ツーターン・スリーターン   作:ジェレミー

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貴族の本場へ

 

 相当にやつれたリンガスが来た。

 去年のレコードと全く同じような状況だった。

 去年は痩せ細ったレコードが俺の腹の下にダイブしてきたのだが、今年はレコードの周りをリンガスが子馬のように跳ね回っている。

 

 どうせ谷地オーナーのことだ、このまましれっとキングジョージにでも使うつもりなんだろう。

 リンガスが13周目に入ったところで、レコードがヘルプを求めてきたので一旦落ち着かせる。

 さっきからしれっとレコードの尻の匂い嗅いでるの見逃してないからな。

 違う違う。

 ハネムーンじゃないんだ。

 だとしたらお前大遅刻してるから。

 

 馬房に入れられたリンガスは文字通り人一倍喰った。

 少なくとも俺やレコードの倍は喰った。

 そして、走った。

 残念ながらヒルストン厩舎にはリンガスのお眼鏡に叶う乗り手は見つからなかったが、外厩の兄ちゃんには珍しく背中を許していた。

 ただし、外厩の兄ちゃんはキャンター程度までの担当で、ギャロップは専門外だったので、天神乗りでの並走になっている。

 

 で、俺にはヒルストン厩舎の騎手見習い君がモンキー乗りで乗っているのに、坂の終盤でリンガスに追い抜かれた。

 アレは外厩の兄ちゃんが悲鳴をあげながら掴まっているのを楽しんでるな。

 坂の下まで降りてきて、俺とレコードはもう一本行く予定だが、外厩の兄ちゃんが無理です、と降りようとすると、手綱を無視して速歩で歩き出し、降ろしてくれない。

 あんまりイジメてやるなよ、あと2本ぐらいにしてやれ。

 

 レコードに、行くぞ、と声をかけ、スタート地点まで歩く。

 レコードは勝手についてくるし、ひょこひょことした足取りでリンガスもついてきた。

 見習い君はリンガスが止まるまで待とうと、俺の口向きを変えようとしたが、無視してスタートを切る。

 当然、レコードも面白がってついてくるし、リンガスも、ストップ、ストップと叫びながら手綱を引いている兄ちゃんを背中に乗せたまま加速を始めた。

 

 2本目は俺が先着。

 レコードもリンガスも、騎手が手綱を引いていた分スピードに乗り切れなかったようだ。

 帰りは2人に指導するついでに、下り坂を駆け下りてみる。

 グッドウッドやアスコットの長い下り坂でもペースと折り合いを保つための訓練のつもりだ。

 騎手の指示を無視して勝手に走ってる時点で折り合いもへったくれもないわけだが。

 

 レコードは昨年のサセックスSで経験しているわけだが、リンガスも下りが上手いのは驚いた。

 ピッチ走法からストライドを伸ばしていく可変タイプなだけに、むしろ下りの方がストライドを伸ばしやすいようだ。

 ただしブレーキをかけられないから、スタートから中盤まで下りになるアスコットは怪しいかもしれない。

 

 ノンストップでもう一度ウォーレン・ヒル・コースに入り、キャンターぐらいのペースまで加速する。

 3本目は仕上げというより、クールダウンのつもりで、叩き合いにまでは持ち込まない。

 既に1600mを超える距離を走っているので、俺は大丈夫だが、これ以上走るとレコードの脚があがる。

 リンガスはまだ余裕がありそうだが、リンガスの背中で目を回している外厩の兄ちゃんが可哀想だからここまでにしておいてやろう。

 

 多少オーバーワークだったかもしれないが、本番まであと2週間ある。

 リンガスの調子も戻ってきたようなので、こちらで1戦をこなすことぐらいは出来そうだ。

 ヒルストンセンセイはこれどう報告するんだろうね。

 ほらやっぱり頭痛そうな顔をしていた――。

 

 

 7月25日の日曜、谷地オーナーや井野調教師を始め、谷地オーナーの家族や全報スポーツの寺尾記者らがヒルストン厩舎に集まった。

 正確には土曜の夜には到着して、一晩ホテルに泊まっている。

 

 結局コウヘイは来ていなかった。

 リンガスマイセッサの同伴で中村学厩務員がニューマーケットに来ている以上、いくら夏競馬で暇な期間とはいえ、これ以上井野厩舎のスタッフを引き抜くのは不可能だったからだ。

 現状、中村厩務員がシビアレコードとリンガスマイセッサを担当し、例の外厩スタッフと騎手見習いがジェルディサヴォアの担当となっている。

 上田秋信騎手と進藤誠紅騎手の到着は明日であり、グッドウッド競馬場近くのホテルに先乗りとなるので、レース前はニューマーケットには顔を出せない。

 

