ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

72 / 73

天皇賞春(4歳以上・GⅠ)


枠番馬番馬名性齢脚質予想印騎手前走短評
11コンフォルトデイ牡8差し――――田沼康広ステイヤーズS③衰え見ず
2ピリッキオス牡7先行――――渋谷蓮ドバイゴールドC④海外善戦
23サラノサイクロン牡7差し△――△早川晶一阪神大賞典④脚色健在
4クリスタルオーブ牡6追込―△△―桐島大地ダイヤモンドS①距離魅力
35ブラッドギア牡4先行▲▲○▲ハリル・ルードルフ阪神大賞典①菊冠意地
6ガルディメサイア牡7差し△△△―メイソン・ロメロステイヤーズS①距離歓迎
47メトロノームライン牡5差し――――長澤奏多大阪―ハンブルクC②連下候補
8コンティルミエール牡5差し○◎△△柚瀬椋聖香港ヴァーズ①栗東調整
59サイヤーレ牡6差し(取消)近藤正文阪神大賞典②出走取消
10オーラスディグ牡6先行――――有田琉希レッドシーターフH⑧追走まで
611ネベルメナース牡5追込◎○◎◎大迫春寿阪神大賞典③京都で庭
12パリディージャ牡5先行――――江川幸太郎日経賞②多頭では
713ジェルディサヴォア牡5逃げ△△▲○上田秋信日経賞①事態急変
14アルカンシエル牡6差し――――西垣成明カタールアミールT③家賃高い
815ラストコンヴィンス牡6逃げ―――△中村春貴阪神大賞典⑤番手から
16ユークリッドパス牡4追込――――大久保秀人御堂筋S①初長距離


メモ
枠順決定段階想定オッズ(前日発売開始前)
ジェルディサヴォア 2.2
コンティルミエール 4.1
ブラッドギア    5.6
ネベルメナース   7.8
サイヤーレ     9.3
サラノサイクロン  18.6
クリスタルオーブ  24.8
ガルディメサイア  31.5
ピリッキオス    38.7
ラストコンヴィンス 52.4
アルカンシエル   58.9
コンフォルトデイ  72.6
メトロノームライン 89.4
オーラスディグ   116.8
パリディージャ   148.3
ユークリッドパス  176.5

直前最終オッズ
ネベルメナース   3.0
コンティルミエール 3.7
ジェルディサヴォア 5.3
ブラッドギア    5.6
クリスタルオーブ  18.2
サラノサイクロン  23.6



白いアレの息子

 

 井野調教師はスマホを握りしめながら、空の馬房の前で馬運車の到着を待っていた。

 例によって春の天皇賞へ出走が決まった段階で谷地オーナーがグリーン車のきっぷを4席分押さえていたので、ゴールデンウィークのラッシュで下り指定席が全て満席の中、全報スポーツの寺尾記者と一緒に一眠りしながら一足先に京都に着いたのだ。

 

 時計は正午を回り、朝こそ

『順調に飛ばしてます』

とコウヘイからLINEで現在地報告が入って来ていたが、8時を過ぎたころから

『名古屋を通過中。交通量が一気に増えてきました』

と、先行き不安な報告に変わっていた。

 JRAの職員から、

「まだ到着しませんか?」

と尋ねられる度に溜め息をつきながら小さく頷き返すので精一杯だった。

 

 13時を回ってもまだ馬房は空のまま。

 井野は寺尾がひっきりなしに本社に電話を掛けるのを横目で見ながら、いてもたってもいられず厩舎を抜け、通用口の前で行ったり来たりを繰り返している。

 寺尾も、最初は記者ルームで六角らと一緒にいたのだが、11時を回ってもジェルディサヴォアが到着していないことを知らされると、

「ロクさん、上は任せた!」

と、双眼鏡を押し付け厩舎エリアに掛け降りてきたのだ。

 全スポのXには、

『ジェルディサヴォア、12時を過ぎても京都到着は確認できず』

と、寺尾がポストしており、netkeiba公式がそれをリポストすると、たちまちトレンド入りした。

 当然、ジェルディサヴォアの単勝オッズはどんどん上昇していく。

 朝の段階ではまだ1番人気をキープしていたのだが、ネベルメナースと入れ替わり2番人気に転落した。

 

 コウヘイからのLINE連絡もなかなか動かなくなっている。

 京滋バイパスも渋滞のピークに入っており、本来30分程で通過できるところ、1時間弱のロスが発生していたのである。

 

