ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

42 / 71

天皇賞・春(4歳以上 GⅠ)


11コンフォルトデイ牡7差し――――田沼進出ある
2ドゥーディブラック牡8逃げ――――水上前残なら
23サラノサイクロン牡6差し―――△伊丹調教抜群
4カナエブリスベン牡6差し△△△△江川老当益壮
35ホワイトオリビア牡5先行――――杉谷距離長め
6モーリッシュ牡7先行△▲◎△太刀川連覇狙う
47ボトムオブセンス牡6差し――――渋谷先見えず
8コンティルミエール牡4差し△△○▲柚瀬人馬一体
59ディラクケン牡5差し――――野上動き悪く
10オーラスディグ牡5先行――――有田毛艶よし
611ネベルメナース牡4追込◎○△○大迫絶対条件
12オーロレガーメ牡5差し――――嶋田速さある
713ジェルディサヴォア牡4逃げ○◎○◎上田連軸確定
14ヴェステロース牡6先行――――西垣GⅠでは
15ラストコンヴィンス牡5逃げ――――早川もつれる
816サイヤーレ牡5差し▲△――近藤栗東滞在
17ジェリーホーネット牡4追込――△―宜保忘れるな
18ピリッキオス牡6先行――――ポール鞍上強化




インターバルギャロップ

 

「井野センセイ、そろそろシビアレコードの次走予定教えてくださいよ」

 井野厩舎張り付きの寺尾記者が、泣きそうな顔で井野調教師に縋り付いていた。

 

 天皇賞春に向けたジェルディサヴォアの最終追い切りの様子とタイムをデスクに送ったところ、

「このタイムならシビアレコードも動くだろ。次走どこにするのか聞きだしてこい!」

と電話でドヤされたのである。

 そんなことを言ったって井野調教師(センセイ)は暖簾に腕押しなんスよ、と言ってもそれで納得されるわけもなく。

 

 しかも寺尾はシビアレコードの予定がどういうものなのかある程度知っているからこそ、我慢して口をつぐんでいるのだ。

 というかジェルディサヴォアの口呼吸の件といい、ここ数年あの兄弟馬、というかあのオーナーのせいで溜め込んだ特ダネが多すぎてそろそろ吐き出したくなっている。

 

「わーったよ。とりあえず京都新聞杯は使うって書いといてくれ。ヤネは誠紅(まこう)だ。春天当日にアキと一緒に京都に行ってもらって、誠紅にも未勝利2鞍とシングルベルに乗せるわ」

「てことは、ダービーは――」

「行かねっつってんだろ。次はしらさぎSかねえ……。56kgで古馬と1kg差なら十分戦える。福島(ラジオNIKKEI賞)はちょっと狭いしな」

 

 寺尾は大きな溜息をついた。

「そんなに肩入れしてるんスかあのオーナーは。GⅠぐらい出したっていいじゃないスか……」

「知らねえよ。なんなら寺尾さんから聞いてきてくれ。ジェルに関しちゃ多少妥協してくれるけど、レコードの方はマジで転厩チラつかせてきてるからな」

「京都新聞杯終わってダービー出ないってなったらまた苦情来ますよ?」

「しゃーねえべ。とりあえず京都新聞杯走らせたら跛行(はこう)ってことにして早々にダービー回避させるつもりだわ。最終登録してからだと他の陣営に迷惑掛かるからな」

 

 優先出走権を取っておいて回避というのも他陣営からしたら迷惑なものだが、締め切り後の回避で1枠が無駄にならないだけでもマシというものだろう。

 いくら余裕を残す仕上げが得意な井野調教師といえども、GⅠ狙える馬をGⅠにわざと出さないというのは非常にストレスがかかるものであり、ずっとシビアレコードの世話をしている進藤騎手にとっても、早く31勝をクリアしなければとプレッシャーになっているのは言うまでもない。

 

 初騎乗から2か月足らずで5勝目を挙げた進藤はルーキーとしてはハイペースで勝ち星を重ねられてはいるが、谷地が未勝利、1勝クラスで十分戦えるような馬を優先的に回している恩恵が強い。

