グッドウッドC
| 馬番 | 馬名 | アルファベット | 性 | 齢 | 負担重量 | ゲート番 | 前走 | オッズ |
| 1 | ブルーウォッチ | BLUE WATCH | せん | 6 | 62kg | 5 | ヨークシャーC/4 | 40/1 |
| 2 | エルドリッジヴェイル | ELDRIDGE VALE | 牡 | 4 | 62kg | 6 | ヨークシャーC/2 | 10/1 |
| 3 | ジェルディサヴォア | GEL DES AVOIRS | 牡 | 5 | 62kg | 4 | 英ゴールドC/1 | 1/20 |
| 4 | ハイランドバラード | HIGHLAND BALLAD | せん | 7 | 62kg | 3 | ノーサンバーランドP/1 | 80/1 |
| 5 | クルビッツ | KURBITS | 牡 | 6 | 62kg | 2 | ヘンリーⅡS/3 | 28/1 |
| 6 | ランタンリーフ | LANTERN LEAF | せん | 5 | 62kg | 1 | ヘンリーⅡS/1 | 16/1 |
| 7 | モンヴァントゥ | MONT VENTOUX | せん | 6 | 62kg | 8 | ヴィコンテスヴィジェール賞/2 | 50/1 |
| 8 | モイトゥラ | MOYTURA | 牡 | 5 | 62kg | 7 | サガロS/1 | 20/1 |
谷地オーナーは、グッドウッド競馬場の関係者専用エリアにあるレストランに家族を始め、井野や寺尾らを招いた。
いつも通りの見栄が大半ではあるが、アスコット競馬場のダイニングルームより、こちらの方が気に入っているのである。
そして今日は3日続けてレースに出走させるので、このレストランに同伴者を招く機会は3回ある。
その3日間で、井野厩舎の面々だけではなく、ヒルストン厩舎でジェルディサヴォアらの調教を手伝ってくれた人たちも順番に招く予定となっていた。
このレストランには馬主を除いて5人までしか招待できないので、ジェルディサヴォアが出走する初日のグッドウッドカップデーは井野調教師や寺尾記者、そして外厩スタッフの相良を招いていた。
「オーナー、ワインの一杯でもお飲みになったらいかがです?」
テーブルの向こうから、井野がワインクーラーに入ったロゼワインを指さして言った。
「私は
谷地が御大層にワイングラスに注がれているオレンジジュースを傾けた。
「誰も飲まないから、ほとんど奥様一人で1本空けてるじゃないですか」
運ばれてきたワインに口を付けたのは谷地の妻以外には井野と相良、寺尾の3人だけで、それも乾杯の一杯だけだったので、残った分は谷地の妻が飲み干すのが海外遠征に行った時のレストランでのお約束であった。
谷地の妻は
1杯目からオレンジジュースを美味しそうに飲んでいるのは谷地と谷地の娘の2人。
ワインクーラーに、ロゼワインと一緒にオレンジジュースのボトルが沈められているのはどうにも納まりが悪かった。
「初日はジェルですからね。安心して飲んでいいんじゃないですか?」
「アキさんにはなんか指示したんですか?」
井野はグラスで唇を湿らせてから、一つだけ、と指を立てた。
「コーナーで落馬するな、とだけ伝えておきました。去年のモーリッシュが参考になるでしょうから、後はアキに任せます」
一同はグロリアスグッドウッドのオープニングレース、チェスターフィールドカップに出走する馬たちのパドック周回を眺めた。
「そろそろ行かないと」
井野が腕時計を見て谷地に目配せをする。
グッドウッド競馬場の待機馬房は競馬場から1マイルほど離れた場所にあるので、馬房から馬を出したら馬運車で連れてくるか、歩かせてくるしかないのである。
当然余計な時間がかかるので、15時の発走と言えど、急いで準備に入らなければならなかった。
谷地や井野と別れた寺尾は、記者エリアへ向かう道すがら、ぐるりと遠回りをして、グロリアス・グッドウッドの雰囲気を記事にしようと、カメラを片手に歩き回っていた。
