ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

47 / 70
ゴールドカップ(4歳以上 GⅠ)

馬番馬名アルファベット負担重量ゲート番
1カオスステッチCHAOS STITCH559,0kg6
2クルーエルロードCRUEL LOAD559,0kg2
3エクステンドマックスEXTEND MAXせん759,0kg4
4ホーリーディスティネーションHOLY DESTINATIONせん559,0kg1
5クルビッツKURBITS659,0kg7
6ジェルディサヴォアGEL DES AVOIRS458,5kg3
7ポートコンスタンツァPORT CONSTANTA458,5kg5




ホームステイ

 今年で開業4年目になるヒルストン厩舎は、はっきり言って「何もない」厩舎である。

 馬房自体は廃業した調教師が売りに出していたのを格安で買い取ったが、格安なだけあって事務所と馬房以外の設備はほとんど無かった。

 

 日本のトレセンではJRAが整備した調教施設を共同で使えるが、日本以外のほとんどの国ではコース以外は自前で造らなくてはならないのだ。

 もちろん他厩舎に頭を下げて金を払い、貸してもらうことは可能だが、あまり良い目では見られない。

 

 設備が充実すればするほど維持費も税金もかかるので、ハイテクな環境を持っていて羽振りが良さそうに見える調教師も、大抵ギリギリでやっているか、赤字経営になっているのが実情だ。

 

 そんな「何もない」ヒルストン厩舎はVIPを迎える準備に忙しかった。

 預託料も3割増で払ってくれた谷地オーナーの2頭、しかもどちらもGⅠ馬がやってくる。

 去年は3日しか滞在しなかったジェルディサヴォアを最低でも来月のキングジョージまでは預かることとなり、スタッフ全員を集めての事前ミーティングは3日に及んでいた。

 

 イギリスに於いてはジェルディサヴォアはヒール役で、日欧年度代表馬を獲得しムカつくアメ公どもを制圧してきたアンベストネヴァーの方が人気だ。

 逆にフランスでは自国の最強馬決定戦レースを制し、連闘というハンデを背負いながらイギリス王室に屈辱を与えたジェルディサヴォアがヒーロー。

 なお、日本国内ではどちらもヒール扱いではある。

 

 しかしヒールと言っても実績は高く、次走のゴールドCも全ブックメーカーが1番人気に推している状況。

 そんなジェルディサヴォアの到着を一目見ようと、ヒルストン厩舎のみならず近隣の厩舎のスタッフや現地の新聞記者、さらにはヒマな騎手までもが集まってきていた。

 

 馬運車が到着し、後扉が開けられると、真っ先にジェルディサヴォアがピョンと「飛び降りて」きた。

 馬は段差など高さの感覚、特に下に降りる場合の距離感を上手くつかめないので、ゆっくり降ろすのが鉄則だ。

 駆け下りたりすると転倒や骨折のリスクもあるので、見守っていたギャラリーからも小さな悲鳴が上がった。

 

「恐怖心とかねえのかお前は。ちょっと待ってろよ」

 コウヘイがヒルストン厩舎のスタッフに曳き綱を渡した。

 スタッフの方はガチガチになりながら両手で受け取る。

 ただでさえ曳き綱を持っているスタッフが緊張しているのに、そのタイミングでジェルディサヴォアが立ち上がって背伸びをしたものだから、スタッフは悲鳴を上げて曳き綱を放り投げてしまった。

 

 放り出された曳き綱をジェルディサヴォアが自分で咥えて立っているのを、モーリッシュを降ろしてきたコウヘイが見つけ、

「何やってんだバカ野郎!」

と怒鳴りつけた。

 慌ててヒルストン調教師が曳き綱をジェルディサヴォアから受け取ったが、他厩舎のスタッフからも笑われ、現地新聞にも自分の曳き綱を咥えて待っているジェルディサヴォアの写真とともにデカデカと書かれてしまい、ヒルストン調教師とスタッフはコウヘイによる研修再審査となった。

 

 広大なニューマーケットでの調整は順調であった。

 日本での騎乗があるので上田はまだ渡英していないが、ジェルディサヴォアに一回でいいから乗ってみたい、という現地騎手の声も多く、毎回違う騎手が調教をつけるという特別待遇となっていた。