 つまりその馬たちのクラスが上がるとおのずと勝てなくなるので、そろそろ谷地以外の馬主や調教師にも営業をしなければいけない状況になっている。

 師匠である井野調教師がもう少しコネをもっていたら他の厩舎の依頼も増えるのだろうが、井野のリーディングは低い上に元騎手ではない。

 勝てる馬主や先輩調教師との付き合いはほとんどなく、先輩騎手の上田もエージェントを雇っているわけではないので、進藤を取り巻く環境としてはあまりよろしくない状況であった。

 

 一応レヴィンデザートを管理する三船調教師や、もともと上田騎手が所属していた張谷調教師などは今現在見習い騎手がいないのもあってたまに仕事を回してくれるが、彼らももともとあまり勝てる厩舎ではなかった。

 

「誠紅、谷地さんの許可も出たから、週末の未勝利戦とシングルベルの島原特別はシビアレコードの想定で行け。まあシングルベルは似たようなタイプだから乗りやすいと思うけど、レベルエペルとアミランドは前目の馬だからな。ちょっと強引に後ろに下げていってくれ」

 同馬主、同調教師、同騎手の陣営で普段やらないような競馬をすれば、見る人が見れば騎手の練習だとすぐわかるだろうが、もとよりルーキー騎手でそこまで勝ち上がりを期待できないような馬であればロクな人気にもならないだろう。

 

「わかりました。あ、ところでセンセイ、千石センセイから30日の東京で2鞍乗せてもらえることになりました」

「ほぉ。頑張ってんねえ。土曜日だな。何レース目だ?」

「2と5の未勝利戦です」

「わかった。頑張ってきぃ」

 

 千石厩舎は今年はルーキーを預かっていないので多少は馬を回してくれている。

 しかも臺屋グループの馬を預かる関東リーディングも上位の厩舎であるから、低級馬であっても上手くいけば勝ち負けも期待できる。

 井野からは口利きをするタイミングがなかったので、おそらくは谷地オーナーがなにかしら交渉したのだろう。

 特にあの馬主は千石厩舎の代表馬アンベストネヴァーのかなりの割合を出資しているはずだから、多少の融通は利くのかもしれない。

 

 かわいそうなのが高橋調教師で、朝日杯からシンザン記念、弥生賞、皐月賞とカジュアルデイズが連対すらできず、なんとか東京優駿の優先出走権は確保したものの、収得賞金上、秋以降のGⅠ出走が絶望的となっており、谷地オーナーの一番手だった地位もいよいよ危うくなっていることもあって、一頭でも馬を引き出さねばとまるで操り人形になっている状況であった。

 

 残念ながら谷地の中では井野厩舎をファーストチョイスにする方向に舵を切っており、今年の最高評価の2歳馬は井野の厩舎に入ることになっている。

 ただ、その馬の主戦騎手は進藤になることも決まっているので、井野としては何としても冬までに31勝を達成させなければならなかったのであった。

 

 

【全スポ】5月1日 14:08

~2歳王者 シビアレコード京都新聞杯へ~

 

 毎日杯を制したシビアレコード(牡3)はダービーを視野に京都新聞杯に出走することが判明。鞍上は引き続きルーキーの進藤誠紅を予定している。

 1週前の追い切りでは今週末の天皇賞・春に出走するジェルディサヴォア(牡4)と美浦坂路で併せ、追走から2馬身先着。

 

 スピード性全開の走りでラスト1Fは11.7の爆発力を見せつけた。

 進藤騎手はダービーまでにGⅠ騎乗が可能になる31勝は流石に無理と言わざるを得ず、ダービー出走となれば乗り替わりは必至。

 井野師は「上田が1番手だが、いくつか選択肢を探っている」とコメント。

 

 