初日はまさにグッドウッド競馬場の名を冠したグッドウッドCが開催されるが、今年はどうもムードが良くない。
客の興味はメインレースのグッドウッドCではなく、2歳戦のGⅡヴィンテージステークスや、コース周りで開催されているパーティのほうに集中していた。
その理由は当然、日本のジェルディサヴォアが断然の一番人気になっているからである。
グッドウッドCはGⅠへ昇格したのは比較的最近の2017年で、サセックスSやナッソーSと比べGⅠとしての知名度は低い。
しかも出走馬の格をもってGⅠ格付けを与えられたわけではなく、長距離レースの保護のためにGⅠにしてもらえたという、政治的な側面も強いレースなのだ。
さて長距離レースというのは、ライト層からしてみれば有名な馬はほとんど出てこない、興味の薄いレースである。
一方で、自分にとっての“推し馬”が相手を薙ぎ倒すことを願って応援するコアなファンには人気の、マニアックなレースとも言える。
当然、地元贔屓でエルドリッジヴェイルに
ジェルディサヴォアがパドックに出てくると、大ブーイングで迎えられていた。
アスコットの鬼であるジェルディサヴォアはイギリス競馬のファンにとっては邪悪な魔王とでも言うべき存在――鬼なのか魔王なのかややこしいが――で、3歳時のキングジョージⅥ&クイーンエリザベスSを勝って以来、基本的にブーイングで迎えられるのが定番であった。
イギリスで勝つ度に、ジェルディサヴォアを“日本から来た傭兵”扱いをしているフランスの競馬記事がイギリス競馬を煽りまくるのも“アンチ・ジェルディサヴォア”に拍車をかけている。
ベストターンドアウト賞の授賞式では改めてブーイング。
ノーコンテストだった前走のゴールドカップを除き、ジェルディサヴォアの海外レースにおけるベストターンドアウト率は100%だ。
「今日も盛り上がってますねえ」
谷地が、パナマ帽のつばをつまみ上げ、パドックを囲む競馬ファンを見渡した。
「日本でもたまにブーイング食らいますけどね、ジェルは。動じないのは助かりますけど、この煽る癖だけはどうにかならないですかね」
ベストターンドアウト賞を獲り終えてしまえば、ブーイングやヤジを飛ばすファンに向けて首を高く上げ、リズムよく顔を上下に振るのがジェルディサヴォアのルーティーンになっている。
かと思いきや、急に首を振ったり小刻みなステップを繰り返し、曳き綱を振り払うように暴れ出した。
パドックの周囲からは囃し立てるヤジが飛び交い、上田騎手が駆け寄ってきても、相良と井野がジェルディサヴォアを落ち着かせるまで乗ることができなかったのだ。
上田が跨ってからも、振り落とさんばかりに首を振っている。
「何かあったのか?」
井野がジェルディサヴォアの足下を覗き込んだ。
2人曳きにしたかったが、リンガスマイセッサなどと違い、パドックではいつものんびりしているジェルディサヴォアであったから、予備の曳き綱は持ってきていなかった。
「蹄鉄はハイベストのままですよね?」
谷地が心配そうに聞いた。
「ええ。緩んでる可能性もあります。落鉄してしまえばすぐ分かるんですが」
ハイベスト蹄鉄はその素材上、蹄鉄側の釘穴が広がりやすく、耐久性も低いのである。
「あまり暴れるとスクラッチになりますからね。とりあえず馬場に向かわせましょう」
と、井野が言った途端、ジェルディサヴォアは小刻みなステップを止め、首だけを振るようになった。
馬場に出て、誘導馬に従いゴール板を通過するまでは落ち着いていた。
そこからスタートゲートの裏に向かうまでに、またジェルディサヴォアのテンションが上がった。
「おい、ジェル、どうした?」
馬上で上田が鬣を撫でながら呟くと、ジェルディサヴォアはふと立ち止まって上田の方に顔を向け、しばらく宙を見上げると、また首を振り始めた。
「お前ワザとやってねえ?」
上田の声に、ジェルディサヴォアはまた一瞬動きを止め、アァ、と小さく声を上げるとまたスタンドの方を見上げ、三たび首を振った。