 最初の1週間は天皇賞春のダメージ回復の為、ほとんど走ることなくただ跨っているだけであったが、ロイヤルアスコット2週間前となればいよいよ現地調教が再開される。

 井野調教師も到着したので、一発時計を出してみることにした。

 当然ウォーレンヒルコースにはいかず、ライムキルンズのラウンド・ギャロップコースを1周。

 2600mぐらいでもペースは鈍らず、上々の動き。

 一方モーリッシュを管理する秦調教師はまだ来ておらず、ヒルストン調教師とメールでやり取りをしてスクーリングを進めている。

 

 日本では宝塚記念が行われる前日の土曜日、ロングヒル・ターフでジェルディサヴォアの最終追い切りがモーリッシュと併せで行われた。

 ロイヤルアスコット開催は火曜日から土曜日までの5日間連続開催である。

 ジェルディサヴォアが出走するゴールドCは3日目の木曜日、モーリッシュが出走するハードウィックSは5日目の土曜日なので、土日開催の日本でのスケジュールと同じようにはいかないのが難しいところだ。

 上田は宝塚記念当日まで乗鞍があったので最終追い切りも現地の騎手が跨っていたが、

「こんな折り合いのない馬じゃ勝てない」

と、太鼓判であった。

 

 

 やはりアスコットは馬場の柔らかさがちょうどいい。

 それと反比例するように井野センセイもコウヘイも、アキさんもガチガチになっているのはロイヤルアスコットの格調に完全に気後れしているからだ。

 

 アスコットの走り方というのは昨年のキングジョージと大して変わらない。

 しかも今日は7頭立ての小頭数。

 もとより長距離戦などGⅠだとしても大して出走票数を集めるものではないが、2番手評価がドバイゴールドカップで2着だったクルーエルロードなので、ブックメーカーでも俺の1倍台評価は変わらず、オンラインベットでは競馬には珍しく追加予想まで付けられており、「ジェルディサヴォアが2秒差をつけて勝つ」のオッズは2.8倍となっていたらしい。

 日本での馬券発売はなく、グリーンチャンネルでのライブ放送もなし。

 日本での注目度は低いレースだが、せっかくのロイヤルアスコット4000m、楽しまない手は無かろう。

 

 まずはきっちりとベストターンドアウト賞を戴く。

 

 パドックに入ったときはやや緊張が残っていたが、周回を重ねるうちに姿勢も落ち着き、歩様もしっかりしてきた。

 コウヘイが。

 

 パドックの中では谷地オーナー、井野センセイ、アキさんが話し込んでいるが、オーナーもセンセイもシルクハットが似合わない。

 スーツやモーニングだけなら決まっているのに、シルクハットを被るならもう少し太った方が似合うと思う。

 

 欧州はすでに短中距離偏重が進んでいるが、さすがロイヤルアスコットと言うだけあってゴールドカップにもロイヤルファミリーが臨席され、観客エリアも賑わっている。

 ゴールドカップはロイヤルアスコットで行われるレースの中では最も歴史が古い。

 ブックメーカーによる売り上げも大きいレースの一つだが、あまりにもオッズがしょうもなさすぎるということで、今年は大幅な減収になるだろう。

 俺のWin(単勝)が1/10、俺→クルーエルロードのExacta(馬単)が3/5なんてやってられっかよ。

 

 アキさんが跨り、馬場に誘導されると歓声もヤジも大きくなった。

 一度ゴール板を通過する顔見世を行ったあと、ニューマイルコースの半ばあたりにあるスタート地点までのんびり歩き、時間になったらゲートに誘導を受ける。

 

 馬場状態は「Good to soft」。稍重だ。

 これは最終日のモーリッシュは苦戦しそうだが、俺にとっては絶好。

 強く踏み込むと一瞬マットのように柔らかく受け止められ、ロイター板のように跳ね返ってくる。

 ホッピングで飛び跳ねているような心地よさだ。

 ゲートが開いて1完歩目。

 まさに弾かれたように飛び出した――。

 

 

 メディアセンターで他の記者連中とともに観戦をしていた寺尾は、最初、ロケットスタートで飛び出し5馬身の差をつけて逃げるジェルディサヴォアの姿を頼もしく観ていた。

 

 ターフビジョンには国際放送と同じ映像が流れ、場内実況もされているが、寺尾はそこまで英語力はない。

 最初の長い直線を走る馬達の姿が大きくなるにつれ、普段は声援が上がるところ、ざわめきと、悲鳴が随所から漏れていた。

 寺尾のすぐ近くにいた観客が、

「クレイジー!」

と叫び、隣の日本の記者も、

「速すぎる!」

と声を上げていた。

 