「マコがいないから、仕方ないですね。相良君、最終追い切りも乗ってください」

「また俺ですか!キャンター専門だって言ってるじゃないですか。リンガス、ワザと俺を降ろさないようにするんですよ」

 馬房から首を伸ばし、谷地の娘からニンジンをもらっているリンガスを指さして、谷地の外厩スタッフ、相良が首を振った。

「ほかに乗れる人いないんだから仕方ないです。天神乗りで大丈夫ですから、ね」

「予定本数こなしたら中村さん、止めてくださいよ?」

「おう、骨はニューマーケットに撒いといてやるから」

 一旦拾ってくんねえかな、と、ブツブツと文句を言いながら支度に出て行った相良を見送り、井野は谷地と寺尾に向かって言った。

「追い切りはラウンドギャロップコースでいいでしょう。ジェルにハロン14秒をキープして走ってもらえば十分です。後ろの2頭は勝手についてきますから」

「結構ゆったりですけど、いいんスか?」

 寺尾が井野ではなく谷地の方を向いて聞いた。

「異論はありませんよ」

 谷地がゆっくりと頷き、ヒルストン調教師らに向けて英語で井野の方針を伝えた。

 

 

【全スポ】2038年7月25日18時40分

~日本馬3頭がニューマーケットで最終追い切り ジェル先導の豪華併せ馬~

 

 グロリアスグッドウッドに参戦する日本馬3頭が25日、英国ニューマーケット調教場のライム・キルンズで最終追い切りを行った。

 

 グッドウッドC(G1、芝約3200メートル、27日=グッドウッド)に出走するジェルディサヴォア(牡5)、サセックスS(G1、芝約1600メートル、28日=同)に向かうシビアレコード(牡4)、ナッソーS(G1、芝約2000メートル、29日=同)に登録しているリンガスマイセッサ(牝3)が、芝の周回コースで併せ馬を消化した。

 

 3頭の先導役を務めたのはジェルディサヴォア。ハロン14秒程度のペースを刻み、シビアレコード、リンガスマイセッサが後方から追走した。強く追う内容ではなく、起伏のあるコースでリズムと折り合いを確認する調整となった。

 

 井野叶偉調教師は「ジェルに一定のペースで走ってもらえば十分です。後ろの2頭は勝手についてきますから。時計を出すというより、こちらの馬場でリズムを確認する内容でした」と説明。

 電撃参戦となったリンガスマイセッサについては、「こちらに来た直後は体が寂しく見えましたが、あっという間に回復しました。予定外の出走となりましたが、仕上がりは上々です」と話した。

 グロリアスグッドウッドは27日に開幕する。陣営は初日のグッドウッドCを皮切りに、サセックスS、ナッソーSと3日連続でG1に出走予定。

____

 

~(グッドウッドC)ジェルディサヴォアが英国長距離路線へ復帰、距離短縮で欧州勢に反撃の余地はあるか~

 

グロリアスグッドウッド初日のメイン、グッドウッドC(G1、芝約3200メートル)には、日本からジェルディサヴォアが出走する。昨年は英ゴールドカップを勝利しキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでは逃げられず3着。欧州長距離路線で存在感を示し続けている同馬だが、今年春の天皇賞・春では3着。単騎逃げから自分の形を作るはずが、京都の向こう正面でネベルメナースに早めに動かれ、持ち味を封じられた。

 

今回の舞台はグッドウッドの約2マイル。英ゴールドCの約4000メートルとは異なり、純粋なスタミナ勝負というより、下り、コーナー、位置取り、加速のタイミングが問われる。特に左右にコーナーが切り替わる特殊なコース形状とあって、ジェルディサヴォアにとっては強みを生かせる一方で、距離短縮により相手の付け入る余地も残る条件だ。

 

ブックメーカー各社ではジェルディサヴォアが1番人気で、前売りは1/20前後。英ゴールドC登録時には一時1/100近くまで売れていたことを考えれば、今回は距離短縮や春の敗戦を材料に、いくらか慎重な評価となっている。ただし日本式に直せば単勝1・05倍ほど。もはや逆転不可能ともいえる評価であることに変わりはない。

 

対抗格は昨年の英セントレジャー馬エルドリッジヴェイル。出走予定だったゴールドカップはジェルディサヴォアに対して早々に白旗を揚げ回避。今年初戦となったヨークシャーCでは2着に敗れたが、長距離路線の古馬相手に一定の内容を示した。2マイルならゴールドCよりも条件は合う可能性があり、地元英国勢の期待を背負う存在になる。