「勝手にしろい」
上田が撫でていた手を軽く振り下ろし、頭にチョップをいれた――。
(どっちがいいかなー)
俺はゲート裏の外ラチに尻を預け、いつものように輪乗りをしている馬たちをぼんやりと眺めていた。
長距離というのはペースが崩れれば崩れるほど、後半での巻き返しが難しくなるのは常識だ。
海外のレースは日本の競馬のように、奇数、偶数、大外枠の順番で誘導を受けるわけではないので、久々に先に入って威圧をするか、それとも逆にゲート入りを渋ってレースそのものを嫌がっているように見せるか。
そういえば今、俺の曳き綱を引いているのは外厩の兄ちゃんじゃなかった。
現地のスタッフが曳いているから、遠慮しなくていいや。
勝手な行動を取ったところで、叱られるのはアスコットのスタッフだけで、井野センセイじゃないしな。
ゲートの後ろ扉が開けられ、ゲートスタッフがこちらを振り返った瞬間、輪乗りの列をぶち破るように横切り、何度もゲートの上の番号を確認しながら、4の枠に突進する。
必死に止めようとするスタッフを引きずり、ゲートに身体を納めるとすぐ、後ろ扉が閉められた。
俺が急に突っ込んだことで、後ろは大混乱に陥っており、一旦落ち着かせるために輪乗りが再開され、次の馬が入ってくるまでに2分を要した。
俺がイライラしている雰囲気を出し、たまにゲート内で暴れたり嘶いたりすれば、気圧された他の馬はまたゲート入りが止まる。
暴れると言っても脚を振り上げたりゲートを潜ろうとすれば、馬体異常と取られスクラッチになるので、尻を横に打ち付けてゲートを揺らす程度にしておいた。
左右の馬がブルーウォッチとハイランドバラードなのはつまらないな。
雑魚だし。
残念ながらゲート内で座り込む馬は現れなかったが、ゲート入りが完了するまで7,8分はかかっただろう。
さて、超長距離となれば作戦はもちろん、大逃げだ。
最近考えた新しいスタート方法。
最後のゲートが閉まった音が聞こえたら、右後ろ脚に力を溜めつつ、右の前脚を引く。
ゲート入りが完了するまで十分な時間があったので、スターティングブロックはしっかり掘れている。
一般的には両後ろ脚で同時に蹴り出すが、そうすると前脚が浮いてしまう。
同時に騎手が重心を前に倒して補助するのだが、二歩目に移行するまでのロスが大きい。
どうせここはしばらく右手前だし、右脚に体重を乗せても十分休めるはずだ。
気分は完全に、クラウチングスタートである。
あのネベルメナースの親父さんも、クラウチングスタートでよくね、とか言っていたし。
ゲートが開いた瞬間、左前脚を突っ張らせないように手前に引き込みながら、右後ろ脚を強く蹴り出す。
そしてすぐに左後ろ脚を蹴り、右前脚を着地。
バタバタとした足さばきになったので、もう少し改良の余地がありそうだ。
先ほど、一般的な馬は両脚で蹴ってスタートを切る、と言ったが、実はその直後、俺がやったように両後ろ脚でバタバタと2,3歩進みながら加速をしていく。
つまり俺の方法は、単に一歩目の両脚跳びを省略しただけなのである。
なかなかうまくいったのではなかろうか。
1歩目のパワーは他の馬に負けたが、2歩目の蹴りで半馬身抜け出した。
そして偶然の産物ながら、これは今日のレースのような、コーナーからのスタートになるレースに向いていることがわかった。
スタートした瞬間左にヨレるので、外のブルーウォッチと、エルドリッジヴェイルを弾き飛ばす。
スタートの瞬間における事例なので、アキさんが過怠金を取られることはあるかもしれないが、降着や失格はない。
そのまま最初の左コーナーに突入していくので、あらかじめ馬体がコーナーの内側を向いた状態でスタートを切ることができた。
勢いに任せて斜行してしまうとまたややこしいことになるが、大逃げを打つと決めているので、他の馬から2,3馬身のリードを取りながら左のラチ方向に切り込んでいく。
これだけのリードがあれば、斜行の制裁はない。
馬場もいい具合に湿っており、ふわふわだ。