 ジェルディサヴォアが既に10馬身以上離して逃げている。

 ターフビジョンにはハロンごとのタイムが表示されているが、日本のように1000m通過タイムは表示されない。

 しかし映像と同時にタイムも常時表示されているので、ゴール板まで1ハロンの標識があるあたりが最初の1000mとしてタイムをみると、「1:00:02」だった。

 

 アスコットの稍重馬場で、しかも超長距離レースとなれば、1000mは1分10秒を超えるのが当たり前だ。

 それを、東京競馬場と勘違いしているかのように、1分ちょうどで最初の1000mを通過するなど、上田の頭か体内時計かが確かに狂っている。

 

 しかもリードはまだ10馬身ほどである。

 例えばこれが40馬身でも差がついているならまだ良かったのだが、10馬身となれば2番手以降のタイムも1分5秒程の圏内になっているのだ。

 

 最初のコーナーを差し掛かるところでジェルディサヴォアがようやくペースを落としたようだが、それでも2番手のホーリーディスティネーションとの差がどんどん広がっていった――。

 

 

 (ざまあみろ。みんな掛かってやんの)

 コーナーを抜けてから少しずつ離れていく後ろの馬たちに耳を揺らして挑発しながら、レースへの集中を切る。

 散々折り合いが無いだとか言いたい放題言いやがって。

 

 欧州の調教は日本の調教よりじっくり進められる。

 特に重視されるのが、他の馬のペースに合わせて歩く縦列訓練。

 なお日本で採り入れようとすると、乗り役の数と調教時間を人一倍つくらなくてはならないので、東西のトレセンではなかなか難しい。

 

 その慎重なトレーニングの結果、後ろの奴らは俺のハイペースに必死になってついてきている。

 コーナーに差し掛かって俺の姿が一瞬視界から消えるタイミングで、ようやく2番手の騎手が抑えることに成功したようだ。

 

 で、こうなると既に序盤で消耗した上に、馬群の中で落ち着くように調教を積まれた欧州馬どもはまるで動けなくなるので、俺がペースを落としても後ろはさらに離れていくのである。

 

 俺は去年のキングジョージで経験済みである、2400mの発走地点からスウィンリーボトムまで約2.6%の下り勾配。

 日本の一般的な橋の勾配は5%前後なので、2.6%の下り坂と言えばそこまで急な角度には思わないかもしれないが、馬は距離感をつかむ為に必要な立体視できる範囲が狭いのだ。

 「ベタ踏み坂」と言われる橋の勾配を望遠レンズで撮って、あたかも壁を登っているように見せている写真は有名だが、ああいう感じに見えてしまう。

 

 でも俺はこれぐらいの坂なら感覚だけで降りられる。

 お祖父ちゃん宅の狭く急な階段の記憶と比べたら大したことはないだろう。

 むしろ前をしっかり見ると逆に怖い。

 

 俺がリードを広げたことで、坂の先まではっきり見えるようになってしまった後の奴らは恐怖心で苦戦しているようで、さらにリードが勝手に開いてゆき、スウィンリーボトムに差し掛かるころには大逃げも大逃げ20から30馬身のリード。

 イメージしづらいと思うが、ツインターボのオールカマーぐらいだと思ってくれればいい。

 

 コーナーの手前でアキさんが手綱を軽く引いたので、稜線の陰に隠れて一休み。

 遠征で睡眠時間も短かったので程よく眠い。

 スウィンリーボトムの入り口と出口にはちょうど坂の陰に隠れられる場所があり、そこで手前を替えて息を整える。

 ハロン13秒台ぐらいのペースに落として欠伸をしながら走っているが、もとより30馬身のリードなら10秒以上の余裕がある。

 

「よーし、行こうか」

 

 後ろを見ながら距離を測っていたアキさんが、手綱を緩めて軽く振った。

 それどっちかっちゃ輓曳やトロッターの加速合図だろ。

 まあ分かってるから別にいいけどさ。

 俺も片目だけ開けてスピードを戻し、オールドマイルコースに入って少しずつ加速。

 

 もとより4000mの超長距離レースであれば、爆発的なスピードなんてほとんど必要がない。

 また、いくら心肺機能が強かろうと、血液が体内を循環するスピードが限られている以上、馬が全力で走れる距離は、長距離馬だろうと短距離馬だろうと、ある程度均しく決まっている。

