ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

70 / 75
桜花賞(3歳牝 GⅠ)


11パルトジャーナル牝3先行――――西垣前残一考
2トリストリヴェール牝3差し――――伊丹末脚不気
23ペルフェスナッチ牝3差し△――▲渋谷善戦濃厚
4リュミエールソワレ牝3差し―△――早川連下警戒
35フィオラディーチェ牝3差し――――小川軽視禁断
6ロマンチックドバイ牝3先行――――田沼粘込波乱
47アルババタフライ牝3逃げ――――江川逃げ惑星
8オッカインパクト牝3追込△▲▲△中村優末脚炸裂
59リンガスマイセッサ牝3差し▲〇◎〇進藤展開不問
10エトワールリーヴル牝3差し――△―十和田一変警戒
611クアッドシンガー牝3差し――――野上大穴気配
12ソビエトダンシング牝3先行――――杉谷気難爆発
713フルールバロネス牝3先行△△―△近藤先行押切
14サミットジェダイト牝3差し◎◎〇◎長野差脚一閃
15ノエラニ牝3差し―△△△桐島気配上昇
816ノーブルアリア牝3先行――――三輪嵌れば怖
17フロストレガリア牝3逃げ――――中村春展開泣き
18ヴェールエテルネル牝3差し――△―ポール外枠奇襲





大暴走

【夕刊アサマ】

〜(桜花賞)混戦模様も物足りない!?牝馬戦線は「低レベル」な争いに~

 

デスク「いよいよ桜花賞だな。今年はどうやら『異変』が起きているとか」

記者「ええ。3番人気までの顔ぶれを見れば一目瞭然です。臺屋系もヌーヴェル・グループ系も1頭もいない」

デスク「阪神1600といえば『ヌーヴェルを買え』が半ば常識だったはずだがな」

記者「その通りです。今年はその前提が崩れている」

デスク「ルードルフ騎乗予定だったエンパシーホープの除外も影響しているか」

記者「多少は。ただ、仮に出ていても上位2頭――サミットジェダイトとリンガスマイセッサを上回る人気にはならなかったでしょう」

デスク「その2頭をして怪しい人気馬と断じる理由は何だ?」

記者「時計です」

デスク「時計?」

記者「ファンタジーSの勝ち時計は1分20秒6。一見速い。しかし600メートル36秒5のスロー。リンガスマイセッサが早めに動いて『作った時計』です」

デスク「それだけの脚を使ったという見方もできるが」

記者「その日の京都競馬場は、未勝利戦でもオープン並みの時計が出ていた異常な馬場でしたから」

デスク「なるほどな。ただ速いタイムだからって強いとは言えないわけか」

記者「翻って阪神JF。勝ち時計は1分34秒1。例年と比べても平凡な水準です。しかも直線は完全な上がり勝負。サミットジェダイトは確かに差し切ったが、“力でねじ伏せた”というより『展開に乗った』内容です」

デスク「リンガスマイセッサはどうだ」

記者「2着。ただしこれは“負けて強し”ではありません。むしろ逆。オッカインパクトを交わした直後に手が止まっている。最後まで追えていない」

 

デスク「つまり……」

記者「本気で走れなかった馬を最後方から来た1頭だけが差し切った。これが今年の2歳女王戦です」

デスク「なるほどな。レースとしての質は高くない、と」

記者「ええ。時計はウソをつかない。結果だけ見ればサミットジェダイトが世代トップ。しかし中身を見ると、例年の桜花賞路線と比べて明らかに遅い」

デスク「だから“低レベル”と断じるわけか」

 

記者「もうひとつあります。最初に言いましたが上位人気3頭がすべて個人馬主。リンガスマイセッサを除く2頭、サミットもオッカも古くから競馬界にいる馴染み深い冠名ですが、近年はヌーヴェルグループの良血には手が出ない。日高系中心のラインナップです」

デスク「……確かにな」

記者「人気馬に死角がある以上、見方は一つです」

デスク「どうなる?」

記者「上位人気をそのまま信じていいレースではない」

デスク「じゃあ、どこから入る?」

記者「一つはフルールバロネスです」

デスク「フラワーC組か」

記者「中山1800で前半1000メートル60秒台前半の流れを先行して押し切り。ラストも11秒台。持久力の裏付けがあります。近藤騎手という点も含めて、この舞台で軽視はできません」