雨が降ってくれていたらもっと嬉しかったが、靄がかかっている程度の湿度なら、十分許容範囲の低クッションである。
脚元への憂いはない。
さあ、飛ばそう。
下り坂の勢いに乗せて、速度を上げる。
最初の1Fはスタート直後ということとコーナーに差し掛かるので16秒前半がいいところで、コーナーが終わる直前に左のラチから離れ、今度は徐々に右のラチ側に寄って行きながら2F目、3F目で10秒台を目指す。
4Fあたりから8の字の頂点にあたる右コーナーが始まり、ここからはハロンタイムがどうしても落ちてしまう。
しかしこのやや重めの馬場で、しかもレース前にあれほどイレ込んでいた俺が飛ばしても、誰もついてこようとしなかったのだ。
これぐらいの馬場状態ならおそらく標準的な1000m通過タイムは1分9秒ぐらいのはずだ。
ちょっと見づらいのだが、コーナーに入り、少し顔を内側に向けると、後方集団の先頭を走る馬が右目ではっきりと見えた。
立体視ができない分正確な距離は掴めないが、おそらく20馬身程度の差はついているだろう。
コーナーの途中、約6F目の辺りで上り坂から下り坂に切り替わる。
得意の稜線での休憩ポイント。
ハロン14秒後半まで落とすつもりで急減速をしながら、ゆっくりと息を吐き出す。
クッション値が低いので後方勢の
首の後ろが伸びるような感覚があれば、ストレッチも万全だ。
人間であれば肩がコキっと鳴っていただろうが、俺がそれをやると骨折か脱臼かと大騒ぎになり、アキさんが追うのをやめてしまうかもしれない。
後ろの馬の気配が大きくなってきたので、また下り坂の勢いに乗って加速をする。
肩のストレッチを済ませ、レース序盤の下りでバランスを取っていた前脚の伸びがよくなった。
もう一度行こう、ハロン11秒台。
4Fほど下りが続き、ここからがお楽しみ。
1.5Fほど急に上り坂があり、すぐに下りに切り替わる。
そして約80°ほどの鋭角コーナー。
セオリーは外側のラチ沿いからコーナーに進入し、アウトインアウトで直線を向くパターンだが、俺は内ラチにベッタリと張り付く。
昨年のモーリッシュ先輩も同じようにやったらしいが、リードがまた12,13馬身ほどに広がっているので余裕をもって回る。
昨年秋、アキさんと散々練習したコーナーワーク。
ハロン13秒台に落とし、馬体を一気に内に倒す。
25°は流石に厳しいかもしれないが、20°ぐらいならアキさんは乗りこなしてくれるはずだ。
やわらかい馬場が
ここまでゆったりとコーナーを回れば、息の入りも十分。
ここから直線が900mほど続くのは面倒だが、思っていたほど後方勢が詰めてこなかった。
「もうちょい待とうか」
アキさんの声が聞こえた。
オープンストレッチがまだ始まっていないので、この場所はハロン棒が遠く、見づらい。
ようやくオープンストレッチが始まり、残り2ハロンのはずなのだが、結局誰も来なかった。
残り900mほどの地点から息を入れ始め、オープンストレッチまでのんびり走っていたので約500mは息を入れていたことになる。
あまりに落ち着きすぎて、心拍まで落ち切ってしまうといけないので、少しずつ加速を再開しながらオープンストレッチの内ラチに張り付く。
リードは十分だと思うが、外から並ばれるだけならまだしも、オープンストレッチを使って両側から挟まれるのは避けたかった。
アキさんがいまにも立ち上がりそうになっているので、ハロン11秒程度まで加速しておく。
立ち上がってから急加速や急減速をすると、バランスを崩しかねないからだ。
安全圏の速度を確保しながら、アキさんがセレブレーションを始めるのを待った。
去年のゴールドカップのようなカメラ目線はやめておいた。
上手く距離と歩幅を調整して、ゴール板を通過する瞬間に馬体が縮むようにしてみる。
これで俺の顔もしっかり収まるはずだ。
いつものようにすぐにペースを落とし、真っ先にUターンしてゴールの方向を見る。
振り向いた瞬間、フラフラでもはや歩きかけているブルーウォッチがゴールした。