 JRAの職員も通用口の前に数名集まってきた中、時計が14時を指す直前に、ついに大きな窓が特徴的な馬運車が通用口に滑り込んできた。

「来た!」

 井野が反射的に叫ぶと、JRA職員がトランシーバーを片手に、警備員のもとに駆け寄った。

「あれは入れて!入れて!」

 警備員が慌てて道を譲ると、馬運車はノンストップで左折し、厩舎群の手前の、装鞍所の前に横付けした。

 

「寺さん、スマホのカメラでいい。ビデオ回しとくといいぞ」

 井野がワクワクしている表情で、寺尾の肩を小突いた。

 コウヘイが飛び降りて後ろのタラップを降ろし、左右の柵も立てずに後扉をバーンと開くと、すでにジェルディサヴォアは後ろ向きに立っていた。

 紐ひとつ繋がれていない姿を見て、職員が

「綱!曳き綱!」

と叫んだ。

 前代未聞の放馬から2日と経っていないのだから、せめて何か繋げと慌てるのは当然である。

 

 コウヘイは職員の声を無視してタラップの横に立つと、束ねられた曳き綱を左手に持ち、右腕をまっすぐ横に伸ばした。

「下がって!」

 そして、タラップの回りを確認すると、伸ばした腕をオーライ、とばかりに前方に振る。

 するとジェルディサヴォアは飛び降りるようにタラップを降りてきて、コウヘイの隣でピタリと止まった。

 

 輸送後はまず洗い場に行くのが普通である。

 いくら馬を降ろしたあと綺麗に清掃しているとはいっても、長距離輸送となれば当然のことながら馬糞や食べこぼしなどが馬体に付着しており、そのまま出走させるのはあまりにも品位に欠けるというものだ。

 だがコウヘイはぐるりとジェルディサヴォアの回りを回って点検すると、OK、と言ってそのまま装鞍所に向かった。

 

 ジェルディサヴォアは馬運車の中で一切ボロを落とさなかったのである。

 もともと丸一日食べていなかったのだから、消化するものは消化してしまい、ストライキ中に全て出してしまっていたからだ。

 その後の輸送中も、トイレに行きたくならないよう、ジェルディサヴォアは飼葉も、水も飲んでいない。

 それが功を奏し、鬣と毛並みに寝癖がついていることを除けば、臭いも少なく、綺麗な姿のまま門限に間に合わせることができたのだった。

 

 一方で、食べてないことの影響は大きかった。

 レース直前ともなれば多少の調整は入るものの、一般的に500kgの馬は1日15kg程の食事をする。

 当然のことながら、1日半絶食となればその分の馬体重が落ちるのは自明の理。

 馬運車から飛び降りて装鞍所に駆け込み、すぐに発表された馬体重は、18kg減の524kgであった。

 

 ジェルディサヴォアのパドック周回はいつも通りパドックビジョンを見ながら雑に歩いており、大幅な馬体重減においても苛立ったり、発汗したりという雰囲気はない。

 もともとが大柄な馬であるためそこまで腹回りにも変化が見られないのは難しいところであったが、マイナス18kgという発表を見たあとでは、先入観によってなおさら細く映るだろう。

 パドック周回を続けていくうちにジェルディサヴォアのオッズはどんどん上がり、コンティルミエールにも抜かされると、票が流れたブラッドギアの人気が徐々に迫ってきた。

 

「谷地さん、やっぱり厳しいですよ。今からでも取り消しましょう」

 井野が呻くように提言しても、谷地は黙って首を振る。

「なんでそこまで頑固なんですか!天皇賞・春(ハルテン)連覇は栄誉ですが、どう考えても勝ち負けにはなりません!」

 谷地はじっと井野を見つめたあと、ポケットから小さく折り畳まれたビラを取り出した。

 

「これが、私の立場表明です」

 

 井野は口を結んで、目線を逸らした。

「ジェルの褌で相撲を取ったようなものですが。あいつの行動で想定以上に影響が出た。現にほら、サイヤーレですら取り消しました。張谷センセイとヌーヴェルグループにとっては悪夢でしょうよ。そして、組合も調教師会もわかったはずです。行動を起こせば、成果は出る。そして――馬がどれほど、厩務員を頼っているか」

 

 井野はすでに痛いほどわかっている。

 特にリンガスマイセッサに至っては、進藤騎手と中村厩務員以外手すら触れられないのだから。

 

