性が多いであろう中で、虚影にとってはソレは嬉しい事ではなく、ただただ迷惑な話だった。
「ただでさえ狭い部屋を更に狭くするだけじゃなく勝手に部屋の内装まで…迷惑なやつだ」
「そんな事くらいでぐちぐちと相変わらず小さい男ね」
情けない、とそう吐き捨てて夏凜はいつもの天之御柱学園の制服に着替え始める。理不尽極まりない言葉を投げかけられた虚影は軽くため息をついた後、部屋を一足先に出ていく。
「さて、どうしたものか」
数ヶ月ぶりに仙境館に戻ってきたものの仕事をするほど金に困ってる訳もなく元々が誰かの為に力を行使するような出来た存在でもない。強大な子の力は自身の為だけに行使し、弱き者も強き者も邪魔するのであれば本人のみならず関係する全ての命を根絶やしにする。虚影はこれまでそうして生きてきた。その為、雪姫やUQファミリーの面々、刀太に出会ってからの生活は余りにも非現実的で未だに肌に合わない。
『そうだ・・・お前にこの生活は不釣り合いだ』
『幾千幾万幾億の命の灯火を・・・終わらせてきたお前には・・・抜け出せない程の深淵の闇がお似合いだ。』
『そうです。君は悪だ』
彼だけに聞こえる死者の声。それはどれもが虚影が終わらせてきた者達。姿形は真っ黒な影となっており誰が誰か判別はできない。その中にまだ完全に影に呑まれていない死者の影がひとつ。
『どれだけ善人と関わろうが・・・どれだけ人の命を救って償っても・・・君は変わらない。悪のまま、いつか訪れる罰を永遠と待ち続けることだけが君の生きる意味なんです』
その影は--全身穴だらけの姿の橘は半分ほど影に体を覆われた状態で嘲笑うように罪を糾弾するようにそう告げた。純度100%の否定。それを虚影自身、否定するつもりはなかった。
「--お前に言われなくても、そんなことわかっている」
常に彼の耳には眼には奪ってきたもの達の影がまとわりつき離れない。常人では耐えられない程に彼を永遠と責め続ける視線と声が。
「だからこそこれまでもこの先も--俺は自身の為だけにこの力を使い続ける」
『そうですか。では--虚影君。僕は君が絶望の淵に叩き落とされ自身の愚かな行いを悔いて惨めに謝る日が来るその時まで永遠に呪い続けます。存分に先程述べた事を全うしてください』
それを最後に橘の姿は影に完全に呑み込まれ、怨嗟の言葉を吐き散らかす影たちの一員になった。
「こんなかわいい女の子を一人置いていくなんて最低ね、虚影」
「--黙れ。おまえが遅いだけだ」
遅れて扉から出てきた夏凜の言葉にそう返して、廊下を歩きはじめる。
「そうえば、あの近衛刀太という男は何者なの?雪姫様やあなたと暮らす程の価値は見出だせないのだけど」
「俺にとっては目的のために利用できる価値が少しでもあるならそれでいい。刀太は雪姫にとっては抑止力であり弱点に近しい存在でもある」
夏凜の質問に淡々と答える。その言葉には情なんてものはなくただ単に利用価値があるかどうかだけの存在。あるいは目的を達成するために必要なパーツのひとつ。
「はぁ…あなたはまだ雪姫様を殺すのが目的なのね。何度も言うけれど私以外に言うのはやめておきなさい。面倒なことになるのはゴメンよ」
「安心しろ。今はあいつを殺すための準備が整っていない。それまではこの組織のくだらない思想に付き合ってやる」
「まぁ、いいわ。あなたが雪姫様を殺すと言うなら私ものその時までに覚悟を決めておくから」
夏凜のその言葉の真意はなんなのか。虚影にとってはどうでもいいことで、敵に回ろうと味方につこうと目的の邪魔になるなら殺すだけ。そこだけは揺らぐことがない。
「勝手にしろ。俺の邪魔をしなければどちらでもいい」
虚影と夏凜がそんなことを話しながら中庭の廊下あたりを通りかかった頃、ドスンッ!!っと大きな音が鳴り響いた。
「なんの音だ?」
虚影が音の出処を目で探していると、
「マズイ!何かが中から!下がって!!」
一空が一緒に蹴鞠をしていた子供たちに井戸から離れるよう声をかけている姿を捉えた。ドンドンっと井戸の蓋が真下からの衝撃についに耐えられなくなり、破壊される。その瞬間、虚影は影を槍のように尖らせ投擲した。
「わっはー!!まぶしぃーッ!!やっぱお日様の光はさいこ・・・おわっ!?」