3200mでは後ろの馬もそこまで消耗しなかったらしく、残念ながら今回もクルビッツのゴールシーンは見れず。
15馬身以上離れているけど2着だし、結構頑張ってついてくる奴なんだな。
ざっと見回した感じ、残るは2頭。
ハイランドバラードとモンヴァントゥなのだが、もうやめてるかな。
この時間になっても来ないし。
遠くの方で黒い幕に隠されているのはどっちだろうね。
手を振っている外厩の兄ちゃんのところまで速歩で近づくと、曳き綱が繋がれた。
兄ちゃん、さっさとウイナーズサークルまで連れて行ってくれ。
インタビュアーが近づいてくると面倒なんだ。
アキさん英語喋れないから、事故るぞ。
<グッドウッド第4レース、スタートしました。
モイトゥラとハイランドバラードが好スタート、それでも先頭はジェルディサヴォアがスピードを上げていく。
非常に不利なスタートとなったのはエルドリッジヴェイル。
最初のコーナーを通過していく。
リードを取ったのはジェルディサヴォア。モイトゥラが3馬身差。そしてクルビッツが続いていく。
ハイランドバラードが1馬身差。モンヴァントゥ、フランスの期待馬は一番外側を走っているが、次のコーナーではこの馬が一番内側を走ることになる。
連勝がかかっているランタンリーフ。
後ろの方にいるブルーウォッチ。エルドリッジヴェイルが最下位。
右に曲がる
ジェルディサヴォアのブレーキが壊れているのはいつものことだ。
後ろのモイトゥラは10馬身以上離れている。
クルビッツとの差も広がって、ハイランドバラードはその3馬身後ろ。
4位タイでモンヴァントゥ。今度は外側を走ることになるランタンリーフ。
最下位から順位を回復したエルドリッジヴェイル。
今度はブルーウォッチが一番後ろになる。
オークツリーコーナーで折り返し地点に差し掛かって、残りは1マイル半となる。
今カメラに写っているのは先頭のジェルディサヴォアだけ。
カメラが動いてモイトゥラとクルビッツの姿が見えた。
そこから4馬身ぐらい離れてモンヴァントゥ。
ランタンリーフの外側からエルドリッジヴェイルが追い越していく。
一番後ろを走っているブルーウォッチは一つ前と3馬身差ぐらい。
先頭を走っているジェルディサヴォアは坂を登り終えて、折り返しを完了した。
モイトゥラとクルビッツはまだコーナーの途中のように見える。
間隔があいてモンヴァントゥ。
エルドリッジヴェイルはさらに順位を上げないと不安がある。
ランタンリーフは少し距離が開いたか。
ブルーウォッチはインコースをロス無く走っている。
ジェルディサヴォアは向こう側のコースから交差点を通過して
速いスピードですがカーブのいちばん内側をロス無く走っている。
クルビッツが2位になって、少しずつスピードを上げようとしているが、手遅れかもしれない。
そしてエルドリッジヴェイルが彼らの後ろについてきて、モイトゥラと同じぐらいの場所にいる。
ああ、一頭脱落した。ハイランドバラードが列から離れてしまう。
モンヴァントゥが5位に浮上する。
離れて走っているのがランタンリーフ。ブルーウォッチは騎手がゴーサインを出す。
そしてついに、ジェルディサヴォアだけがホームストレートに帰ってきた。
まだコーナーを走っているクルビッツ、2位タイになったエルドリッジヴェイル。
少し遅れたモイトゥラ。
彼らはまだお互いを牽制しているのか、優勝を目指していないかのようだ。
もうすぐジェルディサヴォアは残り半マイルを終える。
騎手がずっと後ろを見ているが、距離は数えるだけ無駄だろう。
後ろの集団の真ん中を走っているクルビッツ。そしてエルドリッジヴェイルは最後のために外側に位置を取った。
モイトゥラは距離が開いていくのに騎手はまだアクションを見せない。
ランタンリーフはインコースを走って、ブルーウォッチは何とか完走を目指すのか。
そしていつの間にかモンヴァントゥが脱落している。
残り4ハロンになって、一気にオープンストレッチに入り込んでいくジェルディサヴォア。
