ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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今回は発走まではいきません。


ブリティッシュ・ミッドサマー・ボーナス

 ニューマーケット(Newmarket)調教(Training)(Ground)では、キングジョージⅥ&クイーンエリザベスSに向けての調整が続いている。

 ここにはダートコースはなく、ギャロップコースは芝か、ポリトラックコース。

 というわけで、いくらゴールドカップでバカみたいなレコードを出していようと、芝コースで負荷をかけないわけにはいかず、ニューマーケット競馬場から街を挟んで反対側のベリーサイド(Bury Side)にあるライムキルンズ(Limekilns)でのんびりと走っている。

 ニューマーケットのレースコースからは遠いが、ヒルストン厩舎がこちら側にあるのだから仕方ない。

 

 そのヒルストン厩舎は俺が入厩してから見学者が一気に増えたらしい。

 海外ではツアー客が馬房や放牧中の馬に手を伸ばして触れるのは珍しくないし、マナーには反するがフラッシュを焚いて写真を撮るのも普通だ。

 日本からのツアー客よりフランスやドイツあたりからのツアー客のほうが熱狂的で、俺の馬房の前に人だかりができた。

 はがし屋を務めていたコウヘイが面倒くさくなったのか、事務所の前に連れて行かれ、そこで撮影会となった。

 

 気分はコスプレイヤーの囲み撮影会。

 いややったことはないが。

 美女コスプレイヤーならわかるが、馬の尻を撮って楽しいか?後ろの人。

 順番に回るから待ってろ。

 

 日本からのツアー客も増え、コウヘイが質問に答えたりしていたが、質問コーナーなんて美浦でやればよくないかな。

 どっちかっちゃ調教に出ている方が楽しめるだろ。

 というわけでコウヘイ、キャンター行こうぜ。

 

 ウォーレン・ヒルの方が話題になるのかもしれないが、ヒルストン厩舎のホームはライムキルンズ。

 ツアー客の前を2往復ぐらいすれば撮影会終了。

 まるでセリ前の展示走行だなこれは。

 

 ゆっくりと走り回ったり、ヒルストン厩舎の下級馬と併せたり、スタッフの騎乗訓練に付き合ったり、ツアー客と遊んだりしていると、ある日馬房前に馬運車が停まり、井野センセイと一緒に、(シビアレコード)が降りてきた。

 

 相変わらず蹄音(あしおと)を響かせて歩くことに余念が無さそうな登場であったが、ヒルストン厩舎のスタッフによって外に待機させられていた俺を見つけると、コウヘイの曳き綱を引き千切らんばかりに引っ張って、俺の腹の下にスライディングしてきたのだ。

 

 

「大丈夫そうだな。これなら」

 井野の言葉に、ヒルストン調教師も苦笑いをしながら頷いている。

 井野が同伴していたとはいえ、帯同馬なしの単独輸送では流石に神経をすり減らしたようで、貨物機から降ろされた時は耳も絞りきり、蹄鉄の音も静かだった。

 

 それがニューマーケットに着いた途端これである。

 すっかり毛艶も戻り、兄の脚を噛んで遊んでいるので、馴致の必要もなさそうだ。

 コウヘイやファンが動画を撮りまくっているお陰もあって、腹の下でシビアレコードが伏せている映像特集が動物系バラエティ番組で紹介されていた。

 馬名などは無く「お兄ちゃんが大好きな甘えん坊の馬」とだけ紹介されたが、“X”や競馬板を中心に、「さらっとジェルレコ兄弟出てて草」とか「あの…一応世界最強クラスの競走馬なんですけど」とか「ゴルシ『おもしろ部門はまだか?』」など、視聴者の反応で盛り上がっていた。

 

 重賞出走クラスすら片手で余るヒルストン厩舎の所属馬では併走相手としては足りなかったが、ジェルディサヴォアの帯同馬としてモーリッシュもまだニューマーケットに残っているので、かなりハイレベルな3頭併せができる状況になった。

 

 

【全スポ】

~100万£を目指して シビアレコード調教スタート~

 

 サセックスSに向けて渡英したシビアレコード(牡3)が、滞在先のニューマーケットで調教を開始した。

 ニューマーケット名物のウォーレンヒルコースで行われたシビアレコード、ジェルディサヴォア、モーリッシュによるGⅠ馬3頭での併せ調教の様子は現地メディアも大きく報じている。

 ジェルディサヴォアは連覇をかけてキングジョージⅥ&クイーンエリザベスSに、モーリッシュはグッドウットC、シビアレコードはサセックスSにそれぞれ出走予定。

 ジェルディサヴォアとシビアレコードが「兄弟V」を飾れば、100万ポンドのボーナスを受け取ることができる。

 

~現地・寺尾~

 

 

 日本では夏競馬真っ盛り、新潟や中京で「朝夕開催」が行われている頃、イギリスではキングジョージⅥ&クイーンエリザベスSが、そして週明けからはグローリアス・グッドウッド・ミーティングが開催される。

 アスコット競馬場もグッドウッド競馬場も、俺たちが滞在しているニューマーケット調教場から見て、ロンドンを挟んだ南西側にある。

 アスコット競馬場まで車で2時間、そこから更にグッドウッドまで車で2時間といった距離だ。

 

 忙しいのが俺で、シビアレコードの帯同馬も兼ねることになっているため、キングジョージを終えたらニューマーケットにトンボ返りして、月曜日の朝、3頭揃ってグッドウッドに移動することになっている。

 

 最終追い切りの木曜日になるとアキさんとモーリッシュ主戦の太刀川騎手、そしてマコ(誠紅)までもが揃ってやって来た。

 マコは京都新聞杯の時にはまだ10勝いくかいかないかだったはずだが、あれから2ヶ月で20勝したわけあるまい?

