ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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過去
スポットライト


 

 20XX年、11月22日の日曜の午後、東京競馬場に詰めかけた13万人の観衆が名馬の勝利を祝福した。

 

 

 ロットクリアバイ、5歳牝馬。

 2歳の阪神ジュベナイルフィリーズこそ早熟セーユウテスターの後塵を拝したものの、翌年は風のような末脚を武器に桜花賞、オークスのクラシック2冠、そして当然秋の秋華賞も勝つと、同年の香港カップで3着。

 年が明けて直行で挑んだドバイターフでは2着に3馬身差をつけて快勝。

 同期の牡馬勢が1冠ずつクラシックを分け合っていたこともあり宝塚でもまず敵なしと言われていたが、同馬はドバイの後、香港のクイーンエリザベス2世Cに照準を定めた。

 

 すでに一度経験した沙田(シャティン)2000mで難なく勝利を飾り、日本では「次は宝塚か、凱旋門か」とファンや評論家の中で話題になっていたが、堂々のファン投票1位で出走資格を獲得した宝塚は体調不良を理由に回避する。

 となれば凱旋門に向けて今のうちから欧州遠征かという予想も、距離不安ということで凱旋門賞挑戦は白紙撤回、次走は直行で秋の天皇賞とする旨がクラブから発表された。

 これにはさすがの日本のファンからも怒りや失望の声が聞こえたが、実際に走るのは関係者ではなく馬であり、馬が最優先だと言われれば反論の余地はない。

 

 約半年の休み明け、鉄砲で出走した秋の天皇賞。

 大外枠なら面白かったのだが絶好の3枠5番からの出走。

 久しぶりの出走も何のその、大阪杯、宝塚と春古馬2冠の4歳牡馬リリックジェームズを悠々交わし、返す刀で日本馬しか出走しなかったジャパンカップも文句なしの差し切り勝ちを収める。

 

 年の暮れ、またもファン投票1位で選出された有馬記念は単勝1.3倍。

 ほかに単勝オッズ1桁だったのはジャパンカップで同馬に敗れたリリックジェームズだけで、それも8.0倍がついた。

 4枠8番から絶好のスタートを切ったロットクリアバイはしかし、外から被せて行ったソフトグロリアスに煽られるように口を割り、2周目の3コーナーで早くもムチが入れられた。

 

 前半で体力を消耗したロットクリアバイは終始ぎこちない走りのまま馬群に沈んでいったのだ。

 

 ドバイから続いてきた連勝は4でストップする形となり、クラブ、調教師、評論家、ファンもひたすら敗因を羅列していく。

 結局クラブ代表から「2500mは長すぎた」という回答が出されたものの、2400mを軽々と勝ち切る馬が、3200mの春の天皇賞ならまだしも、たかだか100m伸びただけでこうも無残な負け方をして、それが距離の壁だと言われても到底納得できるものではなかった。

 

 翌年は昨年と同じローテーションで連勝を続けた。

 日本国内も大きな波乱が起きることもなく、強いて言うなら大阪杯でリリックジェームズが4歳牝馬アズサロケットの2着に敗れたことぐらいだろう。

 5歳でもファン投票1位となったロットクリアバイはまたしても宝塚を回避する。

 そのまま「今年も秋の天皇賞に直行」という発表があった。

 

 同年の宝塚記念は春の王リリックジェームズ、中山記念、大阪杯を制したアズサロケット、そして波乱のドサクサに紛れて昨年の有馬記念を制し、年明けには何を血迷ったのかダートのサウジCに出走しまさかの2着、調子に乗ってドバイWCで4着と好走した6歳牡馬デッドスポットがトップハンデの目黒記念を一叩きして芝戦線に帰ってくると、やはりこの3頭が抜けている評価だということはオッズにもよく表れていた。

 案の定叩き合いの末、セックスアローワンスを味方にしたアズサロケットがリリックジェームズを半馬身押さえGⅠ連勝、2着から1馬身遅れてデッドスポットが入線し、3連複の払い戻しが馬単のそれを下回るという鉄板も鉄板の結果となった。

 

 しかしそれでもロットクリアバイのほうが上だという世論は変わらない中、アズサロケットとデッドスポットが凱旋門賞挑戦プランを表明し、海外GⅠの箔が欲しかったリリックジェームズは帯同も兼ねて凱旋門賞前日の超長距離戦、カドラン賞に出走することが決まった。