 

デスク「もう一頭は?」

記者「エトワールリーヴルです」

デスク「アネモネS勝ち馬だな」

記者「1分33秒台で上がり33秒8。4角10番手から外を回して差し切り。数字だけ見れば、むしろ上位です」

デスク「ただ相手が弱かった、という見方もあるが」

記者「厩舎関係者も、『前走はまだ仕上げきっていなかった。それでもあの時計だから、本番はもう一段上の状態で出せる』と言っています」

デスク「ずいぶん強気だな」

記者「ええ。ただ、今年のメンバー構成を考えれば、あながち大げさとも言えません」

デスク「……なるほどな」

記者「時計はウソをつかない。今年の桜花賞は、見えている人気ほど信頼できない一戦になる可能性がありますね」

デスク「同世代の牡馬と当たった時が楽しみだな」

 

――

 

 予定通り阪神JFから英気を養ったリンガスマイセッサは、鉄砲ながら絶好調と言っていいバイオリズムであった。

 他のライバル馬より早く発情期(フケ)も落ち着き、ようやくシビアレコードがリンガスマイセッサの方に首を伸ばしてくれるようになったので、顔を擦り付けて甘えている。

 井野調教師としては次のフケが早々に来ないことを切に願っていた。

 

 最終追い切りは例によってシビアレコードとの併走。

 シビアレコードにはコウヘイが乗り、ウッドのDコースをゆったりと走らせる。

 最終追い切りにしては軽めだが、先週坂路で4F51.9秒・ラスト1Fを12.0秒と、きっちり仕上がっているので問題ない。

 あとはしっかりとシビアレコードの匂いを補給させておけば、ガソリンは満タンだ。

 輸送は単独輸送だが、今回は中村厩務員がついているので何の心配もなく、輸送ベリも心配しなくていいので馬体重はきっちり464kgである。

 いよいよシビアレコードと並んでも体格差は遜色なかった。

 

 進藤は前日の福島競馬の午前中に仕事(騎乗依頼)があったので、リンガスマイセッサのお見送りもできず、木曜の夜に井野と打ち合わせをした後、調整ルームに入った。

 どれだけ急いでも片道4時間以上かかる福島競馬場から阪神競馬場へ移動する際には、福島のメインレースまで呑気に乗っていたら調整ルーム入りが間に合わないので、多少余裕をもって午前中の仕事しか受けないのが普通である。

 

 そもそも中央のメインレースに乗るような騎手は、前日のローカル開催など行ったりしない。

 

 移動の交通費は自腹になるのだが、谷地オーナーがほれ、と東北新幹線、東海道新幹線のグリーン席チケットを渡してくれた。

「リンガスに乗るなら体調も万全にしといてくれないとね。勝ったら帰りもグリーン車だぞ」

と、谷地がチケットをくれた際に言っていたが、進藤の体調を整えるためにグリーン車を、という考えもちょっぴりはあったものの、どちらかと言えばただ見栄を張りたかっただけなのである。

 

 桜花賞の前日、土曜日の阪神競馬場では、先々週にジェルディサヴォアで勝ってようやく初日が出た上田秋信騎手が平場戦で1勝を挙げ、メイン重賞の阪神牝馬Sでメトロヴィーナスに騎乗して2着に入った。

 メトロヴィーナスは昨年上田が体重オーバーで騎乗停止になった時に騎乗していた因縁の馬ではあるが、そのレースは牡牝混合で、予定されていた55kgからほぼ1kg増で出走し、牡馬相手に1馬身以上を付けた実績がある馬なので、牝馬相手で最軽量となれば重賞馬相手にも十分やれるというものである。

 いよいよ次走はヴィクトリアマイルに挑む方針だ。

 

 谷地は2日続けて馬主席に座っていた。

 ジェルディサヴォアやシビアレコードはパドックに降りて行っても歓迎してくれるのだが、リンガスマイセッサは近くに行くと露骨に顔を反らすので、馬主としての立場がないのだ。

 馬主席には馬主本人だけではなく同伴者も数名入れるので、大抵の馬主は懇意にしている大物や会社の重要取引先の社長、或いは贔屓にしているホステスなどを引き連れている。

 また、クラブ系の馬主はその会員が何人か座っていた。

 谷地はいつも通り妻と娘を連れてきているが、取引先の重役などは呼んでいない。

 たまに弟を呼んでいるがそれ以外の友達付き合いも少ないので、GⅠであろうといつも2席分の追加で済むのであった。

 