「どうやら今回は交渉が行われなかったようですが――」

 谷地の声を遮るように、周回停止の掛け声がかかり、ジェルディサヴォアが止まったところへ揃って移動すると、上田騎手が駆け寄ってきた。

 

「今日はどうすればいいんスか。キングジョージの時みたいに、ヤバかったら止めるつもりで乗りますか?」

 答えたのは井野ではなく谷地だった。

「勝ちに行って下さい。こいつを無理矢理従わせてでも。こいつが、レースが間近に迫っていることを理解(わか)ってなかったはずはありません。何をしたかったのかは知りませんが、これで勝負もせずにわざと負けにいったら、あれはただの反抗です。誰の記憶にも、そう残ります」

 上田は、井野のほうを振り返った。

「俺は止めるつもりで来ましたよ……」

 井野が口を開く前に、谷地がすぐ、

「ええ。だから、勝ちに行ってください」

と、低い声のまま、言い切った。

 

 周回再開の号令が掛けられ、誘導馬に続いて1番のコンフォルトデイを先頭に、出走馬が地下馬道に降りていく。

 パドックを去りかけて、谷地は先ほど言いかけていたことを思い出した。

「――第2回の回答期限はダービー前だとか。()()()()が本気でコトを起こせば、どれほど影響が出るか、よくわかったでしょうよ」

 パドックの端で、地下馬道に降りて行った馬と厩務員たちの方に目をやったまま固まっている井野に背を向け、谷地はパドックを出た。

 

 薄暗い地下馬道に、馬が歩くカツカツという音と、人間のパタンパタンという足音が響いている。

 GⅠともなれば、この薄暗さに輪をかけたように重いムードが漂い、だれもが、この長いトンネルが早く終わってほしいと願う。

 そんな中で、ジェルディサヴォア陣営のムードの重さはまた違った雰囲気であった。

「アキさん」

 コウヘイが、前を見据えたまま口だけで上田を呼んだ。

「止めるなら、ちゃんと止めてください」

 上田は口をゆがめて、手綱を一握り短くした。

「勝てると思ってんのか」

「思ってません」

 コウヘイは周りの陣営に聞こえないような声で、はっきりと言った。

「でも、ジェルはずっと、走るつもりでいました。止めるなら、アキさんが止めるしかない。それでもアキさんが迷ってるなら、こいつは絶対に勝ちに行きます」

 上田は、目線を落としてジェルディサヴォアの顔を見た。

 耳は少し後ろに倒れ、地下馬道の出口の光をぼんやりと見つめている。

「相変わらずだ」

 上田は小さく息を吐いた。

「わかった。勝ちに行く。今日はもう、止めない」

 

 コウヘイの右手からカチリと音が聞こえ、曳き綱のフックが外れた。

 

 栄誉ある天皇盾を巡って競い合う天皇賞・春。

 しかし例年とは違う、異様な雰囲気が漂っている。

 もちろんそれは、ストライキの影響だ。

 馬主や調教師側からすれば、とんでもない被害を被って苛立ちが募っており、騎手からすれば厩務員たちとは収入の流れが違うことで槍玉に挙げられ、ファンは仕組みを作ったJRAが悪いという声、誠意を見せない調教師会が悪いという声、「労組」というだけで「=共産主義」という短絡的な感情で露骨に嫌悪感を示す声など、野次馬根性でXや掲示板で意見が飛び交っていた。

 

 どことなくレースそのものに集中できないムードの中、レースの序盤はお決まりの隊列だった。

 ジェルディサヴォアがハナを奪い、ブラッドギアが先団につける。

 サラノサイクロンとコンティルミエールはいつものように後方につけ、その更に後ろ、堂々最後方を進むのが白いネベルメナースである。

 

 記者スタンドでは六角がニヤリと口角を上げて、寺尾の肩に手を置いた。

「いよいよや。大迫の真骨頂、見せたるで」

 スタンドからは見えない向こう正面。

 ターフビジョンが捉えたのは、猛烈な勢いで大迫が手綱を扱き、最後方にいた真っ白な馬体が先頭集団まで順位を押し上げていく姿だった。

 

 ジェルディサヴォアに跨る上田は単騎で先頭を走っていたため、ネベルメナースの押し上げに気づくのが一瞬遅れた。

 ネベルメナースのまくりは有馬記念どころか今までほとんどのレースで見せており、捲ってくること自体は想定内であった。

 誤算だったのは、いつも3コーナーから進出するはずが今日は向こう正面で一気に前へ迫り、3コーナーを迎える前に先頭に立つジェルディサヴォアに並びかけようとしていることだった。