井戸の蓋を破壊して飛び出てきたツンツン頭の少年は慌てて真っ黒に染まった刀で飛んできた影の槍を叩き落とす。
「--っぶねえ!?おい!今のって!?」
「意外と早かったな、刀太」
ツンツン頭の少年こと刀太に声をかける虚影。
「やっぱお前か!?殺す気かよっ!?」
「不死者は死なないだろ」
淡々と虚影は答えた後、刀太が手に握る黒い刀に視線を落とした。
「その刀--地下に刺さっていた物だろう?あの下に落とされた時に俺も見たことがある」
「え?マジ!?この刀のこと知ってんのか!?なんか地下にいた甚兵衛っつうおっさんが教えてくれてさ」
「--甚兵衛? 」
刀太の口から出てきた甚兵衛という名前に、どこかで聞いた名前だなと虚影を思考を巡らせる。暫くして、
「なんだ?なんだ?」
「ってあのガキ共、地下に落としたハズのふたりじゃねえかよ!?」
「もう上がってきたってのかよ?」
「いやいや、ありえねえだろ。飴屋の兄貴だって4ヶ月はかかったつう話だぞ」
仙境館から黒服たちがぞろぞろと姿を中庭にやってきた。誰もが信じられないと驚いている中、刀太に遅れて九郎丸、そしてもう一人男性が出てきた。
「大丈夫だ。入れてやれよ、そいつらは本物だ。俺が見てた。俺が保証するぜ」
赤髪で、長い襟足を1本に束ねた無精髭を生やした男性がそう答える。その姿を見た黒服や遅れてやってきた源五郎は驚愕する。なぜなら彼は--
「あ・・・!?じ、甚兵衛さん!?貴方一体二年間何やってたんですか!?」
「やべ・・・」
「どれだけ捜したと思ってるんですか!?2年分の仕事が溜まってるんですからね!?」
「ははは!じゃ、またなー!!」
甚兵衛と呼ばれた男は刀太に別れを告げたあと逃げ出し、それを追うように源五郎も消えていった。
「さて、色々とあったけど改めて。甚兵衛さんのお墨付きで今日から君たち2人は僕たち『UQホルダー』の新たな仲間だ」
その一部始終を見終えたあと、一空は黒服たちの方に振り返り、刀太と九郎丸を歓迎する言葉を紡ぐ。
「UQホルダー不死隊【ナンバーズ】--」
まず刀太を見やり、
「ナンバー11、近衛刀太」
そして次の九郎丸を見やり、
「ナンバー12、時坂九郎丸」
と紹介した。
「久々の新しい仲間だ。以後、仲良くしてやってね」
「「「ハッ!!! よろしくお願いしますッ!!近衛の兄貴!時坂の姐さん!!」」」
一空の言葉に黒服たちは言葉を返す。
「おう!よろしく頼んます!・・・で、ここって何するところなんすか?」
「き、君はなにも知らずにあの試験を?」
困惑する一空の質問に「楽しそうだったので」と答える脳天気な刀太。心底呆れ果てる程の間抜けぶり。
「ま、まぁ、見てもらったほうが早いかな」
一空が指をパチンと鳴らすと、黒服たちや子供たちの姿がみるみる変わっていく。巨大な鬼や化け狐、1つ目の怪物や黒い幽霊、はたまた火の玉や河童などの魑魅魍魎。
「え?なにこれ?妖怪軍団?」
「UQホルダーメイン構成員【百鬼夜行衆】の皆さんだよ。僕たちは人の世外れた者たちの互助組織【UQホルダー】であり、その用心棒さ」
先程まで人間の姿をしていた黒服や子供たちの姿に困惑する刀太と九郎丸に一空はそう改めて自己紹介した。
「ビックリさせちゃったかな?」
「正直驚いたけど、おもしれーじゃん。うしっ、まずはここでトップ取ってやんぜ」
夢にまで見た田舎の外。彼が思い描いていた人生設計とは違ったが、こうして悠久を生きる者たちとの物語が始まる。
「あぁん!?このガキ、トップだと!?舐めたことほざいてんじゃねえぞ!!」
「おめえみてえな青くせえガキがトップ張れるような世界じゃねえんだよ!!」
「んだと!?やるかおっさん!?」
トップ取る発言に聞き捨てならねえと黒服たちと刀太による取っ組み合いが始まり、
「虚影の兄貴!!こいつほんとに雪姫様と兄貴が認めるようなガキなんですかい!?」
「さぁな…俺はただアイツに利用価値を感じた。それだけだ」
それを見ていた黒服のひとりが声をかけてくるが、淡々とただそう答えるだけだった。
刀太と九郎丸のナンバーが違うのは、原作では刀太がナンバー7だった所に虚影がいるからです
次回から第二章開幕です