 桜花賞というのは阪神競馬場の桜が迎えてくれるので文字通り華やかなのだが、それ以外にも、今年初のクラシックレースであり、クラシックレースとしては唯一の阪神開催ということもあって、スタッフも気合が入っているのだ。

 これがオークスになると、東京競馬場はすでに翌週のダービーに向けて熱が入っており、そこまで派手な演出はされないというのが実状である。

 

 パドックに桜花賞の出走馬が姿を現す直前にも、パドックビジョンには桜が舞うような演出が付けられ、すぐにオッズと馬体重が点滅し始めた。

 リンガスマイセッサは中村学厩務員が曳いているとあって普段のように暴れることはしなかったが、それでもオッカインパクトを煽るようにジリジリと距離を詰めていった。

 因みにオッカインパクトの前にはアルババタフライがおり、彼女はファンタジーSでのパドックで追い立てられて以来すっかりリンガスマイセッサに対して恐怖を抱くようになってしまい、リンガスマイセッサの圧から逃げるようにロマンチックドバイの内側に割り込もうとしていた。

 

 すでにパドック周回がごちゃついているが、別周申請もしていないので順番を乱すわけにはいかない。

 全体的にチャカつき始めたのは若さか、或いはリンガスマイセッサの圧か。

 もっともリンガスマイセッサは威厳を見せつけるように首を高く上げて周回しており、これもまたパドック評価を落とす要因になっていた。

 

「止まぁーれぇー!」

 周回停止の号令がかかり進藤が駆け寄ってくると、リンガスマイセッサの首がスッと下がり、左手に持ったムチに鼻面を近づけてジャレ始めた。

 ジェルディサヴォアの指導のせいで、すっかりムチに対する恐怖心がなくなってしまっており、ムチはあくまで「進藤との」コミュニケーションだとしか認識していない。

 

「今日も気合入ってますね」

 進藤がリンガスマイセッサの首筋をポンポンと軽く叩いたあと、背中に飛び乗る。

「行ってこい」

 井野はそれだけ言うと、親指を立てた。

 

「前へー!」

 周回再開の号令に合わせて中村が曳き綱を軽く振ると、ターン!と蹄鉄を一度鳴らし、カツ、カツ、カツとリズムよく進み始めた。

 地下馬道を抜け、中村の引き綱が外されると、例のごとく立ち止まって首を上げ、スタンドを見渡した。

 

 返し馬も順調に、ゆったりと長く脚が伸びている。

 リンガスマイセッサは進藤が跨っている間は悪さをしないので、誰よりも先にゴール裏に到着すると、外ラチ側に立ち止まり最終確認をしているスタートゲートを眺めていた。

 中村が曳き綱を改めて付けても輪乗りには加わろうとせず、外ラチに尻を当てるような恰好でゲート入りを待つ。

 発送時刻が近づき、スターターが到着する前にスタンドのファンがフライングで手拍子を始める。

 その賑わいが聞こえてきたところで、ようやくゆっくりと輪の方に近づいていくのであった。

 

 リンガスマイセッサはジェルディサヴォア門下生にしてはゲート入りが遅い方ではある。

 ただし後ずさりをするようなタイプではなく、かなりゆっくりとゲートに入っていくのだ。

 別に暴れたり渋ったりしているわけではないので、時間はかかるものの、後ろから長ムチで打たれたりすることはない。

 今日は奇数番枠ということで、先入れの中では一番最後にゲートに入っていく。

 中村の曳き綱が外されると、リンガスマイセッサは少し目を伏せるように首を落とした。

 

 リンガスマイセッサがいかにも高貴な雰囲気を出している背中の上で、進藤はガチガチになっていた。

 シビアレコードのサセックスSや有馬記念などは、負けたとして翌年以降もチャレンジできるレースである。

 一方で桜花賞は3歳限定で、これに負けたら「三冠」という称号を取りに行く権利そのものが失われてしまう。

 一応谷地が皐月賞の第2回登録までは済ませてあったのだが、桜花賞に無事出走できることが確定したので、皐月賞の特別登録はしていなかったのである。

 