 

「マジか!」

 上田がハミを詰め、ジェルディサヴォアのペースを上げさせた。

 ここでネベルメナースに完全に前に行かれてはいけない。

 リードを稼がれてしまうと、3,4コーナーで脚を溜め、直線に備える大迫春寿の得意な形になってしまうからだ。

 しかし、ジェルディサヴォアの反応が、無かった――。

 

 

 腹が減ってはいるが、それ以上に胃がムカついて逆に食いたくない。

 そんな状態だ。

 1日半の絶食は馬としてはなかなか重症なのだ。

 人間的に言うなら、ゲップをしたくても(つか)えており、吐きたくても胃の上の方から上がってこない、ちょっと動いたら吐きそう、でも身体のどこかが吐き下しを抑えているあの感覚である。

 馬は常に胃酸を放出しているため、胃袋が空っぽになると中和剤が無くなるわけだ。

 つまり、逆流性食道炎に近い状態になる。

 ただし、胃の構造上逆流ができないので、ひたすら胃の上の方で滞留している感じなのだ。

 

 エネルギー自体はなんとか持ちそうだ。

 俺は3コーナーの淀の坂を見た。

 これを登り切れば、稜線に隠れて最後の息を入れられる。

 そうすれば溜まっているムカムカももう一度胃の奥に流すことができるだろう。

 

 いよいよ淀の坂が迫ってきたその時、余裕があったハミがギュッと詰められた。

 わかってる、坂の上りは少しペース上げるさ。

 手前を右に戻しコーナーに備えようとした瞬間、アキさんの重心が低くなり、頭を前に引っ張るようにハミが震え始める。

 俺の頭の上に「?」という文字が浮かんだ。

 順調に走っていたし、ペースも申し分なかったはずだが、どうせまたアキさんがバランス崩したんだろう。

 とりあえず手前を替えて坂の上りに入った瞬間、左側の視界が真っ白に染まった。

 あいつ(ネベルメナース)の真っ白な馬体は馬の目にも判別が付きやすくていいね。

 今日は張り切ってんなあ。

 そんなことをぼんやりと考えながら、内ラチ沿いから離れないように集中して坂の下りに入り、いつも通りペースを落とす。

 それにしてもネベルメナースがいつまでたっても前に行かないので、視界の半分がずっと真っ白だ。

 いつもならマクりきるのに、早仕掛け過ぎてもうスタミナ切れたか。

 すると今度はハミが後方に引っ張られた。

 そんな慌てなくても、もうペースは落ちている。

 溜まっていた胃液も腸の方に流し込んで、あとはブラッドギアに合わせて加速するだけだ。

 

 ネベルメナースを壁にして4コーナーを回り、ターフビジョンで後ろとの差を確認する。

 ブラッドギアの勝負服は馬の目でもよくわかる。

 コンティルミエールやサラノサイクロンは地色と柄の境目がわかりづらいが、多分外から一気に来ているのがコンティルミエールだ。

 ようやく視界が開けて再加速の準備に入った時、さっきまでいた真っ白な馬体が左前方を走っているのが見えた。

 あれ、止まってなかったのか。

 あまり抜け出されても面倒なので、一旦ターゲットをネベルメナースに変え、加速を始める。

 アキさんの右ムチをもらった瞬間、ハッとした。

 あいつはスタミナが切れたんじゃなく、俺と同じことをやっただけだったのだ。

 坂の下りで息が入っているなら、京都の平坦な直線なら、十分持つ。

 

 ネベルメナースをめがけてピッチの回転数を上げると同時に、アキさんのムチがガンガン飛んでくる。

 あと1馬身。

 そこまで追い詰めたと思った瞬間、また息が詰まった――。

 

 

 結果論でいえば、上田は3コーナーでムチを入れるべきだったのだ。

 あるいはいっそ、日本語で叫んだ方がジェルディサヴォアにとっては分かりやすかったかもしれない。

 下り坂に入ってもジェルディサヴォアのペースが落ち切らず、ネベルメナースについて行ってしまっていた。

(ダメだこいつ、集中してねえ)