 結局ハード面では能力差はほとんど出せないので、勝負はソフト面の技量差だ。

 要は、いかに効率よく休めるか、いかに他馬を休ませないかという、駆け引きになるのだ。

 あとは馬場のコンディションなどの付加条件も加味する。

 

 そして、全ての条件が味方しているこの稍重アスコットの4014mは、俺の庭だ。

 

 後続の足音は全く聞こえないが、残り5ハロンの標識のあたりが稜線に隠れられる最後の休憩ポイントだ。

 とくに最後のコーナー、4ハロンからニューマイルコースに合流するまでの谷の勾配は急なので、後続からは完全に見えなくなる。

 

 口と鼻を全開にして息を吐き出し、手前を替えたら準備万端。

 最後の直線に入る。

「全然来てねえけど、行くだけ行っちまうか」

 アキさんが苦笑しながらハミを少しずつ詰めたので、ちょっとだけペースを上げてスタンド前を通過すると、アキさんが馬上で立ち上がったのが分かった。

 

 まだゴールまで1ハロン以上あるが、内側のターフビジョンを横目で見ると、馬が米粒に見えるぐらい引きの映像であった。

 つまりはまだ15馬身以上のリードはあるので、一応ペースをキープしながら、ファンサービスをしているアキさんと一緒に、少し首を傾げて外側に顔を向ける。

 ゴール板を通過するタイミングではっきりとスタンド側を向いたので、ゴールの瞬間の写真はスタンドに向けてガッツポーズをするアキさんと、ややカメラ目線の俺のツーショットになっていた。

 

 大してゴール前で追われてもいないので、ゴール板を過ぎたらさっさと外ラチ側で止まって振り向き、他の馬がゴールするのを待つ。

 流石に2着のクルーエルロードと3着のクルビッツのゴールには間に合わなかったが、その後ろ、カオスステッチとエクステンドマックスの入線は見届けることが出来た。

 

 あと2頭来ねえなー、と思いながら待っていたが、俺のハイペースに懸命についてきたホーリーディスティネーションは最後のコーナーを待たずして競走を中止したようだ。

 一方、ヨロヨロと最後の直線を歩いていたポートコンスタンツァは、ゴールまで2ハロンというところで騎手が下馬すると、その場に倒れ込んでしまった。

 

 ああ、ありゃ死んだな。

 さっさと止めりゃ良かったのに何やってんだか。

 黒いシートで覆われていくのを見届けると、谷地オーナーや井野調教師(センセイ)が待つウイナーズサークルに戻った。

 まあ白けている。

 勝ち時計は4分13秒24で、レースレコード。

 後半、かなり抜いて走ったのでその分タイムが伸びなかったが、反動も少ないことを考えたら悪くない結果であろう。

 2着のクルーエルロードも10馬身差ぐらいだから、4分15秒前半か。

 こいつも稍重でよく走ったと思う。

 

 

<ニューマイルコースの半分、2.5マイルのスタート地点に各馬揃って、2037年のゴールドカップがスタートです。

先頭には誰が立つのか、紫色の勝負服紫の帽子、ジェルディサヴォアが前に行きます。

ついていこうとしているのは内側、画面の左側からホーリーディスティネーション。果敢に挑んでいきます。

ポートコンスタンツァは左右にフラフラと走りながらいい場所を探して、エクステンドマックスの赤い帽子は一頭だけですので目立ちます。

クルーエルロードは雪辱を誓ってこのレースに出走。もちろんターゲットはジェルディサヴォアです。

画面の右端、一番外側を走っているクルビッツ。まだコーナーまでは距離がありますから大外を走ってもロスはありません。

最後方を走っているように見えるのがカオスステッチです。

 

少ない頭数ではありますが世界の長距離スペシャリストが、アスコットに集まったロイヤルファミリーの前で強さを見せつけるでしょう。

しかし異変が起きています。左下に表示されている1ハロンのタイムが、11秒台を指しています。

これは早いタイムで次のハロンタイムは、11.8。これは明らかに速すぎます。

 

先頭を走るジェルディサヴォア、上田はブレーキをかけません。ホーリーディスティネーションに10馬身近くのリードをとっています。

彼は15ハロンを超えるレースを走り続けている日本のステイヤーですが、19ハロンを超えるレースは初めてのはずです。

 