 しかしアキさんや井野センセイの会話を聞く限りではサセックスS、乗るらしい。

 就労ビザが取れたからこっちに来て、イギリスには若手騎手の騎乗制限はないから乗れると。

 そんな裏技があったのか。

 

 最終追い切りはウォーレンヒルの芝を走る。

 それぞれ主戦騎手が跨がっての3頭併せになったが、太刀川騎手だけ腕がレベチだ。

 もちろん見習い騎手のマコや9年も後輩のアキさんと比べられるのも迷惑な話だろうが、下積み時代長かったものなあ……。

 というか、前の俺が生きてた頃はローカル重賞ですらたまに乗る程度の騎手だったけど、ということは谷地オーナーの馬に乗り始めたのはここ数年か。

 

 そもそもの話、死んでから転生するまで5年ぐらい空いてるんだが、谷地オーナーの馬なんて前世ではほとんど知らなかった。

 俺が死ぬ切欠となった、ロットクリアバイの産駒は今まで見かけたことないけど、アズサロケットの子供はスプリングSに居たわ。

 ご丁寧に父はリリックジェームズだったし。

 

 俺の父のセスナだって、有田騎手が乗って4番人気の未勝利戦でボロ負けしてたのを一回見かけただけだった。

 無理に決まってんだろあの馬体で中京1400はさ。

 

 あのあと“X”に

「セスナ絶対距離足らんって。ここに出走させるとか調教師はアホなんか?普段の調教で何見てんだろうな。

杉谷あたりで京都か中山の2000以上に出てきたら買うわ。

もし次もマイル戦なんかに出てきたら無能過ぎる。転厩したほうがいい」

って書いたんだよな。

 井野センセイ、悪口書いて悪かったな。

 そしたら息子の俺までおんなじような馬になっちまった。

 

 さて、だいぶひん曲がってはいるが、曲がりなりにも俺も馬だ。

 走っていると左右のモーリッシュとシビアレコードからのメッセージも伝わってくる。

 初めての洋芝での追い切り、シビアレコードからのメッセージは――

 

「メッッッッチャ走りやすい!!」

であった。

 

 同じ父セスナであるモーリッシュはずっと走りづらそうにしているから、セーフティアイコンの血か。

 思い出出走の函館記念でも頑張っていたらしいし、洋芝強いんだろうなお袋。

 

 というか、このままだと繁殖入りしても俺に仕事ないぞ。

 勝ち鞍見てもスピードある弟のほうが魅力的だし、多分モーリッシュ先輩は1,2年で乗馬だ。

 まあ、それ以上に同世代にタスティエーラ産駒のドメスティックギアやイクイノックス産駒のジェリーホーネットがいるからそっちに人気集まるだろうしな。

 ステイゴールド血統のアンベストネヴァーも、サトノダイヤモンド血統のリヴェッティもキリの方に振れたピンキリタイプだし。

 

 未来の話はそれくらいにして、直近の話をしよう。

 

 ここのところ、イギリスに雨が降ってない。

 もともと降雨量は少ない地域だが、朝夕に霧雨のようなものが降ることが多いはずだ。

 

 それが7月に入ってからまるで降らない。

 

 ニューマーケット調教場も芝生の保護と散水のため芝コースのほとんどが閉鎖されており、ポリトラックのオールウェザーコースが中心になっている。

 俺達が最終追い切りを行ったウォーレンヒルも、グッドウッド・ミーティングが終わったら一時閉鎖される予定になっており、駆け込みの調教のために広大なターフコースにもかかわらず大混雑している。

 キングジョージⅥ&クイーンエリザベスSが行われるアスコット競馬場も散水が必要な良馬場になる見込みであった。

 

 

【全スポ】

〜ジェルディサヴォア連覇へ 敵は天候か〜

 

キングジョージⅥ&クイーンエリザベスSに向けた最終追い切りがニューマーケット調教場で行われ、ジェルディサヴォアはシビアレコード、モーリッシュとウォーレンヒルでの3頭併せに臨んだ。

シビアレコードから1馬身遅れではあったが、井野調教師もこれはいつも通りのことと納得の表情。

 

一方で、イギリス南部はここ半月ほど晴れが続いており、かなり乾いた馬場状態になることが予想されている。

上田騎手も「ジェルにとってはアスコットの稍重ぐらいがちょうどいい。ここ(ニューマーケット)の乾いた馬場では硬すぎた。アスコットも水撒いてくれたとしてもまだ硬いかも」と一抹の不安を覗かせた。

 




次回は24日予定

ついゴルシの名前出しちゃったけど、12年後、生きてるかな…?

28歳か。ピンピンしてるな。大丈夫だ、うん。
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