 上田はグイと手綱を引いたがブレーキが足りず、普段より1ハロンあたり0.3秒ほど早く3,4コーナーを抜けていった。

 直線に入ってもなかなか加速をしようとせず、ネベルメナースが少しずつ引き離していく。

 そこでようやく、上田が右ムチを入れた。

 一拍おいてジェルディサヴォアのペースが上がり、もう一度差し返す態勢に入った。

 ここからネベルメナースとの一騎討ちになるかと思いきや、残り200mを切るとジェルディサヴォアの方が先に脚が鈍る。

 ネベルメナースが少しリードを広げた後方から、コンティルミエールが猛然と追い込んできた。

 

 

<春の開催では、ここ京都競馬場で行われる唯一のGⅠとなります、第187回天皇賞・春。

淀の坂を二度越える、ステイヤーの祭典3200m。

9番のサイヤーレが出走を取り消しまして、15頭で争われます。

 

ゲート入りは順調。偶数番号の馬がおさまっていきます。

香港で悲願のGⅠを制覇したコンティルミエール、今誘導を受けます。

最後は16番ユークリッドパス、ゲートに収まりました。

 

スタートしました。

目立った出遅れはありません。

やはり今日も、堂々と行きます13番ジェルディサヴォア。スーッと先頭に立ちまして、外から15番ラストコンヴィンス。

5番ブラッドギアも前目にいきます。コンティルミエールは控えて、ネベルメナース、今日も最後方からになりそうです。

 

まずは1周目の坂を登って3コーナー。

今日も果敢な逃げ戦法13番ジェルディサヴォア、控えて2番手ラストコンヴィンス。

2馬身離れて2番ピリッキオス、そして昨年の菊花賞馬5番のブラッドギア。

1馬身差で6番のガルディメサイア、内は12番パリディージャ。

 

各馬坂を下っていきます。

さらに1馬身離れて10番オーラスディグが続いていきます。

その後ろは7番のメトロノームライン、8番のコンティルミエール、青い帽子が2頭並んで行っています。

14番アルカンシエル。それを見るような恰好で3番サラノサイクロン、1番コンフォルトデイ。

そして後方に控える4番クリスタルオーブ、16番ユークリッドパスで、最後方11番ネベルメナース。

 

各馬が、正面スタンド前に出てまいります。

拍手が沸き起こる京都競馬場。

3馬身のリードで逃げます13番ジェルディサヴォア。2番手15番ラストコンヴィンス。

 

1000mの通過は61秒2。ゆったりと逃げます13番ジェルディサヴォア。

リードがやや広がって2番手は15番のラストコンヴィンス。

そしてこの後ろも少し間があって12番パリディージャ、2番のピリッキオス。1馬身差で5番のブラッドギア。

その後ろ2馬身間があって、6番ガルディメサイア。外に10番のオーラスディグ。

更には1馬身差、7番メトロノームラインと8番のコンティルミエールで1コーナーのカーブ。

1馬身離れて14番アルカンシエル。

そして3番サラノサイクロン。並んでコンフォルトデイ。

その後ろに4番クリスタルオーブ、外に16番ユークリッドパスで、11番ネベルメナースは最後方です。

 

さあ各馬、1コーナーから2コーナーへ。

軽快な逃げ13番ジェルディサヴォア。リードは4馬身から5馬身ぐらいか。

15番ラストコンヴィンス。その後ろ2馬身離れてピリッキオス、外に5番ブラッドギア。

1馬身後方内に12番のパリディージャ、外につけているのがオーラスディグ。

ガルディメサイアとメトロノームライン。それを見るように8番のコンティルミエールがつけています。

向こう正面に入って、おお、外から行った、白い馬体ネベルメナース。まだ向こう正面中間ですが、大迫春寿が一気に順位を押し上げて今中団外目。コンティルミエールを交わしていきました。

メトロノームラインとアルカンシエル。

後方にかけては3番サラノサイクロン。コンフォルトデイと外に4番クリスタルオーブ。

最後方になりました16番ユークリッドパス。

 

まもなく2度目の坂を迎えます。

11番ネベルメナース、一気に先頭まで奪うか。

抵抗する13番ジェルディサヴォア。2頭が後続を引き離しています。

離れて3番手5番ブラッドギア。2番のピリッキオス、15番のラストコンヴィンス。

パリディージャはちょっと苦しいかズルズル後退。

そして外、8番のコンティルミエール柚瀬(ゆせ)

 

3コーナーを回って下り、800を通過。

オーラスディグの内からサラノサイクロン。まだ後方の位置。

アルカンシエルとユークリッドパスはジョッキーが懸命に促している。

3,4コーナーの中間点。

ネベルメナースが先頭、ジェルディサヴォア2番手に替わる。

3番手5番ブラッドギア。外に持ち出したコンティルミエール。

 