【全スポ】5月1日 14:45

~天皇賞春 GⅠ・混合~

11コンフォルトデイ牡7差し――――進出ある

2ドゥーディブラック牡8逃げ――――前残なら

23サラノサイクロン牡6差し―――△調教抜群

4カナエブリスベン牡6差し△△△△老当益壮

35ホワイトオリビア牡5先行――――距離長め

6モーリッシュ牡7先行△▲◎△連覇狙う

47ボトムオブセンス牡6差し――――先見えず

8コンティルミエール牡4差し△△○▲人馬一体

59ディラクケン牡5差し――――動き悪く

10オーラスディグ牡5先行――――毛艶よし

611ネベルメナース牡4追込◎○△○絶対条件

12オーロレガーメ牡5差し――――速さある

713ジェルディサヴォア牡4逃げ○◎○◎連軸確定

14ヴェステロース牡6先行――――GⅠでは

15ラストコンヴィンス牡5逃げ――――もつれる

816サイヤーレ牡5差し▲△――栗東滞在

17ジェリーホーネット牡4追込――△―忘れるな

18ピリッキオス牡6先行――――鞍上強化

 

 

 

「マコ、俺のことはいい。今日は自分のことだけやって、終わったらレース見てろ」

 進藤騎手は初めての京都競馬場を上田騎手に案内してもらい、関係者へのあいさつも済ませて上田のブーツを磨こうとしたが上田がそれを取り上げた。

 

「どうせ俺も3レース目終わったら午後までヒマなんだ。自分でやるわ。それより西のテキ(調教師)とか先輩方に挨拶してくるといいさ。準備終わったら声かけろ。案内するわ」

 

 上田もそこまで関西勢と面識があるわけではないが、ジェルディサヴォアで海外レースを勝ったこともあり、どちらかと言えば短期免許騎手に一目置かれているのである。

 彼らの伝手もあり、天皇賞春に騎乗するトップジョッキーたちにもお目通りが叶った進藤であった。

 

 特にネベルメナースの主戦である大迫騎手は以前から進藤に興味があったようで、ペースの感じ方や追込のコツなどを話してくれた。

 大迫は昔から先輩にも好かれていた騎手であり、顔も広い。

 その大迫の紹介で、中堅騎手だけでなく4~50歳のベテラン騎手にも挨拶に行けたのは進藤にとっても非常にラッキーであった。

 

「なあ上田よ」

 進藤の挨拶周りの途中、調整ルームから出てきた近藤騎手が上田を呼び止めた。

「4コーナー出口で内にササる癖まだ治らないんか?」

 いやあ、と上田も頭を掻いた。

「東京と中京なら何とかなるんスけど、中山だとどうしても」

「ったく、いつまでもアンちゃんみてえな競馬して。今日はあんまヨレんなよ。良一さん(嶋田騎手)朝から機嫌悪いから」

「マジすか……気を付けます」

 そこまで言うと、近藤は上田の隣にいる進藤の方を向いた。

 

「進藤、初重賞勝利おめでとう」

 進藤はピッと背筋を伸ばして頭を下げた。

「他の厩舎の攻め(追切)には乗ってんのか?」

「はい。おかげさまで乗せてくれるセンセイ(調教師)もいらっしゃいまして」

「そか。アイツ(シビアレコード)とは全然違うだろ」

「難しいところはありますね」

「アイツがおかしいんだって。古馬の重賞馬でもあんな折り合える奴はいねえよ」

 どうやったらあそこまで折り合いつけられるのかあのセンセイはわかんねえな、と近藤がボヤいた。

 

 近藤は多少の暴れ馬でも腕で抑えることはできるが、いつも追い込み一辺倒になるのはどうにもつまらない。

 若い時には奇想天外な逃げや大まくりなどで中穴馬を勝たせてきたものだが、大手クラブに囲われてからは近藤が乗るというだけで人気になるし、後方で待機して直線ぶち抜きの()()()()()()な競馬しかさせてもらえない。

 関西(栗東)馬の方が質も量もいいといっても、大手クラブの依頼も受けながら逃げ先行からシンガリまで、様々な競馬を楽しんでいる東の中村兄弟や宜保を羨ましく思うこともあった。

 

 初夏の京都競馬はまだ4日目とあってなかなかの前残り展開が続く。

 ダートは開幕週も最終週も変わらないが、進藤が乗る3鞍は全て芝であり、強引に後ろからの競馬を選べばまず勝ち負けにはならない。

 アミランドは3番人気に支持されつつも後方の侭伸びず7着に終わったが、もともと後方からの競馬が得意のシングルベルではかろうじてハナ差の差し切りが決まった。

 口取り式を終え、谷地オーナーと軽く話した後着替えて騎手ルームに戻ると、天皇賞春のパドックが始まっていた。

 冬を超え、京都記念とドバイで叩いて調子を上げてきたジェルディサヴォアはすっきりと仕上がり、見た目に反して馬体重は2走前の京都記念と比べて+6kgの516kgと、いかにも成長分が見られる体形になっていた。

