ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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【ウマ娘】パッサパサの砂煙

 

 中山開催が終わり、5月のGⅠシーズンに先駆けて行われる模擬レースとあって、ほとんど全トレーナーが集結していた。

 

 中にはチーム・リギルやチーム・シリウスといった強豪チームのトレーナーも、メンバーやサブトレーナーを引き連れて観戦に訪れている。

 もっとも彼らはスカウトメインで来ているのではなく、第一の目的は今年のダービー・オークス等に向けて、開幕週前にバ場の状態を確認することであった。

 

 そんな思惑を知らない出走生徒たちは当然強豪チーム入りを目指してイレ込んでいる。

 

 

「さてさて、書記長の馬場見解を聞きましょうか」

 3人で東京レース場に乗り込んだ私たちは、誰もいない内バ場の芝生で寝転がっていた。

 スカウト目的のトレーナーや生徒は皆パドックや準備運動に行ってしまっているので、ここならだれにも聞かれることはない。

 

「コホン、まず今日は2月以来の東京レース場とあって芝生がきれいで非常に走りやすい状態となっております」

 リベがバインダーをめくった。

「基本的には先行タイプが有利で、最後の直線でも先に抜けだされたら捕まえるのは容易ではありません。ですが、なまじ芝がいいだけに逃げタイプのウマ娘は道中のペースが上がりすぎて持久力が持たないことが多いですね」

「ということは最適は先行早め抜けだしと」

「まあ模擬レースということで出走人数も多くはないので、外枠に入ったところで悲観するほどではないと思います」

 

 ジェルはダート出走なので特にバ場状態を気にすることはない。どちらかと言えば風向きを気にしているようで、掲揚ポールに靡いている旗を見ている。

「リベの方は大変だね。出走登録15人だっけ?」

「やはりクラシックは人気のようで」

 

 第1競走の本バ場入場が始まったところで、ジェルが準備に向かうために起き上がった。

「リベたんなら大丈夫ですよ。ペースメーカーがいないなら端を切っても全然大丈夫。逃げの判断は3歩以内に決めて、行くと決めたら多少強引に端を奪うといいですね」

「強引にでも、ですか?」

「2番手が逃げを打とうとして、無理に行くことないや、と思ってブレーキをかけたら勝ちですよ」

「その人が諦めなかったら?」

「行かせて、多少余裕を持った2番手から、4コーナーを抜け切る前に捕まえること」

 リベは真剣にジェルの話を聞いている。

 

「ね、あたしは?」

「大雑把に3タイプですね。経済コースを狙ってコーナリングでポジションを上げ、垂れてくるランナーをひたすら躱しながら早めに抜け出しを図る方法。大外に回るロスをしながらとにかく邪魔されないコースを走る方法。3コーナーから大まくりを仕掛ける方法」

「大まくりって?」

「要は3,4コーナーからスパートを仕掛けて、大外から早めに先頭を狙うやり方ですね。大外を回るロスに加えて、コーナーで加速するので遠心力にも耐えなければなりません。最後のダッシュは苦手でもスピードに乗ったら止まらないタイプとか、先に抜け出して最後は気力で押し切るタイプとか。そういう子たち向けです」

「うわぁ……過酷」

「これがハマるとなかなか面白いもんで……ちょっとやってみましょうか」

 

 ジェルはタオルとドリンクのボトルを鞄に詰め込むと、お先に、と言ってパドックに歩いて行った。

「アイルさん、私らもスタンド行きませんか。スタンドならパドックまで近いですから、同志ジェルのレースを見てからパドックに行っても間に合いますよ――」

 

 

 第3競走ダートの2100m戦は、第1競走で行われたダートの1400mより出走人数が少ない。7人での競走であった。

 

 模擬レースということで特に人気投票などは行われておらず、そもそも一般人は入れないので盛り上がるわけでもない。

 とはいえスカウトに訪れたトレーナー達にとってはウマ娘の筋肉の付き具合や体格などをチェックできるので、出走ウマ娘がパドック中央のステージに上がるたびにクリップボードに書き込むカリカリという音が聞こえている。

 ジェルは軽く猫背のままステージに上がると、軽く一礼をしただけでサッサとステージから降りた。

 

