ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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今日2本目の投稿はウマ娘ver.
(本編は前話)


【ウマ娘】割とリアリスト

 

「同志!同志!」

 あたしとジェルがシャワーを浴びて寮に戻ってくると、1人のウマ娘が駆け寄ってきた。

 あたしをそんな呼び方で呼ぶ人はいなかったから、ジェルの方の友達だろう。

「何チームかピックアップしましたよ!部室の立地も申し分なし、参加している生徒の出自からトレーナーのデータも!」

「感謝しますリベたん同志!さっそく打ち合わせをしましょう!」

 何やら熱く盛り上がっているようだ。

 

「と、その前にご紹介しましょう。こちらはアイルシリアスさんです」

 ジェルがあたしを手のひらで差した。

「私が探していた同志の一人でして、我らの光となる方です!」

 なにやら勝手に(まつ)り上げられているが、今のところ悪い気はしない。

「おお!この方が!お会いできて光栄でございますアイルシリアス同志!私はリヴェッティと申します。どうぞリベと呼んでいただければ!」

 

 私もオタクの知識はあるから、有名なアグネスデジタル先輩のようにオタク仲間を(ネタ半分で)同志と呼ぶ人もいることは知っている。が、リヴェッティの同志呼びはそれではない気がした。

「じゃああたしもアイルでいいよ。それで不動産屋さん、いい物件を見つけてくれたようで?」

「ええ、ええ。美浦寮から歩いて2分、シャワー・トイレ別で……と、そこではなくてですね」

 

 ジェルの案内で小さな面接室のようなところに案内されると、リベが持っていたファイルを開いた。

「立地、トレーナー、チームスタッツ。どこを重視するかにも寄りますが、まずはチームスタッツから行きましょう」

 

 リベが2ページ目を開いた。

「チームスタッツはやはり活躍しているチームが上位ですが、そうなると受け入れの口は広くありません。ですので、選抜レース5位以内程度なら入部の可能性が高いチームを独断で選ばせていただきました――まずはチーム・ピーコック。トレーナーは木野文一郎(きの ぶんいちろう)。31歳男性。中距離から中長距離程度までの戦績がよく、逆にマイル以下では苦戦しています。チームメンバーは3人が脱退しまして、今は1人です」

「中長距離となるとちょうどいいかもしれないですね。第一候補ですか?」

「もちろん実績としてはいいのですが、おすすめはほかにもありましてですね……」

リベがもったいつけてページをめくった。

 

「次にトレーナー重視になると、チーム・アダラの南方鏡花(みなみかた きょうか)でしょうか。33歳の女性で、事務管理の手腕があります。ただ、トレーナーとしてはそこまで実績がなく、女性ということもあって、ウマ娘達にとってはチームといえど駆け込み寺のような感じで……。それからチーム・アルフェカの高嶋功(たかしま いさお)トレーナー。26歳男性で、タバコを吸わないのはポイント高いですよ。チームは解散状態で、今は未出走生徒の臨時指導をしています」

「チーム名がいいね。かんむり座だっけかな?」

「ザッツライトですよアイル同志。名前負けしていると言えばそうなのですが」

 ジェルは手に顎を乗せたままウンウンと唸っていた。

 

「現在のところ高嶋トレーナーはよさそうですね。あとは臨時指導を抜けてくれるかどうか。さて、リベたん同志、いるんでしょう?掘り出し物が」

「ご慧眼(けいがん)!それではとっておきのお二方になります!」

 

 リベがページをぱらぱらとめくった。

「まずは仙波幸真(せんば こうま)トレーナー。ウニモグでコースを均してる姿をよく見かけますね。チーム・セルバンデスのサブトレーナーだったのですが、チーム解散と同時に独立しました。が、そもそもセルバンデスがまったく無名のチームだったこともあり、チーム結成どころかランナーは一人も。選抜レースには顔を出していますし、割り当てられた部室は美浦寮から徒歩2分圏内です」

 おおっ、とジェルが声を上げた。

「そしてもう一人、石巻理久(いしのまき りく)トレーナーです。チーム・デネブの伊志嶺(いしみね)トレーナーの甥で25歳、3回目の挑戦でトレーナー資格を取得したルーキーです」

 

「で、その人は何が強みなの?」

 私が資料を覗き込みながら聞くと、リベはうーん、と唸った。

「伊志嶺トレーナーが言っていたそうですが、体調とか得意な距離脚質を見極めるのは自分より上手い、らしいです。実際、チーム・デネブ所属の生徒には何人か石巻さんから助言をもらって勝ちあがることができたって人もいるみたいで」

「えっ、すご……なんでそんな人が2浪もしたのよ?」

「まあ……センスと学力は必ずしもイーブンではないということで……。法律系、医学系でだいぶ躓いていたみたいです」

 私もリベの持ってきた資料をパラパラと捲って読んでいたが、やはり全体的にはパッとしない。

 

「二択……かなぁ?」

 

 私がつぶやくと、ジェルも頷き、リベが「やはり!」と言った。

「木野さんか仙波さん、だよね?」

 二人ともサムズアップをしている。こいつらの性格的に将来有望の石巻トレーナーや、駆け込み寺の南方トレーナーや高嶋トレーナーを選ぼうとはしないだろう。

 