ホーリーディスティネーションは彼についていかない方が賢明かもしれません。

その後ろに1.5馬身差で走っているエクステンドマックス。後方の馬たちも惑わされているのか、この速いペースについて行ってしまっている。

少しずつ内の方に寄っていっているクルビッツ。一番内側から少し距離を取って走っているのがポートコンスタンツァです。

強い馬の象徴でもある青い勝負服がクルーエルロード。少し距離を取って一番後ろをカオスステッチが走っています。

 

大きく先頭を走っているジェルディサヴォアはもう1度目のゴールポストまで1ハロンになるところ、例年のゴールドカップより15秒は早いタイム。

ロイヤルアスコットの長距離レースをゆっくり楽しみたかった観客たちの前を、まるで日本の新幹線のようにあっという間に通過していって、コーナーを右にカーブしていきます。

 

ここからスウィンリーボトムまで丘をひたすら下っていく。

このあたりは1.5マイルレースのスタート地点になっているところで、彼らは最初の1マイルを走破したことになります。

いや、まだジェルディサヴォアだけが走破している。後ろのホーリーディスティネーションから後ろの馬は今通過しました。

 

画面が大きく引いて、なんとか全馬をカメラに収めようとしていますが、先頭は10馬身以上のリードをつけているジェルディサヴォア。

2番手はホーリーディスティネーション。エクステンドマックスも続いていく。外側を走っているクルビッツ。

後ろには2頭、クルーエルロードとカオスステッチはスタートからここまでずっと一番後ろを走っています。

 

もうすぐ先頭のジェルディサヴォアはスウィンリーボトムに入ってしまいます。

彼は去年、キングジョージでこのコースを経験しています。あの時も大きくリードを取っての逃げでしたが、今日はそれ以上です。

カメラはホーリーディスティネーションを映せなくなりました。それほどのリードは前代未聞です。

彼らは何としてでもジェルディサヴォアに追いつかなければなりません。

 

ジェルディサヴォアだけがスウィンリーボトムを通過して、オールドマイルコースに入っていきます。

ここから上り坂がずっと続くアスコット競馬場ですから、彼のリードはここで無くなるでしょう。

 

2番手ホーリーディスティネーション。クルビッツはポートコンスタンツァより外側を走っているのでややロスがあります。

エクステンドマックスが少し後ろに下がって、それに外から並んでいったクルーエルロード。そしてまだ一番後ろを守っているカオスステッチです。

 

全馬がオールドマイルコースに入って、ようやく真正面のカメラが全ての馬を映しています。

しかしそれも長くは続かないでしょう。

アスコットを独占しているジェルディサヴォアが、もうすぐ彼だけ、最後のコーナーに入ってしまうからです。

リードが小さくなっているように見えますが、まだ20馬身以上のリードがある。

 

ここで2番手が替わりそうだ。ホーリーディスティネーションがどんどん後ろに下がっていく。クルビッツが替わって2番手になった。ポートコンスタンツァはジョッキーが促しています。

外からクルーエルロードがこの集団の先頭に立とうとしている。しかしここが先頭ではありません。まだ20馬身先に1頭残っている。

ここでようやく最後尾を脱したカオスステッチも続いていった。

 

先頭を映しましたが、ジェルディサヴォアがすでにニューマイルコースと合流してしまった。

届かない。これは他の馬は勝ち目がない。

残り3ハロンだというのに、クルーエルロードはまだ15馬身以上後ろ。

上田の手はまだ動かない。いつでも来いと後方の馬を待ち構えているようだ。

 

残り2ハロン、すでに上田が立ち上がって力強く拳を振り上げている。

ジェルディサヴォアが止まらない。さらにスピードが増している。

クルーエルロードとクルビッツが激しくムチが入っているが、リードがまた広がっていく。

ジェルディサヴォアに最後まで戦いを挑んだのは2頭だけだった。彼らの後ろも距離が開いている。

 

収集家(借金取り)がまたイギリス王室に支払いを求めている。

昨年70万ポンドを奪い取っていったのに、今年は37万ポンドだ。

誰も太刀打ちできない。日本のジェルディサヴォア、10馬身以上のリードをつけてゴールイン!

