ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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【ウマ娘】ジュニア期の冬

 

 最近は頻度が減ったと思っていたあの変な革命組織が朝食前にまたビラを配っている。

 これがあるときは食堂の手前に人だかりができ、演説が終わるまで食堂は空いているので、スルーして食堂に入ってしまえば容易に席を確保することができるのだ。

 とはいえ夏を過ぎれば4月5月頃と比べ、食堂の混雑は緩和されている。言うまでもなく、未勝利のままクラシック期を終えてしまった先輩方が去っていくからだ。

 もう少しすると家庭の事情で連れ戻されたり、進路を変更する先輩方も出てくるのでさらに空くだろう。

 

 先に預かっていた2人の鞄を置き、自分の分は先に注文する。

 演説が終わって一気に生徒が食堂に入ってくると、ジェルとリベも遅れてやってきた。

 

「いやあ、助かりましたよアイルさん」

 サンドイッチを山盛りにして席に戻ったリベは、左手でサンドイッチを一つ摘み、右手でタブレットを触っている。

「何か面白い記事あった?」

「……ヒシミラクル先輩が凱旋門回避して急遽路線変更したカドラン賞を勝った話とか?」

 

 出走回避の理由としては「同じトロフィーを3つも重ねる意味はない」だとか「調整の都合で一日でも早く走らせたかった」とか、「色とりどりのものを集めた方が楽しそうだと思った」とか、トレーナーが語っているらしい。

 

 後にスペシャルレート先輩が栗東寮の先輩友達に聞いた話では、優勝カップに色とりどりなフランスのお菓子を詰め込んだプチパーティーが開かれたようなのでそういうことなのだろう。

 凱旋門を模した銀のトロフィーは重ねて仕舞うにはちょうどいい形をしているのだが、3つだとさすがに不安定になるし、あの形では皿代わりにできない。

 ちなみにお土産話として、なかなか予約が取れないパリの高級レストランに行ったことが嬉しかったと語られていた。

 出国前に予約が取れなくて諦めていたら、直前になって日曜の午後にキャンセルが出たのでねじ込んでもらったとのことだ。

 

 東京レース場は走りやすい。

 長い直線で外に振ればなんとかなるからだ。

 しかし応援に来たはずのチームメイト2人が、まるであたしの勝利には興味なさそうだったのが釈然としない。

 リベはひたすら他の生徒のデータを集めていたし、ジェルに至っては東京レース場に着いてからずっと腹を下してトイレに籠っていた。

 なんで来たん?

 

 木野トレーナーは上機嫌でホープフルSへの直行を許可してくれた。

 無理に間隔を詰めると、その分ジェルやリベとの調整が必要になるし、何より木野トレーナーの仕事が増える。

 久しぶりに大きな収入があったとはいえ、あたしたち3人はまだ2歳OPクラス。

 これから先の収入も未知数なのだから、あまり旅費は使いたくないだろう。

 

 あたしたちは初勝利のお祝いでどこか食事に連れて行ってもらうようなことはしていない。

 トレーナーは常に嫁さんが近くにいるような状況なので、あたし達とも個別に出かけるようなことはしたくないだろうし、あたしたちも気まずくなる。

 ピーコックがレート先輩一人だけになっていたのも、他の生徒が居づらい雰囲気が出ていたことが要因の一つであることは明白。

 もちろんあたし達はリベの情報からそういう事情は初めから分かっていたので、いまさらトレーナーとレート先輩が部室内でイチャついていても気にしないし、ジェルに至ってはそれがモチベーションになっているのだから世話がない。

 

 フラフラと左に寄っていく先輩を、ピッタリ隣に並んだジェルが肩で押し返しながら坂路を駆け上がっていくのを見ながら、今日も外泊だろうな、と呟いた。

 

 

 朝日杯をパスして、あたしとリベが最初の直接対決になるホープフルSに臨む。

 GⅠ出走とあってその1週間前には2人の勝負服が届いた。

 

 あたしは元々ソフトボール選手のような縦縞ユニフォームにしようかと思ったのだが、先輩からスカートルックを勧められた。

 下はスパッツを履くといいと言われたが、もう少し防御があった方がいいとゴネたら、リベがいろいろなサイトを巡ってボクシングの服装を見つけてくれた。

 最終的にトップスはノースリーブのヘソ上丈、下はややゆったりしたボクサーパンツに前開きの腰巻きと、よさそうだと思った女子ボクサーの服装を丸パクりすることになった。

 

