UQ HOLDER!~影の魔法使いと闇の福音~ 作:さゃなほりなの
夏凜の刀によって上半身と下半身に切断された瓦礫屋。呆気ない幕引き。その光景に、刀太や九郎丸、スラムの人々が唖然とする。
「うおお!すげえ夏凜先輩!真っ二つ!!」
目の前で繰り広げられた圧巻な一撃に驚きの声をあげるが、すぐに
「ってちげーー!!!何、真っ二つにしてんの!夏凜先輩!?んなポンポン殺してどうすんの!?そこまでかよ!?警察沙汰だよ!!」
甘ったれた発言を夏凜にぶつける。生きるか死ぬかの戦場の中に一般人が紛れ込んだかのような思考。
「警察など来ませんよ。・・・それに死んでないわ」
「へ?」
刀太の耳心地の悪い言葉に呆れつつ、その言葉を否定する。疑問符を浮かばせる彼が馬鹿面を浮かべたその瞬間、ジャリと砂を掴むような音が鳴り、超高圧熱の光線が真っ二つにされた瓦礫屋の方から放たれる。
「え?」
光線が放たれた方を見やると、たしかに死んだはずの瓦礫屋の上半身と下半身が別々に立っていた。
「無傷か・・・いい魔法障壁アプリ使ってるみてぇじゃねぇか。・・・だかな、そんなものは金さえ出せばいくらでも手に入る」
瓦礫屋はそう言って嘲笑う。彼が言うことは本当だ。魔法アプリは高額でなかなか手に入らない代物だが、要するに何年もかけて金を稼げばいつかは誰でも手に入るとわけだ。そうなればこのように高額な割に非人道的な仕事を生業とする人間からすれば簡単に手に入る代物だ。
「ぬんっ」
瓦礫屋は上半身を自身の下半身の足に乗せる。そして、サッカーボールを蹴るような仕草で思い切り足を振った。すると超高速で放たれた瓦礫屋の上半身が射出され、夏凜へと襲い掛かる。
「なんだよあのおっさん!?」
「・・・全身義体化というところか」
「ん?一空先輩と同じ感じか?」
「あいつの劣化版だと思っておけばいい」
驚く刀太に大まかに説明をする虚影。彼の評価では、一空に勝る全身機械化をした人間を見た事はなく、どれもが劣化品だった。元々科学というものに疎く、そして興味もなかったが生きるか死ぬかの中で戦い抜いてきた経験から知識としてだけは頭の片隅にあった。
「残念だな!!複合型魔法障壁アプリ48万円!珍しいものでもねえ!!この程度のアイテムで粋がったことを後悔するんだな、お嬢さん!!」
瓦礫屋は夏凜の斬撃を複数の魔法障壁で防ぎながら、続けて新たな手を披露する。
「特別に見せてやろう!これが切り札!裏相場で1280万円!!
高速で駆けてきた下半身による強力な蹴りの一撃。それは夏凜の魔法障壁を強制的に無効化させる。
「これでもう盾はない!さらに・・・武器格納BOXアプリ17万8千円☓9!!アーンド・・・
瓦礫屋の背後から薙刀のような武器が複数の魔法陣から現れる。その武器は半月型の刀身を持つ長柄の武器【
「夏凜先輩ーっ!?」
「はっはー!綺麗なお嬢さんを手にかけて心が痛むな。いや、痛まねえか」
先程とは真逆の展開。瓦礫屋は下手くそな三文芝居を打ったあと、嘲笑うように口元を歪ませる。
「なんでも嘘か誠か・・・スラムの貧乏人を守りに来るのは不死身の化け物って話だからな。まぁ、ネタがわかりゃ大したことはねえ…。ほんと不死身だなんだとくだらねえ。今の世の中、金があればなんでも手に入る。せいぜい貧乏人どもにホラ吹いたことを後悔しながら--」
「・・・そうですね」
不意に響く声。それは聞こえないはずの声。然し、その声は確かに聞こえた。瓦礫屋1人にではなく、虚影達の耳にも。
「・・・では」
串刺していた偃月刀が次々と夏凜の身体から外れていく。否、体に触れるのを拒絶するかのように見えない力で押し出されていく。それらはやがて制服を引きちぎって、カランカランと地面へと落下する。
「金で買ったあなたの実力見せて頂きましょう」