 ゲートが開くと、リンガスマイセッサが好ダッシュを決めかけたが、緊張していた進藤がバランスを崩し、外のエトワールリーヴルを弾くように外にヨレた。

 何とか落馬はせずに済んだものの、せっかくのアドバンテージは失われ、インコースに潜り込むこともできなかった。

 落馬の危機は回避したが、余計に怯えきってしまった進藤は、これ以上危険なことにはなりたくないとリンガスマイセッサを馬群の一番外に誘導していき、馬群がそこまで開かない中、ソビエトダンシングとクアッドシンガーの外、3,4頭目のレーンを進みながら3コーナーに入った。

 

 阪神競馬場のような広いコーナーのコース程、大外を走るロスは大きくなる。

 アルババタフライが引っ張っているが、ペースは上がらず最初の600mを35秒2で通過する。

 いかに進藤の経験が浅いと言えども、これだけ馬群が団子になっており、平均から1秒以上も遅ければさすがに感じ取ることはできる。

 前に目をやれば、やはりスローペースに乗って勝負をかけようとする先行勢がじわじわと動き出しており、前の方がバラけつつ外々の方に広がってきていた。

 

(このままだと止まらないかもしれない)

 進藤は迷いながらもリンガスを押し上げようと少しハミを詰めた。

 行くか、押さえるか、はっきりと決断したわけではないので、キョロキョロと周りを見渡して状況を確認しながら、である。

 隣を走るソビエトダンシングも外に進路を切り替えようとこちらに寄ってきている。

 邪魔をしたくない、斜行はしたくないとコース取りに集中するあまり、先行勢がペースを上げているのに対して、ゴーサインと勘違いしたリンガスマイセッサのペースがそれ以上に速くなったことに気づかなかった。

 

 そもそもまだ1000mの標識を過ぎたばかりのことである。

 急な3コーナーの入り口を終えて、緩やかなコーナーに入ったところでは当然前にいる馬とは少し差がつくものだが、それを置いて行かれたと勘違いした進藤が、リンガスマイセッサを動かしてしまったのだ。

 ペースが上がり、コーナーを曲がり切れないような勢いで外に膨れているが、全体的に馬群が横に開いて来たことで隣の馬もリンガスマイセッサのほうに寄ってきており、大きなロスをしていることに気づけなかった。

 

 3,4コーナーの中間ですでに4番手の大外を走っていたリンガスマイセッサだったが、進藤はまだ足りないと腰を落として追い始めている。

 そのまま先頭のアルババタフライも交わしきって、直線に入るころにはすでに3馬身のリードがついていたが、走っていたのは馬場の真ん中よりも外の方であった。

 

 ここまですでに400mを超えるスパートをかけており、競走馬としての限界は過ぎていた。

 当然、少しずつスピードが落ちていく。

 直線に入ってすぐリンガスマイセッサの手前が左に替わったが、3コーナーからのスパートによってで左後脚の体力はほとんど尽きてしまっていた。

 すでに大外と言ってもいいコースを走っているのだが、さらに外にモタれていく。

 400mの標識も待たずに、早くも進藤の左ムチが飛んだ。

 

 (なんて無茶をしてるんだか)

 後ろから来る騎手たちは皆、すでに腰を落として追い続けている進藤の背中を見ながら同じことを思っていた。

 直線入口でいっぱいになってしまえば息を入れるタイミングはもうない。

 あとは気力の勝負なのだろうが、外ラチ方向にモタれて行っている以上、他の馬と併せて闘争心を引き出すこともできないのだ。

 止まったアルババタフライの外を追い抜いて、フルールバロネスのエンジンがかかった。

 スローペースで完全に展開がハマっており、限界が近いリンガスマイセッサをじっくりと料理するべく、近藤が熟練の技術で無理なく加速させる。

 

 ストライドを一杯に伸ばして逃げるリンガスマイセッサだったが、最後の坂を前にして力が抜けたようにピッチが小さくなってきた。

 遠近感が掴みにくい馬の目には、2mの急坂は自分の体高を超える高さの崖が待っているように見えてしまったのだろう。

「がんばれぇ!」

 進藤が泣き叫ぶように吠え、3連打で左ムチを入れると、リンガスマイセッサの耳が進藤の大声に反応するように後ろを向き、もう一度倒れた。

 