 デッドスポットはフォア賞を勝ち、アズサロケットがヴェルメイユ賞で惜しくも2着とそれぞれステップレースを消化し、凱旋門賞(ラーク)ウィークエンドを迎えた。

 

 凱旋門賞の前日に行われたカドラン賞では、宝塚記念から直行となったリリックジェームズが距離も重い斤量もペースメーカーも関係ないとばかりに、今までの堅実な先行策とは打って変わってハナを切り、終始馬群を引き離して先頭を走ると、最後まで足を鈍らすことなく5馬身差で軽々逃げ切ってみせた。

 

 さてこうなれば翌日の凱旋門賞は久々に日本馬が勝利を収めるかと日本中が注目……しているわけでもなかった。

 幾ら春のGⅠ戦線でしのぎを削ってこようと、所詮デッドスポットもアズサロケットもロットクリアバイより下であり、どうせ勝負になりゃしないと白けた雰囲気だったのだ。

 果たして日本の競馬ファンの予想通り、アズサロケットは直線でズルズル失速、デッドスポットは懸命に追ったものの、先に抜け出したイギリスのビージョイから3馬身遅れた4着に終わった。

 

 そしてこの3頭は、同年の暮れまで日本で走ることはなかったのである。

 

 カドラン賞を制覇したリリックジェームズはメルボルンC、アズサロケットはコックスプレートを狙い揃ってオーストラリアへ。

 デッドスポットはまたしてもダートへ転向、BCクラシックへの出走を表明した。

 

 オーストラリアでは「日本からの刺客」とリリックジェームズとアズサロケットがそれぞれ本命視され、その期待に応えて2頭とも目標としていたメルボルンC、コックスプレートで地元や欧州からの遠征馬を一蹴する。

 BCクラシックに出走したデッドスポットも本命視されたものの、最後の最後、クビ差届かずの2着と大健闘した。

 

 これほどまでに日本馬が海外の大レースで活躍しているというのに、世間の目はロットクリアバイの天皇賞秋に注目が集まっていた。

 人気を分け合いそうな春の3頭がいない現状、ロットクリアバイが1.3倍の1番人気に推されるのは当然として、もし出走したら人気を分け合ったであろう3頭がどこで何をしてきたのか、そんな関心は日本のメディアも競馬ファンも持ち合わせていなかったようだ。

 

 もはや語ることもなし、ロットクリアバイが日本レコードを更新する圧勝劇を見せた。

 

 

 そして追憶は冒頭のジャパンカップに戻る。

 やはり単勝1.2倍の圧倒的1番人気に推されたロットクリアバイ。

 中団後方で脚をためると、直線のヨーイドンから猛烈な追い込みを見せて快勝する。

 その後同馬は香港Cを最後に引退することを発表し、検疫を経て香港に向かった。

 

 同じころ、リリックジェームズとアズサロケットの引退が発表され、ラストランは共に有馬記念になることも決定した。

 一方のデッドスポットはまだまだやるぞと、有馬記念ではなく大井の東京大賞典へ向かうことが発表されていた。

 

 香港カップではロットクリアバイが4馬身差の圧勝を見せ、まだまだやれると競馬ファンは引退を惜しんだ。

 引退式は同年の有馬記念終了後に決まり、リリックジェームズとアズサロケットは最後のスポットライトも奪われてしまったのである。

 

 実際、有馬記念はリリックジェームズが牡馬の意地を見せ地元日本では初めての逃げ切り勝ちを収め、叩いて1馬身半差の2着にアズサロケットが入った。

 皐月賞、ダービーの2冠を制した3歳牡馬のミックスグラースは9着に沈んだが、ミックスグラースが距離を嫌がって回避した菊花賞を勝ったブエノアカデミアがアズサロケットから3馬身遅れた3着に入った。

 ニューヒーローの誕生とまではいかなかったが、引退する古馬2強でワンツー、3着に3歳牡馬が入るという1年の総決算としては順当な結果に終わったと言えよう。

 

 

 

 しかし翌日のスポーツ誌(阪神タイガースびいきのアンテナスポーツを除く)の1面は、すっかり日も落ちた年の瀬の中山競馬場で、スタンドを埋め尽くすファンからのカメラフラッシュを浴びるロットクリアバイの引退式であった。

 




思い立ったらチマチマと書いています。

ウマ娘ストーリーは3歳の途中辺りから入れられたらいいなと。ライバル馬との関係とかもあるので……。
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