 なおドバイに出国する前の日本での追い切り後は522kgだったので、ドバイ出走時よりもマイナスであるかもしれない。

 

 

 長距離の逃げにも飽きたなァ……。

 ぼんやりとしょうもないことを考えながら、ゲート裏でいつも通り外ラチに寄りかかって、輪乗りをする他馬を眺めているが、どう予想しても俺を含めた昨年の菊花賞の上位3頭で決まる感じにしかならない。

 4番のサラノサイクロンも人気を集めてはいるが、今日は乗り替わりということでどうも息が合っている感じがないし、ヤネの伊丹騎手も、人間としての俺が生きていたころからGⅠを獲ってはいたが、テン乗りだとあまり信頼できないタイプであった。

 3番人気のサイヤーレは有馬記念を勝っていることからも3ターンの競馬は問題なさそうだ。

 一方鞍上の近藤騎手は実績もレジェンドクラスのベテランだが、ほとんどがマイルから中距離で稼いだ成績で、2500mを超える長距離はアテにならない。

 

 コウヘイに促されて輪乗りの輪に混ざっても、どうにも作戦が決まらない。

――ついでに言えば、脳の処理速度は馬なので、思考が移るのにだいぶ時間を要しているのもある。

 馬は2原色で視認しており、色の情報が少ないのでCPU容量を抑えてはいるものの、例えば京都競馬場の芝の色は目を開ければ茶色っぽく見えているが、人間の記憶で上書きされてしまうので目を瞑ればイメージカラーは緑のままだ。

 

 天皇賞春は菊花賞とは違い、長距離のスペシャリストが集結するレースである。

 馬が若い菊花賞は、初の長距離とあって折り合いをつけさせるために後ろからの競馬を選択することが多い。

 逆に折り合いをつけられず勝手に進出するような馬はまず3000mを走りきれない。

 

 一方で天皇賞春は逃げ先行差し追込、なんでもあるわけだ。

 何なら大逃げをかましてくる馬が複数頭いる年もあれば、普段後ろからの馬が急に前目につけて先団固まってのハイペースになる年だってある。

 菊花賞やキングジョージなどで上手くいった、淀の坂の稜線に隠れて一息つく、という戦法は使えないとみていいだろう。

 救いがあるとすれば、ドバイゴールドC同様3200mで「勝負」できる馬は18頭中5、6頭に過ぎないということだ。

 ネベルメナースとコンティルミエール、サイヤーレなどは後ろからの競馬なので気にしないが、谷地オーナーの馬で昨年このレースを勝ったモーリッシュは前目での競馬をするタイプだ。

 まさか同馬主の馬にマークをかけて潰してくるとは考えにくいが、サポートをしてくれるとも思えない。

 2頭とも勝負となる谷地オーナーからは特に指示の連絡はなかったようだ。

 

 仕方ない。とりあえず作戦はハナか番手として、モーリッシュが突っついてくるようなら併走する方針に決めた。

 前から行こうが後ろから行こうが走る距離は同じなのだから、あとはどこまでリラックスして走れるかの問題である。

 長距離に於いては、ロンシャンで試してドバイで完成させた“居眠り走法”はなかなか便利であった。

 

 枠入りが始まり、例によって真っ先にゲートに入るが、今日は可能な限りリラックスして走ると決めているので、威嚇はせずゆっくり()()()息を吐いた。

 

「お前ワザとやってるだろ。なんだよそのリアルな深呼吸は」

 上でアキさんが呆れたような声を出すが、一応ジョッキーカメラつけられてるんだから余計なことは言わないで欲しい。

 (シビアレコード)の乗り替わりの件も、朝日杯の時のジョッキーカメラに音声拾われていたから気をつけろってセンセイ(井野調教師)にクギ差されてただろうが。

 