 

同じくゴールドカップでは直前で出走を回避したクルビッツ。前走ヘンリーⅡSは3着で、年齢的に大きな上積みは見込みにくいが、ジェルディサヴォアの強さを知ったうえで再び挑む点は評価できる。勝ち負けというより、欧州ステイヤー路線の常連として、どこまで食い下がれるかが焦点だ。

 

勢いならヘンリーⅡSを勝ったランタンリーフ、サガロS勝ちのアイルランド馬モイトゥラも侮れない。いずれもG1実績では見劣るが、ジェルディサヴォアを除けば今季の状態面では上位に入る。UAE王族の威信を背負うブルーウォッチ、フランスから遠征するモンヴァントゥ、地元ハンデ戦上がりのハイランドバラードは人気薄の立場だが、少頭数の長距離戦だけに、展開ひとつで掲示板争いに加わる余地はある。

 

それでも中心はジェルディサヴォアだ。英ゴールドCほど絶対視されていないとはいえ、グッドウッドのコーナーは同馬の器用さを生かせる条件でもある。春の敗戦を経て、欧州の丘で長距離王としての評価を取り戻せるか。グロリアスグッドウッド3日連続G1挑戦の初戦は、ジェルディサヴォアの復権を懸けた一戦となる。

____

 

~(サセックスS)前年覇者シビアレコードが連覇へ、ロッキンジS勝ち馬フィールドプロミスが最大の壁~

 

グロリアスグッドウッド2日目のサセックスS(G1、芝約1600メートル)には、昨年の覇者シビアレコードが出走する。日本馬でありながら欧州マイルG1を制した実績はすでに現地でも高く評価されており、今年は前年覇者として迎え撃つ立場になる。

 

シビアレコードは一昨年の朝日杯FS、昨年のサセックスSを制し、早くからマイルで高い能力を示していたが、昨年秋からは中長距離路線を中心のローテーション。いずれも善戦はするものの勝利には届かず、今年は距離を短縮し大阪杯、プリンスオブウェールズSに参戦。類まれなるスピードを武器に前走を快勝。今後に向けての道筋を示した。さらに距離短縮となるが、既に昨年このレースを制していることもあり、距離の下限については不安はない。

 

前売りではシビアレコードが4/6前後の1番人気。ジェルディサヴォアほど極端な一本被りではないが、前年覇者としての信頼は厚い。グッドウッドのマイルは直線だけの単純な瞬発力勝負ではなく、位置取り、コース取り、仕掛けの精度が重要になる。進藤誠紅騎手とのコンビにとっても、昨年以上にマークを受ける中での対応力が問われる。

 

最大の相手はフィールドプロミスだろう。前哨戦のロッキンジSでは、後にプリンスオブウェールズSで4番人気に支持されたエクリプスコードを下して勝利。2000メートル寄りの馬も混じる古馬路線の中で、マイルに特化した強さを見せた。続くクイーンアンSでも上位争いを演じ、マイルのスペシャリストとして評価は高い。

 

そのクイーンアンS勝ち馬はドックサイドグラス。すでに古馬G1を制している点は大きく、展開が流れれば末脚を生かせる。愛2000ギニー馬アシュリンコードは3歳馬として斤量面の利があり、古馬相手にどこまで通用するか。3歳世代の水準を測る意味でも注目の存在だ。

 

フランスのセーヌアライヴは勝ち切るにはややパンチ不足の印象だが、安定感はある。クワイエットリードは人気薄ながら展開を作る可能性があり、少頭数だけに無視はできない。

 

シビアレコードにとって、今回は「挑戦者」ではなく「標的」として走るサセックスSになる。昨年の勝利が偶然ではなかったことを示すには、欧州マイル路線の主力を正面から退ける必要がある。初日のジェルディサヴォアに続き、日本勢がグッドウッドの主役を奪えるか。2日目は、完成されたマイラーの真価が問われる。

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~(ナッソーS)日本の二冠牝馬リンガスマイセッサが電撃参戦、現地評価は4番人気も秘めた能力は未知数~

 

グロリアスグッドウッド3日目のナッソーS(G1、芝約2000メートル)には、日本のオークス馬リンガスマイセッサが出走する。桜花賞、オークスを経て秋の三冠最終戦へ向かうと思われていた3歳牝馬が、夏の英国で古馬牝馬相手のG1に参戦する異例のローテーションだ。

 