 一方のリベはヒラヒラは抑えているものの、フード付きの白いワンピースタイプで青い星が散りばめられており、スカート丈は短く、下に履いているショートスパッツがギリギリ見えるほどである。

 それでいて青い袖は長いのだからバランスがよくわからない。

 本人に聞いたら、

「これはこれで無難なデザインらしくて」

と言っていたのだが、これで無難ならチャレンジするとスカート丈はどうなるのか、気になるところだ。

 

 あたしたちが初GⅠに向けて最終調整を行っているころ、ジェルはレート先輩のツテを頼って、ちょくちょくタップダンスシチー先輩に会いに行っている。

 最初の方はコース脇でトレーニングを見学するだけだったのだが、余裕があるときには併走までしてくれるようになったらしい。

 

 あたしも一度観に行ったのだが、タップダンスシチー先輩のトレーナーが溜息をつくほど酷い併走で、お互い大逃げタイプなものだから、コース1周するにも最初の1000mを2人揃って57秒台で入り、お互い減速することなくかっ飛ばしまくって最後の200mは並んだままヨロヨロと歩いていた。

 それなら半周にすればいいのにと思ったが、2人共口を揃えて、

「足りない。半周延ばして3000m走り切れないと凱旋門賞は勝てない」

と、フラフラのままスタートラインの方に歩き出したからジェルにタックルをして止めた。

 

 有馬記念も終えた年末のホープフルSはGⅠといえど比較的客は少ない。

 当然メインレースの前にもレースは行われているのだが、ジェルがなにやらクロノジェネシス先輩と意気投合しており、2人でパドックに行っては出走新聞になにやら書き込んでいる。

 

「ええと……ジェルさん、どちらへ?」

 スタンドの後ろにあるテーブルで、さっき買ったパフェのレシートの文字を塗り潰したジェルが、フラフラとコースと反対側の方に歩きだし、壁に頭をゴツンとぶつけていた。

「はっ……馬券発売機はないんだった……」

「バ券……ですか?ここではやってないですよ」

 頭をさすっているジェルに、不思議そうな顔でクロジェネ先輩が話しかけた。

「イギリスとかではブックメーカーが売り出してるらしいですけどね。日本だと……海外のオンラインブックメーカーから買うしか」

 

 あたしには何の事やらさっぱりなのだが、あたし達が準備のために離れる事を告げると、

「おー、頑張ってくださいね……抑えてどうすんだよセンニ(1200m)だろ!」

と、あたし達への激励の言葉もそこそこに、ちょうどスタートした8レースの先輩方に悪態をついていたので、頭を思いっきり叩いてやった。

 

 同じチームから2人が出走ということで、木野トレーナーはあたしに付きっきりとはいかなかった。

 むしろリベの方がガチガチになっているので、パドックに出る直前までリベの控室に入っていた。

 

 パドックに出ると、ステージ目の前の最前列にジェルとクロジェネ先輩が新聞を構えて立っていた。

 登壇して手を振ってみたがジェルは手を振り返すことなく、新聞にペンで書き込んでいる。

 お披露目が終わったので他の人が順番に登壇するのを待ちながら、ジェルとクロジェネ先輩の方に耳を向けると、

「もう一息、ってとこですかね」

「あ、2人とも本命ではないんですね?」

「応援はしてますけど、アタマで買えるかというと……。さすがに中山2000mならタキオン先輩の方が本命でしょう」

 本当に身も蓋もない会話をしていた。

 

 結果としてあたしは2着、リベは5着だった。

 先に抜け出したタキオン先輩を捕まえきれずに1バ身差で負けた。

 リベが先に抜け出すかと思ったのだが、緊張が酷かったリベは足の動きがガチガチで、コーナーを膨れながら回ってしまっていた。

 そのままあたしの前に出られてしまい、スパートが少し遅れたのも痛かった。

 

 しかしそれでも2着。

 あたしもリベもクラシックの登録料はペイできるようになり、トレーナーにもそこそこの金額が振り込まれるだろう。

 





 アニメ版のように、世代揃えて未登場はモブキャラにするか迷ったのですが、
アプリ版準拠で世代無視してネームドが何人か出るようなダビスタ時空にします。

(卒業や引退があるようなアプリ版モデルのウマ娘SSはサザエさん時空というよりはダビスタ時空と言うべきだと思うことがあります)

 主役達の戦績はあまり変わらないと思うので、ネームドが史実で勝っているレースでも負けることが出てくると思います。

 次回辺り、アンベストネヴァー実装とのリークが……?
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