 さすが長距離を走る馬だけあって、反抗したりゲート入りを渋る馬はいない。

 俺が入ってから、「出ろ」の合図があるまで1分とかからなかった。

 アキさんの脚に力が入り、ゲートが開くと同時に重心が前に倒れる。

 完璧な3完歩でハナを奪い、淀の坂を登る。

 アキさんの手綱は動かず、むしろ既に緩み切った状態だ。

 完全におまかせモードらしいので、耳を立て後ろに向け、後続の足音を拾う。

 

 先頭に立つと後ろの馬が誰かわからないが、およそ3馬身のリードをキープして淀の坂を下る。

 せっかく楽に端を取れたので、お試しの作戦だが、「周りに合わせて走る」というものを試してみたくなった。

 後ろの馬は下り坂でも寄ってくる気配がないので、俺もペースを変えない。

 

 アキさんもなにもリアクションをしないことを考えると、もしかしてここは負けてもいいとか、そういう指示が出ているのではなかろうか。

 

 1周目のスタンド前に入ると、大歓声に煽られて後続のペースが少し上がったので、こちらも少しペースを上げる。

 多分1コーナーでブレーキがかかるはずだが、アウトインアウトでコーナーに少し突っ込んでから俺もブレーキ。

 強引に3馬身を保ったまま、ペースを落としながら2コーナーを抜ける。

 

 ここからがお楽しみだ。

 ペースはそこまで速くないので、コーナーが苦手な馬が向こう正面の直線で前に進出してくる。

 コーナーでは加速できないから、今のうちに好位置を取って最終直線を迎えようという狙いである。

 1頭分だった後ろの足音が3頭分に増え、いちばん外が少し抜けた気がする。

 音に合わせてまた少し加速し、淀の坂を登りながらブレーキをかけ呼吸を整える。

 他馬が加速してくるのは3コーナーを抜けた後なので、俺は淀の坂を下り終えるまでペースを落とせる。

 現代の王道を外れ、理想的な「ゆっくり上りゆっくり下る」ことに成功し、後続の加速と同時に得意な急コーナーを加速しながら回ると直線入口でまた急減速。

 さすがにアキさんもコレには慌てて、急にハミをいっぱいに詰めたかと思うと腰を落として追い始めた。

 

 というか、これヤベえ。さすがにふざけすぎた。

 終始インターバルランみたいなことやってたから息の入りが足りてない。

 アキさんには悪いが口を開けて一気に空気を吐き出し、鼻と口から空気を吸う。

 深呼吸を3回ほど繰り返してようやく落ち着いた。

 

 直線に入ればターフビジョンが見えるので、横目でビジョンを見ると2番手の【6】は苦しそうな反応で、先行勢の伸びがない。

 

 口を開けたことでハミがズレてしまい、アキさんの動きを無視してスローのペースを保ったまま残り300mほどまで待機すると、外から見慣れた【8】と、【12】が伸びてきた。

 セレンレーシングの勝負服なので一瞬サイヤーレかと思ったが、場内実況を聞く限りオーロレガーメだった。

 

 アイツがステイヤーだって?いや流石にもたんよな?

 俺も少しずつ加速していき、チラッと首を振ってオーロレガーメが2番手に抜けてきたタイミングでトップスピードに戻し、手前を左にする。 

 

 アキさんが左ムチをくれたが、左にモタれたままでも俺の予想が正しければ――オーロレガーメは内にササるからクロスラインになる。しょうがないよ。金色(Oro)の血だもの。

 とはいえあまり左に寄りすぎると、今度はコンティルミエールの前をカットすることになるので、少し走って右手前、残り50mでもう一度左手前でゴールを駆け抜けた。

 

 アキさんが上で大きくため息をついた。

 

<ファンファーレが鳴り響きました、京都競馬場はメインレース。第185回天皇賞・春。

京都競馬場名物、淀の坂を2回上り下りする3200mに、フルゲート18頭のステイヤーが集まりました。

向こう正面、坂の手前からのスタート地点。15番のラストコンヴィンスが収まって、偶数番号の枠入り。

枠入りは順調のようです。連覇を狙うモーリッシュ、6番ゲートに誘導を受けます。

最後の枠入りは18番のピリッキオス。ゲートに収まります。

 

スタートしました!