ようやくクルビッツがエルドリッジヴェイルを突き放して2馬身リードを取る。
エルドリッジヴェイルはかなり消耗しているようだ。
ジェルディサヴォアが加速する。また距離が離れていく。
すでに騎手が立ち上がっているが、それもそのはずで20馬身ぐらいは離れている。
この魔王はイギリス国民を悪夢から目覚めさせないのか。
クルビッツとエルドリッジヴェイルがゴールドカップで戦いを避けたことを、もうだれも悪くは言わないだろう。
霧の中をレコードタイムで駆け抜けた、世界最強のエクステンデッドホース、ジェルディサヴォアがGⅠ連勝。
そしてクルビッツの2位は間違いなく、インコースを使ってモイトゥラがエルドリッジヴェイルを抜いて3位に上がる。
クルビッツが2位、そして今、モイトゥラが3位でゴールした……>
無事馬上インタビューもなく表彰式を終え、第5R、3歳C2の出走馬がパドックで周回を始めているのを横目に、騎手や調教師への国際放送のインタビューが始まった。
例によって通訳は馬主の谷地自ら担当している。
――今日も大楽勝と言えるレースでしたが、この馬の強さはどこから来ているのでしょう?
「昨日少し雨が降って、今日も靄がかかっているぐらいの湿度ですから、
――柔らかいターフでしたが、驚異的なレコードタイムで走りきりました。
「
――今後のレースプランについては?
「オーナーの……オーナー次第というところもありますので、オーナーに聞いてください。隣に立ってますから」
ここまでは順調なインタビューだった。
井野が、
「オーナーのワガママが強いので」
と言いそうになったが、隣で通訳しているのが当の本人だということをすんでのところで思い出し、余計なことを言う前に回答を変えたのは正解だった。
しかし、最後の質問で、井野が、いや、谷地が吹いたのである。
――明日と明後日のGⅠにも井野厩舎の馬が出走します。特に明日は連覇がかかっていますが、見通しはどうですか?
「明日から出てくる2頭はジェルディサヴォアより格段に速い。今日はジェルディサヴォアの得意な条件が揃った結果の勝利ですが、サセックスSとナッソーSでは本当の理不尽をお見せすると思います」
井野は
「今日のジェルは条件が揃った上での勝利でしたが、明日と明後日の2頭はジェルと正反対のタイプですから、しっかり作戦を立てて挑んでいきたいと思います」
と、言ったはずだった。
それを通訳者の谷地が、真逆の意味で訳した、いや、勝手に喋ったのだ。
当然井野は気づかず、後にレーシングポストの記事を翻訳した寺尾が、
「センセイ、珍しく強気ですね」
と呑気に顔を出して初めて、谷地が大風呂敷を広げたこと、そしてそれが井野の言葉として拡散されていることを知り、真っ青になって嘔吐していた。
【全スポ】2038年 7月 28日 00:37
~(グッドウッドC)ジェルディサヴォア約20馬身差レコードV~
<グッドウッドC>◇英グッドウッド競馬場◇GⅠ・芝3200◇3歳上◇現地時間27日15:40発走
日本のジェルディサヴォア(牡5・井野叶偉)が、グッドウッドCを逃げ切り勝ち。勝ち時計は3分20秒7でコースレコード。2着クルビッツに20馬身近い差をつける圧勝で、英ゴールドCに続く欧州長距離GⅠ連勝を飾った。
前日に軽い雨が降り、日中も靄がかかる天候の中、公式馬場発表はGood(良の中で最も稍重に近い)。
スタート直後から先手を奪ったジェルディサヴォアが1000m通過1分3秒3の超ハイペースで20馬身以上の差をつける大逃げを打つと、上がり3ハロン34秒8の末脚で後続を全く寄せ付けず。
ジェルディサヴォアはGⅠ9勝目(うち海外5勝)。2着はクルビッツ(英)、3着はモイトゥラ(仏)。またハイランドバラードとモンヴァントゥは競走中止。
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次回は7/27 予定
久々に海外実況自動翻訳風で。
結構これ好きだったりします。