「ジェル、緊張してる?」

「してるでしょうねえ。同志ジェルはめっちゃアガる人ですよ」

「へえ」

 パドックの正面に木野トレーナーとスペシャルレート先輩も立っており、何度か軽く頷いていた。

 

 東京2100mのスタート地点は本バ場に入ってすぐのところになるので、ウォーミングアップの為に4コーナー方向に逆走していく子もいれば、ジェルのようにゲート裏でジャンプしたりステップをしたりと極力動かないようにしている子もいる。

 やがて係員が促すと、ジェルは真っ先に5番ゲートに飛び込んでいった。

「ジェルがあんなにゲートが好きな理由がよくわかんないんですよ。一般的にウマ娘はゲートが嫌いで、かく言う私も好きじゃないんですが」

 7番のマジカルサタデーがゲートに入ると、ゲートの赤いランプが点灯し、枠が開いた。

 

 ジェルはゆったりと一番後ろに下がると、内埒に寄せて最短コースを走っている。

「うわぁ……すごい砂煙。辛くないの、あれ」

「ぶっちゃけ、嫌なひとのほうが多いです。ジェルは……あんまり気にしてなさそうですね」

 

 向こう正面を過ぎて3コーナーに入ると、最後方にいたジェルが一気に3番手まで上がってきた。

「これが……まくり?」

「そうです。普通の差しは、ほら、あの3番の子みたいに動くんですが……」

 各ウマ娘が4コーナーを回るタイミングでターフビジョンのカメラがほぼ正面から写した状態となり、全員の位置取りがわかるようになった。

 

 すでに先頭に立っているジェルがさらにペースを上げる中、外に持ち出した3番と7番が上がってきた。

「まくりというのは早めに全力を出す以上、限界が来るのも早いです」

 先に抜け出しているジェルのスピードと、追い込んでくる3番のウマ娘のスピードが逆転する。

 しかし残り1ハロンを切って、3バ身差では――さすがに1バ身差まで詰めるので精一杯だった。

 ゴール板を過ぎたジェルは、少し戻って着順掲示板の一番上に5の数字が揚がっているのを確認すると、スタンドにいる私たちに向かって軽く右手を上げ、採決室に向かっていった。

 





【ジェルディサヴォア】
芝B ダートB
短G マD 中B 長A
逃A 先E 差F 追D

固有スキル: 督促状
レース中盤で前方にいると自分に影響する妨害スキルを無効化し、それまでに減少させられた能力やスタミナを回復する

初期スキル
集中力 コーナー回復〇 追込焦り

覚醒スキル
Lv2 中山レース場〇
Lv3 道悪〇
→※*1ふかふかピッチ(道悪馬場と欧州のレース場が得意になりスピードが少し上がる)
Lv4 クールダウン
Lv5 ※スタートためらい(スタート時に他のウマ娘のスタートを遅らせる)
→※監獄収容(スタート時に他ウマ娘のスタートを遅らせる。スキルの発動を阻止することがある)



 育成の難しさの割に対人戦でも大して役に立たないハズレキャラ。
 スタートためらいを進化させれば先手必勝などのスタートダッシュスキルを確率で阻止するため、ひたすら根性と賢さを上げて他の逃げウマ娘のスキル発動を妨害する使い方が一般的。

 固有スキルも特殊なものだが、そもそもデバフをかけられたとて多くてもスキル2つ分程度なので、自分にバフを盛った方が普通に強い。
 レベルによって回復量の割合が変化するが、Lv1で50%回復、Lv3で全回復なのでわざわざレベルを上げるほどでもない。

 トリプルクラウンも狙えるが、ダービー出走時に強制イベントで東京レース場×が付けられる上にダービー出走時には解除できない。
 あらかじめ東京レース場〇等をつけておくことで被害は最小限に抑えられる。
 
 中距離Bだがキングジョージは2406mなので適正Aの長距離の範囲に入る。

 固有二つ名条件【王座転覆】
中山競馬場・京都競馬場のいずれか2つ以上のGⅠを勝利し、うち2戦は美浦寮所属ウマ娘(リネームキャラを除く)が2着に入る。

*1
※マークスキルはオリジナル

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