有力勢が前に固まった状態で4コーナーカーブから直線。

馬場の真ん中11番ネベルメナース堂々先頭。インコースジェルディサヴォア、間を狙ってブラッドギア、外から8番コンティルミエール、大外に回ってクリスタルオーブ。

 

さあ先頭ネベルメナース1馬身から2馬身のリード、もう一度差し返すジェルディサヴォア。

その後ろブラッドギア懸命に前を追って、上がってくるコンティルミエールとクリスタルオーブ。

ムチが飛んでネベルメナース先頭。頑張っているジェルディサヴォア、ブラッドギア。外からコンティルミエールが凄い脚。内を突いてはサラノサイクロン。

しかし先頭だネベルメナース。コンティルミエール2番手、粘るジェルディサヴォア。その後ろブラッドギア4番手。

ネベルメナースだ、ネベルメナース、得意の京都で花開く!

ゴールドシップのラストクロップ、ついにGⅠ馬が誕生、天皇賞春父子制覇!

何度もジェルディサヴォアに阻まれてきた長距離の頂、ついに奪還。

 

勝ち時計は3分15秒7。

2着は外から追い込んだコンティルミエール。連覇を目指したジェルディサヴォアは3着まで。

京都で勝負と何度も言い続けていた大迫春寿。この名コンビが大きな勲章を手にしました>

 

椋聖(りょうせい)さん、また2着っスか」

 ゴール後、検量室に向かって引き揚げながら、上田が隣のコンティルミエールに跨る柚瀬騎手に声をかけた。

「お前らのせいだよ、この子の2着が多いのは。大体ジェルだってイギリス、有馬、ここで芝のGⅠ3戦連続3着じゃん」

「暮れのダートGⅠ1着挟んでるからいいんスよ」

「この子だって香港で1着挟んでるわ」

 なんとなく定位置になってきた2着と3着の枠にそれぞれ馬を収める。

 

 ジェルディサヴォアから降りると、谷地オーナーが納得したように首を縦に振った。

「やっぱり腹減ってたみたいですね」

 上田はちょっと言い繕おうかと考えたが、ストレートに伝えることにした。

「でしょうね。全然集中してなかったッスわ」

 検量室に入っていく上田を見送ると、谷地は井野に言った。

「腹膨れてから次どうするか考えましょう。もしかしたら当分休ませないといけないかもしれませんし」

 井野は小さく鼻を鳴らし、

「当然でしょう」

と、言い捨てるように返した。

 

 

【京浜スポーツ】2038年5月2日 17:36

~(天皇賞春 騎手コメント) ネベルメナース奇襲炸裂、春の盾掴む 大迫春寿「京都なら止まらない」

 

ネベルメナース1着・大迫春寿騎手「有馬の後から、京都に戻れば巻き返せると思っていましたし、ずっとそう言ってきました。今日はその通りの競馬ができました。(向こう正面で動いたのは)新しい形でしたが、ジェルディサヴォアがいつものように坂で息を入れる形に持ち込ませたくなかった。あの馬に自分のリズムで3コーナーを迎えられると、こちらがどれだけ脚を使っても届かないので。早めに外へ出して、坂の手前で並ぶところまで行ければ、コーナーで一度息を入れられると思っていました。京都なら止まらないと信じて追いました。父(ゴールドシップ)のようなまくりと言われるかもしれませんが、この馬自身も京都では本当に走りやすそうです。ようやく大きいところを取れてホッとしています」

 

 コンティルミエール2着・柚瀬椋聖騎手「栗東でしっかり調整できていましたし、返し馬の雰囲気も良かったです。去年もこのレースでいい脚を使っていましたので、3200mに不安はありませんでしたし、ある程度イメージ通りではありました。(ネベルメナースに)早めにレースを動かされて、こちらは追いかける形になりましたね。勝ち馬は強かったです。また2着ですけど、この馬は本当に崩れない。ジェルディサヴォアを交わせたことは大きいですが、結局勝てなかったので悔しいです」

 

 ジェルディサヴォア3着・上田秋信騎手「コンディションが悪いなりにも意地を見せたかったです。(ネベルメナースに並びかけられた時)こちらも抵抗して行かせないようにしたかったんですが、合図が届き切らなかった。こっちの意図がいつものように伝わっていない感じでした。3、4コーナーで息を入れ切れなかったですし、直線でも一度は来ていますけど、最後のもうひと踏ん張りがなかった。あの状態で3着に残したのは力だと思いますが、もっとやれることはあったんじゃないかとも……」