2着は……まだか、今入線したクルーエルロード、その後ろも時間がかかりそうだが……クルビッツが3着。

 

ジェルディサヴォアはもう脚を止めて、ゴールの方向を見ています。

その目の前で、カオスステッチがゴール。大きく離れてエクステンドマックスがゴールしました……>

 

 

「だから言ったろうが。4000mで1000m通過1分ちょうどなんてやったら他の馬が死ぬって」

 井野センセイに舌を縛っていた包帯を解いてもらうと、谷地オーナーが頭に抱きついてきた。

 少し離れた場所では、アキさんがインタビューを受けている。

 こいつらのハードスケジュールっぷりは凄まじく、このあとロイヤルアスコット最終日にはモーリッシュが出走するにも関わらず、谷地オーナーだけでなく井野も、寺尾さんも明日の朝には発ってしまうらしい。

 日曜日に(シビアレコード)が出走するので見届けるためである。

 谷地オーナーもご機嫌なので、全員ビジネスクラスにでも乗せてもらえることだろう。

 

 

【全報スポーツ】

〜狂気か必然か。ジェルディサヴォアの大逃げ〜

 

 ロイヤルアスコット3日目に行われたゴールドC(GⅠ)で、日本のジェルディサヴォア(牡4)が前代未聞の大勝利を飾った。

 4014mの走破タイムが4分13秒24と、レースレコードタイムを約1秒半更新(記録されている従来のレコードタイムは2025年トローラーマンの4分15秒02)。2着のクルーエルロードに10馬身差を付けた逃げ切りで、鞍上の上田秋信騎手が残り400m程の地点からスタンドにパフォーマンスをするほどの余裕を見せた。

 

【映像】大楽勝!ゴールドカップを逃げ切ったジェルディサヴォア(外部リンク)

 

 着差もさることながら、注目すべきは最初の1000mをほぼ1分ちょうどで進んだことである。

 日本においては1000m60秒は標準タイムとされているが、馬場が重くペースが遅い欧州では超ハイペースと言っても過言ではない。

 事実、ゴールドカップでは一般的に1000m通過が1分15秒前後になる。

 

 はたしてこの「狂気の大逃げ」を繰り出した背景には何があったのか。

 上田騎手は「こんなにノビノビと走るジェルディサヴォアは初めてだった。おそらく稍重のアスコット馬場が完全にマッチしたのだと思う」とコメント。

 しかしもう一つ、このレース展開は「作戦通り」だったと考えられる理由があった。

 

 話は昨年の菊花賞とステイヤーズSの間に遡る。

 ジェルディサヴォアは上田騎手を背に美浦Eコース(ダート)を2周し、5分9秒台で走破している。

 この時井野師が課したノルマが、1000mを1分ちょうど、上がり3ハロン36秒台だった。

 美浦トレセンのEコースは1周2150mだが、スタート地点は引き込み線の試験用ゲートからだったことを考えると、2周で約4400mから4500mほどになる。

 それを5分9秒台(ハロン平均13.7秒)で走破し、しかも試験後もすぐに息が入った。さらにはその後のステイヤーズSでレコードをたたき出し、その時の平均ラップは12.3秒だった。

 翻って今回のゴールドカップの平均ラップは12.75秒。合っていないとされている日本の馬場、そして今回の完全にマッチしたアスコットの馬場でほぼ同じラップタイムを出せたのは「必然」と言っていいのかもしれない。

 

 なお、このレースは7頭立てながら完走は5頭。

 ポートコンスタンツァはゴール前で心不全を発症しその場で死去。ホーリーディスティネーションは最後のコーナー手前で競走を中止し、その後安楽死処置がとられたことからも、このレースがいかに過酷だったかを物語っている。

 

 ジェルディサヴォアの現況について井野師は「ウイナーズサークルに戻ってきたときには汗も引いていた。キングジョージまでゆっくり仕上げていく」と余裕のコメントを残した。

 

 




ゴールドカップはたとえ日本馬が出走してもライブ放送無さそうなので、国際映像の英語実況翻訳風で。
今年のロイヤルアスコットは「グリーンチャンネル開局30周年記念番組」と銘打って、例年はやってないし。
「収集家」は「借金取り(Collector)」の自動翻訳ミス。

ゴールドカップのレコード、よりによってつい先日更新されました。
それ以前のレコードは88年サディームの4分15秒68で、
最初は「レコードを2秒以上更新!すごいタイムだ!」って書きましたが、投稿直前で1秒半になりました。

トローラーマンもあのタイムで後続しっかりついてきてのレコードなので、底上げされたら13秒台も現実味のない数字では無さそう。
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