ただし現地での評価は中心視できるほど高くはない。現地ブックメーカーの前売りでは、リンガスマイセッサは6/1前後の4番人気。日本の二冠牝馬という肩書きはあるが、オークスの勝ち時計は突出したものではなく、上がりも34秒台。数字だけを見れば欧州の関係者が絶対視する材料には乏しい。

 

さらに今回は初の欧州遠征、初の洋芝、初のグッドウッド。もともとは避暑と調整を兼ねた渡英であり、ナッソーS出走も電撃的に決まった経緯がある。2000メートルという距離についても管理する井野調教師はやや不安を覗かせており、加えてグッドウッド特有の下りとコーナー、古馬牝馬を相手では、これまで以上に厳しい戦いを強いられるのは必至だ。

 

1番人気は地元英国の古馬牝馬代表のシーファイア。前走プリティポリーSを勝っており、2000メートル前後の完成度では最上位と評価される。安定感と経験値の面では、リンガスマイセッサより明らかに信頼を置きやすい存在だ。

 

2番人気は英オークス馬ミンスターハープ。同じく地元英国の3歳牝馬として最も注目される一頭で、オークス馬同士の対決という点でも話題性は大きい。ただし2400メートル型の可能性もあり、距離短縮とグッドウッドの流れに対応できるかが鍵になる。

 

3番人気には愛オークス馬ロズメアグレイスが続く。こちらは馬場が渋ればさらに評価を上げそうなタイプで、良馬場の瞬発力勝負ではやや切れ負けの懸念もある。フランスから参戦するシールペルデュは2000メートル前後に実績があり、古馬牝馬としての完成度は高い。ウィスパリングロー、チェスターライラックは人気では劣るが、展開ひとつで上位争いに加わる余地はある。

 

リンガスマイセッサの参戦によって、図らずとも日英愛のオークス馬が一堂に会し、世界における世代女王を競う舞台となったが、3頭とも2400mで真価を発揮するタイプなだけに3歳勢総崩れという結果も十分に考えられる。

 

現地で4番人気にとどまる評価も、未知の要素を考えれば自然なものだろう。初の欧州遠征で、古馬牝馬と地元英愛のオークス馬を相手にどこまで通用するか。ジェルディサヴォア、シビアレコードに続く日本勢3日連続G1挑戦の締めくくりは、日本の二冠牝馬にとっても、自身の評価を世界に問う一戦となる。





私が忘れるので、メモとしてグッドウッド3レースの出走表を置いておきます。
見ておきたい方はPC版推奨です

グッドウッドC

馬番馬名アルファベット負担重量ゲート番前走オッズ
1ブルーウォッチBLUE WATCHせん662kg5ヨークシャーC/440/1
2エルドリッジヴェイルELDRIDGE VALE462kg6ヨークシャーC/210/1
3ジェルディサヴォアGEL DES AVOIRS562kg4英ゴールドC/11/20
4ハイランドバラードHIGHLAND BALLADせん762kg3ノーサンバーランドP/180/1
5クルビッツKURBITS662kg2ヘンリーⅡS/328/1
6ランタンリーフLANTERN LEAFせん562kg1ヘンリーⅡS/116/1
7モンヴァントゥMONT VENTOUXせん662kg8ヴィコンテスヴィジェール賞/250/1
8モイトゥラMOYTURA562kg7サガロS/120/1


サセックスS

馬番馬名アルファベット負担重量ゲート番前走オッズ
1ドックサイドグラスDOCKSIDE GLASSせん561kg2クイーンアンS/15/1
2フィールドプロミスFIELD PROMISE461kg5クイーンアンS/27/2
3クワイエットリードQUIET LEADせん461kg1サマーマイルS/233/1
4セーヌアライヴSEINE ALIVE461kg6ジャンプラ賞/216/1
5シビアレコードSEVERE RECORD461kg4プリンスオブウェールズS/14/6
6アシュリンコードASHARIN CODE358,5kg3愛2000ギニー/18/1


ナッソーS

馬番馬名アルファベット負担重量ゲート番前走オッズ
1チェスターライラックCHESTER LILAC561kg2ミドルトンS/225/1
2シールペルデュCIRE PERDUE461kg6コリーダ賞/18/1
3シーファイアSEA FIRE461kg5プリティポリーS/19/4
4ミンスターハープMINSTER HARP357kg3英オークス/13/1
5リンガスマイセッサRENGASMAISESSA357kg4日オークス/16/1
6ロズメアグレイスROSMEA GRACE357kg1愛オークス/15/1
7ウィスパリングローWHISPERING ROW357kg7リブルスデールS/112/1

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