 

 ブラッドギア4着・ハリル・ルードルフ騎手「いい位置で運べましたし、馬は最後まで頑張っています。勝負どころで上位3頭が強かったですね。菊花賞馬として恥ずかしい競馬ではありませんが、(同じ菊花賞馬の)先輩にも負けましたし、古馬のトップとはまだ差があります」

 

 クリスタルオーブ5着・桐島大地騎手「距離は合っています。しまいを生かす競馬をしましたし、最後も脚は使っています。前が止まり切らなかった分届きませんでしたが、長距離ならまだやれます。今日は相手が強かったですね」

 

 サラノサイクロン6着・早川晶一騎手「最後は来ています。外に持ち出す機会がなかったのが痛かったですね。年齢というより、今日の流れで動き切れなかった感じです。ちょっと不完全燃焼です」

 

 ガルディメサイア7着・メイソン・ロメロ騎手「距離は問題ありません。ただ、ネベルメナースが動いたところで一緒に反応できなかった。長く脚は使っていますが、GⅠでは少し足りませんでした」

____

 

【京浜スポーツ】2038年5月2日 20:12

~ジェル3着の裏で谷地オーナーが調教師会に警鐘か 「次はダービー前」春盾混乱は序章~

 

 連覇を狙ったジェルディサヴォアは3着に敗れた。だが、単なる力負けと片づけるにはあまりにも特殊な一戦だった。

 同馬は前日からの輸送トラブルで京都競馬場入りが大幅に遅れ、到着は発走のおよそ1時間半前。馬体重は前走の日経賞から18キロ減の524キロだった。大型馬だけに見た目の数字ほど細くは映らなかったが、通常の調整過程から外れていたことは明らかだった。

 

 敗因として大きかったのは、スタミナそのものよりも集中力と反応の鈍さだ。道中はいつも通りハナを奪い、単騎逃げの形には持ち込んだ。しかし、向こう正面でネベルメナースが早めに動いた場面で合図に対する反応が鈍かったと上田騎手は語る。

 直線では一度、ネベルメナースとの差を詰める場面もあったが、残り200メートルを切ってから伸び切れず、外からコンティルミエールにもかわされた。最後のもうひと踏ん張りが利かなかったあたりに、馬体減と調整過程の乱れがはっきり出た。

 

 それでも、ブラッドギア以下を抑えて3着に踏みとどまったあたりは地力の証明でもある。勝ちに行ったからこその敗戦であり、強行出走のツケを払いながらも、王者としての最低限は守った一戦だった。

 

 ただし、この調整不足は単なるアクシデントでは片づけられない。

 ジェルディサヴォアは前日、通常の輸送開始直前に美浦トレセン内で動かなくなり、結果的に京都への出発が深夜までずれ込んだ。

 しかも動かなくなった場所は美浦トレセン最大の通用門の前。車両の通行が不可能となったことから通用門は実質的に封鎖され、同時にトレセン内で関東側の厩務員らによるストライキが発生していたことで、同馬の“座り込み”は偶然にもその混乱を最も象徴する出来事となった。

 

 関係者は「(通用門の封鎖で)輸送のスケジュールが狂ったのは想定外。ストライキそのものには組合外の人員で影響なく対応できるはずだった」と話す。事実、同じく美浦からの輸送に影響を受けたサイヤーレは出走取消。それ以外にも当日輸送で土曜の東京競馬、或いは前日輸送で日曜の京都に出走する予定の馬の中から出走取消が相次ぎ、春の盾の舞台は、レース前からすでに通常のGⅠではなかった。

 

 複数の関係者によれば、天皇賞春のパドックにおいて、谷地義弥オーナーと井野叶偉調教師、上田秋信騎手が短く言葉を交わす場面があったという。会話の詳細は明らかになっていないが、馬体重18キロ減での強行出走をめぐり、井野師と上田騎手は慎重な姿勢を示していたとみられる。

 一方で、谷地オーナーは出走の方針を崩さなかった。関係者の一人は「最終的には馬主判断。何かあれば自分が責任を取る、という空気だった」と明かす。

 

 