 大好きな進藤が助けを求めてムチをくれた。

 リンガスマイセッサがそれに応えないはずがない。

 ストライドを戻すほどの体力と時間はなく、小さなストライドで坂をよじ登っていったのだ。

 偶然であるが、急坂の対処法としては正解だった。

 シビアレコードと併せているうちに覚えた大飛びのリズムから生まれつきのピッチ走法に戻し、ジェルディサヴォアが中山で見せる荒さのように、左にモタれつつも、もう一度加速した。 

 

 サミットジェダイトの長野騎手は4コーナーを抜けるまでコース取りに集中し、リンガスマイセッサが空けた外にきっちり誘導した。

 後ろから迫るオッカインパクトに末脚争いで負けたら仕方がないと、先行するロマンチックドバイかフルールバロネスに照準を合わせ、ムチをやりつつ追い出した。

 フルールバロネスも止まらない。

 残り200を切って坂を迎えるあたりでサミットジェダイトがようやく馬体を併せた。

 あとは叩き合いになるはずだったのだ。

 

(止まっていてくれ)

 

 完全に視界から外れた、遥か外ラチ沿い――リンガスマイセッサを除いて。

 

 

〈クラシック第1戦、第98回桜花賞、ゲートインが完了しました。

スタートしました!

ほぼそろって飛び出しました。

好スタートは1番のパルトジャーナル。それを制して青い帽子、7番アルババタフライが出ていきます。

外から17番フロストレガリアも前に行きまして、13番フルールバロネス4番手、好位につけました。さらには6番のロマンチックドバイ。

10番のエトワールリーヴルが続いて、1馬身後方11番のクアッドシンガー、並んで12番ソビエトダンシング緑の帽子2頭、その外に9番のリンガスマイセッサ、3頭並んでいます。

それを見るように14番サミットジェダイト、15番のノエラニ。

このあたりやや固まって、5番フィオラディーチェ小川綾乃、16番ノーブルアリア、外18番ヴェールエテルネル。

後方2頭、2番トリストリヴェール。わずかに最後方8番オッカインパクトです。

 

3コーナーに入るところ、最初の600mは35秒2で行きました。ややゆったりとしたレース。

桜の向こう側を通過して、馬群はほとんど一塊です。

アルババタフライが先頭ですが、差を詰めて1番パルトジャーナル。フロストレガリアとロマンチックドバイ、内に13番フルールバロネスで5頭固まって、3,4コーナーの中間。

外から一気に動いた9番のリンガスマイセッサ、前の集団に取りついて、12番ソビエトダンシングも前に進出を開始。サミットジェダイトは中段まだ押さえている。

そしてオッカインパクトも外目に持ち出してジワっとポジションを上げていく構え。

 

4コーナーのカーブに入ります。

一気に先頭に立ったか9番のリンガスマイセッサ、馬群から大きく離れての外目。

アルババタフライと、パルトジャーナルが2番手に上がる。600を通過。

フルールバロネスがその後ろ、さらには6番ロマンチックドバイ。

10番のエトワールリーヴル、そして外に14番サミットジェダイトで4コーナーカーブから直線。

 

外から先頭リンガスマイセッサ3馬身のリード。

パルトジャーナル、替わってフルールバロネスが追ってくる。

前が空いているサミットジェダイト、後方からオッカインパクト、馬群の中15番のノエラニ、400を通過。

 

まだ馬場の外目リンガスマイセッサ先頭、フルールバロネス、パルトジャーナルが併せ馬で追ってくる。

真ん中ノエラニ前を捌けるか、外からサミットジェダイト、そしてオッカインパクトの追込。

200を通過して、まだリンガスマイセッサ先頭、外に外にヨレていく。

フルールバロネス、サミットジェダイト2頭並んで坂を登る。

 

フルールバロネス、サミットジェダイト。

外粘っているリンガスマイセッサ。オッカインパクトが一気に脚を伸ばしてくる。

前は大きく離れて大接戦、リンガスマイセッサ、フルールバロネス、サミットジェダイト。内外離れてゴールイン!