 

17番のジェリーホーネット、9番のディラクケンややダッシュがつきません、後方から。

やはり好スタート好ダッシュ、ジェルディサヴォアが行きました。押して2番手2番のドゥーディブラック、ラストコンヴィンスが行きます。

その後ろ、18番ピリッキオスを内から交わしてカナエブリスベンが今日は早めに行った4番手から。

ホワイトオリビアと10番オーラスディグが先行集団。1馬身離れてヴェステロース、その外から6番のモーリッシュ。連覇を狙います。

 

外回りコースに入って、まずは1周目の3コーナーを各馬カーブしていきます。

2馬身差内には1番のコンフォルトデイ、オーロレガーメ栗色の馬体。

外から並んで行く16番のサイヤーレです。

その後ろ、内に3番のサラノサイクロン。順位を押し上げて7番のボトムオブセンス。

 

1馬身それを見る格好で8番のコンティルミエール、スタートやや後手を踏んだディラクケンがこの位置。

2馬身差後ろに11番ネベルメナース、その後ろ2馬身離れて最後方17番ジェリーホーネットで、各馬正面スタンド前に出てまいります。

 

大歓声に迎えられて、先頭はジェルディサヴォア、単騎先頭3馬身のリード。

まもなく最初の1000m、ペースはどうか60秒6。60秒をやや超えるペースでスタンド前を通過していきます。

 

ドゥーディブラックと並んで15番のラストコンヴィンス。

そしてカナエブリスベン、今日は早めの競馬で4番手の内、ピリッキオスが外目を追走。

 

先行集団隊列変わらず、1馬身差で5番ホワイトオリビア、連れて10番のオーラスディグ。モーリッシュが外目から先行集団を見る格好で、内には14番のヴェステロースがいます。

 

ここで各馬、1コーナーを右にカーブして、1番のコンフォルトデイと16番のサイヤーレ。

少し距離を取って12番のオーロレガーメ、ベテラン嶋田騎手、折り合いはどうか。2コーナーに入ります。

 

このあたり馬群がばらけて、3番のサラノサイクロン伊丹友樹(ともき)、初めての手綱。

2馬身差内に7番のボトムオブセンス、外から並んで8番コンティルミエールです。

 

各馬ここから、向こう正面バックストレート。

9番のディラクケンに、外から順位を上げていこうとする11番ネベルメナース大迫春寿。

2馬身差で最後方まだ17番ジェリーホーネットで、向こう正面中間坂の上りに入ります。

 

先頭に戻って、まだ3馬身で先頭13番ジェルディサヴォア。

坂の上り、外から一気に上がっていった同じ勝負服6番モーリッシュ、単独2番手に上がって外回りコース。

カナエブリスベンが差を詰めようかという恰好で先行集団早くも詰まってきました。

中団からはオーロレガーメとサラノサイクロンが外に持ち出して上がっていって800を通過、3コーナーから坂の下り。

 

さあ後方馬群が詰まってきた。ジェルディサヴォア、まだ動かないが手ごたえどうか。

カナエブリスベン激しく手が動いているが、外から押し上げるサイヤーレ鞭が飛んでいる600mの標識。

 

手ごたえがいいオーロレガーメ、その外大外に持ち出したコンティルミエールで4コーナーのカーブ。

白い馬体、ネベルメナース、1発2発とムチをくれて4コーナーから直線。

 

先頭ジェルディサヴォア、3馬身のリードですが、上田激しく追っている。

2番手モーリッシュ伸びを欠いているちょっと苦しいか、カナエブリスベンも前との差が詰まってこない。

外から外から、オーロレガーメ2番手に上がってくる。その後ろ叩いてコンティルミエールが一気の追い脚。200を通過した。

まだ先頭ジェルディサヴォア、ムチが入るリード3馬身粘れるか。

 

2番手オーロレガーメ、コンティルミエールとの叩き合いだが、追った追った3馬身、ジェルディサヴォアまだ先頭。

オーロレガーメ、コンティルミエール2番手に替わるか。

止まらないジェルディサヴォア、3馬身、3馬身、3馬身差のまま先頭ゴールイン!逃げ切った!