 今回の混乱では、大手クラブ系の実績馬サイヤーレが出走取消となった。天皇賞・春という大舞台で、有力馬が輸送の乱れにより出走を断念した事実は重い。労使交渉の第2回回答期限がダービー前に設定されていることを踏まえれば、今回の春盾混乱は「次」を占う試金石にも見える。

 ある厩舎関係者は「春天でこれなら、ダービー前に同じことが起きたらどうなるのか、という話になる」と声を潜める。

 春の盾で混乱の象徴となったのは、美浦から京都へ向かうはずだったジェルディサヴォアとサイヤーレだった。だが次の舞台は東京優駿。東京開催であれば、関東馬は多少の混乱があっても地の利がある。一方で、栗東から東上する関西有力馬にとっては、輸送スケジュールの乱れがそのまま出走可否に直結しかねない。

 

 その筆頭が、皐月賞馬アストラヴェイルだ。父イクイノックスのホープフルS勝ち馬は、皐月賞も制して世代の中心に立った。ダービーを勝てば種牡馬価値は青天井に跳ね上がるのは間違いない。もしその本命馬が、輸送の混乱で東京にたどり着けないような事態になれば、天皇賞の比ではない波紋が広がるのは避けられないだろう。

 

 谷地氏がジェルディサヴォアの強行出走を、ただ「連覇への執念」だけで決めたとは考えにくい。同馬は敗れた。だが、サイヤーレ取消という現実は消えない。

 厩務員側が本気で動けば、大手クラブの実績馬でさえGⅠの舞台に立てなくなる。

 春盾で可視化されたその事実は、ダービー前の交渉に向けて、調教師会幹部に突きつけられた“見えない盾”だったのかもしれない。

____

 

 優駿牝馬の第3回特別登録を前にして、井野はまだ迷っていた。

 リンガスマイセッサの桜花賞は、ギリギリよりもさらに苦しい勝利だったのは事実。

 しかし井野も、進藤も、そして谷地も、あれを能力が拮抗していた結果とは見ていない。

 むしろ逆だった。

 1600mが短すぎたからこそ、リンガスマイセッサはあそこまで苦しい競馬を強いられたのだから、距離が延びればもっと楽に走れる。

 2400mなら間違いなく適性範囲のはずだ。

(2400mなら、たとえアストラヴェイルが相手でも勝てる)

 井野は、そう考えていた。

 

 問題は、優駿牝馬と東京優駿のどちらに登録するかだった。

 第3回特別登録にはそれぞれ36万円がかかる。

 第1回、第2回ならともかく、ここまで来ればもう両方に払い続ける段階ではない。

 

 前回の桜花賞でもそうだった。

 谷地は第1回、第2回こそ皐月賞と桜花賞の両方とも登録していたが、第3回では桜花賞一本に絞り、皐月賞への登録は取りやめている。

 今回も同様に、優駿牝馬に出るなら東京優駿への第3回登録を取りやめる。

 逆に東京優駿へ向かうなら、優駿牝馬の第3回登録は見送る。

 東京優駿へ向けての決断は来週までにすればよいが、優駿牝馬の第3回登録締め切りは当然その1週間前。

 つまり、今日である。

 

 優駿牝馬への第3回登録を見送った時点で、リンガスマイセッサが優駿牝馬に出る道は完全に消える。

 井野が谷地に確認したかったのは、東京優駿へ出る許可ではなく、優駿牝馬を捨てる許可なのだ。

 

 登録の締め切りは16時。

 

 日曜の午後。

 谷地が電話に出るかは分からなかった。

 ゴルフコンペか、家族サービスか、あるいはその両方か。

 井野は、何度も谷地の携帯に電話をかけ続けた。

 留守番電話の無機質な案内音声が続く。

 用紙を持った井野が、美浦トレセンの事務所の前まで歩いてきたとき、ようやく電話口から谷地の声が聞こえた。

 

「もしもし」

「オーナー!」

 井野の声が弾んだ。

 まるで恋人から電話がかかってきたかのようなテンションである。

「オーナー、リンガスは、ダービーとオークス、どちらに行くべきだと思いますか?」

 その声に、谷地は内心、キモチワリィ、と思いながら、返した。

 

「オークスで」

 

 そうは問屋が卸さなかった。




次回は金曜の夜に

ネベルメナースの母に種付けしたとき、ゴルシは23歳。
……全然まだまだラストクロップじゃない気がする。

最後はあの名牝(ウオッカ)のパロディ。
これをやるために最強クラスの牝馬、リンガスマイセッサを登場させたまであります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。