完全に服が引きちぎれ、一糸まとわぬ姿を顕にした夏凜。然し、美しきその裸身に見蕩れる者はこの場に誰もいない。なぜなら、瓦礫屋も刀太、九郎丸さえもが彼女は偃月刀により死んだと思っていたのだ。だと言うのに--
「む、無傷!?は、肌に傷一つ・・・あ、ありえない!たしかに魔法障壁を消し飛ばしたあとに叩き込んだはずだ!あれを耐えられる人間など…いや、ま、まさか…UQホルダー、貴様ら本物の化け物?それにその背中の入れ墨…いや、そ、そんなわけ」
夏凜の体には偃月刀で刺し貫かれた傷跡がなかった。言葉通り、無傷。雪姫や刀太のような吸血鬼の不死とも違う。ましてや全身義体化でもない。
「・・・ひっ」
瓦礫屋の顔から余裕が完全に消え、驚愕と恐怖が色づく。無理もない。不死身という存在を下らないと一蹴し、ましてや自分が本物の不死身の化け物と相対するとは想像もしてなかっただろう。そんな彼の恐怖にひきつる姿を気に止めることもなく、夏凜はまずスレッジハンマーで瓦礫屋の下半身の方を無力化する。そして--
「ひっ…ひぁ…や、やめ」
「やめません」
命乞いをする瓦礫屋へと踵落としを叩き込んで完全に沈黙させた。
「八つ裂きにするつもりでしたが雪姫様に怒られるのでやめておきました。物足りなかったですか?」
いつもと変わらない様子で淡々と告げる。先程まで生き死にの戦いをしていたとは思えないほどに落ち着いている。
「いやいや!えぐいよ!ぐばんって、どんな蹴りだよ!こえーな!」
「あれはこの程度は死にません」
「あ、さっき虚影も言ってた全身義体化サイボーグ?とか言うので頑丈なんだっけか?」
「えぇ、そんな感じです。2050年代の世界的混乱期に主に傷病兵用・・・そして戦闘用に広まったんですよ。まぁ、かなりお金はかかるようですが・・・」
夏凜は九郎丸が貸してくれた学ランで裸身を隠すように羽織りながら刀太に応える。
「夏凜、こいつの処理はどうする?」
「・・・そうね。虚影に任せるわ」
意識を失う瓦礫屋に視線を一度向けたあと、虚影は後始末を尋ねる。一瞬、彼に任せてもいいか悩んだが、満身創痍の構成員たちに任せられないのと、ましてや新人の刀太や九郎丸に任せれないと言うこともあったため、お願いする。
「ただし、殺しちゃダメよ」
「・・・あぁ」
一言そう釘を刺された虚影は軽く頷き、瓦礫屋の身体を影で掴むと引きずりながらその場を後にする。しばらくして、スラムから離れた森の中。
「ここまで来れば問題ないだろう」
虚影は瓦礫屋を巨木のひとつに向かって勢いよく放る。そして未だ目覚めないことを確かめると、
「殺すなと言われたが・・・」
ズズズズッと瓦礫屋が倒れている地面の影が広がっていき、それは繭の様に徐々に瓦礫屋の身体を包み込んでいく。やがて影が完全に身体を包み込むと、そのまま地面へと呑まれていく。
「死体がなければ殺したという事実も影の中」
「ひっ!?な、なん--」
完全に地面へと呑まれていく瞬間、瓦礫屋は意識を取り戻したのか悲鳴のような声が聞こえたが、すぐに静寂に戻った。あまりにも一瞬の出来事。目覚めなければどれだけ幸せだったか。気付かずに死んでいれば苦痛もなく逝けただろう。然し、残念な事に瓦礫屋は最後の最期まで虚影の操る影の繭によって自身の骨が砕け肉が溶けていく苦痛に苛まれながら死んでいった。
「・・・馬鹿なヤツだ」
虚影は一言そう告げる。先程、瓦礫屋を包み込んだ影の繭。それは、捕食のようなものだ。彼が操る影は魔法でありそして生物でもある。正しくは生物というより命はあるが生き物と呼称していいのかも怪しい存在だ。というのも虚影がこの世に生まれた時から彼の不死を構築するのは名称できないナニカなのだ。分かっていることはこの影に定期的に命ある者を呑ませなければ不死の力が衰えていくということ、そして呑んだ存在は虚影の影魔法の一部となるが憎悪や悪意といった感情は消えず永遠に残るということ。
「・・・戻るか」
先程まで存在していた影の繭の痕跡がないことを確認し、その場を後にした。