さあ最後どうか。

 

外ラチいっぱい9番リンガスマイセッサ、内で追い比べとなった14番サミットジェダイトと13番フルールバロネス。

その後ろ脚を伸ばしたオッカインパクトは4番手まで。

時計は1分34秒2、ゴールまでの600mは34秒6、800mは46秒2でした。

 

スローで最後の決着ですが、大外のリンガスマイセッサ、残し切ったように見えます。

2番手は13番のフルールバロネスがわずかに優勢か。

 

着順掲示板、1着9番リンガスマイセッサで点滅を始めております。

2着3着写真判定、4着は8番オッカインパクト、5着1番パルトジャーナル。

お手持ちの勝馬投票券は確定までお待ち下さい。

最後は外ラチ沿いまでヨレながら、9番のリンガスマイセッサ、2年目進藤誠紅がやりました〉

 

 

 3着のサミットジェダイトに跨る長野騎手はフルールバロネスとの叩きあいの末ハナ差まで迫ったものの、少なくともフルールバロネスに負けているのは分かっていたのでウイニングランの準備はせず、すぐに馬を返した。

 フルールバロネスの近藤騎手はサミットジェダイトの陰になっていたのと、あまりにも遠すぎてリンガスマイセッサとの位置関係はよくわからなかったが、すでに着順掲示板の一番上に9の文字が点滅しているのを見ると、すでに何度もGⅠを取っているベテランらしく、苦笑いをしながら隣を歩く進藤の背中を叩いた。

 

 その進藤は背中を叩かれた衝撃で「ゔっ」と咽るような声を出すほどグッタリしていたが、無理やり口をゆがめて小さく頭を下げた。

 その下げた頭の先ではリンガスマイセッサが、淑女たるもの群衆の前で無様な姿は見せられないとばかりに、手を広げて待っている中村の方へ、しっかりハミを噛んで一歩一歩ゆっくりと歩いている。

 間違いなく限界は超えているのだが、それでもカメラを構えるスタンドのファンの前を通り過ぎるまで、首を高く上げて検量室前の1着枠に収まった。

 

「よくやった」

 井野が口端を上げて進藤と握手を交わした。

「すみませんでした」

 進藤は勝ったこと自体は嬉しかったが、それ以上に井野に叱られないかとビクビクしていたので、第一声はそれだった。

「こいつらしい競馬だよ」

 井野はリンガスマイセッサの頭を撫でようとしたが、スッと首を上げて避けられると、そこから見下ろすような目を剥けられた。

 苦笑いをする井野に代わって、進藤が宥めるように首筋を撫でてやると、今度は緊張が抜けたようにトロンとした雰囲気で進藤に鼻を擦り付けた。

「よく残したな」

 進藤は、本当に、と呟くように零し、ちょうど降りてきた谷地とも握手を交わして検量室に入っていった。

 

「やっぱりマイルは短かったですか」

 谷地が笑いながらリンガスマイセッサを撫でようとすると、フン、と顔を背けられた。

「もう使いません。2000でも怪しいくらいですから」

「じゃあ、オークスは――」

 期待を込めた表情で谷地が聞くと、井野は他の陣営に聞こえないよう、唇を動かさずに

「――余裕と言えるでしょう」

と続けた。

 

 

【全報スポーツ】 2038 4/11 16:08

~<桜花賞>リンガスマイセッサ外から押し切りV 進藤誠紅クラシック初制覇~

 

 クラシック第1戦・桜花賞(GⅠ、芝1600メートル)が阪神競馬場で行われ、2番人気リンガスマイセッサ(牝3・井野厩舎)が外から早めに動く積極策で押し切り、GⅠ初制覇を飾った。騎乗した進藤誠紅騎手(2年目)はこれがクラシック初勝利。

 

 レースはアルババタフライが先手を取り、前半600メートル35秒2のスローペース。馬群が一団で進む中、リンガスマイセッサは中団外目を追走した。

 3~4コーナー中間で同馬は外から一気に進出。4コーナーでは先頭に立つと、直線では外ラチまでもたれながらも二の脚をみせ、フルールバロネス、サミットジェダイトの追撃を振り切った。

 勝ち時計は1分33秒2。

 2着は好位から脚を伸ばしたフルールバロネス、3着には外から追い込んだサミットジェダイトが入った。後方から伸びたオッカインパクトは4着。

 

 単勝320円。3連単は9→13→14で1万1840円。

 

 勝ったリンガスマイセッサは阪神JF2着から直行で巻き返しに成功。

 次走はオークス(GⅠ・芝2400メートル)が有力視。

 

 

【京浜スポーツ】 2038/4/11(日) 17:19

~<桜花賞レース後コメント> リンガスマイセッサ 大胆なレースで桜の女王に 進藤誠紅「2400mは十分こなせる」~

 