「勝手に調べたところですが、木野トレーナーにはちょいと噂がありましてね……。残ってる一人の生徒となかなかいいところまで行ってるらしくて」

「それだぁ!!」

リベのオフレコにジェルが立ち上がった。

「ときにリベたん、木野センセイのところに残った先輩の成績って?」

「スペシャルレート先輩ですね。初勝利は挙げましたが、1勝クラスで2年ほど費やしてますねえ」

「よし、行きましょう。リベたん、アイルさん」

 ジェルがニヤッと笑った。

「ちょいまち、ジェル、あんたまさか二人の邪魔しようって魂胆じゃないよね?」

「まさか。どうせなら私たちでデカいレース獲って、木野センセイの収入上げて、寿卒業させたいじゃないですか」

 変なところにモチベーションあるなこいつら、と思いながら、部屋を後にした2人を追いかけた。

 

 まあ、ここで部室の扉をバーン!と開けて飛び込まない辺り、こいつらの常識はあった。トレーナーと先輩が()()()()()でもしていたら面倒だったが、さすがにそんなことはなく、先輩が3人分のお茶を淹れてくれた。

 

「一応入部届は書いといてもらうけど、ウチはテストとかないからさ。3人の模擬レースを見せてもらうからね」

「条件とか、何位までとか基準はありますか?」

 私が聞くと、木野トレーナーは私たちの顔を見渡した。

「ないない。見ての通りウチは今1人しかいないからね。別に今ここで3人とも入部を許可したっていいんだけど、みんなまだ模擬レースには出てないんでしょ?」

 私たち3人とも頷く。

「模擬レースでまずはほかの生徒の実力を感じてみるといいよ。張り切って入部したのはいいものの、模擬レースをスキップしていきなりメイクデビューに出たら大差でビリ負けして心がポッキリ、なんてのも珍しくなくてね」

 

それに、と木野トレーナーは続ける。

「聞いたこともあるかもしれないけど、君たちウマ娘には『本格化』というタイミングがある。どの年齢になったらレースで戦えるようになるか、人によって違うんだよ。だから中等部でもバリバリGⅠレースで走っている子もいれば、高等部で3年間過ごしてもまだデビューすらしていない子だっているんだ。君たちは――アイルシリウスが今年入学の中等部1年で、あとの2人は中等部3年だったね?模擬レースである程度本格化の判断ができるし、俺にとっても本格化までの見極めをしないと練習メニューを組めないからね。そういう意味での模擬レース出走さ」

 

「ちなみに私の本格化は高等部1年になってからよ。中等部3年の頃からトゥインクル・シリーズに登録したけど、結局今まで勝てたのは未勝利だけ、だからね」

 先輩が木野トレーナーの後ろから割り込んできた。

「まあレートみたいに未勝利でも一つ勝てた、って人はいい方なんだ。ちょっといきなり暗い話だけどね。大抵は未勝利すら勝てなくて、中退したり転校したりね。学費もかかっちゃうし」

 そんな先輩が1勝クラスのまま3年もトゥインクル・シリーズに在籍できている理由は私たちも知っている。

 

「わかりました。模擬レース、出走します。いつならいいですか?」

 ジェルが聞くと、木野トレーナーは軽く手を振った。

「別にいつでもいいよ。レートの次走は3週間ほど先だし、予定はいくらでも立てられるからね。今決めちゃってもいいよ」

 リベがウマホを取り出した。

「それじゃあ、4日後の模擬レースに3人とも出走します。距離は――」

 リベが私たちの顔を見た。

「あたしは中距離がいいな。2000mから2400m」

「ちょうど2000mがありますね。じゃあ私はクラシックで――ジェル同志はどうしますか?」

 

 ジェルはしばらく考えたあと、じゃあ、と言った。

「ダートで。距離はどれがあるの?」

 リベの耳がピクっと動いたが、すぐウマホの画面に視線を戻した。

「1400、2100が」

「じゃあ、2100mに出走します」

「わかった。4日後の芝2000mにアイルシリウス、芝の2400mにリヴェッティ、そしてダートの2100mにジェルディサヴォアだね。ダートが一番最初で3R目かな」

「はい、3R目にジェルのダート、5R目にアイルの2000m、そのあと6Rに私の2400mが」

「わかった、観に行くよ。当日までに入部届を書いといてね――」

 

「ジェル同志、なんでダートに……?」

 帰り道――といっても美浦寮に近いところに部室があるのでせいぜい徒歩3分ほどだが――リベがジェルと話し込んでいた。

「リベたん同志とアイルとは併走したことあるでしょう?だからある程度の力関係はわかってますから。どうせならダートで適性を見てみたいなと」

「そんなにダート得意でしたっけ?」

「Bコースを走るのが好きなんですよ」

 まあでも、ジェルが足を止めて、リベと私の方に向き直った。

「私でもダートなら、ワンチャン勝てると思いません?」

「それならクラシックに出たらよかったじゃん」

 あたしがツッコむと、ジェルが、だって東京芝じゃ勝てないモーン、と言いながら逃げていった。

 





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