 

2着は最後替わったか8番コンティルミエール、オーロレガーメ最後交わされての3番手入線。

やっぱりスタミナ勝負では強い。

勝ち時計3分15秒フラット。上がり4ハロンは46秒4、3ハロンは35秒6でした。

 

終始先頭だったジェルディサヴォア、最後は上田が激しく追いましたが終わってみれば3馬身差での逃げ切り勝ち。

これで長距離重賞4連勝。

早くもスタンド前に戻ってきまして、上田騎手、ターフビジョンを見上げています。

 

第185回天皇賞・春。確定までお待ちください>

 

 

 

 息絶え絶えではあるが、急ブレーキをかけて外ラチ沿いに逆走し、ウィナーズサークルへの入口をオーバーランしてターフビジョンのリプレイをじっと見つめる。

 どうせ勝ち馬だから他の馬が戻ってきてから検量室にもどってもいいだろう。

 アキさんは何とか轡を返そうとしているが、もうちょっと待ってくれ。

 スタートシーンには間に合わなかったが、2コーナー辺りからのリプレイを見ることができた。

 

 向こう正面での距離感覚はバッチリ、3コーナーも、4コーナーも抜けて、直線では苦しそうだったモーリッシュが垂れるのにあわせてバッチリペースを緩められている。

 そしてオーロレガーメとタイミングを合わせての急加速。

 口が半開きでゴール後も耳を絞って泡を吹いているという、非常に見苦しい映像ではあったが、これはフルコンボ達成と言えるだろう。

 

 何がしたかったかと言えば、「スタートからゴールまで2番手が何度入れ替わろうと常に3馬身をキープして逃げ切ってみる」という逃げ作戦を試してみたのだ。

 神聖な天皇賞で完全に遊んでいたわけである。

 今日は天覧競馬ではない筈なので見苦しくても勝てばいいだろうと思っていたが、これはキツかった。

 アキさんが上に乗っていなければ芝生に寝転んで呼吸を整えたいところだ。

 アレをやってしまうと馬運車が乗り込んでくるからここじゃできないけど。

 

 長距離戦だと好き勝手出来るけど、古馬相手の中距離戦とかになると差し追いも考えた方がいいかもしれないな。

 結局今日も作戦を思いつかなかったばかりに相手次第の3馬身戦法になっていたわけで。

 だとしても天皇賞秋やジャパンカップは行きたくないんだけど、オーナーが凱旋門賞大して目指してないから秋には帰国しているだろう。

 それにたとえアンベストネヴァーが連覇しても半分近くあのオーナーの馬みたいなものだし。

 

 ちなみにこの後、俺は京都競馬場でもう一週間滞在する。

 京都遠征になる弟、シビアレコードが金曜日に到着するので、帯同馬としての役割をさせ、そのまま三木で輸出検疫に入る予定だ。

 キングジョージかゴールドカップかどちらになるかは知らないが、今回はシャンティイのマカロフィ厩舎ではなく、ニューマーケットのヒルストン厩舎に直接入厩する予定になっていた。

 

 

 





次は久々にウマ娘ver.入れます。


アンケート回答ありがとうございました。
折衷案の3がぶっちぎりかと予想していたんですが結構接戦でした。

せいぜい10年ぐらい先の未来設定なので、今現役の騎手のほとんどがまだ乗ってるはずですし、あまりオリジナルキャラを増やしたくはないのもあって、上田や進藤との絡みはできるだけリネーム騎手をと考えています。
ただ、モデル騎手の口調とかはせいぜい勝利騎手インタビューやyoutubeにある企画インタビューぐらいでしか確認できないので、なかなか難儀するところではあります。
されど10年。それくらい経てば今は丁寧な「後輩」たちがオラオラ系になっていてもおかしくない。 


余談なんですが、
レースの枠順はランダム一発抽選です。
着順はストーリー上決まってる着順だけ固定して、それ以外の馬は人気順とかで数頭でブロック組んで抽選かけているんですね。

そしたらジェリーホーネットがいつも8枠に入れられてしまっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。