リンガスマイセッサ1着・進藤騎手「あそこ(3コーナー)で動くつもりはなかったんですけど、ペースが遅くて、ちょっと判断を迷ったところで馬の方が反応してしまって。完全に早仕掛けでしたし、直線はもう止まると思っていました。外にモタれた分、他の馬に迷惑をかけなかったのは幸いでした。逆だったら危なかったです。最後の坂でもう一度脚を伸ばした感じで、リンガスの強さは見せられたと思います。今日は助けられました。(2400mは)十分こなせると思います。逆にマイルはもう厳しいかもしれません」

 

フルールバロネス2着・近藤騎手「理想の展開でしたがあそこまで遠いとわかりませんね。正直よく覚えていないです」

 

サミットジェダイト3着・長野騎手「あれはもうどうすることもできませんでした。止まらなかったですね」

 

オッカインパクト4着・中村優騎手「スローすぎて厳しい展開でした。それでも4着まで来ましたし、2400mも問題ないと思います」

 

パルトジャーナル5着・西垣騎手「位置はよかったけど最後で甘くなりました」

 

ロマンチックドバイ6着・田沼騎手「遅いペースで逆に馬が戸惑ってしまった感じです」

 

ノエラニ7着・桐島騎手「直線でちょうど前が空きましたが、伸びきれませんでした」

 

――

 

 翌朝の月曜日はトレセンは休日である。

 しかしリンガスマイセッサがいる以上、進藤と中村厩務員はどちらかが残っていなければならず、桜花賞を終えて深夜の輸送に付き合っていた中村が今日は休みで、グリーン車でたっぷり寝ながら帰ってきた進藤が朝早くから厩舎に来ている。

 深夜に帰厩したリンガスマイセッサは優勝レイを律儀に首にかけたまま馬房に戻ってきて、シビアレコードにアピールをしていた。

 

 ちょうど井野と進藤が揃っていたので、寺尾記者も朝から厩舎に顔を出していた。

「結構消耗したと思いましたが、もう食ってますか」

 井野も満足げに、ああ、と頷いた。

「食べ始めたのはこっちに帰ってきたからだけどな。輸送中はほとんど食ってなかった」

 リンガスマイセッサは、美浦に帰ってきてから一旦洗い場で蹄までピカピカに磨いてもらっており、毛艶も光っている。

「あのレースは想定外でしたか?」

 井野は少し考えて、実は、と話し出した。

「勝つならあれしかないと思っていたよ。末脚勝負になると距離が足りないし、かといってそこまで行き脚がつくタイプじゃないから、前目につけるのは難しいし」

 ただし井野は、進藤にこの乗り方をしろとは指示を出していない。

 下手をすればパンクしてしまいかねない乱暴なレースで一か八かに賭けるというのは、井野の性格としてもできなかったのだ。

 このようになったのは進藤の迷いが生んだ偶然で、それを今になって計算通りだったといっても後出しと思われるのは分かっているのだが、それでもつい、口から漏れてしまったのである。

「オークスももしかして、ですか?」

「後から考えるよ。距離は伸びて十分だし、新馬戦も府中でああいう競馬を既にしているから、できるとなればやってもいいし」

 2人は朝の陽ざしの中、事務所でゆったりとコーヒーを飲みながら他愛もない雑談をしつつ、進藤が戻ってくるのを待った。

 

 

【全スポ】2038年4月12日11時10分

~激走のリンガスマイセッサ、一夜明け気品見せる 「あれが本来の姿」~

 

桜花賞を制したリンガスマイセッサ(牝3・井野)が、一夜明けて気品ある姿を見せた。

深夜に帰厩し身体を磨き上げ、すでに毛艶は光り輝いている。井野叶偉調教師は「もうしっかり食べだした。それほど消耗していない」とコメント。

800mを超えるロングスパートで外ラチいっぱいまで膨れながら一着をもぎ取った。「あれは(リンガスの)もともとの走り方。あそこまでモタれるとは思ってなかったけど、最後までよく頑張ってくれた」と納得の表情。

 

この後は放牧には出さず、美浦トレセン内で体調を整えオークスへ。「マイルでは全然足りない。ここからが本番」と二冠に向けても視界良好の構え。

 

<関東・寺尾>

 





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